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公述人(林屋禮二君)
宮城県
県政オンブズマンの林屋でございます。
私の場合は、前の方々と違って、国政への
意見、
要望ではなくて、
宮城県の
県政オンブズマン制度の
概要について話をするようにというお話でございますので、その点から申し上げます。
宮城県の
県政オンブズマン制度というのは
平成八年十一月に
導入いたしました。これは、前の
知事の汚職に始まりまして、官官接待、空出張といろいろ
不祥事が続きましたので、
県政刷新の
一環ということで
オンブズマン制度を
宮城県が
導入したわけであります。
オンブズマンは二人でありまして。私のほかに日向さんという、今、
仙台家庭裁判所の調停
委員などをしておられる女性の方がもう一人おられます。二人でありますけれども、単独制でありまして、一人で事件を担当する。
宮城県の県庁の一階にオンブズマン相談室というのを設けております。
このオンブズマンは、例えば川崎市のような場合には条例でつくられているのでありますけれども、
宮城県の揚合には県の要綱、
行政機関のルールである要綱でつくっております。これは、
県政刷新の対応を早くしなければならないという事情がありまして、条例へ持っていきますと時間がかかりますので要綱でつくったというふうに聞いております。そのために、条例ではないだけに、私どものオンブズマンの権限は幾らか制限されております。
条例でつくったような場合には、県で申しますと
県政監視機能というのがあります。ですから、私どもがいろいろ新聞などを見ておりまして、これはおかしいぞと考えたようなところは直接
調査に入るというようなことが
県政監視機能があればできるわけでありますけれども、それは今の
宮城の
県政オンブズマンにはありません
じゃ、どういうことをするかと申しますと、お手元に差し上げてあります資料の「
県政オンブズマン制度の
機能」というところに書いてございますが、まず一つは
県民のための
利益救済機能というのであります。
これは、
県民の方が、自分の権利や利益を県の
行政行為によって侵害されたというふうに考える場合に、その救済をオンブズマンのところに申し立ててくる、こういうことになります。申し立てがありますと、オンブズマンは、その申立人の方からよく事情を聞く、それと同時に県の担当者、それからその担当の課の課長補佐とか課長を呼びまして事情を聴取するわけであります。場合によりますと、やっぱり現場に行って見てくるということが非常に重要でありますので、私どもとしましては煩をいとわず現場に行って
調査をするようにいたします。その上で、
県民が申し立てているような県の
行政行為に適正でない点があったかどうか、それを判断するわけでありますが、その判断をする場合には、私どもは
県民の立場に十分考慮いたしまして、しかも
公平な見地から判断をする、こういうふうにしております。
その判断の結果として、県の
行政行為が適正でなかったというふうに考えますときには、県に対して直すように是正の申し入れをいたします。もし県がその是正の申し入れに従わないときには、オンブズマンとしては、この場合はこのようにすべきであるという
勧告を
知事に対していたします。オンブズマンから
勧告があったときには県は最大限の尊重をしなければならない、こういうことになっております。
そこで、お手元に差し上げております資料でありますが、「
宮城県
県政オンブズマン制度の
概要」というのを差し上げてございます。
オンブズマン制度についてのポイントはそこに書いてあります。
二つ目に、「
宮城県
県政オンブズマンの相談
状況について」というのを差し上げておりますが、これはできました
平成八年十一月からことしの八月末までの相談
状況についての数であります。
これについてちょっと御
説明いたしますと、「
苦情」という欄があって、その一番端の小計、それの一番下に六百三十五という数字が出ております。これは、
平成八年十一月から
平成十年八月まで、一年十ヵ月の間に
県民の方から寄せられた
苦情の総数が六百三十五件ということです。
その左の方に「相談(b)」で
対象内、
対象外とありますが、オンブズマンが扱えることと扱えないことがありますので、扱えることが
