運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1999-04-13 第145回国会 衆議院 法務委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年四月十三日(火曜日)     午前九時三十二分開議   出席委員    委員長 杉浦 正健君    理事 橘 康太郎君 理事 八代 英太君    理事 山本 幸三君 理事 山本 有二君    理事 日野 市朗君 理事 上田  勇君    理事 達増 拓也君       奥野 誠亮君    加藤 卓二君       河村 建夫君    小杉  隆君       小林 多門君    左藤  恵君       笹川  堯君    菅  義偉君       西田  司君    保岡 興治君       渡辺 喜美君    枝野 幸男君       北村 哲男君    佐々木秀典君       福岡 宗也君    漆原 良夫君       安倍 基雄君    木島日出夫君       保坂 展人君    鯨岡 兵輔君  委員外出席者         参考人         (日本労働組合         総連合会政策委         員)      逢見 直人君         参考人         (弁理士会会長         )       幸田 全弘君         参考人         (弁護士)   高橋  融君         参考人         (ノンフィクシ         ョン作家)   松永 憲生君         参考人         (元東京地方裁         判所所長)   菊池 信男君         参考人         (元福岡高等検         察庁検事長)  高橋 武生君         参考人         (日本弁護士連         合会理事)   久保井一匡君         法務委員会専門         員       海老原良宗君 四月七日  辞任         補欠選任   古賀  誠君     鯨岡 兵輔君    同月十三日  辞任         補欠選任   加藤 紘一君     小林 多門君   枝野 幸男君     北村 哲男君 同日  辞任         補欠選任   小林 多門君     加藤 紘一君   北村 哲男君     枝野 幸男君 四月一日  子供視点からの少年法論議に関する請願家西悟紹介)(第一六九九号)  同(石毛えい子紹介)(第一七〇〇号)  同(肥田美代子紹介)(第一七〇一号)  同(保坂展人君紹介)(第一七〇二号)  同(家西悟紹介)(第一七一三号)  同(北村哲男紹介)(第一七一四号)  同(保坂展人君紹介)(第一七一五号)  同(家西悟紹介)(第一七四一号)  同(上田勇紹介)(第一七四二号)  同(北村哲男紹介)(第一七四三号)  同(中川智子紹介)(第一七四四号)  同(家西悟紹介)(第一八五一号)  同(瀬古由起子紹介)(第一八五二号)  同(中川智子紹介)(第一八五三号)  同(保坂展人君紹介)(第一八五四号)  外国人登録法抜本改正に関する請願佐藤茂樹紹介)(第一七〇三号)  同(土井たか子紹介)(第一七〇四号)  同(中桐伸五君紹介)(第一七〇五号)  同(山本孝史紹介)(第一七一六号)  同(日野市朗紹介)(第一八五五号)  定期借家権制度を創設する借地借家法改正反対に関する請願北村哲男紹介)(第一七一二号)  同(北村哲男紹介)(第一七三九号)  同(藤木洋子紹介)(第一七四〇号) 同月七日  定期借家権制度を創設する借地借家法改正反対に関する請願坂上富男紹介)(第一八八〇号)  同(保坂展人君紹介)(第一八九七号)  同(木島日出夫紹介)(第一九七二号)  子供視点からの少年法論議に関する請願家西悟紹介)(第一八八一号)  同(中川智子紹介)(第一八八二号)  同(肥田美代子紹介)(第一八八三号)  同(家西悟紹介)(第一八九八号)  同(中川智子紹介)(第一八九九号)  同(肥田美代子紹介)(第一九〇〇号)  同(辻元清美君紹介)(第一九二八号)  同(藤木洋子紹介)(第一九七三号)  同(古堅実吉紹介)(第一九七四号)  同(松本善明紹介)(第一九七五号)  外国人登録法抜本改正に関する請願肥田美代子紹介)(第一八八四号)  組織的犯罪対策法制定反対に関する請願児玉健司紹介)(第一九七一号) 同月九日  児童買春等禁止法案早期成立に関する請願森山眞弓紹介)(第二一八七号)  子供視点からの少年法論議に関する請願佐々木秀典紹介)(第二一八八号)  同(坂上富男紹介)(第二一八九号)  同(山元勉紹介)(第二一九〇号)  同(佐々木秀典紹介)(第二三〇一号)  同(山元勉紹介)(第二三〇二号) は本委員会に付託された。 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  司法制度改革審議会設置法案内閣提出第二五号)     午前九時三十二分開議      ————◇—————
  2. 杉浦正健

    杉浦委員長 これより会議を開きます。  内閣提出司法制度改革審議会設置法案を議題といたします。  本日は、本案審査のため、まず午前の参考人として日本労働組合連合会政策委員逢見直人君弁理士会会長幸田全弘君、弁護士高橋融君、ノンフィクション作家松永憲生君、以上四名の方々に御出席いただいております。  この際、参考人各位委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位におかれましては、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。  逢見参考人幸田参考人高橋参考人松永参考人の順に、各十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。  それでは、逢見参考人にお願いいたします。
  3. 逢見直人

    逢見参考人 おはようございます。連合政策委員をしております逢見でございます。  司法制度改革審議会設置法案並びに本法案目的とする司法制度改革について意見を申し述べます。お手元資料を配付してございますので、それを参照しながら聞いていただきたいと思います。  まず、司法制度改革についての基本的な考え方でありますが、連合も、二十一世紀日本を公正で活力のある社会とするためには、司法制度拡充強化が必要であると考えております。  現在の司法制度は、残念ながら、国民期待に十分にこたえているとは言えません。司法社会紛争解決する機能を本来持っているはずですが、裁判が余りに長くかかり過ぎたり、費用が幾らかかるかわからないとか、行政機関が決めたことを不服だとして裁判に訴えても、裁判所はしょせん行政に甘いので、泣き寝入りするしかないのではないかといった問題を抱えており、制度改革は急務であると思います。  その意味で、今回の法律案目的においては賛同すべきものであり、司法制度全般について、国民各層参加を得て抜本改革を推進すべきであると考えます。  私は労働組合役員として労働問題に携わっておりますが、ここで私は、セーフティーネットとしての司法役割を強調したいと思います。  近年、経済グローバル化規制緩和の進展に伴い、企業個人は、自己責任を原則として、透明なルールに従って行動することが求められるようになっております。この流れは否定できませんが、自己責任の徹底を叫ぶだけで、セーフティーネット、すなわち安全網の張りかえがなければ、個人企業の不安が募るだけの社会になりかねません。  幾つかの例を申し上げます。  お手元資料を配付してございますが、図一は、企業倒産件数、負債、倒産率推移を見たものであります。  このグラフを見ていただきますとわかりますように、バブル崩壊後、企業倒産件数増加の一途をたどっております。企業倒産には、任意整理など裁判所を通さないものもありますが、破産、和議、会社更生など裁判所手続を通すものもふえております。企業倒産事件は、債権者利害調整など複雑な問題もありますが、一方で、そこで働く従業員立場からは、未払い賃金など労働債権処理は早く進めてほしいのであります。  しかし、これは企業倒産法制の問題もあり、これにつきましては別途法制審議会見直しの作業が進められておりますが、法曹人口の不足もまた大きな問題でございます。弁護士などが一部大都市に偏在しており、地方の中小企業倒産事件などは、依頼する弁護士が非常に不足しているということから、スピーディーな解決が図れないという問題も生じております。  司法試験合格者増加による法曹人口の増大を図る必要がありますが、それだけではなく、裁判官の任用についても、今日の経済社会問題を理解できる人を幅広く検討すべきでありますし、また、弁護士公認会計士、税理士、弁理士司法書士など、法律サービス関連サービスを一体として提供できる総合的法律経済事務所早期に認めるべきであります。  また、労働債権先取特権を行使するための裁判所に対する差し押さえ手続申立代理人などは、事態によっては大変急を要するものであり、弁護士以外に、例えば社会保険労務士でありますとか労働組合専従役員を十年以上経験した者などにも認めるべきであります。  次に、個別的労使紛争増加という問題に触れたいと思います。  近年、労使関係の安定により、労働争議集団的労使紛争減少傾向にありますが、個別的な雇用関係から生じる賃金退職金解雇、雇いどめ、配転、出向、労働条件不利益変更などをめぐる事件労働相談増加傾向にあります。  お手元資料の図二、これは裁判所で受理した労働関係事件推移を見たものでありますが、これもまたバブル崩壊後の平成四年から急増傾向にあります。その多くは雇用関係存否にかかわるもので、バブル破綻後の経済環境雇用環境の悪化がこうした個別紛争増加をもたらしたものと推察できます。雇用関係存否などは労働者個人生活にかかわるものであり、事件処理長期化は避けるべきであります。  これは最近、新聞記事になった事件ですが、大手タイヤメーカーのブリヂストンの社長室で、リストラがきつ過ぎると、元社員が包丁で自殺するという事件がありました。自殺に至る前に、この訴えを聞いてあげる仕組みができなかったのかという思いを強くいたします。これなどもセーフティーネットが不十分であったために起こった不幸な事件と言えます。自己責任では片づけられない問題だと思います。  ところが、昨年の国会で司法試験法改正が行われ、ここで法律選択科目が廃止され、労働法司法試験からなくなってしまうということになりました。平成十二年の司法試験合格者からは、労働法を全く知らない弁護士裁判官が生まれてくることになります。  労働法は、雇用労働者の働き方や生活を規律する重要な法律であるとともに、企業経営あり方規制する法律であります。実際、労働法は、採用から配置、賃金等の処遇、労働時間、人事異動教育訓練退職などのすべての働き方にかかわる法律であり、さらに、派遣、パートといった多様化する就業形態にも法的な整備がなされてきました。  労使紛争は、当事者解決がつかない場合には、労働委員会裁判所など第三者機関解決をゆだねることになりますが、労働法を学んでいない法曹関係者が今後こうした問題の処理に当たることにつきまして一抹の不安を感じざるを得ません。  労働法については、司法試験選択科目とすべきであります。しかし、平成十二年の司法試験には当座間に合いませんので、当面は司法研修の中で労働法のウエートを高めることを求めたいと思います。  お手元の表二は、諸外国個別労使紛争処理システムを見たものですが、欧州では労働審判所ないし労働裁判所など、労働契約労働協約などの紛争処理するシステム整備されていることがわかります。  日本においても個別労使紛争増加したことは前述のとおりでございます。その内容を東京都の労政事務所に相談された項目で見ますと、これは前のページの表の一になりますが、解雇をめぐるトラブルが最も多いということがわかります。  個別的労使紛争については、裁判所において権利義務の判定や和解を行うほか、行政機関である労政事務所あるいは労働基準監督署、都道府県の女性少年室、さらに弁護士団体や私ども連合など労働団体が行う相談活動ども行っております。  しかし、総合的に見て、今後増加して複雑化していくと予想される個別的労使紛争処理システム我が国において整備されているとは言えません。とりわけ司法分野での整備がおくれております。労働事件権利紛争利益紛争の両面を持ったものが多く、民事調停ではその機能が制限されております。しかし、これを裁判に持ち込むとなると、損害賠償請求額が少額であったり、裁判長期化すると、事実上権利の回復がなされないなど、泣き寝入りせざるを得ないというのが実態であります。  市民が普通の言葉で相談し、紛争を即時に解決してもらえるシステムを、我が国においても欧州労働裁判所などの例を参考にして整備すべきであります。  最後に、司法あり方について一言申し述べたいと思います。  司法が果たす役割には法秩序維持があります。これは法を犯した者に対して刑罰を科すということで、もちろんこうした法秩序維持は重要なことでありますが、もう一つは、市民が法で保障されている権利を擁護して、何か問題があったときにその権利がいつでも行使できる、それを保障するのが司法役割であると思います。  この後者の役割について、裁判所は今まではっきりした姿勢を示してこなかったのではないかと思います。裁判所は、一般市民にとって近寄りがたい、怖いところといったイメージになっているのではないでしょうか。裁判所のこうしたイメージの払拭が必要であります。裁判所は、市民が安心して暮らせるための法の番人であり、たとえ相手が行政であっても、市民が法によって保障されている権利を不当に侵している場合には、裁判所がきちんと判断を示すことが期待されていると思うのであります。  繰り返しになりますが、自己責任社会、公正、透明なルールで運営する社会には、セーフティーネットとしての紛争処理システムが不可欠であり、相対的弱者である市民が泣き寝入りするということを放置しておくべきではありません。  司法制度改革審議会におきましては、国民各層参加によって、二十一世紀のあるべき司法の姿、すなわち、基本理念がきちんと示されて、その合意の上に改革設計図が描かれることを期待して、私の意見といたします。ありがとうございました。(拍手
  4. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、幸田参考人にお願いいたします。
  5. 幸田全弘

    幸田参考人 おはようございます。弁理士会会長幸田でございます。  本日は、このような機会弁理士会に与えていただきましたことに対しまして、心から御礼を申し上げます。  なお、私、こういう場所がふなれでございますので、原稿に沿って意見を述べさせていただきたいと思います。その際、既にお手元にビニールのファイルでとじた資料を配付させていただいておりますので、よろしくお願い申し上げます。  まず初めに、私ども弁理士会は、司法制度改革審議会早期設置され、司法制度について抜本的な見直しがされますことを強く要望するものでございます。以下、その理由を御説明申し上げますが、その前に簡単に弁理士会についてお話しさせていただきたいと思います。  弁理士会とは、我が国において、工業所有権に関します特許庁に対する手続代理特許庁長官当事者といたしました審決取り消し訴訟訴訟代理人工業所有権に関します権利侵害訴訟補佐人資格を有する唯一の国家資格者弁理士組織されました公法人で、明治三十二年に弁理士制度が創設されて以来、本年でちょうど百年目を迎える団体でございます。  さて、我が国におきましては、各分野におきまして規制緩和政策が積極的に推進され、産業育成の妨げとなるような規制については緩和もしくは撤廃する努力が行われております。この規制緩和政策は、従来の事前の規制緩和もしくは撤廃するものでありますから、当然のことながらさまざまな産業経済活動を行った際の事後のチェックシステムが大きな役割を負うこととなります。  言いかえますと、産業または経済分野におきまして、適切な権利保護や救済を求めるに際しましては、これからの司法が果たす役割はますます大きくなるものと考えております。  一九九五年に制定されました科学技術基本法に基づき、科学技術創造立国を標榜する我が国が、力強い経済の再建を目指し、産官学の連携によります研究開発とその成果活用、適切かつ迅速な知的財産権保護によります新規産業の創出を図るとともに、競争力の源泉である物づくりを支えます技術と技能の育成、それに中小企業人材育成を進めることは極めて重要な課題であると考えております。  このことは、さきに発表されました内閣総理大臣諮問機関であります経済戦略会議の答申が、戦略的な技術開発の推進における企業個人が果たす役割に注目し、これらの技術開発に対して、より一層実効を上げるためには、適切な知的財産保護強化が必要であると指摘しておられることからも十分御理解いただけるものと存じます。  この目的を達成するため、行政サイドにおかれましては、例えば特許庁を中心に、申請から権利化に至るまで、権利取得を早く、保護の対象並びに権利の解釈を広く、他に対抗できる強い知的財産権の実現に向けたび重なる法律改正を行いながら、国内はもとより国際的にも十分対応できる体制の整備にたゆまぬ努力がなされております。  知的財産とは、多くの資本と時間と労力を投資して得ることのできます精神的な労作の成果物でありますが、その反面極めて模倣しやすい性質を有しておりますので、知的財産に関します紛争は国境を越えて生じております。  かかる知的財産保護強化を図りますには、行政による迅速な権利の設定のみでは十分ではなく、紛争が生じました場合の司法による速やかなる解決が非常に重要であると考えております。  しかしながら、知的財産分野におきます我が国訴訟は、アメリカなどの諸外国に比しまして、訴訟期間が長く、訴訟費用の負担が大きく、損害賠償額が十分と言えないというのが現状でございます。  お手元資料の六ページ三をごらんいただきたいと思います。これは、我が国アメリカにおきます知的財産権に関する訴訟での損害賠償額推移を表示しておりますが、アメリカにおける訴訟損害賠償額我が国の約二百四十倍と極めて高額なものとなっております。  続きまして、七ページの資料四をごらんいただきたいと思います。この資料は、知的財産分野における訴訟当事者が、我が国法廷ではなく、紛争解決の場をアメリカ法廷に求めるという、いわゆる裁判空洞化現象とも言える事態が生じていることを示しておるものでございます。  二十一世紀をリードする技術である半導体、通信、バイオテクノロジーなどの最先端技術分野では日常的に国際的な紛争が生じております。我が国においても、これらライフサイクルの短いハイテク分野における国際紛争についても、迅速に対応できる紛争解決システムの再構築について真剣に取り組む必要があるものと考えております。  私ども弁理士は、技術法律の両方にわたる高度の専門性を持った国家資格者として、行政国民のかけ橋となってきました。弁理士は、この知的財産保護育成に積極的に携わりますとともに、国内のみならず、海外における権利取得紛争解決に直接または間接的にかかわりますことによって、知的財産制度擁護者としても活躍しております。  昨年四月には、日本弁護士連合会と共同いたしまして、工業所有権仲裁センターを設立し、裁判によらない迅速な紛争解決の場を提供いたしました。  添付の資料十をちょっとごらんいただければと思います。この資料は、工業所有権仲裁センターの概要を示すものですが、この一年間に五百件に近い調停仲裁に関する照会がございました。かかる事情からも、このような迅速な紛争解決に非常に大きな期待が寄せられているものと考えております。  さらに、私どもは、裁判所の要請によって、知的財産紛争に関しまして調停委員を派遣させていただいております。  しかしながら、知的財産経営資源とする科学技術創造立国におきましては、知的財産をめぐる紛争が今後ますます増加することを考えますと、かかる対応のみでは、知的財産の適切な保護知的財産紛争の迅速な解決に対しては、司法の十分な裏づけがあるとは言えないと考えております。  我が国産業競争力強化しますには、技術等知的創作保護競争力強化のための重要な柱であって、技術等知的創作は、商品の付加価値差別化生産効率の向上を通じまして、新規産業を興し、成熟産業を活性化させるかぎであると考えております。  したがいまして、知的財産活用による産業経済活動が活発化すればするほど、知的財産をめぐる紛争は多発いたします。しかしながら、この知的財産紛争解決長期化いたしますと、国内のみならず、国際的にも活発な経済活動が阻害され、景気の停滞を招きます。  知的財産の中でも代表的な特許は、技術思想である発明を保護するものであります。その際、取得した権利が有効なのかどうか、または第三者の実施が侵害に当たるのか否かなどの判断は、技術上、法律上の高度な専門知識が必要かつ不可欠なものでございます。  二十一世紀を迎えるに当たりまして、技術高度化ソフト化が進む今日、この専門性要求はより一層強まる傾向にあり、バイオテクノロジーコンピューター関連技術などに代表されるような最先端技術におきましては、侵害事件審決取り消し訴訟が多くなっております。  こうした訴訟が今後さらに増加することを念頭に置きますと、裁判における技術上、法律上の専門性の確保は極めて重要な課題であると考えております。このことは、訴訟事件に関与されます裁判官方々のみならず、訴訟代理人として知的財産紛争事件に関与される方々にも、高度な技術上、法律上の専門知識が求められることになります。  もとより、裁判所におかれましては、例えば東京地方裁判所では、工業所有権専門部を新たに二部増設されるなど、組織拡充に努められております。司法に携わる皆様の御努力には心から敬意を払うものでございます。  しかしながら、迅速な知的財産紛争処理を今後より一層充実し、その強化を図りますためには、例えばアメリカ、イギリス、さらにはドイツ、韓国のように、特許に関します訴訟事件専門に取り扱います特許裁判所のような専門裁判所設置視野に入れた検討が広い範囲でなされることが非常に大切であると考えております。  他方、国家的レベルでの知的財産紛争処理専門家といたしましての人材育成と積極的な登用もまた極めて重要なことであると思われます。  以上申し上げました認識のもとに、今般御審議されております司法制度改革審議会が早急に設置され、知的財産分野における司法あり方を広い視野から御検討されますことを切に願うものでございます。  司法制度改革審議会が発足しました際には、知的財産の適切な保護や迅速な紛争解決について十分に御審議をいただき、できますれば、私ども弁理士会にもまた意見を述べる機会を賜りたく、お願い申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手
  6. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、高橋参考人にお願いいたします。
  7. 高橋融

