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公述人(榊原
秀訓君) 名古屋経済大学の榊原でございます。他の
公述人の先生方と異なりまして、私は独立
行政法人に限定をしまして
意見陳述をさせていただきたいと思っております。
御存じのように、独立
行政法人をつくる際、どのような中身にするのか。例えば、
制度設計であるとか
制度内容というふうに言われたりもしておりますが、その際には、一九八八年、サッチャー政権の一番最後のときに提案されまして現在まで十何年の歴史を持っておりますけれども、そのイギリスのネクストステップ制エージェンシー、
一般的には
日本ではエージェンシーというふうにも言われているようですし、イギリスでもそんなふうにも呼んでいるようですけれども、この
制度が参考にされてつくられていると。もちろん、参考ということですからそのままイギリスのモデルを
日本に導入したということではありませんけれども、
法律の中身の中心的な部分を見ましたら基本的には同様なものを採用しているかと思われますので、私はこの独立
行政法人につきまして、イギリスのエージェンシーの
制度であるとか、この間の十何年の歴史というのを踏まえまして、独立
行政法人
制度、もう少し具体的に言いますと、
独立行政法人通則法案というのが出されておりますので、そこのところで書かれていること、あるいはそれがつくられるに際しまして長期間の議論がありましたし、少し前におきましても「
中央省庁等改革の
推進に関する方針」といったようなものが出ておりますので、こういったところの議論におきます中で私が感じました幾つかの疑問点であるとか、このままで大丈夫だろうかと不安に感じられる点であるとか、もっと端的に言うと、問題点といったような事柄を幾つか挙げさせていただきたい、そういうふうに思っております。
また、独立
行政法人
制度につきまして、現在どのような行政機関をこの独立
行政法人化するかということでいろいろ考えられているようではありますけれども、将来といいますか、今後この対象が拡大していくという
可能性もあるかと思いますので、文字どおり通則法といたしまして、
一般的な仕組みとして、この特徴が何で、先ほど言いましたようにどういったところが問題点と感じられるかということを述べさせていただきたいと思います。
まず第一点目ですけれども、なぜこのような独立
行政法人というものがつくられたのかといいますか、独立
行政法人の設置理由ということにかかわる
内容です。
もちろん、これはこの
法律の
内容、これがあらわしているところの独立
行政法人というのは何なんだろうか、何が最大の特徴なのか、こういう点なんですけれども、これはもう何回も繰り返し
報告書の中でも書かれていることですけれども、例えば先ほど言いました方針というのを見ますと、「事前関与・統制を極力排し、事後チェックへの重点の移行を図る」、こんなふうに
説明をされております。
つまり、人事であるとか予算面であるとか、そういったところについての規制を緩和しておいて、独立
行政法人にベストだと思うような業務運営の自由を一方で拡大する、自由に活動してもらう。ただ、全く自由に活動したというだけではどのような結果が出るかわかりませんし、全く期待外れに終わる、こういう
可能性もありますので、一方でこういった自由を拡大しつつ、他方で、まずはいろいろな基準といいますか、そういったものを設定する。
法案の中の用語で言えば中期目標というものが設定され、それを受けまして中期計画であるとか年度計画とかが策定される。その中身に合わせて最終的な評価が可能である、あるいはそれに従って活動させるというふうに言ってもいいかと思います。こういうようなものをつくって公表して、だれでも見られるようにしておいて、それに事後的な評価をする。
ですから、この手法というのは、世界的に幾つかの国々で採用しておりますニュー・パブリック・マネジメント、新しい行政管理の方法を採用した
日本版であるというふうに言えるかと思います。つまり、一方で自由は拡大しつつも、他方で目標を明確に設定し、事後的な管理をむしろ強化する。
だから、完全に自由になるということではなくて、弾力化とかいうことでしばしば自由の側面だけが強調されていますけれども、事後目標というのを設定して、それを強烈にチェックしますので、むしろ統制が強化する。この場合の強化するというのは、言い方をかえれば統制のあり方が、事前に一々チェックするというのはやめて、自由にやってみなさい、結果がよければいい、だめなら強烈にコントロールします、こういう仕組みだというふうに考えていただいてもいいかと思います。こういう仕組みを独立
