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山田(善)
参考人 最初に、私は、こうした機会をつくっていただいた
委員長及び各
委員の先生方にお礼を申し上げたいと思います。
私は、本
法案の廃案を求めて陳述いたしたいと思います。
私が
関係している
日本国民救援会は、戦前、弾圧犠牲者とその家族の救援を任務として解放
運動犠牲者救援会という名称で結成されました。戦前は、悪名高い治安維持法やその他の悪法によって特高
警察に
逮捕、投獄された多くの
人々を、戦後は、
アメリカ軍の占領下に引き起こされた三鷹
事件や松川
事件など、そして講和条約発効後は、
警察によって仕組まれた菅生
事件、青梅
事件など、謀略
事件の犠牲者とその家族を救援してまいりました。
現在は、弾圧犠牲者を初め、無実を訴えている
人々の救援
運動や、緒方靖夫氏宅
電話盗聴事件その他
警察の不法行為によって
侵害された人権の回復と救済を求めて
裁判に訴えている
人々を支援し、人権と
民主主義を守るために活動しております。
私は、これまでの経験から、
警察に
電話盗聴の法的権限を与えるならば、新たな深刻な
人権侵害が引き起こされるのではないかと強く危惧を抱いております。
電話盗聴は、
一般市民までもが
対象とされます。恐ろしいのは、
犯罪と全く無
関係の人の
電話機に知らぬ間に
盗聴器が設置されても、これを回避するすべも阻止するすべも抗議するすべもないということであります。
市民の心の中まで丸裸にされてしまうものです。それ
自体が重大な
人権侵害であるだけでなく、
盗聴の結果、新たな深刻な
人権侵害事件がつくられるおそれなしとも限りません。
それを裏づけるために、私は
警察の違法な
盗聴活動の幾つかを、私どもが支援してきた
事件から事実を挙げて申し上げたいと思います。
第一は、
日本の
警察は、違法であることを十分承知の上でスパイ活動や
盗聴行為を重ねている極めて強大な国家権力機関だということであります。
緒方氏宅
電話盗聴事件がこのことを最も端的に示しています。この
事件が
警察庁の最高幹部をトップとして実行された
組織的で計画的な
犯罪行為であることは、東京地方検察庁の不起訴決定や検察
審査会の議決、
事件を審理したすべての
裁判所の判決と決定によって明白にされてまいりました。
警察の違法行為がこれほど厳しく断罪されているにもかかわらず、いまだにその事実を
国民の前に明らかにして、
被害者に謝罪もしておりません。
警察はこのような違法行為を今後も重ねる意図を捨てていないのでしょうか。
警備
警察研究会編、立花書房発行の「警備
警察全書」という本がございます。この本には、労働組合の事務所に入って情報を入手することから、情報提供者、つまりスパイをつくって
特定の団体の中に潜入させることなど、詳細な情報活動の手口を解説しています。
注目すべきは、この活動を行う場合は、相手に気づかれないように隠密にすることが必要である、秘聴器やカメラを使用する場合は特に慎重な配慮が必要であると書かれたくだりがあります。
警察用語の秘聴器とは
盗聴器のことであり、
警察ははるか以前から
盗聴を含む違法な情報活動をしていることがわかります。
加えて、この本には、
警察活動が、
正当性を持たない場合であっても、その
手段、
方法が職権濫用など刑罰法規に触れない限り、
処罰を受けないのはもちろんであると記しています。違法であっても
処罰しないから、発覚しないように大いに情報活動、スパイ活動をやりなさいと奨励しているとしか思えません。
緒方氏宅
電話盗聴事件はその象徴的事例でありますが、そのほかの幾つかを御説明いたしたいと思います。
一つは、一九六三年八月、福岡県警によって引き起こされた直方スパイ
摘発弾圧
事件であります。ある労組の中の共産党員が
警察のスパイであることがわかったため、共産党の地区
委員会が調査
