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松尾政府委員 まず、お答えの冒頭で申し上げておきたいことがございますが、将来行われる
犯罪ということを
委員が表現されております。これだけの表現ですと、それを聞いております
国民にとって、何だかわからないけれども、将来起こるかもしれないという
犯罪も想定して非常に幅広く
電話傍受がなされるのではないかという誤解が生じることになろうかと
思いますが、この
法案が
考えておりますことは、そうしたこととは全く別意の、質的に違ったことでございます。
それをちょっと例を挙げながら今申し上げたいと
思いますが、ただいま
先生のお尋ねありますこの
法案第三条一項の二号、三号には、二号を見ますと、「別表に掲げる罪が犯され、」これは現実に
犯罪があるということであります。「かつ、引き続き次に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合」ということを
要件として掲げているわけでございます。次のところの、二号にはイとロとありまして、「当該
犯罪と同様の態様で犯されるこれと同一又は同種の別表に掲げる罪」というようなことがございます。
まず、この点でございますが、例を挙げますと、かなりの量の例えば覚せい剤の密輸
事犯が現にありました、これは
警察が捜査し、あるいはその他麻薬取締事務所がかかわることもございますが、そういった捜査機関がその
犯罪を探知してこれの捜査を開始しております。大量の覚せい剤でございますと、それが死蔵されるということはないのでありまして、当然アンダーグラウンドの市場に出る。つまり、覚せい剤の所持、譲渡あるいは隠匿ということが
犯罪として犯されるということは
社会的には当然
考えられますし、捜査機関としても、そういった
犯罪が継続して行われるということについては当然警戒を持ち、それをどう防圧するか、どう抑止するかということも含めて検討、捜査の対象とすることになります。
そういったことになりますと、大量の覚せい剤が密輸入されました、その後のいろいろな想定される行為が、ここに書いております「引き続き次に掲げる罪が犯されると疑うに足りる」という
状況でございます。しかも、それは「十分な理由がある」ということでございまして、これも、従来の逮捕状請求ですと「相当な理由」ということでございましたが、これを「十分な」ということでかなり厳格にさらに絞りをかけていくということでございます。
これをもう少し平たく言いますと、密輸入とその後の頒布行為あるいは売買行為というのは、
社会的に見れば一連の大量の覚せい剤の密輸、それに伴う販売行為ということで、
社会的には一連の行為というふうに見得るのだろうと
思います。
つまり、この第三条二号に掲げておりますのは、そういった一連の
犯罪行為が現に想定されるということでありますと、確かに
先生のおっしゃるように、密輸入後の行為はこれから行われる行為ということでございますが、
電話傍受の対象として、それはこれから行われる行為であるから対象にならないというのはいかにも問題があろうかと
思います。つまり、
憲法上の
通信の
秘密に対する
保障等を
考えましても、こういったところの
電話傍受を行うということは、やはり全体的な調和の中では許容される捜査手法ということに御
理解がいただけるのではないかと思っております。
それから、次に
先生の御
指摘の、第三条の一項三号でございます。
これは、
法文の表現といたしましては、「禁錮(こ)以上の刑が定められている罪が別表に掲げる罪の実行に必要な準備のために犯され、かつ、引き続き当該別表に掲げる罪が犯されると疑うに足りる十分な理由がある場合」だというふうな規定の仕方をしております。
これはどういう問題かといいますと、例えば
蛇頭のケースを今度引かせていただきたいと
思います。
外国から多数人の集団密航をさせよう、
我が国で不法に就労させ、あるいは売春等を行わせることも現実にはあるわけでございますが、そういった計画のもとに、その実行の準備のために、まず多数のパスポートの偽造が行われるというケースもございます。
このケースを
考えてみますと、パスポートの偽造ということは、当然
外国のパスポートでございますから
我が国の公文書ではございませんので、これは私文書の類型の話で、刑法的には有印私文書偽造罪の成立があるということになります。つまり、ここにあります「禁錮(こ)以上の刑が定められている罪が別表に掲げる罪」、つまり
蛇頭の集団密航罪の実行に必要な準備のために犯される、この場合でいいますとパスポートの偽造がそれに当たるわけでございます。引き続きその集団密航事案が実行に移されるという「疑うに足りる十分な理由がある場合」でございますので、捜査の実情等を
考え、また他方で、確かに
憲法上の
保障とされています
通信の
秘密の
保障ということとの兼ね合いを
考えましても、かかるケースについては、やはり
電話傍受は許容されてしかるべきである。それをまた、こういうふうに規定することが全体の調和を乱し、あるいは
憲法違反になるものというふうな
理解には到底ならないものと
考えている次第でございます。