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1999-03-30 第145回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年三月三十日(火曜日)     午前十時一分開議   出席委員    委員長 杉浦 正健君    理事 橘 康太郎君 理事 八代 英太君    理事 山本 幸三君 理事 山本 有二君    理事 坂上 富男君 理事 日野 市朗君    理事 上田  勇君 理事 達増 拓也君       加藤 卓二君    河村 建夫君       小杉  隆君    小林 多門君       左藤  恵君    笹川  堯君       菅  義偉君    西田  司君       保岡 興治君    渡辺 喜美君       枝野 幸男君    佐々木秀典君       福岡 宗也君    漆原 良夫君       安倍 基雄君    木島日出夫君       保坂 展人君  委員外出席者         参考人         (大阪大学法学         部教授)    池田 辰夫君         参考人         (九州大学法学         部教授)    大出 良知君         参考人         (東京大学大学         院法学政治学研         究科教授)   伊藤  眞君         参考人         (名古屋大学法         学部教授)   戒能 通厚君         法務委員会専門         員       海老原良宗委員異動 三月三十日         辞任         補欠選任   加藤 紘一君     小林 多門君 同日         辞任         補欠選任   小林 多門君     加藤 紘一君 三月二十五日  子供の視点からの少年法論議に関する請願石毛えい子紹介)(第一四九三号)  同(枝野幸男紹介)(第一四九四号)  同(佐々木秀典紹介)(第一四九五号)  同(肥田美代子紹介)(第一四九六号)  同(保坂展人君紹介)(第一四九七号)  同(石井郁子紹介)(第一五二〇号)  同(石毛えい子紹介)(第一五二一号)  同(木島日出夫紹介)(第一五二二号)  同(中川智子紹介)(第一五二三号)  同(肥田美代子紹介)(第一五二四号)  同(藤木洋子紹介)(第一五二五号)  同(石毛えい子紹介)(第一六〇一号)  同(北村哲男紹介)(第一六〇二号)  同(中川智子紹介)(第一六〇三号)  同(肥田美代子紹介)(第一六〇四号)  同(保坂展人君紹介)(第一六〇五号)  同(家西悟紹介)(第一六五六号)  同(石毛えい子紹介)(第一六五七号)  同(中川智子紹介)(第一六五八号)  同(肥田美代子紹介)(第一六五九号)  民法改正による選択的夫婦別制度導入に関する請願中川智子紹介)(第一五一七号)  法制審議会公開に関する請願木島日出夫紹介)(第一五一八号)  同(古川元久紹介)(第一五九九号)  法制審議会委員一般国民採用に関する請願木島日出夫紹介)(第一五一九号)  同(古川元久紹介)(第一六〇〇号)  司法制度改革審議会設置法案に関する請願木島日出夫紹介)(第一五二六号)  外国人登録法抜本改正に関する請願北村哲男紹介)(第一五九五号)  同(保坂展人君紹介)(第一五九六号)  同(桑原豊紹介)(第一六六〇号)  同(佐々木秀典紹介)(第一六六一号)  同(坂上富男紹介)(第一六六二号)  通称使用制度によらない選択的夫婦別姓制法制化に関する請願中川智子紹介)(第一五九七号)  定期借家権制度を創設する借地借家法改正反対に関する請願北村哲男紹介)(第一五九八号)  外国人登録法抜本改正に関する請願佐々木秀典紹介)(第一六五五号) は本委員会に付託された。 本日の会議に付した案件  司法制度改革審議会設置法案内閣提出第二五号)     午前十時一分開議      ————◇—————
  2. 杉浦正健

    杉浦委員長 これより会議を開きます。  内閣提出司法制度改革審議会設置法案議題といたします。  本日は、本案審査のため、まず午前の参考人といたしまして大阪大学法学部教授池田辰夫君、九州大学法学部教授大出良知君の両名の方に御出席いただいております。  この際、参考人各位委員会を代表いたしまして、一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。  次に、議事の順序について申し上げます。  まず、池田参考人大出参考人の順に、各十五分程度意見をお述べいただき、その後、委員質疑に対してお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。  それでは、まず池田参考人お願いいたします。
  3. 池田辰夫

    池田参考人 おはようございます。大阪大学池田です。  本日は、時間も大変制限されておりますので、前口上を抜きにしまして、早速本法案への意見を述べたく思います。  本法案は、提案理由説明によりますと、内閣司法改革に向けた議論の場を設け、二十一世紀我が国司法が果たすべき役割を明らかにし、司法制度改革基盤整備に関して必要な基本施策について調査審議し、その結果に基づき内閣意見を述べることを所掌事務とするというふうにされております。  もとより、二十一世紀のあるべき司法の姿を見据えて論議する、そういう器の設定には賛成でありまして、時あたかも世界司法のありようがさまざまな当該国事情を踏まえまして熱い議論が展開されているわけでございます。ぜひ速やかに改革審が設置され、本格的な論議が開始されますよう、まずは申し上げておきたいと思います。そして、この際には、先進外国制度につきましても徹底して調査し、世界の目から見ても誇り得る意見書、そういうものを期待しております。  なお、本日はせっかくの機会でございますから、この際に、司法制度改革審議会、以下改革審というふうに呼ばせていただきたいと思いますけれども改革審での論議が予定されます点につきまして、私の意見を申し上げたいと存じます。もっとも、時間の関係がございますので、ここでは三点に絞りたいと思います。いずれも重要な問題なんですが、とりあえず三点ということで、法曹人口問題、それから法曹養成継続教育関係した問題、それから三点目はアジア諸国への法制度整備支援の問題、いずれも相互に関連する問題でございます。  それでは、まず第一点ですけれども法曹人口に関する改革ということでございますが、先進外国に比べまして、確かに我が国法曹は量的にも不足の感を否めないところでございます。しかし、ただその数合わせをすればよいというものでは全くないわけでございます。これまでに歴史的に形成されてきました我が国司法、あるいは法曹への利用者信頼、これを今後とも確保すべきは当然でございまして、質を伴った量の堅実な拡大ということが志向されるべきであろうというふうに考えております。  ちなみに、我が国にとってどれぐらいの法曹人口が適当であるかという点ですけれども、例えば、米国よう弁護士九十万人、そういうもとでの訴訟社会を目指すということが適当であるとは考えておりません。この点、英国あるいは米国とも異なる発展を遂げておりますオーストラリア一つ参考になるかもしれません。  例えば、一九九七年末ですが、この段階でのオーストラリア弁護士の総数は三万七千二百十七名ということでございます。前年よりも四%ふえているということでございます。ただ、このうち法廷弁論資格を有する者、これは先生方御案内のようバリスターというふうに呼ばれておりますが、これは一一%ということで、約四千名になります。これも前年よりも四%ふえているという計算になります。ちなみに、同国の現在の総人口は一千八百七十一万人ということになります。人口比でいきますと、十万人当たり約二十二名という計算になります。  そこで、それぞれの国の事情、違いますので、単純に比べるということはやや乱暴ではあるわけですけれども法廷弁論資格があるという意味合いでは、この数字で比較してみるということもあり得る選択肢かと思っております。  そうしますと、オーストラリアの場合には、先ほども申し上げましたように、十万人当たり約二十二名ということでございましたが、我が国の場合は約十三・四名という計算でございまして、オーストラリア我が国のおよそ一・六倍ということになります。もし弁護士増加につきまして数値目標的なものを設定するのであれば、無論、それをすること自体の当否については大いに問題があるわけですし、また、さまざまな事情は考慮されるべきは当然でございますけれども、あるいは、このあたりが一つの目安として議論材料になるのではないかというふうに考えております。  我が国で、もし毎年七%程度ふやしていくというふうにいたしますと、十年程度で約一・九七倍ということになります。オーストラリアも今後ともふえていくということですが、我が国長寿国であるというようなこと、いろいろとその他の事情も勘案いたしますと、緩やかにこのオーストラリアのモデルに接近するということにはなろうかと思います。  なお、このオーストラリア資料につきまして一言させていただきたいと思います。  実は、ことしの八月にオーストリアのウィーンで、私どもが所属します国際手続法学会の主催で第十一回の世界会議が開かれます。これには各国から訴訟法の学者、弁護士裁判官等が集まります。この会議は、新千年紀目前手続法ということを共通テーマとしまして、要するに二十一世紀における司法のありよう、主としては民事司法ということになりますが、これを討議いたします。その中の議題一つ法学教育あるいは法曹教育といったものでございまして、この部分を私とフランスのパリ第一大学教授とで担当いたします。実は、その準備のために今国別のデータを収集しておりまして、今申し上げました数字はつい最近私が入手した最新のものであるということを申し上げておきたいと思います。  このように、弁護士増加ということを考えていくにいたしましても、もちろん職業として成り立たない非現実的な空論では全く意味がございません。この点、社会あるいは経済の仕組みがこれからますます複雑化する、そういう中で、いわゆる法化社会ということが言われておりますが、そういう形で進行しつつあります。あるいはまた、少子高齢化社会といったような問題などもございます。そういうコンテクストの中で、さまざまな分野法律にかかわる問題が質的にも量的にもふえてきておりますし、予防司法を含めました活躍の場というのは、今後拡大可能性を秘めているように思います。  また、我が国では、これまで諸外国に比べて極めて貧弱というふうに指摘されております法律扶助制度につきましても思い切った制度改革が志向されているようでございますので、これが充実されることによりまして、例えば地方での弁護士活躍機会が一層拡大するということがあるいは出てくるかもしれません。一般的にも、多面的な関与、活躍というものが可能になってこようかと思います。そのことは、ひいては、弁護士法の一条にもございますように、専門職として、基本的人権の擁護と社会正義実現に資するというところになろうかと思います。  さて、裁判官、検察官の定員増ですけれども、この過重負担解消の面でどうするのかという問題とともに、とりわけ裁判官につきましては、いわゆる法曹一元の論議も微妙に絡んでまいるところでございます。ただ、この点につきましては、ムードに流されないしっかりとした議論を希望したいと思います。  例えば、そういう議論をする前提といたしまして、現在の職業裁判官を中心としましたやり方、これによって全国均質司法サービスを提供してきたというふうに指摘もされておりますが、そういう点、あるいは市民感覚を生かすということで導入されております弁護士任官についても、あるいはその他のもろもろの事柄につきましても、司法独立を侵さない範囲内において、客観的な第三者的な調査あるいは評価ということがあるいはこの際あってもいいのではないかというふうにも思います。判断材料をふやすという意味におきましては、少なくともそうした基礎的な資料というのは必要であろうと思います。  それから第二点ですけれども法学教育あるいはいわゆる継続教育の充実ということでございます。ここでは、質の高い法曹に向けた教育ということがポイントになろうかと思いますので、その点に絞ります。  法曹人口拡大というのは、当然のことながら法曹の質についても問うということになります。とりわけ二十一世紀法曹というのはどうあるべきか、そのための教育養成手法はどうあるべきなのかという課題でございます。  言葉をかえて言いますと、これからますます複雑化し国際化する社会の中で、どのような紛争が予想され、またその際、これからの法曹はどうあるべきか。そういうように将来を見据えた上で、法制度の担い手である法曹役割、どういう役割が期待されているのか。さらには、そのためのあり得べき法曹教育とは何なのか、どのよう手法により、いかなるプログラムを構築すべきかといったようなことになろうかと思います。  一般的に言えるであろうことは、来るべき時代法曹には、社会に対する広い視野を持つこと、法律知識のみならず、それのみに包摂されることのないカウンセリングの能力、あるいは交渉力、さらには柔軟な思考力といったものがより重要性を増してくるであろうといった予測ができるかと思います。  個別には多くの論点がございます。  例えば、大学教育については、学部教育大学院教育双方のありようと連携が問題になります。この点につきましては、最近インターンシップ制という職業実習制度を取り入れるというようなことが出てきておりますし、あるいは非常勤講師制度拡充するということによりまして、実務家と私どもがチームで教育する、そういうやり方等導入について検討されることがあってもいいのではないかと考えております。あるいは、通信衛星、インターネット、こういうものを利用して遠隔共同講義をするということも重要かと思います。  これからの法曹といいますものは、地理的な壁を乗り越えて、あるいは国境さえも越えまして、世界法曹共同作業をするということがふえてくると思います。そうした面で、こうした動きを積極的に支援する施策というものがあってしかるべきだろうと思います。  それから、場合によりましては、現在、管轄、移送問題で鋭く対立する、そういう隔地者間の具体的な民事訴訟事件というものがございます。こういうものにつきまして、例えば当事者等の同意を得まして、大学での授業の一環として、通信衛星を使いまして生の口頭弁論の余地というものを認め得ないものか、個人的には関心を持っております。  あと、いろいろと申し上げたいことがございますけれども、三点目のアジア諸国に対する法制度整備等支援拡充について申し上げておきたいと思います。  アジア太平洋地域我が国経済取引を通じました結びつきが、北米地域あるいはヨーロッパにも増しまして、近年大変強まってきているということは各種の統計からもうかがうことができます。円滑かつ安定した経済取引には、最低限、法的な基盤整備が不可欠でございます。こうした中で、近年、過去または現在におきまして、社会主義諸国におきまして市場経済を目指す動きが強まってきております。それに合わせまして、社会経済立法整備当該国で焦眉の課題というふうになってきております。  我が国は、歴史的にもアジア諸国に多大な苦痛を与えた経緯がございます。立法整備で困っているこうした国々に、当該国の意向を十分に踏まえた上で、支援の手を差し伸べるべきはむしろ国の責務でもあると思います。ついこの前まで、アジアの奇跡あるいは成長アジアなどと持ち上げられてきたアジア経済は、目下、大変傷ついた状況下にございます。一九九七年はアジア経済信頼失墜した年とさえ言われております。  無論、我が国を含めまして、持続的な成長に向けての制度改革に残された時間はそう多くはないのではないかと思いますけれども、今この地域に求められております法制度透明性のために、法務省あるいは外務省などによるこうした支援事業の一層の拡充化という施策を期待したいと思います。  こういった法制度そのものについての整備支援ということとまさに車の両輪になるわけですが、一国の司法制度の質というのは、それを担う法曹の質あるいは法曹教育にも依存するわけでございまして、とりわけ国際化した社会では、一国で発生した事件我が国市民あるいは企業が巻き込まれるということも少なくございません。したがいまして、当該国司法の質、これはその国だけの問題ではもはやないということも言えるかと思います。その意味で、当該国法曹教育の面でも、当該国から支援の要請があればこれに応ずるということも、我が国にとって十分に意義のあることであろうと思います。  時間が参りました。最後になりますけれども司法といいますのは三権の一つでございます。広く司法制度全般に対しまして、それにふさわしい配慮が予算的にも一層必要になってこようかと思います。  ともあれ、二十一世紀を見据えた未来の司法の姿を描くためにも、本法案を成立していただきまして、速やかに改革審が設置され、司法制度利用者に身近な司法であるための諸条件の整備に向けて、幅広い議論を尽くされ、その上で、さまざまな施策が提言され、かつ実行されるよう心から期待しまして、ひとまず意見陳述を終えることにいたします。(拍手)
  4. 杉浦正健

    杉浦委員長 池田先生ありがとうございました。  次に、大出参考人お願いをいたします。
  5. 大出良知

    大出参考人 おはようございます。  九州大学大出でございます。  時間も余りございませんので、早速、単刀直入に意見を申し上げたいと思います。  我が国司法現状が、その利用者立場から見た場合に、機能不全に陥っているのではないかということについてはほぼ共通認識が形成されてきているように思われます。  そこで、ぜひ現状を打開する方策を講じる必要があるということになろうかと思いますが、まずどのよう改革が求められていると考えるのかを最初に申し述べさせていただきたいと思います。  具体的にはいろいろとあろうかと思いますが、基本的な枠組みにかかわる主要な改革課題と思われる点を、四点最初に挙げさせていただきたいと思います。  まず第一に、市民にとっての司法利用可能性拡大することであります。  すべての分野法的ニーズに、相談から裁判までのいずれの段階におきましても、弁護士の援助を受ける権利及び裁判を受ける権利を保障する扶助制度抜本的拡充が不可欠であろうかと思います。私の専門にかかわる刑事の国費による被疑者弁護の保障などは、喫緊の課題であるというふうに考えております。  第二に、現在の中央集権的な司法行政運営を可能にしているいわゆる司法官僚制を根本的に改めるということが必要であろうかと思います。人事行政裁判官意識への影響というものを排除する、そして、裁判官職権行使独立性を保障するために不可欠の課題ではないかと思います。  そのためには、キャリアシステムを改める、そして、弁護士経験者を給源とする法曹一元を実現する必要があろうかと思います。  常勤裁判官公開任用原則とし、十年間は異動を認めず、再任を希望する場合に別裁判所で任用するといったことが考えられていいかと思います。また、最高裁判事も同様に公開任用原則とすべきであろうかと思います。また、家裁簡裁地裁には、弁護士から非常勤裁判官を採用すると同時に、いわゆる素人裁判官も採用することを考えるべきであろうかと思います。刑事につきましては、陪審制の復活、導入実現すべきと考えております。このことで、司法行政運営事務処理に純化され、事務局官僚組織化を避けることが可能になると考えております。  さらに第三には、法曹一元を実現し、法律家過疎を解消するためには、弁護士人口の増員が不可欠と考えております。  法曹養成弁護士養成に一本化すべきであり、その入り口は司法試験に一本化せず、社会的経験弁護士への道にとっても生かせる複線的な確保方法を用意すべきであると考えております。  弁護士は、その利用者のためにも、歴史的、社会的責任の自覚の上に成り立つ自治権を保障されるべきであります。また、利用者の便宜を第一義とする弁護士法七十二条問題についての決着を、特に司法書士との関係で図る必要があると考えております。  第四には、財政的基盤を確保するために、弁護士を含む国民的基盤を持った独立した裁判所財政委員会ような機関を設置し、予算の自主編成権を認めるとともに、地裁簡裁家裁については、地方自治体の財政によって運営することも考えるべきであろうかと思います。その方が、弁護士から裁判官になり、場合によっては弁護士に戻るといった法曹一元の実現にとっても便宜であろうかと考えております。  以上のよう改善策を申し上げたわけでありますが、その理由を次に申し上げたいと思います。  冒頭にも申し上げましたように、我が国司法現状が、その利用者にとって機能不全に陥っているということについては、ほぼ共通認識が形成されているように思われます。  時間や費用といったアクセス障害の存在から、司法官僚制のもとで裁判官判断当事者の方を向いていないのではないかといったことも指摘されておりますし、また、行政事件では、行政当局に勝訴するのは容易ではない。刑事事件では、逮捕、勾留、捜索・差し押さえ令状却下率が極めて低率にとどまっておりまして、保釈がなかなか認められない。疑わしいときには被告人の利益にという刑事裁判の鉄則は機能せず、有罪率が九九%を超えている。さらには、違憲立法審査権行使に消極的であるといった、司法に対する信頼感の問題にまで及んでおります。  ところが、このよう現状を生み出した原因ということになりますと、本委員会参考資料としてちょうだいしております経済同友会、経済団体連合会、自由民主党それに日本弁護士連合会のいずれを拝見いたしましても、ほとんど触れるところがございません。  もちろん、アクセス障害原因法曹人口が少ない点にあるといった御指摘はございます。しかし、私の見るところでは、法曹人口が少ないというのも結果でありまして、なぜ法曹人口が少ないのかという原因こそ究明されるべきではないかと考えております。  そこで、現状を生み出した原因について、四点ほど私の意見を申し述べておきたいと思います。それは、原因が異なれば、処方も異なり得るからでございます。  まず第一に、民事裁判の時間と費用の問題が、直接的には裁判官不足財政基盤の脆弱さによって生み出されていることは、先述もいたしたところでございます。  しかし、十分に余裕のある裁判官数を確保できず、不十分な財政的基盤しか持ち得なかったのは、司法ないしは司法機能が政治的に軽視され、場合によっては敵視されてきたからでもあると言わざるを得ません。その歴史は、明治時代にまでさかのぼると考えられます。  明治十六年には、百万件を超える事件裁判所に持ち込まれておりました。これに対して、人権意識の伸長を恐れた明治政府は、「健訴濫訟断ツ」として、民事訴訟印紙規則を制定しております。高額の申し立て料を要求することで、訴訟を抑制しようとしたわけでございます。訴訟抑制政策の展開と申してもよいかと思います。  あわせて、法律養成抑制政策も展開されております。明治四年から明治二十三年、一八九〇年まで、一気に千五百三十一名の裁判官養成されております。しかし、百年以上を経た一九九七年の定員は、人口が三倍以上にもなったにもかかわりませず、二千九十三名、簡裁判事を含めて二千八百九十九名でしかありません。簡裁判事を含めても、倍にもなっておりません。  すなわち、訴訟を抑制し、裁判活動を抑制したため、使い勝手が悪く、事件数が減り、それによってまた裁判官数も抑えられるという悪循環が繰り返されてきたと申し上げざるを得ません。  検察官も、明治二十三年の四百八十一名から、定員で千二百名程度にふえただけで、事情はそう変わりません。  第二に、弁護士事情は幾らか異なりますが、その絶対数の不足が訴訟遅延に影響していることは間違いないと申し上げてよろしいかと思います。  弁護士養成についても、そもそも政府は消極的であり、その養成は民間にゆだねられておりました。明治二十三年には裁判官数より少ない千三百四十五名が養成されただけであり、差別的位置づけを受けていたことも間違いありません。その増加は、唯一大幅と言える十倍を超えることになっておりますが、絶対的には決して十分とは言えないと思われます。  訴訟抑制政策のもとで、弁護士が七千人を超えた昭和八年、一九三三年、弁護士法七十二条の前身である法律事務取扱ノ取締ニ関スル法律が成立します。弁護士法律事務を独占することになり、水平運動に一定の成果を上げることになりましたが、利用者立場が考慮されていたかは大いに疑問のあるところでございます。当時、弁護士以外に「法律上ノ助言者」と言われる者が多数おり、同法はその転業のための猶予期間を保障するために三年後に施行することにしておりました。その数は、一説によりますと数万人に上ったとも言われております。その後、弁護士が数の上で「法律上ノ助言者」にかわる体制がつくられたかといえば、結局前述の悪循環の中で実現しておりません。  というようなことで、戦後改革の過程で一たん浮上した被疑者国選弁護制度も、弁護士不足が一因でとんざするとなったと申し上げてよろしいかと思われます。  また第三に、養成の経過からも明らかなように、裁判官は国家の官吏として養成されてまいりました。御承知のように、大津事件を契機に司法権の独立を確保したと言われておりますが、それは行政権との対抗関係においてでありまして、司法内部のヒエラルキーは否定されませんでした。官僚的秩序を維持することで、立法、行政と対抗するという構図は、戦後も再編成されることになりました。  臨時司法制度調査会の意見書は、司法官僚制の再編を前提とした司法改編案であり、いわゆる司法の危機と言われる事態は、政治的干渉に対する司法官僚の対抗策であったと考えられます。後継者確保、養成も官僚組織の維持強化という観点から行われることになり、社会的要請、利用者の感覚とのずれを認識できない組織になり、司法が擁護、救済する必要のある弱者の立場に立つよりは、官僚的組織を維持することを優先することになってきたと考えられます。  さらに第四に、財政問題も、立法、行政との対抗関係の中で推移してきたと申してよいように思われます。一応独立編成の建前がとられてはいるものの、立法、行政の意向を気にせず予算を確保することは事実上不可能であると考えられ、司法軽視、抑制政策を続けてきた政治的脈絡の中では、最低限の体制維持に満足せざるを得なかったであろうとも考えられます。  以上述べてまいりましたように、司法現状は、政治的な訴訟抑制政策、法律家抑制政策の展開と、そのもとでむしろ利益を享受してきた経済界の要請とも相まって、司法官僚制のもとでの小さな司法形成の基盤になっていたということになるのではないでしょうか。であれば、そのよう事情についての反省のないまま、政治的理由経済事情のみからその改革を迫るとすれば、便宜主義的、御都合主義的な改革要求との批判を免れないことになるのではないかと思われます。特に、今回の経済界からの改革要求が、国際的な要請であり、国際的に公正な司法実現が求められているということであれば、なおさらということになるのではないでしょうか。  すなわち、政治的、経済的脈絡からの便宜主義的な改革は、改めて国際的にその公正性を疑われることになりかねないからであります。現に、国連の規約人権委員会は、一九九三年の第三回に引き続き、昨年の第四回審査においても、日本の司法運用のあり方について極めて厳しい勧告を行っていることを看過してはならないと思われます。  そのような問題関心から、司法における国際的基準、いわゆるグローバルスタンダードというようなことが話題になっておりますが、何かということになれば、次の三点に留意する必要があるように思われます。  第一には、司法は、法以外に強者と闘うすべを持たない者にとっての最後のとりでであります。そのよう立場にある者のために有効に機能することが第一義的に求められているということでございます。いかなる場合にあっても、自己責任を要求することで、弱い立場にある者の保護、救済ないしは人権の擁護が軽視されることがあってはならないと考えます。  第二に、ルールは透明であればよいということではなく、その内容が公正であることが当然の前提として求められていると考えます。  さらに第三には、民主主義の原理のもとでは、司法が国民のコントロールのもとに置かれなければならないというのは当然の事理でございます。すなわち、国民の直接的、間接的な参加の道を保障する必要があるということでございます。  以上のような要請は、結局、日本国憲法が人権条項中の三十二条で保障した裁判を受ける権利の内容でもあると考えられます。  以上のよう理由から、冒頭に申し上げましたよう改革実現する必要があると考えるものであります。  最後に、審議会に対する要望を述べさせていただいて終わりたいと思います。  審議会について三点ほど御要望したいというふうに思いますが、第一に、これは申し上げるまでもないことかと存じますが、十三名の委員の人事については、公正であることが重要かと考えます。国民各層の意見が反映されるようにすることはもちろん、最初から結論が見えるような人選は避けるべきであろうかと思われます。  第二に、審議の内容を全面的に公開し、国民的議論意識的に呼びかけるべきであります。公開に当たっては、事務局の果たしている役割もすべて明らかになるようにすべきであると考えております。  第三に、期限を切ることはメリットとデメリットがあると存じますが、期限を切ることで拙速に陥り、強引に結論をまとめるということのないようにしていただきたいと思います。  後の二点は、いずれも臨時司法制度調査会の轍を踏まないための要望でございます。臨時司法制度調査会は、二カ月という残された時間内に意見書をまとめるということで、事務局主導の強引な取りまとめが行われたということが臨司意見書をめぐる紛議の一因にもなったと考えられるからでございます。  以上、少し時間をオーバーしたかもしれませんが、私の意見とさせていただきます。(拍手)
  6. 杉浦正健

