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国務大臣(
小渕恵三君) このたび、私は、
内閣総理大臣に任命されました。重責を担う身として、我が国が直面する重大な事態を直視するとき、「今日の勇気なくして明日の我が身はない」との感を強くいたしております。全身全霊を打ち込んで国政に取り組んでまいりたいと思っております。
現下の最大の問題は、長期化する景気の停滞と
金融システムに対する信頼の低下であります。さきの
参議院議員通常選挙において示されたのは、国民が何よりもまず我が国の
経済情勢を極めて深刻に感じ、その一日も早い回復を願っているということでありました。私は、こうした国民の声を真摯に受けとめ、この内閣を
経済再生内閣と位置づけ、果断に取り組んでまいります。日本の
金融システムが健全に機能し、
日本経済が再生することこそ、アジアを初めとする世界に日本が貢献する最大の道であります。
今日の
我が国経済の
危機的状況を乗り越えるためには、国民の英知を結集することが何よりも重要であります。このため、私に直属する
経済戦略会議を本日設置し、民間の方々や
経済専門家を中心に検討していただくことといたしました。その上で、最終的な政策は、私みずからが決断し、実行いたしてまいりたいと思っております。また、私は、勤労者、
中小企業の経営者の皆様などを初めとする国民の生の声に直接耳を傾け、私の考えをお話しする機会をできる限り設けてまいりたいと思っております。
今日、我が国は、急速な少子・高齢化、情報化、国際化などが進展する中で大きな変革期に直面しております。国民の間にも、
我が国経済・社会の将来に対する不安感が生まれております。政治は、国民の不安感を払拭し、国民に夢と希望を与え、そして国民から信頼されるものでなければなりません。私は、この難局を切り開き、豊かで安心のできる社会を築き上げるため、
政治主導のもと、責任の所在を明確にしながらスピーディーに政策を実行いたしてまいる決意であります。
国民の皆様並びに
議員各位の御支援を心からお願いいたします。
日本経済再生のためにまずなし遂げるべきことは、
金融機関の不良債権問題の抜本的な処理であります。
金融再生トータルプランに基づき、いわゆる
ブリッジバンク制度を早急に具体化するとともに、
不動産担保つき不良債権に係る
債権債務関係を迅速、円滑に処理するための組織、手続の整備などを図ってまいります。そのための所要の法案を既に今国会に提出し、関連する
議員立法法案も提案されております。私は、
預金者保護に万全を期し、
金融再生までの期間を可能な限り短くすることを基本に据え、
金融機関の
不良債権処理に当たります。法案の速やかな成立に御理解と御協力をお願いいたします。
資金は社会の血液であり、その循環をつかさどる
金融機関は心臓の役割を担っております。このため、部分の破綻が
金融システム全体の危機を招くおそれがあります。私は、
システム全体の
危機的状況は絶対に起こさないつもりであります。
金融再生トータルプランの実行に伴い、
金融システムの再生のために
公的資金を活用することとなりますが、その必要性について国民の皆様の御理解をいただけるよう、内閣を挙げて責任を持って取り組んでまいります。
他方、
金融機関は国際的に通用する水準での
情報開示を進め、みずから再編やリストラに果敢に取り組むことが必要であります。破綻した
金融機関の経営者に対しては、
経営責任、さらには民事、刑事上の厳格な責任が問われるべきであります。善意かつ健全な借り手に対しては十分に配慮する一方で、悪質な借り手についてはその責任が厳しく追及されることは当然であります。
私は、将来にわたり
我が国社会が丈夫な心臓を持ち、隅々にまで血液が行き渡るよう
金融システムの再生を図るとともに、いわゆる貸し渋り対策にも引き続き積極的に取り組んでまいります。
金融機関相互の垣根の解消を目指し、利用しやすく信頼できる市場、制度の整備を進めるための
金融システム改革は円の国際化の観点からも重要な
取り組みであり、今後とも推進してまいります。
我が国の厳しい
経済情勢を直視し、私は、
財政構造改革法を当面凍結することとし、そのための法案を次の
通常国会に提出いたします。また、
景気回復に向け政治が主導して全力を尽くすことを内外に明らかにするため、平成十一年度予算案の
概算要求の
基本方針は
財政構造改革法の凍結を前提として設定いたします。
他方、将来の世代のことを考えるとき、中長期的な
財政構造改革の必要性が否定されるものではありません。
国鉄長期債務の処理、
国有林野事業の債務の処理を含めた