    高橋(融)参考人 弁護士高橋融であります。  ただいま自由法曹団の司法制度を民主化する委員会の責任者をしております。自由法曹団というのは、一九二一年に創立され、全国で約千五百人を擁する法律団体であります。  私ども意見でございますが、限られた時間の中で申し上げなければなりませんので、本日、二つの資料を配付しております。一つは、「二十一世紀司法の民主化のための提言案」、それから「司法制度審議設置についての見解と要請」というものでございます。弁護士あるいは法律家というのはとかく長いものを書くもので、なかなか読みにくいかと思いますので、目次などをごらんになりながらお聞きいただければと思います。  さて冒頭に、国会が、間もなく訪れる二十一世紀のために、我が国司法制度改革について議論されていることについては、深く敬意を表したいと思います。  ただ、現在出されている法案につきましては、司法制度改革のための審議会を設置するのであるからということでもろ手を挙げて賛成をしたいところでございますが、これまでの経過を見ますと、政府・自民党の目指す司法改革の線で出されていると思いますので、どうもそうはまいりません。厳しく御批判申し上げなければならなくなると思います。  政府・自民党の考えておられるのは、日本司法を、現在の人権擁護面での立ちおくれをそのままにしておいて、経済に奉仕する仕組みにつくり上げようとしているとしか見られない。この目的で本法案が提出されている以上、私たちはこれを厳しく批判するというのが立場でございます。  本日、この問題について与えられた機会に、法案中の審議会の任務、運営、人的構成、人選について、私の意見を申し上げたいと思います。  第一に、審議会の任務についてでございますけれども、まず初めに、政府・自民党の提起を批判し、次に私どもの提起を若干説明させていただくというふうにさせていただきます。  政府・自民党の提起は、十年の六月十六日付の司法制度調査会報告によっております。司法についての、特に、民事、行政、刑事の各分野裁判についての現状分析が私は不十分だと思います。司法制度改革という以上、この分析がなければ司法制度改革はあり得ないというふうに思うからです。  もう一つは、司法制度改革という以上、その中核になっている裁判所改革は当然でありますけれども、それだけでなく、これを支える部門の改革を行わなければなりません。自民党も弁護士をこの問題の対象にしておられるというのはそういう趣旨だと思いますが、その他の問題は余り論じられていないようです。  まず、民事司法の問題から問題にいたしたいと思いますが、時間がかかり過ぎる、いろいろな問題が論じられております。しかし、どこにどのような問題があるからそういうふうになっているのだということの分析はされていない。これを制度改革審議会でおやりになろうということなのだと思いますけれども、私は、さて、それではテーマも立つのだろうかというふうに心配しております。  一方で、人権にかかわりの強い刑事司法については、治安維持面からの検察の体制強化と被疑者弁護を含む刑事弁護が取り上げられているのみであります。刑事司法を支える警察、検察の問題が取り上げられていない点は、司法改革の問題提起としては大きな欠陥であると思います。司法の人権擁護機能を軽視するというふうに私どもが考えるのはそのためです。これは私たちだけが批判を行っているのではなくて、学界では平野龍一氏がこれらに関連して、我が国の刑事裁判はかなり絶望的であると書かれたのは、もうかなり古いことです。  また、グローバルスタンダードが言われておりますけれども、国連の規約人権委員会は、政府が提出した報告に基づいて昨年審議を行いまして、代用監獄における起訴前の勾留と起訴前保釈制度がないこと、有罪判決において自白偏重であること、弁護側に証拠開示を求める一般的権利がないことなどについて厳しく勧告をし、前にも勧告したのにこれが全く措置されていないことについて不満を述べています。また、人権規約上の人権について、司法官、行政官に対する教育システムがないということを指摘しております。  さて、私の提起でありますが、現在司法がどのように機能不全に陥っているかにつきましては、本日配付いたしました資料の中でかなり事細かに分析しておりますので、四ページ以下をごらんいただきたいと思います。  時間の関係で論証を抜きにさせていただきますが、これらの現在の司法の問題点は、憲法上の原則である国民主権の軽視があるから発生していると私は考えております。基本が曲がっているということであります。司法は、民主主義のもとでは、人民による人民のための人民の政治の一部門でありますから、政治性があるのは当然であります。  我が国では、国会議員の皆さんと違って、裁判官はもちろん、検察官も選挙制ではありません。また、議院内閣制の監督下にも十分に置かれているとは考えられません。公務員でありながら、原則的には憲法上任免権がある国民によるコントロールをできるだけ受けないようにつくられていると考えます。国民によるコントロールは、任命人事のところで行うのが最も効果的であります。弾劾や、最高裁裁判官国民審査のようなリコールのようなものでは二次的な効果しかありません。極めて政治的に重要な役割を果たす最高裁の裁判官の任命も、事実上最高裁内部で、国民の目の全く届かないところで、あたかも政治が関与しない方がよいものかのように行われております。任免権を持つ首相もそのことにより政治的批判を受けず、国民の批判のチャンネルは閉ざされております。  アメリカを見ましょう。連邦最高裁裁判官の場合、任命手続がテレビに公開され、厳しい議論が行われて任命されるのであります。余りにも違い過ぎると考えます。我が国では、こうすることによって司法に見せかけの非政治性のベールがかけられている。これは、司法という公務を国民のために守るという目的からではなく、司法官僚制の職権をかさにし、人権尊重よりも仕事の能率を求めるお役人天国のために使われていると私には見えてしまいます。  このように、国民から徹底的に隔離され、国民からの独立ができ上がっている司法分野国民主権を発揮させ、国民によるコントロールを回復させることが求められている。その手段が、私どもが提唱している法曹一元であり、陪審制であります。  法曹一元は、これまで多くの場合、裁判官以外の経験を積んだ法律家の中から裁判官を任命する裁判官の供給源の問題だというふうに論じられてきました。これは、キャリアシステムによる司法官僚制をこれでもって置きかえるということであります。それはそれで正しいのであるというふうに考えますけれども、さらに、国民主権の実現に近づけることが必要だと考えます。  我が国では、憲法上、下級裁判所裁判官は最高裁が作成する名簿によって内閣が任命するということになっております。したがって、選挙をせよとは言えません。しかし、アメリカの幾つかの州で行われているように、最高裁の名簿作成の過程にその地域の住民代表と法律家代表が参加する裁判官選考委員会をつくり、主権者の意思を反映させる、そして、この結論に従って最高裁が名簿を作成するシステムは、現憲法上も可能であると考えます。  法曹一元をこのように行うことによって、裁判官は単なる法律家としての経験年数という形式的な資格からではなく、当初から住民の選考を経て評価の定まった高い水準の法律家を選び出すことができると考えます。  陪審は、言うまでもなく、国民司法への直接参加であります。これと法曹一元の裁判官が相まって、裁判はわかりにくいと言われているものがわかりやすくなり、書面中心から口頭での弁論が闘わされる本当に裁判らしい裁判になっていくというふうに考えます。  また、陪審参加を通じて、市民は法と権利だけでなく、多くのものを学んでいく、そして成長していくということははっきりしています。また、市民である陪審員の参加を得るために裁判長期化はどうしても避けなければならなくなります。職業的裁判官が書面を密室で読むことによって行われている現在の裁判は、国民の目という太陽のもとに引き出さなければなりません。生き生きとしたものにしなければなりません。陪審制度がそのために欠かせないゆえんであります。先進国で国民参加が図られていないのは日本だけと言ってもいいのが現状であります。  これら二つを実現するならば、司法の基本構造が変わると思います。国民裁判を見る目や司法を見る目は変わってきます。弁護士の仕事も大変革をしなければならないと考えます。しかし、これらを実現するためであれば、大方の弁護士は喜んで変化を受け入れると思います。司法の持っているその他の問題が順次解決していくであろうという展望を持てるからであります。  現在、多方面から法曹人口の不足の問題が叫ばれています。私もまた同感であります。国民各層からのニーズに応ずる上でも、また今まで述べた法曹一元の裁判官と陪審制を実現するためにも、どうしても法曹人口の増大は必要であり、法律扶助の底上げ、被疑者国選を実現するとすれば、なお一層必要であります。大幅増員は欠かせないというふうに考えております。  しかし、これらのどれ一つをとっても大改革の実行であり、これを実現するには金と力が要ります。それだけに、政府・自民党にやる気がなければ、これまでどおり現在の国の財政危機から予算と財源がない、これを言いわけにして、法曹人員増、中でも弁護士増員を先行させるもっともらしい理屈立ては幾らでもできます。  今私の周りには、政府・自民党の意図するところが、最後にはこのような理屈立てをして、改革課題について何ら実行をしない、人員増のみを先行させるのではないかと危ぶむ弁護士や学者が多いことも端的に申し上げておきたいと思います。  このように述べた状況と批判を考え合わせていただければ、そのように人が考えるのも無理からぬところがあります。しかし、法律扶助、被疑者国選を初めとするいろいろなことをやっていけば、大幅な予算の増大といいましても、今回の金融対策や公共工事などと比べてみますとわずかなものです。そういう司法予算の増大をきちっとしていただければ、さらに法曹一元の裁判官と陪審の導入を明らかにすれば、事の成り行きは全く変わったものになってくると思います。  このたびの司法改革の問題について見る限り、もちろん立場の違いから来る方向性の差はあります。率直に言って、二十一世紀に向けて司法改革が必要であるという認識を初め、共感を持てる点も多いのです。この改革は、積み重ねられた、もうでき上がった現実を、その重みをはねのけて、よりよい結果を求めての厳しい議論を重ねつつ、一歩一歩高みに向けて上っていく、その中で実現の条件を切り開いていく長い行程であると思います。このために、焦らずたゆまず努力していくことをみずからに言い聞かしているところであります。  審議会の運営、構成と人選についての意見もございますが、時間でございますので、これで中止させていただきますが、よろしくお願いいたします。(拍手
  8. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、松永参考人にお願いいたします。
  9. 松永憲生

    松永参考人 ノンフィクション作家をしています松永です。  この委員会司法改革をテーマに審議しておられますが、僕は司法分野の取材、事件取材等をこれまで続けてまいりました。その関係で、特に裁判官取材、冤罪事件の取材等を通じて、司法改革はぜひ必要であると十数年前から痛感してまいりましたので、取材体験も交えて、きょうはお話しさせていただきたいと思います。  直接、裁判官に初めて取材したのはもう二十年くらい前なんですが、裁判官世界に興味を持った動機は冤罪事件の取材でした。裁判官も自由心証主義ですから、やはり自由に心証を形成する場合に、証拠をにらんで判断する、有罪か無罪か悩むことも人間ですからあると思うわけですね。有罪か無罪か悩んだときに、どういう悩み方をするのか。時には死刑の判決も下すわけですから、そういうときにどういうためらいがあるのか。そういうところに、人間としての裁判官の素顔に大変興味を持ちました。  有罪、無罪かを迷ったときに、どちらか必ず判決を出さなければいけない、中間はないわけですね、刑事裁判に和解はありませんから。そういう意味で、裁判官の仕事というのは大変な仕事なわけです。大変な仕事であろうと思って当然取材に入りましたけれども、結果としてはやはり大変な仕事だなと思いました。  しかし、その大変さの中身ががらりと違いました。僕は当初、苦悩し、真実を求めて格闘する裁判官の人間らしい姿を想像していましたけれども、現実の裁判官の大変だなと思う実態は、言うならば、営業成績をめぐって格闘するサラリーマンのそれと似たような顔、こういう顔にめぐり会って、しかし、それも同じ人間ですから一概におかしいとは言えませんけれども。  その中で、裁判官の生の人間性、あるいは私生活における子供の親の顔、夫としての顔、そんな顔に接しながら、裁判官というのは公務員の中で最も勤勉でまじめに働いている人々である、そんなふうな印象を持ちました。これは取材に応じてくれた裁判官の多数の方々が気負いなく語っていましたし、また僕もそれはそうであろうなというふうに実感できたところです。  問題とする裁判官としての顔で大変だなと僕が感じたその実態についてですが、これは「裁判官の内幕 裁きの神の顔」というタイトルで最初に出した本なんですが、この中に書きつづったものです。時間の関係上詳しくは御紹介できませんけれども、かいつまんで少しお話ししたいと思います。  例えば、裁判所というのは裁判官会議によって運営されているんです。多くの裁判官会議で重要事項を決定する。ところが、一九五五年ですから、昭和三十年に裁判所の事務処理規則を改正することによって、この裁判官会議が形骸化していってしまうことになります。どういうことかというと、長官と所長の権限が強くなっていくのですね。ですから、事務処理規則の中で当該裁判所と書いてあった部分を自動的に、簡略に言うと長官または所長、このように変えたために、裁判官会議の形骸化が起こってくる。  その結果、どういう実態になっているかというと、ごく簡単に説明しますと、ある裁判官が漏らしていました。我々裁判官にとって、楽しみは、裁判官会議が不活発、低調なので、それも裁判官会議は開かれることは開かれるのだけれども、その中で興味あるのは選挙であると言うのですね。今選挙たけなわですが、裁判官もやはり選挙が楽しいそうです。  どういう楽しみかというと、例えば、裁判所の所長の代理を決める、その代理をだれにするかというのは大体あらかじめ決まってしまうそうなんですが、大きいところだと第一代理と第二代理、二人選出するらしいのですね。第一代理の方は大体最高裁の意向によって決まってしまっている。年配の人の数はだんだん減っていきますから、年功序列で決まっていきますので、大体この人というふうに決まってくるそうですが、人数が多いと、最高裁の意向に沿わない人が決まってしまうと危険なので、事前に人事異動をするそうです。中堅以下の裁判官がおもしろいと言うのは、第二代理を決める選挙。この中に批判票がどのくらい集まるかとか、そんなことをみみっちく楽しみながら裁判官会議に出る、こういう実態を漏らしてくれました。  それから、五五年のその事務処理規則の改正以降、裁判官には勤務評定が行われています。考課調書という勤務評定。それから、勤務評定の中身も問題ですけれども、それをされていること自体、裁判官は独立してその職権を行使するというふうに憲法で保障されていますが、その独立性をまず最初に危うくさせたのがこれだったと思います。  それから、統計表というのがありまして、裁判官は非常に激務で、たくさんの、二百五十件から三百件、三百五十件というような、常時それほどの事件を抱えて大変激務ですから、事件処理を急ぐわけですね。国民のための迅速な裁判ではなくて、裁判官のための迅速な裁判に走りがちであります。  そこで、新受事件数と、毎月毎月判決を下す判決済みの処理した件数とのバランスが問題になります。それが個人別にあらわれるのが統計表です。名前は出ていませんけれども東京地裁刑事一部一係というふうに出ていますから、自動的にだれが今月は処理件数が多かったか少なかったかはすぐわかります。営業成績をめぐって苦悩するサラリーマンの顔と言ったのは、それに関係します。  実は、公然と裁判所では、これは裁判官が実際に話してくれましたけれども処理件数が多く、つまり新しく受ける事件数よりも多かった場合には、今月私は黒字になりました、処理件数が少なくて、そして新しく今月受けた事件数が多いと、これは赤字ということになるわけですね。だから、赤字、黒字という言葉を実際に使っているそうです。  それからさらに、長期未済事件報告制度というのがありまして、そのような形で処理を急いでもなお、民事事件では五年を超えると最高裁に報告しなければならない。刑事事件だと三年を超えると報告をしなければならない。少年、家裁事件だと一年を超える。そういう長期未済事件として報告せざるを得ない事件数がだんだん多くなってくると、やはりこれも勤評としてはよくないわけですね。  だから、裁判官の仕事というのは、じっくり慎重に審理するというのと、国民のための迅速な裁判、拙速を防ぎながらそれを慎重にやらなければいけないという意味で、非常に大変なんですが、官僚的な締めつけはかなり強いものを感じました。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕  この本で述べたそのような実態は、さらに今日深化しています。そして、現在、ではどうなのかというと、僕がこのとき指摘した問題点はさらに深化し、かつ変わった部分もあります。その深化し、かつ変わった部分がどういう実態であるかという点についての資料をお手元に配付させていただきました。  「知られざる裁判官の内幕」という、これは別冊宝島の取材記事ですが、生田暉雄さんという弁護士さんは、裁判官に二十二年間在職した方です。七〇年から九二年三月まで裁判官をやっていましたので、言うならば、これが現在の裁判官の実態の核心部分についての最新情報であるというふうに受け取っていただいて結構です。  それでは、この点について結論的に申し上げたいことは、司法権の独立のための裁判官の独立、職権の独立保障ですね、これが一番司法権にとっては大事なことであり、司法制度の核心的な部分だと思います。これが危ういとなると、いかなる部分に手を加えても無理だと思います。裁判官の独立をいかに実体を伴ったものにするのかという点については、ただ単に裁判官の数をふやせばいいということではないと思います。これは特に強調しておきたいと思います。  それから、そのような形で裁判官会議を活発化するということですね。  そして、簡単に申し上げますけれども裁判官の独立を支える重要な役割を演じているのが弁護士自治だと思います。  弁護士自治について、いろいろ問題にされているようですけれども、これまで冤罪事件を取材した関係上実感するところですが、弁護士が自治に支えられてこそ人権擁護の活動をできる、その点は特に強調しておきたいと思います。  それから、この審議会についてですけれども、時間の関係で簡単に申し上げざるを得ないのですが、つまり、現在の司法改革についてこの審議会をつくる、この審議会を設置する法案をめぐって議論が行われていると思うのですけれども、最初に結論を申し上げますと、この審議会については疑問に思います。  一つは、内閣法十二条四項に基づく審議会であるという点。内閣の事務を助けることが使命であるとすると、やはり政府・自民党の方針になっていくだろう。賛成でしたらそれでもいいんですけれども、先ほど高橋先生も御指摘のとおり、僕も、人権擁護のための司法改革という視点の欠落性からいって少し危惧を感じます。  それから、情報公開が期待できない。審議事項等、審議内容を白紙委任するような立法であるというような点を主な理由として、疑問に思います。  有意義な司法改革を行っていただきたいことを念じて、以上です。(拍手
  10. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 ありがとうございました。  以上で参考人意見の開陳は終わりました。     —————————————
  11. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山本幸三君。
  12. 山本幸三

    山本(幸)委員 自由民主党の山本幸三です。きょうは、参考人の皆さん方、本当に貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。  私は、経済学は多少は知っているつもりでありますが、司法制度というのは全く素人でありまして、一体何を聞いたらいいのかわからないぐらいのレベルなんですけれども、非常にプリミティブな質問をちょっとしたいなと思っているんです。  裁判というのが機能しないと、機能不全を起こすとどういうことになるんだろうかなということなんですが、私はかつて、ヘンリー・デンカーという人の「復讐法廷」という小説を読んでそのことを思ったんです。それは実話だったらしいんですけれどもアメリカで、自分のお嬢さんが強姦されまして、殺されちゃった。裁判に行ったんだけれども、その捜査等の手続が不備であると言うらつ腕の弁護士が出てきまして、それで結局、ほぼ犯人であることは間違いないけれども、そういう手続上のことが不備というようなことで無罪になっちゃった。おやじさんは、とてもそんなことじゃ納得できないというので、どうしたかといったら、自分でその犯人を殺しに行っちゃったんですね。  つまり、裁判というのはやはり大変重要で、それが機能しなくなるとリンチの世界に戻っちゃうんですね。裁判というのは非常に重要で、社会的あるいは経済的にもいろいろな意味での機能を果たさないと、結局、裁判所に行って何もできないんだったらもうマフィアの親分に頼むかという話になっちゃうんですね。だから、そこのところを私は、裁判というのはなるほど大事かなというふうに思っているんです。  例えば、機能不全を起こすという意味で、いろいろありますね。私はきょうお伺いして、私の思っていることもそうだなと思ったんですが、裁判というのは、余り長期化しちゃったら意味がない。裁判所に持っていって、二十年、三十年以上かかるというようなことになれば、そんなところへ行ったってしようがないという気にだれだってなるんですね。  それから、経済学の立場からいいますと、私は経済学の立場からしか物を見られないんですけれども、お金をどんどんかければいいというものじゃない。あるいは、さっき言ったみたいに、時間を幾らかけてもいいというものじゃない。経済学の世界では、お金を幾らでもかけていいんなら何でもできる、時間を幾らかけてもいいんだったら何でもできるんですね。そんなものは対象にならない。問題の解決処理というのは、やはりどれだけお金をかけないで、どれだけ時間をかけないでうまい処理ができるかということに努力しなければ、それは知恵を出したことにならないと私は思うんですね。そういう問題意識ぐらいしか持っていないんですけれども。  そこでまず、余り時間もないので一つ二つしか聞けないと思いますが、やはり裁判というのは余り長くし過ぎちゃいけないんだろうと思うんです。どうしたら裁判は短くできるのか。しかし、これは委員の皆さん方の中でも御指摘があったように、急ぐようにやれば中身は何でもいいというわけにもいかないんですね。実に難しい。中身を満足できるレベルにしないといかぬ。最低限のレベルというのはあるでしょうね。それ以上で、しかし最短の期間でやらなきゃいかぬ。私は今、この裁判制度の改革というのは、経済学で言うとミニマックス理論の課題かなと思うんです。  そこで、逢見先生、幸田先生と高橋先生、松永先生のお二方ずつで立場がちょっと違うような感じがしたんですが、逢見先生と幸田先生はまさに法曹界の外から物を見ておられて、そして高橋先生、松永先生はどっちかというと法曹界の立場から開陳されたように思うんです。  逢見先生、幸田先生は、例えば裁判長期化しないためには、むしろ裁判外の役割を大きくすべきだというような御指摘をされたように思いますし、高橋先生は、それは陪審制度をやれば、市民参加するんだから長くできないよと、そんなものかなと私もちょっとさっき思ったんです。松永先生の場合には、裁判官は短くしろと大変なプレッシャーに遭っていて、なかなか実体がないということですが、大変恐縮ですけれども、どうしたらレベルを余り下げないで短くできるかということについての御意見をお一人ずつ、一言ずつで大変難しい注文ですが、伺えればと思います。
  13. 逢見直人

    逢見参考人 一言ずつということでございますので簡単に申し上げますが、私がここで申し上げたかったことは、一般の裁判では、当然慎重に判断しなきゃいけない事件も多いと思います。しかし、労働事件に関して言えば、例えば解雇をめぐる争いが起きたときに、それが長期化して十年もかかってしまって、後でその労働者が勝訴しても、そのときにはもう定年になっているということでは事件解決にならないわけですね。そういう問題については迅速に、スピーディーに解決する仕組みを、欧州労働裁判所のようなものを参考にしてぜひつくってほしいということで、長期化になじまない事件については、ぜひそれをスピーディーに審理する仕組みをつくってほしいということでございます。
  14. 幸田全弘

    幸田参考人 端的に申し上げまして、システム的には、例えばアメリカ、イギリス等のような知的財産に関します専門裁判所設置が望まれるのではないかということが一点。  それから、人的には、知的財産権に関しましては技術的な判断を伴いますので、技術に習熟した専門裁判官、あるいは訴訟に関与する代理人等にはそういう知識が求められるというふうに考えております。
  15. 高橋融

    高橋(融)参考人 長い裁判裁判じゃないというぐらいでありますから、私どももそれを常に考えているわけでありますけれども、一つの解が陪審であることは事実であります。しかし、それでも証拠整理や何かがありますから、実際には長くかかることがあるようであります。  私どもが見ていて、証拠の問題が一番裁判が長くかかる原因ですね。証拠を十分に持っていない、相手がそれを持っている、あるいはどこかにあるのはわかっているんだけれども、それを出してもらえない、私は実務家として見て、ここのところが裁判が長引いている一つの要素だと思います。これをどうするか。ディスカバリーというようなアメリカの制度がありますけれども、これにもこれで問題がありますが、検討すべき問題だと思います。
  16. 松永憲生

    松永参考人 僕は外から取材するという立場で接してきましたので、基本的には外からですが、素人なんですが、素人の乱暴な意見として申し上げさせていただくと、ある意味、迅速な裁判は簡単です。それは、先ほど出た陪審制ですね。ところが、自民党案でも陪審制は検討に値すると言っていますけれども、実は、今の日本の刑事裁判の中にそれをすんなり持ってくるわけにはいかない理由の一つは、当事者主義が崩壊しているからなんです。  例えば、検察は、捜査機関は大量の人員と経費を使って証拠を段ボールにいっぱい詰めて持ってくる。独占し、起訴しますね。ところが、弁護側は起訴状を読んでから弁護が始まる。ですから、一方はゴール、一方はスタート。ゴールとスタートの鐘を同時に打ち鳴らす法廷裁判が始まるのが日本裁判の実態なんです。  では、それをどうしたらいいのかということになると、一部高橋先生から意見が出ていますけれども、起訴前保釈制度、起訴前証拠開示制度、それから取り調べに弁護人の立ち会い権を認める、それから取り調べをビデオに記録する、それから検察官の上訴権を制限する、それから国際人権規約や拷問禁止条約を批准、承認して国内法としての効力を持たせて、それに沿って裁判制度の法を整備して裁判を行うようにすれば、つまり、証拠をどう評価するか。証拠が不十分であれば素直に無罪でいいわけですから、素直な目で証拠がどうなのかということを素人の国民に見てもらって判断する。  そういう意味で、陪審制というものと人権擁護の法整備をきちんとするというふうなことを前提に考えれば、それほど困難なことではないと思います。
  17. 山本幸三

    山本(幸)委員 どうもありがとうございました。
  18. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 北村哲男君。
  19. 北村哲男

    北村(哲)委員 民主党の北村でございます。  本日は、各参考人方々、どうも御苦労さまでした。きょうは、専門家はお一人ということで、あとは周辺の方々ということでございますけれども、順次お聞きしていきたいと思いますが、まず最初に逢見参考人に対して御質問を幾つかしたいと思います。  まず、逢見参考人日本労働組合連合会政策委員ということでお見えになっておりますけれども、この日本労働組合連合会という団体はどういう団体なんでしょうか。設立目的組織人員、組織の性格あるいは他のナショナルセンターとの違い。例えば、高橋先生のところから出された資料で、人選について、たしか、連合だけではなく全労連のように云々という、それも入れていただきたいという御意見もあるようですけれども、そういうこととの違いを簡単に述べて、どういう立場を代表してお見えになったかを御説明願いたいと思います。
  20. 逢見直人

    逢見参考人 連合が設立されましたのは一九八九年でございますが、その前に総評、同盟、中立労連、新産別という労働団体がございましたけれども、この四団体を統一する形で一九八七年にまず民間連合が発足し、その後官公労部門が加わって、八九年に結成されました。  連合労働組合主義を基調としておりまして、よそからの支配、介入を受けない独立した労働団体として、労働条件維持向上を主たる目的にして設立しております。一九九八年時点で、約七百五十万人の組合員を擁しております。  私どもは、他のナショナルセンターと違うところは、いわゆる階級闘争主義に立つのではなくて、市場経済を前提として、しかし全くのマーケット原理あるいは弱肉強食でいくのではなくて、その中に社会の連帯とかあるいは社会の公正を保つ、そういうことを求めていくことを主たる任務としております。  なお、七百五十八万という数字ですが、これはそのほかの団体に比べまして圧倒的な多数を持っておりますので、いわば我が国労働界において主たるものと考えてよろしいと思います。
  21. 北村哲男

