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行天公述人 行天でございます。よろしく
お願いいたします。
まず、御審議中の来年度の
予算案につきましては、私は賛成をするものでございます。
と申しますのは、
一つには、この
予算が確実かつ迅速に施行されれば、恐らく
日本の
景気の
回復に資するという期待が持てるのではないかと思っておるわけです。
さらに、具体的には、これは後ほどちょっと触れさせていただきますが、
日本にとって非常に重要なアジア諸国の
経済危機からの
回復のために、あるいはアジア
金融危機支援資金、あるいはいわゆる宮澤構想等、私といたしましては、この
予算案の中に大変有意義な計画が盛り込まれておるという点でございます。
それから三番目には、将来の
日本にとって非常に大事だと考えております円の国際化を推進するために、主として税制の面で措置が講ぜられておるわけで、これも私は大変結構なことだと思っております。
せっかくの機会でございますので、
日本を取り巻いております最近の世界
経済につきまして、僣越でございますけれども、若干私見を述べさせていただきたいと思います。
世界
経済は、
一言で申しますと、非常に不確定な要素がふえておるように思います。具体的に申しますと、要するに、よくなるのか悪くなるのかわからないという感じが非常に強くいたします。
一昨年来、大変な危機に襲われております東アジアの諸国でございますけれども、確かに、貿易収支がよくなった、あるいはインフレもおさまった、
金利も下がってきたという面もございます。しかし同時に、
銀行部門の不良債権の問題、あるいは
企業の採算の悪化、それに伴うリストラ、失業というような問題も実は同時に進行しておりまして、全体として、本当にことしが東アジアの諸国にとって
回復のための第一年度になり得るのかどうか、私は、率直に申しまして、若干まだ自信がございません。
国別に見ましても、御承知のとおり、韓国とかタイのように大変努力をしながらいろいろ前進している国もございますし、同時に、インドネシアのように政治的、社会的に問題がむしろ難しくなっているという国もあるわけで、東アジアの情勢というのはまだ予断を許さないという感じでございます。
中国は、御承知のとおり、この東アジアの危機の中では今までのところ割と影響が少なくやってきたのでございますけれども、ここに至りましてかなり難しい問題が出てきておるようでございます。
国有
企業、国営
銀行、それから各種の
投資公司というようなところの
経営の
破綻が続出しておりますし、輸出の伸びも鈍化する、外国からの直接
投資も先細りになってくる、失業もふえてくるというようなことで、かなり難しい問題が起こっておるわけです。もちろん、当局が非常に努力をしているということは認められますけれども、現在の国内での、主として
財政刺激によって何とか急場をしのいでいこうという
政策が、短期的にはともかく、長期的に中国
経済の再生につながるかどうかというのは、これも若干不確定であろうかと思います。
日本でも最近非常に大きな話題になっておりますユーロ、欧州統一通貨の誕生を迎えましたヨーロッパは、確かに
現状、非常に精神的な高揚の時期にあるわけでございまして、この統一通貨が長い努力の後ついに実現できたということで、非常にヨーロッパの雰囲気というのは高まっておることは間違いございません。統一通貨の導入というのは非常にいい刺激を与えると期待されておるわけです。
一つには、これはもう当然のことでございますけれども、今まで十一もあったばらばらな通貨が
一つになるわけでございますから、従来のいわゆる為替リスク、あるいは通貨をいろいろとかえていくに伴う手数料とかその他のコストというものは、事実上全くなくなる。これはビジネスにとっては非常にプラスになることは間違いございません。
それから、もう
一つやはり大事なのは、十一の国が同じ通貨になるということは、少なくとも
金融の面では非常に大きな新しい
市場が生まれるということでございます。この統一通貨に参加をいたします十一の国の
経済規模というのは、人口はともかくといたしまして、GDPであるとか、あるいは株式の