対象内、扱えないのが
対象外、そう考えていただいて結構であります。
対象内のことでありましても、相談をしてそれでいいと言って
県民の方が帰られる場合があります。それが百五十六とあります。そうではなくて、やはり
苦情申立書をきちんと出すということで、それを受け付けたのが百七十件でおります。
そのわきに(57)という数字が出ておりますが、これは、
宮城県も広いわけでありますからみんなが
苦情を県庁のオンブズマン相談室まで持ってくるというのは大変でありますので、
宮城県では大河原とか古川とか築館、迫、石巻、気仙沼、そういった六ヵ所の合同庁舎に
県政オンブズマン地方相談員というのを設けておりまして、そういう人たちがその近くの人たちの申し立てを受け付けるというシステムをとっております。そういうような
地方相談員を経由して私どものオンブズマンのところへ来たのが五十七件であります。これは百七十件の内数であります。
そういうことで、
苦情申立書を受け付けたのは百七十件、それでことしの八月までに処理が完了したのは百四十八件でありますので、八七%ぐらいの処理率であります。
その百四十八件のうちで、オンブズマンが
調査をして、それで申立人へ通知、回答をしたというのが九十六件。これは県の問題だと、例えば県道の問題だということで持ち出されたんですけれども、調べていきましたらこれは町道の問題だ、あるいは市道の問題だというようなことでオンブズマンとして処理ができないものもあるわけでありまして、結局オンブズマンとして
調査して回答したのは九十六件。その九十六件のうちで申立人の意向に全部沿ったというのが三十件、それから申立人の意向に一部沿ったというのが二十三件でありますから、合計いたしますと五十三件であります。九十六件の中で五十三件は申立人の意向に全部あるいは一部沿っている、すなわち五五%ぐらい、半分以上は申立人の意向に沿った回答になっております。
先ほど申しましたように、もしオンブズマンが県に是正を申し入れて県が従わなければ
勧告ということになるわけであります。この五十三件というのは県の方の行為が適正でなかったということですから、オンブズマンは県に対して是正を申し入れているわけでありますが、現在のところ、オンブズマンの申し入れには県は全部従っております。ですから、
勧告の例は今のところ一件もない、こういう
状況であります。
オンブズマン制度ができる前にも、もちろん
県民の方は県の行為について問題があると考えたときには不服を述べていくことはできたわけでありますけれども、そういう場合にはやっぱり県はあくまでも県の立場でまた判断をいたしますから、恐らくこういう五五%までの
県民の不服が認められるということはなかっただろうと。そういう点から考えますと、
オンブズマン制度ができたということで
県民の利益の救済にはかなり役立っているのではなかろうか、こんなふうに思っておるわけでございます。それが第一の
県民のための
利益救済機能。
それからもう一つは、
県民のための
県政改善機能であります。
これは、例えばAさんから問題が持ち出された、それで
調査して調べてみたらやっぱり問題がある、しかしこれはAさんだけの問題じゃなくてBさんあるいはCさんについても同じく問題になる、こういうような場合には
制度を改める必要があるわけでありまして、そういうときにはオンブズマンが
意見の表明を
知事に対してすることができるようになっております。オンブズマンから
意見表明が出たときには県はそれを最大限尊重しなければならない、こういうことであります。
それで、
意見表明としましては、ことしの五月に公共事業・土地収用について
意見表明をいたしました。それはお手元に差し上げてあります三番目の資料でありますが、「公共事業・土地収用をめぐる問題」。これは、一年半ちょっとやってみまして、
県民の方からの
苦情申し立ての中で公共事業に関する、特に土地収用に関するものが多かったものですから、それでこの際ひとつ
意見表明をしておこうというふうに考えたわけであります。
ここで書きましたのは、例えば公共事業で道路をつくる場合、道路
計画に当たったところの土地を持っている人あるいは建物を持っている人は動かなければならないわけでありますが、そういう場合にどうも県の人たちは、土木