抜本的改革はもはや先送りの許されない状況にあり、
継続審議となっております
関連法案につきまして、速やかな成立に御協力をお願いいたします。
さらに、私は、一刻も早い
景気回復を図るため、平成十一年度に向け切れ目なく施策を実行すべく、
事業規模で十兆円を超える第二次
補正予算を編成いたします。その際、
公共投資のあり方については、
景気回復への効果を踏まえるとともに、従来の発想にとらわれることなく、二十一世紀を見据えた分野に重点化するなど、その見直しを行ってまいります。
また、
経済構造改革の推進は経済の
供給サイドを強化し、産業の高
コスト構造の是正を図りながら中長期的な成長を高めることになり、極めて重要であります。米国や一部の
欧州諸国の経済が八〇年代以降再生した過程も範としながら、
規制緩和、
行政改革、
公的部門の民営化、
税制改革等の施策を推進し、
研究開発の振興を図り、すぐれたアイデアに人材、資金、技術が絶えず集まることを通じ、新たな産業が活発に生まれ、海外からも我が国の魅力的な
事業環境を目指して企業が進出してくる社会をつくってまいりたいと存じます。
ベンチャー企業を初めとする
新規事業の育成、振興についても強力に推進してまいります。
税制については、我が国の将来を見据えたより望ましい制度の構築に向け、抜本的な見直しを展望しつつ、景気に最大配慮して六兆円を相当程度上回る恒久的な減税を実施いたします。
個人所得課税につきましては、国民の意欲を引き出せるような税制を目指し、所得税と住民税を合わせた税率の
最高水準を五〇%に引き下げます。景気の現状に照らし、
課税最低限は引き下げる環境にないと考えており、
減税規模は四兆円を目途といたします。
法人課税につきましては、
我が国企業が
国際社会の中で
十分競争力が発揮できるよう、総合的な検討を行い、
実効税率を四〇%程度に引き下げます。
所得課税の改正は来年一月以降、
法人課税の改正は来年度以降、それぞれ実施することとし、
関連法案を次の
通常国会に提出するよう準備を進めます。
減税の財源としては、徹底した経費の節減、
国有財産の処分などを進めながら当面は
赤字国債を充てることといたします。長期的には、今後の経済の活性化の状況、
行財政改革の推進等と関連づけて検討すべき課題だと考えております。
現在の
雇用情勢は極めて厳しい状況にあります。雇用の確保に万全を期するとともに、雇用の先行き不安を払拭するため、
産業構造や
雇用慣行の変化に対応した
能力開発対策、
雇用環境の整備を積極的に進め、国民が希望に応じた多様な働き方ができるようにしてまいります。また、雇用の拡大、創出を目指し、今後成長が期待される
情報通信、医療・福祉、環境等の分野における
新規産業の創出に向け、信頼性の高い
高速情報通信ネットワークの構築や
利用技術の開発などに取り組んでまいります。あわせて、
我が国雇用の約八割を占める
中小企業の基盤強化、
経営革新を強力に進めてまいります。
以上申し上げました政策を実行し、一両年のうちに
我が国経済を
回復軌道に乗せるよう内閣の命運をかけて全力を尽くす覚悟であります。
経済・社会の
グローバル化、少子・高齢化の急速な進展などを踏まえ、
大量生産型近代工業社会に向かって整えられた我が国の
社会システムを、二十一世紀における知恵の時代にふさわしいものに変革していくことも私の使命であります。
橋本内閣が推進してきた
基本理念を踏まえ、諸改革を進めてまいります。
行政改革につきましては、さきの
通常国会で成立をいたしました
中央省庁等改革基本法に基づき、
政治主導のもと、二〇〇一年一月の新体制への移行開始を目標として、来年四月にも所要の法案を国会に提出することを目指します。このスケジュールは決して後退させません。あわせて、
独立行政法人化等や業務の徹底した見直し、
事前規制型から
事後チェック型への行政の転換を基本とする
規制緩和、
地方分権の推進を通じ、
中央省庁の
スリム化を図ります。
以上の
取り組みの結果として、十年の間に、
国家公務員の定員は二〇%、コストは三〇%の削減を実現するよう努力をいたします。
また、
地方分権推進計画を踏まえた
関連法案を次の
通常国会に提出するなど、国と地方の役割分担、
費用負担のあり方を明確にしながら
地方分権の一層の推進を図るとともに、
地方公共団体の
体制整備、
行財政改革への
取り組みを求めてまいります。これは、地域の活性化、均衡ある国土の発展のためにも極めて意義のあることであります。
国民に開かれた行政の実現を図ることも重要な課題であります。
継続審議となっております