    北村(哲)委員 続けて逢見参考人にお伺いしますが、逢見参考人は先ほどの御意見の中で、冒頭、基本的な考え方という中で、司法制度全般について国民各層参加を得て司法改革を行っていただきたいというふうに言われました。  現在、この審議設置については審議中でございますけれども、おおよそ十三人ぐらいがメンバーとして予定をされておるのですけれども参考人のおっしゃる各層とはどういう層をいい、どういう層からの代表が望ましいというふうにお考えになっているんでしょうか。  と申しますのも、私どもが旧来考えている層といってもいろいろと、確かに労働界あるいは消費者団体とかいろいろあるんですけれども、今の時代は当時と違っていろいろと、例えば働く者でもフリーターという方がたくさんおられたり、あるいは消費者といっても、考えたら経営者から子供まで全部消費者であったり、どういうふうな分け方で考えればいいかという、大まかでもいいですけれども、一応どういうふうに各層というのは考えておられるんだろうか、それをまず聞きたいと思います。
  22. 逢見直人

    逢見参考人 十三人という委員の数が本当に適当なのかどうか私にはわかりませんが、既に十三人ということが出ておりますので、それを前提にして申し上げれば、まずそこからは法曹関係三者は除くべきだというふうに思っております。  今回の司法制度改革は、いわば法曹関係者はまないたのコイになるべきであって、そのコイがみずから包丁の研ぎ方を指揮するということがあってはならないと思います。あくまでも、司法の影響を受ける側、いわば一般市民の側がこの審議会に加わって、あるべき司法の姿はどうなのかということを検討すべきだ。  その中には、確かに今、国民にはいろいろな層がございます。それをどのように分けるかということには大変知恵を絞らなければいけないと思いますが、国民の中の八割は勤労サラリーマンなんですね。ですから、国民の中の圧倒的多数である勤労者市民ということを当然その十三人の枠の中に重視していただきたいというふうに私は思っております。
  23. 北村哲男

    北村(哲)委員 ただいまの中で、法曹三者を除くべきというお話がありました。これは、私はほかの参考人方々にそれぞれお聞きしたいかなり重要な論点でもあるわけですから、それはそれとしてお聞きしておきます。  ただいまおっしゃった、八割が勤労者である、これは当然のことなんですが、その中の勤労者を代表する者として、参考人連合を位置づけておられるかどうか。それはどういう立場、どういう位置づけあるいは理由、今ほとんど言われたと思うのですけれども、きょうは連合代表としてお見えになっていますけれども連合という組織としてこの十三人の中には当然入るべきとお考えなのかどうか、その点について御質問したいと思います。
  24. 逢見直人

    逢見参考人 連合は、単に組織されている連合のメンバーだけのことを考えて代表しているわけではなくて、未組織におられる、労働組合組織されていない労働者のことについても、政策、制度面や最低賃金制度あるいはさまざまな労働相談などを通じまして、そうした人たちの声も取り上げるようにしております。そういう意味では、勤労者の代表として、ぜひ連合もこの審議会の一員として加われるように私は要望しておきたいと思います。
  25. 北村哲男

    北村(哲)委員 ただいまこの場では司法制度改革審議会設置法が審議されているわけです。確かに、現在の社会規制緩和自己責任社会という方向に向かっておることはだれもが認めるところでありますが、その競争社会に適合できない社会的弱者がそれによって生み出される、そういう社会的弱者に対するセーフティーネット整備という観点からの御指摘、これは私はごもっともと考えます。  参考人が多く扱われる企業倒産あるいは解雇ということは、いわば自己責任の範疇を超えた問題でもあると思います。解雇制限あるいは賃金退職金の確保など労働者の生活の最低限の保障という意味において、現在の司法は有効に機能しているとお考えかどうか、その点についてのお考えをお聞きしたいと思います。
  26. 逢見直人

    逢見参考人 セーフティーネットとしての整備というのは、例えば労働基準法などの労働法制を整備していくとか、いろいろな形のものが考えられます。それから、企業倒産法制についても、今抜本的な見直しが行われております。  それはそれで、私はそういう場での意見は申し上げたいと思うのですが、この司法制度ということに関して言えば、せっかくそういうものがあっても、例えば企業倒産においては労働債権先取特権として認められている。しかし、それをいざ行使しようとすると、例えば地方で、中小企業で、経営者が夜逃げをしてしまったというときに、何とかそこに残された者だけで自分たちの賃金を取りたいといっても、それを差し押さえしようと思っても頼むべき弁護士が地方の郡部にはいないということがあって、せっかくそれを行使しようとしても、そのインフラが整備されていないという問題があります。  こうした点について、せっかく権利として持っているものが正当に行使できる体制を司法のインフラとしてつくっていただきたいということをぜひ求めたいと思います。
  27. 北村哲男

    北村(哲)委員 ただいまのインフラ整備は当然のこと、これは私ども国会の責任でもあると思うのですけれども、今考えられる司法改革という点ですが、問題はどういう方向で改革するかという点が重要だと私は考えるわけです。  使い勝手のよい司法、迅速な紛争処理、いわゆる紛争解決機能の充実ということはもちろん必要なんです。しかし、先ほど述べましたように、自由経済あるいは規制緩和自己責任ルール等の外にある社会的弱者とか、それから不幸にして落ちこぼれた敗者、あるいはもともとそういう社会には無関係な経済的、社会的劣位に置かれている人たちの権利救済とか、最終的には個人の尊厳とか人権の保障が的確、公正かつ迅速に行われるためにはどういうふうにすればいいんだという視点がどうしてもこの司法改革には必要だというふうに私は考えるのです。  もちろん、連合目的にも、個々の参加する労働者の人権の保障機能ということはとても大事にしておられると思うのですけれども、この司法の最大目的というのをいかに実現されるかという視点、こういう方向での司法改革というふうに私自身は考えておるのですが、逢見参考人はそのあたりについてはどういうふうにお考えでしょうか。
  28. 逢見直人

    逢見参考人 私も、ある相談を受けて、これは職場で差別を受けたということで女性の方が相談に見えて、弁護士に一緒についていって、その弁護士さんにこのことで裁判ができるでしょうかということを申し上げたんですが、司法の世界というのは、まず弁護士さんが、それは損害賠償金額にしてどのくらいになるのかということを聞くわけですね。その金額が三十万以下だと、これは裁判をやってもむだですよということを言われてしまう。  しかし、その人にとっては金額の多寡が問題なのではなくて、自分が職場で不当に差別されていることを何とかしてちゃんと直してほしいということを切実に訴えているわけです。ところが、そういうものが、今の司法の中で、それを受け入れてそして紛争解決するという仕組みになっていない。  やはり司法というのは、金額の多寡だけじゃなくて、その人が持っている権利あるいは自分が訴えたいということを普通の言葉で相談に行って、そしてそのことを第三者的に判断して、間違っているのであれば、このことをちゃんと相手方に直させるということが必要なんだろうと思います。それが私が言いたい社会的なセーフティーネットということでありまして、これを泣き寝入りさせてしまって問題を表面化させないということでは、社会のフラストといいますか、そういうところがどんどんたまっていってしまうのではないか。そういうものが解決できる仕組みをこの司法制度改革の中で求めていきたいと思います。
  29. 北村哲男

    北村(哲)委員 最後にもう一点だけ、逢見参考人がお述べになった中で、労働事件権利紛争利益紛争の両面を持ったものが多く、民事調停などではその機能が制限されておりますというお言葉、覚えておられますか。民事調停などでは機能が制限されておりますというふうにおっしゃったのは、どういうところでお感じになっているのか、一点お聞きしたいと思います。
  30. 逢見直人

    逢見参考人 紛争処理の仕組みとして民事調停制度もあるということで、我々も民事調停制度を労働紛争処理として使えないものだろうかということを検討してみたわけです。労働事件というのは、例えば、解雇された、これが不当だ、そのことをもとに戻してほしいというようなものもあれば、賃金の評価システムの中で、自分はちゃんと正当に評価されるはずなのに、しかし会社の方はちゃんと評価してくれないという問題、これは利益紛争に当たるわけですけれども民事調停調停委員というのは、そもそも労働問題に余り精通している人がいない。ですから、そういう事件を持ち込んでもきちんと解決してもらえるということになっていないということ。  それから、権利紛争について、民事調停制度できちんとした判断を下して相手側に是正を求めるということができないというのがあります。そういう意味では、やはり民事調停制度では限界があるというふうに思っております。
  31. 北村哲男

    北村(哲)委員 逢見参考人、どうもありがとうございました。  幸田参考人にお伺いしたいのですけれども、先ほど、問題点として、この審議会には法曹三者は入れるべきでないという話がありました。確かに、役人に行政改革を求めてもだめだとか、医者に自分で自分の体は手術してもできっこないというふうな話がありますけれども、そういう面はあるかもしれませんが、司法そのものをどういうふうに改革していこうかというときに、法曹三者は入れるべきであるかどうかということについては、御感想で結構ですけれども、いかがでしょうか。
  32. 幸田全弘

    幸田参考人 難しい質問をされますので、私の立場から申し上げれば、知的財産という点から申し上げれば、知的財産がこれからの経営資源であるということを考えますと、知的財産に精通されております産業経済界の代表の方が入られることが望ましいというふうに考えております。
  33. 北村哲男

    北村(哲)委員 先ほど、たしか弁理士会の御意見はまた、確かに法律分野でも一番先進的な部分だと思うんですけれども、その意見は十分に聞いていただきたいという御意見はいただきました。  アメリカの例、外国の例で、今、日本裁判所特許訴訟等が機能していない、現実に空洞化していると言われておりますけれども参考人のそういうお話。それから、新聞にも出ておりましたね、遅過ぎる裁判日本企業アメリカで提訴する、アメリカで応訴せざるを得ないということがありました。私どもは、アメリカ裁判については、過度な訴訟社会であり、しかも過度な損害賠償、しかも訴訟費用が莫大にかかるという弊害も非常に多く聞いておるのですけれども、それを加えてもやはり今は外国の方がまだ機能している、台湾とか韓国とか、それからアメリカの方が、日本裁判よりも特許分野あるいは知的財産権分野では機能しているというふうにお考えなんですか。その辺はいかがなんでしょう。日本はそれほどだめなんですか。
  34. 幸田全弘

    幸田参考人 端的に日本アメリカとを比較しますと、まだアメリカでやられる方がいいというのが経済界の現状でございます。特に、訴訟期間が非常に短い。提訴しましてから大体一年以内で決着がつけられるという点から、いろいろな先生がおっしゃいました面を考えましても、まだメリットがあるというふうにとらえております。
  35. 北村哲男

    北村(哲)委員 ちょっと日本裁判を弁護しますと、非常に慎重で、誤判のないようにという配慮が働くわけですよね。アメリカではああいうふうにばたばたして、結果的にとんでもないことがあるという経験はないんですか。
  36. 幸田全弘

    幸田参考人 私自身経験がございませんので、わかりません。
  37. 北村哲男

    北村(哲)委員 どうも失礼しました。  それでは、高橋参考人にお伺いしたいと思いますが、まず、法曹三者の問題についてお伺いしたいと思います、この審議会のメンバー、運営ですね。参考人は先ほどは時間が足りなくてまだその辺までは踏み込まれなかったんですけれども、いかがでしょうか。
  38. 高橋融

    高橋(融)参考人 法曹三者を除けというふうに私は考えません。法曹三者の代表者を入れることはいかがかというふうに思うんです。  しかし、国会議員の先生方の中にすぐれた弁護士さんがたくさんいらっしゃるわけで、日本の良識の方はたくさんいらっしゃる。そういう方を外さなきゃいけないというふうに私は考えません。そういうふうに申し上げていいかというふうに思います。
  39. 北村哲男

    北村(哲)委員 高橋参考人は、はっきり言って、この現在の司法改革の流れは、ある意味では政府・自民党の流れ、規制緩和、自由社会、そしてその中での迅速な紛争解決という流れと、それから人権保障のとりでである裁判をどう守るか、そのための改革をどうするかという二つの流れで、後者をやはり主体にやるべきである、そのためにはずばり法曹一元と国民参加である陪審であると御指摘になりました。  私もその大筋は賛成でございますが、その中の各論的なことになりますが、今、判事補制度というのがございますね。法曹一元の実現のために、判事補制度の廃止という、判事というのは、裁判官になったら十年間は判事補としていて、それから十年たってやっと判事になるという、その判事補制度の弊害について簡単に述べていただけませんか。
  40. 高橋融

    高橋(融)参考人 判事補制度というのは、一人前でない裁判官というのを裁判所の中に置いていくということです。ということは、裁判官の中に上下をつくるということです。裁判官の独立というのは、自分たちが持っている能力でもって発言し、考え、それに責任を持つというシステムです。上下関係があるところで裁判官の独立は、私は非常に難しいと思います。これが一つです。  それからもう一つは、判事補というのは出世をしていくシステムです。判事補制度、現行行われているのは、段階を追って本当に細かい階段を上がっていくようなシステムです。これは、私は、独立、そして自分の考え方を大事にしなければならない法曹の一員としては、非常に不適当な考え方だというふうに思います。キャリアシステムというのは廃止されなければならないと考えております。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
  41. 北村哲男

    北村(哲)委員 わかりました。  もう一つ、よくこの法務委員会で問題になるんですが、裁判官の報酬というのは憲法で保障されておりますよね、八十条で。ところが、実際は裁判官の報酬は公務員と一緒なんです。ほとんど一緒で、並んでいく。ということについて、裁判官の独立、それから法曹一元という観点からどのようなお考えをお持ちですか。
  42. 高橋融

    高橋(融)参考人 法曹一元の裁判官となりますれば、私はかなり高い報酬を差し上げなければならないというふうに思います。現在でも裁判官の報酬というのは決して私は低いとは思っておりません。高裁の裁判長クラスになりますと次官と同じぐらいの報酬だとお聞きしますので、私はそう考えております。それを一番下の判事補のところからずっと上がっていく、これが私はいけないんだというふうに考えております。
  43. 北村哲男

    北村(哲)委員 それでは、もう時間も終わりですから、松永参考人に一言お聞きしたいと思います。  いろいろと裁判官の内容等をお調べになって、私どもも知らないようなこともお聞きすることができました。率直に言って、法曹という言葉があります。これは通常、検察官、裁判官弁護士、三つのことを指すんです。私は、おっしゃったように、既に弁理士さんなんかも法曹の中の相当の部分だと思うんですけれども、通常はそういうふうに言って一つの世界を指しているんですが、そういう職業的な階層について率直な感想はいかがお持ちですか。
  44. 松永憲生

    松永参考人 質問の趣旨を言ってください。
  45. 北村哲男

    北村(哲)委員 司法改革といいますと、司法なんですが、司法に携わっている人間は、今、法曹という、法律家という、それは裁判官と検事と弁護士を普通は指すんですが、そういうふうな一つの階層といいますか、一つの固まりについてどういう印象をお持ちか。それから、何から手をつければということになるんですけれども
  46. 松永憲生

    松永参考人 失礼しました。閉鎖的だと思います。特に裁判官が閉鎖的ですね。  ですから、市民的自由の問題も問題ですし、それから、寺西裁判官の問題も、たったあれだけのことが大騒動になって、分限裁判になってしまう。だから、寺西裁判官の存在が問題なのではなくて、寺西裁判官が、私の立場では発言できませんと発言したことで分限裁判にかけられるというくらい閉鎖的、これは妥当な言葉ではないのですが、いわゆるハト派と言われる裁判官もタカ派と言われる裁判官も中間派もいずれも認め、かつ、弊害だと言っていました。
  47. 北村哲男

    北村(哲)委員 どうもありがとうございました。  時間も参りましたので、失礼します。
  48. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、上田勇君。
  49. 上田勇

    上田(勇)委員 公明党・改革クラブの上田勇でございます。  きょうは、四人の先生方には大変貴重な御意見を承りまして、ありがとうございました。限られた時間でもございますので、順次御質問をさせていただきます。  まず、逢見参考人にお伺いをさせていただきます。  御意見で、基本的には司法改革の必要性というのはお認めになられているということで承りました。  そこで、今回この司法制度改革審議会を設立するに当たりまして、いろいろな意見がございます。そのうちの一つに、この審議会を内閣に置くというのが、これは立法、行政司法、そういう意味での三権のそれぞれの立場、三権分立の原則から見たときに、行政のもとでそういう司法改革を進めるということについていろいろと懸念を示される御意見もありますけれども、そのあたりについて、逢見参考人は、あるいは連合の皆さん、どういうようなお考えなのかお聞かせいただければというふうに思います。
  50. 逢見直人

    逢見参考人 この司法改革を内閣の設置する審議会の中でやるということについて、連合としてという見解を求められましたけれども、まだ連合としてそのことについてきちんとした見解を出しているわけではありませんが、では、司法改革司法みずからの中でできるんだろうか。長いことその必要性が叫ばれておりながら、なかなかその改革が進んでこなかったということからいえば、司法の外にいて、そして司法を外から見ている人間が意見を出して、こういう改革をすべきだという考え方をまとめていく、それを立法府の中で議論して制度改革を進めていく、これはある意味では今必要なことなのではないかなと思います。  法的な問題は私はよくわかりませんけれども、しかし、こういう形で司法改革に手がつけられるということについては、その趣旨は基本的には賛同したいと思っております。
  51. 上田勇

    上田(勇)委員 ありがとうございます。  もう一つ、逢見参考人にお伺いをいたしますが、先ほど、勤労者の立場からの御意見ということで、労働問題、労働事件についてのお話をいただきました。もちろん、これは限られた時間での御説明だったのですが、勤労者、生活者という立場に立ったときにこの労働問題というのは非常に重要なんですが、同時に、民事の件についても、勤労者の立場で非常に重要な問題がたくさんあるのではないか。これは職場の問題もございますし、同時に、働く者としても、それぞれ個人的にいろいろな民事の問題がございます。  ただ、私もいろいろ地元の方などにお伺いすると、この民事事件、非常にいろいろな問題に遭遇するのだけれども、実際には司法的な手段に訴えることについてはなかなかちゅうちょする、あるいは難しいというような面もやはり現実にはあるのです。それについては、実際、日本社会通念上、裁判ざたにする、司法に訴えるといったことについて余りなじまないというような、文化的というのでしょうか、そういうようなところもありますし、同時に、なかなか司法へのアクセスが難しいというような点もあるんじゃないかと思います。  これは、今、法曹人口の問題であるとか、あるいは、民事裁判を起こした場合にその費用に対する法律扶助制度などの制度が余り整備されていないなどと、各界からいろいろな提言もなされているのですが、その辺、労働者、勤労者の立場として、日本の民事事件にかかわる司法制度について、何か御意見があれば、お伺いをしたいというふうに思います。
  52. 逢見直人

    逢見参考人 私どもはゼンセン同盟という団体におりますけれども、そこで組合員の人たちにいろいろな生活相談の場をつくっておりまして、フリーダイヤルで、労働問題に限らずあらゆる生活にかかわる問題で悩み事があったら相談してくださいということを五年ほど前からやっております。そこで、いろいろな相談が出てきております。例えば、自分の子供がキャッチセールスのようなもので高いものを買わされたのだけれども、それをもとに戻したいのだけれども、どうしたらいいだろうか。あるいは、買った商品が何か欠陥があったんじゃないかというようなことで相談されることもあります。  消費者契約とかという法制の整備がおくれていることもあって、そういった点でのいろいろなルールをつくっていかなければいけないと思いますが、そうしたものができても、それを権利として行使するということが、今の司法制度のもとではどうしても、裁判所はとても怖いところで、行ってもこんなちっぽけな事件なんかだれも相手にしてくれないのじゃないか、普通の市民はそう思ってしまうわけですね。これからやはりいろいろなトラブルというのは発生する、発生することを前提にして、それをスピーディーに、かつ低額な費用解決していくということをつくっていかないと、幾ら消費者契約を法制化する、あるいはPL法をつくったといっても、そのことで消費者の権利が擁護されることにならないと思うのですね。  そういう意味で、司法制度の中に、そういうルールをつくっただけではなくて、そのルールに基づいて判断するという機能をぜひ強化すべきだ。そのことは、労働だけではなくて、民事の面でも市民社会を円滑に進めていくものになるというふうに思っております。
  53. 上田勇

    上田(勇)委員 ありがとうございました。  それでは次に、幸田参考人にお伺いをいたします。  いろいろ貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。私も、知的財産の重要性、あるいはそれを保護するための法制度やシステムの重要性についての御意見には全く賛同するものでございます。  同時に、御意見の中で、今特許裁判が空洞化しているということも非常に残念に感じました。これに対して、弁理士会さんの方からさまざまな御提言も伺っているところでございますし、きょうの資料にも入っておりますが、先日も新聞報道等でも報じられて、大変懸念を持っているものでございます。また、きょうは、弁理士会として、工業所有権仲裁センターの設立等について、これまでの取り組みについても御説明をいただきまして、大変参考になった次第です。  御提案の中で、今審議されている司法制度改革審議会において、知的財産分野における司法制度あり方についてぜひ検討してほしいということが結論だったというふうに伺いますが、そこでちょっと二点ほど伺いたいんです。  まず第一に、今審議しております司法制度改革審議会において、知的財産分野における司法制度あり方、これを十分審議する、あるいはそれについての方向性を打ち出すという意味において、これを可能にするための委員の人選であるとか、あるいは審議会の進め方において、各界から意見をどのような形で聴取すべきなのか、そういった点について何か御提言があれば伺いたいということが一点。  もう一点は、実はこの審議会は二年かかります。審議会の結論自体もどういう形になるかというのはよくまだわかりませんし、すぐそれが制度改正や予算措置を伴うものになるかどうかということを考えますと、実際にそういう制度改革なりシステム改革されていくのにはもうちょっと時間がかかるんだろうというふうに思います。先ほどのお話を伺っておりますと、特許権、知的財産権特許裁判についての話は物すごい緊急なことのようにお伺いをいたしましたけれども、二年以上になりますし、本当に待てるのか。また、その間にどういうようなことをするべきなのか。その辺御提言がありましたら、あわせてお伺いさせていただければというふうに思います。
  54. 幸田全弘

    幸田参考人 先生の御質問の第一点の委員の件でございますが、先ほど申し上げましたように、我々としますれば、知的財産を常時経営資源として取り扱っておられる産業経済界の代表の方、もう一つ欲を言えば、知的財産権に精通する法律専門家の参画が好ましいというふうに考えております。  二点目の期間の点でございますが、特に半導体等ライフサイクルの短いものにつきましては、早急な手当てを打たない限り結局何の成果もないということでございますので、できますれば、特にそういうものの技術的な判断法律的な判断のできる専門家が訴訟に関与できるような形が望ましいというふうに考えております。
  55. 上田勇

    上田(勇)委員 ちょっと時間が残り少なくなってまいりまして恐縮でございますが、高橋先生に一つお伺いしたいんです。  冒頭、逢見参考人の方にもお伺いしたことでございますが、この審議会を行政府の中に置くということについて、三権分立の原則からいろいろな御意見がございます。それについて、内閣に置くということが、行政優位のもとで司法改革が進められるのではないかというような懸念というんでしょうか、御意見もあるんですが、それについてもしお考えがあれば拝聴させていただければというふうに思います。
  56. 高橋融

    高橋(融)参考人 本来なら、この問題は最高裁判所ができれば一番いいというふうに私は考えます。しかし、現在の司法の実情を見ますと、それができません。  なぜかと申しますと、私は、最高裁判所に向けて、あるいは裁判所に向けて人材が集まってくるようにできていない、法曹一元になっていないからだというふうに考えております。大体、最高裁を尊敬するというふうになっていないんです、今の日本の中では。だから、私はやむを得ないことだというふうに考えております。  もう一つ、では国会に置くかという問題もありますけれども、これは一つの方法であるとは思います。最高裁に置くよりはいいというふうに思います。
  57. 上田勇

    上田(勇)委員 時間でございますのでこれで終わりますが、実はきょう、そのほか陪審制、参審制についていろいろな御意見もありましたので、その辺についても御意見を伺えればというふうに思ったんですが、残念ながら時間が終わりましたので、これで終わらせていただきます。  ありがとうございました。
  58. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、達増拓也君。
  59. 達増拓也

