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中島参考人 中島でございます。
最初に、資料として二つ、皆さんのお手元に行っているかと思います。これは、どちらも古文書に属するような古い話になってしまうので恐縮なんですけれ
ども、
一つは、八四年の十二月ですから、今からもう十五年前に、エコノミストという毎日新聞社で出しております雑誌に私が発表したものであります。ここでは、「
放射性廃棄物は暫定貯蔵を考えよ」という題になっております。これは、私がつけた題ではなくて、エコノミストの編集者がつけた題なんですけれ
ども、そうすると、私は暫定貯蔵に反対ではないなというふうに考えられるとちょっと困るので、最初に弁解しておきますと、ごらんいただけばわかるんですけれ
ども、この当時、全量再
処理をするという
日本のバックエンドの方針は無理だということを私は言いたかったわけであります。
前半は、高
レベル廃棄物の
処理処分問題が国際学術連合で初めて取り上げられまして、当時私は
日本学術
会議におりまして、
日本学術
会議は国際学術連合の下部機関でありますので、まさかICSUがそういう問題を取り上げることになろうとは思っていなかったんですけれ
ども、取り上げることになったものですから、少しあちこちにお願いいたしまして、学術
会議はお金がありませんので、文部省からお金をいただきまして研究班をつくったことを思い出しました。東京大学の武内先生を首班として、
放射性廃棄物の処分の問題の研究班をつくっていただいたわけであります。また、国際的なICSUの
会議にも、
原子力産業
会議の御尽力で、一万ドルでしたか出していただいて、そして報告をまとめることができたということでありました。
この後半の方に、再
処理というのは、当時の状況から見てこれは妄想、これも編集者がつけたんですが、到底実際の事業にはなっていないと。これは、きょうの議題にも大変
関係のあることでありますので申し上げますと、再
処理というのは、核兵器をつくるための
プルトニウムをつくる
技術から発展したわけでありまして、かなり長い
技術経験があるわけですけれ
ども、しかし、事業として見た場合にそれがちゃんと成り立っているかどうかということについては、非常に今でも疑問がある。
これは今申し上げておきますと、千九百何年でしたか、国際
核燃料サイクル評価
会議というのがありました。カーター大統領の提唱で行われたものでありますが、このときに
核燃料再
処理の部会がありまして、これは
日本が議長国をやったわけです。このときに出された再
処理の費用の見積もりというのは、現在少なくとも数倍になってしまっておるというわけでありまして、経験を踏んで年数がたてばだんだん安くなってくるというのでなければ確立された
技術というふうには私は言えないと思うんですけれ
ども、反対に少なくとも数倍以上になっている。
ですから、現行のピューレックス法と呼ばれます方法のままでは、恐らくコストを下げることは非常に難しいだろうと私は考えております。もっと新しい再
処理方法、例えば弗化物を使う方法とか、要するに乾式の方法が考えられておりますが、むしろそういうものの
技術開発を急ぐ方が現在必要なことであって、現在のピューレックス法をそのまま延長して、それが採算のとれる
技術になっていくかどうかということは非常に疑問であると考えております。
それから、同じことが、これは岩波の「科学」に書きました報告、これは八六年でありますが、「
核燃料再
処理の
現状と
問題点」ということの最後のところだけを
委員部の方にお願いしてコピーしたものが皆さんのお手元に行っております。これも後でごらんいただきたい。
私が申し上げたいのは、これはどちらも十五年前の話である、やっと
中間貯蔵が今出てきたというのは、やはり
日本の
原子力政策が非常に甘い見通し、楽観的な見通しのもとに進められていたのではないだろうかということを最初に申し上げたいのであります。
現在まで、我が国は、
ウランとして一万二千九百四十トンを九七年末までに使用したということになっております。そのうちの五千六百トンが実は海外の委託再
処理でありまして、これは、
フランスのラアーグと
イギリスのTHORP
工場に搬出されて、これはたしかもう終わったはずであります。
国内で再
処理をやりました
動燃事業団は、最初の見込みでは年間二百十トンだということでしたけれ
ども、これは、単に
技術的な理由のほかに、アメリカから核不拡散条約との見合いでその能力を制限されたということもありまして、ようやく最近になりまして年間九十トンぐらいの
処理ができるようになっている。累積としては九百四十トンしか
処理をしていないということになります。
そういうことでありますから、結果として、
原子力発電所の事業所内に
プール貯蔵等で現在七千トンの貯蔵量が蓄積しているというのが状況であります。先ほど
前田参考人がおっしゃいましたように、毎年九百トンくらいがこれからも出てくるということになるわけであります。
六ケ所の再
処理工場は、これは一応現在八百トン年間
処理できるんだと。二〇〇三年操業ということでありましたが、これは二年ほど延びるし、コストも大変高くなってきているということが最近報道されております。
いわゆるリサイクル
資源中間貯蔵ということについての
問題点でありますけれ
ども、私は、この問題が出てきたということは、今までの我が国のバックエンド政策と申しますか、いわゆる
核燃料サイクル政策の
