○小川
参考人 御
紹介いただきました小川でございます。この場で私の
考え方について述べる機会を与えてくださいましたことに感謝申し上げます。
私は、最初に申し上げますと、
日米安保
体制を堅持するという
立場でございます。ただ、同時に申し上げなきゃいけないのは、
日米安保
体制を、
日本の国益のために、そして
日本が
世界の平和を
確立するために
役割を果たすべく、その方向に
維持していく、運営していく、運用していくということを前提に、今のお話をしたわけでございます。
そういう中で、私が専門としております外交、
安全保障あるいは
危機管理といったようなものは、一たびそこで
危機と規定されているものが出来をいたしますと、国が滅びるかどうかという
事態に立ち至る。ですから、その外交、
安全保障、
危機管理に関する答案あるいは処方せんと呼ばれるものは、やはり、
世界のどこに行っても通用するものでなければ、すべて不合格であるということを前提に考えなければいけない。ですから、やはり、その辺を意識しない議論というものがまかり通るとなりますと、かえって国益を損ねかねないという問題も、同時に議論しなければならないだろうと思います。
そこから考えますと、私自身は、
日米安保
体制を選んだということは、
日本の国益を追求する上で
一つの有力な選択肢であり、今
岡本参考人がおっしゃったとおり、
二つの選択肢のうちの
一つである。それを戦後
日本国民の過半が受け入れてきたということを前提に考えますと、非同盟中立といったようなもう
一つの選択肢よりも、かなり現実性のあるものだと思います。
だから、これをより
日本の国益のために生かすべく、どのように我々はかかわっていくべきかということが、恐らく、この
ガイドラインあるいは関連
法案に関する審議で一番求められる
部分ではないかと思うわけであります。しかしながら、そこで考えますと、やはり、思想と呼ばなければいけない
部分というものが、残念ながら欠落をしているのではないか、宿題になっておるのではないかということを申し上げざるを得ないわけでございます。
とにかく、
日本は
世界の平和を
確立するためにどのような
役割を果たしていこうとしているのか、どのようにしてそれをなそうとしているのか、そして、
日米安保
体制をどのようにしてそこに向けて機能させようとしているのかということが全く不明確でございます。そういうことになりますと、やはり、
一つの独立国家として
世界の信頼をかち取る上では、かえって疑いを持たれかねないという問題を生起するのではないか。その辺を大変懸念するわけでございます。
私は、話を早く進めようということで、お手元に一枚のレジュメを配りました。これをもとに駆け足でお話をいたしまして、あとは質疑の中で、足りません
部分は補っていきたいと思います。
タイトルに「防衛
指針論議と
日本政治」ということをあえて掲げましたのは、やはり、大変失礼ながら、
政治が不在である、あるいは不在に近い、その辺のことを指摘せずにはいられないからでございます。Aのところで、「「
日本の国益」が欠落した
日米安保
ガイドラインの
論議」と、あえて決めつけるような言い方をいたしました。大変失礼かと思いますが、その辺のことを真剣に議論していただきたいと思うがゆえでございます。
現在、「米軍への便宜供与」というふうに書いておりますけれ
ども、とにかく、
日本の国益のために
アメリカをどのように機能させていくのか、それをどうサポートするのかということで議論が行われている。これは、それなりに
一つの筋道を通した議論であろうかと思います。もちろん技術的な
問題点というのは、後で必要があればお話しいたしますが、かなり点数が低いものもいっぱいございます。ただ、それはみんなで議論していけばいい。
しかし、もう
一つ、
アメリカを支援するということをここで議論しても、やはり、
日本と
アメリカの国益はおのずから違うところがたくさんございます。
アメリカが右に行こうと言っても、
日本は左に行かなきゃいけない場合もある。それは、国家意思の表明という作業でございます。
国家意思の表明はだれがするのか。官僚がするのか。とんでもない。そんなことでやっているから、官僚主導国家になってしまうんです。それは
政治がやらなきゃいけない。
国民の代表たる
国会の仕事でございます。とにかく、国家意思の表明を明確にする中で、イエスはイエス、ノーはノーということが明らかになり、
アメリカからもあるいは周辺諸国からも、
日本に対する信頼と期待と評価が生まれてくるといったような問題であろうかと思います。
ところが、現在の議論は、ややもいたしますと、事務
レベルが主体として進めている対米便宜供与の技術的な
部分のみが先行し、あたかも、場合によっては、それが
ガイドラインの議論のすべてであるかのように受けとめられている。これは大変不幸なことでございます。ですから、事務
レベルの議論を進めると同時に、国家意思の表明を明確にし、
日本の国益を追求するための
