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浜谷公述人 若干の私見とそれから提言を述べさせていただきたいと思います。
国家の
緊急事態法制というのは、本来は自国の
有事、いわば
日本有事に関する
法制の
整備が最も重要な点でございます。現在
我が国が
緊急事態に陥った場合、その
対応の多くがいわゆる超
法規的行動にならざるを得ないということが多方面から指摘されているわけでありますが、これは
法治主義を標榜する
国家としては全く稚拙な話でございます。またこの点が、
周辺諸国に対しても、
緊急事態に際して
日本がどこまで何をやるかわからないといったような本来不必要な懸念を増幅させている
一つの要因ではなかろうかとも考えられるわけであります。
したがって、本来の
緊急事態法制というのは、
日本有事の際の
法制整備という点から出発して、その上で準
日本有事、さらに
周辺有事という形に、
温度差のある
事態を想定していくべきであろうというふうに考えております。その
意味で、現在
審議中の
法案は、準
日本有事それから
周辺有事という本来的に
対応の異なるべき
状態を区別せずに論じている嫌いがありまして、そこに多くのわかりにくさが露呈されているのではなかろうかという感じがしております。この点、
政府の示しているいわゆる四
類型、きょうまた二
類型が追加されたようですが、その
類型を見ましても、かなりの
温度差があるということは指摘できると思います。
つまり、現在
論議されている
周辺事態の一部のものは、
我が国に対する
武力攻撃、つまり、瞬時にして
日本有事に発展するおそれのある
事態も含まれておりまして、国内的には、いわゆる
自衛隊法の七十七条の
防衛出動待機命令というようなものが発せられる
可能性も想定される
状態であります。この場合には、すなわち、
我が国として主体的にかかわるべきか否かなどという
政治的判断の
余地がほとんどない
状態でありまして、
日米協力が有効かつ合理的になされない限りは、時を
経ずして
我が国の平和と安全に重大な影響を及ぼす
状態に陥る、そういった蓋然性が相当高い
状態を指しております。辛うじてまだ
日本が直接
武力攻撃にさらされていないというだけの場合であります。
この点、先ほど私が申し上げました本来的な
周辺有事と申しますのは、
我が国の平和と安全に直接的な
脅威が差し迫っていない
状態を本来指すべきでありまして、だからこそ、
我が国がいつの時点から、また、どのような方法でかかわるべきか否かという
政治判断の
余地が非常に大きく出てくるわけでございます。そのためには、いろいろな
制約とか
関与の
原則とかいうものが当然必要になってまいります。例えば大量の
難民対策とか、それから
国連決議に基づく
経済制裁等々への
対応でございます。現在のようないわゆる逆さまの
議論と
整備のおくれというのはいかんともしがたいわけですが、これらの点を早急に整理した上で、本
法案の
成立と一日も早い
日本有事の
法制整備に着手すべきであろうというふうに考えております。
本院ではこのような観点からも
議論が着々と進んでいるようでありますが、本来、
我が国の
周辺にある種の
緊張状態がある中での
防衛法制論議というのは、これは余り望ましい
環境とは言えない。一見、
環境整備がだんだんできてきたみたいな話はございますけれども、本来はそうではなかろうと。すなわち、
緊張状態を背景にした
論議というのは、ともすれば行き過ぎた
人権の
制約を伴う過剰な
国防政策というのを見えにくくしてしまうわけでありますし、何よりも、つけ焼き刃的で非体系的な
非常事態法制に終始する嫌いがあるからでございます。まして、政争の具や
政治的な駆け引き、また
政党の
独自性のアピールなどといったことによって、
体系的整備というのがとりわけ重要な
国家の
安全保障政策と
法制の根幹が揺らぐようなことがあってはならないというふうに考えるわけでございます。
いずれにせよ、
冷戦構造の変革に伴う新たな
国際秩序の模索の中で、現在まで平時における客観的な
論議がなされてこなかった以上、
我が国の
安全保障政策と適切な
日米協力というのを実現するための
法整備は喫緊の
課題であろうというふうに考えております。
ところで、
今本院で
議論されている
周辺事態措置法案というのは、
日本周辺地域における
有事を前提として、
国民の権利や自由の一部を
制約する
可能性を想定したいわば初めての
法整備でございます。その
意味で、
政治部門挙げての責任ある
関与というのが求められるのはいわば当然のことであります。つまり、
軍事に対する