関係の人も
県民のことを考えて注意しながらやっているようでありますけれども、なおかつやはりいろんな
苦情が来る。それはどこにあるのか。
それは憲法二十九条と
関係するわけでありますが、憲法二十九条では第一項で
国民の財産権の保障を定めております。財産権を尊重しなければいけない。しかし、近代の初めのように所有権絶対ということでありますと、いろんな公共事業もできなくなります。そこで二項で所有権者であっても公共事業のために
協力しなければいけないという規定がある。どうもその二項のことが非常に県庁職員の頭にありまして、
県民というのは当然公共の事業に
協力すべきだという考え方が出てくる。その財産権の尊重ということ。
それからもう一つ、公共事業に
協力する場合にも、今住んでいるところを移すということはもう
県民にとっては大変なことであります。新しい土地を探し新しい建物を探し、また今住んでいる家を新しいところへ移す、これはもう大変な作業で、それぞれ仕事などを持っている上にそれをしなきゃならなくなる。そうなりますと、道路ができれば大勢の人は便利になりますけれども、何人かの人が犠牲にならなければなりません。だから、そういう人たちのために憲法二十九条三項は正当な補償をするようにと言っているわけでありますが、どうも一項と三項が必ずしも十分に県庁職員の態度に出てこないものですから、いろいろトラブルが
県民との間で起こる。
だから、やっぱり憲法二十九条全体の構造をきちんと頭の中に入れて、そして
県民の立場に立って、みんなのために動く人の不利益を考えて、親身になって
県民のために県庁職員は考えて対応しなきゃいけないんじゃないかという総論的なことを書いて、そして、今まで問題が出てまいりました十近くの事柄を、だからこういうふうにすべきだということをここで言っているわけであります。
私どもの
県政オンブズマンの公式の
機能は、そういった
県民のための
利益救済機能と、それから
県民のための
県政改善機能でありますが、そのほかに隠れた
機能というものを幾つか申し上げることができると思います。
まず第一は、
県職員への
意識改善機能であります。
さっき申しましたが、申立人から申し立てがありますと、私どもは
県職員を呼びまして話を聞くわけでありますけれども、どうも聞いておりまして役人
意識の強い人がいる場合がある。そういうときには、私などはすぐに
地方政治の
あり方について話をするわけであります。
国の政治は民主主義で、
国民の
国民による
国民のための政治として行われる。それと同じで、
地方政治も
県民の
県民による
県民のための政治として行われるのである。
県民のというのは
県民が
地方政治の
あり方についての最終決定権者だということだと。しかし、
県民が全部
地方政治に関与するわけにいきませんから、代表者を選んで県議会でもっていろんなルールをつくる、これが
県民によるという
意味であります。
そして、そこの議会でつくられたルールに従って県の政治が行われる。その県の政治を行うために職員が県に雇われる。それはどういうことで雇われるのかというと、
県民のための政治をするために雇われるんだと。だから、県の職員は
県民のための政治をするために雇われているんだということを常に念頭に置かなきゃいけない。
では、
県民のための政治というのはどういうふうにするかといえば、これは
県民に親切に、そしていろんな場合に自分の目の前にいる
県民が、自分がもしその立場にいたら何をしてほしいと思うかということを常に念頭に置きながら、しかも全体の奉仕者でありますから、その角度から考えて判断していく必要があるんだ、こういうふうに言うわけであります。
私どもは、そういう
県職員の個別的な
意識改善ということが大事だと思ってやっておるわけでありますが、同時に県も今非常に職員の
意識改革の必要性を感じております。それで、私どもが一番
県民と接触しておりますので、その体験を通じて
県職員の
あり方について話をしてほしいということをいろいろ県が言ってきます。
それで、昨年の春は
知事、副
知事以下
部長クラスの二十何人にそういう職員の
あり方について話をいたしました。それから夏には、主幹クラスの人、二百人ぐらいでありますが、県の職員研修センターがありますので、そこでオンブズマンが二人で話をしました。それから冬には、六ヵ所に所長クラスの