    達増委員 まず最初に、松永参考人に質問をいたします。  そもそも司法制度改革というときに、私は外務省に勤めていたことがありまして、それで外務省派遣の留学で、アメリカで、アメリカの外交体制の改革の研究をしたことがありましたし、また日本に戻ってきてから、大臣官房総務課で、日本の外交機能強化という外交に関する制度改革、そういうものを仕事でやったこともあるんです。  そうした経験から、一つ、改革の成功に至る原則というのは、まずトップが明確な意欲、問題意識を持つこと。また、構成メンバーが、こういう今の現状じゃきちっとした仕事をやっていられない、よりよく仕事を達成するにはああした方がいい、こうした方がいいという問題意識や意欲を持つこと。そして、そういうトップの意欲とメンバーの意欲がうまく同じ方向に向かい、トップと構成メンバーが理解しながら一つの方向に向かって改革を進めていく。そうすれば改革というのは大体うまくいくと思っているんですけれども司法制度改革については、三権にまたがる話なので、まずだれがトップかということがはっきりしない。  また、個々の裁判所改革とか弁護士改革のようなことについて言えば、若干代表のような人はいるけれども、例えば裁判所の場合、裁判官の独立ということがあって、官僚機構ほど、トップとその下、指揮命令の系統がそれほど明確じゃない。また、弁護士の世界は、基本的には弁護士自治ですから、そもそもトップとかいう話でもない。したがって、百家争鳴するけれども、実際の改革をするというときになかなか物が動かない、事態が改善しない、そういう構造があるのかなと思うんです。  そういう観点から、裁判所改革について、いろいろ裁判官の実態とかお話しされましたけれども、トップの意欲、メンバーの意欲、そして、明確な指揮命令系統は弱いにせよ、一応チームとして、組織として全体のつながりがあるわけですから、そのトップの意欲とメンバーの意欲が同じ方向を向くような契機、そういうところが現状どうなっているのか、お話しいただければと思います。
  60. 松永憲生

    松永参考人 裁判所の、特に最高裁の考え方の基本には、迅速な裁判の実現があります。憲法は国民裁判を受ける権利と迅速な裁判を受ける権利というのを明記していますから、あくまでも迅速な裁判というのは国民の、裁判を受ける側なんですが、しかし、言うならば実態としては裁判官のための迅速、こういう嫌いがあると思います。  時間もないでしょうから、ごく簡単に説明しますと、例えば民事裁判では、途中で裁判官が、双方の主張が出そろったところで和解提案を出します。なぜ和解をするかというと、裁判官にとっては判決を書くよりも和解してもらった方が負担が軽くなる、だから和解を強要する。そして、和解をのんでくれた弁護士に向かって、思わず裁判官がありがとうございましたと言った実例があるんですね。何も裁判官がお礼する根拠はないんですけれども。  ですから、裁判所のトップの意思というのは迅速な裁判。それを迅速にやれと言われても、慎重な審理もなおざりにできないのでおくれる。おくれると差別人事もある。こういうような実態で、弊害が出ていると思います。
  61. 達増拓也

    達増委員 今回、内閣のもとに審議会をつくって制度改革を議論しようということなんですけれども、本来、改革というのは、内からの改革ということで絶えざる改革が行われ、常にうまくいっているにこしたことはなく、外から言われての改革というのは、実はその組織なりシステムとしては大変恥ずかしいことなのかなとも思うわけです。そういう内からの改革ができないのは、官僚組織などになれた者からすると異常な感じがするんですが、他方、司法制度というのはそもそも自己改革できないシステムになっているというところもあるのかな。  というのは、例えば裁判所にせよ、裁判所法という法律、これは国会がつくるわけで、その枠組みで、その中で極めてタコつぼ的に特化して、与えられた枠の中でとにかくやっていこうというふうになっているのかな。また、弁護士についても、弁護士法という枠のもとで自由自在にやるけれども、その枠自体について大きく変えるとかということを、それに専念するとふだんの仕事にならないような、そういうところがあるのかなと思うわけであります。  高橋参考人に伺いますけれども、今問われているのはそういう枠を変えていく話なので、その枠の中で働いている人たちよりも、むしろ枠の外から話を聞かなきゃならないという状況になっているのかなと思うんです。具体的に、きょう逢見参考人幸田参考人から、私が興味深いと思ったのは、特別裁判所といいますか労使紛争に関する特別のシステム、できれば裁判所が欲しいのではないか。また、工業所有権等について、既にセンターができていますけれども特許裁判所のようなものにならないか。その点について、弁護士側から見ていかがでしょう。
  62. 高橋融

    高橋(融)参考人 外からの自己改革ができないシステムというふうに言われて、これは私どもとしては非常に残念なことでありますけれども日本のというふうにつけた方がいいと思います。というのは、これは日本の特有な状況だということです。  というのは、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、法曹三者が一つの方にまとまっていくとすれば、最高裁にまとまっていくことになるわけです。最高裁に向けて、人事や何かでいろいろな問題がありますけれども、一番しっかりした法曹が最高裁のトップになるというシステムができ上がっていれば、私はこれは尊敬に値する最高裁になってくると思います。  ところが、先日の寺西裁判官事件なんかを見ますと、私どもはとてもそんなふうには見られない。要するに、構成によって、最高裁の裁判官が官僚から出てきたかあるいは民間から出てきたかによって、これは十対五になっておりますから、そのまま十対五の結果が出てきてしまう。なぜ十対五なんだということがはっきりしないと、何が正しいのかがわからなくなってくる。これではだめだというふうに思います。私は、それを今回何とかしていただきたいというふうに思って、私どももしていきたいというふうに考えております。  それから、特別裁判所のことでありますけれども、特別裁判所ということは、憲法では最高裁の枠の外の裁判所は否定しているわけです。これはつくってはならない。しかし、特別の分野についての裁判所が最高裁の枠の中にあるものについては、それは時の状況によって、必要によってつくったらいい。私は、労働関係についての裁判所はぜひ必要だと思いますし、これはやはり特別な分野だと思います。また、知的財産権分野についても、必要であればそういう人たち、特別な裁判所が要るかどうかはわかりませんけれども、特別な分野専門的に扱う裁判官があっても少しもおかしくはないというふうに思っております。
  63. 達増拓也

    達増委員 では、時間ですので、私の質問はこれで終わります。  ありがとうございました。
  64. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、木島日出夫君。
  65. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。  四人の参考人の皆さん、ありがとうございます。  四人の皆さんとも、現在の日本司法には問題がある、改革が必要だという点では共通しているかと思うんですが、重点の置きどころの違いといいますか、刑事裁判を中心的に見て、人権擁護の府になっていないというところを重点的に見る考えやら、民事裁判を中心に見て、紛争解決機能としての役割が弱いんではないかという、それぞれの立場からの御意見だったと思うんです。  司法というのは三分野あるんですね、刑事裁判、民事裁判行政裁判と。それぞれ基本的に性質が違う。刑事裁判は被告人の人権と国家権力とがぶつかり合っておりますし、行政裁判というのは行政国民との対決するところでありますし、一般民事裁判というのは対等平等の市民同士の争いですが、中には労働事件のように大企業労働者とか、交通事件のように全く対等平等の市民同士の争いとか、いろいろ性格の違う争いが全部司法に持ち込まれる。そういうところが日本司法だと思うんで、それ全体を見直す必要があると私も思っているわけであります。  今までの話の流れの中で、そういう改革の必要性のある原因として、やはりこれまで日本がとってきた小さい司法の政策じゃだめなんだという点は共通しているんじゃないか。それと、日本に特有かどうか、最高裁を頂点とする司法官僚統制ですね。これは、異常な司法官僚統制はやはり問題じゃないかという点では共通しているかと思うんです。  そこで、四人の参考人に、私は審議会がどうあるべきかに絞って聞きたいと思うんです。  そういういろいろな立場によって、司法の問題点がどこが中心かの重点の置きどころが違うだけに、私は、つくられるとしたら審議会が何を重点的に審議するか、それから、どういう順位づけで二年間という、これも別に国会は拘束されるわけじゃないんで、もっと長くやってもいいわけで、国会が決めることでありますが、それでも限りがあるわけですから、一定の期間内に今の司法のどの分野が一番重要で改革が求められるか、次は何か、三番目は何かという重要性の順位づけというのは非常に大事だと思うんですね。  そうしますと、この法案審議項目が白紙委任なんですよ。何を審議すべきか、何をどういう順序で審議すべきかは白紙なんだ。選ばれた十三人の審議委員が話し合って決めたらいいんだという、白紙委任だというんで、私、これが問題じゃないかと思っているんです。ですから、審議項目ですね。それと審議項目の序列。そして、そういう論議をする委員の構成と人選、これが非常に重要、決定的だと思うわけです。そして、大事なのは、審議会の運営のあり方、公開とか国民の声を聞くとかいろいろ以下言われているんですが、そういう問題意識があります。  先ほどの四人の参考人のお話を聞いていましたが、高橋参考人の方が時間がなくて審議会のあり方についてほとんどしゃべれていないということなんで、まず高橋さん、それから逢見さん、幸田さん、松永さんと、そういう審議会の審議項目の重点、序列、それから委員について、それから運営について時間の許す限りお述べいただきたいと思います。
  66. 高橋融

    高橋(融)参考人 審議会の進め方についてでありますけれども、白紙委任というのはちょっと無責任ではないかと私どもも思っておりました。  そこで、一番先に何をやるべきかということでありますけれども、私は、現在の司法の問題点は何なのかということをきちっと出して、これを国民に中間的に発表するというようなことではないだろうか。それでもって議論を起こしていく必要があるというふうに思います。  二番目には、そうかといって出されたものを全部やるわけにいかないので、何が重点なのかということをはっきりなさることだと思います。  私どもは、その重点というのは、国民主権の実現のために法曹一元と陪審をやることだ。それからもう一つは、経済的な措置をとって法律扶助とか被疑者国選とかいうことを進めることだ。四つ目に、法曹人口もふやさなきゃならぬ、こういうふうに言っているわけですけれども、これをきちっとおやりになることだろうというふうに私は思います。それぞれ、問題多岐にわたっておりますので、審議の時間は必要だと思います。私は、その基本ができた後で個別の問題にかかるべきだというふうに思います。  もちろん、急ぐべき問題というのはあります。例えば法律扶助についてはすぐにでもできる、ほとんど御意見の違いがないように聞いておりますので、こういうことは先に進めていただきたいというふうに思います。これは国会でおやりになればよろしいことだというふうに思います。  次に、構成でございますけれども、私は、国民の各層から本当に広く参加されるのがいいというふうに思います。ただ、議論をするわけですから、やたらに多くても余り意味がない。それなら国会でおやりになればいいことだということになるわけで、例えば陪審ですと十二人というふうになっておりますので、十三人が精いっぱいかなというふうに考えております。  その中で、じゃ、どういうふうなところがあるかというと、国民各層の中から本当に代表するような、人口構成というのは非常に必要な考え方だと思います。人口構成によってその代表を決めていくというのは、私は、考え方として必要なんじゃないか。先ほど逢見さんは七割五分が労働者だと言われた。労働者が七割五分なら、七割五分らしい人口構成に従って、逢見さんのところが大部分かもしれないけれども、そのほかのところもあるだろうというふうに思うわけであります。  次に、専門家の必要性であります。  私は、法曹三者の代表が出るということは、必ずしも問題をはっきりさせるのに適当ではない。というのは、それぞれ縛りがかかってしまいますので、伸びやかな議論ができなくなると思います。しかし、日本の良識の中の人々が出るという形では、これは当然あってよろしいことだというふうに思います。  専門家の必要の中で、法律学者の問題があります。これは私どもも知らないことがたくさんあるわけで、これは出ていただかなきゃならぬと思うのですが、法律学については、実は御用学者というものがあります。御用学者というものはぜひ排除をしていただかないと、偏った学者というのは困るのであります。学界の中で評価の高い、実績のある、専門以外のことについても発言能力のある方を選んでいただきたいというふうに思います。  それから、審議会の事務局について一言申し上げたいと思うのですが、議題の設定や議論の取りまとめの過程で往々にして過度に力を発揮される事務局が多いようで、審議会の行方をこれが左右する力を持つことがあるように聞いております。  司法改革目的の一つに、司法司法官僚の手から主権者である国民の手に取り戻すということがあるとすれば、私は、法曹一元や陪審制の導入はそういうことだと思いますけれども、そういうことを実現しようと思うのに、今の司法官僚の方々にこの事務局を担っていただきたくないというのが強い考え方であります。もしそれを加えるならば、結果は、審議が始まる前から大きくねじ曲げられる心配があるからであります。このような事の性質上、この審議会には公務員の事務局員を置くことについては絶対に避けるべきだというふうに考えます。こういうことは異例かもしれませんけれども、私は申し上げておきたいと思います。  それから、利用者を国民というふうにするのでありますから、利用者を代表する委員の構成と離れた事務局をつくらないことが必要だと思います。  これまでの審議会の事務局の常識ですと、官僚がなるというのが常識ですけれども、代表は皆さん、事務局員ぐらい処理できる力があると思います。お忙しい方がおられれば、その秘書さんを連れてくればいいわけで、それで事務局を構成する。で、当番でもってその事務局をその委員の方も担当されたらいいでしょう。そういうやり方で、今までにないやり方で、私はこの問題を御処理いただけないだろうかというふうに考えております。
  67. 杉浦正健

    杉浦委員長 手短にひとつ。
  68. 逢見直人

    逢見参考人 では、簡単に申し上げます。  繰り返しになりますが、私は、この審議会においてはセーフティーネットとしての司法役割ということをきちんと位置づけてほしいというふうに思っております。ひょっとすると司法関係の当事者の方は余りこのことを意識されていないのではないかと思いますので、ぜひこのことを大きな柱の一つとして入れていただきたい。  それから、審議会の人選につきましては、先ほど述べたことですが、我が国は勤労者市民社会でありますから、その勤労者の代表をぜひこの十三人の中に入れていただきたいということでございます。
  69. 幸田全弘

    幸田参考人 現在の低迷しております経済を再生するためには知的財産活用が極めて重要である、まず最優先課題であるというふうに考えております。この観点から、ぜひとも審議会におかれましては知的財産関連を重点的に、まず優先して御審議願いたいというふうに考えております。  委員に関しましては、先ほどから申し上げておりますように、産業界で知的財産関係に精通される方が好ましいというふうに考えております。
  70. 松永憲生

    松永参考人 知的財産権保護とか、そういう早急に対策を講じなければならないものはたくさんあると思いますし、それは何もこの審議会を通した——委員会で対策を練ってやるというように、それ以外の方法でできることはどんどん進めていくという形でやっていただきたいということと、それからコンセプトを練り直してもらいたい。  白紙委任ではあるのですけれども、実は既に出されている案、つまり、企業活動をいかに円滑にするかという、そのための司法改革、つまり何のための司法改革なのかというコンセプトを練り直してもらいたい。治安維持のための司法改革なのか、あるいは国民主権を実のあるものに、あるいは司法権の独立を保障するために、あるいは裁判官の独立を確保するためにやるのかということですね。  そして、コンセプトが国民総意ではっきり納得できるものであれば、そのコンセプトに従って、どういう形の審議会、あるいはどういう運営をするか、あるいは委員の数も何人にするかというのは、おのずとコンセプトによって固まってくると思うのです。  今回発表された案は、多岐の項目にわたるにもかかわらず、十三人という非常に少ない人数ということから、ジャーナリスチックに推定すると、もう既に委員をだれにするかということも、これまでヒアリングした人たちの識者の中から選んで、そして二年間というかなり短い期間、要するに、構想と審議の項目が多岐にわたるにもかかわらず短いところから見ると、既にレールは決まってしまっているのではないかという懸念が少しあるのですね。  そうではなくて、コンセプトを練り直し、それをスタートとして、じゃ何が必要なのか、司法権が危ういというならば、どういうふうに危ういのか。じゃ、まず現状を調査してみようということで、いろいろな裁判官にもヒアリングする、弁護士にもヒアリングする、裁判を受けた側の人にもヒアリングするという形で進めていくのが、活力ある社会維持するための司法改革につながると思います。  単に企業だけが活力ある社会というのは、国民が活力ある、裁判官市民的自由を享受する、そういう意味で活力ある社会でない、結局、つくっても永続はしないように思います。
  71. 木島日出夫

    ○木島委員 ありがとうございます。  もう時間のようですので終わりますが、大事なことは、審議会をつくられたからお任せでそれっきりにするんじゃなくて、つくられる過程でも十分に日本司法あり方を論議する、こういうものが重要じゃないかということを各界各層から意見を集中する、そして、審議会をつくられた後でも徹底的に国民各界各層の意見をその中に入れ込んでいくという、そのフィードバックというんですか、それが非常に大事じゃないかなということを感じたことを述べまして終わらせていただきます。  どうもありがとうございました。
  72. 杉浦正健

  73. 保坂展人

    保坂委員 社会民主党の保坂展人です。きょうは御苦労さまです。  まず、松永参考人に伺いたいんですけれども、お配りいただいた「知られざる裁判官の内幕」というところにございますけれども、三号給と四号給というのはかなり落差があって、年間にすると五百万だと、これはかなり大きいですね。さらに、人事と報酬で、どこに赴任するかというシステムもやはり上の方に握られていて、裁判官は非常に萎縮しているんじゃないかという記述があります。  さらに、中の方で興味を持ったのは、訴訟推進の高等テクニックというふうな部分で、裏わざといいますか、長期にわたって解決しなかった遺産分割の事件。あるときに、これはちょっと調停やめちゃいましょうといって、即日もう一回新しく申し立ててもらって、表紙が変わって記録が変わらない、処理件数はそれでふえちゃう。二十件ばかりその手でやって、その裁判官は出世されていったなんという話が非常に例外的な話なのか、実はそういうこともかなりあるのか、そのあたりについて伺いたいと思います。
  74. 松永憲生

    松永参考人 そこで紹介した事例は極端な例で、僕の取材の範囲では一件です。  ただ、ほかに、裁判官は膨大な事件を抱えて、プレッシャーかかって、そして出世のためにも処理しなきゃいけない、そのために、ではどういうふうな審理をするかという点について言うならば、推進のテクニックといいますか、例えば民事でしたら、先ほど言ったように和解を強要する。これはかなり極端に負担が軽くなるんですね、判決書かなくてもいいわけですから。ですから、例えば裁判官が主張を聞いていて、Aさん側の方が有利だな、こっちの方が判決にいくんだったら勝たせる判決。しかし、Aさんの方が和解を拒否したとなると、やはり人間ですからかっとなる、だから、私だったらこいつを負かす、そういう場合がある。それは冗談とも本気ともとれない雰囲気で語った方もありました。冗談かもしれません。これは事件を一々チェックしたわけではありませんからわかりません。  刑事事件の場合は、証人の数を厳選するとか余りたくさんの人数を調べないとか、そういう形での状況はあるように聞いています。
  75. 保坂展人

    保坂委員 それでは、同じく松永参考人に伺いますけれども経済界が言挙げをした司法制度改革と自民党の中の議論、そして今回の法案の提出理由等々、一貫して流れているのは、自己責任原則であるとか透明なルールであるとかあるいは事後チェック型の社会へということなんですけれども規制緩和という一つの市場主義をその原理とする考え方をそのまま司法改革に当てはめていいのだろうか。この点について御意見伺いたいと思います。
  76. 松永憲生

    松永参考人 規制緩和には、緩和すべき規制とそうでない規制がある。一概に市場原理をもって規制緩和が正しいというふうには考えません。場合によっては福祉国家の理念を放棄することにもつながりかねない。  一つだけ実例を申し上げます。  建設省が今回の国会に出している法案があります。これは欠陥住宅に関連して出されたものですが、住宅の品質確保の促進等に関する法律案、これが今、国会で審議されようとしています。この中に、欠陥住宅の被害に遭った消費者とメーカーのトラブルが発生したときに、消費者としてはそれが欠陥であることを証明するのはなかなか難しいので、当然メーカー側の責任として立証責任の転換が行われてしかるべきですね。欠陥がないというならばメーカー側に欠陥がないことの証明を求める、法律用語で言うと中間責任ということです。最初の原案はそういう立証責任の転換がなされていたんですが、出された法案は、立証責任の転換という考えをとらない法案として出されています。  その結果どうなるかというと、裁判になった場合に、消費者が欠陥住宅であることを証明しなければならないという負担を負わせるのはやはり無理だと思います。そうすると、そのような裁判をいかなる陪審員が見ても、あるいはキャリア裁判官が審理しても、弁護士出身の裁判官であれ、企業法務部出身の裁判官であれ、判決はおのずと消費者側の負けですよね。  ですから、国民が利用しやすい裁判は当然ですけれども、同時に国民が負けやすい裁判であっては困る、消費者が負けやすい裁判でも困る、そういう意味で、規制緩和は一概に簡単にとらえるべきではないと思います。
  77. 保坂展人

    保坂委員 それでは次に、逢見参考人に伺います。  先ほど、この審議委員の中に法曹三者を入れるべきでない、まないたの上のコイがという話をなさいました。ただ、例えば労働法制の審議会で、ではその関係者を除いたところで議論ができるのかとか、あるいは金融制度をめぐる審議会で、銀行だとかそれぞれの金融機関の実務を経験した方を入れないで議論ができるのかどうか、そこのあたりをどう考えられているのかということと、先ほどちょっと議論になりました、事務局が問題。事務局の中にまさに法務省、最高裁あるいは大蔵省だとか、そういう官僚の方がいて、事務局主導で行われる審議会のあり方というのはたびたび批判されてきたので、この二点について伺います。
  78. 逢見直人

    逢見参考人 審議会に法曹三者を入れるべきではないということに絡めまして、例えば労働法制についての三者の問題、あるいは金融についてのお尋ねがございましたけれども、これはちょっと性格が違うと思うんですね。  今回の司法制度改革というのは、司法制度そのもののあり方を抜本的に見直すということが目的でありまして、労働関係法の改正をする作業の場合に、当然、これは三者構成の原理というのがございますから、そういう場合には三者が含まれるべきだと思いますが、それと司法制度改革とは違うと思います。また、金融制度改革審議会も委員見直しが行われまして、従来のような、関係者がずらっと並ぶような金融の審議会ではなくなっておりますので、そういう趣旨からいっても、やはりまないたのコイはみずから包丁の研ぎ方を指揮すべきではないというふうに思います。  それから、事務局の問題につきましては、これは事務局主導の審議会にすべきではないということがまず基本だと思います。審議会のあり方も、従来からいろいろな批判があって、大分最近は変わってきております。審議会の議事録が公開されたり、あるいは中間報告をした中でそれを広く国民から意見を求めるというような形をとっておりますから、オープンな形で、透明性を確保した審議会運営を手がけるのであれば、事務局に公務員が入るとか、あるいは関係者が入るということについては、排除する必要はないんではないかと思っております。
  79. 保坂展人

    保坂委員 私自身は、審議会の事務局の中に当事者であるところの司法官僚が入っているというのは、とても、それだけで方向づけがされてしまうというふうに感じているんです。  それでは、時間が余りないですが、高橋参考人にも伺いたいんです。  いろいろ御意見を伺って、多々問題点はある、しかし、一方でよいことも提言していると。改善せねばならないことはたくさんある、しかし、その改善せねばならないことと今提案されていることの中にはかなり距離がございます。結局、この提案に対して、現時点で、賛否といいますか、どういうふうに判断されていらっしゃいますでしょうか。
  80. 高橋融

    高橋(融)参考人 開きもあります。しかし、今のままでいいということではないというふうに考えております。もしここで司法改革ができなければ、現在の司法のままで今後五十年とか百年とかいいのかということになりますと、とてもたえられないわけであります。  そういう意味で、私は、今のような姿勢の審議会ではちょっと困ると思いますけれども、きちっとしたものができるのならば、これに参加をし、私どももそれにできるだけのアクセスをしていきたいというふうに考えております。
  81. 保坂展人