政治の優先というシビリアンコントロールの徹底は言うに及ばず、積極的な
政策判断によって
国家の安全と独立、
国民の生命と財産というものを擁護することは、時の
政府や
国会の最大の任務だからでございます。それを遂行する上での具体策というのがいわゆる
国会の
関与手段の考察であり、また、その
一つが
国会承認の手続でございます。
時間の
制約もございますので、この点に絞って、以降少し詳しく述べてみたい、また、さらに若干の提言もしてみたいというふうに考えております。
国会承認の必要性というのは、申すまでもございませんが、
軍事に対する
政治の優先というシビリアンコントロールの観点から、
自衛隊の活動については、
国会がその活動を何らかの手段でチェックする仕組みが必要であるという点、第二は、本
法案が認定する内容や
措置の一部には
国民生活に直接影響を与えるというものも想定されておりますので、
国民の直接代表である
国会が何らかの方策でそれを容認しておくことが望ましいということ、さらに第三は、実際上の活動を行う
自衛隊、それから具体的協力を求められる
地方自治体にとっても、活動全般にわたって
国民的支持が明らかになっているということは重要な要素であることということが挙げられます。したがって、これは本
法案の
論議の中核でもあろうというふうに考えているわけであります。
とりわけ
武力集団というものを動かす決断は、あくまで
政治部門全体の責任において行うべきであり、三権分立のもとでは、
国会と
政府・
内閣の共同判断もしくは共同責任のもとで行うことが不可欠であろうというふうに考えております。
特に、
自衛隊が、場合によっては
我が国領域外で活動するようなことも想定されている以上、たとえ紛争地域とは一線を画するとはいえ、領域内での危険度よりは格段に大きい危険度のもとで活動するわけであります。また、
我が国の置かれている地理的な
環境、地理的要素から考えれば、必ずしも他国
領海と
我が国領海との間に公海が存在するなどとは限らず、その
意味では、いわゆる後方地域というものの存在すら危ぶまれるわけでございます。このような危険負担にたえられるのは、いわゆる
国会承認を通じた
国民の支持以外にはあり得ないだろうというふうに考えております。
また、現行法体系のもとでは、一度
国会が
承認を与えますと、その後の
国会のチェック手段というのはほとんどありません。時々刻々と変化する
有事もしくは
周辺事態のもとでは、それらへの何らかの
対応策というものもあわせて考慮しておく必要があろうというふうに考えております。この点については、後ほど提案という形で述べさせていただきます。
ところで、
国会の
承認については、今現在も
議論されておりますが、その対象と
承認時期というのが問題になっております。
まず、
承認の対象については、
基本計画の全体であるか、また
自衛隊の活動にかかわる部分だけかという
議論がございます。この結論には幾つかの前提の検討が必要であろうと思われます。つまり、
基本計画というものの実体がまだ明らかになっていないということでございます。確かに、
法案上はその項目が列挙されておりますし、全体の構成は説明されております。しかし、具体的にどれほどのボリュームのものかとか、
審議のために、そのボリュームをどの程度の時間があれば消化して
承認することができるかというような具体的なものはいま
一つ明確ではありません。
また、実施要領というものが具体的な作戦
行動に関するものだとすれば、
基本計画というものはかなりコンパクトで相当簡略なものになる場合もある。その場合には、全体としての
承認にもそれほど
審議時間を要しないかもしれないということは想像できるわけであります。
政府は
基本計画の策定後直ちにそういう場合には
国会に
承認を求めて、
国会もまた速やかに
審議して結論を出すべきであって、その際、結論までの
審議日数というものを限定しておくという方法も
一つの手段でございます。ただし、
基本計画が大部のものになる場合には速やかな
承認自体がまず困難でありまして、事後
承認という、聞こえはいいんですが、実質的な追認になってしまう
可能性がございます。すなわち、この場合、
国会は迅速な
承認を行おうとすれば包括的な
承認、いわば
政府案の丸ごとのみ込みみたいな、そういうことにならざるを得ない。また、十分な
審議時間をとろうとすれば迅速な
対応措置の機を逸するという、まさにジレンマに陥りかねないだろうというふうに考えております。
したがって、
国会承認については、
自衛隊法の第七十六条との整合性にも配慮して、
原則事前、緊急時には事後というこの
措置を認めて、いずれの場合にも、
審議結果を得るまでの期間を限定した上で