会議がありますけれども、そこでもまた話をするようにということでいたしました。オンブズマンの体験からいろいろ
県職員の
あり方について話をしております。
そういうオンブズマンがいるということで、ほかの方から伺いますと、やはり
県職員の間にかなり県庁の中で緊張維持
機能が果たされていると。何かあればすぐオンブズマンのところへ来ますから、それでオンブズマンがすぐ対応しますので、何かあると大変だということで、かなり緊張維持の働きはしているということであります。
それから次に私ども考えておりますのは、
県職員への
情報伝達
機能ということでありますが、これはオンブズマンのできることとできないことがあります。できないことの場合でも、そういう
情報だけは県に流しておくということをしております。
例えば、こういう場合がありました。公立病院の正門の前にバス停があるんです。そこでもって病院の患者さんたちはおりて病院へ行くわけです。ところが、五、六分あるんですね。近所の人たちが、患者さんたちが夏はバス停でもってみんな座り込んでいる、それから雨の日は傘を差して困っている、だから何とかバス停の上に屋根をつけてあげられないだろうか、そういう申し立てがありました。しかし、これは
県民が自分の権利、利益を県の
行政行為によって侵害されているという場合ではありませんので、オンブズマンとしては扱えない。
しかし、これは県の方へ流そうということで
情報を流しておいたわけであります。そうしたら、それを見た県の職員が何とかしてあげようということで、すぐに県の病院管理課だとか、それから病院、さらにバス会社と話をしてくれまして、結局そのバス停にバスがとまってから、今度は病院の正門の中へ入って本館まで行って、本館の前にバス停をつくって、患者さんたちが乗りおりできるようになった。それでまた正門を出てもとのルートに戻る、去年十月から新しいルートができたわけであります。
こういうようなことは、オンブズマンが投げたボールをうまく県の職員がキャッチしてくれまして、連係プレーでオンブズマンのできないことをしてくれたという例であります。
県庁の中にも、
県民のための政治をしなきゃいけないということを随分考えている職員もいますし、さっき申しましたように、
県職員の
意識改善もいろいろ図ってきておりますので、この連係がうまくいくようになりますと
地方政治もよくなる、
県職員が
県民のためにやってくれれば
県民と県との間のトラブルも少なくなる、すなわちオンブズマンが本来しなければならないような権利、利益の救済
機能についても予防的な働きをすることになるだろうと。ですから、そういう
意味で私どもは隠れた
機能も重要だというふうに思ってしておるわけでございます。
ちょっと時間を超えておりますが、
参議院行政監視委員会の方への注文というのもございましたので項目だけ申し上げますと、せっかくこういう
行政監視委員会というのができましたので、これが大いに
利用されるようになることを私も望みたいと思います。その場合に、
請願ということになりますと、これは
国会法との
関係で
参議院議員二人の推薦とかいうようなことがあるようでございますが、なかなか
参議院議員の方を二人探すというのも大変なことで、使われるためにはひとつ簡易な
申し立て方法ができるといいのではないかと。
それから二番目には、
国家公務員に対する
意識改善、後でいろいろ送っていただいた
情報によりますと、
国家公務員による
不祥事の
再発防止に関する決議というようなものをしておられます。これは大変結構なことだと思いますので、この線でひとついっていただきたい。
それから同時に、
参議院の
行政監視委員会をステップにして国の
オンブズマン制度の方へ結びつけていただけるとありがたい。御存じのように、スウェーデンから北欧、そして西ヨーロッパ、北米、さらにアジア太平洋圏と国の
オンブズマン制度が発展しておりますけれども、日本にはないわけでありますから、ぜひこれもひとつつくるように、
参議院行政監視委員会がステップになって発展するようなことになれば大変結構だと、そんなふうに思っております。
ちょっと時間を超過して、失礼いたしました。