    保坂委員 次に、では幸田参考人に伺います。  これまでの議論の中で、私は、司法制度改革審議会は徹底的に情報公開をするべきであるし、また国民自身に対しても例えば公聴会を持つとか、あるいは国会に対しては定期的に報告をするとか、いわゆる国民参加の問題意識の高まりがなければ、密室の中の議論で大事なことがあっという間に決まったということになりかねないので、その部分についての御意見を伺っておきたいと思うんです。
  82. 幸田全弘

    幸田参考人 先生のおっしゃるように、できるだけ情報については我々に知らせていただきたい。だから、透明性、公平性にのっとった情報公開をぜひやっていただくようにお願い申し上げます。
  83. 保坂展人

    保坂委員 最後に、また松永参考人に、弁護士自治は大事だという話がありましたけれども、その弁護士自治をつかさどっているところの弁護士会についてお感じのところがありましたら、一言お願いします。
  84. 松永憲生

    松永参考人 今度の司法改革の行方のかぎを握る一つに弁護士会があると思いますので、弁護士会に言っておきたいことは、自治という問題を原点に返って大事に考えていただきたいと思います。つまり、七十二条の問題などは問題になると思いますけれども、七十二条を喪失するということは、同時に一条が空文化することにつながるのではないかという感じがします。このあたりが、行革の発想で司法改革をやると抜け落ちてしまう観点であろうという印象があります。  そして、国会議員の皆さん方の前でこういうことを言うのは口幅ったいんですが、議員には不逮捕特権がある。これは、昔、君主権力から議員の職務遂行を妨害されないために認められた権利ですけれども、常に時々の国家権力との均衡関係の中で民主主義は成熟し、発展してきたんだろうと思います。ですから、いたずらに自治というものに、立法権とはいえ、あるいは行政権も含めて、手を触れるべきではないのではないか。  ただ、弁護士会には改善すべきところもあるし、ギルド的な弊害もあるだろうと思います。僕も弁護士会に対して、法律相談のあり方についても言いたいことは山ほどあるんですが、核心的な問題として、自治というのは、国民の一人として、もし行政機関の指揮監督を受けるような弁護士会に成り下がってしまったならば、行政訴訟なんてだめだなという意識になりかねないとも思います。
  85. 保坂展人

    保坂委員 これにて終わります。どうもありがとうございました。
  86. 杉浦正健

    杉浦委員長 以上で午前中の参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  この際、暫時休憩いたします。     午後零時六分休憩      ————◇—————     午後二時三十九分開議
  87. 杉浦正健

    杉浦委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  第百四十二回国会、内閣提出組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案の各案審査のため、参考人出席を求め、意見を聴取することとし、その日時、人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、これに賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  88. 杉浦正健

    杉浦委員長 起立多数。よって、そのように決しました。      ————○—————
  89. 杉浦正健

    杉浦委員長 内閣提出司法制度改革審議会設置法案を議題といたします。  午前に引き続き、参考人から御意見を聴取いたします。  午後の参考人として元東京地方裁判所所長菊池信男君、元福岡高等検察庁検事長高橋武生君、日本弁護士連合会理事久保井一匡君、以上三名の方々に御出席いただいております。  この際、参考人各位委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位におかれましては、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。  菊池参考人高橋参考人、久保井参考人の順に、各十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。  それでは、菊池参考人にお願いいたします。
  90. 菊池信男

    ○菊池参考人 菊池でございます。  本日は、このような席で意見を述べる機会をお与えいただきまして、大変ありがたく存じております。  ここで審議されております法案は、これからの我が国社会において司法が果たすべき役割を考え、司法制度改革と基盤の整備についてどのような基本的な施策が必要かということについて調査審議するための審議会を設けようというものであります。二十一世紀を目前にして、このような形で、司法制度全般にわたって大局的、総合的に検討が行われるということは、まことに結構なことだと思っております。  私は、昨年の三月に裁判官を定年で退官いたしました。最後は東京地裁におりましたし、その直前は東京高裁で民事裁判の実務を担当しておりました。比較的最近までの裁判実務の実情を存じております。  司法制度の検討をされますに際しましては、その前提として、現在の運用の実情について十分な事実認識を前提にされるということが不可欠だろうと思います。ここでは、裁判の実情について幾分の御説明を申し上げ、あわせて、これまで私が考えてまいりましたことの一端を申し上げたいと思います。三つの点について申し上げたいと思います。  まず第一点でございますが、民事紛争解決システムあり方ということでございます。  裁判国民一般にとってもっと身近なことにするということは、現在の司法制度にとって一番重要な課題の一つだと思います。社会の中ではいろいろな民事上の法的な紛争が起きます。その法的な紛争のすべてが裁判所の関与によって解決されることが望ましいというものではないと思います。筋の通った、落ちつきのいい解決というものがされる必要がありますけれども、そういう解決をすることができるのは、決して裁判上の手段だけではないと思います。多様な紛争解決システムが整えられておりまして、国民がその法的ニーズに合った適当な方法を選択することができるようになっている、そういうことが望ましいことだと思います。  また、それに関連して、国民紛争に巻き込まれるより前に、事前に的確な予防的な法的なアドバイスを受けるという、いわば民事紛争の予防のためのシステムというものも整えられているということが望ましいと思います。  しかし、それと並んで、同時に、紛争解決裁判所が関与することが望ましいとかあるいは必要であるとかいう場合に、国民のだれでもが安んじて利用できるような訴訟手続を整えておくということが、これはもちろん非常に大事なことだと思います。  これまでの民事訴訟手続につきましては、特に、一般の国民が日常生活の中で起きる身近な紛争解決に利用しようとするためには、わかりにくい、煩わし過ぎる、費用のことが心配だ、時間がかかり過ぎるという印象が強かったと思います。そして、そのことが裁判所裁判というものを国民に敬遠させる原因になっていたと思います。  一般の国民方々が安心して利用できるような少額紛争のための特別な訴訟手続を設けることの必要性ということはかねてから言われておりました。私自身もそういうものが必要だというふうに強く考えておりましたけれども、昨年施行されました新しい民事訴訟法で新たに設けられました少額訴訟の制度が、まさにそういう要求にこたえるものであります。  昨年、新しい法律が運用されまして、少額訴訟についても一年間の運用が行われました。その状況を見てみますと、この少額訴訟制度というのは利用者に大変に好評でありまして、その利用の件数も、事前に関係者が予測をしていたところを大幅に超える利用度であります。予想されていたよりも非常にいいスタートを切ったという感じであります。利用した人たちからも、かねて待望していた制度がやっとできたというような受けとめ方がされているようであります。非常にいい制度をつくっていただいたというふうに思っております。少額訴訟が非常に歓迎されておりますこのような状況というものは、司法制度あり方というものを考えていく上で大きな示唆を与えるものだと思います。  本来の訴訟手続は、厳格で手厚い手続構造を持っております。そういう手続というのは、ある程度以上の複雑困難な内容を持った事件でありますとか、当事者の間の対立が深刻な事件、あるいは社会的な影響の大きな事件というものには適しておりますけれども、一般の国民が日常生活の中で起きるような身近な紛争解決のために利用するということのためには重厚に過ぎる嫌いがあることは間違いないと思います。  こういうような少額訴訟制度の実績というのは、国民の持っている法的ニーズの内容に応じて多様な紛争解決システムを整えておくということの必要性を裏づけているものだといっていいと思います。  以上が第一点であります。  第二点として、裁判の実情について、民事訴訟事件を中心に申し上げたいと思います。  訴訟の迅速化との関係で、今触れました少額訴訟以外の民事訴訟事件の審理期間がどんなふうになっているかということについて申し上げたいと思います。  通常の民事訴訟事件増加傾向にあります。しかし、その中で、審理期間は短縮の傾向をたどっております。  実際の地裁で処理いたします通常の民事訴訟事件、普通の訴訟事件の審理期間は、平成十年、昨年の場合ですと平均九・三カ月になっております。これは、平成二、三年ごろまでは十二カ月から十三カ月ぐらいでありました。その後、これは非常に急速に短縮いたしまして、平成五年以降は十カ月前後ということでありました。昨年はそれがさらに短くなって九・三カ月、これは昭和三十年以降では最も短いということになっております。ほかの先進諸国の場合と比較いたしましても、この数字は遜色のないものだと思います。  地裁の事件でありますと、四件のうちの三件は一年以内に処理されております。十件のうちの九件までが二年以内に処理されている、終了しているという状況であります。  地裁に提起された事件が百件あるといたしますと、そのうちの約九十件というのは地裁だけで終わります。控訴があって高裁に参りますのが十一件弱でありますけれども、そのうちの九件弱は高裁で終わりになります。上告があって最高裁判所まで行くのは二件ということになります。  しかし、地裁の事件でも、二年を超えるものが十件に一件程度はあります。特に医療過誤訴訟でありますとか公害訴訟のような当事者多数の事件というようなものでは、相当な期間を要しているものが少なくありません。大変残念なことに、一審だけで五年、十年かかるものもあります。最高裁判所まででありますと二十年以上かかるというものもあります。この種の訴訟でも審理期間というのは一貫して短くなる傾向をたどっておりますけれども、こういうような事件社会的にも注目されるものが多い、その関係もありまして、訴訟が一般的に長くかかるという印象を生む原因にもなっていると思います。  今日、訴訟制度に対する国民の希望と期待というものは、特に迅速さの点と利用しやすさという点に向けられているだろうと思います。こういう国民の希望と期待にこたえるためには、このような特に審理に長期を要している事件についてはもちろんでありますが、民事訴訟事件全体についてさらに迅速化を図るということが急務だと思います。そのためには、新しい民事訴訟法の趣旨に沿って訴訟運営というものを一層改善し、それを定着させていくということが必要だと思います。  今までの民事訴訟の運営というのはよく五月雨式な審理というふうに言われておりました。当事者が主張ですとか証拠というものをぽつぽつと出していく、そういうやり方が普通だったわけであります。  しかし、昭和六十年代になってから、こういうような審理のやり方を改めて、裁判所当事者の双方が早期事件の本当の争点は何かということを確認して、審理の前の事前準備を十分に行う、そして充実した審理をするという訴訟運営改善の努力が盛んにされるようになってまいりました。訴訟代理人方々の協力もあって、こういう動きが次第に浸透するようになってきたわけでありますが、昨年施行された新しい民事訴訟法によって、そのための法律の規定も一層整備されました。現在では、訴訟運営の改善の動きは、そのこともあって一層促進されてきていると思います。先ほど申し上げたような全般的な審理期間短縮の要因の一つには、今申し上げたような事情もあると思います。  しかし、民事訴訟での大原則は当事者主義であります。訴訟上の主張と証拠はすべて当事者の責任で提出するという建前がとられております。訴訟を今より一層迅速化していくということのためには、当事者の側の訴訟活動の一層の強化というものが必要だと思います。  現状の問題点ということで申しますと、期日における当事者訴訟活動の準備が必ずしも十分でないとか、被告側が訴訟の引き延ばしを図るという場合もあります。また、現在、弁護士事務所では、一人の弁護士の方が相当数の事件を抱えているのが普通でありますけれども、そういう弁護士の仕事のあり方ということを前提にいたしますと、ある事件の次回期日というものはどうしても三週間から一カ月先にせざるを得ないということになります。また、そういうような事務所の体制でありますと、特に複雑困難な事件というものについての効率的、効果的な対応というものが難しくなると思います。  これらのいろいろな事情も訴訟の効率的な進行を図る上でのネックになっているということは争いのないところだろうと思います。当事者の側の意識の改革、それから弁護士事務所の体制の強化ということもあわせて必要だろうと思います。  そのほかに、知的財産権事件その他の専門的な事件に対する対応の強化裁判官、書記官等の人的体制の強化、物的設備の整備充実というものも図る必要があると思います。  また、裁判をより国民に利用しやすくするために法律扶助制度の飛躍的拡大を図るということも必要だと思いますし、その他の当事者訴訟利用を支援するシステムも整えることが必要だろうと思います。  第三点として、法曹三者の増加と養成の問題を申し上げる予定でございましたが、予定されている時間が参ったようであります。これは質疑の段階でお許しがあれば補足をさせていただきたいと思います。  どうもありがとうございました。(拍手
  91. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、高橋参考人にお願いいたします。
  92. 高橋武生

    高橋(武)参考人 高橋でございます。  いささかのどを痛めておりますので、お聞き苦しいところがございましたらお許しをいただきたいと思います。  検察官として法律実務に携わった立場から、本法案に関し意見を述べさせていただきたいと思います。  紛争の予防とその適正迅速な解決のために司法が果たすべき役割はまことに重要であります。国民一人一人が安心して暮らせる安全で公正な社会を実現する上で、司法の果たすべき役割は極めて大きいものがあると考えております。  二十一世紀を目前に控えまして、国民期待にこたえていくため、司法機能を充実強化することが求められているところであります。このような状況のもとで司法制度改革審議会を設け、司法制度全般にわたり、国民的見地から広い視野に立って総合的な審議が行われますことは極めて時宜を得たものと考えております。司法制度が、国民期待にこたえまして、より適正で充実したものになるよう、幅広く有益な論議が行われることを期待いたしたいと考えております。  私は長年検察の現場に身を置いておりましたので、刑事司法、特に検察に重点を置いて意見を申し述べたいと思います。  最近の刑事司法を取り巻く状況は、例えば毒物混入による無差別殺傷事件などの凶悪重大事件国民生活に重大な影響を及ぼす財政経済事犯、組織的犯罪、さらには悪質な汚職・背任事件など、社会の安定感を阻害いたし、また国民の不公平感や行政経済システムに対する不信感を助長する犯罪が続発しておりまして、しかも犯行の態様は従来にも増して悪質巧妙化、複雑多様化、国際化、広域化の様相を呈しております。これに加えまして、国民の意識の変化によりまして、捜査、公判への協力が次第に得にくくなるという傾向も認められまして、また裁判長期化を指摘されるなど、刑事司法を取り巻く状況は極めて厳しいものがあると認識しております。  しかも、我が国の刑事訴訟法では、諸外国で認められているような犯罪捜査のための通信の傍受や刑事免責制度、あるいは参考人の出頭強制などの手法は認められておりません。また、起訴前の捜査のための身柄拘束期間は最長二十三日間と、比較的短期間であります。  検察は、このような状況のもとで、事案の真相を解明して、適正妥当な刑罰を実現し、国民期待と信頼にこたえてまいったと考えておりますが、これはひとえに、警察官を初めとする司法警察職員ら、あるいは検察官、検察事務官が休日をも返上し、また昼夜を分かたず捜査、公判に努力してきた結果でありまして、その意味では、あえて申し上げますと、検察庁等の職員の犠牲的ともいえる献身によって辛うじて国民の負託にこたえてきたというのが実情ではないかと思っております。  しかしながら、私がただいま述べたような各種の犯罪は今後も増加し、捜査、公判を困難ならしめている種々の要因もまた一層強まると予想されます上、規制緩和の進展等によりまして透明で公正なルールに基づく事後監視による秩序の維持が求められます結果、刑事司法の果たす役割はさらに深く、かつ広いものになります。このような状況のもとで、現行の刑事手続あり方や検察庁の体制が、来る二十一世紀における我が国法秩序維持する上で万全かと問われますと、残念ながら、私はこれを肯定する勇気を持ちません。  それでは、実体的真実を究明し、無辜を罰することなく、しかも悪を逃さないという検察の信条を放棄して、欧米諸国で行われていると言われているような、比較的簡単な捜査で起訴し、高い無罪率も問題としない、いわゆるラフジャスティスシステムに移行すべきかといえば、それには到底賛同できません。  アメリカでは、刑事司法の場での実体的な真実の発見を放棄し、法的真実をめぐってゲームが繰り広げられているとさえ言われておりますが、それは、日本人が最も大切にしている正義感に反し、ひいては現在の良好な社会秩序の崩壊につながると思うからであります。また、一たん起訴された場合に被告人が負う有形、無形の重荷を考えますと、安易な起訴は厳に避けるべきであると考えております。  私は、たとえ愚直であると言われても、我が国の刑事司法は、被害者の気持ちに思いをいたしながら、あくまでも真実を発見し、罪を犯した者に適正な責任を課し、その反省、悔悟を求めることによって、その社会復帰に資する場であり、かつ法秩序維持する場でありたいと願っておるところであります。  このようなことを前提としつつ、二十一世紀において我が国にふさわしい刑事司法制度維持するために検察にとり最低限必要と思われることについて触れておきたいと思います。  まず一つは、人的基盤の整備が重要であります。  先ほど述べました、現在の、検察庁等の職員の犠牲的とも言える献身の上に辛うじて保たれている捜査構造や刑事司法あり方を改善するとともに、被害者に対し一層きめ細かな配慮をめぐらすことなど、今後さらに増大する検察に対する期待にこたえるために、検察官の大幅な増員が求められます。また、検察官がその持てる力を十分に発揮するためには、パートナーである検察事務官の増員も欠くことができません。  厳しい定員事情につきましては十分に承知しておりますが、二十一世紀においても我が国が世界に冠たる安全で公正な法治国家であり続けるためには、この点に対する御配慮をいただくことがぜひとも必要であります。また、そのような人員の強化とともに、捜査、公判事務のコンピューター化のための施策や取り調べ室の確保等、予算、施設面での充実も必要となります。  また、刑事手続見直しも必要だと考えております。  犯罪の複雑多様化とそれに伴う捜査の困難化に対応するためには、諸外国においては既に採用されております通信傍受制度の早期実現や、刑事免責制度、証人保護制度の創設等の新たな刑事手続の検討が求められます。その意味で、今回司法制度改革審議会設置され、あらゆる角度から国民各層の声を反映できる場が設けられることはまことに貴重な機会であり、この際、二十一世紀における日本の刑事司法あり方という大きなテーマのもとに、法曹三者のみならず、国民各層の幅広い意見を集積されることを期待しております。  次に、刑事裁判の迅速化の問題であります。  我が国における通常の事件処理は、おおむね迅速に行われていると言えますが、複雑重大な事件にあっては、一審の判決が出るまで十年以上を費やすケースもまれではありません。刑罰の機能とされております一般予防あるいは特別予防のいずれの見地からしても、裁判の遅延は大きな問題であり、おくれた裁判はないに等しく、国民期待を裏切り、その司法離れを招くことは必定であります。  現段階では、裁判遅延を少しでも避けるためには、弁護人や検察官を中心とした訴訟関係人が迅速な裁判の実現に向け、裁判所訴訟指揮に可能な限り従い、常識を持ってこれにこたえることが求められますし、さらに、裁判の迅速化を担保するために、何らかの立法措置も検討すべきであろうと考えております。  最後に、被疑者弁護に対する公的資金導入について述べます。  私は、被疑者段階の弁護活動の重要性を否定するものではありませんし、被疑者弁護に公的資金を投入することを検討すること自体に反対するつもりはございません。ただ、国の金を弁護費用に投入することについて納税者たる国民の納得を得るためには、多くの条件が満たされる必要があると思います。  まず、公的弁護制度は、それだけを取り出して論議するのではなく、刑事司法手続全体の構造の見直しの中で検討されるべきであるということであります。次に、被疑者弁護活動が適正に行われることが前提となります。あくまでも仮定論でございますが、仮にも捜査を妨げ、真実発見を困難ならしめるような活動が国のお金によって支えられるということになれば、到底国民の納得を得ることができるとは思われません。そのためには、弁護活動の適正を担保するための制度の整備が必要となると思われます。また、国民のすべてがひとしく弁護を受けられるよう、弁護士の偏在等の問題を解決する必要があります。このような諸般の条件が整備されて初めて、国民の支援を得られる公的弁護制度をつくることができると考えております。  以上で私の陳述を終わりますが、二十一世紀我が国国民にとって安全で公正な国家であり続けるためのグランドデザインを描くためにも、司法制度改革審議会期待しているところであります。(拍手
  93. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、久保井参考人にお願いいたします。
  94. 久保井一匡