市場評価総額であるとか債券の発行額その他、
金融市場を中心にいたしまして、大体米国の現在の
経済規模に匹敵をする新しいマーケットが生まれたわけでございます。こういうふうに大きなマーケットが生まれるということは、当然、規模の利益を生みますから、これがヨーロッパにとってプラスであろうということは考えられるわけでございます。
それから三番目には、従来、いろいろな通貨があったために、同じものでも、ドイツでつくられたものとイタリアあるいはスペインでつくられたものとが、本当のところを言ってどっちがコストの点からいって安いのか、すぐれておるのかということが比較できなかったわけでありますけれども、これからは、すべての物とかサービスの値段が同一の尺度ではかられることになりますから、競争力の差というのが一目瞭然になってくるわけでございます。ヨーロッパの人はこれをユーロ競争、ユーロコンペティションなどと言っておりますけれども、この従来と比べて非常に激しい競争の到来ということが、恐らくヨーロッパの
企業に非常にいい
意味での刺激を与えるのではないか。その結果、ヨーロッパの
経済というのは合理化が進み、生産性が高まるのじゃないかということが期待されておる。
それから四番目になりますけれども、先ほどもちょっと触れましたが、何しろ長い、五十年にわたる努力の末にこの歴史的な事業を成就した、そういう精神的な達成感と申しますか高揚感というのは、これはやはり
経済その他の面にもいい影響を及ぼすだろうと思います。
そういう
意味で、ユーロの導入というのは確かにプラスの面が多いと思います。ただ同時に、
金融の面では統一ができたけれども、
あと財政の面、特に税制とか
社会保障制度とかその他
財政の面では、依然として各国
ごとの
政策が行われることになりますから、果たしてそういうアンバランスな状態というのがうまく機能するんだろうか。
ある国の
景気が非常に悪くなって、失業がふえたというような場合に、その国は、
金融政策はもう自分だけの
金融政策で
金利を下げるというわけにいかなくなってしまいましたから、どうしても
財政に頼る。そうすると、
財政赤字がふえて、これが約束違反になってしまうというようなことで、果たしてヨーロッパ諸国の
経済的な調和というのは保たれるかどうか、非常に不安だという見方ももちろんできるわけでございます。
政治の面では、御承知のとおり、ドイツを初めといたしまして、いわゆる中道左派の政権が次々と生まれております。こういう政権の物の
考え方というものも当然
経済政策に反映されることになりますので、果たして、ヨーロッパがこのユーロ誕生というものを非常に前向きな出来事としてうまく活用することができるかどうか。一方で非常に大きな期待があると同時に、かなりのリスクもあると言わざるを得ないのだろうと思います。
景気自体は、御承知のとおり、若干低下ぎみでございます。昨年はこのユーロ参加国全体で三%前後の成長率を確保したと思いますけれども、多分ことしはこれが二%前後に減速をするということで、これが失業問題等々にどういう影響を及ぼすのかというのが関心を持たれておるわけでございます。
それから、米国は、御承知のとおり相変わらず大変なブームを謳歌しておりまして、これは本当に信じがたいようなことが起こっていると言ってもいいと思います。
あれだけの大きな国が三・九%というような高度成長を遂げ、
財政は黒字、インフレは二%、失業率は
日本よりも低い四・三%というような状態が続いておるということは、本当に一体いつまでもつのかねという感じがするわけですけれども、少なくとも
現状では、
アメリカの人たちは、自分の国の
経済並びに
経済政策については大変自信を持っておるということは否定できない。
ただし、そうはいっても、心配がないのかといえばこれは確かにあるわけで、どう考えても今の株価はバブルじゃないのかということも言えます。それから、そもそもこれだけ株価が上がりますと、みんな何となく見かけの資産がふえたような気持ちになって、どんどん
消費者金融をふやして、
消費をふやしておる。現にもう
アメリカの家計は
貯蓄率ゼロということになっておりますし、これだけ国内で
景気がいいと、当然のことながら国際収支は
赤字になって、恐らく米国の経常収支のことしの