政治レベルの議論があって、初めて車の両輪、あるいは航空機でいいますところの片肺飛行にならないような形が実現するのではないかと思うわけでございます。
これにつきましては、このレジュメにもありますように、最初の
ガイドライン、七八年の
ガイドラインでございますけれ
ども、これの中で、前文の中に、既に事務
レベルは、自分
たちの手に負えないテーマとして、研究・協議の対象としないという三点を挙げております。これは、実は
政治レベルで議論くださいといったような問いかけでもあるわけでございます。
それは何か。ここにありますように、事前協議に関する諸問題、それから
日本の憲法上の制約に関する諸問題、それから非核三原則でございます。これを、我々はきちんと宿題として議論してきたのだろうか。そして、現在の
ガイドラインに関する議論に、この話を整合性を持って付与するような形で話を進めているのだろうか。その辺が極めて厳しく問われるのではないかと思います。
とにかく、この辺のことを明確にする中で、米国が何事も
日本に相談するような状況が生まれてまいります。そして、
日本の利益に関連いたします
周辺事態の拡大解釈に歯どめをかけることも可能になります。そういう中で、
日本人が最も恐れる、いわゆる戦争に巻き込まれる
事態を防止することもできるようになる。そのあたりの問題をぜひ御議論いただきたい。
私は、このレジュメに沿ってお話をいたしますと、Bのところの「「
政治レベル」で米国と協議すべき
事項」としては、七八年
ガイドラインの前文がうたいました研究・協議の対象とはしないとした三点について、
日本なりの見解を打ち出し、それをたたき台として、米国との協議を進めていくことが重要ではないかと思います。
例えば、事前協議を明確にしていく、これは政党によっては活性化といったような言葉を使っておりますが、このことによって、必要とあらば独立国家としての拒否力を、同盟国
アメリカに対しても発揮することができるようになるわけでございます。これを明確にする中で、
日本が、
アメリカにとっての都合のいい存在であるだけでなく、やはりれっきとした独立国であり、周辺諸国の期待にこたえて平和を実現するような国である、そういった評価が初めて生まれてまいります。これは、
日本の外交を進める上で、極めて有効なあり方ではないかと思います。
ですから、そういう中では、
日本の平和主義に照らして、同意できる場合は米軍を支援するけれ
ども、不同意の場合は共同
行動を拒否する、また施設や基地の
提供も認めない、そういう方向を明らかにすることが重要でしょう。そこまでいって、初めて周辺諸国が、米軍の軍事
行動を阻止する
役割を
日本に期待する道を開くわけでございます。
昨年の六月二十四日でございますが、朝鮮
労働党のあるエリートと立ち話をすることがありましたけれ
ども、彼の本音の
部分と私の
認識とは非常に似ておる。どういうことか。日朝間の懸案
事項であろうとも、
日本と協議する必要は実はない。それは何か。苦労して
日本との間で約束をしても、
アメリカにその約束をほごにするような方向を示唆された場合、
日本は
アメリカの言うとおり動くではないか。そんな国と約束ができるか。そうであるなら、日朝間の懸案であろうとも、
アメリカと直接に話をした方がいいだろう。
これは北朝鮮の本音でありますが、やはりそういう客観的な
認識は我々が持ち、その辺の
部分を克服していく中で、初めて北朝鮮側からも、日朝
国交正常化に向けての積極的な姿勢を引き出すことができるのではないかと思うわけでございます。とにかく、こういった問題は、
我が国の安全を高めるのみならず、経済立国の基盤を確固たるものにする極めて重要な要件でございます。
この辺の
部分は、もう
先生方、既に勉強なさったと思いますが、一昨年の春に新潮社から文庫本で翻訳、出版されました、ベーカー元
アメリカ国務長官の回顧録「シャトル外交」という本を
参考にすれば明らかでございます。
とにかく、ベーカー国務長官が在任した四年弱の間、
世界は激動いたしました。その中で、
アメリカの国益をかけて、ベーカーは
世界の首脳とトップ外交をやっていく。湾岸
危機、湾岸戦争においても、資金の
提供と兵力の供給というものを求めます。ただ、
日本以外の同盟国は、すべてノーから始まるわけでございます。そのノーと言う相手を説き伏せて、兵力の供給、それから資金の
提供を実現していく。それがドラマになっていればこそ、この回顧録は大変おもしろい。
私は、ベーカーの補佐官に、なぜ
日本がこの回顧録に出てこないのかと聞きましたら、いや、それはドラマにならないからですよ、
アメリカが考えているような外交というのをやっていないからだと、はっきりしたお答えが返ってきたわけでございます。その辺のことは、我々が肝に銘ずべきことであろうかと思います。
それから、憲法解釈の問題に関連いたしましては、
日本国憲法をなし崩し的に侵犯することは、これは
日本の国益を損ねる問題につながります。ですから、憲法というものは、正々堂々、
