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北準一君 私は公述人の
北準一であります。本日は、
松岡団長を初めといたしまして
農林水産委員会の皆様には、
農業政策にいろいろな御尽力をいただきながら、
北海道に来られて私どもの
意見を聞いていただく、このことについて
感謝と御礼を申し上げたい、このように思うところであります。
私は、
北海道の
農家六万五千戸が加盟しております
北海道農民連盟の書記長という仕事をしておりますけれども、私自身は、みずからも米をつくっている稲作農民であります。私は、今国会で審議されております
食料・
農業・
農村基本法案について
意見を述べさせていただきたいと思います。
本連盟では、皆様のお手元に配付してあります資料にありますように、
政府提案の本案に対して六
項目の修正などを求めておりまして、現在、全道規模で修正を求める署名活動を
実施しておるところであります。私はこの中で、特に
食料自給率の
向上のために国内の
農業生産の
維持増大を
基本としていただくことを前提といたしまして、今回は、特に重要と思われる第三十条関連の
農産物価格制度の見直しに伴う
農家の
所得対策を
中心に
意見を述べたいと思います。
初めに、
北海道の水田
農業、稲作
経営の実態について、今、直副
会長の方からも
お話がありましたけれども、ちょっと御説明を申し上げたいと思います。
我が国は、関税化や国内支持削減などのUR
農業合意を九三年に受け入れまして、九四年の
WTO農業協定批准に伴い、
価格支持などを
内容とした食糧
管理法の見直しが迫られ、市場での
価格形成などを柱とする
食糧法へと大きな
政策変更が行われたところであります。その結果、
北海道産の自主米
価格はここ数年で一五%程度以上も下落しておりまして、
農業収入に多くを依存する
北海道の稲作
農家は
経営の悪化に非常に苦しんでおるのであります。
北海道は、
平成六年に、UR
農業合意などの
国際化時代に対応するため、国が示しましたいわゆる新農政の方向を
参考に、将来における
経営類型の一つとして、二十四ヘクタール規模の大規模稲作
専業経営によって千四百八十万円の
農業所得を目指した「
北海道農業・
農村のめざす姿」を
策定し、今日まで規模拡大路線を続けてきたところであります。
ここで、
北海道における規模拡大型稲作
農家の
経営実態といたしまして、空知管内岩見沢市周辺の
農家の事例をちょっと御説明申し上げます。
この
農家は、昭和五十五年以降に十二ヘクタールの農地、水田を購入いたしまして、今おおよそ五千万円程度の負債を持っておりますが、現在は二十ヘクタールの水田を三人の専従者で耕作しております。昨年、
平成十年分の
経営収支を見ますと、
農業収入は二千六百万円、
経営費を差し引いた
農業所得は四百七十万円程度であります。ここには労賃は含まれておりません。この
農家は、十年度期首におきまして、
農地取得や機械・
施設投資など約五千五百万円もの多額の負債を持っており、負債の年償還額は六百五十万円でありまして、
所得から差し引きますと百八十万円の実質的な赤字、こういう実態になっております。実際の
経営では、
農地取得などに投資した資金が米価の下落などで固定負債化している、これが実態として浮き彫りになっておるところであります。
農林統計の調査による
平成九年の
北海道稲作
経営の十から十五ヘクタール層の稲作部門収支を見ましてもこうした傾向があらわれておりまして、
農業粗収益一千四百二万円、
農業経営費一千十七万円、
農業所得はわずか三百八十五万円にとどまっておりまして、生活費にも不足する額であります。とても新規投資分を回収できる
経営状態ではありません。
さらに、この
経営を、企業が行っている財務分析と同じ手法を用いた損益分岐点を用いて分析しますと、家族労働費を含めた費用は一千三百九十九万円でありまして、損益分岐点売上高は千三百九十八万円となり、その結果、
経営安全率は前年より一六ポイント低下いたしておりましてゼロであります。辛うじて投下した労働費が回収できる、そういう実態でございます。
また、私が住んでおります空知管内の稲作
農家の
経営分岐点を用いた分析では、純益収支概念による
経営安全率はマイナス四%であります。投下した家族労働費さえ回収できない
経営実態にあるわけでございます。なお、全道平均ではこの安全率がマイナス七%、こういうひどい状態でございます。
こうしたことから、
稲作地帯ではここ数年、土地改良事業の負担金や規模拡大などによる借入資金が固定負債化し、返済不能に陥る
農家が多発しているのであります。
旭川市の東旭川町ペーパン地区の道営土地改良事業では、三十九戸の
対象農家のうち、
傾斜地ということもありまして、水田本地の十アール当たり年償還額が、平準化事業などの償還軽減策を講じた後でも、単当二万円を超える
農家が二十戸、三万円を超える
農家が二戸あったのでございます。しかし、米価急落などで償還に耐え切れなくなりまして、九年には十二戸が返済不能に陥り、ついに昨年、十年には六戸が離農に追い込まれるという状況になりました。
道内における国営及び道営土地改良事業と
農業関連
制度資金を合わせた
平成八年度末の借入金残高は一兆円を超えておりまして、ほぼ
北海道の
農業粗
生産額に匹敵しているのであります。
生産コストの低減のために規模拡大や土地改良事業等を積極的に進めてきたことが、