    ○久保井参考人 日本弁護士連合会、以下日弁連と略称させていただきますが、久保井でございます。私は現在、日弁連の理事を務めておりますが、平成十年度に司法改革を担当した副会長でございます。  私ども日弁連は、平成二年以来、司法が真に国民の役に立つものとなるよう、いわゆる司法改革運動を展開してまいりました。今国会の冒頭、総理の施政方針演説におきまして、人権の尊重とそのための司法制度の構築がテーマとされ、司法制度改革審議会設置法案が提出されましたこと、並びに国会におきましてこういう形で司法あり方について議論をされるに至りましたことにつき、敬意を表するとともに、心から感謝申し上げます。  私ども日弁連は、去る二月十九日の理事会におきまして、本日御審議司法制度改革審議会設置されました際には、日弁連として、これまで推し進めてきた司法改革を実現するために、これに積極的に対応すること、そのための組織として、日弁連会長を本部長とする司法制度改革実現本部を設置することを全会一致で決議し、去る四月一日からこれを発足させております。  それでは、早速、日弁連の考えている司法改革あり方につき御説明申し上げます。  まず、司法改革がなぜ必要かという点です。  司法は、個人の尊厳と人権の確立を基調とし、民事事件においては紛争の適正かつ迅速な解決、刑事事件においては被疑者、被告人の人権を擁護しながら刑罰法令を正しく適用すること、国家レベルでは、三権分立の原則に従って、立法及び行政に対するチェックをすることにあります。つまり、国民の日常生活企業行政を問わず、社会のあらゆる面で法と正義が行われるようにすること、すなわち、正しい意味での法の支配を確立することこそ憲法の要請する司法の重要な役割であると考えております。  ところが、現実の司法はこの役割を果たしているでしょうか。  まず、我が国の刑事事件においては、取り調べ調書に依存したいわゆる調書裁判とも言われる実情にあり、公判中心主義が損なわれ、被疑者、被告人の権利を守るという役割を十分に果たしているのか疑問なきを得ないのであります。  また、行政事件を見ますと、一年間に提訴される件数がわずか千七百件程度にすぎず、諸外国と比べて少ない事件数で、そのうち原告の勝訴率は一〇%前後という状態です。しかも、約三分の一の訴えは、訴えの利益がないとか、原告適格がないという理由で実体審理に入ることなく門前払いとなっています。司法による行政のチェックは不十分と言わざるを得ません。  また、民事事件においても、裁判官不足のためもあって、裁判官が大量の、しかも従来にない難しい事件を抱え、充実した審理ができず、当事者の納得の得られない判決も見られます。この点、経団連からも、最近の判決には社会常識、経済的知識が欠けていると指摘されているところです。また、消費者訴訟、公害環境訴訟などのいわゆる現代型訴訟においては、証拠開示などの制度が不備なままの現状では、原告の訴えはなかなか認められず、仮に一部勝訴しても、極めて限られた名目的な金額にすぎないのが実情であります。  このように、司法が十分にその役割を果たし切れていないため、本来法的に解決すべきものが、泣き寝入りや事件屋あるいはやみの勢力によって処理されることが多く、いわゆる二割司法と言われる状況にあります。  以上のように、我が国司法はまさにその本来果たすべき役割を果たしているとは言えない状態にあると考えられます。  これはどこに起因するのでありましょうか。これは、我が国司法が諸外国に比べて容量が小さく、市民的基盤が脆弱であること、市民司法へのアクセスが十分に開かれているとは言えないことなどに原因があると思われます。このような事態は一日も早く改める必要があります。特に、最近、規制緩和政策の推進により、社会的弱者と言われる人々の人権が置き去りにされようとしているとき、なおさらその必要性は大であります。  それでは、司法についてどのような改革が必要でしょうか。  まず、基本的に言って、日弁連がかねてから主張していますとおり、市民に身近で使いやすい司法市民に信頼される司法改革することが必要であります。これを具体化するものとして、日弁連はさきに「司法改革ビジョン」を作成いたしましたが、その中でも、当面どうしても必要なこととして、次の六項目を挙げておきます。  第一は、何よりも我が国司法の容量を大幅に拡大することが必要だと考えています。国の一般会計予算に占める裁判所予算の割合は、一九五五年以降低下を続け、最近では〇・四%、金額にして三千百億円という極めて低い水準にあります。法務省予算も同様の傾向にあります。これを大幅に増額し、裁判官、検察官を増員し、司法関係施設を充実させること、そして市民に身近で利用しやすい司法の一環として、法律扶助法を制定し、扶助制度を大幅に拡大すること、国費による被疑者弁護制度を実現することなどが必要です。日弁連は、そのために法律相談センターを全国展開する活動をしており、本年じゅうには弁護士偏在対策として公設事務所の設置を開始すべく検討しております。  第二は、市民感覚にマッチした裁判を実現する一つの方法として、裁判官の任用方法について、明治以来続いてきた純粋培養された職業裁判官による裁判の制度を見直し、欧米先進国に倣って、市民に身近な法律家である弁護士経験者を中心とする幅広い層から裁判官を任用し、判決や裁判の運営について市民感覚を取り入れる必要があります。いわゆる法曹一元制度と言われる制度です。その前段階として、とりあえず任官者にも一定期間弁護士実務を経験させる研修弁護士制度を一日も早く採用すべきです。  第三に、法曹一元制度とあわせて、司法に対する市民的基盤を確立するため、陪審制、参審制を採用すべきであります。陪審制というと大変現実離れした提案ではないかとお感じになる先生方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、我が国でも既に戦前の明治憲法においてすら昭和三年から十八年まで十五年間にわたって現に実施されていたのが、昭和十八年に大戦のため一時停止され、今日に至っているのが実情であります。国民主権の新憲法になり、既に五十年以上経過して、今や二十一世紀を迎えようとしている現代において、国民参加司法制度を採用すべきは世界の趨勢から見ても極めて当然のことであります。ちなみに、G7と言われる先進国で、陪審制も参審制も採用していないのは日本だけであります。  第四に、現在の司法試験が、いわゆる受験予備校に依存している現状を改め、質の高い法曹を養成するために、大学教育を充実させるなどの諸方策を検討する必要があります。  第五に、市民権利の保障実現のために諸制度を整備するため、刑事、少年などの手続につき人権擁護の見地から国際水準に合致した大幅な見直しが求められます。  さらに第六に、司法による行政のチェックを強化するために行政事件訴訟法の改正などを行い、行政事件の活性化を図ることも必要であります。  続いて、来るべき二十一世紀に向けて、弁護士弁護士会も真に市民のニーズにこたえるような改革が必要だと考え、現にその努力をしているところでございます。日弁連が現在取り組んでいます課題は、次のとおりであります。  まず、市民に身近で信頼される存在になることです。  日弁連は、市民がいつでも、どこでも、だれでも法律相談が受けられるよう、法律相談センターの全国展開、当番弁護士制度の充実に努めてまいりましたが、今後ますますこれを推進すること、特に、過疎地での弁護士事務所設置の支援、公設事務所設置の検討を進めています。ちなみに、来年は四月と十月に弁護士が合計約千二百名程度誕生する予定ですので、偏在解消のために相当の効果が期待されます。  さらに、法律扶助の大幅拡大、国費による被疑者弁護制度を含め、司法基盤の整備とこれからの弁護士活動分野の拡大とともに、これに必要な弁護士の確保に取り組んでいきたいと思います。  第二に、公益性、専門性、倫理性を高めることであります。  弁護士は、法律専門家として、法制度及び司法社会のために機能するよう絶えず批判的にこれを検討し、オピニオンリーダーとして国民にこれを発表し、問題提起をしていかなければなりません。これまで、公害、環境、薬害、消費者問題、高齢者問題、障害者問題などについて多数の委員会を設けて、これを研究、検討し、立法提言を行い、かつ実践するなど大きな成果を上げてきましたが、今後社会で生ずる諸問題につきさらにこれを拡充することが必要だと考えております。  また、二十一世紀日本高度化、情報化、複雑化、国際化に備え、そこで要求されるニーズにこたえるため弁護士専門的能力を高める研修制度を強化していきます。  また、弁護士は、社会市民からの信頼にこたえるため、高度の倫理を身につける必要がありますが、弁護士会は、弁護士倫理の徹底と綱紀事案の適切な運用と市民の相談窓口の設置拡充に努めます。  第三に、市民に開かれた弁護士弁護士会となることであります。  市民弁護士へのアクセスを確保するため、広告規制見直し、広報活動を充実させることです。また、弁護士会の活動や政策提言に対し市民意見を聞く機会を設けることなどです。  第四に、弁護士活動領域を企業行政を問わず、社会のあらゆる分野に広げることが必要と考えております。これまでの弁護士は、裁判所を中心に活動する弁護士がほとんどでしたが、このいわば法廷活動中心のスタイルを克服し、市民に身近な存在になることであります。  最後に、隣接業種との協同化、法人化などに取り組むことであります。  社会高度化、複雑化、専門化に伴う市民のニーズにこたえるため、隣接業種である司法書士、税理士、弁理士などとの協同化などを進め、法律事務所の組織力アップ、基盤整備のため法人化などを進めることであります。  日弁連は、以上のような公益的な考え方に立ちまして、国家予算の裏づけなしに司法改革運動を進めてまいりましたが、これらの大半は、国が国家予算をもって取り組んでいただくことによって初めてなし遂げられるものであります。したがいまして、政府及び国会におかれましては格別の御尽力をお願い申し上げます。  また、本日の御審議の対象であります司法制度改革審議会設置につきましては、真に国民のための改革となるよう適切なる委員の人選を行い、かつ、審議を公開し、国民の意思を十分に聞きながら進められる仕組みにしていただくよう特にお願いいたしまして、私の意見陳述を終わります。どうもありがとうございました。(拍手
  95. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  以上で参考人意見の開陳は終わりました。     —————————————
  96. 杉浦正健

    杉浦委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。保岡興治君。
  97. 保岡興治

    ○保岡委員 参考人の皆様には、きょうは御出席を賜りまして貴重な御意見を伺う機会を得まして、まず心からお礼申し上げたいと思います。  まず、菊池参考人にお伺いしたいと思うんでございますが、今度の司法改革というものは、訴訟制度というんですか、司法に対するいろいろな問題の解決の迅速さ、あるいは利用のしやすさというものが必要だ、それに国民期待がある、こういうお話でございましたが、加えて、紛争解決の結論やプロセスに対する納得性というんですか、あるいはわかりやすさというんでしょうか、そういうものに対する国民の信頼が非常に重要だと私は思うんです。  そういう点で、実は物事を判断するには、やはり事柄の本質をきちっと分析して、見きわめるということと、それから法の趣旨あるいは目的、理念というものを正確に適用するという二つの面がある。  そこで、私は、法服を着て菊池参考人裁判所法廷におられるときと、退官された後、別な意味での社会生活をされて、いろいろな事柄に触れられて、裁判官時代にはもっとこういうことを知っていれば判断がきちっとできたのになと思うような、いわゆるキャリアの持つ問題、それから法曹一元の持つ理念、こういったものについて今どういうふうに考えておられるか、お伺いしたいと思います。
  98. 菊池信男

    ○菊池参考人 私は、法服を脱ぎましてから、退官してからちょうど一年になりました。先生のおっしゃりますように、やはり物事というのは、ある組織の内側から見るのと外側から見るのとはいろいろな点で違うというのをいろいろな意味で実感をしております。  特に裁判官というのは、これは昔、私どもの大先輩の三宅正太郎さんという「裁判の書」という名著をお書きになった裁判官の大先輩が、裁判官というのは独善に陥る危険があるということを戦前におっしゃっておられます。私もそれは、そういうことの危険がもともとある仕事だと思います。裁判の独立というのは、ひとりよがりになる危険と裏腹のところがあると思います。ですから、裁判官というのはいつも、視野が狭くなる、独善ということを、事柄の性質上そうなる可能性があるということを考えて、自己反省をしないといけないということだと思います。  それから、もう一つ、これは非常に大事だと思いますのは、やはり仕事をする上で、国民の側から見ると裁判所あるいは裁判官の今やっている仕事はどう見えるかということをいつも考えていくことが必要だと思います。国民の側から見てどういうふうに見えるかということを、そして、どういうところに期待があるか、その期待にこたえるために今自分はどうすべきかということを考えて仕事をすることが大事なんだなということを、裁判所の外から見まして一層それを痛感しております。
  99. 保岡興治

    ○保岡委員 時間がないので、もう少し踏み込んでお伺いしたいんですが、やはり裁判官を補佐する、例えば最高裁の調査官や、あるいは知的所有権の関係の訴訟に必要とされる調査官、あるいは陪審、参審、こういったいろいろな工夫を幅広く今度は検討していこうということになっているので、キャリアを一気にかえていくというものもなかなか大変なことではございますけれども、やはり法曹一元の理念というものをどう具体化するかということは今度の司法改革の大きなテーマだと思いますので、今後ともよろしく、また御指導いただければと思います。  それからもう一つ、これは高橋参考人と久保井参考人にお伺いしたいと思うんですが、高橋参考人の取り上げられました、犯罪が非常に続発してふえてきている、しかも犯行態様も悪質巧妙化、複雑多様化だ、しかも広域化する上に国際化までする。これは、非常に安全な国と言われて、犯罪発生率も低い、あるいは犯罪の検挙率も非常に高い、婦人や子供たちが安心して町を歩けるというような、そういうことは非常に大事なことだと思うんですが、そういったことが、いろいろ陰の勢力の拡大、あるいは一般の社会に起こる犯罪も今言ったような特色を持つということになると、おっしゃるように、それを防ぐための道具を持たなきゃいけない。  御提案があったように、通信傍受の問題とかいろいろございます。そういったことが私は絶対必要だと思うんですね。手段がなければ、秩序は維持できない、被害者の権利も回復、あるいは守れない。しかし一方で、こういう捜査の体制を整備するということは基本的人権の抑圧の可能性を拡大するんだといって、いつも反対が起こるわけですね。  そこで私は、これは物事の妥協というものを図らなきゃいかぬ、知恵を、工夫を尽くして結論を得なきゃいかぬ、そして、運用の中でさらにいろいろ工夫をしながら、改善すべき点は的確迅速にまた改善する、こういうことが必要だと思うんです。高橋参考人には、基本的人権の点から被疑者弁護にも触れられましたが、どういうことが大切なのか、捜査に当たった側から、被疑者、被告人等の人権の面での配慮についての重要な留意点、それから、久保井参考人には、逆にそういった犯罪の鎮圧あるいは社会秩序の確保、こういった観点から、そういう道具が必要だと思われる点についての留意点、考え方をお伺いできればと思います。
  100. 高橋武生

    高橋(武)参考人 御承知のとおりでございますけれども、刑事訴訟法の一条に、捜査の目的といいますか、刑事司法目的についての規定がございます。これは、公共の福祉と基本的人権の調和、それから真実の発見、刑罰法令の迅速適正な適用ということでございまして、今先生が御指摘になりました人権の保障という点は、この法律に掲げられているとおりでございます。  我々捜査官は、現在でも大きな権限を持たされております。しかしながら、これを十分に注意した上で行使しなければ、当然のことながら、基本的人権の侵害に至る可能性があるわけであります。  まず第一には、それぞれの任に当たる者が、自己の権限の大きさというものを常に自覚しながら職責に当たっていかなければならないと考えているわけでございます。  第二には、今私は、捜査のためのいろいろな手法が必要だと申し上げました。しかしながら、その前提としてやはり人権の保障ということを考えなければなりませんから、捜査のために便利だから何が何でもこれは欲しいということではございません。基本的人権の保障の上でどうしてもとれない手段もありますし、しかし、最低限ここまでは許されるという手段もあろうかと思います。そういうことを総合勘案しながら新しい制度をつくっていただければ大変ありがたいというふうに考えているわけです。  特に、我々は、重大な職責を自覚しながら厳に職務に励んでいるということを、つけ加えさせていただきたいと思っております。
  101. 久保井一匡

    ○久保井参考人 お答えいたします。  今、御指摘いただきましたとおり、確かに、犯罪が広域化、凶悪化、場合によれば国際化している状態で、捜査を十分にするために通信の傍受等が必要だという、その必要性については十分に理解できます。  しかしながら、私どもといたしましては、現在の日本の憲法が認めている通信の秘密というものは、この捜査の必要性にまさる価値を持っている基本的な人権だと考えております。  戦後五十年間、現行刑事訴訟法のもとで捜査が続けられて、少なくとも我が国においては、諸外国と違いまして、捜査の成果というのはかなりのレベルに達していると思います。したがいまして、現時点で、通信の秘密を侵してまで捜査をする、そういうことをする必要はないと考えております。  以上でございます。
  102. 保岡興治

    ○保岡委員 時間でございますので、これで質問を終わります。本当に、参考人の皆様にはありがとうございました。  ただ、私は、司法改革の全体像をかく中で、国民が安心して、いろいろな制度一つ一つに答えを見出すことを求めていると思いますので、一つ一つのテーマをいろいろ議論するのみならず、全体の中で答えを出していくということで、一つ一つのテーマが迅速に、適切に生まれていくことをこの司法改革の中で期待をしていることを、最後に申し添えさせていただきたいと思います。  ありがとうございました。
  103. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、枝野幸男君。
  104. 枝野幸男

    枝野委員 参考人の先生方には、きょうはどうもありがとうございます。私から何点かお尋ねをさせていただきます。  まず、久保井先生にお尋ねをさせていただきますが、日弁連の「司法改革ビジョン」について御説明をいただきました。せっかくでございますので、これのつくられた経緯とか、どういった人たちの間でつくってきたのかとか、ちょっとそういったことをわかりやすく皆さんに説明していただけますでしょうか。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
  105. 久保井一匡

    ○久保井参考人 日弁連は、平成二年に第一次司法改革宣言というものを発表いたしまして、今日まで約十年間、司法改革運動を展開してまいったわけでございますが、社会からの反応が、最近、あちこちからこれを支持する反応が出てまいりました。  その一つの反応として、平成九年に自民党司法制度特別調査会が発足し、最高裁、法務省に並んで、日弁連に対しても、司法改革についてのヒアリングが非常に頻繁になされるようになりました。  その過程で私ども意見を申し上げてまいったわけですけれども、それはずっと受け身の形で、賛成とか反対とか、まだ検討していないとか、そういう形で、受け身の形でお答えしてきたにすぎなかったわけです。その経過から見て、やはり、今までやってきたことをこの段階で整理して、国民の皆さんにわかりやすく、みずからの描く司法像を積極的に、受け身ではなくて、能動的といいますか、自発的に、そういう日弁連の二十一世紀に向けた司法改革を描くべきだ、そういう認識に立ちました。  そこで、昨年の四月から、司法改革推進センターという百五十名の委員で構成する委員会がございますが、そこが原案の作成に取りかかりました。そして、その原案をもとに、正副会長を先頭に、執行部で何回も何回も練り直しまして、執行部案をつくりました。そして、昨年の九月の十一日の日弁連の理事会にお諮りいたしました。理事というのは全国の都道府県の弁護士会の会長がなっておりますけれども、その理事会において四回にわたる審議をいたしまして、昨年の十一月の二十日の理事会で全会一致で御承認いただいた、そういう経過になっております。
  106. 枝野幸男

    枝野委員 そういたしますと、チームができてからでき上がるまで早いなと思っていたのですが、むしろ、その蓄積があったのでという理解でよろしいでしょうか。  それでは、きょう御説明をいただきました中身のうち、法曹一元の点について、若干詳しくお答えいただければと思うのです。  法曹一元、理念としては、余り否定する方はいらっしゃらないのじゃないかなと思うのですけれども、現実的に動かすとなったときに、今弁護士任官制度もございますが、弁護士を一度やってしまった人間だけで本当に裁判官になってくれる人がいるのだろうかという声も若干ないわけではございません。それに対してどういった考え方を、日弁連として、あるいは久保井先生としてなさっておられるか、教えていただければと思います。
  107. 久保井一匡

    ○久保井参考人 お答えいたします。  御指摘のとおり、弁護士任官は必ずしも十分な数に上っていない。そういう現状の中で、法曹一元、全部の裁判官弁護士からということになって大丈夫かという御質問だろうと思いますけれども、私どもといたしましては、現行の制度の中で任官をするということは非常に困難だと思うのです。  わかりやすい例えをして申しわけありませんが、クラスの中に途中で転校して入ってくる転入生、私も父親の転勤で途中入学をいたしましたけれども、そういう強固なキャリアシステムの中に一人とか三人という裁判官がぽつっぽつっと入っても、なかなかなじまない。しかし、このキャリアシステムの判事補制度を全面的にやめるということになりましたら、これは、いやが応でも全員が弁護士から同じ条件でなることになりますから、過渡期の間は工夫が要ると思いますけれども、法曹一元に移行してしまえば、十分にそれは確保できるというふうに考えております。現に、諸外国の例を見ても、十分に軌道に乗っているようでございます。
  108. 枝野幸男

    枝野委員 それでは、菊池参考人に、少し裁判所の現場の状況について教えていただきたい思うのです。  先ほど、裁判長期化の原因として、例えば弁護士がたくさんの事件を抱えているという話もございましたが、裁判所裁判官の皆さんも、かなり多くの件数をお一人で抱えているのじゃないかなと思うのです。いろいろな部によって違うと思いますが、例えば、東京地裁におられた段階での、一般の民事部では、今裁判官の方はどれぐらいの件数を抱えているのか。正確な数字でなくて結構ですので、アバウトな数字で結構ですので、教えていただけますでしょうか。
  109. 菊池信男

    ○菊池参考人 私が大体のところで感じておりますのは、地裁の民事部の通常部の単独係の裁判官が手持ちでどれぐらい持っているかということでいいますと、恐らく、今二百十件あるいは二百二十件というようなことで、そう遠くない数字だと思います。
  110. 枝野幸男

    枝野委員 私も、ちょうど十年前、司法修習しておりましたので、大体、裁判官の方の抱えている件数、そんなものかなと思っていたのですが、これは、実際に裁判を担当される方の立場として、もちろん少なければ少ないほどいいに決まっているとは思うのですけれども、現実問題として、この件数というのは、例えば仕事を処理していく上で、こういう無理がこういうところで出てくるとか、そういった状況があれば、教えていただきたいと思うのです。
  111. 菊池信男

    ○菊池参考人 今の二百十件、二十件という件数、これは、負担の感じというのは審理期間との兼ね合いであります。一日の開廷日に目いっぱい事件を入れられる件数というのは大体めどが決まる。幾らでも入れられるというものではありません。ある量の手持ちがあって、それが一回の期日で処理できる件数というのは決まっております。そうしますと、非常に手持ちの事件がふえていった場合には、審理期間が延びるという形になります。  ですから、今、問題は、審理期間の短縮ということが非常に大きな課題ですが、審理期間の短縮ということをしようということになりますと、先ほど申しましたような二百十とか二十というのは、恐らく一年ぐらい前が二百四十とか、そういうことだったろうと思います。先ほど申しましたように、審理期間が短縮しながら手持ちも、これは増員もあったということと両方だと思いますが、減ってきている。ただ、これは非常に頑張ってやっているわけですが、さらに短縮をするということであると、この件数のままではきつい。  ですから、めどとしては、これは経験的なことで申しますと、一人の手持ちが百五十件ぐらいになれば審理期間の短縮も、先ほど申しましたようにいろいろな要素で審理期間というのは決まってきますが、裁判官の方の手持ちが百五十ぐらいがめどで、その辺になれば短縮を図りながらやれるだろうと思います。  それから、私も、東京地裁では実際法服着ませんが、その直前、高裁に五年半おりまして、毎年、事件が今までで一番多くなっているという時期でした。ですから、大変に忙しい思いをしました。忙しい思いをしましたが、これは実は法曹三者、どの畑でもみんな非常に忙しい。それから、さらに申しますと、法曹以外の各分野でも、プロフェッションの方の仕事というのは非常に皆さんお忙しい中でやっている。ですから、そこの中で、忙しいところを頑張ってやっていることは間違いないわけです。しかしそこで、非常に忙しいんですが、そこが裁判官の魂だと思いますが、忙しいからどこかで注意が抜けたりすることがあっちゃいけないということで、一生懸命やって質を維持しているというふうに私自身は思います。
  112. 枝野幸男

    枝野委員 ありがとうございます。  高橋参考人にお尋ねしたいんですが、検察庁の場合は手持ち事件の数とかという言い方は非常に難しいと思うんですが、私の十年ぐらい前の司法修習で実務修習をさせていただいたときのイメージですと、やはり検察官の、特に捜査の時点の検察官の方の抱えている事件の数といいますか、非常に多いのではないだろうか。  例えば、殺人その他の重大案件についてエネルギーを使ってしまいますと、もちろんほかの案件の手を抜いているとは思いませんけれども、やはりいろいろと全体に目配りするにはなかなか大変だろうなというように思ったんですけれども、今どれぐらい検察官の方、特に捜査の検事の皆さんの事件の抱え方というんですか、状況を、概略を教えていただければと思います。
  113. 高橋武生

    高橋(武)参考人 裁判所と違いまして、検事の場合に、持っている事件は大変流動的でございます。どんどん処理していかなければたまっていくということで、一定の数というものは恐らくないだろうと思います。ただ、やはり地域によりまして、社会的な状況によりまして、あるいは犯罪の発生状況によりまして変わってくるものと思います。  大都会ほど大変多くの事件を持っているということでございます。また、地方と言ってよろしいんでしょうか、小都市におきましては、事件の発生も少ないということを受けまして、それぞれ数は少ないと思います。かなりの数の違いがありますので、これという数字は出しにくいわけでございますけれども東京のような大都会でございますと、大体、平均数十件以内の事件を抱えているはずだと私は思っております。  ただ、検察官の多忙さというものは件数ばかりではなかなか数えられないものがございます。例えば一件でありましても、大変複雑重大な事件になりますと、これに何十人もの検事を投入して捜査をしていくということでございますので、その辺でまた多忙さの違いも出てくるかと思います。大変雑駁な言い方でございますけれども、御理解をいただければと思っております。
  114. 枝野幸男

    枝野委員 そういった状況はよくわかっていますので、今のような状況を教えていただければ十分だと思います。  法曹三者それぞれ、いわゆる法曹資格を持っている人間と、それから、裁判所なら書記官の方、あるいは検察庁なら事務官の方、そして弁護士事務所も事務員さん、それぞれのところをしっかりとサポートしていただく体制が充実すれば充実するほど、有資格者の方の負担が軽くなる分というのはあるというふうに思うんです。  菊池参考人から順番にそれぞれにお伺いしていきたいんですが、裁判所において、事件数が非常に多くて大変だ、処理に時間がかかってしまう。例えば補助スタッフといいますか、書記官なりの方をふやすとこうなるんじゃないかとか、事務官の方をふやせばこうなるんじゃないかとか、そこは余り関係ないんだとか、そういったことについて、それぞれ、裁判所、検察庁、それから、弁護士の場合はそれぞれ事務所によって事務員さんの関係の仕方は違うと思うんですけれども、何かその周辺業務との関係で、よりスピーディーなあるいは充実した司法にするための考え方、それぞれお願いしたいと思います。
  115. 菊池信男

    ○菊池参考人 裁判所の場合でありますと、私は実は刑事はそんなにやったことはないんですが、民事でも刑事でも同じだと思いますが、要するに、裁判官事件処理するには、裁判官だけで仕事ができないのは先生御指摘のとおりでありまして、法律上の役割がそれぞれ決まっておりますので、例えば裁判官だけ増員しても、書記官がそれに伴って多くならないとできません。  それから、例えば今度の民事訴訟法の改正でも、御存じのように、今非常に質の高い書記官がたくさん入ってきております。その人たちに訴訟の充実促進のための役割を相当分担してもらうということが入ってまいりました。その辺も、これは書記官がどれだけやってくれる、どれだけの手があるかということは非常に意味があると思います。ですから、裁判所の場合に必要なのは、裁判官の増員だけでなくて、それにあわせて、書記官の増員がどうしても必要なことだろうと思います。
  116. 高橋武生

