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鶴田参考人 勝手がわからなかったものですから、皆さんのところに
資料を一番たくさんお届けしました
鶴田と申します。
私は、熊本の田浦町というところでミカンをつくっております。
有限会社で
農業生産法人として約九ヘクタールをつくっている農家です。また、
仲間とともに二十五年前から
マルタ有機農業生産組合というものを設立しまして、
有機農業の普及と、それからそこでできた
仲間の
生産物の
販売を続けております。
昨年の一月には、今までの運動と事業を分離いたしまして、新しい
仲間も加えまして、
生産団体も加わりまして、小さいながらも
全国規模の
日本有機農業生産団体中央会という新しい
団体を設立しまして、特に
有機認証業務を始めております。私の役割というのは、月のうちの半分ぐらいは
全国の
仲間の
生産者のところを回りまして、畑で
有機農業のことを話したり、夜には
生産者の
仲間と飲みながら
有機栽培や
農業再生への夢を語り合っているというのが仕事です。
ちょっと前置きが長くなりましたが、最近の農政の
動きについては非常にいい方向に大転換しつつあるなということを肌で感じておりまして、この
JAS法の
改正についても、一日も早く成立させて
実施してもらいたいと考えておりますので、
基本的には
賛成です。
私たちは、
有機農業に取り組んで二十五年になるわけですけれ
ども、最初の十年というのは非常に厳しい、また
経営的にも地をはうような経験もしましたが、周りの
関係者の協力によりまして現在を迎えております。また、そういうことで、純粋な
生産者の
立場としての話もきょうはさせていただきたいと思います。
この二十五年の中では十年前ぐらいに、やはり
有機農業の表示が乱れて世の中が非常に騒いだ時期があります。その前後に、日本生態系農業協会という、
生産者と
流通関係者あるいは
消費者団体などで組織をつくりまして、そこで、海外の
資料なんかを
参考にしまして、
生産基準や表示についていろいろ具体案を出させてもらいました。その具体的な取り組みを、農水省の当時、
有機農業対策室だったと思いますが、働きかけまして、今の
有機農業ガイドラインができた、そのひな形になったんじゃなかろうかと思っております。
一昨年は、アメリカの
有機農業の視察に二十二名の
仲間と一緒に行ってきました。それから先月は、ヨーロッパの方で、ドイツやスイスあるいはフランスの
有機農業の
事情を十日間ばかりかけて視察してまいりました。IFOAMという、
有機農業の世界的な運動
団体ですけれ
ども、そこにも加盟しておりまして、
先ほども申しましたように、昨年から国に先駆けて
有機認証業務を始めているという
団体です。そういう
経過や実践を通して、法案に関係する問題点について述べてみたいと思います。
日本のマスコミの論調では、欧米の有機農産物は
法律に裏づけされていて、日本より栽培や
消費も非常に多くて、認定や表示も正確に行われて徹底している。対して日本は、単なるガイドラインであって守られていないんではないか、あるいは、店頭にはにせ有機がはんらんしているというような報道をされております。
しかし、私たちの見聞や欧米に調査に出かけた人の話では、拍子抜けするぐらいの簡単な検査で認定されて表示され、
流通していると。これは何なんだろうかというようなことを私たちなりに考えてみまして、その根底には、
消費者の選好があって、それを行政が支援して、こういう
有機農業がもっと広まるようにというような
立場での支援がなされているという点が非常に違うんじゃないかなと思っております。
次に、現行のガイドラインの表示で確かに混乱しているという認識を持っています。しかし、その大部分は、
生産者の側ではなくて
流通や
販売の側にあるんじゃなかろうかと思います。特に、加工原料や外食部分はどうなっているのかよくわかりません。今回の
JAS法においても、
生産面の
基準や認定、表示についてはかなり厳密に決められておると見ています。しかし、小分け業者の認定や数量の確認システムについてはまだ不安も残っておりますので、不公平にならないような今後の
運営を期待したいと思っております。
資料にもありますように、認定業務というのは、
生産者の申請書類と現地検査、それから、それを判定して、その後、管理する認定機関の三つが必要ですし、その足並みがそろわなくてはなりません。