情報公開法案については、速やかな成立に御協力をお願いいたします。また、行政、そしてリーダーシップを持って行政を指揮する立場にある政治のいずれもが国民からの信頼を確保するため、さきの国会に
議員立法として御提案いただきました
政治改革関連法案や
国家公務員倫理法案につきましても、その
早期成立を期待いたします。
安全な
国民生活や公正な
経済活動の基礎を支える
司法制度につきましては、国民がより利用しやすいものとするため、
制度全般の改革を進めてまいります。
また、現在のように急激に少子化が進むと、国力の源である人口の減少につながり、将来の
社会経済に深刻な影響を与えます。子育ての経済的、肉体的、精神的な負担、職業との両立困難、住宅問題など、さまざまな制約を取り除き、個人が望むような結婚や出産などが選択できる環境を整備することは、社会全体で取り組むべき課題であります。
政府としても、子育てに携わっている若い世代など幅広い人々の参加のもとで、少子化への対応を考える
有識者会議を設け議論を始めたところであります。結婚や出産に夢を持てる社会を築くことは時代を超えた非常に難しい課題でありますが、
国民各層の知恵を合わせ展望を切り開いていきたいと考えております。これは、男女が共同して参画する社会をつくり上げていく上でも重要な課題であり、そうした社会を実現するための基本となる法律案を次の
通常国会に提出いたします。
社会保障制度は、お年寄りを初めとするすべての国民の生活のよりどころとなるものであり、極めて重要なものであります。こうした機能を的確に果たしながら、少子・高齢化の進展等による
国民負担の増加が見込まれる中で、効率的で安定した制度が構築できるよう改革を進めてまいります。とりわけ、医療、年金につきましては、将来にわたり国民皆保険、皆
年金体制を維持していけるよう、具体案を提示して
国民的議論を十分尽くしながら、制度全体の抜本的な見直しを図ってまいりたいと思います。また、民間活力も活用しながら
介護保険制度の円滑な実施を進めてまいります。
次代を担う
子供たちがたくましく心豊かに成長する、これは二十一世紀を確固たるものとするための基本であります。このため、まず、
子供たちが自分の個性を伸ばし、自信を持って人生を歩み、豊かな人間性をはぐくむよう心の教育を充実させるとともに、多様な選択ができる
学校制度を実現し、現場の自主性、自律性を尊重した
学校づくりや国際的に通用する大学を目指した大胆な
大学改革を推進するなど、
教育改革の推進に引き続き力を注いでまいります。家庭、特に父親や
地域社会にも積極的な役割を果たしていただきたいと考えております。
また、
都市政策に力を注ぐとともに、
農林水産業と農山漁村の発展を確保するため、食料・農業・農村に係る新しい基本法の制定に向けた検討を進めるなど、農政の抜本的な改革にも積極的に取り組んでまいります。
国民的な関心事項である地球環境問題に関しましては、六月に取りまとめた
地球温暖化対策推進大綱の着実な実施などを図ってまいります。身近な不安となっておりますダイオキシン問題につきましては、その排出削減や
調査研究を進め、いわゆる
環境ホルモンの問題につきましては、人の健康への影響等に対する科学的な解明を進めるとともに、化学物質の
安全管理のための新しい
法的枠組みの導入を検討いたします。
また、和歌山市で発生した
毒物混入事件など、国民の
日常生活に不安を与える治安問題に断固として対応するのはもちろんでありますが、
組織犯罪、コンピューターへの
不正アクセス等を手段とする
ハイテク犯罪などに的確に対処するための対策も推進してまいります。
内政と外交は表裏一体であります。現在、我が国は困難な状況に直面しておりますが、我が国に期待される責任を適切に果たすため、日本の安全と世界の平和の実現に向け、
国際社会における地位にふさわしい役割を積極的かつ誠実に果たしてまいります。
日米関係は、引き続き
我が国外交の基軸であり、
安全保障、経済等広範な分野で良好にして強固な二
国間関係を築くとともに、
国際社会の諸問題に協力して取り組んでいくことが重要であります。私は、国会の御了承が得られますれば、九月にも
クリントン大統領との会談の機会をぜひ持ちたいと考えております。
また、
継続審議となった
日米防衛協力のための
指針関連法案等の成立、承認、米軍の施設・区域が集中する沖縄が抱える問題の解決は、新内閣におきましても引き続き重要課題であります。
SACO最終報告の内容の実現を図り、あわせて沖縄の振興を図るため、沖縄県の協力と理解のもと、政府として全力を挙げて取り組んでまいります。
日ロ関係の改善につきましては、私は、橋本前総理が築かれた成果を踏まえ、さまざまな分野における関係を強化しながら、二〇〇〇年までに東京宣言に基づいて