    高橋(武)参考人 検察庁の場合は、ほとんどが検事と検察事務官でございます。事件処理に中心的な役割を果たすのは検察官でございます。したがいまして、まずは検察官の数の増員ということが要望されるわけでございます。  それと同時に、先ほどの意見でも申し上げましたけれども、検察事務官がこれを補佐してそれぞれの捜査に当たっております。これも、これに並行して増員をしていただくということが何よりも重要でないかというふうに考えております。
  117. 久保井一匡

    ○久保井参考人 弁護士事務所につきましては弁護士と事務職員によって成り立っておりますけれども、事務職員につきましては、裁判所の書記官とか検察事務官のようなきちっとした制度化した資格のもとに置いておるわけではございませんので、そこを充実させる必要がある。事務員に事務所を支えているパートナーという自覚を持ってもらう必要があろうということで、近年、パラリーガル、法律補助職を制度化することを研究しておりますが、まだその実現のところまでいっておりません。早急にこれは進めていかなきゃいかぬと思っております。  さらにまた、法律事務所は、単独の事務所よりも共同の事務所の方が市民のニーズにこたえやすいということで、共同化の傾向が最近強まってきておりますけれども、その一環として、法律事務所の法人化についても一定の条件をつけて現在、法務省と協議をしておりまして、実現の方向に向いております。  いずれにしましても、二十一世紀にふさわしい法律事務所の組織力のレベルアップ、基盤整備に取り組んでいかなければならないということは御指摘のとおりでございます。
  118. 枝野幸男

    枝野委員 裁判所について菊池参考人に重ねてお尋ねしたいんですが、特に最近、こういう経済状況も影響していると思うんですが、執行事件あるいは破産関連の事件、こういったものは非常に時間が、特に執行についてかかっているのではないかというような声もございます。私は実務は二年しかやっておりませんので、執行を何件もやったわけじゃないんですけれども、ここのところの、特に執行事件のところの裁判官と書記官などの役割分担とか、こういったところの事情といいますか、状況といいますか、それと、そこのところは、もしかすると、場合によっては書記官の方なりそういったところの充実で、もちろん裁判官もふえた方がいいんでしょうけれども、補える部分があるのかないのか、そういったところを、執行事件などについてのスピード化と、人的なキャパシティーの関係についてちょっとお話しいただけますか。
  119. 菊池信男

    ○菊池参考人 御存じのように、東京には執行部がございます。私は、今細かくお答えするだけの記憶も準備もございませんが、ただ、ここ数年以前から、執行部に非常に重点的に、裁判官の増員と、それ以上に書記官の増員を図ってまいりました。大変な増員であります。したがって、不動産執行を中心にして、かつてはいわゆる赤字、要するに未済がたまっていっていたのが、未済が減るという状況が、たしか二年前からそうなっていると思います。  これは、今のお話のように、書記官の増員というのは非常に効果が大きいものですから、書記官と裁判官の大幅な増員、それから、事務の処理の仕事のやり方を自分たちの頭で本当によく考えて、実によく工夫をしてくれて、それが期間の短縮化、未済の減少という効果をもたらしたと思っております。  私が直接存じておりますのは東京地裁だけですので、東京地裁のことで申し上げます。
  120. 枝野幸男

    枝野委員 このキャパシティー、特に裁判所と検察庁のキャパシティーの問題は、国会と行政府だけでとにかく予算さえつけてくれれば、まずは前へ進むべきところがたくさんあるので、本来であればこういった審議会をつくる前にその部分のところをやっていかなきゃいけないだろうというふうに思うんですけれども、状況について多くの方に今のような御発言で御理解をいただけるんじゃないかなというふうに思っております。  最後になると思いますが、日弁連の久保井先生にお尋ねをさせていただきます。  「司法改革ビジョン」の六つの主な柱を御指摘いただきました。それぞれについてあるんだろうと思いますけれども、私、ちょっと気になりますのは、法曹養成のベースになります大学教育その他、司法試験制度などに絡んだところだと思うんです。きょう御指摘いただいたのは項目だけでしたので、そこを、どういったことを考えていらっしゃるのか、「司法改革ビジョン」について、教育や養成のところについてちょっと御説明いただけますでしょうか。
  121. 久保井一匡

    ○久保井参考人 司法試験の受験者が大学教育によらないで受験予備校で勉強した結果合格しているという、極めていびつな現象が生じております。大学の空洞化ということも言えようと思いますけれども、そういう事態を正常なものにしていく必要があろうというふうに思います。  ただ、その方法につきましては、まずは日弁連としての検討、研究が必ずしも進んでおりませんで、例えばの話で私の個人的な考え方から申し上げますと、今大学関係者の中で議論されておりますロースクール構想なんかもやはり検討してみる値打ちがあるんではないかというふうな気がしております。もちろん、ロースクール構想といっても、アメリカ式のものとかヨーロッパ式のものとかいろいろあるようでございまして、日本ではどうするのかということについてここで具体的な形で申し上げることは、これはちょっと私としてもまだ確信がありませんので差し控えますけれども、ロースクールを出た者に法曹資格を与える、もちろんそれについては、国家試験、法曹の最後の試験は必要だろうと思います。  そして、その後は、法曹一元を前提とするのでありますから、在野法曹である日弁連も加わった形で、実務の養成、現在の司法研修所は最高裁がやっておられますけれども、日弁連も加わった、在野法曹も参加して実務教育をする、そして研修弁護士制度なりそういうものにつないでいく、そういうことを考えていくべきではないか。  ロースクールで勉強したことによって、実質的な基礎法学及び実務法学の両方がマスターできる。わかりやすく言いますと、医師の国家試験というか、医学部みたいな形になろうかと思いますけれども、そういうことも研究してみる必要があるんではないか。  まだ日弁連段階では研究ができておりませんけれども、私個人としては、この異常な状態を放置できないんじゃないかというふうには思っております。
  122. 枝野幸男

    枝野委員 最後の点というのはなかなかややこしいんだろうなと思います。私自身は、ほとんど大学で授業に出ないで、司法試験の予備校で合格をした。多分、私ぐらいから下の期というのは圧倒的多数がそうなんだろうというふうに思いますので、余り先になってしまうと、それが当たり前の人間ばかりが法曹三者になってしまうと、今のような議論がなかなか進まないと思いますし、予備校には予備校のよさもあるとは思うんですけれども、うまく話を進めていただければなというふうに思います。ぜひ、今回の議論の中にうまく生かせればいいと思いますので、日弁連としても早目にそういった御議論を進めていただければというふうに思います。  大体時間となりました。きょうは三人の先生方、どうもありがとうございました。参考にさせていただいて、審議を進めたいと思います。
  123. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 上田勇君。
  124. 上田勇

    上田(勇)委員 きょうは、先生方には貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。限られた時間でもございますので、早速何点かお伺いをさせていただきたいというふうに思います。  最初に久保井先生にお伺いをさせていただきます。  久保井先生の方から、司法を身近なものにということで、日弁連の方でも提言をまとめられたと。これは冒頭、菊池先生の方からも同じ言い方でお話がございましたので、期せずして一致したことなんですが、司法を身近なものにという中で、法曹一元とそれからもう一つ、陪審制度、参審制度の導入ということについてお話がございました。法曹一元についてはこれまで補足的に御意見を伺ってきたので、この陪審制度、参審制度についてちょっとお伺いしたいんです。  この陪審制度というのも、アメリカではよく裁判に関するテレビだとか映画だとかございます。また、事実、報道等でも、例えば大きく報道されたO・J・シンプソンの事件などのように、陪審員の構成で判決の内容まで変わるというようなこともあるんだということも言われております。この陪審制のねらいというのが、法律専門家でない人間に市民感覚から判断をしてもらうというところが一つのねらいなんだと思うんですが、場合によっては、そういう事例があるように、世論とか情に左右されて、厳格な法律の適用ではなくなってしまうというような危険性もあるというふうにも思われるんですが、その辺について少し先生のお考えを補足していただければというふうに思います。
  125. 久保井一匡

    ○久保井参考人 お答えします。  御指摘のように、陪審制に対する心配といいますか、陪審員の感情とかあるいは世論に流されやすいというようなことで、冷静な判断期待できないんではないか、そういう心配が以前から指摘されております。  しかし、あくまでも事実認定の段階においては、法律の解釈適用と違いますのですから、ある人が犯人かどうかというような事実認定の問題につきましては、これはいわゆる職業裁判官司法試験に合格した裁判官だけが専門的にやるというんではなくて、市民裁判官も事実認定については同じレベルだと考えられる。  したがいまして、全部を市民に、事実認定と法律の適用の両者を陪審員にやってもらうということではございませんで、基礎になる事実認定だけを陪審員にしてもらって、その認定した事実に対して法律をどう適用するかというのは職業裁判官がするということになりますので、その点は、事実認定については、わかりやすく言えば、職業裁判官市民との間に基本的な差はないんではないか。  むしろ、司法が身近なものになるため、あるいは司法の中に民主主義の考え方を入れるならば、当然それは市民参加する。これは、国会レベルのお話になって恐縮ですけれども、普通選挙を導入する際の議論の中に、国民全員に選挙権を与えたら、十分な判断能力がない人が投票することになって、衆愚政治になるから好ましくないという反対意見がございましたけれども、もう少し市民なり国民を信用してもいいのではないか。  だから、法律の解釈適用と区別しますから、私どもとしては十分成り立ち得るのではないか。しかも、先進国で長年にわたってやってまいりまして、O・J・シンプソンの事件について具体的なことはわかりませんけれども、陪審をやめるべきだというような形の世論なりそういう批判は今のところ出てきておりませんので、やはり日本もそういう先進国の例に倣って、司法の民主化ということから考えても、採用していくべきではないか。もちろん御指摘のような心配が若干あることはあるとは思いますけれども、大体そういう考えであります。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
  126. 上田勇

    上田(勇)委員 今の陪審制、参審制につきまして、菊池先生、高橋先生、それぞれの御経験のお立場から、御意見がありましたら伺いたいと思います。
  127. 菊池信男

    ○菊池参考人 陪審も参審も、要するに司法に対する国民参加ということでありますが、御存じのように、陪審は英米法系でとられている制度でありますし、参審は一般にヨーロッパ大陸の大陸法系でとられていると思います。陪審は英米法系でとられているわけですが、それは一言で言いますと、イギリスやアメリカのその国の伝統的な社会的、文化的な背景のもとで育ってきた独特な制度だと思います。しかも、一番肝心なのは、何がその制度を支えているかといいますと、イギリスやアメリカの場合には、国民の中に陪審制をよしとする法的確信といいますか、歴史的に形成されたそういう意識があって、それが制度を支えていると思います。  我が国の場合に、国民司法参加ということを現状よりもっと推進していくべきだということは、私も非常に強く思っております。その場合に、外国の例でいいますと陪審と参審があるということになりますが、結局その場合に一番大事なのは、どういう司法参加あり方を採用するかということについて一番考えなければいけないなと思いますのは、日本国民がどういう裁判制度を求めているのか、どういう判断者による判断を求めているのかということが大事だろうと思います。我が国で陪審を採用していくという場合には、それを決める場合には、その点の十分な議論が必要だろうと思います。  先生御存じのように、現在でも日本の制度の中には一種の参審が入っております。調停委員、それから家事の参与員、それから簡易裁判所司法委員というのはそうでありまして、これはいずれも世界的に紹介されるときに注目される制度でありますし、いずれも非常に成功して定着しております。  私の考えでは、それが民事事件では簡易裁判所にしかありませんが、地裁以上の審級にもその司法委員のような、一種の参審のような制度が入ることは非常に結構だろう。それは、先ほどの裁判官の世間知らずという批判というもの、これも国民の感覚がそういう形で入ってくるということ、それから、場合によっては専門家にもそういう形で入っていただくということが、裁判の内容をよくしていくという上で非常に意味があるんだろうというふうに考えております。
  128. 高橋武生

    高橋(武)参考人 参審あるいは陪審の制度が国民司法に対する参加という面では意義のあるものであるということ、これには異論はないと考えます。  ただ、この制度を採用するかどうかという前提として、こういう制度に対する国民の信頼がいかなるものか、あるいはこういう制度をつくった場合の国民が負うべき義務、例えば陪審員となる義務、参審員となる義務、これに対していかなるお考えを持っているか、こういうことを十分に検討していかなければならないだろうというふうに考えております。  御承知のとおりでございますけれども日本でも陪審制度を採用いたしまして、法定陪審事件というのは無期あるいは死刑の事件でございました。しかし、その事件につきましても、被告人が求められれば陪審員以外の刑事裁判官による裁判ができるという制度でございました。それからまた、請求陪審制度といいまして、長期三年を超える事件につきましては、被告人あるいは弁護人の請求によって再審が受けられるということでございました。これは法定でございませんので、請求に基づくということでございます。  ところが、この陪審制度につきましては、数字の上からいいますと、一番数多く施行されましたのが昭和四年でございます。私の数字に間違いなければ、百四十七件ぐらいだったと思います。ところが、これが年を追うにつれて減ってまいりました。昭和十二年には十九件、十五年には六件ということであります。  この原因が那辺にあるかは必ずしも明らかではございませんけれども日本人の心情の中に、隣人による裁判を必ずしもがえんじ得ないという、もしそういうことがあったのだとするならば、この制度に対する信頼というものは失われていくのだろうと思います。そういう意味からも、この制度を検討する際には、国民の意思といいますか考え方といいますか感情といいますか、そういうものについての慎重な御検討が必要ではないかというふうに考えておる次第でございます。
  129. 上田勇

    上田(勇)委員 ありがとうございます。  それでは、次に、菊池先生にお伺いをいたします。  午前中の参考人の方で、フリージャーナリストの松永憲生さんから御意見をちょうだいしたのですが、その中で、今の裁判官のキャリアシステム、人事と勤務地や昇格などの強い管理システムを通じて非常に統制力が強く、本来独立しているべき裁判官が、実は上部の指揮にそのまま従う物言わぬ裁判官をつくり出してしまっているというようなお話があったのです。その辺につきまして、今の裁判官のキャリアシステムあるいは人事等の管理の問題などについて、そういった問題点があるのか、またそれについて御意見がございましたら、ぜひお聞かせをいただければというふうに思います。
  130. 菊池信男

    ○菊池参考人 今の午前中のお話、私、直接伺っておりませんが、そういう批判というのは時々ある批判であります。私は、そういうことは事実としてないというふうに考えております。特に、弁護士任官の人たち、弁護士さんで裁判官になられた方たちが現在相当の数おられます。そういう方たちが漏らされる感想の中で非常に目立つのは、一つは、裁判所に入ってくるときは、今お話しのような統制があって、いわば話が自由にできないような不自由な感じじゃないかというふうに実は思ってきた、しかし、前自分の考えていたこととの関係では、意外なことに、自由な雰囲気であるというので驚いたということが、これは非常に多くの人のおっしゃる感想であります。  裁判所の中で物を言うことが不自由だということは、私はないと思います。裁判官の中でどういう裁判官が一番いけないかといいますと、自分の意見がない人、自分の意見を言えない人が一番よくない裁判官です。例えば、合議の中なんかでも自分の意見を言ってがんがん議論できない裁判官はだめな裁判官であります。  裁判所の中で、上に対して遠慮をして物を言わないとかいうことはどこから出てくるのか。私は、実は退官した後で非常に痛感しておりますことの一つは、先ほどの保岡先生のお話でも何かそういうお話がございましたが、裁判官をやめて非常に痛感していることの一つは、弁護士で、昔から長い、いろいろなことをやってこられた先輩の弁護士さん、あるいは物すごい経験のおありのような弁護士さんから何人も、裁判官というのはこういうことはどうなんだろうかということをいろいろ聞かれます。それが、そういうことまでそう思っていらっしゃるのかという見当違いが非常にあったということを、実は非常に私は印象的なことだと思っております。
  131. 上田勇

    上田(勇)委員 もう時間ですのでこれで終わりますが、今回二日間にわたりまして、いろいろなお立場方々から司法制度改革についていろいろな御意見をちょうだいいたしました。それぞれの経験やお立場から、この司法制度改革司法の現状に対しても、それぞれ認識としては結構幅広いものがあるし、改革の方向についてもいろいろなお考えがあるというのもわかった次第であります。  その意味で、この司法制度改革審議会設置されたならば、これはかなりいろいろな意見が出てきて、それを集約するのが結構大変なことなんだろうなというのが、正直、それぞれ先生方のお話を伺った感想でございます。その意味でも、この司法制度審議会は、設置されたならば活発な議論が行われると同時に、本当に幅広い国民の声を吸い上げるような装置が必要になってくると思いますし、その審議内容についても公開されたものにならなきゃならないなというのを感じた次第でございます。  きょうは本当に貴重な御意見をいろいろとちょうだいいたしまして、ありがとうございました。これで終わらせていただきます。
  132. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、達増拓也君。
  133. 達増拓也

    達増委員 質問をさせていただきます。  まず、菊池参考人に質問をさせていただきます。  実は、陪審制についてどう思われるかということを質問しようとしたのですが、上田委員に先に質問されてしまいまして、そのお答えの中で、やはり歴史を踏まえた制度、日本国民が求める制度という観点で検討すべきではないかというお答えがありました。  それで、私、歴史を踏まえ、日本国民が求めている司法制度、これを庶民感覚で、通俗的な表現をすればこんなものじゃないかと思うのですけれども、それは、テレビの時代劇で日本人に人気があるものとして、大岡越前とか遠山の金さん、そして水戸黄門。水戸黄門は裁判官ではないのですけれども紛争がある地域に行って、最終的に印籠を出して紛争解決して歩く。その三者に共通するのは、ある程度暴力も使いながら、悪い者を懲らしめ、最終的にお上の権威で正義の味方として裁く。日本の庶民感覚にあるものとして、ある程度暴力も伴う権威が正義の味方として裁くのを、一番それが理想的だと思っているのではないか、こう思われる節があるわけです。  ただ、それは余りに非民主的な紛争処理の仕方であって、そのままではよくないと思うのですね。そういう意味で、意識改革が実は必要なのではないかということも考えるのですが、その点についていかがでしょうか。
  134. 菊池信男

    ○菊池参考人 私、御質問の御趣旨を取り違えて申し上げるかもしれないのですが、今おっしゃった水戸黄門ですとか遠山の金さんのお話で出ました中で、暴力を伴った解決というところはちょっと、もともと裁判になじまないものですから、私は、あれによく日本人の争い事の解決の典型的なパターンが一つ出ると思いますのは、いわばしゃくし定規に割り切るのじゃなくて、人情に合った解決、その実情に合った解決というものが求められるのだということ。それはまさにそのとおりだろうと思います。  それが、現在の日本の制度の中ですと、制度として取り入れておりますのは民事調停であり家事調停だろうと思いますが、民事調停、家事調停の場合に、今事件が非常にふえております。調停の件数は私手元ですぐ出ませんが、非常にこのところふえております。  それはやはり、民事の紛争というのは、一〇〇%どちらかに理があって片っ方は一〇〇%悪いという事件、明白にそういう事件もありますが、そうでないものがかなり多い。それから、あるいはそれが法律的には一〇〇%理があっても、それで物事を解決したのではすがすがしい解決にならないということで、むしろそれは理屈以外のところで、人情とかそういうレベルで譲って解決をするということができればその方がいい、そういうことがあると思います。  調停もそうでありますし、少額訴訟事件のことを最初に申しましたが、その中で、一期日で和解ができてしまうというのが思ったより多いわけですが、その後で両方ともよかったという、そういう解決。これが日本人の意識の中で受け入れられる一つの形、相当大きな一つの形であることは間違いないと思います。
  135. 達増拓也

    達増委員 同じテーマで久保井参考人に質問しますけれども、そういう意味で、日本国民として、そういう司法の中に入って、事実認定のところだけであって、直接裁く部分までは行かないとしても、その前段階について自分がやるのだという意識がなかなか今現状としてないのじゃないか。また、そういうことを、正義の味方、すぐれた人にやってもらうならいいけれども、隣近所の人にやられたのではたまったものじゃないみたいな、そういう意識もあると思うのですね。その点について、どう克服できるのかというようなことを伺いたいと思います。
  136. 久保井一匡

    ○久保井参考人 たしか一週間ほど前の読売新聞が憲法に対する国民の意識調査ということを、三月の末だったか、全国調査をした結果が大きく報道されていました。一面及び三面、四面ぐらいに詳しく解説がありまして、その大きな柱に、国民司法参加をどう考えるかという質問がありました。  それで、陪審及び参審を採用すべきである、そろそろ日本も先進国に倣って陪審制、参審制を採用して、司法に対して国民がみずから行うべきだということについて、全体としての賛成が五六%。ただし、二十代、三十代、四十代ぐらいまでは六割を超えているわけですね。したがって、そういう意識というのも年々、国際化時代ですから、諸外国の意識も日本に入ってくることもあるのでしょう、意識も変わりつつあるのではないかということが一つ言えると思います。  それからもう一つは、やはり国民に対する啓蒙です。現在の日本人の国民意識が官尊民卑の思想を脱し切れていない部分、あるいは古くからのお上意識に埋もれている、まだ十分に自覚を持っていない市民の皆さんも多いと思いますけれども、そういう人たちに、人類の英知として、司法に対する国民参加というのが正しい方向であるということであれば、啓蒙活動をやっていくということも必要ではないか。  したがって、現時点での、余りぎすぎすした解決裁判による解決、あるいは市民裁判参加したりすることはせぬでもいいという意識を持っている人も、それは中には相当いらっしゃると思いますけれども、これは、新しい世紀、二十一世紀がもう目前に来ているわけですから、踏み越えていくべきではないかというふうに考えております。
  137. 達増拓也

    達増委員 引き続き久保井参考人に質問いたしますけれども社会の法的ニーズに関して、専門性がどんどん高まってきている。また、ビジネスの世界で、いわゆるビジネスローヤー的なニーズも非常に高まってきている。人権を守るとかいった、弁護士として今までそれが仕事だと思っていたそのコアの部分というのがあるのでしょうけれども、実際のニーズとしては、人権と直接関係がないような専門的な紛争処理やビジネス的なところがふえている。この問題について、弁護士としてどう対応していくべきと考えていますでしょうか。
  138. 久保井一匡

    ○久保井参考人 お答えします。  御指摘のとおり、現代社会が大変多様化、複雑化、高度化しておりますので、例えば知的所有権の紛争なんか技術技術の争い、非常にビジネス的要素が強いわけですけれども、やはりそこには普遍的な正義とか公平というものがあるわけで、法の支配を確立するという意味では同じ意味を持っているのじゃないかという感じがいたします。  そしてまた、幅広い社会のニーズ、社会的弱者の人権を擁護するという、基本的なそういうものがもちろん弁護士活動の最も重要な部分ですけれども、そういう個人だけでなくて、企業とか、いろいろな分野における適正手続というか公平というか正義というものを実現していく。それはビジネスローヤーという言葉で言うにしても、そこにはやはり普遍的な真実といいますか、正義の実現というものがあるわけですから、そういうものも、当然弁護士としてそのニーズにこたえていく必要がある。狭い意味での人権だけでなくて、社会のあらゆるニーズにこたえていくのが法律家の責務ではないか。だから、一元的に考えるのではなくて、多元的に考えていく、いずれの要求も入れていくというふうにしていくべきではないかと思っております。
  139. 達増拓也

    達増委員 菊池参考人に質問いたします。  専門性ということに関連しまして、例えば、労使紛争のための労働裁判所ですとか、あるいは特許関係のための特許裁判所、そういう特別裁判所があった方が便利ではないかという声がそれぞれの分野、現場の方からはあるわけですけれども、今の憲法では、最高裁以下の裁判所以外のものは制度的には認められていないのですが、機能として、今の裁判所の体系とそのほかのそういう特別裁判所的なものとの将来の関係というのをどう考えるのでしょうか。
  140. 菊池信男