しかし、認定をきっちりと
実施したからといって、できた製品というか
生産物に化学肥料や農薬が全く存在しないということを保証するものではないということが前提です。ということは、あくまでも
生産過程の認定であって、何せ畑や作物の一生の中の一瞬を、一時間や二時間の判定で一〇〇%保証し得るわけはありません。ですから、
消費者なり、一般的に、
有機栽培を認定されたならば一〇〇%保証されて残留農薬なんかは絶対出ないんだろうというような感覚がありますけれ
ども、そのようなこともないというのが前提です。一番の信用は、やはり正確さではなかろうかと思います。
それで、その認定をする
団体として、どうしても、
消費者や
流通関係者が主体の認定
団体では書類に
重点が置かれるし、それでは非常に
コストがかかってしまうというような弊害もありまして、私たちは、
生産者の
立場から、しかも
有機農業が何たるかがわかっている人が検査なり認証をするというようなシステムで、書類とか
コストの
低減を図るような認定システムを今つくって動かしております。
そのポイントになるのは現地検査ということになるかと思いますが、その現地検査で一番問題になるのが、日本の場合には圃場面積が小さいということで、隣接
地域からの農薬の飛散の問題です。ですけれ
ども、これについても、日本流の、実質、農薬が飛散してこないような
対策を立てるということは不可能ではありませんし、十分やっていけるんじゃなかろうかと思っております。それから、川上から化学肥料や農薬が流れてきて云々というようなこともよく言われておりますし、これについても同様、
対策はあります。
次に、
有機栽培して表示したものは
生産者に有利であるという常識ないし思い込みがありますが、実際にはこれは通用しないという事実があります。というのは、
青果物というのは、サイズ、味あるいは外観などが全く同じだったら、
有機栽培で認定されたものが高くなるということもあり得るんですけれ
ども、そういう場合はまれです。ですから、
消費者は有機農産物だからということで一般品よりも高く買っているのに、
生産者の方はなかなか高く売れないという認識を持っているのじゃなかろうかと思います。
それから、有機認定から表示までには、本当に、細かいんですがいろいろ
コストがかかります。これが、現在のようなガイドライン表示で、
消費者が有機農産物の表示をしてあるものに半信半疑の状態では、新たにかかるんだからその
コストをどこか負担してくれと言われても、残念ながら現状ではなかなかそれが難しいという状態です。
そうだからこそ、一日も早くこのような状態を打開してほしいということで、この
JAS法の
改正に期待しております。
もう一度マスコミの話に戻りたいと思いますけれ
ども、日本では、認定業務を公平に
実施するのには第三者認証機関でなければならない、そうでなければならないんだというような言われ方が非常に多いかと思います。しかし、認証については歴史もある欧米の
状況を見ますと、まず、
生産者団体がこういう農業をやりたいんだ、やる必要があるんだということを出して、そして、それを
生産者団体なりそれを支援する
消費者団体が認定を始めていくというのが出発点じゃなかったかと思います。次の段階として、
生産者団体同士が連合して認証組織を新たにつくっていく、あるいは政府がそれを追認したり支援したりするという形じゃなかろうかと思います。結果として、今までの
団体と利害関係をなくす
努力をするとか、あるいは独立性を持たせるという工夫を重ねてきた流れがあると思います。
第三者認証機関というのは、独立した意思決定の行われる組織がその組織の中に存在するかどうかということであって、今日本でもいろいろ言われておりますけれ
ども、高い
コストをとって認定を業務とするような特別の組織が世界の主流ではないということをつけ加えておきたいと思います。
二十五年前の法人化の以前から、
有機農業の理論的なものは何だろうかというようなことで私たちも取り組んできたんですけれ
ども、それは、土の中の微生物の働きについてではなかろうかと思います。私自身、ミカンの味をどうしてよくするか、コクのあるうまさは何なのかというようなことで、いろいろな物質があるわけですけれ