赤字は二千億ドルを超えるんじゃないかということで、対外純債務も一兆ドル。
ですから、こういう国内の異常なくらいの繁栄と、世界的に見た場合の何となくじりじりと劣化している
状況というのは、一体これからどうなるのか。理想的には、少しずつ、いわゆる軟着陸という格好で
事態が収拾されることなんであります。
アメリカ当局もそれを非常に強く希望し、そのための努力をしていると思います。それがうまくいくのかどうか、それは恐らくことしじゅうには結論が出る話だろうと思います。
そんなことで、世界
景気は、よくなるか悪くなるかわからないというのが率直なところでございます。
しかし、そういうばらばらな話の中で、同時に、いろいろ世界全体にとっての共通な問題というのが最近起こってきておる。それは何かと申しますと、抽象的な言い方をしますと、競争と秩序という二つのことのバランスをこれから世界はどう考えていったらいいのだろうかという話ではないかと思います。
特に、先般のアジアの
経済危機の中で我々が何を見たかと申しますと、例えばアジアの小さな
経済が、
経済は小さいなりに一生懸命開放をして、世界の中に溶け込んでいこうと努力をした。ところが、小さいけれども開放を目指していた、まさにそういう国が国際的な危機のあおりを受けてしまった。それから、それぞれの国の中では、もちろんそういうバブルによって非常に利益を得た人もいたわけですけれども、結局、最後のところで大きな被害をこうむったのは
一般大衆であったわけですね。アジア全体を見ても、一昨年から昨年、昨年からことしにかけて、いわゆる貧困ライン以下の人口というのが何千万という規模でふえておるわけですけれども、言うなれば、世界的なレベルでの
一つの社会正義というか、そういうものは一体どう考えるんだと。
それと関連して、よく言われておりますけれども、大変投機的な、かつ短期のお金が大量に世界じゅうを暴れ回って、そのことがいろいろな混乱を引き起こしているじゃないかとか、あるいはまた、その一環として、世界じゅうの
金融の
システムがどこかで壊れてしまって、世界の
金融システムというものが動かなくなってしまうんじゃないかというおそれがあるとか、あるいは、こういう
事態に一体国際機関というのはどういうふうな役割を持って、どういう
仕事をしたらいいのだろうかとか。
広い
意味で申しまして、世界
経済を動かす場合に、全く自由な無制限な競争ということでいくのか、それとも、何かそれに秩序を導入しようという考えを持たなきゃいけないのか、この問題がまさに世界全体の課題として起こってきておると思います。そういうことの解決に対して、これから
日本がどうやって具体的に貢献をしていけるのかというのが、恐らくこれからの世界における
日本の役割とか地位を決めていく非常に大きな
一つの局面になるのではないかと思っております。
それから三番目に、こういう世界の情勢の中で、一体、
日本の
経済というものは今どういう状態にあると思われておるのかということでございます。率直に申して、
日本の
経済に対する国際的な懸念というのは、依然としてかなり深刻だろうと思います。
どういうことが懸念されているかといえば、やはり、
日本の
景気の
回復というのは本当にこれから順調に進んでいくんだろうか、腰折れせぬだろうかという心配。それから、長年努力をしておりますが、
日本の
金融の再生という問題も本当にうまく完成するんだろうか。さらには、
日本の
財政というのは一体これから大丈夫なんだろうかという、残念なことですけれども、まだ
日本の
経済については、さまざまな
意味で海外から懸念があることは否定できないだろうと思います。この懸念がいろいろな形で
日本にも伝わってくる、それが
市場の、マーケットの心理にも影響を与える、それがまた実体にも影響を及ぼすということで、悪循環になっているわけでございます。
私は、
日本は非常にやらなければならない課題が多いわけでございますけれども、今一番大事なことは、何か
一つヒットを打たなければいかぬ、つまり点を稼がなければいかぬ。外から見ておって、やったなということがなければいけないのではないかなという気がいたします。
その
意味で、何が一番実行可能であり、かつ役に立ち、かつ大事かということを考えますと、今、