    杉浦委員長 大出先生ありがとうございました。  以上で参考人意見の開陳は終わりました。     —————————————
  7. 杉浦正健

    杉浦委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。保岡興治君。
  8. 保岡興治

    ○保岡委員 池田先生大出先生におかれましては、お忙しい時間を我々の委員会に御出席賜りまして、貴重な御意見をお述べいただいたことに、まず心から御礼を申し上げたいと思います。  まず、時間もありますので、池田先生にお伺いをしたいと思うのでございますけれども、我々の自由民主党で司法改革の抜本的な検討をすべきだということを、方向を考えましたのは、一つには、従来の日本社会が非常に裁量的あるいは談合的で、話し合いで、結果がよければよいということで、和を大事にする社会というんですか、いろいろな生活の分野でもそういう文化的な特性を持って対応してきているということ。もう一つは、争いというものはできるだけ表に出さないで、内々で処理した方がよいというような文化的な性格もある。  そういうよう社会、文化の影響もあり、それぞれ明治以来、あるいは戦後、民主的な司法をつくるためにみんな関係者が努力をしてきておるところでありますが、依然として、二割司法だとか、あるいは司法というものの恩典が国民に行き渡っていないというような御批判もあるところでございます。  我々としては、今新しい国づくりをしなきゃならぬ大転換期にある。それは、明治維新のときに、侍の社会から近代国家を求めたように、あるいは戦後、根本的な価値の転換の中で民主的な豊かな日本を求めたときのように、新しい国を求めている。  そこで、そういう国の変化の中で、官僚ですか、行政を中心として、みんなで和を保って効率よく国づくりを進めてきたというのが明治以来の日本の国のあり方の一つの大きな特色だと思うんですね。それで非常に効率のよい、また世界から非常に評価される今日の発展も手にしているところでありますが、また問題も今日たくさん抱えているので、ここで根本的に制度を見直してみようということであります。  一つは、自由と民主主義と市場原理という、一つに連なる理念で世界が包まれる壮大なドラマが二十一世紀一つの特色である。そこに国際国家として乗り出す日本としては、競争社会というものの中で本当に元気で力強い国家になっていくためには、透明なルールと自己責任という点が必要だろう。国が、社会が活力を持つためにはそれが非常に重要な国家的インフラであるという考え方が一つ根底にあります。  それは、規制緩和で事前チェックから事後チェックに移っていく、行政をスリム化していくならば、ルールと自己責任の最後の担保を司法というものに求めて、それはむしろ質的にも量的にも強化されなければならないということで、そちらの方は充実強化。行政はスリム化である。できるだけ民間にゆだねてそこに活力を求めていくべきだ、創意工夫を求めていくべきだという大きな転換が一つあります。  また一方で、先ほど申し上げた日本の文化的な特色からいって、国民一般に司法というものの恩典が行き届いていないという意味では、これから、競争社会においてはセーフティーネットということが当然重要な車の両輪になるわけで、セーフティーネットがしっかりしていればそこに自由競争がうまく機能していくということになりますので、セーフティーネットという観点からもまた、国民の権利基本的人権、そういった利益をしっかり守るという観点が行き届かなきゃいけないということがあろうかと私は思います。  そういった意味で、実は我々としては、最大のテーマが、やはり法曹人口の量が足りない、質がもっと強化される必要がある。したがって、司法養成ということについては根本的に二十一世紀を展望してあり方を考えていく必要があるというようなことを含めて、また法曹一元という点でも、社会の経験を経た裁判官に、しっかり国民の立場に立って、妥当な、公正な判断をしていただくということについてもいろいろ工夫が必要だろう。  この点は大出先生から、歴史を振り返って、政治の司法抑圧的な、抑制的な歴史があるという御指摘もありましたが、また一方で、イデオロギーの対立が法廷でいろいろ闘わせられるというような、裁判が政治化するというところもある。我々としては、できるだけそういったものを離れて、むしろヒューマニティーに立って、新しい二十一世紀の国家国民の幸せを考えてどういう知恵と工夫を尽くすべきかということがこの審議会の重要な役割かと思っております。  そういう観点に立って、大変恐縮ですが、審議会でやるべき意義ということについて、重ねて両先生から基本的なことについてお答えいただければと思います。  時間がなくなってしまいまして恐縮でございますが、特に池田先生からは、アジア、特に司法制度、人材というものが不足して、市場経済に乗り出していくのに非常に苦労している。この間、中国に行きまして、実は朱鎔基その他要路の人に会いましたが、そういう点の法整備の協力を強く求めていました。そういうことなどを含めて、ひとつ御意見を賜りたいと思います。
  9. 池田辰夫

    池田参考人 時間が非常に押しているということで、最後の、アジア諸国に対する法制度整備支援の点についてのみ三点ほど、私のこれまで多少かかわってきました感想を含めて少しお話をするということでかえさせていただきたいと思います。  一つは、アジア諸国から日本に研修を受けに来ておられる方々は非常に熱心である。また、帰ってからも、さらに日本で勉強したいという意欲を持っておられます。そういう手紙も個人的にもいただいております。したがって、間断なくフォローアップするということが大変必要だ、これが第一点。そういうことについて御検討いただく。  それから第二点は、例えばカンボジアにつきまして私が知り得ている限りでは、オーストラリアですとかアメリカ、フランスといったような国々がそれぞれ援助の手を差し伸べているわけですけれども、そういう先進国の間での、いわば私どもようなレベルの協力者会議というようなことも検討の一つに加えていただければありがたいと思います。  それから三点目は、何よりも、法務省などを中心としまして、これに携わっております関係部局の人員増を含めました重点的な配慮というものがより必要になってこようかと思います。  その他、本当に大事な点、いろいろあるわけですが、時間の関係でその点に絞らせていただきます。
  10. 大出良知

    大出参考人 保岡先生からの御質問の中で、特に法曹一元の問題について、時間もございませんので改めて申し上げたいと思います。  日本の裁判官制度、もちろんこれはすべてが欠陥だらけだというようなことを申し上げるつもりはございません。もちろん、日本の裁判官の方たちの中に大変優秀な方もいらっしゃいますし、統一的な司法機能といいますかサービスを提供してこられたということはあろうかと思います。しかし、いわゆる純粋培養と申しますか、社会的経験を経ずにそのまま裁判官になるということになりますと、先生方も御承知のように、やはり争い事、あるいは刑事事件につきましてもそうですけれども社会的にいろいろな要因が絡み合って生じてくるということでございますし、判断をするということになったときに、経験的な蓄積というものが、いわく言いがたい判断に対する妥当性、相当性を生み出すということがあろうかと思いますし、それはキャリアシステムと言われる中で育った裁判官とは違った力を発揮するということがあろうかと思いますし、先進諸国などでそういった制度を採用しているところの例を見ましても、学ぶべき点は多々あろうかと思います。  そういう意味でぜひ、私も法曹一元が実現できればというふうに考えております。かなりこれは重要なポイントかというふうには考えております。
  11. 保岡興治

    ○保岡委員 ありがとうございました。
  12. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、福岡宗也君
  13. 福岡宗也

    ○福岡委員 民主党の福岡宗也でございます。  両先生には、司法改革につきましてさまざまな角度から懇切な御提言を賜りまして、厚く御礼を申し上げます。この意見、それぞれごもっともな御意見でございますので、参考に供させていただきたいというふうに思っております。  両先生はこれまで、本日述べられたことを含めまして、著作、論文等でさまざまな司法改革の提言、また司法の問題点を指摘されているわけでございます。特に、司法の使命を十分果たしていないというような観点からは、まず第一点としまして、刑事裁判の人権保障手続についての形骸化というような問題、さらには民事紛争の解決能力が全うされていない、いわゆるそれによる国民の司法離れ、それから三番目は行政監視機能、これは違憲立法審査権も含めてでありますけれども、その低下ということ、そして組織については、先ほどからいろいろと言われておりますように、キャリア裁判官システムによる国民不在、上向き志向の体質ということ、さらには司法の矮小化によるところの人的、物的施設というものの不全というようなこと、さらには国民不参加の司法ということで、国民の立場から見ると非常に遠いところにある司法というような感覚というものの打破、こういうような点を指摘されているわけでございます。きょうのお話も、そのような視点からのお話も多々あったというふうに理解をするわけであります。  したがって、このような点については、ほぼ両先生とも共通認識をお持ちの部分というものもあるわけでありますけれども、根本的に、司法の果たすべき使命とか役割という点の認識、それから、専門的な分野が違うという点もありましょうけれども、そういうことからくる、どのよう司法を早急に構築しなければならないんだというその部分が微妙に両先生の間には差異があるように思えるわけであります。  すなわち、簡単に言えば、利用しやすい司法といいますけれども、その内容としては、経済活動の活発化であるとか、治安、秩序の維持というようなものにやはり重点を置くというような視点というものもありましょうし、それから人権擁護、特に刑事裁判におけるところの人権保障手続についての具体的な規定というものが不備なための形骸化というような問題、それから、行政のチェック機能という最も重要な部分についての欠落というもの、こういうことが我が国の公正な法のもとの正義の実現に反するんだという角度からのいわゆる司法改革というものを求めるというので、相違があるという点の一番ポイントだろうというふうに思っておるわけです。  そこで、両先生にそれぞれ、司法改革が望まれるという、一言で言って、どういう視点でどういう司法を構築したいのかということを、一言ずつで御回答をお願いしたいというふうに思います。よろしくお願いします。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕
  14. 池田辰夫

    池田参考人 一言でということでございますので、一言だけ申し上げたいと思います。  法制度につきましてはいろいろと問題がございますけれども法曹養成というような面でいきますと、打って響く、そういう法曹を目指すということでございます。
  15. 大出良知

    大出参考人 一言でということで、大変難しゅうございますが、私が先ほど申し上げましたように、司法というのは、行政、立法と違いまして、法に従い、公正な法の適用を一番求めている者にとって公正に運用されるということが非常に重要でございます。ほかの機能を無視していいということではもちろんございませんけれども、そこに最大の重点を置いて考えるべきかというふうに思います。
  16. 福岡宗也

    ○福岡委員 ありがとうございました。  それでは次に、大出先生に御質問を申し上げたいと存じます。  現憲法の人権保障規定に基づく刑事訴訟法が施行されましてから、ちょうど満五十年になるわけでございます。その間、我が国刑事司法というものは、人権保障が充実強化されるどころか、この五十年の間にますます形骸化の一途をたどると言われております。特に、刑事訴訟法の規定します人権保障手続、当事者主義、直接主義、そして黙秘権の保障、それから権利保釈、これらの問題は、実際の運用では全く形骸化されておるという批判が長くされているわけであります。いわゆる規定と運用というものの差が激しく著しくゆがめられておる。しかも、これは先ほど先生の方で御指摘もありましたように、国際人権規約にも反するということで、内外の批判を浴びているわけであります。  このよう刑事裁判改革するということは、我が国の国民の人権保障上はもちろん重要でありますけれども、それのみならず、我が国の国際的な信用回復の面から見ても極めて重要であります。人権問題というのが今は国際間の信用のバロメーター、したがって、アメリカなどはいろいろな国に対して、人権侵害について監視の目を光らせておる。西欧諸国なんかも、それをまず第一番に考えておるというわけでありますけれども我が国司法改革というものの中に本当にこの点が真剣に考えられているかということは非常に疑問であろうかと思うのであります。  そういう意味から、この刑事司法についての改革の重点はどこにあるのか、そしてまた、その必要性はどこにあるのか、大出先生の専門的な御見解をお伺いしたいわけであります。
  17. 大出良知

    大出参考人 私、専門刑事訴訟法でございますので、先生の御指摘はごもっともかと思いますし、刑事訴訟法をやっている者にとりましては大変心強い御指摘であったかと思います。  現在の時点で、最大のポイントといいますか、一番重要な点を一つ挙げるとしますと、それはやはり被疑者弁護の一層の充実強化と申し上げてよろしいかと思います。この点は、戦後の刑事手続全体の動向の中で、捜査手続に非常に大きな比重がかかってきた、そのことがいろいろな形で支えられてきた。先生も御指摘になりましたけれども、よく言われますのは、代用監獄を利用した長期間の身体拘束での自白の強要が冤罪につながっていくというようなことが指摘されてきておりますけれども、一向にこの事態は変わってきていない。それが国際人権規約との関係で国際的にも批判されているということになっているわけでありますが、そういった捜査手続の改善ということが非常に重要であるかと思います。  これまで、残念ながら被疑者段階に弁護人がつくことはほとんどなかったということでございますが、ようやく一九九〇年から、弁護士会の方で当番弁護士という制度を始めまして成果を上げてきておりますけれども、これが公的な資金による援助が全然ございませんので大変な苦労をされているということでございまして、この点について保障措置を講ずることは早急に求められているというふうに考えております。
  18. 福岡宗也

    ○福岡委員 次に、今回の司法改革についての流れということについて、若干御質問いたしたいと思います。これは、両先生にお願いを申し上げます。  平成九年と十年に、先ほどお話のありました、我が国経済団体から相次いで司法制度改革意見書が提出をされました。これを追っかけるようにいたしまして、十年に、自民党の司法制度調査特別委員会が報告書、指針というのをまとめてこられました。これに対しては、賛成をする意見も多くございますし、またさまざまな形の批判もされているところであります。  特に、批判の内容をちょっと申し上げますと、経済団体の提案に対する批判としましては、司法の目的である人権と法を守るという使命と本質的に対立する、弱肉強食、市場原理に基づく自由競争、それから効率的サービス、こういう面からの実現のみが図られておりまして、真の司法の充実、民主化の強化、人権保障機能の強化という視点が全く欠落をしておるという批判であります。それから、規制緩和の自己責任論も、社会的弱者の救済、さらには人権保障で闘ってきた弁護士の自壊を招き、それから質の低下ということにつながりかねない、こういう批判があるわけであります。  それからさらに、自民党の報告書については、先ほど保岡先生の方から御指摘がありましたけれども、その改革の視点として、こう述べているわけですね。「司法は、安全な国民生活の確保と公正で円滑な経済活動という国家の基礎を支え、活力ある社会を維持するための基盤」である、こういう認識で使命をとらえておるわけです。そして、その改革の方向は、規制緩和と自己責任の原則に基づく事後監視社会、そして救済型の社会をつくるのに必要な司法にすべきだ、こういう提言をされておりますことから、その目的については、治安と秩序の優先主義、それから企業の経済活動の便宜主義的なものが中心である。最も司法の目的として重要な司法の民主化、人権保障機能の強化、行政チェック機能というものの強化という点が全く欠落しておる、こういうような批判をされておるところであります。  この点について両先生はどのように考えられますのか、一言ずつでひとつよろしくお願いします。
  19. 池田辰夫

    池田参考人 福岡先生の貴重な御指摘、ありがとうございました。  今までの改革に向けた流れの御説明も踏まえまして、そういったことも含めて改革審論議されるということだろうと思います。とりあえずそのように申し上げておきたいと思います。
  20. 大出良知

    大出参考人 自由民主党でおまとめになりました報告書につきましては、その一年前にも、中間報告でありましたでしょうか、方針というものだったかと思いますが、出されておりまして、それに比べますと、今回の最終報告、意見は多くの点で配慮が見られるということになっているかと思います。  しかし、やはりその基本には、市場原理あるいは規制緩和というものとの関係での司法改革の要請ということがあろうかと思います。この点については、先生も御指摘ように、司法の果たすべき役割との関係では問題があるということになろうかと思います。  特に、自己責任という言い方が適切かどうかわかりませんけれども、もちろん権利の主体としてそれぞれが主体的に訴訟に参加する、あるいは権利実現を図っていくということは非常に重要なことであろうかと思いますけれども、そういったことが可能な基盤が用意されているかどうか、また権利が保障されているかどうかということが前提として非常に重要でありまして、そこについての配慮を欠いたまま自己責任だけ強調されるということになりますと、事態は非常に好ましくない方向へ進む危険性があるというふうに思っております。
  21. 福岡宗也

    ○福岡委員 次に、今回の司法制度審議会は、内閣のもとに諮問機関として置かれるという形になっております。  行政機関の主体であります内閣司法制度の抜本的な改革を審議して国会に提案をするということは、まず第一番に司法権の独立、三権分立、第二に、憲法では国会が唯一の立法機関とされておりまして、法律案の提出権については明らかに定めていないんですね。明定をしていない。こういうようなことを総合して勘案した場合には、これは憲法違反ではないだろうか、こういう意見があるわけであります。またさらに、憲法違反とは言わないまでも、極めて不適切である、このような見解もかなりあるわけであります。  この点についての御意見を両先生にお願いをしたいというふうに思います。簡単にお願いします、一言で。
  22. 池田辰夫