ども、アミノ酸や核酸であるということを聞きました。それから、それは土壌中の微生物の体の中でつくられる、そして植物は微生物のつくったそういう半製品を集めて味のもとであるアミノ酸や核酸をつくるんだ、そのほかにも、ビタミンやホルモン、酵素、ミネラルなどはその微生物がつくっているということを知りました。微生物のつくり出した物質は、味をよくするだけでなくて、病害虫の発生を少なくしたり栄養価を高めたり、それから収穫の増加などにも影響するということを知りました。理論上は、これらの現象が同時並行して実現するのが本当の
有機農業だということです。
私たちはそのようにして取り組んできた中で、現在、農水省のガイドラインでいえば、
有機栽培表示可能の作物は一五%から二〇%弱、約七〇%ぐらいが無化学肥料減農薬、残りが減化学肥料減農薬に分類される状態です。もちろん、これらの前提条件として、収量を減らさないということと外観を今以上に悪くしないということは当然だと思っております。それから、慣行栽培に対して、
全国でいろいろな作物で取り組んでいるんですけれ
ども、農薬に関しては二分の一から三分の一以下に減らすことは十分可能である、それをゼロにしたのが
有機栽培であるというようなことで取り組んでおります。また、そのポイントになるのは何だというようなことを言われると、堆肥のよしあしではなかろうかと思いますので、この点の認識はひとつぜひ持っていただいて、今後の行政なりなんなりに生かしていただければと思っております。
先日、ヨーロッパの方に行きましたときに、IP農法、IP農法というようなことをよく聞きました。これは総合的な農法というようなことのようですけれ
ども、日本でいうならばいわゆる特別栽培にランクづけられる農法ではなかろうかと思います。これが広く行政も含めて取り組み始められて、それが表示されて
流通するというような
状況も見てきました。結局、
有機農業というのは、そういう総合的な農業の、環境に優しい持続可能な総合的な農法の中のピラミッドの頂点だ、それを支える農業がなければ、
有機農業だけではなかなかこれも難しいということでの取り組みを既にドイツやスイスではやっているということを見聞きしてきました。
最後になりましたが、
JAS法の
改正についての幾つかの
意見を簡単に述べさせていただきたいと思います。
まず
一つ目は、原
産地、原産国表示はもちろん
賛成です。
技術的な問題はあるかと思いますけれ
ども、原料の原
産地表示もぜひ
実施すべきかと思います。
二つ目には、認定機関として民間組織を活用する法案の方向は、当然ながら
賛成です。
三つ目に、今コーデックス
委員会の
動きに合わせた国際整合性というようなのが問題になっていると思いますが、これも必要だと思います。それによって日本の
有機農業が壊滅するということはないと思います。ただ、畜産の件については若干の懸念は持っております。今後の交渉に期待したいと思います。
四つ目には、自治体の独自
基準なり表示というようなのが進んでおります。これについては、やはり法案が成立した段階ではぜひ統一すべきではなかろうかと思っております。また、それと同様に、
一つの限られた組織の中での
生産、
流通については例外を設けていいんではないかというような議論が、あるいはガイドラインの段階ではそのようになっておりましたけれ
ども、これはかえって混乱したり、あるいは例外をつくっている組織がかえって弱体化しているというような面もありますので、ぜひ今回は例外を余りつくらないように、狭く解釈するようにした方がいいんではなかろうかと思っております。
最後に、
有機農業振興法というものを全体として取り組んでもらいたいということについては、私もそうだと思っております。環境に優しい持続的な農業を充実させるという
意味で必要かと思いますが、だからといって
JAS法を、それができるまで、あるいはその中に組み込むまで表示なりなんなりをおくらせていいということにはならないんじゃないか、ぜひこの
JAS法については一日も早くという考えを持っております。
もう一点つけ加えさせてもらいますと、堆肥や土づくり、あるいは土壌微生物の活用
技術ということについては日本は最も進んでいると思います。気象条件とかについては欧米に比べて厳しい面もありますけれ
ども、
技術的な面では十年から二十年日本の方が先行しているという認識を持っております。ぜひ早く
基準・認証の土俵をつくっていただいて、
消費者の信用を獲得する
競争、
努力のしがいのある
競争をさせてもらって、農業全体の
活性化につなげられたらと思っております。
以上です。(
拍手)