貝塚さん、
深尾さん、お二人のお話にもございましたが、
金融の問題、つまり
金融の再生という
仕事が終わる、それが成就するということが一番大事ではないか。
具体的に言えば、少なくとも
日本の主要行は不良債権の問題から完全に決別をしたという安心感、確信が国内外のマーケットに生まれるというところが、恐らく今一番我々がその実現に近づいており、かつ最も有効で、しかも大事なことではないかと思っております。
この
金融再生の問題、なかんずく不良債権処理の問題は、随分進展はいたしましたし、各般の努力によって法律的、機構的あるいは
財政的な手当てができておるわけでございまして、その
意味では六割とか七割ぐらいのところへ来たのかもしれません。しかし、まだ終わっていないことも事実でございますし、これからがいよいよ剣が峰というか、最後の一番難しいところへ差しかかっていることも事実でございます。
ですから、何しろこの問題をまず片づけて、国内外のマーケットに確固たる
日本への信頼感を打ち立てるということが、少なくとも選択肢としては当面一番大事なことじゃないかなという感じが私はいたしておるわけでございます。
それから、最後にもう
一つ申し上げたいのは、冒頭にもちょっと触れましたが、やはりこれからの
日本の
経済の行方を考えますと、片っ方では米国が、御承知のとおり非常に元気がよろしい。この力というのは、着実に米国から中南米あるいは世界じゅうに広がっていっておるわけで、その
意味では、米国
経済圏というものの世界的な存在感というのは格段に強まっておる。それに対しましてヨーロッパでは、ユーロの導入を機にいたしまして、やはり何とか
アメリカによる単一支配、単一世界
経済支配に対抗しなきゃいけないという非常に強い意気込みがあるわけで、恐らくこれからしばらくの間は、この両雄の競争
関係というのが随分厳しくなってくると思います。
その中にあって、
日本がもし、埋没をしてしまうとかあるいはみそっかすになってしまうということを避けようとすれば、どうしても
日本が、
日本にとって非常に重要なアジアの地域というものの
経済を助けていかなければいけない、
日本も一緒にアジア
経済の再生に努力しなければいけない、これはもう自明の理であろうと思います。その
意味で、先ほど申しましたように、現在依然として大変苦難に悩んでおります東アジア諸国に何とか支援をするということは、
日本の当面の
経済政策にとって非常に重要である。
では、具体的に何をしたらいいのか。これは、割と答えははっきりしておると思います。
第一は、これは当たり前な話でございますけれども、何しろ
日本の
経済を
回復しなきゃいけない。というのは、アジアの国が物とかサービスを
日本に買ってもらえるようにしなければいけない、あるいは
日本の
金融機関が再生をして、再び
効率的に資金をアジアの国に回せるようにしなきゃいけない。要するに、
日本経済の再生というのが当然、まず第一に重要な
日本の貢献であろうと思います。
二番目は、やはりいろいろな形での援助とか協力ということが大事だろうと思います。
日本は従来もアジア諸国に対しては非常に貢献してまいりましたけれども、今アジアの諸国が一番大事に思っておる、必要に思っておることは、アジア諸国の
銀行とか
企業が大変不良債権を抱えておる、あるいは金繰りに困っておるというようなことでございますから、そういう
企業を助けるためのさまざまな支援というもの、これは非常に大事だと思います。
それからもう
一つは、そもそもこのアジアの危機が起こりました
原因の
一つは、円の特にドルに対する相場というのが非常に大きく動いて、そのためにアジアの諸国が、自分たちの考えで、あるいは自分たちの努力で国際収支を安定させることができなかったことでございますから、今後
日本としてアジアに貢献をしようと思いますと、どうしても円というものの安定化、それと同時に、円を国際化してアジアの人たちに大いに使ってもらうということでやることが大事であろうと思います。
以上、四点を申し上げまして、私の公述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
〔
委員長退席、臼井
委員長代理着席〕