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参考人(神田秀樹君) 神田でございます。
本日は、本
特別委員会において
意見を述べさせていただく
機会をいただきまして、どうもありがとうございます。
私は大学の法学部というところに籍を置いておりますので、本
特別委員会で審議の対象となっております十二の法案のすべてについて十分間で
意見を申し述べるということが期待されるのかもしれませんが、何分これらの法案をいただきましたのは昨日のことでありまして、それまでは新聞などを読んでいたにすぎません。そして、一晩で十二の法案のすべてを勉強しようと心がけてみたんですが、申しわけないことにできませんでした。そこで、法案をざっと読ませていただきまして、また本
特別委員会御担当の調査室がおつくりになりました資料をざっと拝見した程度の
状態であります。まことに恐縮ではありますが、そういう
状態のもとで私の
意見をごく簡単に述べさせていただきます。
なお、御審議の法案は十二本に上り、それぞれの法案の名前を覚えようと思ったんですが、大変ややこしいものですから、法案の番号で呼ばせていただきます。
私の見るところ、我が国の現在の状況はせっぱ詰まっております。何がせっぱ詰まっているかと申しますと、それは極端な言い方をしますと、後から振り返ってみると多少間違っていたと言われるかもしれないにしても、今は思い切った行動をしなければならない、そして思い切った行動をするかどうかが全世界の注目を浴びているということだと思います。したがいまして、思い切った
法律の制定と、制定した
法律の実行とを速やかにやっていただきたいというのが私の
意見であります。
その
意味で、
一つ一つの法案につきましては細かい点まで検討しておりませんが、あるいは私
自身、個々の点につきましては多少異なった
意見を持つ部分があるかもしれませんが、あえて大ざっぱに申し上げますと、例えば衆第一号から衆第八号までの八つの法案、こういうようなものを速やかに成立させ、かつ速やかに実行に移していただくのが現
時点ではベストではないか。そして、それで不都合がもし出てきたような場合には、またその
時点で必要な修正などをして対応するというのが適切ではないか。すなわち、現
時点ではとにかく
法律をつくって行動に移すということが一番必要ではないかと感じます。
もう少し具体的に申しますと、私の
意見は四点あります。
第一に、明確なルールに基づいた
金融機関の破綻
処理のための枠組みをつくって速やかに実現に移してほしいと思います。
第二に、
法律をつくっただけでそれで解決という生易しい話とは私には到底思えません。つくった
法律によるスキーム、すなわち破綻
処理を実際にうまく実現してほしいということであります。
第三に、金融問題を
処理することは我が国の
経済にとって喫緊というか、超緊急とでも申しますかの
課題であるだけではなく、世界の金融及び世界の
経済にとっても超緊急の
課題であり、今回の
法律制定は、今後予定されるいわゆる破綻前の
処理に関する
法律制定とあわせて、世界に通用するものでなければならないということであります。
第四に、必要な場合には思い切った
金融機関の国有化や
公的資金の投入をしてしかるべきであると思います。
以下、簡単に敷衍して申し上げます。
第一に、明確なルールに基づいた
金融機関の破綻
処理のための枠組みをつくって速やかに実現に移していただきたいと思います。明確なルールとは何かという問題がありますが、衆第五号の法案の第三条に掲げられている破綻
処理の六つの原則、こういうもので十分だと私は思います。
法律的にはこの法案のような形で、減資ですとか営業
譲渡といったことについて商法の特例を設けるのはぜひ必要なことと思います。
第二に、
法律をつくりさえずればそれで問題は解決するというのであれば簡単なんですが、問題はそうではありませんで、つくった
法律を実行に移して、それが成功をおさめなければならないということであります。その
意味で、衆第五号等の法案の言葉で申しますと
金融再生委員会ということになりますが、そういう組織が本当に独立して破綻
処理を果敢に行うことができるような環境を速やかに確立していただきたい。そして、つくった
法律を速やかに実行に移していただきたいと順うわけであります。
法律をつくるときには、とかく
金融再生委員会のような組織の
法律上の位置づけですとか権限などに目が行きます。それももちろん非常に重要なことではあります。しかし、それと同じに重要なことは、
法律を動かすのは生身の
人間であるということであります。つまり、十分なスタッフがいないと
法律は動きません。
聞くところによりますと、
金融監督庁は、特にマンパワーと申しますか、そういう点で新しい職務といいますか、激務と言うべきかもしれませんが、と緊張とで既に限界状況にあるように感じます。実際に
現場で仕事をする人々のこともよく考えていただければと思います。つまり、集中的に破綻
処理をするのであれば、一時的な話であるわけですから、思い切って人と予算とをつけていただきたいと思います。さもないと、どんなに立派な
法律をつくってもそれを動かすことができない。その結果、結局失敗に終わり、世界的にも恥をかくことになることは目に見えていると思います。
