運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1998-09-30 第143回国会 衆議院 科学技術委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十年九月三十日(水曜日)     午前九時四十分開議 出席委員   委員長 大野由利子君 理事 河本 三郎君    理事 河村 建夫君 理事 山口 俊一君    理事 中谷  元君 理事 吉田  治君    理事 辻  一彦君    理事 菅原喜重郎君       飯島 忠義君    江渡 聡徳君       奥山 茂彦君    木村 隆秀君       田中 和徳君   三ッ林弥太郎君       村岡 兼造君    望月 義夫君       近藤 昭一君    佐藤 敬夫君       鳩山由紀夫君    近江巳記夫君       吉田 幸弘君    吉井 英勝君       保坂 展人君    中村喜四郎君  出席政府委員         科学技術庁長官         官房長     興  直孝君         科学技術庁研究         開発局長    池田  要君  委員外出席者         参  考  人         (財団法人千里         ライフサイエン         ス振興財団理事         長)         (科学技術会議         生命論理委員会         クローン委員         会委員長)   岡田 善雄君         参  考  人         (大阪府立成人         病センター総         長)         (学術審議会特         研究領域推進         分科会バイオサ         イエンス部会ク         ローン研究にお         ける新たな論理         的問題等に関す         るワーキンググ         ループ主査)         (厚生科学審議         会会長)    豊島久真男君         参  考  人         (上智大学法学         部教授)         (財団法人地球         環境戦略研究機         関理事長)   森嶌 昭夫君         参  考  人         (近畿大学農学         部教授)    角田 幸雄君         科学技術委員会         専門員     宮武 太郎君     ――――――――――――― 委員の異動 九月三十日  辞任         補欠選任   中西 啓介君     吉田 幸弘君   辻元 清美君     保坂 展人君 同日  辞任         補欠選任   吉田 幸弘君     中西 啓介君   保坂 展人君     辻元 清美君     ――――――――――――― 九月二十九日  原子力防災に係る特別措置法の制定に関する陳  情書外一件  (第一四六号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  生命科学に関する件(クローン問題)      ――――◇―――――
  2. 大野由利子

    大野委員長 これより会議を開きます。  生命科学に関する件、特にクローン問題について調査を進めます。  本日は、本件調査のため、参考人として財団法人千里ライフサイエンス振興財団理事長科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会委員長岡田善雄さん、大阪府立成人病センター総長学術審議会特定研究領域推進分科会バイオサイエンス部会クローン研究における新たな倫理的問題等に関するワーキンググループ主査厚生科学審議会会長豊島久真男さん、上智大学法学部教授財団法人地球環境戦略研究機関理事長森嶌昭夫さん及び近畿大学農学部教授角田幸雄さん、以上四名の方々に御出席いただいております。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ、また大変遠路はるばる関西の方から来ていただきました参考人の方もいらっしゃいますが、本委員会に御出席をいただきまして、大変ありがとうございます。  クローン技術現状と展望について、またヒト個体への技術適用可能性及びその実施の是非について、世界的な議論が巻き起こっている大変関心の高い問題でございますが、きょうは皆様方に忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。  なお、議事の順序でございますが、岡田参考人豊島参考人森嶌参考人角田参考人順序に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えいただきたいと存じます。  また、念のため申し上げますが、御発言はすべてその都度委員長の許可を得てお願いいたします。なお、委員に対しては質疑ができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。  それでは、まず岡田参考人にお願いいたします。
  3. 岡田善雄

    岡田参考人 このような機会を与えていただきまして本当にありがとうございました。委員長初め委員方々に厚く御礼を申し上げます。  それでは、座って話してもいいということのようですから、座って話させていただきます。  まず、クローン問題に関する取り組みについての経緯からお話をさせていただきます。  昨年二月の終わりにクローン羊が発表されてから一週間たちました三月の七日に、文部省学術審議会が、科学研究費助成金につきまして、ヒトクローン課題採択差し控えというものを決定いたしました。さらに三月二十一日に、科学技術会議政策委員会が、ヒトクローン作製に対する政府資金配分差し控え決定、各省庁は関係研究機関に対する周知徹底を行うということをやっております。  引き続きまして八月十三日に、科学技術会議は「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」の中で、ヒトクローンに関しては現行の決定を当面継続するとともに、法的規制必要性など具体的な方策については議論を尽くして行うべきであると答申をいたしました。  これを受けまして九月の二十五日に、科学技術会議生命倫理委員会が設置されました。この委員会のもとに、本年に入りまして、一月十三日、クローン小委員会が設置されまして、クローン問題について専門的検討に入りました。そして本年六月十五日に中間報告を公表いたしまして、以後、各方面からの意見募集を開始して現在に至っているということであります。  皆様方のお手元に、この中間報告、「クローン技術に関する基本的考え方について」というのが御配付されておると思いますけれども、これの構成は、表紙を一枚めくっていただきますと、「Ⅰ、クローン技術をめぐる最近の動向」それから「Ⅱ、クローン技術可能性に関する評価」「Ⅲ、規制に関する検討」「Ⅳ、情報公開」「Ⅴ、用語の定義」という形でつくり上げられておりまして、このⅠの最近の動向に関しての各国の対応は、時間がありましたら後で触れさせていただきたいと思います。  すぐにⅡの「クローン技術可能性に関する評価」というあたりから、この中間報告中心にしてお話をしていきたいと思います。  五ページを開いてください。  「クローン技術可能性に関する評価」、これは二つに分かれておりまして、一つヒト以外、それからもう一つヒトということに分けて書いてあります。  ヒト以外の場合は、これはこの後角田参考人の方から詳しくお話があると思いますけれども、結論といたしましては、産業、研究の両面において非常に高い有用性を持つと評価してあります。  ヒトの場合に入りますと、これは六ページを開いてください。これがこの中間報告の、ヒトの場合は中心になるわけでありますけれども、クローン技術評価に関しまして、ヒト発生過程におけるゲノム、遺伝子の修飾などに関する科学的研究とか、あるいは不妊治療への応用等医学的研究に用いることが考えられますけれども、このうち、科学的研究への適用につきましては、現時点では、ヒト以外の動物細胞を用いることにより必要な研究が十分に実行可能であるということから、ヒト細胞を用いて行う必然性に乏しく、あえて実施するだけの有用性はないと評価してあります。  また、医学的な応用につきましても、生まれてくるヒト個体の安全な成長が保証されるだけの科学的知見がないという意味で実用的な技術とは考えられず、あえて実施するだけの有用性はないと判断しております。  次の(2)、(3)は、本題から外れますので、御質問があれば後でお答えいたしますけれども、今は外させていただきます。  そして(4)、七ページでありますが、これがいろいろな議論対象にもなっているところだと思いますが、胚移植を伴う移植用クローン臓器作製という問題であります。  これは、現時点では、ヒト個体あるいはそれに近い体を産み出さずに特定臓器のみをこの方法で生産することは技術的に可能性がないと評価されます。したがって、ヒト個体を産み出す場合と同様に有用性を考慮し得る技術的状況にはないと評価してあります。  こういう評価のもとで、八ページに移りますけれども、規制に関する検討が述べられております。  まず、この技術適用に関しまして、科学的な意味合いといたしましては、無性生殖の道を開くものであって、父母の染色体の組み換えが起こらず遺伝的形質が核の提供者と同一となるということ、その結果として、産み出されるヒト表現形質が相当程度予見可能であるということ、この予見可能であるということから、特定表現形質を持つヒトを意図的に複数産み出すことが可能であるということが科学的視点から指摘されます。  これを踏まえまして、人の尊厳確保観点から問題点があるという提起がしてあります。すなわち、動植物の育種と同様に、特定目的の達成のために特定の性質を持ったヒトを意図的につくり出す人間育種に当たり、人間手段化道具化に道を開くものであるということ。また、無性生殖ということでありますので、男女両性かかわり合いの中で子供遺伝的形質が偶然的に定められるという、人間の命の創造に関して日本人の共有する基本認識から著しく逸脱するものであるということであります。また、不妊治療等のための技術ととらえた場合でありましても、ヒト育種手段化道具化との側面を否定できない上、日本人が共有する人間生殖基本認識をも大きく侵すものである。さらに、一般人たちが自分の遺伝子を将来に残したいと願う場合には、上記にも増して人の尊厳性確保のことに関しての問題点が大きいということを述べてあります。  さらに、安全性の問題がありまして、九ページでありますけれども、正常の受精に比較して、高頻度障害児が生まれたり、成長過程障害発生する可能性を否定できない現状では、生まれてくるヒト個体安全性確保を保証できず、このような状況下クローン技術適用することには問題があるとしてあります。  さらに、(2)でありますが、クローン技術一つの特徴といいますのは、高度の施設や巨額の資金を要する巨大技術と異なりまして、比較的容易に実施し得る技術であります。現時点ではその実態は存在しておりませんけれども、近い将来問題が現実化する可能性があるということが考えられます。したがって、人の尊厳安全性の両方の観点から、ヒトクローン個体が生産されることを禁止するのが妥当であると述べております。  (3)では、こういう規制をやるにしても、研究者研究の自由を束縛するということにはつながらないであろう、それから(4)では、この規制に関しては国際的な協調をやらねばならないということ、それから(5)では、どこを規制するかという問題に関しまして、現在の科学的知見では、ヒトの胚は母体に着床させない限り出生、成長する可能性がないということでありますので、ヒトクローン胚母体への胚移植禁止対象とするということが適切であると述べているわけであります。  そういうふうな判断のもとで、次に、規制の形態の問題が十ページに書いてあります。  ここで、①のところですけれども、法令に基づく規制から自主的規制のところまで、例として五つが挙げてありますけれども、少なくとも上の二つ、国によるガイドライン設定以上の公的な規制を行うことが適切である。ただ、この上の二つのいずれの方法が日本の社会にとって適切なものであるかは、体外受精なとの生殖医療技術法律により規制されていないこととのバランスの問題とか、一方では科学者や医師に対する国民信頼感の問題にも関係することでありますので、社会各般考え方を的確に把握した上で最終的に判断すべきであるとしてあるわけであります。  さらに、規制をするにしても、規制一つの時限を設けた方がいいであろうという判断が述べられております。結局、将来この技術に対する国民の意識やその規制あり方をめぐる状況が変化する可能性がありますので、現時点では、恒久的な規制ではなくて、知見が相当程度蓄積された期間と考えられる五年程度の時限的な規制として、その間に規制あり方についてさらに検討することが適切であろうということであります。  これが大体の骨子でありまして、現在、この中間報告をもとにいたしまして、各学会それから有識者の方々を含めいろいろなところから意見を聴取させてもらっているという状況であります。これを集計いたしまして、その意見も含めて最終報告へ向けて整理をしていきたいと思っているところであります。  私の発言はこれで終わらせていただきます。
  4. 大野由利子