    池田参考人 簡単にということでございますが、結論としましては、私は法案どおりでよろしいのではないかと考えております。  理由としましては、確かに司法のことは司法みずからということがあろうかと思いますけれども、幅広い議論、特に利用者の視点に立った上でそういったことをするという意味では、確かに国会ということも考えられますけれども、一番適切なのは内閣であろうかと考えます。もし国会のもとに置きますと、そこでの審議について尊重するというようなことになりますと、国権の最高機関性との関係でどうなるのかなというようなことも感じております。とりあえず。
  23. 大出良知

    大出参考人 私も、特に、絶対的に問題があるということにはならないというふうに思っております。  司法権の独立ということで申しますと、重要なポイントは、裁判官職権行使独立性が保障されているかどうかということに最大のポイントがあるかというふうに私は考えておりますので、そういうことで、個々の事件に踏み込むとかということでない限り、制度的な枠組みについて議論をするということであれば、特に支障はないかと思います。  問題は、その際に、どこまで広い議論基盤として持つことにするかということにかかわるかと思います。先ほど意見で申し上げましたように、審議会が多くの意見聴取の機会というものを保障する、あるいは議論をすべて公開するとか、そういったことの保障が重要なポイントになってくるかというふうに思います。
  24. 福岡宗也

    ○福岡委員 両先生に一言ずつお願いしたいのでありますけれども、昭和四十五年の五月に参議院の法務委員会におきまして、このような附帯決議がございます。「今後、司法制度の改正にあたつては、法曹三者の意見を一致させて実施するように努めなければならない。」こういう附帯決議であります。続いて、衆議院におきましても同様の附帯決議がなされまして、昭和五十年以来、司法制度の改正につきましては、法曹三者の協議会が開かれて、これにおいて十分の討議をされた上で法案化されているというのが慣例となっているわけでございます。  今回の司法制度に関するところの審議会の設置というものを見ますと、これは自民党の報告書にもありますように、いわゆる行政主導、政治主導という形で司法制度改革はなすべきなんだということで、従来の国会の、司法独立から、十分に意見を聞く、特に国民の人権にかかわる問題だから十分に意見を聞いて、これを尊重して司法制度改革をなそうという視点から見ると、大きな転換を図っておるものじゃないかな、こういう御指摘があるわけでありますけれども、これはどういうふうにお考えなのか、一言ずつ御見解をお願いいたします。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
  25. 池田辰夫

    池田参考人 十分に理解ができていないかと思いますけれども法曹三者のそういう合意というものをベースにするというのは、やはり法律専門職の持つ意味合いというものがございましょうから、それも大事であろうかと思います。その上に、やはり何よりも国民利用者の視点、そういったものもあわせてこの際検討される場であろうと思います。
  26. 大出良知

    大出参考人 その附帯決議につきましては、歴史の事情もあったかにも思いますし、尊重されるべきであることは間違いないというふうに思います。しかし、法曹三者のみが法曹の問題については第一次的に決定権を持っているということには最終的にはならないかというふうに思いますので、やはり法曹三者の意見を尊重しつつも国政の場で議論をするということ、それも、先ほど申し上げましたように、十分その意見を尊重し、さらに広い議論の中で最終的な結論を導き出す必要があろうかというふうに考えております。
  27. 福岡宗也

    ○福岡委員 広く国民の意見を聞き、それからまた、人権擁護の立場から実務家意見も十分に聞いて尊重していくという形の御回答だというふうに理解をいたします。  そうしますと、先ほど先生の方からも御指摘がありましたように、審議会の委員の人選基準といいますか、その方法といいますか、これが本当に重要性を持ってくるのだなという感じがするわけでございます。  この案を見ますと、政府案としましては、学識経験者を広く国民各層から選任するとして、法曹三者の代表者は委員とはしないというような説明がなされているようであります。  そうしますと、法案では、学識経験のある者というだけで、どのような幅広いところから人選をするかの基準が全くないとも言えるわけで、ある意味では、やはり行政の恣意的といいますか、便宜ということに流れるおそれもあるのじゃないかなということと、さらに、現在抱えておる人権保障の機能上、極めて問題な部分の審議というものが欠落をする。特に、法曹三者を委員に全然入れないということではちょっと問題があるのではないかな、こういう御指摘もあるわけでありますけれども、この点についての両先生のお考えをお聞かせください。
  28. 池田辰夫

    池田参考人 お答えいたします。  設置法案の第四条に、「委員は、学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、内閣が任命する。」というふうになってございます。最終的には両議院の同意が必要だということでございます。  ちなみに、どういう人選をするかということでございますけれども、私の個人的意見ですが、もちはもち屋といいますか、法律専門職が、現役が入ることがもし好ましくないのであれば、それなりの見識をお持ちのOBの方に入っていただくというのも一つの選択肢としてあり得ることだろうと思います。
  29. 大出良知

    大出参考人 そもそも十三名という枠が決められておりまして、この枠自体についても疑義がないわけではございませんが、しかし、実質的な議論をするとなると、その程度がやむを得ないところかというふうに思います。  その中に、法曹関係者の方たち、明示的には入っていないわけでございますけれども、今池田先生からもお話がありましたように、私も何らかの形で法曹関係につながりのある方たちが入られることがやはり望ましいだろうというふうには考えております。
  30. 福岡宗也

    ○福岡委員 最後になりますけれども、先ほどから私も、司法独立司法権の独立ということをいろいろ言っております。これは、司法の持ついわゆる人権保障機能、特に国家権力からの人権保障、これは民事でも刑事でも、それから行政の方でもそうでございますけれども、こういうところは非常にシビアなといいますか、合目的な追求のみならず、本当に主権者である国民一人一人の人権を守るという点、こういう点から保障されておるものだというふうに理解をいたしておるところでありますけれども、その意味する内容そのもの自体については、いろいろな書物を見ていても、必ずしも一般的にこれということではなくて、広い人もおれば狭い人もおるような感じはするわけです。  きょうお聞きしたいのは、この概念は、先ほどちょっと御指摘にありましたように、裁判官の職務というものの独立、自治、こういうことだけではなくて、もちろん裁判官のいわゆる任用システムであるとか、どのように構築するかということ、どのようなシステム、例えば法曹一元なんかのようにするかとか、そういうシステムづくりについてもやはり不当に行政の干渉を受けないというところがあるのではないかというのが一つ。  それから、さらにもっと広げて、検察官の職務の独立、これは指揮権の行使等にもありますけれども、こういったものの独立、したがって、そういう点からして、検察官の組織そのもの自体の民主的見直し、こういう点も含んで独立性のあるようにしなきゃいけないか。  さらには、弁護士といたしましては、弁護士自治は、弁護士の利益を守るためじゃなくて、国民の人権保障の弁護士の使命というものを遺憾なからしめるためにこういうよう自治権があるということであるから、この自治の見直し等についても不当に行政権の関与などは認めてはならない。  こういう点も含めてのいわゆる司法権の独立ということなのかどうか、ちょっと一言ずつ御意見を承りたいと思います。
  31. 池田辰夫

    池田参考人 福岡先生の貴重な御指摘について、私、特につけ加えるべきものはございません。
  32. 大出良知

    大出参考人 私も先生の御説にほぼ同意見でございます。特に、最終的には職権の行使独立性が保障されるべきでありまして、それの環境自体がその独立に影響を及ぼさないということがもちろん重要でございます。その限りにおいて権力機関の独立の問題というのは当然出てきますし、さまざまな行政的な問題についても、それに影響を及ぼさない配慮が必要だということになってくると思います。
  33. 福岡宗也

    ○福岡委員 どうもありがとうございました。  これでもって質問を終わらせていただきます。
  34. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、上田勇君。
  35. 上田勇

    ○上田(勇)委員 公明党・改革クラブの上田勇でございます。  きょうは、池田先生大出先生、大変お忙しい中、貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございます。  それで、時間の制約もございますので、早速御質問させていただきますが、まず、大出先生の方にお伺いをいたしますけれども、先生の方から、今回、審議会への御要望ということで、委員人選の公正、審議の公開、また、その期限を切ることの問題につきまして先ほど御意見がございました。私も全くそのとおりだというふうに思いますが、同時に、やはりこの審議会、よく言われることが、いかにして国民の本当の声、ニーズを反映させていくのか、また、国民の代表である国会の関与のあり方はどういうふうにするべきなのか、また、先ほど福岡先生からもお話がありましたが、実際に今の司法制度運営されている法曹関係者等の意見をどのような形で取り入れていくのか、これが重要な点ではないのかなというふうに思います。  これは当然、審議会のスタート、問題設定をするときにもそうでありますし、審議の途中にもこういうように国民の声を取り入れる、聞くような、そういう機会をつくっていかなければいけないんでありましょうし、各段階においてそういうようなことが必要なのかというふうに思うわけでありますが、その辺、審議会のあり方、運営のあり方について、もし大出先生の方から御提案、また御意見がございましたら、お聞かせいただければというふうに思います。
  36. 大出良知

    大出参考人 具体的にということになりますと、なかなかいろいろと難しい問題があろうかと思いますが、基本的には先ほど申し上げた点に尽きるということになるのでございますが、ただ、今いわゆる情報化時代というふうに言われておりますし、ともかく公開について、つまり、どのような形であれ、関心を持った人間が意見が言えるような、そういったシステムを御用意いただくことが重要かというふうに思います。  臨時司法制度調査会のときにも、確かに各地でいろいろと実務家の方の意見をお聞きになるとかというようなこともございましたけれども、それ自体、広く一般に開示されるといいますか、その当時議論になるような形での情報の伝達というようなことはなかったように思いますので、ぜひ広く国民が関心を持って議論ができるような保障措置を講じていただければと思います。
  37. 上田勇

    ○上田(勇)委員 次に、池田先生にお伺いをいたしますが、先生は御意見の中で、法曹人口のあり方といたしまして、オーストラリアの例をとられまして、オーストラリア程度一つの目安になるのではないかというふうなお話を伺いました。  ただ、これは、オーストラリアにおいても、三万七千余人の法曹人口のうち、いわゆる法廷弁護士バリスターというのが四千人、これが一つの目安になるんではないかということでありましたが、そのほかの、これはオーストラリアの場合もやはりソリシターと言うのでしょうか、そういうような方々がいろいろな法律事務を、お仕事をされているんだというふうに思います。  我が国の場合には、そうした事務が、当然弁護士の方もされているわけですけれども、同時に、いわゆる弁理士さんであるとか司法書士、行政書士さんとか、そういう隣接法律専門業務というんでしょうか、そういうような方が非常に重要な役割を果たされているわけです。  そこで、これらの隣接する法律の職種の方々のいわゆる法律事務について、そのかかわり方、事務の範囲を拡大すべきなんではないかというよう意見も多くありますけれども、その辺についてもし御意見がございましたら、ぜひお伺いをさせていただきたいと思います。
  38. 池田辰夫

    池田参考人 ありがとうございます。  御指摘ように、いわゆるパラリーガルなどというふうに呼ぶ場合もございますけれども、そういう弁護士に隣接する職制の方々との関係につきましては、これはこれまでにも大変な議論がございます。私、個人的には、その意味では、規制緩和という流れの中で少し従来のあり方も見直されていいのではないかというふうに考えておりますけれども、しかし、何よりもまずは日本弁護士連合会とこういった隣接諸領域との真剣かつ熱心な対話というものを希望しております。
  39. 上田勇

    ○上田(勇)委員 この問題について大出先生の方にもお伺いをしたいと思うんですが、先生も先ほどのお話の中で、法曹人口増加を図るために、その入り口を司法試験に一本化するのではなくて、幅広い社会経験を積んだ方の中からも人材を登用してはどうかというようなお話がございました。  そうすると、これに関連して、今いろいろ経済界からの司法改革の提案の中で、企業法務を担当してきた人たちに一定の代理権を認めるというような要望が出されていたり、また、ちょっとその関連で、先ほど申し上げました隣接する業務の方々の法廷での役割を一部認めてはどうかというような御提案もあるんですが、それについて先生の御意見を伺えればと思います。
  40. 大出良知

    大出参考人 先ほど申し上げましたことの確認ということも含めてもう一度繰り返させていただきますが、私の申し上げましたのは、そういった方でも一応弁護士におなりいただくということが必要だろうというふうに考えております。そういった経験がストレートに、すぐに弁護士と同様の資格を与えるということではなくて、弁護士への道を複線化する必要があるということで、やはり弁護士という経験を積んでいただくということが、その期間等についてはいろいろと議論はあるかと思いますが、弁護士というところを通過することが必要だというふうに私は考えております。
  41. 上田勇

    ○上田(勇)委員 次に池田先生の方にちょっとお伺いをいたしますけれども、先生の御意見の中で、今の法学教育のことにつきまして、今、弁護士法曹に求められる能力というのが、法律知識に限らず、交渉力であるとかカウンセリング能力だとか、そういった非常に幅広い資質が求められているんだという御意見がありました。  現行の司法試験というのは非常に難しい試験でございますので、当然のことながらそれに合格されている方というのは、法律の知識という面ではもう十分過ぎるぐらいの知識をお持ちであるということは間違いないと思うんです。それでは、こういう多様な資質というんでしょうか能力、そういったものについて、現行の司法試験制度がそれを十分評価できるようなシステムになっているのかどうか。また、これは一回の試験だけじゃなくて、長い法曹としてのお仕事をされる中で、当然資質向上のいろいろな方法がある、機会があるんだというふうに思いますけれども、それについて、先ほど若干御提案ございましたけれども、もう少し敷衍していただければというふうに思います。よろしくお願いいたします。
  42. 池田辰夫

    池田参考人 発言の機会を与えていただきまして、お礼申し上げます。  司法試験についてお話ございましたけれども、私は、司法試験で試すべきことはどうしてもミニマムなものに、これは技術的にも限られざるを得ないというふうに考えております。そこで、とりわけ法といいますものは、その対象は社会でございますので、社会の実相に触れる機会、こういうものを例えば学生たちに適時適切に与えるということが今後ともより重要になってくるのではないかと思います。  それから、合格後の司法修習での教育といいますか、そういったことの中に社会実習を取り入れるというようなことになり、四月以降、平成十一年度からそういうことがスタートするということになりますが、そういうもの。あるいはその後の、弁護士あるいは裁判官、検察官になった後の継続的な研修というものが大変重要である。さらに言えば、それらをトータルにくるんだ有機的な連携といいますか、そういうことも極めて大切なことだというふうに申し上げたいと思います。
  43. 上田勇

    ○上田(勇)委員 大出先生にお伺いをいたしますが、先生、今の御意見の中でも、またこれまでいろいろなところで、今の司法改革論議の中の法曹人口増加させるという議論経済界からの要望、要求に基づいて行われている面については疑問があるというような御意見を述べてきておられるというふうに思います。  私も先生の御意見に同感する部分もあるんですが、ただ、今のお話の中でも、今の法曹人口自体はやはり少な過ぎるんだという御意見だったというふうに思います。先ほど池田先生は、オーストラリアの規模が一つ参考になるんではないかというような御意見をちょうだいしたんですが、大出先生の方としましては、現状は少な過ぎる、しかし、それを経済界の意見にのっとって拙速に広げるというようなことに対しては御意見があるというようなことなんだと思うんです。  それでは、具体的な数字というとなんですけれども、その辺、大体この程度のところは目指すべきなのではないかというような御意見がございましたら、ちょっと御披露いただければというふうに思います。
  44. 大出良知

    大出参考人 大変難しい問題でございまして、私、絶対的に足りないということはそのとおりだと思いますし、現実に国民の需要との関係では、弁護士がその需要にこたえ切れていないという実情は多々耳にもしておりますし、現実にも見ております。しかし、具体的にどの程度の数がということになってきますと、残念ながら恐らくこれを証明する手段、手だてはどなたもお持ちでないだろうというふうに思います。  そういう中で、先ほど池田先生がおっしゃったのも一つの目安ということになろうかと思いますし、先進諸国の中で日本の法曹人口比率といいますか、国民との関係では、例えばよく言われますのは、フランスなどと比べましても実質的には四分の一ぐらいでしかないというようなことも言われますし、そういう意味ではフランスが一番比率が高いわけでありますが、それでもその程度だということも言われております。やはり今後の司法改革の進展ぐあい、つまり基盤整備の問題だとかいろいろと条件整備等の関係がございますので、そういったことも見きわめながら順次ふやしていくというようなことが考えられる必要があるだろうとは思います。
  45. 上田勇

    ○上田(勇)委員 もう一回大出先生にお伺いしたい。  先生の御意見の冒頭で、法律扶助制度の問題初め、今、大きく幾つかの点についてまず御提案をいただいたんですが、先生の全体の御意見を通じますと、一つには、やはり法曹人口が足りないがゆえに、裁判に、法律の枠組みの中で問題を解決しようという国民のニーズも出てこない、であるがゆえに体制も整わないのでまた抑制されていくというような悪循環に、何か経済でいうとデフレスパイラルみたいなものに陥っているという言い方であったと思うんです。これをどこかで断ち切るという、司法が本当に使いやすい、国民にとって利用しやすい司法にしていくためにはどこからまず手をつけるのが先決なのか、そこを御意見お伺いいたします。
  46. 大出良知

    大出参考人 私は、数の問題はともかくとして、法曹人口をふやしていくということが、第一着手としてはかなり重要な意味を持っているというふうに考えております。
  47. 上田勇

    ○上田(勇)委員 時間が参りましたので、両先生方、大変ありがとうございました。よろしくお願いいたします。
  48. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、達増拓也君。
  49. 達増拓也

    達増委員 自由党の達増拓也でございます。  それでは、早速質問をさせていただきます。  まず、池田参考人に質問をいたします。  ウィーンでの国際手続法学会のお話をされて、国際的な法制度の研究について言及されましたけれども経済活動やその他、人の活動が国境を越えて地球規模でグローバルに行われるようになる中で、法律というものは基本的に歴史や伝統、文化、民族性などを踏まえて形成されてきた。  せっかくウィーンの国際手続法学会のお話ありましたので、手続法分野で、国際的に手続法というものが統一化の方向に向かう、そういう傾向があるのかどうか。また、そういう中で、一方で統一化し切れないような各国固有のものというのがどういうところで残るのか、その辺についてお聞かせいただければと思います。
  50. 池田辰夫

    池田参考人 お答えいたします。  ウィーンでの学会では法学教育以外にも多くの問題点が議論されるわけですけれども手続法が統一化に向かう、そういう方向といいますか傾向があるのかということでございますが、これはEUに関しましてはそういう動きがあります。それから、アメリカの中には少し、世界的に統一すべきものはなるべく共通のルールでといったよう動きもございます。しかし、達増先生御指摘ように、法律制度はそれぞれ国の固有の歴史、伝統がございます。したがって、どうしても調整ができないというような点もございます。  具体的に言いますと、これは我が国でこれから議論されるところだろうと思いますけれども陪審制度の点。それからもう一つは、アメリカあるいはイギリスもそれに近いところがございますけれども、ディスカバリーという相手方手持ちの証拠を開示させる、そういうシステムについて、これは、特に大陸法を中心とした国々、我が国はその系譜を引いておりますけれども、それらの国々との間で容易には調整はできない問題だと認識しております。
  51. 達増拓也

    達増委員 ありがとうございました。  次に、大出参考人に質問をいたします。  大出参考人指摘されました明治政府の訴訟の抑制、裁判官数の抑制について、意図的にそういうことが行われたという指摘は大変興味深いものがございました。そして、当時抑制されたときに比べ、今でも余り裁判官の数等、司法の数的、量的体制が拡大されていない。一応、戦後は、民主化ということで、三権の司法についても、本来、ニーズに応じた、あるいは民主主義の理念の実現に応じた体制が実現される仕組みはできていたはずなんですけれども、それが依然として現在抑制的な状態にあるというのは、やはりいろいろ意図的なものがあったのか、また惰性で、不作為的にそういう状態が残っているのか、その辺の戦後の歴史的な背景といいますか、その辺について伺いたいと思います。
  52. 大出良知

    大出参考人 それは両面あったというふうに考えております。  今御指摘ように、戦後改革というのは非常に重要な改革であったことは間違いございませんけれども、しかし、残念ながらこれも、未必という言い方が適切かどうかわかりませんけれども、やはり国民的な基盤を確保するという意味では不十分な改革であったということになろうかと思いますし、それまでの訴訟抑制政策あるいは法律養成についての抑制的な傾向というのはその後も、司法官僚制が強化されていく中で維持されてくる。特に、先ほど申し上げましたいわゆる一九六〇年代末から七〇年代にかけての司法をめぐるさまざまな出来事というものが、それに最終的にはさらに拍車をかけるというようなことにもなったというふうに考えております。
  53. 達増拓也

    達増委員 続いて、また池田参考人の方に御質問いたします。  法学教育の充実ということを池田参考人、おっしゃられました。そこでは、質の高い法曹養成ということで、基本的にプロのための法学教育という観点からお話あったと思いますけれども、私は、司法制度改革ということを考えたときに、法曹以外のアマチュア向けの法学教育、これは広く啓蒙活動的なものも含めた教育が重要だと思うわけであります。  法曹のシステムの外でも日常的に、いわゆるリーガルマインドですとか公平や正義の観念といったことが広く国民に理解されて、自主的に紛争解決されていく、それによって法曹に過剰な負担がかからなくなったり、また法曹も、プロの世界も質が向上していくようなことになると思うんですけれども、そういういわゆるアマチュア向けの法学教育という点についてはどのようにお考えでしょうか。
  54. 池田辰夫

    池田参考人 現在、大学でも、特に私が所属しております大阪大学の場合には、地域に根差して世界に伸びるということで、地域社会も非常に大事にしておりまして、開放講座というものも行っております。その際には、私どもの同僚が一般市民の皆さんにそれぞれの専門分野について開陳するというようなこともございます。  とりわけ、規制緩和化されます社会におきましては、一方で消費者教育というものが大変重要になってまいります。これにつきましては、いろいろな形で既に施策が行われておりますけれども、さらに充実強化されるよう希望しておきたいと思います。
  55. 達増拓也