行政法人ということで意図的に採用したというふうになるかと思います。
問題は、なぜこういうものがつくられたのか。あるいは世界を見回したときに、これはニュー・パブリック・マネジメント、
一つの方法ですから、それは一体何を意図してこういう手法がとられているのか、こういう問題です。
例えば、
法案の「中期目標」というようなところで見ますと、初めの方に「業務運営の効率化」というものが挙がっております。これを具体化して計画とかが出てきますけれども、ここではまさに効率化の達成のために独立
行政法人という特定の形式が採用されております。
注意しておきたいのは、ここで言っているところの効率化という
意味です。しばしば減量化と同義語に使われるような場合もあるかと思いますけれども、この場合の効率化というのはそういった
意味とは異なりまして組織の減量化、もう少し具体的に言いますと、
日本の場合でいう
公務員定数の削減という
意味で用いられる減量化とは違って、それとは異なって、区別されて、一定の業務運営を今までよりも、要するに同じ
内容をやるんだけれどもそれをもっと効率よくやる、こういう
意味での効率化であると思われます。こういうふうな考え方、パブリック・マネジメントの考え方というのは基本的に同じかと思います。
したがって、独立
行政法人が設置されるのがこのような
意味での効率化を達成するということになりますと、従来の議論とちょっと合わないところがありまして、今まで独立
行政法人が議論される文脈というのは、独立
行政法人の設置の理由が、こういった
意味での効率化とは違いまして、まさに
公務員定数の削減、そのための減量化の受け皿をつくる、こういうところにあるように思われます。
しかしながら、減量化のための受け皿をつくるということであれば、わざわざ
法案で採用されたような
制度内容の独立
行政法人を創設する必要はないという根本的な問題がありまして、わざわざ
法案の中で独立
行政法人で今言った効率化の達成というのをうたいながら、むしろ最大の目的、独立
行政法人の創設の理由が別にあるというところは、その限りではミスマッチであるように思われます。これがまず第一点目です。
以下、この
法律の
一つの
内容として、まず減量化ではなく効率性が目指されている。問題は、その効率化に焦点を当てた場合にどうなるのかというのを見てまいりたいと思います。
独立
行政法人化によって効率化が目指されるわけですけれども、効率化が一体どのような方法でもって、どのような手段でもって達成されるのかというのが
一つのポイントになります。もちろん、効率化のための中期目標であるとか中期計画、年度計画というものがつくられますから、それに沿って達成されるということなんですけれども、こういったものさえ設定すれば自動的に効率化が達成されるという、当然ながらそういうものではありません。
いろいろなことが考えられますけれども、例えばコンピューターを一気に大量に導入した、そのことによって簡単に処理できるようになったということもあるかと思いますし、そうではなくて、効率化の評価は、目標であるとか計画に掲げられたそれを評価することによって前と比べて効率的なものになったかどうかということを考えますから、こういったところには上がらず、直接には評価の対象にならないようないわば付随的なサービスをカットすることによって効率化が達成されるということも考えられます。例えば、サービス本体ではなくて、それに付随するような助言、相談のたぐいをカットする、あるいは効率的にするという、こんなような
意味合いです。
こういった事柄は、例えば
政府がコストを削減するという目的から仮に
政府の交付金を削減して独立
行政法人自体の財源が減少するような場合には特にその
可能性は高いと思われますし、他の理由から大幅な効率化が必要だというふうになればこういったものがカットされる規模というのも大きくなってまいります。いずれにしても、効率化というものは何らかの犠牲と一定の何か失うものがあって達成されるということに注意を向ける必要があるかと思います。
実は、このこととの
関係におきまして、今はサービスの部分でも付随的というふうに言いましたけれども、ある
意味でその本体の部分も問題になってまいります。独立
行政法人は、行政
改革の中におきましても、特にその「中期目標等」を見ますと、「
国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上」、簡単に言えばサービスの質の向上というものをわざわざうたっております。したがって、独立