    ○菊池参考人 御存じのように、今おっしゃいました知的所有権でありますとか労働関係といいますのは、普通、ある程度以上の事件があります場合には特別の部をつくってやっております。これは裁判所の中の、一種の特別裁判所をつくるのと構想としては同じような、要するに、そういうのはいわばそういう特殊な事件に練達した人がやった方がいいという発想が特別裁判所であろうと思います。そうしますと、労働事件については、御存じのような労働委員会制度というのがございます。  それから、知的所有権関係ですが、これは通常裁判所の特別部ということで処理することのメリットというのは、特許関係の処分というものは行政処分の一種であります。それから、中身の紛争というのが、普通の民事紛争と同じような権利侵害とかそういうことになってまいります。そうすると、対象が特殊だからということであっても、現在の憲法のもとでは、対象のいかんにかかわらず、法の支配という建前からいくと、やはり通常裁判所で同じ基準で、ただ、事柄の性質上、それが特殊な性質を持っているとすれば、そのことをよくのみ込んだ人がやるという特別部式の扱い方というのが、私はやはりいいのではないかというふうに思っております。
  141. 達増拓也

    達増委員 これで質問を終わります。ありがとうございました。
  142. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、木島日出夫君。
  143. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。三人の参考人の皆さん、本当にありがとうございました。  端的にお伺いをしたいと思うのですが、今の司法改革を求める流れ、人権擁護のとりでとしての役割を果たしていないじゃないかとか、紛争解決機能としての役割が不十分だとか、いろいろあるのですが、一つの共通する流れに、裁判官批判といいますか、裁判所批判といいますか、明治以来の百年間の官僚司法批判があるということはもう厳然たる事実だというふうに思うわけであります。  それで、菊池さん、高橋さんに、もう長い間まさに官僚の中で暮らしてきた方で、率直な御意見をお聞かせ願いたいのですが、先ほど、日弁連の久保井参考人の方から、明治以来の純粋培養裁判官への批判というので、まさに純粋培養されてきた皆さんかもしれませんが、そういう批判。率直に、きょうはもう裁判官裁判所代表じゃなくて、個人として、そういう中にいた皆さんの率直な印象、感想をまずお聞かせ願いたいなと思うのですが。
  144. 菊池信男

    ○菊池参考人 おっしゃいましたように、私も昨年やめたばかりでありますので、いろいろなことがしみついているとすればまだ残っている当人でありますが、そういう批判があるということは、私は非常に悲しいことだと思っております。  先ほどもちょっと申しましたが、弁護士から裁判官になられた方の持たれる感想の一つに、雰囲気が思ったより随分自由なので驚いたというのがあります。  それからもう一つは、弁護士というのは、やはりそれぞれ自分の得手の事件を選んでやる。要するに、特殊化しているというのがどうも普通のあり方のようでありますが、裁判所に入って驚いたことの一つは、ありとあらゆる事件裁判官は担当するということ。それで、実務家というのは、事件で学ぶ、事件で勉強する、事件でいろいろな経験をし、事件に教えられるというのが実務家だと思います。それで、法曹として、そういう非常にいい意味での勉強になるのだということを一つ感想としておっしゃる。  それからもう一つ、裁判官というのは、外から見ていたときには、ともかくおもしろみのない、人間味のない連中の集団だと思っていたけれども、意外に人間味のある人が多いのだということで見直した、こういう調子のことがございます。私は、直接私が申し上げるよりも、弁護士任官の人たちがそういうふうにおっしゃっておられるということを申し上げたいと思います。  どっちにしても、外からどう見えるかということで、やはりそういうふうに見えるということ、これは裁判官たるもの、本当にそういうふうに見えるのだということをいつも心して考えていかなければいけないことだというふうに思っております。
  145. 高橋武生

    高橋(武)参考人 検察庁あるいは検察官につきましては、裁判所以上に官僚組織の一員だという批評があるようでございます。これは、どちらかというと、例の検察官一体性の原則というのがございますので、これの恐らく大変な誤解に基づくものではないかというふうに思っているわけでございます。  私は、かつて四年間、最高裁判所司法研修所の教官をやってまいりました。その中で、最初は、修習生はいずれもそういう感想を持つわけでございます。しかしながら、実務庁で研修をする中で、検察官一体の原則が、上命下服という考え方ではなくて、事件の統一的かつ公正なあるいは公平な処理をするための制度だということをよく理解していただいたという記憶がございます。  私も三十六年間検察官をやってまいりましたけれども、まず、検察官を支配しているのは、検察官は独立の官庁であるという観念であります。したがいまして、個々の検察官が判断した事柄につきましては、当然決裁とかあるいは指揮とかそういう形でかんかんがくがくの論争はございます。しかしながら、誤りのない捜査、処理である限りは、それは認められていくというのが私の実感であります。  そういう意味で、外から言われているような形での官僚主義、あるいは上命下服ということも当たっていないのではないかという気がいたしております。
  146. 木島日出夫

    ○木島委員 菊池参考人がおっしゃられた、今の裁判官裁判が外からどう見られているか非常に大事だ、それは裁判の説得性を持つためにも大事だ。実は、恐らく、私は、そういう論理で日本裁判官は、公正中立、廉潔ということでこの百年以上やってきたのじゃないか。しかし、逆に言うと、そういう考えで、政治的には中立、政治的に偏った青法協なんか入っちゃいかぬぞという形で裁判官の統制が行われてきたんじゃないかなと思わざるを得ないのです。  最近起きた最大の問題として、寺西判事補の事件がありまして、最高裁の判決を見て大変私は驚きました。弁護士会出身と学者出身の五人の最高裁の判事が、あれは懲戒すべきでない、検察、裁判出身の十人の裁判官が、ああいうことはいかぬという、物の見事に分かれたんですね。だから、私は、どういう立場で育ってきたかというのはやはり大事だなと感ぜざるを得ないわけでして、余りにも日本裁判が官僚裁判で、国民の実情に疎くなっているんじゃないかという批判が元最高裁長官の矢口さんあたりからも出てきているのじゃないか。  そういう根源的な批判から、やはり法曹一元とか陪審、参審その他、国民司法参加する、そういう流れが出てきているんだろうし、あるいは裁判官たるものも、国民とかけ離れた廉潔の人じゃなくて、国民と同じ、そういうどろどろした社会を知った人間に裁判官になってもらって、判決を下してもらった方が裁判の説得性もあるんじゃないか。そういう根源的な変革が今求められているのじゃないかなというふうに私は思っているのですが、菊池参考人の御意見、どうでしょう。
  147. 菊池信男

    ○菊池参考人 今の御質問は、結局、法曹一元に結びつくお話だというふうに理解して申させていただきますが、法曹一元というものの採用が言われるときの強い論拠の一つがそういうことであることは間違いないと思います。  ただ、私、法曹一元ということで申しますと、これは二つのことをぜひ申し上げたいなというふうに思います。  御存じのように、かつて臨時司法制度調査会がまさに内閣に設置されて、法曹一元を中心的なテーマとして二年間検討いたしました。あのときに、結局、結論的には、円滑に行われるならば、我が国においても望ましい制度の一つが法曹一元だというふうに言いまして、ただそのときに、法曹一元を実現するためには条件が必要だろうと思うということで、いろいろな条件を挙げております。その一つが、法曹人口の飛躍的拡大、弁護士の地域的分布の平均化、それから弁護士に対する国民の信頼度の向上、その他幾つかありますが、この臨司の意見書というのはいろいろな論点が整理されていると思います。  法曹一元の採用を現実の問題として考えるのであれば、ここで指摘されたような事柄が現在どうなっているんだろうか、そういうことを実質的に検証するということは避けられないことだろうと思います。法曹一元を議論する場合には、その点の検証がぜひ必要だ。  それからもう一つ、法曹一元というのは、御案内のとおり英米法系でとられている建前でありまして、ヨーロッパ大陸の大陸法系ではキャリアシステムがとられているということであります。これも、陪審と同じようなそれぞれの歴史的、文化的、社会的な背景があります。やはりここでも非常に決定的だと思いますのは、法曹一元を採用するかどうかを検討する際にぜひ検討しなければいけないと思いますのは、国民の意識の問題だろうと思います。我が国国民がどういうような裁判官による裁判を求めているのかということ、そしてどういう司法制度を求めているかということ、これが一番決定的なことだろうと思っております。
  148. 木島日出夫

    ○木島委員 今の問題提起を日弁連の久保井参考人の方はどう受けとめるのでしょうか。国民の意識、要するに、廉潔な裁判官裁判してもらった方がいいと日本国民はまだ考えているんじゃないかという、これは恐らく裁判官なり検察官の厳然たる、なかなか動きがたい考えだと思うのですが、それに対するお考えをちょっと聞かせてください。
  149. 久保井一匡

    ○久保井参考人 先ほどもお答えしたことと重複すると思いますけれども国民の意識も刻々と変わってきていると思います。  もうすぐ二十一世紀ということで、先ほど言いました読売新聞社の全国世論調査の中で、二十代から四十代の人は六〇%以上が陪審制、参審制を支持している。特に陪審制を支持している。全体としても、過半数が陪審制を支持するというような結論になっていますので、世界の司法に対する常識、司法に対する国民参加の常識が日本国民の中にも徐々に浸透してきているということが一つは言えると思う。  それと、確かに、官尊民卑といいますか、非常に秀才で緻密な司法、その方が素人の裁判よりも危険性が少ないというか、素人の裁判というのは感情に流されやすいとか世論に弱いとか、いろいろ批判がありますけれども、戦後五十年間、新憲法のもとで国民も成長してきていると思うのですね。それと、世界の司法の発展の歴史の中で到達した司法参加というもの、やはりそれは人類の一つの到達点になりつつあると思うので、我々法律家としても、国民に対してこれを啓蒙して、説得していくということも必要だと思うのです。  だから、現時点で、官僚裁判官といいますか、職業裁判官に全部やってもらった方が危険性が少ないというふうに思っておられる方はかなり多いとは思いますけれども、それはそれほど絶対的なものではないというふうに思っております。
  150. 木島日出夫

    ○木島委員 時間も残り少ないので、最後に、今回の審議会の委員をどういうメンバーで十三人構成するかというので、根本的な考えの違いがありまして、法曹三者を入れるべきかどうかという問題なんですよ。  法曹三者を入れるべきでないというのは、裁判所も検察庁も弁護士も自己改革はできそうもない、ですからこの際、自己改革できそうのない法曹三者は排除して、法曹三者のいない、国民だけで委員を構成して審議した方がいいという考え。いや、法曹の現場を知らない者が審議したのではだめだ、やはり法曹三者、現場を知っている者も、それで埋めるというのではなくて、一定の人数はいなくちゃいかぬという、かなり根本的な対立があるのです。私も、代表が入るというのは余りよくないかもしらぬですが、現場を知る人が全然いない審議会というのはどこへ暴走していくかわからないと思うわけなんです。審議会のメンバーに法曹三者がどういう形で関与するべきかについて、これに対するお三方の御意見を一言ずついただければ幸いであります。
  151. 菊池信男

    ○菊池参考人 結局、司法制度というのは現にあるわけです。ある制度を改正しようというわけです。改正というのは、やはり悪いところを改正してよくしていくということです。ですから、現状がどうかということの認識は絶対必要なことで、現在の状況の認識をできる人の見方というものを十分考慮していただいて物事を決めるべきだ。  それから、特に司法というのは三権の一つであります。三権の一つのあり方を考えるというときに、三権の一つ、それから検察官は法務省で法務大臣に代表されるにしても、日弁連というのはやはり国の組織とは別の大きい組織としてあるわけです。こういうところの意見も十分反映されて、それを御検討いただく、そういう仕組みがどうしても必要なのではないかというふうに思っております。
  152. 高橋武生

    高橋(武)参考人 全く同じ考えでございますけれども、要は、裁判所、検察庁、弁護士会が改革の能力がないかどうかということは別にいたしまして、現にこの司法制度を運用している者たちが、新しい制度をいかにすべきかは常に考えていることでございます。その日ごろ考えている事柄について、やはりくみ上げていただくのが相当ではないかと考えているような次第です。
  153. 久保井一匡

    ○久保井参考人 ただいまお二方の参考人がおっしゃられたとおりでございますけれども、若干つけ加えさせていただきますと、国のあらゆる制度というのは、最終的には国民のためにあることは事実でございますから、司法制度をどのような形にするかということについて、国民の皆さんが中心になって御審議いただく、わかりやすく言えば、利用者の立場に立って見直すということは当然だろうと思います。  しかしながら、現状に全くそぐわないものを白い紙にぱっと書くというわけではなくて、現在存在する司法制度を前提として、どこをどう変えていくかということを御審議いただくわけですから、やはり現場の状況をよく知った者がそういう情報を提供するということは是が非でも必要です。有効な、有益な審議にしようと思えば、そういう情報を受け入れた上での審議でなければ、実態に合わないのではないかと思います。  それからもう一つ、大変手前勝手な言い方をさせていただいて恐縮ですけれども、この司法改革の動きというのは、平成二年に日弁連が国民の皆さんに問題提起をさせていただいて、十年たってようやくこの国会の場で本格的に御論議いただくことになった。十年間の蓄積というのが我々日弁連にございますので、ぜひこれを活用していただきたいというふうに思います。どうぞよろしくお願いします。
  154. 木島日出夫

    ○木島委員 終わります。ありがとうございました。
  155. 杉浦正健

  156. 保坂展人

    保坂委員 社会民主党の保坂展人です。  まず、久保井参考人にお尋ねいたしたいと思いますが、私ども、社民党として、司法制度改革自体には賛成ですけれども、今回の設置法、提出原案そのものには非常に疑義がある。内閣に対する白紙委任というのは国会の機能を放棄することでもあるという立場で、大変疑問を持っています。  だから、いいものにする議論のためにお聞きしたいと思うのですが、歴史を振り返ると、ちょうど一九二八年、昭和三年に陪審法が施行されておりますが、その同じときに治安維持法が改正されて、死刑が導入され、目的遂行罪が新設されている。そのまた十年後には国家総動員法が制定され、日本弁護士協会は反対声明をする。しかし、その六年後には弁護士協会は解散、大日本弁護士報国会という形になっていく、そういう戦前の歴史があります。  さらに、臨司という話が出ていましたけれども、臨時司法制度調査会、これも大きな論議を呼んだと言われていますけれども審議会の置き方として大変よく似た法案として提出されてまいりました。内閣法十二条四項ということを根拠にして今回置かれるわけですけれども、この臨司の中には、国会に報告するように内閣に申し出ることができるという項目もちゃんと入っているのですが、今回それもないわけです。削除されているわけですね。  もう一点、この議論が、経済団体からの提言、そして自民党の中の党内議論を経ながら現在提案に至っているというのは御存じのとおりですが、その中に、弁護士自治の見直しという部分も、自民党の出された文書の中にはっきり記されているのですね。指針の中からは削られていますけれども、分科会の報告の中にあります。そういう意味では、弁護士自治も含めて議論の対象になるということだと思うのですけれども、こういった提案について、日弁連として、あくまでも推進すべきというふうにお考えなのかどうか、お答えいただきたいと思います。
  157. 久保井一匡

    ○久保井参考人 お答えいたします。  先生御指摘のような心配は私どもももちろんしております。したがいまして、審議会の設け方としては、もちろん、内閣に設ける方法のほかに、国会に置くとか、場合によったら最高裁判所に置くとか、いろいろな方法はあろうかと思います。しかし、国権の最高機関である国会で十分に御審議いただくということがもしできるとしたら、それが非常に好ましい方法であるということについては、私も同意見でございます。  ただ、現にこういう形で提案されていますから、審議会が設置されれば、我々としては、我々の考えている司法改革を実現するためにそこに参加していきたいと思っているだけでありまして、国会で十分に枠をはめていただくといいますか、審議の方向性とか審議の仕方とか審議会の委員の人選とか、そういうものについての仕組みとか、十分に枠をはめていただくことについてはぜひ必要なことだろうと思っております。  それからもう一つつけ加えますならば、確かに、自民党のお出しになられました昨年の六月十六日の指針が審議会の提唱をしたのを受けて、政府がこれを取り上げられたということは、直接のきっかけとしてはそのとおりでございます。しかし、その前に、我々十年間にわたって司法改革運動をやってきて、それが学者とか産業界、労働界、そして政府にも波及していったということで、我々の運動の結果としてこういう状況が出てきたという側面もあるわけでありますので、やはり臨司の、昭和三十七年ですか、そのときとは少し事情が違うのではなかろうかというふうな感じも持っております。  いずれにしましても、御指摘のようなそういう心配は私どももしておりますので、この国会におかれまして、十分問題点を出していただいて、誤った方向に行かないように、枠をはめていただきたいというか、方向性を出していただくことを希望したいと思います。
  158. 保坂展人

    保坂委員 それでは、菊池参考人にお尋ねいたしますが、先ほど、弁護士から任官された方が、極めて裁判官は自由だということで、逆に新鮮な気持ちでというお話がそのとおりであってほしいなというふうに思うのですが、具体的に、先ほど通信傍受などのお話も出ていましたので、これらを公正に担保する令状却下率、令状が申請されたときに却下する比率が、例えば勾留の場合だと、一九六八年だと四・五七%、七八年で〇・八%、八八年で〇・三%、九七年で〇・二六%というふうに落ちております。  日弁連で、令状審査のチェック機能裁判所は果たしているだろうかというパンフレットをつくられています。若干紹介いたしますと、この中に、六七年に任官された秋山賢三さんという、裁判官だった方ですが、勾留請求を却下すると、地検の幹部検察官に部屋に来られて説教されたことがある、法律上の準抗告などのほかに、先輩、後輩の役人同士の関係における抗議という体験をされたというお話。それから仁平さん、これは七八年に任官された裁判官、今お二人とも弁護士ですけれども、この仁平さんは、「転勤して間もない時期に行う勾留却下や保釈許可に対しては、準抗告という形で検察庁がその存在をアピールしてくることもありますね。」その場合、合議体で準抗告審を構成し、時間的に大体夕方になって、裁判官が三人、そして書記官も残って、転勤してきて余りなじんでいないときなので、新参者が騒ぎを起こしたような雰囲気になってしまうのですというふうなことを語られているわけなのですね。私も、裁判官の方と直接話す機会が余りありませんから。  そうすると、この令状の扱いなんかで、裁判官の方が、人権ということを預かる、特に行政、立法から独立して人権を守るというその独特の役割というのを果たしてきちっと自覚されているのかどうか。今御紹介したことの感想も含めて、お願いしたいと思います。
  159. 菊池信男

    ○菊池参考人 私、実は刑事というのは若いころに、十年たったあたりで、一年やっただけです。  ただ、御存じのように、令状というのは刑事事件担当以外の者もやりますので、若いころはやったことがあります。却下もしたことが複数回ありますが、いずれもそういうことは何もなかったし、準抗告も出なかった経験です。  私、最近の令状関係の実情も詳しくないんですけれども、ただ、裁判官機能を果たしているかどうかということを見るのに令状却下率ということで言われるのは、私は裁判一般にそういう見方というのはどうかというふうに思います。事件というのは同じものがございません。ですから、一つ一つ吟味した上でいけないのがあるということであればわかるんですが、却下率が非常に高いのと低いのと、それは内容からいえば正しいか正しくないかということは、それだけからは結論は出てこないことだというふうに思います。  ですから、人権意識というものに疑いが持たれるという根拠はないんじゃないかというのが私自身の感じであります。
  160. 保坂展人

    保坂委員 それでは、検事長であられた高橋参考人に伺いたいと思うんです。  先ほど通信傍受の必要性というようなこともお触れになりましたけれども、先ほど久保井参考人にお話ししたように、戦前は特高警察と思想検事という強い権限があって、これが国家総動員体制を構築していった。戦後のいわば改革でスタートした検察のあり方、これを五十数年の歴史を振り返ってどういうふうに評価されているのかという点について、非常に大きな視点で、どのようにお考えになっているのか、お願いしたいと思います。
  161. 高橋武生

    高橋(武)参考人 戦前の事柄につきまして、私も大分年でございますけれども、なかなか正確なところはわかっておりません。しかしながら、我々、新しい検察庁が発足して以来、刑事訴訟法一条の精神に基づいて、要するに、捜査の必要があったとしてもそれは適法な手続でやらなければいけない、その過程で何人たりとも人権に侵害を起こすような事柄であってはならないということは肝に銘じてやってきております。  したがいまして、仮にそんなことがあったとするならば、現在の検察庁は全く違う、適正な理念で運営されていると御理解いただいてよろしいかと思います。
  162. 保坂展人

    保坂委員 それでは、もう一回久保井参考人に戻りますけれども、事務局の構成ということがこの委員会でたびたび話題になっております。参考人質疑でこれをずっと話題にしてきているんですね。十三人がどういう形で選ばれていくかという透明な情報公開というか基準の提示ももちろんですけれども、事務局に最高裁あるいは法務省あるいは大蔵省などの役人の極めて事務的にもてきぱきと次々とリードされる方、臨司の場合にも似たようなことがあったと聞いておりますけれども、そこをきちっとコントロールする、あるいはきちっとルールを出していただくということが何より必要だと我々は考えています。  例えば、日弁連はそのことにどういう御意見をお持ちなのか。とりわけ、これは弁護士に限りませんけれども行政に対する情報公開を請求してきた、ある種の司法官僚制を批判的にきちっと見られる、そういう部分を代表した事務局員というのも、本来、公平な司法改革国民のための司法改革であれば必要と思うんですが、いかがでしょうか。
  163. 久保井一匡

    ○久保井参考人 お答えします。  今御指摘のとおりだと思います。委員だけじゃなくて事務局の人選を誤りますと、そこで公平な問題点の整理がなされなくなるおそれもありますし、資料の収集にしても同じだと思います。したがいまして、事務局の人選が適切であり公平なものでなきゃいかぬと思います。  ただ、最高裁とか法務省はもちろん司法当事者ですから入っていただくのは当然だと思いますけれども、同じく司法を支えてきた弁護士会、これは在野の団体ですけれども、同じようにぜひ事務局に入れていただかなければならぬ。国民の代表、市民の代表の立場において事務局にぜひ入れていただきたい。しかも、全体の人数が何名になるのか、そのあたりのことはまだお聞きしておりませんけれども、一名だけでなくて複数名入れていただかなければいかぬ。市民立場に立って問題点を整理する、資料を収集するということのためには、在野団体もぜひ入れていただきたいというふうに思っております。  以上です。
  164. 保坂展人

    保坂委員 では、重ねてその点伺います。  日弁連の要望はよくわかりましたし、我々と意見もそう変わらないと思いますけれども、ただ、対政府質疑では、それはあくまでも審議委員がお決めになることで我々は知りませんということですので、そういう意味で、日弁連の要望というのは今回の審議会に、事務局構成も含めてはっきり反映されるという予想でいらっしゃいますでしょうか。
  165. 久保井一匡

    ○久保井参考人 もし審議会がスタートする場合には、委員はもとより事務局にも、日弁連に十分事前に意見を聞いた上でやってほしいということは法務省とか内閣の内政審議室の方には申し上げておりますけれども、しかし、どの程度のみ込みになっているのか、今私、執行部そのもののポストにもおりませんし、これ以上ちょっとお答えできません。
  166. 保坂展人

    保坂委員 私どもは、そういった意味で、事務局構成も含めて公平なルール、しかもだれから見ても情報公開をしっかりしているということになるようにこの法案にきちっと手を加えて、納得がいける地点まで努力を最後まで続けたいと考えております。  きょうは、参考人の先生方、どうもありがとうございました。
  167. 杉浦正健

    杉浦委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  次回は、来る四月二十一日水曜日午後零時五十分理事会、午後一時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時五十七分散会