    達増委員 次に、大出参考人に質問いたします。  司法試験以外に、弁護士になるためのルートをつくるべきという指摘は賛成であります。やはり国民的に、広い基盤のもとで法曹というのをやっていく場合に、弁護士になるためのルートがほかにいろいろあるのはいいと思うんですけれども、具体的にどのようなルートを想定されているでしょうか。
  56. 大出良知

    大出参考人 大学がもっと法曹養成に深くかかわる必要があるというふうに考えております。そういうことで、一定の大学での教育を前提とした試験の免除というようなこともあり得るかというふうに思いますが、その点につきましては、私ども所属している大学にかかわる問題でありますので、もう少し具体的には詰めなきゃいけない問題が多々あろうかと思います。  そのほかにも、もちろん社会的な経験というものを踏まえた試験の免除等々ということもあり得るかと思いますし、これまでいろいろと大学でも、例えば大学入試なんかでもさまざまな方法を試みてきておりますが、いろいろと選抜の方法というのは考える余地があると考えております。
  57. 達増拓也

    達増委員 以上で質問を終わりますが、両参考人ともに指摘された問題で、やはり財政問題、法曹の体制、裁判所の体制の予算面でやはりまだまだやっていかなきゃならないという指摘、これは自由党もまさにそのとおりだと思っておりまして、この点については、まさに予算を最終的に決定する国会の方でもきちっと取り組まなければならないと思っておりますということを申し上げて、私の質問を終わります。ありがとうございました。
  58. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、木島日出夫君。
  59. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。  池田先生大出先生、大変ありがとうございます。  早速ですが、私は、今の司法改革をめぐる論議には、大きく二つの潮流があるんではないかと見ているわけであります。  一つは、経済同友会や経団連や自民党から出されている諸提言ですが、経済的に新自由主義を基本にして規制緩和の社会をつくる、すると必然的に事前規制型から事後チェック型の司法役割を重んぜなければいかぬ。そういう観点から、今の小さな司法では経済界にとって使い勝手が悪いという論点から司法改革を求める潮流。  もう一つは、日弁連が主張している論点だと思うのですが、司法役割基本的人権の擁護に置く。国民の裁判を受ける権利、国民の司法参加、こういう点から、現在の司法に大きな問題がある。  これは各論じゃなくて、総論の基本のところでそんな二つの潮流がぶつかり合っているのじゃないかと見ているわけでありますが、こういう見方について、池田先生大出先生、先生方はどんな見方をしているのでしょうか。あるいは、先生御自身がどんなスタンスに立って今の司法改革をやるべきと考えているのか。ちょっと時間、しゃべっても結構ですので、お聞かせいただきたい。
  60. 池田辰夫

    池田参考人 木島先生から、大変大きな御指摘をいただいたかと思います。  二つの潮流についてどう考えるかということでございますけれども、基本的には、私は、二つの流れというのは矛盾はしないという立場でございまして、それぞれ司法に突きつけられた課題であるということであろうかと思います。  従来、司法そのものが十分機能を果たしていないのではないかという批判がありまして、日弁連などが主張している第二の潮流というのはそういう流れから出てきた御議論でございまして、これも正当な点をついているというふうに思うわけでございます。  他方で、経済界を中心とした、事前規制型の従来の社会から、規制緩和のもとでの社会になった場合の事後審査という形に変わる、それによって当然、調整ができなかった問題は先送りされるということでございますので、事件はふえるということになるわけですけれども、それに対する受け皿ということも、これはやはり現実的な要求として無視することはできない。小さい司法のままそういう状況になった場合に、本当に市民、国民の権利、利益は守られるのだろうかということでございます。
  61. 大出良知

    大出参考人 私も、今木島先生がおっしゃった二つの潮流があるという点については、同様に考えております。  私の立場がどういう立場にあるかと申し上げれば、先ほど意見を申し上げたように、どちらかといえば恐らく後者の立場に、後者というのは、つまり人権擁護を基本とするべきであるというふうに考えていると申し上げていいと思います。それは、司法の果たすべき役割との関係で、どこに基本を置くべきかということになろうかと思います。  経済界からの要望というよりも、現実的に、今池田先生がおっしゃったように、そういう要請が生まれることは間違いないかもしれませんけれども、しかし、法以外に手段を持たない者にとって、十分な機能を果たす司法というものが実現されれば、そういった要請にも当然現実的にはこたえるということになるわけであります。  逆に、事後的規制というふうなことで、経済界からの要請をストレートに実現するということになったときには、本来司法が救済すべき立場にある方たちを救済できないで終わってしまうことになりかねないということになろうかと思いますので、やはり基本は、法以外に闘う手段を持たない方たちにとって有効に機能する、そういった司法をまずつくるということでなければならないだろうというふうに考えております。
  62. 木島日出夫

    ○木島委員 両先生の間に基本的なスタンスの違いもちょっと私は感じたわけでありますが、ことしの二月六日の毎日新聞の社説に、「国民の視点からの審議を」という見出しで、司法制度改革審議会設置に関する論評が出ております。それで、最後のところにこう書いているのですね。   弁護士会に限らず、政財界を含めて広く司法改革論議されることは、戦後初めてのことである。ただ、同じ「司法改革」といっても、同床異夢のようだ。   政財界の提言の背景には、市場経済活動の自由拡大を目指す規制緩和論がある。司法役割社会正義実現であり、人権擁護である。市場経済活動とは異質だ。もし、改革審議が規制緩和論に振り回されるようならば、今以上にゆがんだ姿をさらすことになりかねない。 こう結んでいるわけでありますが、先ほど池田先生から、二つの流れは矛盾しない、こうおっしゃられました。私も、いろいろな提言を読んでみて、確かに今の司法ではだめだという点では一致している。そして、司法基盤拡大しなきゃいかぬという点でも、日弁連も経済界も、そういう一般論では同じことを言っておる。  また、官僚法曹じゃだめだという点でも、どうも両方の潮流も同じことを言っておる。典型は、経済界を代表するオリックス社長の宮内義彦さんが、昨年二月十五日の日経新聞に書いた「官僚制壊し、発想柔軟に」という立場で、今の司法は官僚司法でだめだ、財界にとっても使い勝手が悪いということが典型だと思うのです。  そういう一致する部分があるのですが、今、毎日新聞の社説の末尾の部分ですね、司法改革論議が規制緩和論に振り回されるようなことならば、今以上にゆがんだ姿をさらすことになりかねない、こういう指摘をしているわけですが、これに池田先生はどうお答えになるのでしょうか。
  63. 池田辰夫

    池田参考人 先生御指摘の毎日新聞につきましては、私も拝読いたしました。ただ、この社説の場合には、字数が大変限られてございます。私ども、やはり精密な議論をしたい者にとりましては、むしろ真意を聞いた上でお答えさせていただきたいというふうに思った次第です。
  64. 木島日出夫

    ○木島委員 大出先生は、どうも先ほどの御答弁を聞いていますと、一層ゆがんじゃうのじゃないか、こういう規制緩和論を前提に振りかざされると司法がゆがむのではないかという懸念を表明されているやに私お聞きしたのですが、先生の御意見をちょっとお聞きしたい。
  65. 大出良知

    大出参考人 言い方は大変難しいと思いますけれども、先ほど申し上げましたように、どこに基本を置くべきかということで考えた場合には、やはり規制緩和の問題と司法の問題というのは別の問題として考える必要があるというふうに考えております。  小さな司法の問題につきましても、先ほど来申し上げましたように、我が国における歴史的な背景というものがあって生まれてきたということでありますし、今改革が必要だというのも、まさにそういった歴史的な背景というものを踏まえた改革の必要性ということにもなろうかと思います。その場合の基本は、やはり憲法あるいは基本的人権の尊重ということを前提とした司法のあり方をまず基本に置いて考えるということが必要だというふうに考えております。
  66. 木島日出夫

    ○木島委員 私は、やはり今は二つの大きな潮流があって、その違いによって各論の部分になると大きな違いが出てくるのじゃないか。裁判官のあるべき姿、検察官のあるべき姿、特に弁護士のあるべき姿、また、法曹養成やり方法曹一元の姿、国民の司法参加、いろいろな分野で具体的に詰めていくと、この二つの潮流が違って出てくるんじゃないかというふうに見ているわけでありますが、きょうは参考人質問の時間ですし、一切それをはしょりまして、審議会のあり方について両先生がどんなふうに考えているのかお聞きしたいと思うのです。  十三人の委員で、これが国会承認を受けて選出される。どんな人が選出されてくるかまだ全く見えないということは御案内のとおり。それだけではなくて、今度の審議会のつくり方は今までの政府のやり方と異例だと私は思います。  それは一言で言って、審議事項について諮問しないというんですね。どういうテーマについて審議してくれということを一切縛らないというんですね。審議事項そのものも、選ばれた十三人の委員の皆さんに審議してもらった上で決めてもらう。言ってみれば、白紙委任という感じなんですね。これは、審議会に対する処遇としてはまことに異例だ。縛らない方がいいんだという意見もあるかもしれませんし、ある面では無責任だということにもなりかねないわけなんですが、こういうあり方について、両先生はどんな見方をされておるのか、お聞きしたい。  参考までに、私先ほど挙げたことし二月六日の毎日新聞の社説一節にこういう点があるわけなんですね。   法曹一元や国民の司法参加は、戦後の司法に抜本的な変革を迫るテーマである。わずか二年の審議期間を考えれば、まずこの二つに集中的に取り組んでもらいたい。   法律扶助制度拡充司法予算の増大、被疑者国選弁護制度導入など、さまざまな重要課題でも提言が出されている。しかし、これらは内閣の審議会でなくとも、関係機関で協議を進めればいい。 こう書いてあるのです。  ですから、審議会のあり方、何をテーマにして、二年間というわずかな時間に何を集中的に優先順位をつけてやるかについて、毎日新聞からこういう提言も出ているということも参考にされて、こういう審議会のあり方は果たしていいんだろうか、やはり基本的に、こういう審議をすべきだという大きな枠は設定すべきでないかなとも思うのですが、いかがでしょうか。
  67. 池田辰夫

    池田参考人 お答えしたいと思います。  白紙委任ではないかという点でございますけれども、一方で、私どものこの社会というのは特に近年非常に激しく変化してきておりまして、他方で、現在の司法制度といいますものは、やはり基本的には戦後構築されまして今日に至っているということでございます。したがいまして、そういうことを考えますと、余り議論最初から縛りをかけるというのはどうなのかなという印象を個人的には持ちまして、やはり柔軟な、多様な議論ができるような場を設定しておくべきだろうと思います。  ただ、それを別にうのみにするということではございませんで、やはり国会は、その国権の最高機関性というものがございましょうから、その場で徹底した議論を尽くされればいいのではないかと思います。もちろん、何でもかんでも全部ふろしきを広げて取り込めばということでは必ずしもなかろうと思いますので、当然、それぞれの論点には優先順位といったものも出てこようかと思います。
  68. 大出良知

    大出参考人 お答えいたします。  大変難しい点を含んでいるかと思いますが、私としましても、司法現状をどう打開するのかということについて考える必要があるというふうに思っておりまして、一体どこがその問題について検討すべきかということになった場合に、やはり第一に挙げられるべきは国会ということになろうかと思いますし、国会との関係において内閣一つの設置場所であろうかというふうにも考えております。  しかし、それは、先ほど来申し上げましたように、やはり多くの国民的な視点から批判を受ける、あるいは議論が広い基盤の中で行われるということが不可欠だと思いますし、これも先ほど申し上げましたけれども、あくまでも審議会での議論というものが拙速に陥るようなことにならないという手だてはぜひとも必要かというふうに思いますし、事務局主導というようなことで議論が進むなんということもないようにしていただきたいと思いますし、その限りにおいては、二年という時間を切って、その中で何が何でも結論を出さなければいけないというようなことでいいのかどうかについては多分に疑問があるところでございます。  それから、個別の具体的な課題というようなことになった場合に、その順番をどうつけるかということにつきましては、いろいろとこれも議論のあるところでありますので、もしそういうことであるならば、国会の場で大いに御議論いただき、とりあえず、この審議会に対しては諮問事項について限定を設けるというのも一つの方法かというふうに思いますが、そこで議論の決着がつくかどうかということについては、先生方のところで御判断をいただくことだろうというふうに思っております。
  69. 木島日出夫

    ○木島委員 ありがとうございます。終わります。
  70. 杉浦正健

  71. 保坂展人

    保坂委員 社会民主党の保坂展人です。  きょうは、池田参考人大出参考人、どうも御苦労さまでございます。  最後の御質問になりますけれども、私は率直なところ、行政と司法は一体ではないかという深い疑念を抱いております。  と申しますのは、多分同様の経歴の方はいらっしゃらないと思うのですが、保岡先生もいらっしゃいますけれども、麹町中学という中学にその昔在学をしておりまして、卒業当時の内申書記載をめぐる訴訟の当事者として、民事裁判原告十六年、十六歳からやるという体験をいたしました。その当時、地方裁判所段階でいわば区の側の代理人として出てきた方が、いつの間にか出世をされて、最高裁の判事で同じ小法廷で担当されるというようなことがありました。忌避の申し立ては認められなかったのですけれども。  ここのところ、裁判官不足にもかかわらず、百四十数人が、法務省が一番多いんですけれども、各省庁あるいは特殊法人に出向しているという事実が明らかになってまいりました。なかんずく、その法務省の百人の中の五十七人でしょうか、そのぐらいの方が訟務検事として、いわば行政訴訟の折には国を背負って法廷に出る。そしてまた、その出向期間が終わると、裁判官の服に着がえて、同種あるいは近接した分野事件を担当する裁判官としてお仕事をされる。  どうも国の勝訴が多い、行政訴訟はなかなか住民側あるいは消費者側、つまり民の側は勝てないということが言われています。こういった点、これは審議会の構成にもかかわってくる点なので、両参考人の御意見を聞きたいと思います。いかがでしょうか。まず、池田参考人からお願いします。
  72. 池田辰夫

    池田参考人 審議会のメンバーの構成につきまして、特に私自身、こういう人が望ましいという考えは持ちませんけれども、先ほど来申しましたように、プロフェッションといいますか、専門職に関する事柄でございますので、そういう方々が入っていただく、そのほかには、いわゆる学識経験者と呼ばれておられる中から選ばれていく、あるいは、保坂先生おっしゃったような形でメンバーの選出がされるということになるのかもしれませんけれども、最終的には両議院の同意ということだろうと思います。
  73. 保坂展人

    保坂委員 ちょっと質問が適切でなかったみたいで、その後審議会のことを聞こうと思ったので、済みません。  判検交流に対してどういう御感想、御見解をお持ちですかということをまず伺いたかったんです。
  74. 池田辰夫

    池田参考人 判検交流につきましては、従前よりいろいろと議論があることは承知しております。  これは実は法曹一元の問題にも絡むわけですけれども、これは全く私の個人的な意見なのですが、同じ人間がいろいろな立場から見るというのは、一般論から言えばそう悪いことではないというふうに思っております。
  75. 大出良知

    大出参考人 私も、いわゆる判検交流につきましては、その実情についても調査研究したこともございます。  今先生がおっしゃったように、私は、基本的にかなり大きな問題を抱えているというふうに思っておりますし、一時、これは新聞でも報道されたことがありますが、水害訴訟にかかわって非常に典型的な事態が起こったということがございました。そのときには随分いろいろと反省の弁もございましたし、是正をする必要があるということは最高裁当局の方からも発言があったように思いますが、その後一向に是正されていないというのは、やはり先ほど来私が申し上げました司法官僚制のもとでの現在の司法のあり方が、その事態の変更というものを許さないということになっているのではないかというふうに思っているところであります。
  76. 保坂展人

    保坂委員 それでは、引き続き大出参考人お願いいたします。  多分、その水害というのは長良川の訴訟で、一回目は完全に勝って、二回目は住民側敗訴という事例だったと思います。  今のお話にもあったように、司法官僚制の影響、あるいは戦後五十年、長きにわたって、判検交流も含めてでき上がってしまった部分のリフレッシュ、再構築を図るためには、今回の審議会の事務局構成は非常に大事になってくるんではないかと思います。  例えば、中央教育審議会などで実際の具体的な答申のプロセスを身近に見る機会があったんですけれども、答申する委員が書いていないことも事務局がひょっと入れたりするんです。それから、タイトルが前の日に変わったりとか、事務局というのは、審議会ではいろいろ活躍するようでございます。  今回のこの審議会で、伝えられるところによると、法務省、最高裁、加えてひょっとすると大蔵省とか、有力な省庁の極めてすばしこい官僚の方たちが入るということは伝えられているんですが、一方で、司法官僚制度に鋭い問題意識を持って情報公開をきちっとやっていこうという立場法律実務家であるとか、あるいは自治体などの情報公開を既にかなり手がけてきて、そういう意味では審議会の議事を透明化する役割に非常に大きな役割を果たすような、そういう事務局の方も入っていないと、官僚の方ばかりで事務局を固めていって果たしてこれだけの議論ができるんだろうかという点について、大出参考人のお話を伺いたいと思います。
  77. 大出良知

    大出参考人 今の御指摘は大変重要な点かというふうに思います。  先ほど私も申し上げましたけれども、臨時司法制度調査会の際の事務局は非常に重要な役割を果たされた。しかも、後で調査してみますと、この経過が必ずしも明確にならないということがございます。つまり、議事録を見ただけでは必ずしも明確にならないよう役割事務局が果たして、その結果意見書ができ上がってきたという経過があるように思います。  そういうことで、今度も、先ほど申し上げましたように、十三人という委員の数はなかなか微妙で、実質的な議論をするためにはその程度の人数ということにならざるを得ないかというふうにも思いますけれども、そうなりますと、その事前準備といいますか、事務方が相当大きな役割を果たすということに恐らくなるんだろうというふうに思いますので、その点については十分な配慮が必要だというふうに思いますし、今御指摘よう事務局の構成についても、慎重に御検討いただく必要があるというふうに思います。  そして、私が申し上げましたのは、そういった状況の中で、最低限の保障措置として、事務局の果たしている役割も第三者に明らかになるような情報の開示ということが最低限求められるであろう、つまり、事務局での検討内容自体をも経過をも含めて公開するということが必要だろうというふうに考えております。
  78. 保坂展人

    保坂委員 では、もう一問だけ大出参考人に伺います。  一応、私どもの党では、今のところの内容、つまり、審議会の構成もそしてまた事務局の構成もわからない、御理解をいただいて、では国会でお待ちしようということにはやはりできないだろうというふうな見解を固めております。  今参考人がおっしゃったように、情報公開原則事務局がどうやって選出されて、何を一体議論して、当然議事録も必要でしょう。事務方の下準備だといっても、骨格を固めるようなものであれば、それもどんどん情報を出していくというようなことが絶対必要条件だと思うんですが、もしそういう条件が、先ほどの臨司当時と同様の、非常に閉鎖的な、不透明な事務局になってしまった場合にでも、この審議会は必要だと思われますか。
  79. 大出良知

    大出参考人 そこはかなり重要な条件だと私は思います。  ただ、それがどの程度整ったかというのは非常に微妙なところかと思いますので、今の時点でそのこととの関係で是非を論ずることはしにくいということを御了解いただければと思います。
  80. 保坂展人

    保坂委員 それでは戻りまして、池田参考人に伺いたいんですが、自民党の中で大変精力的な議論が行われているというふうに聞いておりましたし、また調査会でも幾つかの文書が出ております。  先ほど同僚委員からの質問にもあったんですが、つまり、法曹三者の協議のきっかけになった衆参の附帯決議、これについて見直していこう、もう一つ弁護士自治なるものもこの司法制度改革議論の中で見直すというような方向が自民党の中ではうたわれたようですが、その二点について、参考人の御意見はいかがでしょう。
  81. 池田辰夫

    池田参考人 法曹三者の合意の見直しにつきましては、もっともな点がございますので、国民の声を聞くという意味で私も賛成をしたいと思います。  他方で、弁護士自治の問題についてどのように考えるかという点でございますけれども、これまでの我が国における弁護士自治がどういう形で歴史的に形成されてきたかということを考えますと、当然それは尊重されてしかるべきものがございますので、やはりその大前提に立った上で物は考えていくべきだろうと思います。
  82. 保坂展人

    保坂委員 それでは、もう一点だけお聞きして終わりますが、とりわけアジア諸国で法整備がまだまだできていない。こういった部分についても日本がある役割を積極的に果たすべきじゃないかというお話も池田参考人からあったと思うんです。  アジアといいますと、私ども環境NGOとかあるいは国際協力援助団体、多数友人等もおりまして、何か災害があったり、あるいは日常的な活動でもかなりの数のNGOがもう既にアジアに行っております。外務省や環境庁ではそういったチャンネルもあるんですけれども、事、例えば法務省ということになると、NGOとの接点というのはまだまだ薄いというのが現状です。アジア各国の司法の問題、何が起きているのかということをキャッチするために、こういった民間団体との接点を極めて強く持っていくことが必要だと私は考えるんですが、いかがでしょうか。
  83. 池田辰夫

    池田参考人 保坂先生の御指摘は全くごもっともなことでございまして、やはり官民一体というような言葉を申し上げていいのではないかと思いますけれども、そういう接点の場を持ちながら強力にその支援をしていくということが本当に大事だろうと思います。  ちなみに、実はインドネシアの場合に、国際通貨基金を軸にしていろいろと支援がされているわけですけれども、インドネシアで外国人が民事の事件で身体拘束をされるというよう事件があったやに聞いております。他国のことは我が国の国民の権利等に全く関係はないということではございません。密接な関係がございます。まさに国際問題という以上に国内問題でもあるというつもりで、真剣に取り組む必要があろうかと思います。
  84. 保坂展人