一つの矛盾といいますか、破綻といいますか、その結果ではないかというふうに考えざるを得ないのであります。
原子力委員会は、
原子力開発利用の長期
計画の中で、
使用済み核燃料を全量再
処理するんだという方針を、よく言えば堅持してきた。しかし、堅持するといっても、実際に
技術的なバックグラウンドなしに堅持したらいろいろな破綻が来るのは当然でありまして、今度
中間貯蔵したということは、本当はその方針を大転換したことになるはずであります。そのことが全然明確にされていないということがまず最大の問題であると私は思います。
この問題に伴いまして、
プルトニウムが分離されてくるわけでありますが、そのためには、これは核不拡散との見合いで
透明性を確保しなければいけない。つまり、核兵器に使用することはないということをどうして担保するか。それから、そのためには余分の
プルトニウムを持たないようにするんだというわけでありますが、その余分の
プルトニウムを持たないことの柱になっておったのが、
一つは高速
増殖炉で燃焼させる、もう
一つは「ふげん」で燃焼させるというようなことが方針でありました。ところが、御存じのように、「
もんじゅ」の
事故でありますとか、一昨年の
動燃再
処理工場の火災
事故などがありまして、こういう方針の全面的な見直しが私は必要になっているのではないかというふうに考えるわけであります。
ですから、我が国の原子
燃料サイクルをめぐる現在の
問題点ということで、まず問題になりますのは、今まで言ってきた高速
増殖炉というのがいつ動くのかというか、いつ期待できるのかということですね。これは今までは、私の別刷りにも書いてありますが、二〇一五年だというのが当時の
原子力委員会のお考えであります。二〇一五年以降に
電力網に入るだろう。ところが、今問題になっているのは、この間の「
もんじゅ」
事故以後、二〇五〇年より早くはないだろうというようなことになりまして、これは「
もんじゅ」ではなくて、「
もんじゅ」の後の実証炉の時期が全く未確定になっているわけであります。
それから、「ふげん」が非常にコストがかかり過ぎるからという理由でもって中止するということになりました。しかし、私は、この方針はちょっと現在では見直す必要があるんじゃないか。といいますのは、我が国で
プルトニウムの混合
燃料、MOX
燃料を一番たくさん燃やした
原子炉が「ふげん」でありまして、これをただコストが高いからという理由だけで廃止することにした
原子力委員会の方針は、核拡散ということを考えた場合にはもう一度考え直す必要があるということを私は考えております。
それから次に、その代案として出てきたのが
プルサーマル計画でありますけれ
ども、これが予定どおり果たして進むのか。海外再
処理というのは、そういう
意味では、お金をかなり払えば
外国がやってくれる。問題はその
輸送でありまして、まず戻ってくる
プルトニウムの護衛が大変だったわけでありまして、そのためにわざわざ海上保安庁の「しきしま」という巡視船を百六十億円もかけてつくりました。しかし、それでもその武装は完全ではないということで、結局アメリカ海軍のバックアップが必要であったというのが過去の状況であります。
ですから、
プルトニウムを裸で運ぶのは危ないから、今度はMOXにして運ぼうというわけでありますが、この
輸送も、現在いろいろアメリカの議会筋が何かクレームをつけているようでありまして、難しくなっているという状況があります。
それから、六ケ所村の再
処理工場は八百トンということで、これが順調に動きましても足らないわけでありまして、その以後の
計画はこれから決めるということになっているわけであります。
それから次に、高レベル
放射性廃棄物の
処理処分、これは地層処分をするんだということは決まったものの、それがどこが実施主体になり、どこへそれを処分するのかということはいまだに未定である、皆さん御存じのとおりであります。一方で、原発の開発
計画、これは環境問題も含めてもっと増設しなきゃいかぬ。
これはいろいろな
意見があります。先ほど
石川参考人が触れられましたように、
円卓会議などで
国民の各層の御
意見を伺っておりますと、非常に難しい問題が山積しているという感じを私は受けるわけです。
こういう今私が幾つか挙げました原子
燃料サイクルをめぐるいろいろな問題は、どれ
一つとってもそれぞれが
国民的な討議が必要になることでありまして、これは
円卓会議では残念ながら昨年取り上げることができませんで、ことしになったらなるべく精力的に原子
燃料サイクル問題を取り上げようということが決まったばかりであります。そのことは三月に出しました中間報告の提言に書かれておりますので、ごらんいただければと思います。
それから次に、今度の具体的な
問題点について私の
意見を二、三申し上げさせていただきます。
第一は、中間ということでありますが、この数字が、
法律にはどこにも、例えば何十年というような数字はないわけであります。
一つの言い方は、これは
ウランの需給が逼迫する時期だと。これは、先ほどありましたように、国際
原子力機関が二〇五〇年ごろには逼迫するかもしれないと言っているから、そうすると五十年ということになるわけですが、そのことは明示されておりません。
それから、検討会の報告書では、経済性を計算する、つまり何年間保存するかという期間が決まらなければ経済計算はできませんので、そこには四十年という数字が出ておりますけれ
ども、なぜ四十年なのかという根拠は全くございません。