    大野委員長 どうもありがとうございました。  次に、豊島参考人にお願いいたします。
  5. 豊島久真男

    豊島参考人 豊島でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  座って説明させていただきます。  私からは、文部省学術審議会におきます審議状況の御報告と、それから、一般医療関係の方からの、どういう感じを持っているかということについての御説明になるかというふうに存じます。基本的な方向といたしましては、ただいま岡田参考人の御説明にあるのとほとんど同じラインでございます。  文部省クローン等にかかわる委員会におきましては、本年の一月二十日に学術審議会の方に中間報告を出させていただきました。さらに、七月に学術審議会としての報告を出すと同時に、八月三十一日付で文部省から自主規制に関する通達を各大学及び研究機関に出したところでございます。  それで、クローンに関する認識でございますけれども、まず、クローン研究の背景といたしましては、平成九年にイギリスロスリン研究所研究グループが、皆様御承知のように、乳腺細胞由来体細胞核移植によりましてクローン羊をつくったということで、世界的な注目を浴びました。このときに、思いもかけない状況であるという反響が一部には起こりましたけれども、かなりの研究者の間では、これは一応予期されたことの中の一つの現象であるという感覚がございました。  と申しますのは、一九七〇年に既にアフリカツメガエルのオタマジャクシの腸上皮を用いましてクローンカエルがイギリスガードン博士によってつくられていたわけでございます。それが哺乳類で非常に難しいということは皆様認識にあったわけでございますが、これは技術上の改良の問題であって、技術上の改善がされた暁にはそういうことはできるだろうという基本的な考え方がございました。それが現実になったという感覚を持っている者が非常に多かったわけでございます。  次に、クローン研究意義と新たな問題点でございますが、これは後ほど角田参考人からいろいろ御意見あるいは現状の御説明があると思いますので、簡単に申させていただきますが、畜産分野におきましては、現在まで育種ということが非常に大きなポイントになってまいりましたし、育種によって人類に対する非常に大きな生産の進歩がもたらされてきたわけでございます。その成果は着実に現在実用化されておりまして、核移植クローンというのは初めてでございますけれども、全体としての育種及びクローンということに関しては着実に進歩いたしております。  それからまた、畜産を除きまして学術研究分野におきましても非常に大きな意義がございます。これは、種間の違いあるいは種において発生あるいは分化というのがどのようにして起こってくるかということに関する根本的な研究面におきましては、このクローン研究というのは非常に大きな意義を持っているということでございます。  それから、次に、ヒト個体作製に関しましては、後ほどまた触れますけれども、基本的には、今岡田参考人の申されましたように、社会的な考え方と非常にそごしているということがございました。  それから、次に検討いたしましたのは、各国におけるクローンに対する対策問題でございますが、西欧諸国におきましては、一般的には、従来からの規制あるいは新たな規制によりましてクローン研究禁止しているところが多いということでございます。アメリカにおきましても、クローン研究に対する国の費用を出さない、配分しないということを決定しておりまして、その後、法案の上程をいたしておりましたが、最近になって上院においてその法案を否決されたというふうに私どもは聞いております。それから、ユネスコその他におきましては、やはりこれは禁止するべきであるということを言及されたということでございます。  それを踏まえまして、文部省学術審議会グループといたしましてはどのように対応するべきかという議論になりました。ヒト細胞を扱っている頻度が一番多く、しかも研究が進んでいるという面では、大学及び研究所関係というのはクローン問題に関しては一番近いところに位置しているという認識でございまして、したがいまして、できるだけ早くこれに対応するべきであるという考え方が出ました。まず、先ほどこれも岡田参考人の申されましたように、最初に国の費用を配分しないということを決めたわけでございますが、それに続きまして、先ほど申しましたように、本年に至りまして自主規制というのをつくったわけでございます。自主規制につきましては、また後ほど簡単に触れさせていただきたいと存じます。  それで、ヒトクローン個体作製がもたらす社会への影響懸念ということでございますが、これに関しましては、社会全体に対して、個人、家族、社会あり方というものに対して、もしヒトクローンがつくられましたならば、望まざる影響を与えるのではないかという懸念を生むとともに、子供遺伝情報をあらかじめ親が決定できるということに由来する新たな議論が提起される、さらに、優生学上の思想が悪用されるおそれがあるということも指摘されております。  ただ、もう一つ違った面での議論は、人格の複製に関連し、ヒト人格というのは必ずしも遺伝子型のみによってすべて決定されるわけではなく、その後の個人の違いというのが出ますので、クローン個体であっても必ずしも完全に同じパターンの人間ができるとは限らないということも、これも科学的にはポイントとしては明らかなことでございます。  大学における研究というのは、研究の自由を原則としつつも、社会における文化活動の一部であり、研究者自身による倫理的、社会的責任の自覚と厳しい自主規制のもとに行うことが重要であるという認識のもとに、自主規制案をつくることになったわけでございます。自主規制に当たっては、個人プライバシー研究者個人プライバシーの尊重や研究にかかわる独創性知的所有権の保護といったようなことに配慮を行いつつも、情報をできるだけ開示するということが必要であるということで一致いたしました。  次に、ヒト個体への応用でございますが、ヒト個体への応用可能性については、あくまで理論上の問題であって、先ほどこれも岡田参考人から申されましたように、現在の時点におきましてはヒトへ利用できるほど安全な技術としては開発されていないという認識でございます。したがいまして、仮に倫理的に許されたとしても、克服するべき種々の安全性の問題が存在し過ぎるので、現時点においてはそういうことに着手するべきでないというのが一致した見解でございます。  実際問題として、それでは理論上あるいは現時点において考えられるクローンの問題と、ヒトとのあるいはヒト医療その他に関するかかわり合いというようなものはどういうものがあるかということでございますが、一つは、これは畜産分野においてはもう既に行われておることでございますが、核移植を伴わないクローンの問題がございます。これは、有性生殖によってできてまいりました受精卵発育過程におきまして分割して幾つもの個体をつくるという形のクローンでございます。これは、産婦人科領域におきましては深刻に議論されているものの一つでございますが、現在の核移植によるクローンとは立場が違うということで、一応先送りさせていただきたいということになっております。  それから、もう一つの問題は、受精卵から他の除核卵細胞への核移植技術を用いて、それではほかの手段では治せない病気に対するアプローチができるかどうかという問題でございます。これも理論的には、ミトコンドリア病という、核ではないミトコンドリアの方にある遺伝子の関連した遺伝病というのがございまして、もしもうまくいきますならば、受精卵から新しい別の除核卵核移植をすることによりまして、母親がミトコンドリアに異常を持っている、ミトコンドリア遺伝病を持っている家系での遺伝病を予防する可能性があります。しかし、これはあくまで理論上のことでありまして、動物実験におきましても、まだまだ研究が進行しないとこのようなことは行えないというのが現在の認識でございます。  次に、これは、先般アメリカの報道で出ました、核移植の技法を用いて発生させる核の遺伝子の操作によりまして、個体でなく特定臓器あるいは組織のみをつくるという技術開発がございます。しかし、これも岡田参考人の申されましたように、こういう技術がまともな状況でできるとは考えられません。そういうことによって、現時点においては、やはりこれを禁止するべきであるというのが皆の一致した意見でございます。  以上、いろいろくどくどと申しましたけれども、そういう全体の認識に立ちまして、現在においては、核移植によるヒトクローン個体作製について、自主規制によりまして、とりあえずそれを文部省関係大学及び研究機関におきましては禁止するという方針になったわけでございます。  その禁止規制の概要でございますが、ヒトクローン個体作製目的とした研究あるいはヒトクローン個体作製をもたらすおそれのある研究は行わないということをまず規定しております。それから、ヒト体細胞核除核卵細胞への移植は行わないということでございます。それから、疑義のある場合は文部大臣に確認するということでございます。それから、この自主規制に関しましては、今後の研究の発展を踏まえまして本指針を見直す、もし見直しがないままに三年以上経ました場合にはこの指針を見直す討議を必ず行うということを基本にいたしております。  以上、文部省における検討事項を主体にして御説明させていただきました。  以上でございます。
  6. 大野由利子

    大野委員長 どうもありがとうございました。  次に、森嶌参考人にお額いいたします。
  7. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 御紹介いただきました森嶌でございます。  本日は、陳述の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。  それでは、座って陳述させていただきます。  私は、先ほどの岡田参考人委員長をなさったクローン小委員会委員をしておりまして、そして委員会の中では比較的数の少ない法律学からの参加者でございましたので、本日は、法律学というよりも、その意味では法律学全体がそういう意見だということではありませんけれども、法律学者としての私の私見を述べさせていただきたいと思います。  まず最初に、先生方に申し上げるまでもないことですけれども、現在の自由主義社会では、人は、他の人をその意思に反してコントロールするということは許されておりません。すなわち、人は、他の人の生命、身体などの人格的利益ないしは権利を侵すことはできないとされているわけであります。すべての人が自由な人格を享有する権利を持っているわけであります。これも先生方に申し上げるのは釈迦に説法でございますけれども、日本国憲法十三条にも、すべての国民個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に対する権利を持っている旨が規定されているところであります。  ところで、自己決定ということを最近あちこちで聞くわけでありますけれども、この概念でありますが、それは、自分の利害にかかわることについては最終的に自分の意思によって決定をするということでありまして、科学者であれ何であれ、他人がその意思を侵してその個人の利害を左右することはできないということをあらわしているわけであります。  また、医療の世界で最近インフォームド・コンセントという言葉が広く流布しておりますけれども、これは、患者を治療するという目的であっても、医師が患者に病状や治療方法について十分に説明し、患者がそれを理解し同意しなければ違法となるということでありまして、医療目的であっても、医師は患者の身体に対して、侵襲と申しますが、手術などをすることができないということになっています。  今から五十年ほど前に、ナチスの人体実験に対する裁判がございまして、ニュルンベルク裁判と申しますが、そこにおいて、人体実験と申しましょうか、人体にかかわる医学研究に対する倫理綱領としてニュルンベルク綱領というものが宣言されておりますけれども、その中には、医学研究の際に守るべき規範として、被験者、実験を受ける者の自発的な同意が実験の絶対条件であるということが明記されているところであります。  このニュルンベルク綱領を受けまして、後に、一九六四年に世界医師会総会でヘルシンキ宣言が採択され、さらに一九八一年には、いわゆるリスボン宣言と言われる、患者の権利に関する宣言が世界医師会総会で採択をされ、最近ではまた、一九九四年に、ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言が出されておりますが、これらにおいて、すべての人の自己決定権、そしてプライバシーの尊重がうたわれているところであります。  そこで、本題でありますクローン技術でございますが、クローン技術によるヒト個体の産生、ヒト個体を産み出すということにつきましては、受精発生初期の細胞を使うクローン技術にせよ、成体の体細胞を使うクローン技術にいたしましても、クローンにおきましては、それによって産み出されるヒト個体の運命を科学者が支配するということになります。産み出される前の胚はもちろん自己決定をする意思を持つことはできないわけでありますけれども、少なくとも、科学者の立場に立ちますと、科学者が他人の生涯を左右することになるわけでありまして、科学者といえども、他人の意思にかかわりなく、生まれてくる個体の意思にかかわりなくその生涯を決定をする、つまり遺伝子を選択をするということは許されないというふうに思います。  なお、自然の生殖過程によって生まれる場合であっても子供は別に自分の意思で生まれてくるのではないのではないかという反論もあるかと思います。確かに、自然の生殖の場合に子供の意思がかかわっているわけではありませんけれども、他方で、子供が生まれるということについては人の支配能力を超えた自然的な過程が関与しているわけでありますから、いわば同じ人間が他の人間を支配するというのでなくて、そうした自然的過程によって産み出されるものでありますので、このことが、自然の生殖子供尊厳を侵害するということにはならないとは思いますけれども、科学者が同じ人間である個体遺伝子を選択し、そしてまた、先ほどお話もございましたように、安全性に関するリスクがまだ確認されていない状況で、もしも今実行するとすれば、そのリスクもその生まれて出てくる個体に負わせるということになるわけでありますから、私は、ヒト個体を産み出すクローン技術は、ちょうど他人を奴隷にするとか自由を拘束するということに似て、あるいはそれよりも増して重大な、個人、この場合には生まれてくる個体でありますけれども、個体尊厳を害するということになると思います。  さらに、遺伝子というのは、これはすぐれて個体プライバシーに属するものでありますから、それを科学者がコントロールするということになり、少なくとも現在の社会体制のもと、あるいは現在の政治思想、法律思想のもとでは許されるべきではないというふうに考えております。  先ほど岡田委員の方から御紹介がありましたが、この小委員会においても、今までクローン技術に関して各国がどのように対応しているかということについてはこの中間報告の二ページ以下に書いてございますけれども、いずれも、現在、フランス、イギリス等においては既存の法律あるいは新しい法律によってこれを禁止するということをしております。このような動向から考えまして、少なくとも今我々が生きている自由主義社会においては、個人尊厳を害するクローン技術ヒトヘの適用は、科学の名においてであれ認められるべきではないというのが私の考え方でございます。  そこで次に、それではそれを禁止するといたしまして、どのような方法によるべきかということでございます。  自己決定個人尊厳の基礎に据えているということを先ほど申しましたが、そのような思想は、自己決定という意味では、歴史的に見て比較的新しい考え方とも言えます。その意味では絶対的なものとは言えないかもしれませんけれども、少なくとも現在の社会において最も重要な倫理的な価値であります。  倫理性を持っているという点がまず第一でありますが、そこで、そのような価値をどのような手段によって守るかということでございます。  中間報告の十ページには、規制の形態ということで、(6)①のところで、法令に基づく規制、国によるガイドラインによる規制、国による研究資金配分の停止の規制、学会等によるガイドラインによる自主的規制、個別の医療機関等における倫理委員会審査等による自主的規制、これらが掲げられておりまして、中間報告において小委員会としてはまだ結論が出ていないところでありますので、私がこれから申し上げることは私の考え方であるというふうに御理解いただきたいと思います。  まず、先ほどお話がございましたように、このヒトクローン技術はまだ十分に発達しておりません。しかし他方で、これは巨大な装置などを必要とするものではありませんので、そこで、試みようと思えば試みることが不可能ではありません。  確かに科学者による自主的規制ということは非常に望ましい形態でありますし、倫理的に見てもそれによって科学者が自制されることが望まれるわけでありますけれども、一方で、違反があった場合にどういうことが起きるのだろうかということを考えますと、安全性ということも含めて考えた場合に、一つは、仮に違反があって、そしてヒト個体クローン技術によって産み出されたという場合に、その被害は、個人尊厳の侵害、プライバシーの侵害という観点から考えまして極めて重大であります。さらに、その被害が回復可能かということを考えてみますと、クローン技術によって決定された遺伝子を持った個体あるいは実験によって遺伝子障害を受けた個体が生まれてきた場合に、その回復ということは不可能であります。少なくとも今の時点では不可能であろうかと思います。  そこで、被害の重大性、回復の不可能性という観点から考えた場合に、このようなクローン技術によるヒト個体の産生ということは、禁止をするに当たっても違反がないような禁止をするというほかないわけでありまして、こうした被害が重大である、あるいは回復が非常に困難であるというような事例について法律をもって定めるのが普通でございますけれども、クローン技術全般について学会や政府がガイドラインなどを設けるということについては全く異論がございませんけれども、ヒトクローン個体が産生される、それを禁止するということについては、私は、倫理問題を含めて国会で議論をしていただいて、少なくともこの点については科学者といえども侵すべからざる価値である、倫理規範であるということを議論していただきまして、透明性のある形で法律を制定すべきではないか。  現時点でまだ技術が進んでいないから、まだしばらくはいいのではないかという考え方もあるかもしれませんけれども、既に外国においては、同じような技術進歩の段階にあってもこれを法律によって禁止するという方向で、今現に禁止をしておりますし、また、禁止をする方向で動いているわけであります。  先ほどの岡田参考人が読まれた中の、法規制については体外受精等の生殖医療技術がまだ未規制であることとのバランスということでありますけれども、これはたまたま規制をされていないだけの問題でありますし、さらに、体外受精等の生殖医療につきましては、これをどのように扱うかということはさらに検討をする必要があるかと思います。しかしながら、それが規制されていないからヒトクローン個体が生まれてくる可能性を、違反の可能性を残すということは望ましくないのではないか。私は、この後クローン小委員会においても検討を重ねることになりますけれども、国会の先生方にぜひこの点についてお考えいただければ幸いでございます。  以上でございます。
  8. 大野由利子