    保坂委員 それでは、お二人の参考人、どうもありがとうございました。私の質問はこれで終わりにしたいと思います。
  85. 杉浦正健

    杉浦委員長 以上で午前中の参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  この際、暫時休憩いたします。     午後零時九分休憩      ————◇—————     午後二時三十七分開議
  86. 杉浦正健

    杉浦委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  内閣提出司法制度改革審議会設置法案について、午前に引き続き参考人から御意見を聴取いたします。  午後の参考人として東京大学大学院法学政治学研究科教授伊藤眞君、名古屋大学法学部教授戒能通厚君の両名の方に御出席いただいております。  この際、参考人各位委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。  長い間お待たせして恐縮でございました。  両参考人には、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いをいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。  まず、伊藤参考人、戒能参考人の順に、各十五分程度意見をお述べいただき、その後、委員質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。  それでは、まず伊藤参考人お願いいたします。
  87. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 伊藤でございます。  司法制度改革審議会設置法案につきまして意見陳述機会を与えていただきましたこと、まことに光栄に存じます。  本日は、私の専門でございます民事手続法及び裁判法の研究者としての知見、それから、若干ではございますが、裁判所の民事調停委員並びに国際商事仲裁の仲裁人としての多少の実務経験、こういったものを踏まえまして、主として民事紛争に関する司法役割及び課題について意見を申し述べさせていただきたいと存じます。  まず、民事紛争の解決と予防にかかわる司法課題についてお話をさせていただきます。  言うまでもなく、個人と個人、個人と企業、企業対企業、それから企業対国など、民事紛争の当事者にはさまざまなものがございますが、紛争の発生自体、個人にとりましても、企業にとりましても、時間的にも、経済的にも、また精神的にも大きな負担となることを考えますと、私どもが第一に考えなければならないのは紛争の予防、すなわち紛争の発生を未然に防ぐことではないかと存ずる次第でございます。  そこで、紛争の予防に関する二つの前提条件について申し上げたいと思います。  第一は、個人や企業にとっての行動の指針があらかじめ客観的な形で明確になっていることでございます。法治国家として、透明度の高い法的準則を定立して、私人がそれにのっとった行動をする、これが紛争の予防につながるわけでございます。  それから第二は、その法的準則の解釈及び運用について法律専門家が適切な助言を与えることが必要になろうかと思います。法的準則は、その性質上、どうしても抽象的、一般的なものにならざるを得ないと考えられますので、それぞれの具体的事情を前提としたときに、その準則をどのように解釈し、適用すればよいのか、こういったものが一般人にとって常に明らかになるとは限らないわけでございます。そこで、いわゆる開業弁護士であれ、また企業内の法律専門家であれ、また行政組織内の法律専門家であれ、法律専門家が適切な助言を与えることが紛争の予防にとって不可欠な第二の条件ということになります。  しかし、この二つの前提条件が我が国において十分満たされているかと申しますと、残念ながら、いまだ十分とは言えないと存じます。後から申し上げますように、法曹の質的及び量的強化が実現をされ、企業組織や行政組織の一員として活動する法律専門家が増加をし、個人や企業などが透明な法的準則にのっとって適切な行動をとることが紛争の予防につながるものと信ずるわけでございますが、現行法制との対比で申しますと、例えば弁護士法三十条にございます弁護士の兼業に関する規制などが、こういったことについて一つ我々がこれからの課題として検討をしなければならない問題と存ずる次第でございます。  以上、紛争の予防について申しましたが、次に、紛争の解決について申し述べたいと思います。  これも言わずもがなのことでございますが、ある事実でありましても、当事者によってはその認識が異なりますし、法的準則の解釈につきましても判断が分かれる余地がございますので、結局、紛争予防について申し上げました二つの条件が満たされましても、なお紛争が発生する可能性がございます。  紛争が発生した場合に、いわゆる弱肉強食の論理でございますとか、あるいは泣き寝入りという形ではなくて、正義にかなった解決が実現されるためには、まず、当事者が対等な条件のもとに交渉できることが必要になろうかと思います。特に、日常的に紛争処理に習熟していない個人にとりましては、民事法律扶助その他の方法によりまして、弁護士など法律専門家から法的助言を受け、あるいは紛争の処理を委任する機会を保障されることが不可欠と考えられるわけでございます。  しかし、こうした形で、対等な武器を持つ当事者間の交渉を前提にいたしましても、なおすべての紛争がそれによって解決されるわけではございません。そこに、公正中立な第三者機関による紛争解決が要請される根拠があるかと存じます。このような第三者機関を代表いたしますのは裁判所でございますが、しかし、すべての紛争が裁判所によって解決されることを期待するというのは合理的と考えられないわけでございます。  裁判所制度は基本的には納税者の負担によって維持されているわけでございますので、当事者の自己責任の原則を考えましても、裁判所以外の第三者機関によって解決可能な紛争につきましては、仲裁でございますとか各種の準司法機関による解決などをできる限り期待すべきものと思います。そういったいわゆる裁判外の紛争解決手続による解決が期待されない事件につきましては、裁判所が厳格な手続によって事実を認定し、判決の形で法を適用して解決をするということになるわけでございます。  このように考えますと、仲裁制度の強化でございますとか、公正中立的な立場から紛争の解決に当たることができる準司法機関の拡充が喫緊の課題ではないかと信ずる次第でございます。  ただし、このように申しましたからといって、私は、民事紛争の解決に関する裁判所の責務をいささかも軽視するものではございません。やはり国民の権利擁護、権利義務に関する私人間の紛争解決にとりまして、最後のよりどころになりますのは裁判所あるいは裁判所における訴訟手続でございます。これは憲法上でも、国民の裁判を受ける権利という形で保障をされているわけでございます。  そこで、民事訴訟あるいは民事裁判が適正かつ迅速に行われるための方策といたしましては、手続面のものと制度面のものの二つが考えられるかと思います。  手続面のものにつきましては、平成十年一月一日より新しい民事訴訟法及びそれに付随いたしまして新しい民事訴訟規則が施行されまして、それ以前からの実務改革動きとあわせまして、適正かつ迅速な裁判実現に向けまして着実に前進をしているように思います。もっとも、いわゆる大規模事件でございますとか、それから知的財産権関係事件に代表される専門性の高い事件については、なお裁判官の増員や、いわゆる専門部の処理能力の向上など、検討されるべき課題が多いように存じます。  次に制度面でございますが、まず、先ほど当事者間の交渉について述べましたのと同様に、民事法律扶助制度拡充が挙げられます。  我が国の訴訟手続は、基本的には訴訟当事者自身の活動によって裁判所判断資料を形成する方式、いわゆる当事者主義をとっておりますので、当事者の訴訟追行能力に懸隔、開きがございましては、いかに裁判所が努力をしても、正義にかなった裁判実現できないおそれがございます。この意味で、経済的弱者がその権利実現し、また相手方の権利主張に対して適切な防御を行うことを可能にするための前提条件といたしまして、民事法律扶助の重要性はいかに強調してもし過ぎることはないものと存じます。  また、訴訟を適正かつ迅速に進めるために大きな比重を持っておりますのは、訴訟代理人たる弁護士の執務体制でございます。伝統的には、一人の開業弁護士が委任を受けて訴訟追行をするという形が比較的多かったわけでございますが、この体制のもとでは、訴訟の準備や期日の指定などにつきまして、弁護士あるいは弁護士事務所の処理能力からくる制約が大きく、適正迅速な訴訟の審理の実現のための集中した争点整理でございますとか、証拠調べにつきまして一定の限界があると言わざるを得ないと存じます。この点から、弁護士事務所の規模の拡大、その前提条件整備としての弁護士事務所の法人化、総合的法律経済関係事務所の開設、こういった点がこれからの検討課題であろうかと存じます。  さて、紛争解決にとりまして最後の段階は、確定された権利や義務を実現するための手続でございまして、この点から、民事執行手続や倒産処理手続の整備が不可欠のものと存じます。  民事執行手続につきましては、金融システムの基盤整備の一環として競売手続の円滑化のための措置が実現をされまして、大きな前進を見たところでございますが、今後も、新しい問題に注意を払いつつ、検討をしていかなければならないものと存じます。  また、倒産処理手続に関しましては、現在、企業倒産及び消費者破産のいずれにつきましても抜本的な改正立案作業がなされているところでございますが、これも民事司法にとりまして重要な課題であるものと信じております。  次に、法曹の質的、量的強化について申し述べたいと存じます。  これまで申し上げました、紛争の予防、当事者間の交渉による解決、裁判外紛争解決機関による解決、裁判による解決及び権利義務の実現、そのいずれの局面をとりましても、法律専門家としての法曹の質的及び量的な強化が望まれるところでございます。  量的強化につきましては、法曹人口増加、端的には司法試験合格者枠の拡大などの意見が唱えられてまいりました。私自身も量的強化の必要性は強く認識しております。しかし、本日は、その点について直接意見を申し述べるのではなくて、もう一方の面でございます質的強化の必要性についての意見を申し述べたいと存じます。  法律専門家の中で、裁判官及び検察官は、国民から負託されました公権力の行使に当たるものでございますし、また弁護士の場合には、利害関係や人間関係が複雑に錯綜する紛争の解決をゆだねられるものでございまして、その職務の性質上、単なる法律知識や実務的処理能力だけでなく、高い識見と人格的洞察力が要求されるものと考えます。しかし、法学教育法曹養成制度現状を考えますと、こうした要求にこたえ得る体制になっているのかどうか、私自身といたしましては、いささか問題を感じざるを得ない次第でございます。  特に、司法試験現状を見てみますと、多くの受験者は、大学入学直後または比較的早い段階から司法試験の受験勉強を開始して、いわゆる司法試験予備校などにおける学習を通じて、いかに能率よく合格に至るかを競っているように思います。こうした傾向を生み出した原因にはさまざまなものがございまして、大学における法学教育を担当する私どもとしても反省をしなければならない点が多いと痛感しております。  しかし、いずれにいたしましても、こうした現状のままで、例えば司法試験の合格者枠が現在の倍程度拡大されたとしても、法曹の質的強化が実現をされるかどうか、そして、この規制緩和の流れの中で、国民の権利実現を助け、社会正義実現に寄与する法律専門家が輩出するかどうか、疑問なしとは言えないと存じます。  我が国司法修習制度は、将来法曹になろうとする者が共通の土俵で切磋琢磨し、また先輩の法曹から直接に指導を受けることを保障する意味で、高く評価されるべきものと思いますが、そこに至るまでの法学教育及び修習の対象者を選抜するための司法試験制度が、ただいま申しました質の高い法曹を育成する上で十分に機能しているかどうか、その点に検討すべき課題があるように思います。  法曹養成制度、そしてその前段階でございます法学教育のあり方につきましては、近時、いわゆるロースクール構想など、さまざまな意見がございまして、それぞれ傾聴すべき内容を含んでいるものとは存じます。ただ、私自身の基本的考え方は以下のようなものでございます。  紛争解決業務につきまして法律専門家の独占を認める以上、やはり法曹たるべき者は活力にあふれ、かつ調和的発展を目指す社会基盤たる法制度及びそれを前提とした紛争解決制度について、そのよりよい姿を探り、またそれについて創造的、建設的な批判を行えるような資質と能力を持った者でなければならないと信じております。  このような視点から考えますと、大学における法学教育をいかに充実させるか、その成果をどのような形で司法試験制度に反映させるか、それを前提として、司法修習制度をいかにしてより充実したものとするかなどが検討されるべき課題であろうかと存じます。  大学における一般教養科目の履修を前提として、充実した内容の法学教育を行い、その内容を試験によって確認をして、その後に、実務訓練を主たる内容とする司法修習を行わせて法曹資格を付与するなど、こういったことが今後の検討課題として重要な問題になろうかと存じます。  何分にも問題が多岐にわたりますために、十分私自身の考え方を整理できていないままに意見を申し上げる結果となり、恐縮しております。  以上で、私からの意見陳述を終わらせていただきます。(拍手)
  88. 杉浦正健

    杉浦委員長 ありがとうございました。  次に、戒能参考人、よろしくお願いいたします。
  89. 戒能通厚

    ○戒能参考人 御紹介にあずかりました名古屋大学の戒能と申します。  私、専門が英米法でございまして、伊藤先生のように日本の訴訟手続に必ずしも精通しているわけではございませんので、委員会の方からは、司法制度改革審議会設置法案の審議に当たって、私が考えていることを何でもいいから述べてみよという非常にありがたいお話でしたので、きょうの機会を与えていただくことについて大変光栄に思っている次第でございます。     〔委員長退席、橘委員長代理着席〕  したがいまして、私といたしましては、この司法制度改革審議会設置法案というものが審議されて、そして日本で司法改革というものが本格的に動き出すということを何よりもまず歓迎したいというふうに考えているわけでございます。  本日、思っていることを述べてみよということですので、非常に率直に、先生方に事前に私の意見を、ファクスで送ったものを配っていただいているかと思いますので、そこに書きましたことは省略して、そのポイントに幾つか補足をしながら申し上げたいというふうに思っております。  私が先生方にお送りした文書は、極めて率直に、今回の司法改革が本当に望ましい形で展開するためには、衆議院の審議の中で、司法制度改革審議会設置法案のこの資料を、先生方のお手元にあると思うのですが、経緯というのがございまして、法律案の提出に至る経緯について極めて簡略に御説明があるわけでして、私は、この点に関して一定の危惧を覚えているわけでございます。  これは端的に申しますと、司法というのは、必ずしも行政改革の、今流れの中で展開しております規制緩和によって生じた社会の事後的な救済という役割、そういうことが果たして司法役割なのかということに、私は基本的に疑問を持っているわけでございます。そのことを、先生方のところへお配りしました「はじめに」というところで書いてあるわけでございます。  私は、現在の日本の司法の最大の問題は、司法の中心であります裁判官の職務が、率直に言いますと極めて劣悪な状況にある。何といっても、事件数が膨大であることに加えまして、転勤が非常に多い。三年に一回は転勤するということもございます。そういう中で、裁判官は果たして十分に市民権利実現、人権の保護、社会正義実現という職務を実現できるだけの精神的な余裕を与えられているのかどうかということにつきまして、私は極めて危惧を持っているわけでございます。  通常言うところの司法行政というものが最高裁事務総局によって基本的には握られていて、それぞれの裁判所ごとの裁判官会議というのはもう既に今形骸化している。  アメリカの法学者で、ワシントン大学の日本法専門家のO・ヘイリー先生が、日本の司法というのは驚くべき一体性、統一性を持っているということを言っているわけです。これは非常に皮肉な表現でありまして、アメリカの司法というのは、裁判官それぞれがそれぞれの意見を持って、意見がみんな違う。違憲判決なんかしょっちゅう出るわけでございまして、むしろ司法は多元的な意見を持つというところに特徴があるんだけれども、日本の場合には上から下まで同じことを言うということをO・ヘイリー先生は言っていて、あろうことか、O・ヘイリー先生は、それは裁判官が政治から身を守るためのいわば自己防衛だというようなことを言っていました。  私は、その結論には、非常にシニカルでありますし、賛成できないんでありますけれども、少なくとも外国の日本法の研究者からはそのように日本の司法が見られているということは、果たして我々にとって名誉かどうかということであります。  私は、裁判官はまず何よりも市民であるべきだと思うのであります。  最近、私の友人の北海道大学の木佐教授が「日独裁判官物語」という映画を自主製作で、大変な努力で、もちろん彼だけではございませんけれども、これが五月三日に全国放映になるようでございますけれども、これはぜひ先生方、見ていただきたい。ドイツの裁判官は、まず何よりも市民である。むしろ、市民運動に積極的にかかわっていくのが裁判官である。  それから、アメリカの裁判官は、州の裁判官というのは、これは基本的に選挙で選出されますので、政治に対して非常にアクティブに発言をされるわけですね。裁判官が政治的にどういう信条を持っているかということがわからないということは、これは選挙民にとっては極めて不気味なことでございまして、むしろ積極的に政治的な発言をする裁判官がいい裁判官であるということになっているわけです。  日本では、先ごろの寺西裁判官の分限問題にも表現されておりますように、盗聴法のための市民集会に参加したということのみが、これが裁判官立場を逸脱するものであるということで分限裁判にかけられる。これは、ドイツの裁判官は非常にびっくりして、抗議状を送ってこられたことは御存じのとおりだと思うんです。  こういうように、裁判官市民的自由がなく、しかも仕事に忙殺されていて十分考える暇がない。その根源にある司法行政、これを改めることが、私は、司法改革のまず何よりもなすべきことではないかというふうに考えるわけでございまして、むしろ、規制緩和の後に生じた社会の事後救済というようなことをやるのが裁判役割ではないというふうに思っているわけでございます。  そこで、「司法「内在的」司法改革の方向」というところにちょっと移らせていただきます。  我が国司法と対極にあると思われますのは恐らくアメリカの司法ではないか。アメリカでは、そろそろ弁護士の数が百万に近づこうという大変な弁護士の国家である。大統領ももちろん弁護士ですね。そういう国は、司法改革論議の中でも盛んに言われる、司法の大きな国ということになりますね。  アメリカのよう司法を大きくしたいというのがどうも改革論議の中で相当支配的な動きを示しているように思いますけれども、忘れていけないことは、アメリカの司法というのは、アメリカは、御存じのとおり三権分立を典型的に実現した国家だ、憲法上もそうだと言われております。この国家においては、そこに書きましたように、単線型民主主義、レベリングデモクラシー、要するにこれは、人民が投票所に行って投票する、そこでもう人民の意思は終わるのであって、後は国会が制定する制定法、これによって人民の意思は表現されていくんだ。  果たしてそれでいいのかということで、実はアメリカでは、デュアリストデモクラシー、複線型民主主義、民主主義というのはそういう単線的な形じゃなくて、むしろいろいろな意見形成の手法が複線的に存在することが初めてデモクラシーなんだ。これが実はアメリカの違憲立法審査制の非常に大きな根拠になっておりまして、アメリカにおけるいわゆるリベラルデモクラシー、自由民主主義ということになるわけですが、リベラルデモクラシーの考え方の基本にはそういうものがある。  つまり、投票所によって表明された人民の意思のみが国家の意思ではないのであって、そうではなくて複線的に形成される。  それは、先生方にこんなことを言うと大変失礼なんですが、政治家というのは、ともすれば自己の利益を追求し、そして人民の利益を忘れることがある。それをチェックする機能、これが実は裁判所である。したがって、裁判所の違憲立法審査制というのは、アメリカ人民が建国のときに考えた理念というものがもし崩されようとするときに、そこに裁判所が登場し、その過去のコンスティテューションを復活させる、復元させる、そこに違憲立法審査制の一つの根拠があるというようなことが論議されているわけでございます。  そのように、必ずしも国家の意思というのは国会の意思のみによって形成されるのではなくて、裁判所によっても形成されるんだという考え方は、訴訟手続上もこれは実質的にその過程が担保されております。これが英米におけるエクイティーという法領域の存在でございまして、エクイティーというのは、むしろ事前規制、裁判所による事前的な、ある事柄が起こる前の規制。それから、現に起こりつつある事態を差しとめる、これはインジャンクションということになるわけですが、例えば公共事業について住民がそれを差しとめるというようなこともインジャンクションという形でできるわけでございますけれども、それは極めて広範な裁判官の裁量を根拠にしているわけでございます。  そのよう裁判官は、当然のことながらしばしば連邦議会と対立することになる。つまり、連邦議会の意思を踏みにじるということになる。もちろん、アメリカの裁判官というのは上院の審査はございますけれども、これは選挙で直接的に選ばれるわけではございませんので、なぜそれでは裁判官にそういう権限が許されるかということについては、これは先ほどのデュアリストデモクラシーの考え方がなければやはり肯定できないということになるのではないか。  したがって、もしグローバルスタンダードということをおっしゃるのであれば、ぜひこのようなアメリカのグローバルスタンダードも、アメリカ司法のシークレットにある、本質にあるということをぜひ前提にして御議論いただきたいというふうに強く希望するわけでございます。それが二のところで述べたことであります。  特に、今回の司法制度改革審議会は、この前の一九六四年の臨時司法制度調査会の失敗、これは失敗というふうにどうも考えておられるようですが、それに学んで、司法当事者、いわゆる法曹三者を排除して学識経験者十三名によって構成されるということになっているようでありますが、これは私からすれば非常に驚くべき委員会の設置の仕方だと思います。  イギリスで現在民事訴訟の大改革が行われようとしているわけですが、それは、ロード・ウルフという日本にも来られたマスター・オブ・ザ・ロールス、記録長官というイギリスの司法のナンバーツーと言われている人物ですが、彼がみずから委員長を務めながら、市民団体、議員、さまざまな政党、それから大学等々の意見を聞きながら、要するにプロの目でそれを見、その意見を集約し、そしてそれを一つの文書にまとめ上げていくわけでございます。  司法よう専門性の高い事柄について、果たして司法の実質的な担い手を排除して司法改革の正しい道が検討できるのかどうかということについて、私は疑問を持っているということを二番目の最後に申し上げました。司法当事者は既得権益者であるというふうに考えておられるのだとすれば、これは非常に問題のある考え方だというふうに私は思います。  三番目に行きます。  法曹一元というのは、今回の司法改革の中で極めて重要な言葉として、臨時司法制度調査会のときもそうだったわけですが、これが出ております。今回の司法制度改革は、この法曹一元のためにまず法曹人口をふやそうというところから話が始まっているところに特徴があるように私には思えます。これが、司法試験改革ということで、司法試験の合格者の数をふやす。  それから、我々にとって極めてショックだったことは、司法試験科目から法律科目の選択科目を外す、いわゆる六法だけにしてしまう。これは、大学法学教育からすれば大変な問題なんです。つまり、行政法とか労働法というのは現代社会のある意味では中心的な法領域であります。それが司法試験科目から外されるということは、要するに、それを大学では少なくとも学んでいない人が、場合によっては裁判官になったり弁護士になるということを意味するわけでありますから、これは、私たちは非常に問題だ。  そういう大改革をする際に、大学意見が余り聞かれないということも極めて遺憾に思っておりますので、ぜひ今度は大学意見も十分聞いていただきたい。伊藤先生も既にそのようなことについて、現在の大学法学教育の実態、そういうものが果たしてその期待にこたえられるかということも含めて、慎重に検討してほしいとおっしゃった。私も全く同感でございます。  それから、世界的に見ても、法曹不足ということを、要するに、法曹教育の機関だけではやっていけないので大学に依拠してやっていこうという傾向が出ていることは、これはイギリスについてもそうなんであります。  ここでぜひ先生方に考えていただきたいのは、大学の法学部、これは毎年四万人ぐらいの卒業生を出しているようでございますけれども大学の法学部は確かにいろいろな問題があるけれども、法学部を出た、法学部で専門教育を受けた方々が市民として社会のあらゆるところに進出していくということが、日本のこれからの社会を支えていく上に極めて重要だ。これからNPO、NGO等々の市民を主体としたさまざまな活動がますます盛んになっていくかと思いますけれども、そこでは法的な知識は不可欠であります。  イギリスでは、そのような法的知識を持った人々がボランティアとして広範な層を形成いたしまして、それが法的な問題、専門的な問題につなぐ役割として法曹の位置づけが行われているわけでございます。  私は、そのようなことを考えますと、日本の法学教育をいい方法に改革して、そういうふうに、必ずしも法曹資格を持たないけれども、法学的な素養のある人をふやしていくということも必要ではないか。ですから、現在性急に出ている一部の意見の中には、法学部を廃止してロースクールをつくるというような発想があるようでございますけれども、これはとんでもない意見だというふうに私は考えているわけでございます。  そもそも法曹一元という言葉でございますが、これも私いろいろ調べてみたんですが、法曹一元に相当する英語は存在しないんですね。これは明治から大正にかけて、日本で弁護士の地位がまだ非常に低いときに、弁護士の自治と弁護士資格試験というものを中心にしました弁護士改革という中で、法曹一元というのは司法改革総体の表現でもあったということであります。  したがって、法曹一元というのは、基本的にイギリスのバリスターをモデルにした、イギリス型司法というものを理念として掲げた改革理念でございまして、それは当然のことながら、当時まだ盛んであった陪審制、そして裁判官弁護士から選ばれていく、そういう実力主義といったものがあり、そしてバリスターの中心的な業務でありますところの口頭弁論中心主義、当事者主義といったものがすべて合体して、それを法曹一元というふうに表現したんではないかというふうに考えるわけでございますので、これは単に弁護士裁判官の供給源になるということだけを意味するわけではないということでございます。  時間が来ましたので、一応最後に一言だけ。  むしろ、最初に申し上げましたように、今回の司法制度改革をぜひ積極的に進めていただきたいというふうに考えるわけですが、裁判の、司法の中心は何といっても裁判官であります。その裁判官が現在のよう市民的自由を保障されず、憲法に保障されているところの良心のみによってそれぞれ独立判断をするという、裁判官独立の基礎が日本には基本的には存在しないということを率直に申し上げて、これを改革することからぜひ始めていただきたいということを強く申し上げて、私の発言は一応これで終わらせていただきます。  御清聴ありがとうございました。(拍手)
  90. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 ありがとうございました。  以上で参考人意見の開陳は終わりました。     —————————————
  91. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。加藤卓二君。
  92. 加藤卓二