農産物価格制度の見直しの
政策変更によりまして、逆に負の資産として今
経営を圧迫している状態であります。
このため、
制度資金にかかわる
農家負債で返済不能なものについては、元利金の減免措置や抜本的な超低利の一括借りかえ
制度などの
施策がぜひ必要であります。さらに、土地改良事業負担金については、抜本的な
制度改善の上、既往事業の受益者負担金の金利を無利子化し、さらに、今後の国営などの土地改良事業における受益
農家負担をゼロにする、負担なしにするという
施策を
経営安定対策の一環として講ずる必要があると考えております。このため、
農家負債整理のために緊急
対策本部を設置いたしまして、
北海道農業の再建を図るべきであります。
続きまして、
農産物の
価格の形成と
所得の補償及び
農業と他産業との格差の是正について、私どもの
考え方を申し上げたいと思います。
現行の
農業基本法では、
政策目標といたしまして、
農業従事者が
所得を増大して他産業従事者と均衡する生活を営むことを期する、このことを掲げておりまして、
農産物の
価格安定と
所得確保を明文化していたのであります。
しかし、提出されました新
基本法案では、市場実勢を反映した
農産物の
価格形成と
経営安定の措置をするとの表現にとどまっておりまして、国際的な農政展開の潮流に即した、
価格政策から
所得政策へという農政改革の大命題から大きく乖離していると言わざるを得ません。
私ども本連盟の試算では、
北海道における稲作と転作を合わせた水田農地十アール当たりの
生産額は、UR
農業合意
基準年の昭和六十三年の十二万八千円の
農業粗
生産額から、
平成十年には九万七千円に落ち込んでおります。その差は三万円でありまして、二四%の減少であります。これを実質的な
農業所得に置きかえると、五〇%に近い大幅な
所得の減少をしているのであります。
現在、
経営安定対策として講じられております稲作
経営安定対策がありますが、自主
流通米
価格が長期または大幅に下落する場合、補てん
基準価格も低下するため、補てん後の
農家手取り
価格が
生産費を大きく割り込んでおります。現状の
経営安定対策では、
価格支持
制度の見直しなどの変更に伴う
所得の大幅減少を償う
政策としての
役割は全く果たしていないと言えると思います。
このため、UR
農業合意で緑の
政策として認められております
所得の大幅減少に対する補償の法
制度化、すなわちEUなどで
実施しております
所得補償政策の
導入がどうしても必要であると考えられます。現在、
価格支持
政策から市場
価格形成への移行は極めて大きな
政策変更でありまして、
農産物価格の著しい変動の
影響を
緩和し、
農業経営の維持発展のために必要な
施策として、
所得の補償
政策を国の責任として、国の責務として
法案に明記することを強く求めるものであります。
また、新
基本法案では、
農業と他産業との
生産性と生活水準の格差是正や
所得の均衡については明文化されておりません。本道のような専業的な
農業経営が過半を占める
地域では、他府県のように兼業の機会は極めて少なく、しかも、支持
価格制度の見直しなどの
政策変更による大幅な
所得減少によって、他産業との
所得格差がますます広がっておるのであります。
農林統計の調査による
北海道の九年の稲作部門の
経営全体を見ますと、
農業専従者が投下した労働時間は三千六百八十六時間、
経営統計で用いている一時間当たり千六百円の労働評価、これも非常に低いわけでありますが、千六百円の労働評価で換算しますと五百九十万円の労働報酬に相当する
農業所得が入るわけでありますが、実際に
農業者が手にしているものは半分以下の二百七十四万円であります。本道の勤労者一世帯当たりの
所得であります六百六十三万円にはほど遠い
内容でございます。このため、
農家の若者は収入のよい他産業分野に就職しており、新規就農者は減り続け、離農者も相次ぐなど、
農村社会や
地域経済にも深刻な打撃を与えておるのが実態でございます。
したがいまして、
農業、
農村の持続的な発展を期するためには、
担い手である
農業者に対して、緑の
政策として認めております
所得補償政策の
導入、そして他産業従事者と均衡する
所得を
確保することがぜひ必要であります。
こうした
政策が講じられなければ土地利用型
農業の持続や
担い手農家の維持は困難でありまして、
国土・
環境の
保全、水源涵養、景観形成、保健休養、
地域経済、社会、文化、これらの維持発展などの
農業が果たしている公益的、
多面的機能の重要な
役割が果たせなくなるからであります。
このことに重きを置きまして、私どもの六
項目の修正の
視点をぜひつけ加えた
委員会の論議をお願いし、このことを決定していただきたい、ここを強くお願いするところでございます。
意見陳述を終わるに当たりまして、
国民生活にとって欠かすことのできない
食料、
農業、
農村を二十一世紀に受け継いでいくことが我々農民の使命でもありますし、また、それは大きく国の責任であると考えております。新
農業基本法について慎重な論議を積み重ね、
国民の合意あるいは世論形成を図りながら、私どもの要望をきちっと取り入れていただいた
法案の決定にさらなる御
努力をお願い申し上げまして、私の
意見陳述を終わらせていただきます。
この機会をいただきましたことに大変
感謝と御礼を申し上げます。ありがとうございました。