    大野委員長 どうもありがとうございました。  次に、角田参考人にお願いいたします。
  9. 角田幸雄

    角田参考人 近畿大学農学部の角田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  お手元にお配りしてございます資料に基づきまして御紹介を申し上げます。まず、お手元の資料の一ページ目をごらんください。  核移植技術は、もともとクローンをつくり出すために開発された技術ではございません。動物が発生していく仕組みを解明しようとする目的開発されてきた技術でございます。一九五二年にカエルで、アメリカで初めて報告がなされまして、六二年にはアフリカツメガエルのオタマジャクシで、オタマジャクシは哺乳類でいいますと胎仔に相当いたしますが、そのオタマジャクシの体細胞核移植個体ができたわけでございます。  二ページ目をごらんください。  四十年以上にわたって行われましたカエルでの核移植の実験から、カエルの体細胞核移植によりましては、オタマジャクシまでは発生しますけれども正常なカエルはできないとされておりました。にもかかわらず、昨年二月二十七日に、より高等な哺乳動物であります羊で、成体の体細胞核移植子供ができたということで、学術的にも大きな話題となったわけでございます。  三ページ目をごらんください。  クローン家畜を作製する技術は、家畜の育種、改良、増殖のための一つの手法として行われております。  四ページ目をごらんください。  申し上げるまでもなく、人類は、紀元前の時代から試行錯誤を繰り返しながら家畜の改良を進めてまいりました。十八世紀後半になりまして人口が急増して、食糧生産をしなければいけないということになりまして、育種理論に基づいてさらに生産性の高い品種をつくり出してまいりました。しかしながら、植物とは違いまして、子供の数が牛の場合一頭でございます。妊娠期間が二百八十日というような長い家畜におきましてはなかなか改良が進んでまいりません。そこで開発してまいりましたのが、人工授精の技術受精卵移植技術でございます。  五ページ目をごらんください。  人工授精の技術が家畜の改良に使われるようになりましたのは、一九五二年、イギリスで精子の凍結保存という技術開発されたことでございます。このことによりまして家畜の改良が大きく進みました。  六ページ目をごらんください。  受精卵移植技術でございますが、昭和三十九年に、農林水産省畜産試験場の研究室長でございました、私の恩師でもございますが、杉江佶先生が、世界に先駆けまして、オリジナルな技術として牛の非外科的な移植法を開発されました。このことが、世界じゅうで受精卵移植技術が家畜の改良に使われるようになってきた契機でございます。  七ページ目をごらんください。  横になっておりますけれども、これは、人工授精が普及し、そしてまた受精卵移植技術による子牛の生産が増大してきたことによりまして、いかに家畜の生産性が向上してきたかという一例を示してございます。乳牛一頭当たりの年間の搾乳量でお示ししてございます。  こういう技術が全く使われておりませんでした一九四〇年代におきます乳量はわずか三千キロ未満でございました。これが今や八千キロを超えております。もちろんこの理由は、栄養であるとか管理の向上も大きいわけでございますが、日本じゅうの牛の育種、改良が進んだということが一番大きゅうございます。一九四〇年代の頭数と現在の牛の頭数を比べますと現在の方が少ないわけでございますが、我々のどこの家庭にも水と同じような扱いで牛乳が保管されております。このように我々が畜産物を豊かに摂取できるようになりましたのは、このような技術開発によりまして生産性が向上してきたことによります。  しかしながら、人工授精の普及率は図でごらんのように既に一〇〇%でございます。受精卵移植技術もこのような形で使っていくことは実はできません。その理由は八ページ目に書いてございます。  長い年月をかけまして雄牛を一頭育種、改良いたしたとしますと、その牛の子供は、ざっと計算いたしますと二万四千頭の子孫を残すことができます、精子はたくさんございますので。ところが、受精卵移植でございますと、幾ら長い年月をかけていい雌牛を育成いたしたとしましても、一年間に採取できる受精卵の数は十八個でございます。十八対二万四千というような形でございますと、受精卵移植技術を人工授精と同じように家畜の改良に使うことはできません。  九ページ目をごらんください。  そこで私たちは、この受精卵移植技術の家畜改良上の効果を高めるために新しい技術を次々と開発してまいりました。すなわち、一度に二頭の子牛を生産する技術、あるいは一卵性の双子をつくる技術、保存する技術、体外で受精卵をつくり出す技術、産子の性をコントロールする技術核移植技術、あるいは遺伝子導入、これはいずれも受精卵移植の家畜改良上の付加価値を高めようとして開発してきた技術でございます。  十ページ目をごらんください。  哺乳類におきます核移植の成功というのはそんなに古いことではございません。便宜的に三つのカテゴリーに分けさせていただきました。用いる細胞によりまして、すなわち、初期胚を使う場合、それから胎仔、これはオタマジャクシに相当いたしますが、胎仔の体細胞を使う場合、成体の体細胞を使う場合でございます。  初めて哺乳動物、哺乳類で核移植に成功いたしましたのは、一九八三年にアメリカで成功いたしました。我が国では、八五年に初期胚を使いまして核移植に成功いたしております。これはマウスでございます。牛では八七年、日本では九一年ということでございます。ここで得られます個体の特性は、一卵性の双子、三つ子、四つ子、五つ子というような特性になります。  胎仔の体細胞を用いて個体が得られますと、これは大量に得られます一卵性の産子でございます。  成体の体細胞個体が得られますと、これは、先ほど来出ておりますビルムートらのドリーの報告、それからアメリカでのマウスの報告、私たちの牛、これは投稿中でございますが、こういうもので生まれてまいります子供は、細胞を採取しました個体のコピーということになりまして、前二者とは大きく異なる点でございます。  次の十一ページ目をごらんください。核移植の手法をごく簡単にお示ししてございます。  すぐれた形質を持つ動物から細胞を採取いたしまして体外で培養をいたします。そして、核移植をいたします前に、「細胞周期の同調」と書いてございますが、いろいろな前処置をいたしました後に核移植をいたします。そして融合処置、活性化処置をいたしまして、対外で培養して、それを受胚雌、牛へ移植するわけでございます。そういたしますと、二百八十日ほどたちますと子牛が生まれるということになります。日本ではこの培養はすべて体外で行っておりますが、ドリーの例を初めとしまして、諸外国ではすべて羊を使っている、羊の卵管の中で培養するという違いはございます。  十二ページ目をごらんください。これまでに誕生いたしました、これは胎仔由来ではございません、成体体細胞由来の子牛の例を示してございます。  一番から十三番、十三頭の子牛が生まれております。丸で囲っておりますのが現在生存いたしておりますが、残りは、いろいろな原因で直後に死亡しております。  十三ページ目をごらんください。  この技術が確実なものになるといたしますと、長い年月をかけて改良を重ねました望ましい遺伝形質を持つ家畜のコピーをつくり出すことができるということで、先ほど申し上げましたような、二十一世紀に向かっての食糧生産、畜産物の生産に対応できる技術になるであろうというふうに考えております。また、ヒトのための有用な物質を生産するための技術としても十分に使えるというふうに思います。  十四ページ目をごらんください。  現在私たち、私自身の手の中には、分化した体細胞を操作いたしまして個体をつくるという技術がございます。この技術を使いまして、どういう細胞であれば個体になるのか、逆に言いますと、どういう細胞であれば奇形なり異常が出るのか、あるいはどういう方法であれば個体ができるのかというのを今調べております。また、分化しました体細胞から個体ができるわけですから、これはどういう遺伝子の発現でできるようになっているのかということも調べております。  さらに興味深いことは、得られました子供生殖能力は正常であるか、正常に育つか、特に年齢、寿命はどうなっているかというようなことを今後調べていきたいと考えております。  こういうようなことを通じまして、哺乳類におきます発生機構の解明に貢献できるだろうというふうに思います。本日は、家畜の生産性の向上ということに絞りましてお話を申し上げましたが、この技術は、冒頭申し上げましたように、発生、それから分化、老化、さらにはがん化等の機構を解明するための新しい切り口になるというふうに思っております。  最後の十五ページ目をごらんください。  極めて私自身困っていることがございます。これは、学術論文として公表する前に次々とクローン牛に関する話題が報道されておりまして、私自身極めて研究者として困っております。  これは、科学技術会議クローン小委員会中間報告文部省学術審議会の部会の報告、これは私も委員にならせていただきましたが、ここでの情報公開考え方を農林水産省では拡大解釈をいたしております。  すなわち、農林水産省ではこれらのことを踏まえまして、クローン委員会を設置し、核移植胚を移植された受胚牛が遅くとも妊娠百日目になりますと、申し上げましたように牛では妊娠二百八十日以上ございますので、細胞の種類等を含めました具体的内容を公表するという通達を、各県の畜産試験場並びに私どものように特殊法人からお金を、生研機構というようなところからお金をもらっております大学にも出しております。そのために、最近連日のように体細胞クローン牛に関する情報が新聞、テレビ等で報道されます。  このような形で報道されてしまいました仕事は、ネーチャーなどのような学術雑誌に投稿いたしましても受理されません。これは、大学だけではございませんが、研究者研究意欲を大きく損なうという結果になります。もうこういうことをやるのは嫌だという気にもなってしまいます。  どうか、実験動物や家畜における研究は、論文として公表されましてからデータベースあるいはホームページあるいはマスコミ等へ公表すればよいというような御配慮をお考えをいただければ、研究者として非常にありがたく存じる次第でございます。  以上です。
  10. 大野由利子

    大野委員長 どうもありがとうございました。  以上で参考人方々の御意見の開陳は終わりました。     ―――――――――――――
  11. 大野由利子

    大野委員長 これより参考人に対する質疑を行います。  質疑につきましては、理事会の協議により、まず各会派を代表する委員が順次質疑を行い、その後、各委員が自由に質疑を行うことといたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。なお、着席のままで結構です。中谷元さん。
  12. 中谷元

