○遠藤(乙)
委員 ぜひ、
総理の今後の
努力を期待したいと思っております。ぜひとも、国内的、国際的にこの
ガイドライン関連論議のアカウンタビリティーを高めるということに最大の力をひとつ注いでいただきたいと思っております。
続いて、総論的なことに余り時間を割きたくはないのですけれども、大事なことでございますので、やはり今何が問われているのか、それから、どういう
原則でこの問題を共通の土俵で議論していくかということを、ちょっと一言私も意見を述べたいと思っております。
何よりも今、この
ガイドライン関連法制の論議で問われているのは、冷戦後、ポスト冷戦のアジア太平洋、平和の構造をどうつくっていくかという問題だと思います。また、その中で当然、
日本の平和と安全をどう
確保していくかということであるかと思います。
アジア太平洋といっても、非常に多様性とまたさまざまな差異に富んでおりまして、価値観も違い、体制も違い、発展段階も違い、ダイナミックに発展する
地域ではあるけれどもさまざまな異質性、多様性を抱えておって、例えばヨーロッパなどとはちょっと状況が違っているということではないかと思っております。
そういった中にあって、私は、本当に建設的な議論を、
安全保障論議をしていくための共通の
原則あるいはキーワードというのは、簡単に言いますと、抑止と対話のバランスということではないかと思っております。
今の国際社会、いまだに主権国家が併存する社会でありますし、また、文化も価値観も体制も違う、文明の衝突といった問題もある。いろいろな異質の要素がぶつかり合っているわけでございまして、そういった中で、現実的に平和の構造をつくり上げていく一番基本的な大
原則は、やはり抑止と対話のバランスということではないかと思います。これはやはり長い歴史的な教訓から、特に国際政治の現実から出てきた教訓であろうし、今後ともこれは変わることはないであろうと私は思っておりまして、ぜひこういったことをきちっと認識をしていく必要がある。言いかえれば、一面的な議論、例えば対話なき抑止、抑止なき対話、いずれも結果的にはこれは平和の構造構築に失敗をしているということがあるわけでございます。
例えば、歴史的な例を引きますと、ナポレオン戦争後、一八一五年、最後のナポレオンの戦争があったわけで、それ以後ウィーン
会議が招集をされて、それ以降百年にわたる欧州の平和の構造ができたという事実があります。この際、抑止と対話のメカニズムを大変巧妙に調和させ、またここには正統性とか勢力均衡といった概念が確立をされて、百年にわたる平和の構造ができた、その中でヨーロッパ諸国が、経済の発展、文化の成熟等、大きなヨーロッパ文明の開化の前提になったわけであります。
他方、対話なき抑止あるいは抑止なき対話、いずれも失敗しているということを改めて教訓とすべきだと思うのですね。
例えば、対話なき抑止、この失敗例の典型的な例は第一次大戦だと思います。第一次大戦前夜にあっても、多様な同盟あるいは協商関係は張りめぐらされていたわけでございますけれども、オーストリア・ハンガリーの皇太子夫妻がセルビアの青年にサラエボで暗殺されるといった偶発事件をきっかけとして、宣戦布告、総動員令と、自動機械のようにこれが進みまして、あっという間に大戦、四年に及ぶだれも予想しなかった大規模な戦争になったということでありまして、まさにこれは、抑止の体制はあったけれども対話のメカニズムが欠けていたことによって、やはり抑止ということが余分な緊張を高め、ちょっとした偶発事件でこういった大戦争になったという古典的な例ではないかと思います。
他方、抑止なき対話の失敗例は、一番いい例は、いわゆる宥和
政策、第二次大戦直前にイギリスのチェンバレン首相等が推進した、ヒトラー・ナチスに対して、ナチスの領土要求、特にチェコスロバキアのズデーテン地方等の領土要求に対して宥和的に
対応した、話せばわかると言って。また、宥和的に対話をやれば、ドイツ国内の穏健派が力を得て、やがては平和志向に変わるであろう、そういった期待があったわけですけれども、無残にも打ち砕かれまして、かえって大規模な戦争、第一次大戦を上回る大戦争になったわけであって、初期段階できちっとそういった侵略的意図を決然とくじくという行動、また抑止の姿勢がなかったことによって失敗した例でございます。
そういったことを総合しますと、やはり抑止と対話のバランス、そのためには、すぐれた政治的英知によってそれを運用しなければならないわけでございますけれども、そういったことが何よりも大事であろうということであろうと思います。
したがいまして、このアジア太平洋
地域、
日本の平和も含めたアジア太平洋
地域、二十一
世紀において少なくとも百年にわたる平和を構築していくためには、そういった重要な
原則についてやはり国民が理解をしていただき、また政治家は本当に英知を傾けて
努力をするということがぜひとも必要ではないかと思うわけであります。
それで、それは総論的な話としまして、さらにもう少し具体的な問題というものに入ってまいりますと、アジア太平洋、二十一