基本計画の全体をその対象にする。また、その
承認については、特定の有効期限を設けた、いわゆる期限つき
承認と私は呼んでいますが、期限つき
承認というものが望ましく、この詳細については後に述べさせていただきます。
また、
承認案件の
国会への付議までに一定の期間的猶予を設ける方法、治安出動を想定しているんだろうと思いますが、そういう方法が
議論されたか報道されたかしておりますが、これは、その期間、あらゆる活動について
政府に白紙委任をする結果となりますので、これは望ましい方法ではなかろうというふうに考えております。
いずれにしましても、
国会という合議機関の特性を考えた場合には、緊急時における判断にはもともとなじまない部分が多いということは否めません。つまり、
緊急事態に際して、
アメリカ側との協議それから各種の
政策判断、さらには
自衛隊の出動などを時間的
制約の中で的確に決断するということは、合議機関としての限界でもございます。それら臨機の
対応というのは、少なくとも民主主義的な正当性を有する限り、
内閣に決定をゆだねることが合理的であります。したがって、
事前承認や
承認対象にこだわるよりは、それらを
原則的なものにとどめて、次の二つの手段に
国会の特性を発揮する方がより建設的であろうというふうに考えております。
その具体的手段を二つ提示する前に、若干
アメリカの
戦争権限法という
法律を紹介して、その方法論を少し参考に供したいというふうに考えます。
戦争権限法は、その名称からして非常に誤解を招くことがあるんですが、これは、
アメリカの建国以来初めて大統領の
軍事力行使を
制約した
法律でございます。制定の背景や詳細な内容は別の機会に譲るとしまして、ここでは、
我が国の
法整備に今後示唆的な部分について、骨子だけを簡単に述べたいと存じます。
まず第一点は、海外の紛争への
米軍投入に際しては、議会と大統領の共同判断に基づくことでございます。
第二番目は、大統領の軍最高司令官としての権限行使を法による授権のある場合などに限定しているということであります。
さらに三番目は、
米軍の投入の際には可能な限り議会と協議することとして、投入後は、いかなる場合も撤退まで定期的に協議するということになっております。
また四番目は、
米軍の投入命令後は、四十八時間以内に、投入を必要とした状況、法的根拠、それから、投入
状態の規模や期間の見通しなどを議会に報告すること、また、投入後はそれら一定事項を定期的に議会に報告すること。
さらに五番目は、
米軍投入に際して、または投入後、議会の同意が得られない場合には六十日間、撤退時の必要性を証明した場合にはさらに三十日間が加わるわけですが、いずれにせよ、六十日間以内に
米軍を撤退させること、また、議会が
米軍の即時撤退を決定した場合にはいつでも撤退させなければならないこと。これがいわゆる
アメリカ流で言う議会拒否権という発想でございます。この議会拒否権については、憲法上の
議論等々がございまして、
質問がございましたら答えたいと思います。
そして最後は、
審議日数を限定した、議会の優先議事手続といったようなものが詳細に
規定されております。
つまり、海外における
米軍の行使に関しては、可能な限り事前の協議によって大統領と議会との緊密な意思の疎通を図って、両者の共同判断に基づく
対処を目指したわけでございます。そして、特定の授権法による厳格な授権
範囲の設定とともに、詳細な状況について議会への報告を密にして、その後の
対応にも議会の影響力を留保しております。そして、ともすれば大統領のいわゆる独断に陥りがちだった
米軍の継続
使用というものについては、議会と大統領の意思が反する場合、議会側の強制手段、いわゆる議会拒否権によってでも
米軍の撤退が可能であるということまで制度的に確立させたわけであります。
これらを参照しながら、以下、
国会の特性を尊重した、
我が国における
法制を検討したいと思います。
先ほど言いました若干の提言の
一つというのは、
国会承認に至る前段階として、
国会と
政府の間で協議手段の模索をすべきであります。すなわち、協議機関の設置を考えるべきであろうということ。それからもう
一つは、
基本計画の継続に関する
事前承認制度、これを導入すべきではなかろうかというふうに考えております。すなわち、
周辺事態の認定から
基本計画、実施要項の内容などを期間を限って
審議して、
政府が計画の継続を求める際には、計画の
変更の有無にかかわらず
事前承認手続を踏むように
義務づけるわけでございます。
前者の方は、さきの
戦争権限法にもあるわけですが、特定の議会メンバーをあらかじめ定めておいて、緊急に招集する方法でございます。
政府が一定の方向性を示して