    ○中谷委員 本日は、四人の参考人先生方には、クローン問題、遺伝子に御専門の皆様方でございますけれども、非常に貴重なる御意見を拝聴させていただきまして、まことにありがとうございました。  このクローンの、ヒトの問題は、私も国会議員でありまして、特に選挙で忙しいときなんかは一人ぐらいクローン人間がいたらいいんじゃないかと空想的には思っていますが、しかし、実際子供のない母親だとか難病にかかっている人とか手足がない人とか、そういうものもあってもいいんじゃないかと考えておられる方もいるかもしれません。  そこで、まず岡田先生にお伺いをいたしますが、この答申の中間報告で、ヒト以外の細胞を用いる場合、産業、研究の両面において非常に高い有用性を持つと評価されるとなっておりますが、食べ物等において、牛にしても、安全性ですね、人体に与える毒性とか発がん性、そういう遺伝子操作をされた動植物を食べた場合に、果たして本当に大丈夫かなという気がいたしますけれども、この点についてはどのような御見解をお持ちなんでしょうか。
  13. 岡田善雄

    岡田参考人 遺伝子を入れた食物というふうな格好のことが随分いろいろなジャーナリズムで取り上げられたりなんかしているような感じがしますけれども、原則的には全く問題はないと私は判断しています。  特に、このクローンの問題で、例えば角田参考人の行っておられるクローン牛とかというふうな場合、中谷議員の御質問のような問題点というのは科学的には全く考えられないと私は思っています。
  14. 中谷元

    ○中谷委員 もう一問。  ヒト細胞を用いる場合ということで、人間尊厳を侵害するというふうにあります。しかしながら、今、正常な受精による人工授精、体外受精、また試験管ベビーという事例もございますが、この点についてはどこが違うのかという点について、お考えを聞かせていただきたいと思います。
  15. 岡田善雄

    岡田参考人 こういうことです。  例えば、このクローン問題のことを討議するときに、クローンということになると同じ遺伝子セットを持った別の個体というふうなことになりますので、現に今回の問題もなしに社会生活をやっておられる一卵性双生児というふうな人たちの問題にひっかからない必要がどうしてもあると判断しております。  そうしますと、ヒトクローンという問題のところで、どこに中心点を置いたかといいますと、これは、精子が卵子に受精してから発生するというものとは違う、無性生殖という今までになかった形のものであるということに限定した方が、その方がいわゆる一卵性の双生児の方々との問題点を完全に切ることができるということで、無性生殖という形ででき上がってくるヒト個体の生産、生産という言葉をいろいろな委員が使いましたけれども、人為的なものですから、そういうふうなものに関係する問題点というところに集中して問題点を討議したということであります。  今現在、生殖技術として具体的に動いています体外受精とか、そういうふうな形のものと相当はっきり区別した格好で討論をやっております。
  16. 中谷元

    ○中谷委員 次に豊島先生にお伺いさせていただきますが、現在文部省の方は自主規制という範囲でございます。  先生は、成人病病院の総長さんでございますが、今後、人間に役立つニーズとして、このクローン応用というものはいろいろな必要性が出てくると思います。能力も高まってくると思いますが、今法的に規制すべきだとかガイドラインという話もございますが、医学のニーズで、今後、その必要性が一体どの程度まで求められて、どの辺がボーダーラインであるのかという点をお伺いいたしたいのと同時に、万が一、だれかがつくってしまった場合、違反した場合に、学術的にそれを認めるのかどうか、そしてまたその生物体をどのように扱うのか、殺してしまうのか、それともそれを認知するのか、これは仮定の問題でございますが、この点についての御見解をお願いいたします。
  17. 豊島久真男

    豊島参考人 今申されました医療への応用可能性ということでございますけれども、これは、現時点におきましては、先ほど角田参考人の申されましたように、全く考えられない状況でございます。しかし、現在までの医学のみならず生物学全般の進歩というのは、十年先が見通せないぐらい速いということでございます。  それで万一、将来、医療への応用があるといたしますと、最も重要なポイントとして皆様がかなり広く考えておられますのは、先ほど私の申し上げました中のミトコンドリア病に関するものでございます。ミトコンドリア病と申しますのは、基本的な人間遺伝子セットと全く別のところにございます遺伝子細胞質にあるミトコンドリアというところにある遺伝子でございますが、それの遺伝による病気でございます。これに対しましては、もし核移植ができましたらミトコンドリア病の家系をそこで治すことができる。可能性だけでございますが、それが将来考え得る一番大きなポイントと考えられております。  ただし、先ほど岡田委員が申されました中の二つの問題がございまして、一つは、生殖を伴うか伴わないかという非常に大きなポイントでございます。もしも今のミトコンドリア病に関する遺伝子治療が行われるとしても、これは生殖を伴った、したがいまして受精卵以降の核移植というのが問題になるというふうに考えておりまして、体細胞からの核移植ではないというふうに考えるべきだろうと考えております。  それから、先ほど後ろの問題として申されました、もしも違反してそういうヒトが生まれた場合、これはいわゆるサイエンスの外でございまして、むしろ、法律的な問題それから倫理的な問題としてのとらえ方が必要で、ここでも改めて、先ほど岡田参考人の申されました、現在は何の問題もなく社会生活をしております一卵性双生児の問題その他を考慮に入れなければならないけれども、やはりもう一つの問題としましては、森嶌参考人が申されましたように、生まれてしまった人間に関しては、法律をもってしてもいかんともしがたいところがございます。  したがいまして、やはりこれは自主規制あるいは法律規制を含めまして、どちらになるにしろ、全くそういうことが起こらないように注意して規制する、及び研究者自身がそういうことをしないように倫理的に行動するという以外にはないかというふうに考えております。
  18. 中谷元

    ○中谷委員 どうもありがとうございます。  続きまして、森嶌先生にお伺いさせていただきますが、先生は法規制をすべきだと御主張されていますが、法規制をすると学問の自由が阻害されると、非常に科学者の反対意見も多いというふうに聞いております。もう一度、法規制をする必要性と、先生のお話の中で、遺伝子を自然的支配以外につくり出すというお話がございましたが、クローンの場合は、遺伝子を違ったように操作するのではなくて、コピーであって、母親と全く同じ遺伝子をつくるという点では神の摂理には反しないような気もするのでございます。  それも含めて、先生のお話の中で、今の体外受精も若干規制すべき点もあるというふうにお触れになりましたが、どういった点を規制をすべきなのか、この点についてお話をお願いいたしたいと思います。
  19. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 最初に、同じ遺伝子なのでつくり出すのではないという御質問でございましたが、その点はそのとおりでございまして、私も、遺伝子をつくり出すというふうに申し上げたのではなくて、医師によって遺伝子を選択あるいは決定する、こういう遺伝子を生まれてくる個体に持たせようということを決定するわけでありまして、そのことが個人尊厳を害する、あるいはすぐれてプライバシーに属することを科学者が選択をしてしまう、その点を申し上げたわけであります。  それから、法規制をすることが科学の進歩を妨げるのではないかということでございますが、私が申し上げたのは、クローン技術そのものに全部法の網をかぶせてしまえというのではなくて、まさに科学が踏み越えてはならない点が何か、そこを見据えて、現時点で私は、ヒトクローンを産み出すというその技術のみを対象にすべきであるというふうに考えておりまして、もともと、先ほど申しましたように、仮に個体が出てきた場合のその個体に対する個人尊厳の侵害ということ以上に、例えば一卵性双生児は、二人生まれてくるだけで、親子関係とか兄弟関係というのは全く現行法では問題がないわけであります。  それから、受精卵を使った場合も、多少問題がありますけれども、ともかく、卵を提供した者、精子を提供した者は既に存在するわけですが、体細胞の場合にはそういう親というものがいないわけであります。かといって、その細胞を提供したのは親というふうには少なくとも現行法は全く考えておりませんので、親もいない、それから兄弟もいない。その意味で、家族関係というものを持たない個人。しかし、個人である以上、人間である以上、その人の生命、身体は尊重しなければならないわけですから、そこで、そもそも、周りにサポートする人もいないヒトを産み出すというそのことが現行法でも非常に困ったことになるわけで、もちろん、新たに法律をつくって何か手当てをするということもできるかもしれませんけれども、そうしたことを考えますと、科学の進歩だからということだけではできないのではないか。  そして、先ほど豊島委員が御発言になったようなことが仮にあるとしますと、その時点でその禁止の例外を、その点で違法性がないということで認めるということは可能だと思いますけれども、私は決して、科学の進歩を阻害するために法律を使おうということではございません。
  20. 中谷元

    ○中谷委員 どうもありがとうございました。  それでは、最後に角田先生にお伺いさせていただきますが、角田先生はクローン牛の技術の第一人者ということで、もう世界的な御貢献をされておられます。  最近も、成体体細胞牛、これの実価の御紹介もされましたが、こういったものにおいて、死亡している実例もございましたけれども、この死因、なぜ死んでしまったのか。そしてまた、非常に人体に影響がある、この答申でも安全性に対する御指摘がありましたけれども、そういったクローン牛等の研究を通じまして、遺伝体の子供牛の安全性とか奇形性、こういう点についてのお考えと、そして将来、イノブタというものがもう既にありますが、ウシウマとかウシシカとか、そういう新種が誕生する可能性がありや否やという点についてのお伺いをさせていただきます。
  21. 角田幸雄

    角田参考人 最後の方が簡単でございますので、お答えいたします。  イノシシと豚は同じ種でございまして、たまたま名前が違うだけでございますから、この技術を使ってそういうようなことにはならないというふうに考えております。  それから、昨年と現在で異なりますことは、特に私どもがやっております牛につきましては、ある細胞をある方法でやりますと極めて発生率が高い。操作しました卵子のうち、子供になりますのが、大ざっぱに計算いたしますと三〇%を超えると思います。三個に一つ子供になってしまう。これは最初報告と比べ物にならないわけでございます。  それから、御指摘のように、分娩しました子牛のうち、かなり死んでおります。死なないまでも、分娩直前あるいは八割方妊娠期間を終了いたしましたところで流産いたしております。これは、細胞の種類によりまして、あるいは方法によりましては、間違いなく流産した場合のものについては奇形がございます、出てくると思います。  それから、なぜ死んでいるかということでございますけれども、私どもの方で十例生まれまして、そのうち四例が死亡いたしましたが、病理解剖いたしましても、臓器等に全く異常は認められておりません。恐らく技術がよくなってまいりますと、死亡率――最初の分娩兆候が非常に弱いですので、助産するといいますか分娩を助けてあげるというか、その辺の手順が現場の人がなかなかうまくいかないというようなこともヒトと違いますのでございまして、ちょっとしくじった点もあろうかと思います。  ただし、先ほど言いましたように、細胞の種類あるいは方法によりましては、間違いなく奇形は出てくるというふうに思います。  それから、現在生まれております子牛が正常に発育するかどうか、先ほども申し上げましたが、生殖能力はあるか、寿命は正常か等については、三年から五年は少なくとも追跡調査をしなければいけないというふうに考えております。  以上でございます。
  22. 中谷元

    ○中谷委員 どうもありがとうございました。  以上で終わります。
  23. 大野由利子

    大野委員長 近藤昭一さん。
  24. 近藤昭一

    ○近藤委員 民主党の近藤昭一でございます。  きょうは、各先生方本当にお忙しい中、貴重な御意見を賜りまして、まずもってお礼を申し上げます。  それでは御質問をしたいのですが、この科学技術委員会では原子力のことが大変に論議をされているわけですが、私は、原子力については大変に慎重であるべきだと。それはやはり、原子力で事故が起きた場合、遺伝子に傷を与える、そういう事件というか事故まで達してしまう、そして、その遺伝子というものは、人間そしてまた生命が持つ本当に根本的な、非常に大事なところだということから危惧しておるわけであります。  ところで、そういう遺伝子ということになりますと、今回特にクローン問題についてお伺いをしたいと思っているのですが、昨今、遺伝子組み換え食品の問題もあります。そうすると、角田参考人にちょっとお伺いをしたいわけでありますけれども、この遺伝子の組み換えとクローン技術、この根本的な一番大きな違いはどこにあるのか、教えていただきたいと思います。
  25. 角田幸雄

    角田参考人 一番の違いは、遺伝子を操作していないという点でございます。クローンについては遺伝子を操作していない、そのまま使っております。それで、遺伝子導入、トランスジェニックというのは、遺伝子を操作した個体でございます。
  26. 近藤昭一

    ○近藤委員 ありがとうございます。まさしく遺伝子を操作するか、遺伝子を操作していないかということであります。  ただ、先ほど森嶌参考人の御意見の中にも、科学者が他人の生涯を左右するようなことはすべきではないというようなお話があったと思います。  それで、私の大変に素人的な考えで申しわけないのですけれども、大きな意味で、個体としての遺伝子を操作するという部分と、遺伝子は操作はしないけれども、大きな自然の中では本来生まれてこなかった、あるいはそんなに多量ではなかったような遺伝子を継承していくものが大量に生まれていくこと、こういったことも一つの、人間尊厳ではなくて自然の尊厳ということになるのかもしれませんが、本来あるものではなかったものを人工的に操作していくこと、これによって何か危険性を感じるわけでありますが、その辺は角田参考人、いかがでありましょうか。
  27. 角田幸雄