世紀に向けての潜在的な問題あるいは具体的な課題、これをやはりきちっと認識をしておく必要があると思います。余り抽象的な議論だけでいったのでは、これは現実直視の議論にはならない。
そこで、私は、何がアジア太平洋の平和の構造構築に向けての大きな問題かといいますと、これは二つあると思っておりまして、
一つは北朝鮮問題だと思います。もう
一つは米中関係ですね、米中関係の将来という問題です。当面の大きなテーマは、言うまでもなく北朝鮮の問題。それから中長期的に、もっと根本的には米中関係の将来がどうなるかということが、このアジア太平洋の平和の構造を
決定的に決める最大の要因であろうというふうに考えております。もちろん、その他の問題は多々ありますけれども、この二つが最も基本的な問題であるということは、恐らくどなたも共通の認識であるかと思っております。
北朝鮮につきましては、これは特にポスト冷戦、冷戦後の
安全保障問題の典型的な問題であろうと、ある
意味では思います。
といいますのは、冷戦後の問題で一番危惧されたのが、いわゆる大規模な核戦争というものはなくなるであろうけれども、むしろ
地域固有の要因、
地域の紛争に対して、核の拡散、ミサイル技術の拡散、あるいは化学兵器、生物兵器の拡散、非常に安いコストでどの国家もそういった軍事的な手段を手に入れることができるようになった、それが大変厄介な問題をもたらすであろうということは、識者が共通の認識を持っていたわけでありまして、まさに北朝鮮の問題はその典型的なケースであろう。したがって、我が
日本としても、冷戦後の典型的なこの
一つの問題に対して、どう四つに組んで
対応していくかという姿勢が大変大事じゃないかと思っております。
北朝鮮がどういう国家であるかということは、私も、十分な情報がありませんので、必ずしも断定はできません。ただ、いろいろなシナリオ、可能性に対して、やはり責任ある国家として、
対応策を考えていくことは当然であろうかと思っております。
例えば、イラクのフセイン大統領も、国連が機能しないであろう、あるいはアメリカが出てこないであろう、多国籍軍は動員されないであろうといった誤った判断のもとに、ああいう無謀なクウェート侵略を企てたわけでありますし、やはり抑止にすきがあれば、そういった行動はいつでも起こり得るということではないかと思います。
そういった中で、ぜひともこの今の北朝鮮の場合、核の拡散の問題があり、またミサイル技術が、確かにこれは急速に進展をしていることは事実であって、従来の
日本人の
安全保障観といえば、周辺が海に囲まれているために、非常に楽観的な
安全保障観、水と
安全保障はただといったような認識があったかと思いますけれども、この核拡散、またミサイル技術の拡散によりまして、突然非常に緊迫した
事態があり得るというわけでございまして、
安全保障観を大きく変えざるを得ないだろうという面があるかもしれません。
そういった中で、先ほど申し上げましたような、かといって過剰反応することなく、
事態の本質をよく分析し、冷静に考えて、抑止と対話のメカニズムでどうやってこういった
事態を抑制をしていくのかという、地道なまた
努力をやるしかないかと思っております。
そういったわけで、今、北朝鮮問題をめぐって米朝協議が一応成立をし、非常に大きな前進があったように思われますけれども、また、
総理もあしたですか、韓国に行かれて一番ホットな問題を議論されるわけでございますけれども、北朝鮮問題につきましては、既に先ほどの
委員からもいろいろお話があって、重複を避けたいと思います。
さらにお聞きしたいのですが、北朝鮮との関係については、私は非常に不満に思っているのは、対話のチャネルがない、これだけ長いこと近隣国であり、また長い関係があるにもかかわらず、いまだに国交正常化がなされておらず、実質的な
意味でもパイプがないということが大変私は残念に思っております。北朝鮮との間にどういう問題があろうが、対話のチャネルだけは、コミュニケーションチャネルだけはきちっと持っておくというのが
安全保障を議論する最も重要な手段でありまして、その
努力なしには、結局は、受け身受け身で、
事態をただ手をこまねいて見るしかないという状況になってしまうのではないかと思っております。
アメリカが北朝鮮と直接対話をして、大変突っ込んだ議論をしている。また、韓国も太陽
政策のもと、いろいろな問題がありながらも極めて
努力をして対話をしている。こういったことから見ますと、
我が国のこういった北朝鮮との関係についての状況は、非常に私は不満足に思っておりまして、問題はいろいろあるかもしれないけれども、やはりぜひとも、対話のチャネルをしっかり持って、忌憚のない意見交換、あるいはコミュニケーションができるような体制をまず築くべきであると考えております。
その
意味で、まず今、北朝鮮との間にコミュニケーションのチャネル、正式なものでなくても、どんなものが実際あり、どのように機能しているのか、また、それがもし不満足なものであれば、今後どのような
努力をしてそういうチャネルを確立していこうとされているのか、この点につきまして、まず
総理の見解を伺います。