アメリカは、御承知のように、一九八〇年代の金融
危機に対処するために一九八九年に思い切った
法律をつくりました。それを実行に移し、実際にその効果が出たのは一九九二年であります。つまり、
法律をつくってから三年間かかったわけであります。このように
法律はつくればそれで問題解決というわけにはいきません。この点を特に強調させていただきたいと思います。
衆第五号法案から衆第八号法案までと、参第一号法案から参第四号法案と呼ばせていただきますが、これらはいずれも
金融機関の破綻
処理のかなめとなる
法律的な措置を提案するものと拝見いたしました。いずれも、私の
意見の第一点であります明確なルールに基づいた
金融機関の破綻
処理のための枠組みをつくって、速やかに実現に移してほしいという観点からは十分評価できると思います。
ただ、まだよく検討しておりませんのであれですが、どちらかといえば私の
意見の第三点及び第四点、すなわち世界に通用する措置であるべきことと、思い切った国有化や
公的資金の投入もやるべき場合があるということから申しますと、衆第五号から衆第八号までの法案を成立させる方が望ましいように感じます。
また、衆第一号法案から衆第四号法案までについて簡単にコメントさせていただきますと、第一号法案の方は
債権の
回収についてそれを担当できる機関をつくろうとするものですが、法治国家におきまして実際に
債権の
回収が円滑にできないというのでは話になりません。したがいまして、このような
法律はぜひつくって、かつ実行してほしいと思います。
また、衆第二号から衆第四号までの法案について申しますと、
法律というのは世の中の役に立つために存在するはずのものであります。それが使えない、あるいは使いにくいというのは、大変に困ったことと申しますか先進国として恥ずかしいことだと思います。これら
三つの法案は現在の民法や民事執行法その他の
法律の使いにくいところを改善しようとするもので、これもぜひ実現していただきたいと思います。なお、
法律家として、国有化ということについてちょっと一言だけ申させていただきますと、国有化というのは
法律家の言葉で申しますと収用であります。収用というのは、私人の財産を強制的に、強制的と申しましても
法律に基づいてということですが、取り上げるということであります。その場合には、憲法にもありますように正当な
目的と正当な補償とが必要になります。
今回の国有化スキームはこれらの要件を満たしていると私は思いますが、特にそのような収用をする際には、もう
一つ正当な手続ということにくれぐれも留意していただきたいと思います。
土地収用法という
法律がありまして、その
法律は手続規定だけでも物すごい数の条文があります。これはあるいは多過ぎるのかもしれません。しかし、手続は重要でありまして、
法律家の言葉で申しますと手続的整理などと言っておりますけれども、そういった配慮は法治国家の基本中の基本であると思います。
国というのは権力であります。収用に当たっては正当な手続を保証してほしいと思います。
金融機関の場合で申しますと、財産の収用と申しましても、
債務超過であれば、例えばその株式はゼロまたはマイナスではないか、したがってゼロまたはマイナスで収用していいではないかとお感じかもしれませんが、問題は、だれがどうやってそれがゼロあるいはマイナスだということを判定するのかということであります。収用する者が自分で判定して、あなたの財産の価値はゼロあるいはマイナスですから、ゼロまたはマイナスでいただきますと言うのは、
法律家から見ると問題であります。つまり、正当な手続を踏んで行う必要があるということであります。このことは、一言で申しますと、そういう手続の中で不満があるものについては裁判所へ行くなどのいわゆる手続的保証などと言っていますけれども、そういう配慮をしていただきたいと思います。
最後に、私は
法律家として、今回の各法案の中では、新聞等で華やかに論じられている点よりも地味な点と申しますか、現在の民法や商法などの使いにくい点について特例を設けるという点にむしろ注意が行きます。
私は、我が国は明治以来、立派な民法や商法といった基本法をつくり上げてきたと思っておりますが、今回のような
緊急措置をやろうといたしますと、こういった
法律がそのままでは使いにくい面があるということが出てくるような気がいたします。繰り返しになりますが、
法律は使いにくいのでは話になりません。使われるためにあるわけであります。使いにくい点は速やかに改善して、我が国をもっと
法律が使われる国、すなわち法治国家にして、
法律面でも先進国の仲間入りをさせていただきたいと思います。
その
意味で、よく行革という言葉が使われるのに、法革という言葉が使われないことに私は不満を持っております。我が国は今後、
司法制度の大改革を含めた法革をしなければなりません。そういう
流れは必然だと思います。そういう
意味でも私は、今回の金融問題関連の思い切った
法律の制定と実行についての
皆様方の御努力に大いに期待をさせていただきたいと思います。
以上で私の
意見陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。(
拍手)