    角田参考人 ヒトでのことは私よくわかりませんが、動植物でいいますと、御存じのように、ニンジンの根をばらばらにしてそこからニンジンができるというようなことをもう既に実用的にやっておりますので、そのような危惧は当たらないのではないかなというふうに考えております。
  28. 近藤昭一

    ○近藤委員 この科学技術委員会でかつても私質問しましたときに、非常に科学技術の進歩というのは大切なものだ、ところが本当に現時点で予想もしなかったものが将来起こってくる可能性があるのではないかと。最近ではダイオキシンの問題あるいは環境ホルモン、これは本当に根拠のない、ある意味で漠然とした不安なのかもしれませんけれども、そういったものがあるわけであります。これはもう本当にある意味では水かけ論になってしまうのかもしれません、安全だあるいは安全ではないということになってしまうのかもしれません。  それで、そういった技術的なことではなくて、倫理的なことでちょっとお伺いをしたいわけでありますけれども、こういったクローン技術、先ほど豊島参考人の、また岡田参考人お話の中にもあったかもしれません、ヒトを完全に再生すること、あるいは臓器を再生すること、あるいはヒトの体の一部分を再生すること。これについてはまだ技術的には未発達であり有用性はないという言葉があったのかもしれませんけれども、どうなんでしょうか。そういった、期待するというところで申し上げますと、例えば今臓器移植が行われておりますが、臓器あるいはヒトの体の一部分が失われてしまった、これに対してこういったクローン技術を用いて治療というか再生させる、こういうことについて、余り有用性がないというお答えがここに出ているのかもしれませんが、岡田参考人豊島参考人の御意見を伺いたいと思います。
  29. 豊島久真男

    豊島参考人 今御指摘の臓器の生産でございますが、これは最近になりまして、アメリカにおきまして、これもカエルでございますが、遺伝子操作したカエルで脳のないカエルを産ませるということが出てまいりました。それは、ある会社がそういう技術を使って臓器提供ができる可能性というのを言っておりますけれども、このような形で一つ個体に近い形態で、私どもはこれはもう生物、生き物と考えておりますが、そういうものをつくって、その中から臓器を取って移植するということは倫理上許されない問題というふうに私どもは考えております。  それよりも、むしろ、個々の臓器の原基であります細胞をいかにうまく培養したりしながら臓器にかわるものをつくっていくかというのが、これから私どもの開発しなければいけない技術であろうというふうに考えております。
  30. 岡田善雄

    岡田参考人 今、豊島参考人からお話があったように、カエルの場合に、脳はなくても、あと体が全部あるわけですから、そういうふうな形のことなら、あるいは将来ヒトでもそんなことがあるかもしれないけれども、個々の臓器というのを今の核移植での方法論でつくることは、まずほとんど不可能だとみんな判断しているわけです。  実際上、可能性があるというのも、これも今豊島参考人の方からお話があったように、例えばES細胞、エンブリオニック・ステム・セルという細胞があります。これは非常に分化度の低い細胞なんですけれども、培養系の中で、例えば骨髄細胞というのを全部つくることができる、その細胞を試験管の中で培養するということで。これは、人間には残念ながらできておりませんで、ネズミじゃないと今はできないんですけれども、そういうふうな形のことが具体的にはできるようになっておりますので、その方がよほど意味があるとみんな判断しているわけです。  これは、私が飛ばしました中間報告の六ページの「(3)胚性幹細胞(ES細胞)の取り扱い」というのがありますが、ここのところで、そういうふうな意味合いのことを述べてあります。
  31. 近藤昭一

    ○近藤委員 ありがとうございます。  それで、動物ということでちょっとお聞きをしたいのでありますが、角田参考人、そして森嶌参考人にお伺いをしたいと思います。  多分、動物での技術開発はより進んでいるんだと思いますが、ペット、例えば犬とか猫、自分が長年愛してきたペットがある日突然死んでしまった。子供のようにかわいがっていた。よく、お墓をつくったり、子供のように非常にかわいがっていて、この猫あるいは犬が死んでしまったことによって、もう本当に人生が終わりだみたいな、そんな大げさな表現もされるような報道を見たりするんですが、こういった犬とか猫を、その特性をほとんど再生するようなことは技術的には可能なんでしょうか。  それと、実はこれは、私が直接じゃなくて、私の友達が見たということでありますが、今インターネットが大変に盛んになっております。やはりそういったペットを失ったある人が、自分のこういうペットを失ったんだけれども、これと全く同じペットを再生してくれる人がいるならば莫大なお金を出すというようなことがインターネットに載っていたというのを聞いたことがあるんですが、こういったことは、倫理的には大変に問題があるんではないかな。  つまり、これが将来的には、動物ではなくて、人間子供ですね、優秀な人間を産むとかそういう意味ではなくて、自分の子供がある日事故で死んでしまった、本当に小さな子供であって、その子供と同じ子供をつくってほしい、極端かもしれませんが、そんなことにまで発展していってしまうかもしれない、そんな危惧を感じるんです。そういったことに対して、技術的なこともあるでしょうし、法的にやはりこういうものは規制していくべきではないかなと思うんですが、その辺について、このことについては森嶌参考人にお聞きをしたいと思います。お願いします。
  32. 角田幸雄

    角田参考人 可能かどうかということでございますが、私はペットではやったことがありませんので、あくまで推測ですが、可能だと思います。  それから、インターネットでのお話でございますが、私も存じておりますし、インターネットだけではなくて、私どものところに何件もお電話いただきます。複製してくださいというようなお話をいただきます。  これにつきましては、私たちの所属する学会あるいは学術会議等でも、ペット等の取り扱いについては議論はしておりませんので、確かに、御指摘のように、何らかの検討をいたしまして、緩い形の取り決めか何かが必要かなというふうな気はいたします。
  33. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 親御さんがそういう気持ちになられるということは理解できないわけではありませんけれども、親だからといって、死んだ子とは別の個体を産み出させる権利があるわけではありません。つまり、私が先ほどから申し上げているのは、個人尊厳というのは、出てくる個体尊厳ということであります。  そして、それは兄弟と同じだからいいではないかということになるかもしれませんけれども、これも、実はまだそういう問題が出てきていないから十分に議論はしておりませんけれども、現行の法のもとでは、亡くなった子供さんで、それで親子はおしまいでありまして、仮にその体細胞を使って、死んだ体細胞を使ってできるのかどうかわかりませんけれども、仮にできたとしても、それは親子ではありません。  したがって、それをまた養子にもらうとかなんとか、そういうことはあるかもしれませんけれども、私は、気持ちがわかるということと、親であれ科学者であれ、現時点でやってはいけないということはあるのではないか、それがやはりヒト個体クローン技術による産生ということだと思います。
  34. 近藤昭一

    ○近藤委員 もう一度森嶌参考人にお聞きをしたいのでありますけれども、気持ちがわかるということだと私も思うんですよね。そうすると、そういういわゆる要求というか、需要という言葉はちょっと不適切だと思いますが、そういったことが出てくる。それに対して、大変に失礼ですが、科学者の方が、いわゆる純粋な技術的な興味というか、そういうものをどうしても進めたいというようなお気持ちが少なからずあるのではないかなというふうに思います。それで、先ほど森嶌参考人もおっしゃられましたが、どうやってそういったものを規制するか、禁止するかというのは大変難しい問題だと思うんですが、その辺について、もう少し森嶌参考人の御意見を聞かせていただけますでしょうか。
  35. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 法的規制によっても違反者が出るようなことは、例えば殺人罪があっても殺人をする人はいるわけですが、少なくとも、モラルに任せているのではなくて、社会としてこういう規範は守るべきだという形での、殺人なら殺人罪というのはあるわけです。その殺人罪があることによる防止効果というのは私はよくわかりませんけれども、企業であるとかあるいは医師であるとか、事前に、自分がやっていることについて判断できるような人に向けられた規範というのは、法規範で例えば一定の体罰も含めた制裁を考えるとかいうことで、それは被侵害利益の重さから見てどのように国会あるいは国民がお考えになるかで刑の重さは違いますけれども、少なくとも、法律によって制裁をつけるという、そこがガイドラインとは違った重みを持たせるということになると思います。
  36. 近藤昭一

    ○近藤委員 ありがとうございました。  今森嶌参考人もおっしゃったように、規制をしても、それでも破る人がいるんではないかということを危惧するわけでありますし、冒頭にも私申し上げましたように、クローンについては遺伝子の組み換えはしないということでありますけれども、やはり、特異な、優秀なものかもしれませんが、その特異な優秀な遺伝子を持つものが大量に出ていくことに対しては大変に危惧をいたすわけであります。  角田参考人にもう一度ちょっとお伺いしたいのですが、日本のクローン技術というのは、角田先生は大変に権威でいらっしゃるわけでありますし、日本の技術は優秀だとは思うのですが、研究のレベル、また国のクローン技術に対する研究の補助等という意味では日本というのはどうなのでしょうか、進んでいるのでしょうか。
  37. 角田幸雄

    角田参考人 ちょっと漠然としたことでございまして、どうお答えしていいか、的確ではございませんが、現在家畜で行われております体外受精等の胚操作、あるいはクローン技術、あるいはそれに関連した技術等につきましては、これは日本は進んでおります。  そのもとは、私も農林水産省に長らくおりましたが、農林水産省の研究機関の方が一生懸命食糧生産を目指して開発してきたというのは全く事実でございます。そういうような受精卵の操作の上に立って私どものやりましたクローンの作出率が極めて高い。  ただし、では私の大学で牛がいるかといいますと、実は一頭もおりません。おりませんので、県の試験場等へお願いをして、私どもの方でつくりました受精卵移植して子供にする部分を分担していただいている。これは農水省の研究機関でもそうでございまして、もしも私に、私にと言うと語弊がございますが、外国のように千頭、二千頭という牛がおりましたらもっと自由な仕事ができるのかなという気はいたしますけれども、そういう限られた状況の中で、いろいろ考えながら仕事を進めております。  ただ、残念なことは、論文を外国よりも先に出したいというところでございまして、これは一番最後に申し上げましたが、余り報道されてしまいますと論文にならないということで、世界では認められない場合も起こります。  以上でございます。
  38. 近藤昭一

    ○近藤委員 質問時間が参りましたので、これで終了します。  ありがとうございました。
  39. 大野由利子

  40. 近江巳記夫

    ○近江委員 新党平和の近江でございます。  きょうは、参考人先生方、本当に御苦労さまでございます。  岡田先生、豊島先生、私も大阪でございますので、よく存じております。きょうはまた、角田先生も関西ということで、期せずして三名の先生においでいただいたわけでございます。  私は、先生方の話を聞いておりまして、特にヒトのいわゆるクローン個体の問題でございますけれども、これはたしかアメリカでございましたか、シードさんという人だったかと思いますが、シカゴでしたかね、政府が反対しようとどこかへ出かけていって私はつくるんだというようなことで、ニュースになったことがございますが、技術面、資金面で到底それは無理だというようなことでうやむやになったように思います。大きな設備も施設もなくてもできるというような危険性といいますか、そういうお話も先ほどあったわけでございますが、そういう点におきまして、この問題については、人間としての尊厳、また倫理性、また安全性等におきまして、絶対にこれは認めるべきでない、私はこのように思っております。そういうことで、特に森嶌先生は、大変倫理面からお話をいただきまして、私も全く同感でございます。  そういう点で、各国の取り組みを見ておりますと、先進国におきましては非常に素早い取り組みをしておりますね。イギリス、ドイツ、フランス等におきましては、特にイギリスにおいては一九九〇年十一月には法律を出している。ドイツも一九九〇年十二月、フランスにおきましては生命倫理法が一九九四年七月、アメリカにおきましては大統領令で一九九七年三月。これはまだ法律は制定はされておりませんけれども。  そういうことで、今我が国の場合は、先生方に努力もしていただき、自主規制といいますか、そういう形で進んでおるわけでございます。今、年末にかけまして、アンケート調査ですか、いろいろ各方面へお出しになっておられるようでございますが、それを踏まえて結論をお出しになるということを聞いておるわけでございますけれども、少なくとも法規制、これをやはり早くやらなきゃならない、このように私は考えるわけでございます。  先生方、それぞれその委員会における最高責任者の立場にいらっしゃるわけでございまして、そういう手続もあろうかと思いますけれども、早く法規制を急ぐ必要がある、私はこのように思うわけでございます。その点につきまして、まず森嶌先生から御意見を賜りたいと思います。
  41. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 法規制をすべきだという点につきましては、私先ほど申し上げたとおりでございますが、日本では割合に、これは行政もそうなのですけれども、医学界あるいはこうした実験をなさる理学系の方、これは皆さん科学者として非常に良心的なのですが、なぜか法律に対する反感というのがありまして、これは恐らく日本全体のことかもしれません。  ほかの国がいろいろな規制をしても、法規制が先だというのはおかしいではないかという議論がありますが、私どもが申し上げているのは、何も全部法でふん縛ってしまおうというのではなくて、やってはいけないミニマムなものをきちっと書く。それから、そうでないものについても、私は、場合によっては法できちっと書いて、それは制裁などはつけないけれども、これが規範であるということをやはり社会として宣言をするものが法だというふうに考えております。何か法が入ってくると科学の進歩が妨げられるという、その辺のところは、私は法律学者だからかもしれませんが、それは誤解である、あるいはバイアスであるというふうにお考えいただいて、現実をきちっと見て、ヨーロッパやアメリカのやっていることはいいということではありませんけれども、少なくともルールはきっちりと透明性のある法律で明らかにするということは大事なことではないかと思います。
  42. 近江巳記夫