それからもう
一つ、この
法律案で、何条でしたか、
中間貯蔵施設が初めから
原子力発電所敷地外という表現になっております。私は、これはちょっと問題だと思うのです。少なくとも敷地は含め敷地外もというのならまだ私は容認できますけれ
ども、初めから敷地外。これは、余りにも今の
国民の
原子力に対する不信感あるいは不安感を無視した考え方でありまして、先ほど
河瀬参考人も言われましたが、普通の
ごみでさえ、いわゆるNIMBYと申しまして、ノット・イン・マイ・バックヤード、大切なことはわかるけれ
ども、必要なことはわかっても
自分のうちの裏庭に置くのはお断りだというのが一種のはやりになっている。こういう風潮の中で、そう簡単にこの
貯蔵施設ができるだろうかということを私は心配するものであります。
それから三番目に、
燃料がどんな性質のものかということが余り書いてありません。
使用済み燃料というとそれでみんな同じかというと、実は、
核燃料再
処理をすぐやるんだということであれば、余り
燃料を
軽水炉の中で長時間燃すことは得策ではありません。これは
ウランの236がふえるとかその他のことがありまして、大体四万五千メガワット・デー・パー・トンくらいでとどめる必要がある。ところが、例えば、ここに書かれておりますように、三十年ないし四十年
資源として保存しておいて、そしてそれから
プルトニウムを取り出すんだという場合には、これはなるべく長時間燃した方がいい。つまり八万メガワット・デーくらいまでいければ、
技術的に可能ならば、その方が経済上は非常に有利になってまいります。
そういうようなことがありますと、そのとき出てくる
燃料は当然違ってくるわけであります。それから、
プルサーマルの結果出てくる
燃料と今までの
使用済み燃料とは必ずしも同じではありませんので、そういう将来考えられるいろいろな、例えば
軽水炉を使うにしましても、トリウムを使うというようなことが可能でありますから、そういうオプションに対して全然規定がないわけであります。これは、
法律というのはそういう
技術的な規定をするところではないのかもしれませんけれ
ども、やはり現在のところでは非常に狭い視野でしか将来の
原子力開発、
原子力にかかわる
技術開発を考えていないということになります。
それから四番目の問題としては、
一つは
輸送問題があります。
これは、確かに今まで
貯蔵プール等々で
事故は少ないということはおっしゃるとおりでありますけれ
ども、運び込むときあるいはその途中は非常に問題でありまして、特に
原子炉敷地外貯蔵ということを前提にいたしますと、それがどこにつくられるかわかりませんが、そこまでのところと、そこから今度は再
処理工場への
輸送と二重に
輸送が必要になります。これが一カ所ではなくて、
全国に何カ所つくられるかということも何も明示されておりませんが、それによって非常に
輸送問題は大きな問題になってくると私は思います。我が国では、従来はこういう
使用済み燃料は全部海上
輸送であります。ですから、それから考えますと、将来
立地されるいわゆる
中間貯蔵所もこれは当然海岸
立地なのだろうか。そのことは何も書いてありませんけれ
ども、そのことを考える必要があるかと思います。
それから、全量再
処理の方針の反対として、いわゆる直接処分、これは、アメリカがやっているような、
使用済み燃料を貯蔵した後、発熱が小さくなったらばいきなり最終処分をするという方法でありますが、これに反対、再
処理をしなければいけないのだという理由として挙げられておるのは、そのまま地下に埋めたりすると、これは
プルトニウム鉱山をつくるようなものだから、したがって反対なのだ、再
処理をしなければいけないのだという理由が挙げられておりましたけれ
ども、今後の
中間貯蔵施設というのは、多分地下ではなくて地上につくられるでありましょうから、これは同じですから、もっと問題だ。だから、今までの
原子力委員会が挙げられた方針は、直接処分に反対だという理由はなくなったというふうに言わざるを得ないのであります。
中間貯蔵施設というものの安全性は確保されるのだという
お話でありますけれ
ども、逆に言いますと、この危険性は高
レベル廃棄物の最終処分前の暫定貯蔵とほとんど変わりません。例えば現在、青森に
フランスから返ってきたガラス固化体が貯蔵されておりますけれ
ども、そういうものの危険性とほぼ同じだと考えておけばいいのではないかと思います。
この地層処分につきましても、最近、一番その点で進んだ政策を展開した
フランスで、これは三カ所最終処分場を考えておったのですけれ
ども、それに対していろいろ異議が出ました。つまり、将来の
技術開発も見込むと、つまり処分というのは将来取り出すことを考えないという
意味があるわけですけれ
ども、それを取り出せるような、つまり回収可能な長期貯蔵という方針への転換が伝えられているわけであります。これらについての整合性も私は十分考えておく必要があるかと思います。
以上申し上げましたが、時間が参りましたので締めくくりますが、今回出されました法案は、危険性の大きい
使用済み燃料の取り扱いについて、はっきり申し上げて思慮不十分であると言わざるを得ないのでありまして、
原子力開発に対して深刻な不信感を抱いている
国民に、一層大きな不安を、懸念を抱かせることになるのではないかということを危惧するものであります。
以上で私の
お話を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)