○松浦
参考人 今の御質問にございました、高
レベル放射性廃棄物を生まない技術、あるいはそれを処理する技術、短寿命化する技術、それに関しまして、現在の
日本原子力研究所が取り組んでおります
研究の現状、将来展望について御
説明させていただきます。
原子力を使います場合には、核分裂の反応を使うか核融合の反応を使うか、どちらかしかございません。このどちらかで
原子力をエネルギーとして使用するわけでございます。
どちらの技術を使いましても、放射性廃棄物といいますか、放射性生成物ができない技術というのはございません。特に、現在世の中で非常に多く使われておりますのは核分裂を使っての発電技術であります。この場合には、燃料の中に高
レベル廃棄物、中には非常に寿命の長い
放射性物質ができるわけでございます。したがって、技術として開発すべきは、そのような非常に寿命の長い
放射性物質をいかに寿命の短いものに変えるか、ないしは、
放射性物質をいかに閉じ込めておくか、そういうことが技術的な問題となるわけでございます。
高
レベル廃棄物と申しますのは、再処理から出てまいりますときには硝酸の中に溶けているわけでございます。したがいまして、これを消滅するあるいは短寿命化するという場合には
二つの大きい技術の分野がございます。
一つは、その硝酸溶液の中に溶けておるものから消滅すべき非常に寿命の長い
放射性物質を分離するということ、それからもう
一つは、その分離されたものを今度は本当に短寿命化する、あるいは他の寿命の短いものにする、そういうことでございます。
まず
最初の、高
レベル放射性廃棄物の溶液からそういう長寿命のものを分離するという技術に関しましては、原研は、
研究室
レベルでございますけれ
ども、高
レベル廃液からの長寿命核種の分離を実験室規模で行いまして、非常に高い収率で分離できるということを実証しております。これは、具体的にはアメリシウムとかキュリウムとかいう元素でございますけれ
ども、物によりましては九九%、あるいは九九・九%以上の分離ができるということを実証しております。今後は、これに関しまして、まさに再処理から出てきました実廃液を用いての実験を行うという方向で進めることになります。
次に、今度は、その出てまいりました、分離されました非常に寿命の長い
物質、例えばアメリシウムとかキュリウムでございますけれ
ども、こういうものはエネルギーの高い中性子を当てますと大体核分裂を起こします。こういうものが核分裂いたしますと、ウランやプルトニウムよりもさらに短い寿命のものが多くなるということが物理的には幾つかの実験で示されております。
いずれにしろ、全体として考えますと、ウランやプルトニウムの核分裂でできたのとほぼ同様のものができてくる。これらは
もともとのアメリシウムやキュリウムよりはるかに寿命が短うございますので、将来にわたって閉じ込めておく確実性というのは非常に高いわけでございます。
したがいまして、こういう形で中性子を当てるために、それではどういうものを開発すればいいかということでございますが、現在我々が考えておりますのは、加速器、それから、未臨界炉と申しますが、これは原子炉のようなものでございますけれ
ども、それ
自身では持続的に連鎖反応が起こらないような、いわばうんと小型にした原子炉と考えていただいたらいいかと思います。
加速器を用いまして、この未臨界炉の中につくりましたいわばターゲット、的に加速器からの非常に高い陽子のビームを撃ち込みまして、中性子を非常にたくさん出します。この中性子を用いまして、未臨界炉に入れました、先ほど申しましたキュリウムやアメリシウムでつくった燃料体のようなものでございますが、これに中性子を当てまして、そしてそれらを核分裂させまして寿命を短くする。こういう形で、消滅処理といいますか、むしろ短寿命化処理ができるということが物理的な
考え方からは幾つか実験結果として証明されておりますので、今後これを実際に工学的なシステムにおいて実証していく、そういう方向で進めたいと考えております。
このために今どういうことをやっているかといいますと、非常に高いエネルギーでプロトンを加速し、またかなり強い電流でプロトンを加速するための加速器を開発するということ。それから、ターゲット、的になりますところには非常にエネルギーの高い、電流の大きい陽子のビームが当たりますので、このターゲットが非常に高い熱を発生します。そのために冷却システムの開発を行うということでございます。
それから、燃料に関しましては、アメリシウムやキュリウムの燃料の特徴をうまく使うために、現在ウランやプルトニウムで使われております酸化物ではなくて、むしろ窒化物の方が熱伝導等がいい、そういう特性から窒化物燃料を使うということを選択いたしまして、そのための物性
データの整備とか、あるいは照射実験の準備、再処理の実験の準備、そういうことを進めているわけでございます。
また、先ほど
最初に申しました加速器と組み合わせる未臨界炉につきましても、こういうアメリシウムやキュリウムを使ったような未臨界炉というのは今まで世の中にございませんので、このための炉物理的な
解析をするための
データを集めたり、
設計コードをつくったり、そういうことを進めているわけでございます。この点につきまして、今後は、未臨界の体系を用いました炉物理実験を行って
設計データを蓄積する、それから
材料とか燃料の照射実験を進めていく、そして全体として先ほど申しましたようなシステムが成り立つような
研究を進める、こういうように考えております。