    ○近江委員 この問題につきまして、岡田先生も豊島先生もそれぞれ統括されておるわけでございますけれども、個人として、私は早く法規制をすべきだという考えに立っておりますので、両先生はどのようにお考えでございますか。
  43. 岡田善雄

    岡田参考人 日本の対応がおくれているかというふうな質問でいきますと、これは非常に早い対応をやっていて、それで非常に頻回な会議を開いておりますので、これは委員が主張されましたような形で今大急ぎで皆さんの御意見を聞くところまで持ってきておりまして、これの集計というのは非常に大切なものですから、この集計をもとにして具体的にできるだけ早くに対応していこうと思っています。  これを国の何かの規制で行わねばならないというところは、多分問題がないところだと思います。ただ、それを法規制にするかガイドライン規制にするかという問題に関しては、これはやはり今のいろいろなところから聴取させてもらっている御意見も含め、非常に広い範囲の御意見の中から選択していかねばなるまいと思っておりまして、私どもの小委員会最終報告というのをそれをもとにしてつくりますけれども、これはさらに上部委員会であります生命倫理委員会というところへ持ってきて、そこでのディスカスというか、そこで決めていただきたいと思っています。  ただ、おくれているわけではありません。各国ごらんになればわかりますけれども、完全な批准というか、国会の承認をとっているところというのはそんなにあるわけではございませんので、そういう意味では日本がおくれているわけではございません。
  44. 豊島久真男

    豊島参考人 法規制の問題は、私どもは非常に深刻に、いろいろな形で議論しております。一概に法規制を嫌がっているというわけではございません。しかしながら、法規制をしました場合に、非常にその後手直しその他が難しいだろうというふうに考えております。ガイドラインでもそんなに楽に変えられるわけではございませんが、法規制の場合にはもう一つ難しいだろうということでございますので、法規制ができるまでには十分な議論をしていただきたい、その間、ガイドラインできっちり守っていきたいというのが私どものスタンスでございます。基本線でございます。  それからもう一つアメリカの場合に上院で否決されたということでございますが、いろいろな法規制が州ごとにアメリカの場合はなっておりまして、ある州で規制いたしましても、違う州で行われている場合には、医事上の問題ですと、違う州に行ってそこで治療を受けるというふうなことがしばしば行われております。やはりこれも、そういう意味では国際的な連携が必要かというふうに思っております。
  45. 近江巳記夫

    ○近江委員 この法規制は積み上げで、いろいろと今後検討していくというお話でございますが、それまでガイドラインで、今それぞれ、医師、研究者方々、それぞれの機関に徹底もされておると思うわけでございますが、そういうガイドラインの通達という中で、法規制まで行っていない、踏み込んでいない中で、逸脱するような心配とか、そういうようなことは今までないのですか。日本の現状の中において一例もございませんか。そういうようなことがもしあったら、お聞かせいただきたいと思います。それに近いような研究があったとかいうようなこと。どうでしょうか。
  46. 岡田善雄

    岡田参考人 遺伝子操作とかいろいろなことのガイドラインの規制というのが行われております。これはもう完璧に、各省庁のコントロールのもとで非常に厳格にやられております。それの違反というか、このことで問題があったというのは、私自身は知りません。
  47. 豊島久真男

    豊島参考人 文部省の管轄に関します限りは、私ども、今までその違反は、知り得たものは一つもございません。厚生省関係でございますが、厚生省関係で、前回の産婦人科学会の自主規制の問題がございましたことは、これは御承知のとおりだと思っております。そういうことで、やはり少なくとも国レベルにおける規制は、現段階でも絶対に必要だというふうに私どもは考えております。
  48. 近江巳記夫

    ○近江委員 もう時間ですから終わりますが、私たちは研究者の自由ということについては十分承知しておりますが、しかし、このクローンのいわゆるヒト個体の問題につきましては、これはある意味で言えば、物理学における核融合、極端に言えば水爆以上の問題ではないかと私は思うのです。そういう意味におきまして、先進各国においては既にこういう法規制が行われておるわけでございますので、また今後先生方の御努力をいただきながら、私自身はそういう方向で今後進んでいきたいと思っております。そういうことを表明いたしまして、終わらせていただきます。  どうもありがとうございました。
  49. 大野由利子

  50. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 自由党の菅原喜重郎でございます。  きょうは、四参考人先生方には早朝より御出席いただきまして、ありがとうございました。  前の委員の方からも法の問題で質問があったわけですが、私たち一応立法府にいるものですから、各先生にこの問題をお聞きしようかなと思っていた点、ダブるわけでございますが、私からも質問させていただきます。  クローン技術というのは、全く天地創造の秘密の一端を暴くような、そういう大開発が成ってきたわけで、今までの古い倫理観ではなかなか対応できないような問題をどんどんはらんでくるなというふうに思っています。しかし、何といいましても、やはりヒトクローン産生については、人間尊厳性あるいは倫理性の問題から当面はこれを禁止することが世界的趨勢となっているわけでございますが、しかし一方では、やはり科学技術の振興という面もありますので、先生方におかれましては、当面これだけは法の整備をしたらいいのじゃないか、規定と言わなくても、あるいは規定でもいいのですが、法規制をしたらいいのじゃないか、あるいはこういう点はまだいわゆるそういう法の規制の中に入れなくてもいいのじゃないかというような点につきまして、ざっくばらんにひとつ、まとめて二、三分ずつ、まず角田先生の方からお願いいたします。
  51. 角田幸雄

    角田参考人 私はヒトをやっておりませんから、実際のところはよくわからない点がございますが、しかしながら、成体の体細胞由来のクローン個体ができたときに比べますと、もう少しゆっくり私たちもやればよかったのかなという気もしますが、余りにも早くうまくいくようになってまいりましたし、逆に言いますと、生まれます動物がかなり死んでいくというようなこともございますので、そういうことを踏まえますと、クローン個体を産み出す、クローンヒトをつくるというところにつきましてのみ早急な対応をしていただきたいというふうに私自身は考えております。
  52. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 私は、最近、生態学あるいは環境で、動物、植物も同じ生命体として尊重すべきだという御意見もありますけれども、やはり現在の社会人間と動植物というのは全く別のものとしてとらえておりまして、民法で申しますと、動植物は物でありますけれども、人は人であります。  そこで、私は、先ほど申し上げたような個人尊厳プライバシーの問題は、これは人間特有のものであり、そしてそうした両性生殖でなく出てくる個体を防止するということから、この小委員会中間報告の九ページの終わりの方に出ておりますが、ヒトクローン個体を産み出さないためにヒトクローン胚母体への核移植禁止するということで現時点ではいいのではないか、それが私の感じではマキシマムであろうというふうに思っております。
  53. 豊島久真男

    豊島参考人 ヒトの体細胞由来のクローン個体をつくるということに関しては、やはり禁止条項に入れていただいた方がいいのではないかというふうに思っております。
  54. 岡田善雄

    岡田参考人 現実的にこういうふうな技術ができたことで、我々も含め、こういうものをどうやって規制するかというのは非常に困っているというのが本当のところでしょうね。  これは、小委員会委員長ではない私個人として思っていることの一つは、両方があるのですけれども、一つは、いわゆる先端医療といいますか、バイオテクノロジーといいますか、そういうものがこれからまだまだどんどん進んでいくと思いますけれども、そこの中で、今までのしきたりというか生活環境と相当離れたものというのがどんどん出てくる状況下にあるわけで、それへの順応の問題というのはいろいろな努力をしていかねばなるまいと思いますが、研究者側の方もうんと一般への理解を求めていかねばならぬと思います。ただし、これがどんどん行き過ぎてしまうという形のことになってもらっては困るというのは非常にはっきりしたことであって、非常に大切な一つの線は絶対に越えないというものをどこかで設定できれば非常にいいがなというのは、個人的には思っているところなんです。  そういう意味からいきますと、このクローン問題、特にヒトクローンをつくるという問題、これは受精をしない形で個体をつくるという意味合いのことですけれども、そういうふうな今現実にないものに関して、一つのはっきりした線として、これはやってはいけないという形のことを研究者側として出していくという格好のことは、これからの先端医療とかバイオサイエンスが社会に受け入れられていくためには非常に必要なことであろうと実は思っております。  ただ、それを宣言するとして、それがどういう規制の中に入るかという規制方法論ということになりますと、ここは非常な悩みがありまして、例えば、欧州評議会の会議で、ヒトのクローニングの禁止に関する議定書というのが昨年の九月二十三日に採択されているのですけれども、ここのところに附帯事項が書いてあるのですね。「上記禁止にもかかわらずクローニングが実際に行われた場合には、産み出された人には通常の人と同様の人権を保障すべきである旨の意見をあわせて採択」したというのがあるのです。これは本当にそのとおりだと思っていまして、法律規制をしようと、それから国のガイドライン規制をしようと、テクノロジーとしては相当楽なテクノロジーだから、それと無関係にとにかくできちゃうという格好のことは存在するんだろう。結局そのときのことが非常に皆さん気になっていることでありまして、これは法規制をしてもそれで完全に事前に抑えてしまうということが可能であろうかということへの疑問というのは多分皆さん持っておられるというようなところで、非常に困っているというところでございます。
  55. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 最先端技術国家として日本が歩むとしましても、一面ではやはり秩序を持った法治国家でもありますから、これからも諸先生方の御教導をいただきたいと懇願します。  一応私の質問は以上をもって終わります。どうもありがとうございました。
  56. 大野由利子

    大野委員長 吉井英勝さん。
  57. 吉井英勝

    ○吉井委員 日本共産党の吉井英勝です。  きょうは、四人の先生方には、大変お忙しいところありがとうございます。  座って質問させていただきます。  最初角田先生にお伺いしたいのですけれども、先ほどクローン牛の約半数近くが比較的早くに亡くなったというお話などありましたけれども、これは、未受精卵細胞質に含まれているミトコンドリアを除いていることによる問題によって細胞のエネルギー生産にかかわる力がうせてしまっているといいますか、そういうふうな問題にかかわるものなのかとか、そういったことを含めて研究中なのかと思いますけれども、今の時点で非常に生存率が低いということもありまして、どうしてなのかなという点を疑問に思っているのですけれども、その辺のところを最初にお伺いしたいと思います。
  58. 角田幸雄

    角田参考人 まず、ミトコンドリアを除いているわけではございません。ごく一部の細胞質を取りまして、そこに核を移植する。確かに、御指摘の細胞質内のミトコンドリアと核との相互作用がうまくいかないという場合もひょっとしたらあるかもわかりません。現時点ではわかりません。私の思いますのは、もしもそういうことがあれば途中で恐らく流産するだろうなと。  生まれて死んでしまうというのは、これはいろいろな理由がございまして、報道機関が非常に騒いだというようなこともございますし、あるいは、分娩兆候が極めて弱いものですから、助産をいつしたらいいかというようなこともございます。真夏にかかったというようなこともございまして、一番の問題は、受精卵移植が、昭和三十九年に、これは世界で初めて成功いたしましたけれども、それ以来、最初の何例かは死んでしまったり、体外受精でもかなり死亡が出たり、関連いたします初期胚の核を使いました核移植でも、去年、おととしで、農水省で調べたところでも、二〇%近くが分娩直後に死亡したりというようなことでございまして、実際のところはまだ全くわからないというようなのが現状でございます。
  59. 吉井英勝