    加藤(卓)委員 参考人のお二人の先生、きょうはお忙しいところをどうもありがとうございます。  伊藤参考人にお伺いしたいのですが、私は、二十一世紀社会がいかに透明なルールと自己責任の理念に貫かれた社会になったにせよ、我が国が濫訴を伴うところの訴訟社会に陥ることだけは避けなければならない、こう考えております。世の中のあらゆる紛争が何でもかんでも訴訟の場に持ち出されるよう社会は望ましくない、こう考えているのですが、これに関してどんなふうにお考えでしょうか。
  93. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  私の認識もただいまの委員の御発言と全く同じでございまして、したがいまして、本日私の意見陳述の前半を紛争の予防ということに当てたわけでございます。また、同時に、当事者間紛争の予防をし、かつ、一たん発生の途上にあるものについても当事者間の交渉によってできるものは解決するし、また場合によっては、紛争となったものについても裁判所以外の裁判外紛争機関で合意に基づいて解決できるもの、こういったものはそれが最も望ましいのではないかということを申し上げましたが、そこにあります基本的認識は、ただいまの御発言と全く同様でございます。
  94. 加藤卓二

    加藤(卓)委員 そこで、参考人も先ほども触れられておりますが、紛争の解決システムをトータルで考えていくということ、例えば裁判外紛争処理制度拡充が重要であると考えていますが、この点に関して参考人認識をいま一度お伺いしたいと思うのですが、よろしくお願いします。
  95. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  裁判外の紛争解決機関、機構としてはいろいろなものがございます。例えば、これは場所としては裁判所で行われているわけでございますが、民事調停、家事調停というのも、合意に基づく解決という意味では一種の裁判外紛争手続だというふうに思います。それから、仲裁はもちろんそうでございますし、その他、行政機関や民間の第三者機関が行っておりますもの、こういったものもすべてそこに入ってくるかと思います。  ただ、御承知のように、例えば仲裁一つをとりましても、仲裁の根拠法となっておりますのは我が国で大変古い法律でございまして、現代の求められているような仲裁のよるべき法として適当かどうか、このあたりも大いに検討をしなければならない問題があるかと思いますし、そういった手続のいわば近代化、現代化を通じて、こういったものについて、より多くの紛争がそこで解決をされるような方向に持っていかなければならないというのが基本的な認識でございます。
  96. 加藤卓二

    加藤(卓)委員 また、司法は国民に利用されやすいものでなければならないことは言うまでもありませんが、私は、先進諸国に比べて著しくおくれているのが、民事法律扶助制度を充実しなきゃならないということではないかと思っておるのです。極めて重要な政策課題であると考えておりますが、二十一世紀社会における国民の裁判へのアクセスを確保する観点から、民事法律扶助制度重要性に関して、いま一度参考人のお考えをお聞かせ願いたいと思います。
  97. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  実は、昨年、平成十年の三月二十三日に、法律扶助制度研究会というところから報告書が公表をされております。これは、民事法律扶助制度の抜本的な改革について、それを内容とするものでございます。例えば、現在の我が国の民事法律扶助については、その根拠となる法律がないこと、それから、大変厳格な償還制、つまり、扶助はするけれども、それは後に当事者から償還をさせる、しかもそれが非常に厳格に運用をされているということ、それから、国庫の扶助に対する援助の金額が諸外国などと比べますと必ずしも十分でない、こういった点をぜひ改めていただくようにという報告書が出されておりまして、私の承っているところでは、この報告書に基づいて具体的な制度改革の作業がなされつつあるように聞いております。  以上でございます。
  98. 加藤卓二

    加藤(卓)委員 また、司法の充実や国民に身近な司法実現という観点から、私は、司法書士、土地家屋調査士等のいわゆる隣接専門職種の活用が重要であると考えていますが、この点について、伊藤参考人、どんなふうにお考えでございますか。
  99. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  司法書士等についてでございますが、実は、これは余談になりますけれども、私の大学で教えた学生の中にも、現在司法書士として実務で活躍をしている者がおります。そういった者の活動を聞いてみましても、司法書士の水準といいますと大変失礼になりますけれども、これは非常に高いように思います。ぜひ、広い意味での法律専門家の一つとして、より広い場で活動をし、国民のために奉仕をしていただきたいと思うわけでございます。  ただ、具体的な、ではどういう場でということになると、いろいろなことが考えられます。中にはやはり抜本的な制度の考え方にかかわるものもございますが、先ほど委員が御指摘になりました、例えば裁判外紛争解決のような場で、ただいまの司法書士の方でありますとか土地家屋調査士等の専門家に活動をしていただくということは大変国民にとって有益なものではないか、このよう認識をしております。  以上でございます。
  100. 加藤卓二

    加藤(卓)委員 国民に対する安定的そして継続的な法律的サービスを提供するために、制度として弁護士事務所の法人化を実現するというような考え方が重要であると考えていますが、この点について、伊藤参考人、いかがでございますか。
  101. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  この点も、先ほど意見陳述の中で申し上げたとおりでございまして、訴訟の準備にいたしましても、それからその他の法律事務の処理にいたしましても、依頼者のために迅速かつ適正にその処理を行うためには、やはり一定以上の規模の法律事務所がどうしても不可欠になっていくのが今後の趨勢でないかと思います。  その意味で、ただいま委員の御指摘にございましたような法人化などは、基本的に実現されるべきものというのが私の考え方でございます。
  102. 加藤卓二

    加藤(卓)委員 ところで、両参考人が、法曹の質を確保するために、戒能先生も提案しておられますが、法曹養成大学教育との連動というか、大学法曹養成に何か役立てないかという方向で検討中であるという趣旨の意見陳述がなされました。ちょっと違うところもあるようでございましたが、もう時間がないので、参考人個人の意見をお聞きする時間がございません。戒能先生、どうも済みません。非常に参考になる意見をお聞かせ願ったので、よく勉強させていただきました。お礼を申し上げながら、終わらせていただきます。きょうはどうもありがとうございました。
  103. 橘康太郎

    ○橘委員長代理 達増拓也君。
  104. 達増拓也

    達増委員 自由党の達増拓也と申します。早速質問をさせていただきたいと思います。  まず、伊藤参考人に質問でありますが、法曹教育に関してであります。  法曹の質の強化のために教育養成が重要であるということで、いろいろ大学教育のお話もされましたけれども、今の大学での法学教育というのは、主眼は法学者の養成にあるのかなというふうにも思うわけであります。法解釈学でありますから法解釈について教えるということで、それは法曹になるための勉強なのかもしれませんけれども、アメリカのローコース、ロースクールが最初から本当に法曹になるためのトレーニングのような勉強をするのに比べると、ちょっと違うのかなと思うわけです。  それで、ロースクールの場合、その職業になるために必要な勉強をして、一定水準に達したら簡単な試験を受けて資格を取れるという仕組みなのに対して、日本の場合、勉強は後から、試験に合格した人に司法研修所で徹底した教育養成を行う。  そうしますと、やはり、その試験というのは一体何なのかということになると思うんですね。その職業になるための勉強をした上での試験ではなく、何だかわからない。特に、学生からすると、法学者になるための勉強に時間をかけるくらいだったら、司法試験予備校で要領よくパターンを覚えて試験に受かっちゃえというふうになると思うんです。これは本当に、法学部は大変悩んでいる問題だとは思うんですけれども、その点についてお聞かせください。
  105. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  実は、私自身も、少し前になりますが、五年間ほど司法試験の民事訴訟法の考査委員を務めさせていただいたことがございます。そういった経験も踏まえてお答えをしたいと存じます。  もちろん、試験のやり方についてはいろいろ改善の余地があろうかと思いますが、しかし、試験で評価できるものというのは、事法学教育の成果という点から見ましても、ごく一部のことでございます。御承知のとおり、短答式、論文式、口述式と三段階の試験は実施をいたしますが、しかし、それで全体の評価ができるだろうか。これはもちろん、それ自身が意味のないことではございませんが、やはり、かなり限られたものである。  そうなりますと、やはり、試験で試すことができる以外の部分については、大学法学教育をきちんと履修していただく必要があるのではないか、それがなければ、やはり、国民のための法曹としての責務を果たし得ないのではないかというのが私の基本認識でございます。  ただ、ただいま委員の御指摘にございましたように、確かに、これは自分自身の反省を含めてでございますが、従来の大学の教官と申しますのは、自分の研究の成果を講壇の上から話すというよう意識が多分にあったということは事実でございまして、また、それが、今日のよう司法試験予備校の隆盛の一端をなしているのではないかと思います。  したがいまして、もし私のような考え方をとる場合には、やはり我々自身が、一体、法学教育のあり方、内容をどうすべきかという点を真摯に反省をして、必要な部分を改善していかなければならない、このように考えております。  以上でございます。
  106. 達増拓也

    達増委員 ありがとうございました。  次に、戒能参考人に質問いたします。  裁判官に対して、アメリカのように、市民たれ、政治的であれという御趣旨だったと思うのですけれども、アメリカの裁判官というのは、伝統的に、町の名士として、およそ社会的な、あらゆる意味での地域のリーダーのイメージがあると思うのですね。判事さん、判事さんということで。それは、十八世紀、十九世紀から、行政国家化する前に、のんびりした時代、立法というのはほとんどタウンミーティングのようなところで済んで、何かもめごとがあったときの中心というのはやはり判事さんという時代、そういう歴史の流れの中で、もう最初から市民であったし、政治的であったということがあると思うのです。  また、日本の場合、裁判官だけが市民的で、かつ政治的であればいいということではなく、日本人全体がもっと市民的自由をちゃんと享受し、それを活用して政治的参加をしていくような、恐らく、日本国民全体としてそういう自由化、民主化が進まない中で、裁判官だけが突出すると、またバランスを欠くというような問題もあるとは思うのですが、そういうアメリカの裁判官のあり方の歴史性と日本との比較について、お話を伺えればと思います。     〔橘委員長代理退席、委員長着席〕
  107. 戒能通厚

    ○戒能参考人 確かに、アメリカの裁判官というのは地方的な名士であるというのは、それはいわゆる治安判事のクラスの裁判官ですね。  ただし、アメリカがなぜ裁判官を選挙で選ぶようになったかというのは、これはもう明らかにイギリスとの対抗意識で、イギリスの場合には、裁判官というのは、先ほど言いましたように、バリスターの中から経験と人望によって選ばれていくということですから、そういうことに対して、アメリカの場合には民主主義という観点でそういうふうになったと思うのですね。  ただ、アメリカでは、その後、御承知のように、ジャクソニアン・デモクラシーという時代がありまして、あらゆる官職、役職を選挙で選ぶということになって、それが現在ではかなり行き過ぎというようなところもあったりしてということがありますね。  私が言いたかったことは、むしろ、日本の裁判官は、委員がおっしゃるように、確かに日本の市民一人一人とってみてもまだ市民的にアクティブではないという以上に、もっと市民的ではないのですね。例えば、三年間で大体転任になっていきますので、裁判官宿舎に閉じこもってしまってほとんど市民とのつき合いがないとか、そういうことを私は申し上げたのであって、要するに、普通の市民ぐらいに市民たれというふうに私は言いたい。それぐらい、日本では、裁判官市民的自由というのはかなり重要な問題だというふうに考えております。
  108. 達増拓也

    達増委員 ありがとうございました。  自由党といたしましても、単にグローバルスタンダードに合わせるとか、規制を緩和すればいいとかいう形の司法制度改革ではなく、ほかの政治や行政、社会経済全般の構造改革の中で位置づけておりまして、その原点は、やはり一人一人の個人の意識改革というところから始めて、自己責任原則に立った本来の紛争解決としての司法制度実現していきたいというふうに思っております。  参考人の先生にお礼を申しまして、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
  109. 杉浦正健

    杉浦委員長 次に、佐々木秀典君。
  110. 佐々木秀典

    ○佐々木(秀)委員 民主党の佐々木秀典です。  両先生、きょうは御苦労さまです。ありがとうございます。時間の制約がございますから、早速、質問に入らせていただきます。  実は、きょう両先生においでいただいたのは、御案内のとおり、司法制度改革審議会を内閣に設置したいという法案を政府がつくりまして、それで提出をしてきている、このことに関連してということになるわけでございます。  先ほど来、先生方のお話にも出、あるいは今の同僚の質問の中にも出ておりますように、確かに、我が国司法司法機能を十分に果たしているかというと、そうではないのではないかというのが皆さんの見るところではないかと思うわけです。  その理由あるいは原因というのはさまざま考えられるわけですけれども、午前中、参考人においでいただいた大出先生などは、これは戒能先生もそうおっしゃったかもしれませんけれども一つには、裁判官が大変に忙しい、事件が多過ぎる、余裕がないというようなことから、十分なその役割を果たせないのではないかというようなことですとか、あるいは今の裁判所の機構、あるいは法律司法に見られるように、国民としても十分に裁判を受けられるよう制度的な保障ができていないとか、さまざまな要因があるだろうと思うのですね。  確かに、そうした具体的な事柄については、実は、衆議院の法務委員会の決定に基づいて、法曹三者協議会という機関ができておりまして、ここで具体的な問題について話し合ってきている。その中で、例えば、具体的には司法試験の改正についての合意ができたり、あるいは合格者の増員についての合意ができたり、それを当委員会の審議を経て法律の改正などの形で実現をして、一定の前進が認められている。あるいは、外国弁護士の受け入れ方などについても、この三者協議を経て法律がつくられ、あるいは改正を何度もされてきているというような経過があるわけです。  しかしながら、この中で協議をされており、また、今でも意見で述べられましたような、かなり抜本的だと思われる司法制度改革がなかなか進まない。これは三者協議の議を経てもなかなか進まないというようなことから、果たしてこれでいいのかというような問題提起が出されている。特に、法曹界を離れた経済界などから、司法はこれでいいのですか、さまざまな経済的な要求にも応じ切れていないのではないですかという問題提起があって、午前中に質問されましたけれども、自民党の保岡議員などが大変熱心にこれにこたえられて、党内でも討議をされ、それに触発をされて政府が、それでは広く国民の皆さんの御意見を聞きながら抜本的な改革をしようかというのが今度の法の趣旨ではないか、こう私は思うのですね。  そこで、戒能先生は、司法改革についての論議が積極的に行われることは大変結構だ、意義があるということをおっしゃった。しかし、それを、政府が出している今度の法律によりますと、法曹を別にした学識経験者十三人を委員にするこの委員会で、特にどのことというようには言わないで審議をしていただくんだ、こうなっているわけですね。  この目的とするところを提案理由の説明で見ますと、「第一に、内閣に、司法制度改革審議会を置くこととし、二十一世紀我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、司法制度改革基盤整備に関し必要な基本的施策について調査審議するとともに、調査審議した結果に基づき、内閣意見を述べること」、こうなっているわけですね。  限定していないわけです。何をしなさいとも言っていないわけですね。そうすると、司法制度全般について、自由にひとつ論議をしてもらいたいということになるのでしょうが、しかし一方、この法律は施行から二年の時限立法ということになっているのですね。今言われているような、ここで今論じられているようなことだけでも相当なことがある。  例えば、周辺の、きょうは司法書士先生方も見えているのですけれども法曹とはどの辺までを言うのか。伊藤先生御指摘ように、裁判所以外の紛争処理の機関をどうするのかということも含めたり、こういう周辺の法曹関係の方々といわゆる法曹とはどういう関係になるのかとか、さまざまな問題が取り上げられ、しかも、大学法学教育までということになると、本当にこの領域が広くなるのを、この二年間の間にこの審議会でどこまでできるのか、私は物すごい大変だなという感じがするわけです。  そこで、今この審議会を内閣に置くことの意義と、仮にこういう審議会をつくるとすればどの程度のことまで期待をするのか、この辺のところを伊藤先生と戒能先生、それぞれから御意見をお伺いしたいと思うのです。
  111. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  この法案関係をいたしますこの審議会でどういうようなことを審議していただきたいかということにつきましては、まさにその点、本日、私が民事紛争についての司法課題という点から申し上げたようなこと、これについて、少なくとも私自身はそれを課題として考えておりますので、取り上げていただければ大変ありがたいというふうに考えております。もちろん、それに尽きるものではないかと思いますが。  それからもう一つ、審議会の構成員等につきましては、本日、私、その点については十分考えておりませんので、確定的な意見を申し上げることは差し控えさせていただきたいと思います。  ただ、従来の経緯につきましてはただいま委員から御指摘のとおりであろうかと思いますが、今回このような形での提案がなされている背景には、国民のための司法である、広く国民の意見を代表し得るような方々に十分に議論をしていただく機会をつくるのが大切なのではないか、そのよう理由からこのような形での御提案がされているのではないかと私は理解しております。  以上でございます。
  112. 戒能通厚

    ○戒能参考人 佐々木委員のおっしゃるように、私も司法制度改革審議会が何とかうまくいってほしいと思っているんですけれども、ただ、今申し上げましたように、膨大なテーマがあって、日弁連の司法改革ビジョンだけ見てもすさまじいテーマが並んでいるので、果たしてこれが二年でできるのかということを率直に危惧するわけですね。  ですから、私は、これを一遍にやるということにやはり非常に無理があるので、何らかの年次的な計画をつくってやっていく以外ないし、それから、これは本当に一つのチャンスだと思います。ここで誤ってしまっては、せっかくの日本の司法というものが大きな迷路に陥りかねないような問題もあると思いますので。  私がさっき申し上げたかったことは、法曹三者を復活せよということを申し上げているわけではなくて、司法当事者が直面していて、そして、そこで専門的な知見からさまざまな見解を表明していることについては、やはりこの審議会において、それを単に、言葉は悪いですけれども、プレッシャーグループにするのではなくて、当事者に加えて議論をしていただきたいということを申し上げたわけでございます。
  113. 佐々木秀典