平和条約を締結し、
日ロ関係を完全に正常化するよう全力を尽くしてまいります。できればこの秋に、私みずから訪ロし、
エリツィン大統領と会談いたしたいと考えております。
我が国の外交の最大の課題であります
アジア太平洋地域の平和と安定のため、この地域だけでなく、
世界経済に
不安定感を与える
アジア各国の
通貨金融市場の混乱に対しては、IMFを中心とする国際的な枠組みを基本としながら、真剣に対応してまいりました。今後とも
アジア各国の
経済回復のため、できる限りの支援を実行し、主導的な役割を担ってまいります。
本年は
日中平和友好条約締結二十周年であり、九月には
江沢民国家主席の訪日が予定されております。日本と中国は、
アジア太平洋地域全体の安定と繁栄に責任を有する国家として、単なる二
国間関係にとどまらず、
国際社会にも目を向けた対話と交流の一層の発展を図らなければなりません。
また、韓国との関係では、この秋の
金大中大統領の訪日を控え、二十一世紀に向けて新たな
日韓パートナーシップの構築を目指すとともに、漁業協定の締結に向けて努力を続けます。
北朝鮮につきましては、諸懸案の解決に努めつつ、朝鮮半島の平和と安定に資する形で日朝間の不正常な関係を正すよう、韓国等とも連携しながら取り組んでまいります。
国際社会の平和と安定への貢献も重要な課題であります。先日、私が
外務大臣のときにタジキスタンに派遣した秋野豊さんを初めとする四名の方が非業の死を遂げられました。言葉では言いあらわせないほど悲しい事件であり、心から謹んでお悔やみを申し上げる次第であります。この犠牲をむだにすることなく、
国連平和維持活動に参加する方々の安全を確保するため、
国連要員等安全条約の
早期発効に向けて各国にも積極的に働きかけてまいります。また、カンボジアにおける中田さん、高田さんの貴重な犠牲に思いをいたしながら、
国連職員の
安全対策のため、国連に対し、いわば
秋野ファンドとして資金を拠出することといたしたいと思います。
先般、インドとパキスタンが核実験を行いました。唯一の被爆国として非核三原則を堅持し、核軍縮・不
拡散政策を推進してきた我が国としては、全く容認のできない行為であります。従来から機会あるごとに
国際社会に対し我が国の考え方を訴えてまいりましたが、今後とも、八月末に発足する核不拡散・核軍縮に関する
緊急行動会議等を通じ、不
拡散体制の堅持、強化、核軍縮の促進、さらには核兵器のない世界を目指した現実的な
取り組みにつき、世界に向けそのイニシアチブを発揮してまいりたいと思います。
いわゆる
対人地雷禁止条約につきましては、できるだけ早い発効のため、我が国としても可能な限り早期の締結に努力をいたします。また、国連が時代の要請に適合した役割を果たすため、我が国の
安保理常任理事国入りの問題も含め、
国連改革の実現が必要と考えます。
外交は、単に政府だけの
取り組みではその実は上がりません。国民の皆さんの御理解と御支援をいただきながら、私のモットーでもあります国民とともに歩む外交を推進してまいりたいと思います。
我が国の経済と社会は、依然として力強い
基礎的条件を有しております。近年、
対外資産残高は
対外負債残高を上回り、
純資産残高はおよそ百二十兆円と高水準のプラスであります。高い貯蓄率に支えられた豊富な
個人金融資産はおおむね一千二百兆円、また年間のGDPは五百兆円を超え、いずれも世界第二位の規模であります。以上の数字から判断されるとおり、日本の経済的な
基礎条件は極めて強固であります。他方、
社会秩序は良好であり、国民の
教育水準、
勤労モラルは極めて高い水準にあります。日本は、社会的にも実に強固な基盤を有しております。国民の皆さんには、日本という国に自信と誇りを持っていただきたいと思うのでございます。
こうした力強い基盤を持つ我が国は、現在の厳しい状況を乗り切れば、再び力強く前進すると考えます。私は、この国に「今日の信頼」を確立することで、「明日の安心」を確実なものといたしたいと考えております。
二十一世紀を目前に控え、私は、この国のあるべき姿として、経済的な繁栄にとどまらず、
国際社会の中で信頼されるような国、いわば
富国有徳国家を目指すべきと考えております。来るべき新しい時代が、私たちや私たちの子孫にとって明るく希望に満ちた世の中であるためには、
鬼手仏心を信条として、国民の英知を結集して次の時代を築く決意であります。私は、日本を信頼と安心のできる国にするため、その先頭に立って死力を尽くしてまいりたいと思います。
国民の皆様並びに
議員各位の御支援と御協力を心からお願いいたします。(拍手)