国会の協力を求め、
承認への迅速なプロセスを担保する方法として検討すべき価値があるのではないかと思います。
軍事的な実力行使を伴う
可能性もある以上は、いわゆる
政治部門の共同判断を確保するためにも、
政府、
国会間の
事前協議の仕組みを考えるべきではなかろうかというふうに考えます。
もちろん、具体的作戦
行動などの実効性確保のためには、
提供される情報と協議内容には限界があるということも否めないわけですが、ともすれば情報不足に陥りがちな
国会へのいち早い情報
提供にもなるわけでございます。厳格な三権分立制をとっている
アメリカでさえ確立された方策が、議院
内閣制のもとで、
国会と
政府の緊密な
関係の中で確立されないわけはなかろうというふうに考えております。
後者の方は、まさにこれは
国会の特性が最も発揮される方策でございます。つまり、さきに触れましたように、初回の
承認のいわば有効期限をあらかじめ定めておく、
戦争権限法では六十日という期間が具体的に出てまいりますが、六十日というのは必ずしも
意味があるわけではありません。これは、制定当時、上院案の三十日と下院案の百二十日というものの折衷案でございますから、それほど根拠がないわけですが、少しこれは長過ぎはしないか、近代兵器の性能等を考えますと三十日から四十五日間程度が妥当ではないかと考えておりますが。
この期間からさらに継続して
基本計画を実行しようとする場合には、一定期間前に
政府は計画継続に関する
事前承認を求めなければならないということを
義務づける
規定を設けるのであります。この場合には、
政府による事前の
承認要請から
国会の結論を得るまでの
審議日数をあらかじめ優先議事手続として法定するなどの方法によって、期限内には必ず結論を得るということを手続的に確立しておく必要がございます。これはいわゆる泥沼化の防止、要するに派遣についての泥沼化の防止ということにも有効な手ではなかろうかというふうに思います。
そして、
自衛隊の派遣に関して、
国会側と定期的にその後協議を継続して、同時に、投入後の状況についても報告する。その内容は作戦
行動に影響のない限り詳細であるべきであろう。
そして、
自衛隊の派遣の継続について、その必要性がなくなったときには、
基本計画の終了とともに
自衛隊の撤退も速やかに行われるということになっておりますが、仮に
国会の意思と反する場合には、いわゆる
国会拒否権、向こうの議会拒否権を私は
日本では
国会拒否権と呼びかえたわけですが、
国会拒否権といった手段の採用も検討しておくべきではなかろうか。すなわち、すべての
国会の意思表示というものが、
政府の要請にこたえる形で、いわば受動的に判断するということだけではなくて、直接
国民代表としての
国会の主体性を発揮して、シビリアンコントロールの実効性を担保する
意味でも、その手段としてこういう場合を考慮しておく必要があるのではなかろうかというふうに考えております。
国会拒否権というのは、
自衛隊の派遣を含む
基本計画の
承認後、初回の
承認後、
承認の有効期間の満了前に
自衛隊の派遣を終了させる手段でございます。たとえ
国会拒否権に法的拘束力、いわば法的強制力ですが、これを付与しないものがあったとしても、それはいわゆる
政府の計画の継続に対する
承認要請なしに表明される
国会の主体的意思であるわけでありますから、議院
内閣制のもとではインパクトはかなり大きいはずでございます。
こういう具体例を述べた上で、非常に重要な点があると存じます。それは、いわゆる
国会のあり方であります。つまり、どうしても必要になるのが、いわゆる
国防政策に精通した多くの議員の方々の存在でございます。ハードな
武器技術や性能とともに、
軍事知識や
軍事常識といったものに通じた議員の方々のみが
政府の計画に対する正しい批判や判断が可能になるというふうに思えるからでございます。
本院の構成メンバーにはそういう心配は恐らくないだろうということは考えられるわけですが、少なくとも、
承認の必要性を強調する以上は、迅速性を失わない効率的な
審議と、具体的かつ的確な判断力に裏づけられたいわゆる
承認行為の質の高さというものも当然求められるわけであります。
殊に実力部隊等の運用に関して、その必要性と手段について、正当かつ正確な知識に基づいて
政府側と対等に渡り合う、そして的確な反論などによってより効果的な
安保政策に収れんされていく、こういうプロセスを見て
国民は安心をするわけでありまして、この過程なくして本当の
意味でのシビリアンコントロールの実効性は上がらないということは考えております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)