    ○佐々木(秀)委員 確かに、学識経験者、もっともこれは政府にお聞きすべきことなんだろうと思うんですけれども、具体的にどういう基準で、どういうジャンルの方からどういう方を選ばれるのですか、こうなるのですが、どうも今のところの構想では、例えば裁判所からとか法務省から、あるいは日弁連代表からなどということではない。ただし、そういう法曹のOB的な方も、経験豊富な方を交える用意はあるんだというふうに考えておられるらしいんですね。  また一方、そのための事務局をつくるということで、これは三月十六日の朝日新聞の夕刊ですけれども、この審議会に向けて、例えば最高裁判所が審議官のポストを十八年ぶりに復活させて、そして、審議官を中心にして、このできるであろう司法制度改革審議会事務局体制、これに向けての人材の配置などをし、あるいは資料の収集、分析などもこれから始めていくというようなことが書かれているわけですね。  そうなってくると、当然のことながら法務省からも入る。そうすると、裁判所、法務省だけでは片手落ちだというので、弁護士会の方からも事務局に入るだろうというようなことで、法曹三者協議会みたいなものが前段でできる。  そうすると、これも午前中からも話があったのですけれども、今もお話があるように、審議会でどういうことを協議するんだということなどについては、まず事務局段階で協議をしてスケジュールあるいはテーマなどを立てていくんだろうか。そうすると、広く学識経験者、広くいろいろ各界の方々の御意見をと言うけれども、実際には、前段の事務局レベルのところで結局法曹三者が協議をする、そこでまたすったもんだするというようなことになって、なかなかにこれは、果たして進むのかなという心配が私どもとしてはあるんですね。  ですから、二年間ぐらいに限るというのであれば、余りそういうことにとらわれないで、その間にこの問題を解決しなければならないというのではなくて、むしろ、広く一般の国民の視点に立って、この紛争解決機関、あるいはその代表である裁判所、あるいは司法というものをどう考えるのか。そこで働いている裁判官だとか検事だとか弁護士についてどんな思いで見ているのか。もっとこうしたらいいのではないか。あるいは、そうした司法救済に一般の市民が関与するというのは、日本の場合には民事調停と家事調停、それから検察審査会ぐらいですね。陪審だとか参審というものがない。これでいいのかというようなあたりの議論をひとつ御自由にやっていただくということにすぎないのかな、何々について結論を出すというような権限まで与えるようなものにはならないのではないかなと思ったりするわけですね。  いずれにしても、私は、他国に比べて日本では、国民あるいは市民司法参加ということが極めて少ないのではないか。ただし、そうかといって、アメリカやイギリスなどでやっているような陪審のあり方、あるいはドイツでは参審制のようですけれども、それらについてそのまま導入するというわけにもいかないのではないかとも思うのですけれども、もう少し国民みんなが肌で裁判を身近なものにとすることができるような方策は何としてもこの機会に考えた方がいいんじゃないかと思ったりするんです。その辺について、先生方の御意見をお聞かせいただければと思います。
  114. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  ただいまの委員の御発言にございましたように、陪審、参審、その他国民の司法への参加がどういう形であり得るのか、こういったこともぜひ課題として御検討いただきたい、その点、私自身もそのように考えております。  大切なことは、この審議会でいろいろな課題について御議論があるかと思いますが、司法現状、それからそれが抱えている問題、将来の課題についてできる限り広い範囲で情報を集めていただいて、それに基づいて御議論をいただければというふうに考えております。
  115. 戒能通厚

    ○戒能参考人 司法制度改革に当たって、まず、来年あたりから、例の司法試験合格者の増加に伴う研修問題というのが生じますね。私の聞いている限りでは、少なくともその実務修習の受け皿が果たしてあるのかという大問題も発生しておりますし、それから、先ほどの司法試験の問題にいたしましても法学教育と非常にかかわりますので、私は、司法制度改革審議会がいかに大変な課題を抱えていても、できる限り多方面に議論を呼びかけていただきたいというふうに思っております。  私は、今学術会議というところにいるのですけれども、学術会議は、実は法律関係の学会を基盤にしてできているところですので、ぜひそういう学術会議等々にも例えば議論をするように呼びかけていただくとか、あらゆる機会をとらえてこの問題についてはぜひ議論をしていただきたいと思っております。  司法というのは、率直に言って、国民の関心が非常に薄いのですね。日本の国民のどれぐらいの人が現在の最高裁長官の名前を知っているかといえば、多分ほとんど知らないという状況だと思うのですけれども、私は、これは日本の統治システムの基本的な欠陥だと思っておりますので、これをいい機会にぜひ議論を巻き起こす。そして、現に起こっている問題について、さっきの裁判官市民的自由の問題とか、来年起こるであろう修習問題とか、そういうことについても機敏な対策を立てていかないと、これはやっているうちに破綻するおそれも十分あるのじゃないかというふうに私は危惧しております。     〔委員長退席、山本(幸)委員長代理着席〕
  116. 佐々木秀典

    ○佐々木(秀)委員 私は、そういう中で、今、国民の司法参加ということで御意見をお伺いしたわけですけれども、戒能先生が御指摘になられたように、余りにも今の日本の裁判官、検察官もそうだと思いますけれども、要するに官にある方というのは、特にそれが司法の中での官の方は、非常に政治的な中立性というのを要求され、あるいはそのことを気にしている。政治的に中立であるだけでなくて、政治的な中立らしさを保ちなさいということを言われて、そのために、政治的な自由はおろか、市民的な自由までも制約をされている、あるいは自制をしているということなんだろうと思うのですね。  さっき戒能先生が御指摘の「日独裁判官物語」、私はまだ全部見ていないのですが、実は、きのうの夜中でしたでしょうか、たしか日本テレビが三十分ばかりその紹介をしているものを拝見しました。その中で、一部、ドイツの裁判官の方々、憲法裁判所の所長さんなどは女性の方でしたね。そのお話が出ているわけですが、とにかく非常にフランクですね。法服を脱いじゃうと、えっ、この人が裁判官というような感じで、一般の市民と全く変わらないように話もされているし、驚くのは、自分は何党に入っているということをはっきり言うのですね。そういう政治的な行動も職務外ではやられているとか、あるいは、政治的な問題を話し合う裁判官だけの協議会みたいなものがあって、そこでやっているとか、一種の労働組合に近いような団体ができていて、それにも入っているというのですね。  実は、私は昭和四十四年から四十七年まで青年法律家協会の議長をやっておりまして、その最中の昭和四十六年に宮本裁判官が判事補から判事への再任を拒否された。最高裁判所はその理由を言わなかったわけです。極めて異例の、あれは一種の首切りみたいなものでした。理由を言わなかったが、結局は、青年法律家協会に入っていて、それを抜けなかったことが理由だということをしきりに言われたのですね。  そんなことを考えると、およそ政党でも何でもない青法協に入っている、あるいはそこで学術研究的な発表などをすることが問題にされるなどということ。これは、さっき寺西裁判官のことを例に出されましたけれども、「日独裁判官物語」でもそうだったそうですね。日本の弁護士がその話をドイツの裁判官にしたらみんなに笑われた、そして抗議が来たという、およそ全然違う。アメリカの場合には、戒能先生がおっしゃるように選挙だから、裁判官も検事も、私は何党からの裁判官だ、何党の検事だと言って立候補するのですものね。  だけれども、日本では、今、幾ら司法制度改革をしろと言っても、そこまでというと、みんなびっくりしちゃってどうにもならぬと思うのですけれども、しかし、もう少しそういう自由があってもよさそうに思うのです。ですから、そんなことぐらいはこの審議会でもっと話題になってもよさそうに思うのですね。  実は、三者協議会の中などでは、法曹間ではこういうことは余り話題にならないものですから、こんなことがもう少し話題になったり、もう少し裁判官は自由になった方がいいんじゃないかな、それにしても仕事も多過ぎるものですから、そんなふうにも思うのですが、この辺は戒能先生の御感想をお伺いしたいと思います。
  117. 戒能通厚

    ○戒能参考人 裁判官が政治的な見解を抱くということと、日本国憲法にあるように、良心と憲法と法律に従ってという、これは日本の一般の考え方でも非常に誤解があると思うのですね。  つまり、政治的な信条とか政治的な立場をとるということと、法的な解釈を通じてそこに一定の正義を実現するということは決して矛盾をしない。むしろ私は、そういう政治的な問題に関心を持って、今の日本の動きとか世界動きに対して自分のオピニオンを持つということが正しい判断につながる。そのあたりは大学法学教育の中でももう少しやらなきゃいけない問題なんですね。  大学法学教育で、先ほどのロースクール構想で一番危惧されるのは、今の学生諸君がそういう価値観を持つことを非常に嫌う。したがって、そういうことについて、大学法学教育というのは、むしろ価値観を持つということのためにどういう教育をするかということが私は非常に重要だと思うのですが、司法研修所の教育の中にはその点がかなり欠落していたんじゃないかと思うのですね。  ですから、そういう意味では、これからどういう法曹をつくるかという点で、日本の法学教育を含めて、法曹の生い立ちから含めて全部洗い直すぐらいの思い切った改革をしなければいけないんじゃないかというふうに私は思っております。
  118. 佐々木秀典

    ○佐々木(秀)委員 ちょっと時間があるようですから、伊藤先生も、恐縮ですけれども、今のようなことについて御感想がありましたら。
  119. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 先ほど私が意見陳述の中で最後の部分で申しましたが、やはり法律家は、現在の法制度についての知識あるいはその運営の仕方についての知見だけでなくて、それをどのように国民のために変えていくかということについての建設的な批判、創造的な批判を持ち得るような人材でなければいけないと考えておるわけでございます。  ただいまロースクール構想のお話も出ましたが、むしろ私は、これからの法学教育、そして法曹になる方々については、そういった精神なり考え方を育てていくような、そのようなものでなければならないと考えておる次第でございます。  以上でございます。
  120. 佐々木秀典

    ○佐々木(秀)委員 それでは、大体時間が来たようですから、これで終わりたいと思います。  きょうは、両先生から大変参考になる意見をお聞かせいただきました。いずれにいたしましても、これからこの審議会の設置法についての議論を私どもがこの場でやることになりますけれども先生方のお聞かせいただいた御意見ども参考にさせていただいて、せっかくつくるのでしたら、これが本当にみんなが望んでいる司法改革に役に立つようなものであってほしいと私どもとしても願っておりますし、そんな思いで、これからまた十分に、慎重に協議を尽くさせていただきたいと思います。  きょうはありがとうございました。
  121. 山本幸三

    山本(幸)委員長代理 次に、上田勇君。
  122. 上田勇

    ○上田(勇)委員 公明党・改革クラブの上田勇でございます。  きょうは、伊藤先生、戒能先生、大変お忙しい中、貴重な御意見を伺わせていただきまして、本当にありがとうございました。時間の制約もございますので、早速御質問をさせていただきたいというふうに思います。  きょう、お話を伺いまして、伊藤先生も、また戒能先生も、今の司法について改革を行わなければいけないという点では御意見が一致したのではないかと思います。その御意見の内容については、濃淡等の若干の違いはあったなというふうにも考えますけれども。  それで、それぞれちょっとお伺いをしたいところなのですが、まず最初に、戒能先生にお伺いをいたしますけれども、先生のお話の中で、またこのお配りをいただきましたレジュメの中でも、イギリスの司法制度改革について、いわゆる裁判官のウルフ卿が中心となって精力的な提案をしているというお話がございました。  一方、それは多分、裁判官司法の中心者としてこの司法改革のイニシアチブをとってきているということなんだというふうに思うんですが、それと、今回、この司法制度改革審議会で行おうとしていることは、この審議会自体が内閣に置くという面でも違いますし、もちろん、委員の構成によって、これは国会の同意人事でもありますので、意見の公平性、公正性が保たれるということなんでしょうけれども、行政府の中に置くという意味では、イギリスの行っている方向とは若干違うということだろうというふうに思います。  そこで、先生は、裁判官司法の中心であるというふうにもおっしゃったんですが、同時に、裁判官の方からなかなか、司法改革についてこういうふうに考えているという発信が出てこないというのもまた事実なんじゃないかと思います。  そういう意味で、ちょっとこれは先生の方にお伺いすることなのかどうかはよくわかりませんが、この司法改革審議会の中の論議の中で、裁判所あるいは裁判官にどのよう役割が期待されるのか、どういうような形で裁判所裁判官意見を審議会の審議の中で取り入れていけばいいのか、もし御提案があればお伺いさせていただきたいと思います。
  123. 戒能通厚

    ○戒能参考人 ある法律家団体が裁判官に対して、今の裁判官の置かれている状況について自由に意見を述べてほしいというアンケートをとったことがあって、これに対して二割ぐらいでしょうか、回答があったんですね。しかし、ほとんどの裁判官は、絶対に私がこういう意見を述べたことはないしょにしてほしいというふうに言って意見が返ってきた。  私は、これがまさに日本の裁判官の置かれている状況をあらわしていると思うんですね。司法改革というのは、まさにこの裁判官が、今司法をどういうふうに受けとめて、どこに問題を感じているかというところが、これがすべてとは申しませんけれども、ある意味では一つの重要な問題点だと私は思うんです。しかし、それが自由に意見が言えないという、少なくともその雰囲気がある。私は、これはかなり制度的な問題に絡んでいるんじゃないかと思うんです。  ですから、もし司法制度改革審議会でこの司法改革をやるんであれば、例えば裁判官会議をそのために復活させるとか、もちろん今でもあるんでしょうけれども、しかし実質的にそういうことを議論する場にはなっていないので、そういうことも、裁判官が自由に物を言える、そのきっかけにするということも、私は一つ重要なことだと思うんです。  イギリスのウルフ卿の話をしましたけれども、イギリスの民事裁判、一種の当事者主義に対して、ケースマネジメントという形で職権主義的な要素を取り入れようというので、それがある意味では非常にラジカルな、イギリス的コンテクストで言えばラジカルな改革ということになっているわけですけれども、これの論議の仕方というのは実は非常に学ぶべきものがあると私は思うんです。これは、大法官庁というのがありまして、そこでウルフ卿が書いたそのリポートは、全文インターネットで検索できるようになっていて、そしてだれでもそれに意見が言えるようになっているんですね。  日本でももちろんそういうことが不可能ではないですし、行政改革のさまざまな動きの中でもそういう動きがありましたけれども、しかし、そういう司法の問題について、できるだけその審議過程を含めて、ぜひ公開していただきたい。そして、それに対して自由に意見が言えるというようなシステムをつくっていただきたい。とりわけ、裁判官が、特に判事補の方もこういうことについて発言できるような、そういう保障をむしろ国会の側でつくるべきではないかというふうに私は思っています。
  124. 上田勇

    ○上田(勇)委員 もう一つ、戒能先生にお伺いをしたいんです。  先生、先ほどのお話の中でも、またいろいろなところで法曹一元の問題についてもいろいろ御提案をされておるんですが、アメリカやイギリスのように、弁護士を経験された方の中から、見識、識見が高い、人格の高い方を裁判官として任用していくという意味での、裁判官の地位なりまたその権限を充実させていこうということで、非常にいいことではあると思うんですが、今現実に、制度としては弁護士から裁判官になる任官制度があるんですけれども、実際にこれはなられる方が余りいない。  その理由については、裁判所に聞くとはっきりしたことは申しませんけれども一つには処遇の問題、あるいは収入についてもずっと減ってしまうというようなことも理由になるんではないかというふうに思うんです。そうすると、なかなか実際、今の段階でも、弁護士として非常に活発な活動をされている方が裁判官を希望してなるというようなことは、現実にはちょっと難しいんではないかというふうに思うんです。ただ、その法曹一元、弁護士の方の中から経験を積んだ方に裁判官になってもらうというためには、今の制度のどういうような点を改善していけばそれが実際現実に機能するのかどうか、その辺、御提言を伺えればというふうに思います。
  125. 戒能通厚

    ○戒能参考人 まず、弁護士からの任官制度があることは私も知っていますけれども、最終判断は最高裁が持っていて、決して弁護士会が推薦した人が必ずなれるというわけではない。要するに、そのシステムはかなりやはり最高裁主導型ですね。  それから、何といっても、日本の裁判官制度それ自体が、さっき言いましたよう地域的な定着がない。これは、ドイツなんかは非常に違いまして、アメリカもそういうところはありますけれども裁判官異動というのはほとんどないんですね。大体その地域で住民と非常に密着した形で裁判官やります。  それから、日本の裁判官というのは、基本的にこれは一種の官僚システムの中にありますので、したがって、給与体系なんかも非常に、判事補と普通の裁判官では大違いとか、そういうあたり。要するに、日本の司法の中の、とりわけ裁判官の構造それ自体を同時に変えていかないと、弁護士がただ裁判官になるだけでは問題の解決にはならないというふうに思います。  それから、弁護士さんの場合には、特に地域との密着ということを仕事の非常に重要な要素にしますから、これは既に日弁連の司法改革ビジョンなんかでも提言ございますけれども、例えば、イギリスなんかにあるようなパートタイム的な形での裁判官への採用とか、そういうことも十分考える必要があると思います。  ですから、私のポイントといいますか、やはり冒頭に申し上げましたように、裁判官が自由に発言できるようなシステムなり雰囲気をつくり出すということが今回の司法改革にとって非常に重要ですし、もしそれがあれば、弁護士裁判官任官というのももっと進むのではないかというふうに私は期待をしているわけでございます。
  126. 上田勇

    ○上田(勇)委員 それでは、伊藤先生にお伺いをいたします。  先生のお話、紛争の予防から紛争の解決、そしてその解決の最終手段としての司法制度というお話、非常に体系立ったお話でわかりやすかったんですけれども、先生のお話の中で、紛争の予防として、弁護士資格を持っている方以外も含む法律専門家の適切な助言が紛争の予防に役立っていくんだというお話がございました。  これは、一つには、企業なんかの法律実務の担当者のことでもあるかと思いますし、各種士業をされている隣接職種の方々も含めてのことなんだというふうに思うんですけれども、ただ、この紛争の予防というのは、予防するのは非常に大切なことであると思うのですが、それはやはりどうしても、紛争を解決する裁判という最終的な手段が保障された上でその予防ができるんだと思うのです。  ところが、いわゆる法曹の方ではない法律専門家の方々に、実際にいろいろな形で助言、関与をしてもらっていても、最終的にもしそれが予防し切れなくて裁判になったというときには、また結局、代理権はないということから、そこがうまく機能していないというような面もあるのではないのかなというふうに思います。  それが一つには、経済界の方から、そこの部分について、例えば企業の法律実務担当者とかあるいは隣接法律専門職の方々に、そういう裁判での代理権等、法律事務についての今ある制限を緩やかにしてほしいというような提言が出ておるのです。それについては両論あると思います。世の中にも、賛成の議論も当然、経済界の提言などにはそれを進めるべきだというのもありますし、それはちょっと、本当に市民権利、国民の権利が守られるのかというような懸念もあります。  こうした、いわゆる法曹以外の方々に対する法律業務の活動の拡大というのでしょうか、それについてどのような御意見をお持ちか、ちょっとお聞かせいただければというふうに思います。
  127. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  ただいまの委員の御質問に関して、私は、個人の場合と、それから企業などの組織体の場合とで若干区別をして考える必要があるのではないかと思っております。  個人の場合につきまして、確かに現在、弁護士の数、それから地域的偏在などの問題がございまして、そのために権利実現の手段が十分でないという問題がございますが、それに関して、先ほど申しましたように、形態としてはいろいろな形があろうかと思いますが、司法書士等の方に何らかの形で関与をしていただく方法を考えていく、これは十分考えられる可能性ではないかと思います。  他方、企業組織などの場合を考えてみますと、確かに、ただいま委員がおっしゃいますように、法務の担当者などに訴訟の代理権を付与するというのも検討に値する課題かと思いますが、私自身は、その点に関しては、これはむしろ法曹の量的な強化の方になりますが、そのことの結果として、法曹資格を持った方が企業組織の中でも法務を担当するという形の方が、一方で法律家としての責任を果たしつつ、他方で紛争の合理的な解決や予防を実現するという目的にはより資するのではないか、これが私の考え方でございます。  以上でございます。
  128. 上田勇

    ○上田(勇)委員 時間がございませんけれども、最後に両先生にお伺いしたいのですが、今、いわゆる我が国法曹人口について、諸外国と比べて少ないという議論が一方にあります。いや、紛争の手続だとか解決の方法がもともと違うんだから、それはそれでいいんだという議論もございます。  そこで、両先生方の、我が国のそういういろいろな特質や今後の展開なども含めて、我が国における法曹人口の、大体この方向というのはどうあるべきなのかというお考えをそれぞれお聞かせいただければというふうに思いますが、よろしくお願いいたします。
  129. 山本幸三

    山本(幸)委員長代理 簡潔にお願いします。
  130. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答えいたします。  法曹人口が少ない、これは恐らく否定することはできない事実だろうと思いますが、ただその場合に、先ほど来の御議論にもございましたように、司法書士などの広い意味での法律専門家の存在を忘れてはならないというのが私の考え方でございまして、しかし、それを前提にしてなお、特に司法試験弁護士関係では、質的強化が大事であると同時に、量的な強化も図っていく必要があるのではないかと考えております。  以上でございます。
  131. 戒能通厚

    ○戒能参考人 私は、先生方にお配りしたレジュメみたいなのに書いたのですが、法曹人口問題というのは、実はどこも検証してないんじゃないかと思うのですね。恐らく足らないんじゃないかとか、あるいは多過ぎるんじゃないかとか。日弁連で多少シミュレートした数式がございますけれども、それによれば、県民生産高というものがかなり弁護士の訴訟需要に対して相関性があるとか、偏在になるのは結局そういうことに起因しているんだとか、いろいろな議論があるんです。そのあたりの科学的なアセスメントというのは私は可能だと思うので、司法制度改革審議会でぜひそういうこともなさったらどうかというように思うのです。  イギリスでは、やはり法曹改革のときに、これはサッチャー政権時代に非常に大きな改革がございましたけれども、そのときに、ある経済学者に依頼して、弁護士協会がかなりの量の想定に基づくシミュレーションをやって、さっき伊藤先生からもございましたけれども、そこで司法の質という問題を非常に重視したシミュレーションをしています。  今のような、私が危惧しておりますのは、例えば弁護士人口をふやしていくということが、それの受け皿なしにただふやしていくということで果たしていいのか。さっきの研修の問題もございますし、それから、司法研修自体がもう既に破裂寸前であるというような状況の中で、ただふやすだけでいいのかということを非常に痛感しております。
  132. 山本幸三