国民が正面から改正の議論を進めるべき性格のものでございます。ですから、憲法侵犯への歯どめとして、そのような意味を込めまして、集団的自衛権、これは
日本モデルというもので結構でございますけれ
ども、そういった
可能性を追求するということは、
一つ有効なあり方ではないかと思います。
とにかく、
日本の選択肢としては、
日米同盟を健全に
維持することと同時に周辺諸国との信頼
関係を
確立すること、その
二つの問題を同時にクリアすることが求められているわけでございます。
しかし、周辺諸国は、
日本が
アメリカに対する一定の拒否力を備えることを期待する一方、
日本の軍事的自立に対しては大変な警戒感を持っているわけでございます。それに対して、
日本としては、とにかく集団的自衛権の行使について
日本独自のあり方を示すことが
一つの有効なあり方ではないか。そこにおいては、
日本国憲法と
日米安保
条約、そして
国連憲章の三者の整合性において、読み込み、また
日本モデルを示すことが可能ではないかと私は思うわけでございます。
どういうことかといいますと、
日本国憲法は、
国連への加盟を否定しておりません。当然ながら、
国連憲章のどの条文をも否定していない。その一方、
日米安保
条約の第一条には、これは
国連憲章のもとの
条約であるという意味合いのことが書かれております。それに対置される
国連憲章の第百三条には、そういった
条約に対して
国連憲章が優越するということが書かれている。
この三者を読み込みますならば、
国連憲章の五十一条にある、国際の平和のために
国連の安保
理事会が機能するまでといったようなことに対して、
日本の集団的自衛権の行使というものを
一つのモデルとして提示することはできるのではないか。安保理が機能した時点というのを、
一つのテーマが提案をされ、それに対してどこかの常任
理事国が拒否権を発動した時点といったような定義もすることができるわけでございます。そこまでは集団的自衛権を行使しながら、安保理が機能したという時点に達したならば、直ちに軍事的
行動をとめる、対米
協力もこれは撤回をしていくといったような方向というのが、
一つの独立国家のあり方として考えられるのではないかと思います。
いま
一つ、
日本の選択肢の
一つでございます非核
政策あるいは核
政策の明確化でございますが、はっきり言いまして、
日本の非核三原則というのはうそっぱちでございます。言葉は悪いんですが。
アメリカの方が正直でございます。つまり、本格的な持ち込みであるイントロダクションはしない、しかし、航空機、艦船に積み込む形での一時寄港、これはトランジットと呼んでおりますが、これはやると言っている。だから、そこまで
日本は認めるという格好はあり得るわけでございます。
とにかく、
日本には核兵器の本格的な持ち込みは今はないかもしれない。しかし、在
日米軍基地に張りめぐらされた通信のシステム、あるいはコンピューターのネットワークなしに
アメリカの核戦略は機能しないわけでございます。その意味でいいますと、私
どもは、核の傘に守られているなんてばかな話ではなくて、核の傘を差している当事者でございます。
ですから、その
立場に立ちますと、やはり核保有国から核攻撃を受けるリスクをも
アメリカと分担をしてきた、そういったことまで自覚をする必要がある。これは、一昨年六月の、エリツィン大統領によるロシアの核
ミサイルの照準外しの宣言で明らかであろうかと思います。こういったことを考える中で、初めて、とにかく
後方地域支援などというまやかしの官僚用語が空理空論であるということは明らかになると思います。
とにかく、
日本は、
アメリカが
世界のリーダーでいるために唯一ほかにはない戦略的根拠地を
提供しております。
日本に置かれた戦力は、とにかく米軍の地球の半分における
行動を支えている。ですから、核保有国が
日本を核攻撃するという選択を持つということは明らかでございます。そういったことを明確にしながら、我々は
日米安保を
日本の国益に機能させるべく議論をしていかなければいけない。
その中で、
最後に一点申し上げなければいけないのは、レジュメのAの二でございますが、
日米同盟の対称性、非対称性に関する議論が極めて不明確である。とにかく
日本ほど
アメリカと対称的な同盟国はない。これは
アメリカ側に証言をさせた速記録も私はございます。こちらが知らなければ向こうはうそをついてくる、そして唯一
アメリカが
世界のリーダーであるための戦略的根拠地を
提供している、そのことを明確に
認識しながら、
アメリカと良好かつ健全また堅固な同盟
関係を堅持していくことが求められている。それが、独立国家としての
日本が
世界の平和に資する前提条件になるのではないかなと思います。
昨今議論になっております
国会の関与などの問題につきましては、ここに書いてあることをもとに、また質疑の中でお答えをさせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)