○加納時男君 ありがとうございました。
学習指導要領が新しく改訂されました。今お話を伺いますと、その中で理科総合を必修にすると、私は大変な進歩だと思います。そういった中で、放射線とかそういったこともぜひ扱っていただきまして、一歩ずつで結構でございますから、前を向いて、有馬先生の
議員になられる前の理想を実現していただければありがたいと思っております。
残った時間が九分でございますので、
一つ教科書の実例を皆様に御
報告して、これは細かい記述がいいのこうのということよりも、現状はこうだということをぜひ
理解していただきたいと思います。
たくさん持ってきたんですけれども、
一つの例で、これは数研出版というところで出した高校の「現代社会」です。
平成九年検定、印刷、十年
発行であります。今使われているものであります。「新しい資源・エネルギーの開発」という項がありまして、「太陽エネルギーや地熱・風力・波力の利用などの開発が急がれる。」、自然エネルギー賛美があります。その次に原子力が出てきます。
ごく短い時間でポイントだけ読みます。「原子力発電は、人体に危険な放射能を大量に発生させるウランの核エネルギーを使用しているため、安全性の管理が問題となる。」、飛ばしまして、「一九七九年のアメリカのスリーマイル島事故でも、周辺地域に放射能被害をもたらした。」、それからちょっと飛ばしまして、「原子力発電所に反対する世論や運動が、日本や欧米諸国で急速に高まっている。」、その次は、「アメリカのカリフォルニア州では、住民投票で原子力発電所の一部が解体されることになった。日本の原子力発電所では、安全運転のための努力がなされてはいるが、放射性廃棄物の処理の問題、温排水による熱汚染の問題など、解決しなければならない課題も多い。」、幾つもあるんですけれども、
一つこれを挙げてみます。
私は読んでいて、非常にこれについて思い込みがあるのかなという感じがします。太陽等についてはいいところだけが書いてある。そして、原子力についてはネガティブなところだけが書いてある。ネガティブが全部正確かというと、ややバランスを失しているんじゃないか。
例えば、ここで取り上げられている一、二の例だけを申し上げますと、スリーマイルアイランドの事故、これは確かに私は設備の事故としては大変な事故だし、今、日本、欧米で使われている原子炉で起こり得る最大の事故の
一つだと思っています。炉心が溶けてしまったわけであります。あるいは冷却水をとめてしまうというまことにお粗末なことがあって起こったのですが、炉心は溶けたけれども現実に格納容器がしっかりあって放射能を中に閉じ込めた、外にはほとんどわずかしか出なかった。その結果、ペンシルべニア州保健省、私も現地へ行っていますけれども、そこで徹底的に疫学
調査もやった結果、何ら異常はない、つまり健康被害は全くない、有意な差は全くなかったわけであります。そういうことが明らかになっているので、ここに書いてある「放射能被害をもたらした。」というのは、ちょっと
表現がいかがかと思います、細かいことはまた別としまして。
カリフォルニア州で、住民投票で原子力発電所が解体された、これだけぽつんと書いてあるわけです。では、アメリカで何回住民投票があったのかということが大事であります。七六年から九二年まで、ここで
指摘しているのは恐らく、カリフォルニア州の小さな町があるんですけれども、ランチョセコという町なんですけれども、そこの住民投票だと思います。確かにそこはぎりぎりの差だったのですけれども、とめろという方が多くてとめました。
では、そればかりかというと、アメリカでは合計二十一回やっています。原子力発電所の建設に賛成するか反対するか、それから、シャットダウンというのですけれども、運転しているものを閉鎖するかどうか、二十一回ありまして、結論はどうだったのか。とめろという側から見ますと一勝二十敗、つまりとまったのが
一つ。整然と安定運転というか、情緒的な
表現をやめますと、しっかり運転しているのが二十。つまり、一勝二十敗であります。その
一つだけとって勝った勝ったと言っているのは、何か第一試合に勝ったからことしは巨人が優勝するのじゃないかといったセリーグの話と同じで、
一つだけ勝っても二つ負けたら負け越しなので、一勝二十敗は私は負け越しと見るのが普通の常識じゃないかと思います。
一つだけとって、ほら見ろ、住民投票で原子力がとまった、それだけを言うと、一部分は正しい。部分の事実は全体の真実ではないと思うので、さっき有馬
文部大臣がおっしゃったように定量的な発想、放射線もそうなんですけれども、が必要じゃないか。
さらには、「温排水による熱汚染」なんといいますと、何か熱湯が沸騰しているようにおどろおどろした話なんですけれども、二十度の手前ぐらいで入ったものが二十度をちょっと超えたところで出てくる。これは出入り口の話で、それも七度しか差がないわけです。それは、沖合まで出して、先まで出して海で拡散したりなんかしますから、実際は漁業に対する
影響というのは全くないと言われております。むしろ、漁業が栄えたというところもあるぐらいであります。それを熱汚染なんというのは極めて情緒的な
表現でありまして、もう少し定量的に書いてもらった方がいいのかなとも思うんです。きょうは、こういった個別のことについて揚げ足をとるようなことは私はしたくないと思います。
こういうような
実態だということもあって、先ほどの有馬先生が元会長をやっていらっしゃった放射線教育フォーラムからも要望書が出たり、あるいは原子力学会という学会でございますが、そこからも要望書が出て、文部省が今回指導要領を変えたということだと思います。
いずれにしても、教科書問題というのは、私は原子力推進だけを書けと言っているのでは決してありません。大臣がおっしゃったように、科学的な思考、賛成でも反対でも結論はいいんです。けれども、事実は客観的に、冷静に、自然エネルギーのいいところもあります。私も大好きです。化石燃料の役に立つところもあります。原子力の強みもあります。けれども、それぞれ全部課題を持っています。その課題をはっきり書いて、その課題をどうやって克服していくのか、克服していけるのかといったことも教えて、最後は生徒が結論を得るという冷静な科学的なものが必要なので、何か情念だけでこれが正解だということで無理やり教えてしまうと、原子力にただ反対することしかならない人がそのまま新聞記者になったりすると変な世の中になっちゃうのじゃないかと思いますので、ちょっと心配しているところでございます。
何か大臣から一言所感をいただけたらと思います。