    山本(幸)委員長代理 次に、木島日出夫君。
  133. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。両参考人、本当にありがとうございました。  最初に、戒能参考人から伺いたいのですが、司法改革の第一義的な課題として、現在の司法行政を改めること、一言で言ったら、官僚司法体制を打破することだということであろうかと思いまして、大変興味深く拝聴をいたしました。私もそこを一番危惧しておりまして、そんな立場から、先日、この法務委員会で寺西判事補問題を取り上げて最高裁を追及させていただいたのですが、なぜこういう裁判官の官僚統制が日本において形成されてきたのか、その辺の歴史と、それを打破する道筋、その展望をどう切り開いていくのかについて、先生の御意見をちょっと御開陳願いたいと思います。
  134. 戒能通厚

    ○戒能参考人 これは委員が多分よく御存じだと思うのですが、先ほどちょっと申し上げました、一九六四年の臨時司法制度調査会の報告書が、最終的に法曹一元という方向が極めて望ましいけれども、しかし時期尚早であるということと同時に、裁判官の指揮命令系統を明確にするというもう一つの提言をしていまして、実は後者の方は極めて効果的に動いた。  ですから、現在の司法行政の一種の起源的なものは、多分その臨司の調査会報告書の中にあることが一つきっかけになっていると思うのですね。これはもういろいろな事象的研究がございますけれども、さっきもO・ヘイリー先生の論を引いて申し上げましたけれども、少なくとも日本の裁判官は、最高裁と異なる判断をした場合にはおよそ昇進の道がなくなってしまう、そういうことがやはり裁判官のやる気をなくしている非常に大きな理由だと私は思うのです。  ですから、歴史的に言えばそういうことなのですけれども、しかし、それではどうするかというふうに言われますと、これは、既に弁護士会なんかは少し始めていますけれども裁判官に対しての評価システム、そういうものをやはり導入する必要があるんじゃないかと思うのです。もちろん、国民審査制というのはございますけれども、あれは一番最初に名前を出している人にバツがつく割合が非常に多いとか、ほとんど国民には関心が持たれていない。しかし、そういうものに関心を持たせるためには、やはり国民の司法への参加ということが重要なきっかけになると思います。  それから、国民にいきなり裁判官を評価せよなんて言ったってこれは無理だと思いますけれども、例えば弁護士会が裁判官を評価するとか、逆に裁判官の方も弁護士の評価をやってもいいかもしれませんし、そういう一種の相互批判的なシステムをつくるということと、それから、私は、司法制度改革審議会というせっかくの審議会ができるわけですから、そこで当然裁判官の問題が出るわけですよ。それを裁判官会議にかけて、そこで自由な議論が各地から出てくるような、そういう機会にするということも、今の現状を突破していく一つの有効な手段ではないかなというふうに考えております。
  135. 木島日出夫

    ○木島委員 ありがとうございます。  実は、我が日本共産党、ちょっと古いのですが、一九八一年の八月に司法制度改革提言案というのを発表しているわけであります。その提言案の第一に、裁判独立のためにということで、具体的には、最高裁裁判官任命諮問委員会の設置、国民審査の改善、裁判官会議の確立、最高裁事務総局の廃止、法曹養成制度の改善など、いろいろなことを提言しているわけであります。  今先生御答弁の中に、国民の司法参加もその一つの道筋になるのではないかとおっしゃられまして、私、大変大事な観点ではないかなというふうに思っているわけであります。  実は、先ほど述べました我が党の提言案にも、二として、国民の裁判を受ける権利を強めるためのいろいろな法律扶助法、国選弁護制度その他の問題と同時に、さらに三番目として、裁判に国民の声を反映させるための陪審・参審制の採用等々、法曹一元の確立というのも、結局はこの官僚司法を大きく打破していく一つの道筋になっていくんじゃないかという位置づけもしているわけですね。  国民の司法参加それ自体が民主主義の要請だとは思うのですが、日本の明治以来の、明治は天皇の裁判ですから、そういう官僚司法打破のために役に立つんじゃないかというふうに考えているわけであります。国民の司法参加というのは今非常に大きなテーマになってきていますね、今回の司法改革の。その辺の結びつき、もうちょっと詳しく戒能先生からの御意見をお聞きしたいのです。
  136. 戒能通厚

    ○戒能参考人 先ほど申し上げましたように、戦前から日本の司法はイギリス型司法というのを一つのモデルとして、そして法曹一元ということがその中で一つの標語的なものとして出てきているわけですが、これは陪審制と非常に結びついた考え方なのですね。  つまり、国民の司法参加というのは、司法の質を高める上において極めて重要です。それから、陪審制をとると裁判が長引くとか迅速性が失われるんじゃないかという御意見を時々聞くことがあるのですが、これはもう全くの間違いで、むしろ陪審制をとった方が司法が迅速化される。どうしてかというと、これはもう皆多忙な中で、大体一日一件制というのがアメリカでも鉄則になっていまして、一度陪審員として召喚されれば、そこで忌避に遭ってもそれで任務を果たしたことになる。ですから、このために、司法が一日で勝負をするというシステムに変わる一つのきっかけになると私は思うのですね。  ですから、英米の司法の場合には、プレトライアルプロシーディングスというのですが、公判前手続というのが非常に発展しているわけです。その公判前手続の中で一種の和解的なことがあって公判まで行かないとか、そういう事件の合理的な要素もあると思いますので、陪審制は、単に国民参加、市民参加というだけではなくて、司法の合理化、迅速化にも非常に密接に関連するというふうに私は思っております。ですから、そういう意味で、今回これは非常に重要なテーマ。  それから、何といっても、市民の監視のもとで裁判官裁判をするということになりますから、当然その裁判官は今のような形ではいられないことになるだろう。つまり、そういう意味では、裁判官のクオリティーも上がってくるというふうに私は考えています。
  137. 木島日出夫

    ○木島委員 午前中の参考人にも私質問をしたのですが、今回の司法改革の二つの流れのうちの一つの、財界、経済界から出てきている流れ、要するに、新自由主義に基づく司法ですね。事前指導型から事後チェック型の経済政治制度をつくっていく、そうすると紛争が大きくなる、それを司法が処理する、そういう役割司法に与えている中から出てきていると思うのです。  その中心的な人物がオリックスの宮内義彦社長だと思うのですが、この社長が、昨年の二月十五日、日経新聞に、官僚司法打破と言い出しているのですね。違憲立法審査権を使わないのはいかぬということも、一票の格差是正判決なんかを持ち出してきて言い出してきている。財界から見ても、ここまで日本の官僚司法がもうどうにもならないふうに感じてきているのかなと興味深く見たのですが、こういう流れをどう先生の方がごらんになっているか。この点については、伊藤参考人の方も、こういう見方、どう考えているか、御意見を聞かせていただきたいと思うのです。
  138. 戒能通厚

    ○戒能参考人 財界の方から今回の司法改革の流れがつくられてきたというのは、確かにおっしゃるようなところがあると思います。これは、財界の方からしてみれば、日本の司法というのは非常に頼りなくて、国際性がないということとか、それから、多分企業法務が、例えばアメリカと訴訟を起こした場合に、要するに企業法務には法曹資格がありませんから、したがって、そこで弁護士を雇わなければならない。ところが、弁護士はその報酬が非常に高いとか、そういうことが多分非常に大きな動機になっているのではないかと私は思うのですね。  ただ、もし、それのみが今回の司法改革の動機であり、主要なインセンティブであるとすれば、これは私は冒頭に申し上げましたように、司法役割というのは決してそういうものではない。むしろ、非常に率直に、司法改革というのは自己責任原則、透明なルールの貫徹の中で、崩れた敗北者のための救済機関であるというような言い方がちょっとその文書に堂々と出てくるのですけれども、これは司法の本質を知らない議論だというふうに私は思うのです。  司法というのは、あくまでも、いかなる状況にあっても、基本的な国民の権利とか、自由とか、そういうものを守る最後のよりどころだというふうに思いますし、それから、日本の司法それ自体が政治を変えるぐらいのことになりませんと、私は、本当の意味司法改革にはならないというふうに考えておりますので、そういう意味で、今回の司法制度改革審議会ができることは非常にいいのですけれども、しかし、何といっても規制緩和型司法改革というのはぜひやめていただきたいというふうに考えているわけです。
  139. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 私の意見は、先ほども別な形で申し上げましたが、法律家、法律専門家となる人々を養成する過程で、従来の、例えば通説を学んでそれを覚え込むということに尽きるのではなくて、やはり自分自身の考え方に基づいて、必要に応じて、従来の通説的な考え方も批判し、新たな考え方を打ち出せるような、そういった人を法律専門家として養成をする、そのあたりが一番重要なことではないかと考えております。以上でございます。
  140. 木島日出夫

    ○木島委員 私自身が司法修習生のときに、札幌地裁の長沼事件に対する平賀所長の書簡問題がありましたし、修習を終えて弁護士になったときに、同期の七人の者が青法協に加入していて任官できなかったという事件の中心にいた当事者ですので、あれから二十九年たって、裁判を見るにつけ、あの時代よりもはるかに、日本の裁判官はがんじがらめにされているのではないかなと私も見ているのです。  それで、伊藤先生にちょっとお伺いしたいのですが、そういう戒能先生からの指摘、例えば労働事件にしろ行政事件にしろ、裁判官会同なるものが行われて、そこで基本的な方向が事実上押しつけられてくるというすさまじい状況が日本の司法にあるのですが、民事訴訟の専門家として、そういう司法官僚による裁判統制、裁判官統制、人事も含めて、どう認識されているのか、伊藤先生の基本的な認識をお聞かせ願いたいなと思います。
  141. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 行政事件、労働事件について私は特に詳しく勉強しておりませんので、十分なお答えができないかと思いますが、ただ、これは私ども大学で今、客員教授という形でアメリカから来ておられる方がおられます。この方がいろいろな法社会学的な研究をされまして、日本の司法というのは非常に消極主義だというふうに一般には言われ、アメリカでもそう信じられている。ところが、例えば、この方は直接には交通事故の損害賠償額の算定、認定の研究をされたわけでございますが、そういったものを見ると、アメリカに比べるとかなり統一的な基準が形成をされている。それについては、恐らく、事実上いろいろな形で裁判所内部で意見の交換がされているのだろうと自分は想像するのだけれども、そういう点から見ますと、日本というのはむしろ司法積極主義という面もあって、それはそれで、アメリカのような、陪審はちょっと別ですけれども裁判官それぞれが全く別々に基準を適用して結論を出すというものよりはすぐれている面があるのではないかというような研究会での指摘がございまして、なるほど、そういう見方もあるのだなというふうに感心をしたわけでございます。  どうも直接のお答えになっておりませんで、申しわけございません。
  142. 木島日出夫

    ○木島委員 終わります。ありがとうございました。
  143. 山本幸三

    山本(幸)委員長代理 次に、保坂展人君
  144. 保坂展人

    保坂委員 社会民主党の保坂展人です。  まず戒能参考人に伺いますが、冒頭から裁判官市民的自由というお話をされて、先ほど木島さんからお話があったオリックスの宮内社長の記事の中でも、裁判官の方とお話をしていて、休みの日ぐらいテニスをする時間が欲しいんだということも、これはぜひ匿名でお願いしますというぐらいにがんじがらめであるということをおっしゃっています。  寺西問題にも言及されたわけなんですが、実は、あの寺西発言と言われるものは我が党のホールで、これは貸しホールとして市民団体に貸した、私も一参加者として会場にいたのですけれども、つぶさにその様子を見ておりまして、彼が壇上ではなくてフロアからいわば釈明をした。つまり、パネリストとして話すつもりだったけれども地裁の所長から懲戒処分もあり得るという警告があったので発言はできない、自分は発言しても構わないと思うけれども、そういう事情で発言はしませんということだったのですが、しかし、これが処分の対象となる。  その際に、仙台高等裁判所の処分理由の中に、言外に、言葉の外で盗聴法あるいは組対法三法案の反対を表明したというんですね。これは、言葉以外で裁判はできないわけで、顔色とか身ぶりとかしぐさとかあるいはまゆの動きとか、あるいは見えないオーラのような空気とか聴衆の拍手、そういういわば、そこにいなければ感受できないようなものを指して懲戒理由にするというとても珍しい、慎重な裁判官が考えたものとは到底思えない表現なんですが、こういうものを、例えば英米であるとかEU各国の裁判官が聞いたらどういう感想をお持ちかなというふうに思いまして、伺います。
  145. 戒能通厚

    ○戒能参考人 まずびっくりして言葉が出ないということだと思うんですね。要するに、裁判官が政治そのものをやるわけではないわけであって、むしろ裁判官として、一人の市民として、さまざまな場面で発言していくということは当然のことなんですね。  ただ、今委員から御発言の中で、私はある意味では見事に今の状況を表現されたのじゃないかと思うのですが、直接的な統制ではないんですね。いろいろな意味で、ちょっと顔色を変えてみるとか、肩をたたいてみるとか、そういうことが判事補に対しては非常にプレッシャーとなって伝わってくるというような、そこまで司法統制は進んでしまっているということだと思うんですね。ですから、これは改革論議をする際に、これだけ深刻な状況にあって、多分、矢口元最高裁長官なども、ここまでいってしまってはもうどうしようもないというので、かなり積極的になって司法改革論議をやらなきゃいかぬというふうに言い出したと思うんですね。  なぜそうなってしまったか。もちろん、寺西裁判官ぐらいの人がもっとぼんぼん出てくればこんなことは到底通用しないわけですけれども、この前、元裁判官の何人かのお話を伺った限りでは、これは本当に実害があるらしいんですね。例えば、絶対昇任できないとか、給与がずっと一生上がらないとか、そういう実害を伴う形の統制である。これは明らかに憲法違反だと、私は率直に思います。むしろ、そういう憲法違反的な状況の中において、果たして、憲法を守るというその裁判官役割が果たせるか、そこまで私は深刻な問題になっているというふうに思います。
  146. 保坂展人

    保坂委員 それでは、重ねて戒能参考人お願いしたいのですけれども、先ほど最高裁の事務総局が、アメリカの側から見て、極めて一体性、統一性を持っていることに注目されたというお話をされましたけれども、もう一つ、行政との一体性ということもこれは近年特徴的ではないかと思うんですね。  午前中も指摘したのですけれども裁判官が百四十何人各省庁へ、法務省だと百人ですね、五十何人が訟務検事として、国の顔として出てくる。そして短期間仕事を終えて、また戻ってということで、いわば同じ仕事で汗を流した仲間同士という一体感、統一性というものが生まれて、国が勝訴で消費者や民間側はほとんど勝てない。こういうあたりについて、各国からの目はいかがなのでしょうか。
  147. 戒能通厚

    ○戒能参考人 日本の裁判官は、何度も申し上げますが、基本的には官僚システムの中の裁判官だと思うんですね。委員がおっしゃるように、行政に対して極めて親近感があるのは、要するに、自分たちの身分とかポジションというのがほとんど官僚と一緒である。俸給システムの動き方から何から、昇任の仕方から全部そうですね。ですから、基本的に、日本の行政と司法が決して相互に反発し合って、相互にクリティカルになるということはない。日本の司法には、私はそういう意味で、一つは、いわゆる官僚司法における最大の問題が、要するに行政との癒着を強めているということにあると思うのです。  それからもう一つ、忘れてはならないのは、これはむしろ伊藤先生の御専門ですが、日本の行政事件というのは、税金訴訟を例にとりますと、原告、つまり国民の側が勝訴する率というのは一割から一割五分ぐらいなんですね。行政訴訟で市民側が勝つということはまずない。なぜそうなのか。これは私は、むしろ今回の改革論議の中でぜひやっていただきたいことなのですが、日本では依然として、行政事件というのは普通の民事事件ような対等者間の関係ではない、そういう前提があると思うのです。  したがって、これはもう学界では、あらゆる意味で行政庁が市民に対して優越的な地位にあるということはおかしいという議論はずっとしているのですが、しかし、行政手続法というのはようやくできましたよね。アメリカの行政訴訟法というのは、これは証拠提出とか情報の公開とか、これと一体的なものとして、要するに市民と行政は決して対等ではない、したがって、行政と市民を対等にするためには、情報公開を含めてあらゆる意味で対等にするようなシステム、訴訟法があるのですね。  ですから、日本は、行政と司法との癒着というのは、単に裁判官と行政官の親近性というだけではなくて、日本の行政手続法そのものにも大きな原因があるということをぜひ御討議いただきたいというふうに私は思っています。
  148. 保坂展人

    保坂委員 それでは伊藤参考人に伺いますけれども大学法学教育に当たられているお立場で、例えば、司法制度をめぐる議論がこうやって始まろうとしている、やがて始まりますね。そのときに、大学での学生たちは、リアルタイムでそこに参加しながら、議論しながら、自分の立場や考えをしっかり出しながら、いわば同時代体験をするというような御用意はそれぞれの大学であるでしょうか。
  149. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 お答え申し上げます。  恐らく、現在、委員お尋ねの、それがあるかと言われると、必ずしもないというふうに言う以外にはないと思います。  それから、より重要なことは、これは、私最初申し上げたことなのですが、学生の間にそもそもそういうことに対する関心がどの程度あるだろうかというふうに考えますと、今の法学部学生の数とそれから司法試験合格者の数の比率から御想像いただけますように、そういう問題についてまじめに考えて自分で意見を表明しようという学生の数が恐らく非常に少ないのではないか。私は、それがやはり一番考えなければいけない問題でありますし、ある意味で、法学部の教育の危機ないしはこれからの課題であろうかと思いますので、その点はぜひ私どもも真剣に考えてみたいと存じます。
  150. 保坂展人

    保坂委員 では、再び戒能参考人に伺いますけれども、私ども、この法案の内容を読んでも、とどのつまり、よろしく審議会にお任せくださいという法案でありまして、賛成も反対もなかなか言いにくいという内容ですけれども、数々の審議会、先ほど臨司の話もされましたけれども、そういったことを振り返ると、やはり事務局構成等がしっかりしていて、情報公開が常になされて、そして特に、いわば司法官僚制に対するきちっとした疑念や、あるいは行政組織がいわば隠そう隠そうとする体質を、きちっとこれを開いてオープンにしていく、そういう実務家事務局に入らないと、これは臨司と同じようなことになってしまわないかな。  さらに、自民党の中で活発な議論が何年か行われているということは既に報告されているとおりですけれども弁護士自治等も見直そうという御意見も出ているようでありまして、例えば、弁護士会は高度の自治を持っているけれども、国会報告ぐらいしたらどうかとか、あるいは弁護士の活動の中には法制度の枠を逸脱した行動が多過ぎるというふうに世間からの批判があるがどうかというような御意見も自民党内では出たようです。  そういう意味では、日弁連も、これだけ大変な司法制度改革ということを、いわば内閣が任命する、つまりだれかわからない十三人の方たちにお任せということでいいのかという気が率直に言ってするのですが、その辺はいかがでしょうか。
  151. 戒能通厚

    ○戒能参考人 私も委員と全く同感です。  別に日弁連の肩を持つわけではないのですけれども事務局主導型になりますと、日弁連というのはこれに入っていないわけですから、結局一種の蚊帳の外状態になりかねないわけですね。ただし、日本の弁護士というのは、今弁護士自治の話をされましたけれども、これは弁護士法一条にある基本的人権の擁護と社会正義実現という、弁護士のアイデンティフィケーションシンボルとして世界に誇るべき、そういうものとして、弁護士の自治の基本があるわけですよ。弁護士の自治が、最近の一連の不祥事の中で、例えば懲戒が非常に生ぬるいとか、そういう格好で弁護士自治への攻撃がございますけれども、私、弁護士自治というのは、これは司法独立と一体的なものだと考えているのです。  したがって、弁護士自治をどういうふうに擁護していくかということは、これは非常に重要な問題なのですが、日本の弁護士会、日弁連というのは、これはずっと司法改革というのは主要なテーマとしてやってきたわけで、物すごい蓄積があるわけですね。もちろん最高裁と法務省にもあるのかもしれませんけれども、日弁連の蓄積はやはりこの際大いに利用すべきだというふうに思います。決して、弁護士会の肩を持つという趣旨ではなくて、プロフェッショナルとしての蓄積というものはやはり非常に重要ですし、先ほど佐々木委員からもございましたけれども、これだけ膨大なテーマをやるのに際して、一からやり直すわけにいかないですよ。ですから、そういう意味でも、弁護士会の蓄積は大いに利用されるべきだというふうに私は思います。
  152. 保坂展人

    保坂委員 時間がないので恐縮ですが、同じ点について伊藤参考人お願いします。
  153. 伊藤眞

    ○伊藤参考人 私も、弁護士ないし弁護士会ないし日弁連から十分な情報の提供を受け、また意見を表明していただく、そういう形で、当然この審議会ができた暁には審議がなされると思いますし、また、そうでなくてはならないと考えております。  以上でございます。
  154. 保坂展人

    保坂委員 大変貴重な意見をありがとうございました。  私たちも、国会に法案がかかっている以上は、あとは二年後を楽しみにというわけにはちょっといかない問題だなというふうに考えています。特に、事務局構成、情報公開の透明化がなければ、いっときの流れで選挙区制度改革か改悪だったかという問題もつい近々ありましたので、慎重に考えてまいりたいと思います。  どうもありがとうございました。
  155. 山本幸三

    山本(幸)委員長代理 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  次回は、明三十一日水曜日午前十時二十分理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時四十七分散会