    ○吉井委員 それをお伺いしましたのは、誕生してきた生命体の安全性にかかわる分野にも関係してくるかと思いまして、どのあたりまで解明されているのかなという、そこに非常に関心を持っておりましてお伺いしました。  次に、森嶌参考人にお伺いしたいのですけれども、これまでの法律というのは、婚姻によるものであれ、あるいは婚外であれ、いずれにしても、生まれ方はどうであっても、生まれてきた人についての人権の尊重、そこから始まっているというふうに思うのです。  そういう点で、ヒトクローンの問題について考えてみますと、その点を伺っていきたいのですけれども、例えば、世界人権規約の第一条で、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」ということを、第二条で「いかなる事由による差別をも受けることなく、」云々、第三条で「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。」これは国際的にもそこはもう確立しているわけですし、それから日本国憲法で、さっき先生から十三条のお話伺いましたが、十一条から十四条がすべてかかわってくるかなというふうに思うわけですが、そうしますと、やはり生まれ方そのものに人為的操作が加えられて、差別を持って生まれてきているわけなんですよね。  それは、ヒトの場合ですと、大体ヒトクローンを一番最初に産み出すこと自体が、いわば実験的につくるわけであって、決して自然な誕生ということではありませんし、先ほどお伺いしました生命体の安全性についても確立されていませんから、生まれたそのときから、本来、私たちがお医者さんにかかるのは、みずからの意思で身体にかかわるかなりの部分プライバシーを先生との信頼関係で明らかにするわけですが、このヒトクローンの場合ですと、最初からプライバシーがもうないということにもなってくるわけです。私は、そういう点では新たな法規制というのは、罰則規定などを設けて規制するという点での新しい法律はもちろん考える必要はあるかと思いますが、少なくとも今の世界人権規約とか憲法の体系上、ヒトクローンというのはもともと許されないものではないかなというふうに思うんですが、その点、先生いかがでしょうか。
  60. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 私が冒頭で陳述いたしましたのも今吉井先生がおっしゃったことに尽きるわけでありまして、一たん生まれてきた者に対して、周りは、この生まれてきた者に対する個人尊厳というのはほかの出生じた者と同じだけの個人尊厳を認めなければならないわけですが、まさにヒトクローンの場合には、問題は、生まれてくるまでに自己の意思とかかわらず、あるいは推定的意思でもいいんですけれども、科学者によってそのプライバシーそれから遺伝子の選択決定ということがなされているという意味で、生まれてくる時点で個人尊厳が侵害されることになる、その意味で私は許されるべきではないと。  それは、今先生がおっしゃったように、憲法の十三条が一番中心だと思いますけれども、憲法の中の基本的人権のすべてにかかわっていることではないかというふうに思っております。
  61. 吉井英勝

    ○吉井委員 ヒトクローンで、極端なやり方をすれば母親の体細胞と卵子からも生まれ得ることになるかと思いますが、大人とかあるいは親とかが自分の論理でもってヒトクローンを生まれさせるということも、また科学者に認められないとともに、これは親だから勝手にできるというものでもない、やはりその点が大事な点じゃないかなというふうに私は思うんです。  もちろん、万一不心得な研究者個人的興味でヒトクローンをつくってしまった場合、生まれてきた人については、生まれてしまったという時点では人権尊重はもう当然かと思うんですが、その人権宣言、憲法上の規定とともに、そうすると、今度どういう法律にすれば規制できるかという点についても、あるいはどういう規制法律が必要かという点についてもいま少し森嶌先生の方から伺っておきたいんです。
  62. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 先ほど豊島参考人から、法律でつくると身動きがっかなくなるのではないかとおっしゃいましたけれども、今まで日本では、法律をつくるのは大変大儀なことで、一たんつくっちゃうとなかなか変わらない、そういうプラクティスといいましょうか、実際のことがあったわけです。これは変えればいいことなんですけれども、それにもかかわらず法律でやるということは、国会の議を経てということになりますので、一方で科学の進歩を阻害する危険性もあるわけですので、先ほど申しましたヒト個体をつくり出すようなクローン技術を実施することについて、それを処罰の対象とすると。  それで、どのようなことに規定をするかというのは、先ほど私は中間報告の具体的な対象を申し上げましたけれども、そこで、どこで分けるかというかなり法技術的なものはありますけれども、少なくともその点を押さえることで足りるのではないか。そしてその他の点については、私は、ガイドラインであろうと何であろうと差し支えないというふうに考えております。  諸外国も、結局、侵してはならないところをコントロールしているわけでありまして、この面における法の役割というのは、一線を踏み越えないようにする、そこを押さえるということだと思います。
  63. 吉井英勝

    ○吉井委員 私、次に岡田先生と豊島先生にお伺いしたいんです。  これは、かつて核物理を中心にした人たちが直面し非常に悩んだ問題ですけれども、マンハッタン計画に参加した核物理学者の多くの方たちが、やはり核兵器というのができ上がってしまった後は政治家、軍部、軍需産業の手に決定権をゆだねられてしまって自分たちの良心が生かされないということで、戦後パグウォッシュ会議が組織されてきましたし、それは核物理学者だけじゃなくて、バートランド・ラッセルなどの哲学者も参加してですが、学問的興味だけではだめだ、結果に対する社会的責任が極めて科学者の場合は大きいんだということがパグウォッシュ会議がつくられていく過程の大事な点であったと思うんです。  そういう点で、科学技術会議の中間答申や学術審議会報告に携わってこられる中で研究の自由の問題のあり方についても議論していらっしゃいますが、学問分野から商業分野へ仮に発展した場合、企業利益とかコスト論が中心になってしまってくるということはやはりあるわけで、そうすると、科学者社会的責任の確立という点は非常に大事な分野だと思うんです。それを、法律によって規制を加える、確立する分野とともに、学術会議なりなんなりの学者の皆さんの宣言とか、そういうものによってあわせて社会的責任というものを確立するということも大事かと思うんですが、この点についてお二人の先生から伺っておきたいと思うんです。
  64. 岡田善雄

    岡田参考人 そのとおりだと思っております。  ただ、マンハッタン計画とかというふうな形のものとどこが違うかというと、現実にヒトクローン個体が生まれているわけではないということ、それより前に討論が始まっているということ。それからもう一つ大きいのは、ヒトの問題のときにはそういう大変な問題点があるけれども、畜産とか例えば新しい医薬品開発のところでは、これは、世界との競争の中でこれをやらなかったら多分日本が生きていけないというあたりぐらいの非常な経済効果があるものですが、横にちゃんと存在しているということなんです。  ですから、それをごちゃまぜにしていくと非常に難しいんだけれども、今おっしゃったように、そこの境界線のところで少しややこしいことがこれから存在し得るということはあるでしょうね。  ただし、それはそれとして、今のところ非常にはっきりしている両極というあたりのところを日本ではっきりとさせて、はっきりしたものに関しての対応をまずとにかくちゃんとしておくということが必要である。  それから、科学技術会議のところで生命倫理委員会というのが発足しておりますけれども、これは常置でありまして、これはずうっと続けていくということで、いろいろな問題点、例えばこのクローン問題に関しても、具体的なある制限方策とかなんとかができた後でも、何か新しい問題ができたときには、すぐにそれと対応してやっていけるところとして生命倫理委員会というものの意味があるのだと実は私は思っているようなところなんです。
  65. 豊島久真男

    豊島参考人 基本線といたしましては、私ども審議過程で問題になってきましたのは、育種というのは有用動物に関しては非常に重要なことであるけれども、人間に関してはこれは絶対に許されないポイントである。基本線として完全に一致したのはそれでございます。  ただ、先ほどからも申し上げておりますように、生殖を伴った医療の中で考えられるミトコンドリア病の治療というふうなこともございますので、どのあたりまで完全な禁止に持っていくかというのはまだこれから、技術展開がないと今は望めないことでございますが、十分な議論をしてから禁止事項にしていただきたい。  それで、先ほど私が申しましたように、例えば体細胞核移植によるクローン禁止とか、考えられるものはそういうものじゃないかな。あるいは私の個人的な見解でございますが、そういうふうなことを考えております。
  66. 吉井英勝

    ○吉井委員 最後に一問、角田先生にもう一度お伺いしておきたいのですが、情報公開の問題について、先生のお話はよく私も理解できたつもりなのですが、学会で発表する前に公知の事実になってしまうとという問題はあると思うのですが、ただ同時に、先ほど来、非常に簡単な装置でできるというお話もあり、審議会でも検討されたということで、その場合に、仮に規制する法律をつくるつくらない、まだできていないという段階は別にしても、ヒトクローンにかかわる研究施設について、あるいは研究そのものについて、そこをきちっと確認する手段というものはあり得るのだろうかという点を疑問に思っているのですが、こういう手段を講ずればできるということがあればお伺いしたいというふうに思いまして、それを最後に伺って、私の質問を終わりたいと思います。
  67. 角田幸雄

    角田参考人 豊島先生が座長をされておられます委員会の中で、既に大学等におけるクローン研究についてのまとめができております。ヒト以外については関係ないわけでございますが、ヒト対象としたことを、それに抵触するような場合は倫理委員会なりあるいは文部大臣なりに、正式には私ちょっと忘れましたが、そういうようなところで規制が既にございますし、それは大学等へ公知されております。  ですから、ただいま先生御心配されておりますが、もしもヒトあるいはそれに関連したことをやるような場合は当然それにひっかかってくる、あるいは家畜あるいは実験動物についてはひっかからないというようなことで、一応、規制現時点であろうかというふうに思います。
  68. 吉井英勝

    ○吉井委員 どうもありがとうございました。
  69. 大野由利子

    大野委員長 保坂展人さん。
  70. 保坂展人

    保坂委員 社民党の保坂展人でございます。  座ってお尋ねをします。  まず、岡田参考人豊島参考人、お二人に伺いたいのですけれども、先ほど来、ヒトクローンについて、生命倫理上のさまざまな心配について、それを未然にどう防止するかという観点からお話を伺ったわけなんですけれども、一方で臓器移植なんかでも、街角に小さなチラシみたいなのが張ってあって、幾らで全部やりますよという業者があったりするわけですね。そういう意味で、南北格差というか、海外に行って臓器を買ってきて移植をしますよみたいな話も起きているわけで、先ほどのお話で、ペットのクローンということも、幾ら払ってもいいからみたいな方もいらっしゃるということを考えれば、こうあつてはならないのだけれども、いわば商売上の動機で、例えば知的で優秀な遺伝子を持つ最高の子供が欲しいとか、あるいはスポーツ選手として活躍が期待される子供が欲しいとか、あるいは音楽家とか芸術家、独特の才能を持つ方の遺伝子が欲しいとか、そういうことを商売としてやりますよというようなケースもあるのかな。  あるいは、不老長寿というのは人類古来からの念願ですから、いわば自分のクローンをつくっておいて、これは非合法になるのかもしれませんが、あるときに、医学が進んでいけば、自分の脳を移植してしまって寿命そのものを延ばしちゃうとか、これは想像の域を出ないのですが、どんな心配が具体的に各国で、あるいは先生方の中で語られているのか、ちょっとお聞かせいただければと思うのです。
  71. 岡田善雄

    岡田参考人 各国で何を心配しているか、私は余りよく知りません、今のようなお話なら。私が心配していることならお話ができますが。  何を心配しているかというと、ヒトクローンという話題はSF的にいろいろなものに使われるという形のことが一番心配なんです。サイエンスとしましたら、可能性のある問題点というのは、ここに中間報告に書きましたような格好で非常に制限されたものです。それをどんどん広げていくわけですね、漫画にかいたり、SF小説にしたり。結局それが世の中で一番大変なことになる。特に子供の教育に関しては一番大変なことなんだ。だから、これをいかに防ぐかということの方が大切だというのが私の一番の心配なのです。
  72. 豊島久真男

    豊島参考人 先ほどからいろいろお話が出ておりますように、たとえ法律禁止しても、やる人はやるかもしれない、法律の目をくぐってでも。それができるという程度技術で多分これはできる。ただし危険は物すごく高いですけれども、最終的にはそこまで進むだろうというふうに思っております。  そこで、一番必要なことは、今岡田参考人も言われましたことと一致するかと思うのですが、こういう科学技術の進歩に関する倫理上の議論、討論を続けていって、それによって社会全体として倫理観というのを、世の中の科学技術進歩に関する倫理観というものを確立していくことが非常に重要なことじゃないかというふうに考えております。
  73. 保坂展人