行政法人に限定して考えてみますと、単に減量化であるとか効率化だけではなくて、わざわざサービスの質の向上というものを目指していることが
法案からは明らかであります。
〔理事石渡清元君退席、
委員長着席〕
これは、行政の公共性といったことからも出てくるかと思いますけれども、ニュー・パブリック・マネジメントの手法におきましては効率化とともにサービスの質の向上というのが目指されるのはほぼどこでも同じことですから、ある
意味では、この手法を採用することによって効率化とともに質の向上も当然目指されたというふうに言ってもいいかと思います。
ところが問題は、まずは効率化と質の向上を同時に達成することがなかなか難しい、そういうことです。すなわち、先ほどの例からも容易に想像できますように、効率化を目指したような場合には、質の向上がないというだけではなくて、むしろ向上せず、質が低下するという問題が生まれてくる
可能性も少なくないからです。
もっと難しいのは、このような問題を別にいたしましても、質の向上をどのように測定できるのかという問題です。目標を設定する際に、効率化の方は比較的容易に測定できるような目標等を設定することは可能であっても、質の向上について測定するのがなかなか難しいということです。
例えば、先ほどから言っております方針におきましては、「中期目標は、できる限り数値による等その達成
状況が判断しやすいように定めることとする。」。確かに、わかりやすさからしてこのようにすべきだと思います。業務運営の透明化を図る上でもそのようにすべきだと思うんですけれども、質の向上の場合には、効率性と異なってやはり難しい。
例えて言えば、ここで
公述人として十五分のお時間をいただいて、その間に何語しゃべったか、あるいは何分でしゃべったかという効率性の問題は比較的容易に判断できるのに対しまして、中身がどうだったかという質の測定をするというのは非常に難しい、こういうふうにも言えるかと思います。
ここが
一つ問題なんですけれども、質の向上については、目標の設定が難しいということになるとどういう結果が待ち受ける
可能性あるいは危険性があるかといいますと、効率性に関する目標設定は質の向上に比べれば容易なわけですから、効率化は重視されても、それと並んで規定されている質の向上については重視されず軽視されてしまう
可能性が事柄の性質上あるという問題です。
第四へ行きたいと思います。
今言いました効率化であるとか質の向上につきまして中期目標を設定したり中期計画等を策定するわけですけれども、それが一体どのような手続で行われるであろうかという問題です。
つまり、ニュー・パブリック・マネジメントにおきましては、いろいろな基準を設定してそれを評価するということが決定的に重要なわけですから、どのように適切な基準が設定され、どのように適切に評価がなされるのかという問題です。
法案の中では、これらの設定につきましては独立
行政法人評価
委員会の
意見を聞くという事柄はありますけれども、果たしてそれだけで適切かどうかが問題になります。
質の向上に対しては、とりわけ
国民に対して提供するサービスが問題になっているわけですから、
国民の
意見を反映するような仕組みというのが法の中でも保障される必要がないんだろうかということが問題になります。
評価でも全く同じです。つまり、
国民に対するサービス、それに対してどうだったのかというところは、
意見反映の仕組みであるとか苦情処理の仕組みを通した個別ケースを通しての
意見の反映という仕組みがないだろうかといった事柄が問題になってまいります。
最後に五点目について、簡単に話をさせていただきたいと思います。
これは今言ったような
制度設計のあり方が業務の運営のあり方であるとか職員に影響を与え得るということです。
独立
行政法人の長は、
事務事業を適正かつ効率的に運営できる者であるとか、方針を見ますと、経営に関して高い識見を有する者といった人たちが任命され、また目標設定、計画策定とその評価を通して短期的に、一定の期限が切られていますから、短期的に成果を出すことが求められ、事後の評価では任期途中の交代もあり得るとか、役員の報酬や職員の給与において業務の実績等が反映されるということになっております。
そうすると、従来あったような業務運営の仕方、それが前提にしていたような、例えば平等性を確保するであるとか公平性を確保するであるとか、今まで
公務員であることから守られていたような価値というものが今後変わっていく
可能性があるのではないか、こういう問題です。
時間が来たようですので、これで終わらせていただきます。