委員会を設けてその人を調査したところ、福岡県警が、これを不法監禁だとして弾圧を加えた
事件であります。
逮捕、起訴された四名の幹部は有罪とされましたけれども、しかし福岡高裁の判決は、金銭を与えたりして人を籠絡し、平穏な日常活動を行っている政党や団体の内部情報を収集するような
警察活動は、結社の自由を
侵害するだけでなく、
社会的、倫理的に非難され、不当、違法であると断定しているのであります。
しかし、
警察はその後も違法なスパイ活動を行っています。一九九五年八月、同じ福岡県下で発生した芦屋派出所不法監禁スパイ強要
事件がそれであります。警備公安
警察官が、帰宅途中の川上誠一君という青年を覆面パトカーで追跡して、一時停止違反をしたと欺いて派出所に同行し、深夜一時間にわたり二階の一室に監禁し、
警察のスパイになるよう執拗に迫った
事件であります。
被害者川上君が提訴した国家
賠償請求を審理した福岡高裁は、不公正で違法な
捜査活動により川上氏の
身体の自由を不当に
侵害したものと断定して、原告勝訴の判決を言い渡したのであります。
この二つの確定判決が示しているように、
日本の
警察は、違法な情報活動を、
裁判所の判決さえ無視して重ねているのであります。
このような情報活動の
対象は、
日本共産党だけではありません。広範な団体に及んでいるのであります。
元長野県警本部警備一課の係長だった警部補が、一九九五年十月から翌九六年二月までの約四カ月間に、三十八カ所の建物や
住居に侵入して、
被害者総数八十一名、現金約四百六十三万円、物品など九千三百九十三点、
被害総額は一千万円を上回る金品を窃盗したのです。長野簡易
裁判所は、実刑、懲役二年の判決を下しました。いわゆる現職警備
警察官泥棒
事件というのがこれであります。長野県の地方新聞、信濃毎日がこの
事件を報道しましたが、「勝手知りたる仕事場で」と報道したとおり、
被害団体は、日常的に警備情報活動を行っている労働組合五カ所、保育園六カ所、
市民劇場などであり、盗品の中には、フィルムの入ったカメラ、ワープロ、フロッピーなど、警備
警察にとっては最もおいしい資料が含まれていたのであります。
第二は、
警察は、権力を行使して
証拠を隠し、隠滅し、
犯行警察官を隠匿するということであります。
私どもは、緒方氏宅
電話盗聴事件が発覚した直後から、真実
解明と責任追及を求めて闘う
被害者、緒方氏を支援してまいりました。緒方氏の居住する町田市玉川学園地域では、家庭の主婦を中心に、
警察による
電話盗聴事件を考える住民の会が
組織され、また全国的には、
警察による
電話盗聴事件を究明する会が、思想信条の違いを乗り越えて結成され、緒方さんの
裁判闘争を支援してまいりました。民主
社会にあるまじき
警察の違法な
人権侵害を見逃すならば、
国民の人権が、そして
我が国の
民主主義がどうなるのか、痛切に考えたからであります。
この
事件が発覚した直後、町田
警察署は、
盗聴警官のアジトから、
裁判官の
証拠保全
手続をも妨害して、
証拠物件をほとんど持ち去ってしまったのであります。しかし、現場に残された冷蔵庫や洗濯機、寝具、しょうゆ、マヨネーズなどの調味料品、さらにはゴキブリホイホイその他もろもろの生活必需品などから、
犯行警察官は長
期間交代で宿泊して
盗聴していたという事実が歴然としたのであります。
実行犯人は
神奈川県警の公安四係五名、すべて雲隠れしてしまいました。この四係というのは、
警察庁警備局が直轄し、通称さくらと言われている秘密情報機関で、本部を中野区にある
警察大学の中に置いていることが判明しました。
その後、緒方氏が提起した国賠請求訴訟の法廷に町田署が持ち去った
証拠物件の一部として提出された十本の
録音テープは、すべて消去されていました。
捜査中になぞの死を遂げた一名を除く四名の
犯行警察官はすべて、出たくないと言って法廷にあらわれませんでした。
裁判所の調書には、本人尋問に応じない正当な