    保坂委員 それでは、続いて森嶌参考人に伺いたいのですが、ヒトクローンをつくるということを法律によって禁止をするとしても、その法律を認めない例えばカルト教団などが意図的にかなり大勢のヒトクローンをつくり出して、それがわかったときには既にある程度成長していたなんというケースが、これも想定しにくいかもしれないですが、例えばそういうことがあったときに、じゃ、その生まれてしまっている子供たちというのはどういうふうに扱えばいいのか。  ヒトには間違いないということであれば、認知しないということもできないとは思いますけれども、そういうことに対して、研究をしてはならないあるいはつくってはならないという規制をかけることはできても、その後のことについて、先ほども触れられていましたけれども、もう少しお聞かせいただきたいと思います。
  74. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 基本的には先ほど申し上げましたとおりに、仮にクローンによるヒト個体が出てきた場合には、そのヒト個体は、そうでない通常の出生による人間と同様の権利義務が与えられるべきだと思うのです。ただ、先ほどもちょっと申しましたけれども、現在の親子法というのは、婚姻がある場合、婚姻関係にない場合とありますけれども、いずれにしても、父親といいましょうか、精子がありまして、卵子がありまして、最近は代理母なんというのもありますけれども、それにしても、もともと受精卵を子宮の中に着床させて、ですからそのいわゆる代理母との間で親子関係ができるわけでなくて、そういう両性生殖を前提にして親子関係を今考えているわけです。従来はそういう、クローンなんという話がなかったこともありますけれども。  そこで、実際に生まれてきた子供に対して平等だといっても、親子関係というのをどういうふうに認めるのか。今の法律、民法の建前では親子関係というのはあり得ないわけですね。体細胞を渡したのは親かというとそうではありません。それから、同じクローンでたくさん生まれた子は兄弟かというとそうではありません。兄弟というのは同じ父母から生まれてきた子、それが双子であるか、年代を違えて生まれてきたかはともかくとしましてそういう建前になっていますので、通常の人間と言うと語弊がありますが、人間として尊重すべきだと思いますけれども、現行法で存在しているいろいろな制約というのは出てきますので、私はその点からもやはり禁止すべきではないかというふうに考えております。  御指摘のように、禁止したって確信犯みたいなものでやる人はいるわけで、それは何もこの問題だけでなくて、いろいろな科学技術にせよあるいはその他の安全規制にせよそういうのはあるわけですが、この場合には、副作用と申しましょうか、この個体が出てくることによる問題が大き過ぎるのではないかというふうに思っております。
  75. 保坂展人

    保坂委員 では再び、ちょっと類似した問題で森嶌先生にもう一度なのですけれども、国際社会でこの問題は大変な問題になっていて、各国ともヒトクローンに対してはやるべきではないということで出ていると思うのです。ただ、かつてのナチスのように特異な独裁主義的な国家で、国策として国家に忠実で筋骨たくましくて攻撃的な兵士をつくるのだという国が絶対ないとも言えないわけで、こういった国際社会議論ということが、そのルールを破るケースが出てきたときにどう対応できるのかというような話は今ありますでしょうか。
  76. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 これは今回の問題と全く違う問題ですが、つまり日本国が法律をもって禁じたとしても、ほかの国で禁じていない、あるいは今の保坂先生のおっしゃるように、積極的に兵隊をたくさんつくり出すためにそういうクローンをつくるというようなことがないとは限りませんけれども、これは現在の法体系のもとでは、国際社会として安全保障理事会なり、あるいはこの場合にユネスコだとか、そういうところで対応せざるを得ないわけでして、残念ながら今のところ、国際社会の異端児が出てきた場合に、直ちに法律的な対応の措置というのはないということになろうかと思います。これは、この問題でなくても、例えばイラクがどうかとかなんとか、北朝鮮がどうかとかいろいろございますので、今の法律には大きな限界があるというふうに思います。
  77. 保坂展人

    保坂委員 それでは、最後に角田参考人にお願いしたいのですが、角田参考人自身がイギリスのドリーの誕生を十分予想されていたかどうか、我々は非常に驚いたわけですけれども。それともう一つは、ドリーの親となった雌の羊が妊娠中で、何か血中から乳腺を通して胎児の細胞がという可能性が否定できないというような説もあると。ドリーは本物なのだろうか、成体からという意味で本当なのだろうかという議論もあるというふうに聞いているのですが、そのあたりもちょっとお考えを聞かせてください。
  78. 角田幸雄

    角田参考人 後の方でございますが、本年の二月、三月ぐらいまでそういう議論がございましたが、これは間違いないということが後のDNAの判定等で確認されたことがネーチャーにも、二カ所から出ております。  それから、予想していたかどうかでございますが、これは全く予想しておりました。私たち自身も、実験動物のマウスを使いまして、これは成体の体細胞ではございませんけれども、初期胚をまず使って子供をつくるということになりますと、その初期胚が、だんだん発生ステージが変わってまいりますと変わっていくものですから、それからは個体ができない。では、体細胞ではどうだろうかというので、一番最初の体細胞になる初めの細胞を使ってマウスで子供ができておりましたので、もう少し早くやれば、全く残念だなという気がいたしましたので、予想はいたしておりました。
  79. 保坂展人

    保坂委員 もう一問だけ。  本当に素人の質問で申しわけないのですけれども、写真で伝えられるドリーの表情というのですか、羊の顔を見ると、いかにもクローンという印象を、まあクローンとして見たからそう思うのかもしれないのですけれども、ちょっとほかの羊の顔と違うような気もするのですが、いかがでしょうか。
  80. 角田幸雄

    角田参考人 その辺のところはわかりません。  体外受精でラットが一番最初に生まれましたときのそれもネーチャーに出ました。日本人最初にやった仕事ですが、目が非常に細いのです。これは異常じゃないかと大きく騒がれましたが、その後次々と生まれてまいりますとそんなこと全くございませんで、たまたまその系統がそういう顔をしていたというようなことではないかなというふうに思います。
  81. 保坂展人

    保坂委員 ありがとうございました。終わります。
  82. 大野由利子

    大野委員長 以上で各会派を代表する委員質疑は終了いたしました。  この際、参考人に対する自由質疑の議事整理について申し上げます。  これより質疑のある委員は、挙手の上、委員長の許可を得て発言されるようお願いいたします。また、発言の際は、着席のまま、所属会派及び氏名を述べた上、お答えいただく参考人を御指名いただくようお願いいたします。  なお、理事会の協議によりまして、一回の発言時間は三分以内となっておりますので、委員各位の御協力をお願い申し上げます。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  83. 辻一彦

    ○辻(一)委員 民主党の委員の辻一彦でございます。  角田参考人にお尋ねしたいのですが、私は、昭和六十年ごろにアメリカの植物、松や杉ですね、こういうものを細胞移植というか細胞で培養しているのを見たことがあるのですが、それは植物ですね。だけれども、それを大量にやっていました。植物なら問題がないのですが、動物へ、人間へこういう技術が、科学が適用されて発展していったらどうなるのだろうか、こういうことを感じたことが昭和六十年ごろにありました。  したがって、人間へこういう問題を適用するのはこれはもう絶対禁止をすべきであると思いますが、そのことはもう触れませんが、問題は、畜産の分野には、育種というか、いいのをどんどんふやしていくという面で、牛等には適用される可能性がだんだん強くなると思うのですね。  しかし、前にイギリスの牛が脳を侵されて随分倒れた、食べ物からきたのではないかという論議が随分あったのですが、安全という点で、いわゆるクローンの牛等、そういうものを人間が食用として使う、利用していくことになる場合に非常に大きな問題があるのではないか。それは短期間ではなかなかわからない。長期にわたる非常な影響というか、問題があるのではないか。したがって、畜産に活用していくということは結構だとは思いますが、それを人間が利用する、食べ物にするということについては非常に慎重さがないといけないのじゃないかと思うのですが、そこらの御見解をお尋ねいたしたいと思います。
  84. 角田幸雄

    角田参考人 先ほどのイギリスの牛が病気になったというお話でございましたが、これは、牛は草食動物でございますので、草食動物に羊の脳を粉砕したようなものをやっているということ自体が大体問題かなと。いわゆる狂牛病と呼ばれておりますが、そのこととこのクローンとは関係がないというふうに申し上げた方がよろしいと思います。  何の遺伝子の操作もいたしておりません。細胞丸ごとから個体をつくっているわけでございますから、体外授精なんかとほとんど変わらない。ただ、有性生殖はしていない、そういう点はございますが、細胞をただ単に操作して、その本来持っている能力を私たちが引き出している。新しくつけ加えたものではございませんので、能力を引き出しているにすぎないわけでございますから、それを仮に食料にしても何の問題もないというふうに思います。  ただ、御指摘のように、この生まれました子供が本当に正常に育っていくのかどうかとか、そういういろいろな問題をこれから調べていかなければいけないというふうに思います。ですから、少なくともそのためには三年から五年ぐらいかけてきっちりと調べました上で、これは畜産でございますから、いかにうまくいくとしましても、経済的に割が合わなければ実用化しませんので、そういうようなことも含めて、実際の日本あるいは世界でこの技術畜産の現場で使えるかどうかというような検討をこれからしていかなければいけない。まだそこまで来ていないというふうな気はいたしております。
  85. 辻一彦

    ○辻(一)委員 時間がないと思いますから結構です。ありがとうございました。
  86. 山口俊一

    ○山口(俊)委員 御指名いただきました自由民主党の山口俊一でございます。  きょうは参考人先生方、本当にありがとうございました。  実は私も、前々からクローン等々、先ほどどなたでしたか、もともとはSF的な入り方だったのですが、非常に興味があって、いろいろ本も読ませていただきました。  先ほど来質問等々をお伺いをしておりまして、どちらかといえば法規制云々というふうなお話が結構多かったわけなんですが、実は私は違いまして、科学の進歩というのは何なんだろうか。ある意味でかなり非倫理的であり、あるいは反社会的であり、あるいはまた、まさに神をも恐れぬというふうな部分が実は若干科学のブレークスルーみたいなものをいざなってきたのかなというふうな感じも一面持っております。  そうした中で、先ほどもお話がありましたが、世界各国ともに、実は今回のクローンの問題に関して新規立法というのはないのですね。ガイドラインとか、あるいは法律をやろうという話はあるのですが、今のところない。実は、そうしたこれからの科学の進歩等を、もちろんいろいろ問題はありますけれども、果たして我々にそうした法律規制をするという権利があるのかなというふうな気持ちも反面いたします。  ですから、結論からいいますと、ガイドライン的なものが一番いいのじゃないかなというふうな感じがするわけでありますが、その点につきまして、森嶌先生、角田先生、お二人に御意見をお伺いをいたしたいと思います。
  87. 森嶌昭夫

    森嶌参考人 法というものをどう考えるか、科学というものをどう考えるか。科学の名において何でもやれるというふうな前提に立てば、確かにおっしゃるとおりでありますが、先ほどの御指摘の新しい法律はないかもしれませんけれども、従来の受精卵等の取り扱いに関する法律クローン禁止できるということですから、その意味法的規制はかかっている国は幾つかございます。  そして、ガイドラインにすることと法律にすることとの区別というのは、この小委員会にありましても、自然科学の方はガイドラインというふうにおっしゃる。しかも、例えば一定のグループのガイドラインでは間に合わないので国のガイドラインとおっしゃいますけれども、やはり規制をするというのであれば、それはきちっと、国民意見を聞くという機会がある国会でやるべきですし、今の一番最初お話がありました、科学技術というのは神をも恐れぬということもあるのじゃないかということを国会の先生方がお選びになるのであれば、それでもいいのかと思いますけれども、私は、法というのはバランスの問題でありますから、今現在のバランスで、ヒトクローンに関してはそれを禁すべきである、その限りで科学を制御すべきだというふうに考えておりますので、それでやるのであれば、私は法律ということが妥当ではないかというふうに考えております。
  88. 角田幸雄

    角田参考人 私が適当かどうかわかりませんが、御指摘いただきましたように、科学の進歩を考えるがゆえに、私自身はヒト個体をつくるところは禁止していただきたいなというふうに逆に考えております。
  89. 大野由利子

    大野委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、参考人に一言御礼を申し上げます。  参考人各位におかれましては、本日は大変貴重な御意見をありがとうございました。  ヒトクローン個体を産み出すことが、SFの世界ではなくて現実の世界の話になりつつあるという、大変生々しいお話を伺いました。何らかの規制が必要であるということについては共通した意 見であったろうか、このように思いますが、規制あり方を含め、今後科学技術委員会質疑の参考にさせていただきたい、このように思っております。  委員会を代表いたしまして、厚く御礼を申し上げます。大変ありがとうございました。  次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時二十八分散会