理由については、主張も立証もしないと記載されております。自分の名誉のためにといってただ一人、その
事件後退職した
警察官も法廷に出たが、そこでは、言いたくないと
証言を拒否するだけでした。また、警備局長その他の幹部も、
盗聴器など見たこともないなどとひたすら否認と
証言拒否に終始し、何らの反証も提出せず、真実
解明のために
協力する姿勢はみじんも示さなかったのであります。
警察当局は、当
委員会においても、
嫌疑を受けたことは厳粛に受けとめる、しかし
電話盗聴はしていないと答弁しています。このような態度をとり続ける限り、
警察に
電話盗聴を行う法的権限を与えるならば、一体
国民の人権、
プライバシーの
権利はどうなるでしょうか。多くの
国民が憂慮しているところでございます。
第三は、
警察には自浄の意思はかけらもないということです。
警察は、最高幹部から末端に至るまで、徹頭徹尾、自浄の意思を持ち合わせていないという、これも緒方宅
電話盗聴事件が明らかにしました。東京地裁の一審判決が言い渡されたその日、
神奈川県警の幹部は、晴れた日だって気象庁が雨だと言えば雨なんだ、そして何年かたって、その日は雨だったということが真実になるんだと新聞に報道されておりました。
国会で、
警察は過去も現在も
盗聴していないと公言した当時の
警察庁長官は、退職直後に、
警察庁の初代顧問となりました。
盗聴に関与したある人は、その後、長野県警本部長、そして
警察大学校長を経て、中部管区
警察局長へと栄転しました。かの松本サリン
事件の
被害者、河野義行さんは、この人が
警察本部長在任当時に真犯人扱いされた、このことは余りにも有名だと思います。当時の
警察庁警備局公安一課
理事官もまた、鹿児島県警本部長から茨城県警本部長へと栄転しています。
犯罪を実行し、それに関与したとされる
警察官がことごとく出世している、だが
被害者には謝罪すらない。この冷厳な事実を目の当たりにして、私は、多くの
国民が心を痛めていることを訴えたいと思います。それだけではありません。この
事件は、国連の人権
委員会で
日本の人権
状況が
審査された際、一体、
日本には
警察用の
法律と
市民用の
法律、二つの
法律があるのかと厳しい批判さえ受けたのでございます。
警察のこのような体質は、あしき伝統であると言えましょう。それは、一九五二年、大分県菅生村で
警察が仕組んだ謀略
事件、菅生
事件とその後の経過を見ることによって御理解いただけると思います。
この
事件は、共産党の
組織の中にスパイとして潜入した現職
警察官が、党員を駐在所の近くにおびき寄せて、内部に仕掛けた爆発物を爆発させてその党員を
逮捕した
事件でございます。
犯行警察官はその後姿をくらまし、緒方氏宅
電話盗聴事件で明らかにされた公安四係、通称さくらという秘密機関があるあの
警察大学の構内に一時かくまわれていたことは、当時の新聞を通じて
社会に大きな驚愕を与えたのであります。
以上申し上げました事実によって、
警察は自浄の意思を何ら持ち合わせていないということをぜひとも御理解いただきたいと思います。
最後に、この
法律が新たな
人権侵害や冤罪を生み出す危険を申し上げたいと思います。
私どもはこれまで、死刑判決が確定した後に再審無罪となった松山
事件や島田
事件など、多くの冤罪
事件の犠牲者の救援活動を行ってまいりました。その中で、
捜査当局によって
証拠が隠されたり、つくられるなど、痛ましい事実の数々を知っております。こうしたことから、私は、
盗聴で得た情報をもとにして、いわれのない
嫌疑をかけられて
犯罪者にされるという新たな悲劇が生まれることを危惧するものでございます。これは決して私はオーバーだとは思いません。
ぜひとも慎重な上にも慎重に御審議され、この
法案を廃案とされることを重ねて重ねてお願い申し上げまして、私の陳述とさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)