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角田参考人 近畿大学農学部の
角田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
お手元にお配りしてございます資料に基づきまして御紹介を申し上げます。まず、お手元の資料の一ページ目をごらんください。
核移植技術は、もともと
クローンをつくり出すために
開発された
技術ではございません。動物が
発生していく仕組みを解明しようとする
目的で
開発されてきた
技術でございます。一九五二年にカエルで、
アメリカで初めて
報告がなされまして、六二年にはアフリカツメガエルのオタマジャクシで、オタマジャクシは哺乳類でいいますと胎仔に相当いたしますが、そのオタマジャクシの体
細胞の
核移植で
個体ができたわけでございます。
二ページ目をごらんください。
四十年以上にわたって行われましたカエルでの
核移植の実験から、カエルの体
細胞の
核移植によりましては、オタマジャクシまでは
発生しますけれども正常なカエルはできないとされておりました。にもかかわらず、昨年二月二十七日に、より高等な哺乳動物であります羊で、成体の体
細胞の
核移植で
子供ができたということで、学術的にも大きな話題となったわけでございます。
三ページ目をごらんください。
クローン家畜を
作製する
技術は、家畜の
育種、改良、増殖のための
一つの手法として行われております。
四ページ目をごらんください。
申し上げるまでもなく、人類は、紀元前の時代から試行錯誤を繰り返しながら家畜の改良を進めてまいりました。十八世紀後半になりまして人口が急増して、食糧生産をしなければいけないということになりまして、
育種理論に基づいてさらに生産性の高い品種をつくり出してまいりました。しかしながら、植物とは違いまして、
子供の数が牛の場合一頭でございます。妊娠期間が二百八十日というような長い家畜におきましてはなかなか改良が進んでまいりません。そこで
開発してまいりましたのが、人工授精の
技術と
受精卵の
移植の
技術でございます。
五ページ目をごらんください。
人工授精の
技術が家畜の改良に使われるようになりましたのは、一九五二年、
イギリスで精子の凍結保存という
技術が
開発されたことでございます。このことによりまして家畜の改良が大きく進みました。
六ページ目をごらんください。
受精卵の
移植技術でございますが、昭和三十九年に、農林水産省
畜産試験場の
研究室長でございました、私の恩師でもございますが、杉江佶先生が、世界に先駆けまして、オリジナルな
技術として牛の非外科的な
移植法を
開発されました。このことが、世界じゅうで
受精卵移植技術が家畜の改良に使われるようになってきた契機でございます。
七ページ目をごらんください。
横になっておりますけれども、これは、人工授精が普及し、そしてまた
受精卵移植技術による子牛の生産が増大してきたことによりまして、いかに家畜の生産性が向上してきたかという一例を示してございます。乳牛一頭当たりの年間の搾乳量でお示ししてございます。
こういう
技術が全く使われておりませんでした一九四〇年代におきます乳量はわずか三千キロ未満でございました。これが今や八千キロを超えております。もちろんこの理由は、栄養であるとか管理の向上も大きいわけでございますが、日本じゅうの牛の
育種、改良が進んだということが一番大きゅうございます。一九四〇年代の頭数と現在の牛の頭数を比べますと現在の方が少ないわけでございますが、我々のどこの家庭にも水と同じような扱いで牛乳が保管されております。このように我々が
畜産物を豊かに摂取できるようになりましたのは、このような
技術開発によりまして生産性が向上してきたことによります。
しかしながら、人工授精の普及率は図でごらんのように既に一〇〇%でございます。
受精卵移植技術もこのような形で使っていくことは実はできません。その理由は八ページ目に書いてございます。
長い年月をかけまして雄牛を一頭
育種、改良いたしたとしますと、その牛の
子供は、ざっと計算いたしますと二万四千頭の子孫を残すことができます、精子はたくさんございますので。ところが、
受精卵移植でございますと、幾ら長い年月をかけていい雌牛を育成いたしたとしましても、一年間に採取できる
受精卵の数は十八個でございます。十八対二万四千というような形でございますと、
受精卵移植技術を人工授精と同じように家畜の改良に使うことはできません。
九ページ目をごらんください。
そこで私たちは、この
受精卵移植技術の家畜改良上の効果を高めるために新しい
技術を次々と
開発してまいりました。すなわち、一度に二頭の子牛を生産する
技術、あるいは一卵性の双子をつくる
技術、保存する
技術、体外で
受精卵をつくり出す
技術、産子の性をコントロールする
技術、
核移植の
技術、あるいは
遺伝子導入、これはいずれも
受精卵移植の家畜改良上の付加価値を高めようとして
開発してきた
技術でございます。
十ページ目をごらんください。
哺乳類におきます
核移植の成功というのはそんなに古いことではございません。便宜的に三つのカテゴリーに分けさせていただきました。用いる
細胞によりまして、すなわち、初期胚を使う場合、それから胎仔、これはオタマジャクシに相当いたしますが、胎仔の体
細胞を使う場合、成体の体
細胞を使う場合でございます。
初めて哺乳動物、哺乳類で
核移植に成功いたしましたのは、一九八三年に
アメリカで成功いたしました。我が国では、八五年に初期胚を使いまして
核移植に成功いたしております。これはマウスでございます。牛では八七年、日本では九一年ということでございます。ここで得られます
個体の特性は、一卵性の双子、三つ子、四つ子、五つ子というような特性になります。
胎仔の体
細胞を用いて
個体が得られますと、これは大量に得られます一卵性の産子でございます。
成体の体
細胞の
個体が得られますと、これは、先ほど来出ておりますビルムートらのドリーの
報告、それから
アメリカでのマウスの
報告、私たちの牛、これは投稿中でございますが、こういうもので生まれてまいります
子供は、
細胞を採取しました
個体のコピーということになりまして、前二者とは大きく異なる点でございます。
次の十一ページ目をごらんください。
核移植の手法をごく簡単にお示ししてございます。
すぐれた形質を持つ動物から
細胞を採取いたしまして体外で培養をいたします。そして、
核移植をいたします前に、「
細胞周期の同調」と書いてございますが、いろいろな前処置をいたしました後に
核移植をいたします。そして融合処置、活性化処置をいたしまして、対外で培養して、それを受胚雌、牛へ
移植するわけでございます。そういたしますと、二百八十日ほどたちますと子牛が生まれるということになります。日本ではこの培養はすべて体外で行っておりますが、ドリーの例を初めとしまして、諸外国ではすべて羊を使っている、羊の卵管の中で培養するという違いはございます。
十二ページ目をごらんください。これまでに誕生いたしました、これは胎仔由来ではございません、成体体
細胞由来の子牛の例を示してございます。
一番から十三番、十三頭の子牛が生まれております。丸で囲っておりますのが現在生存いたしておりますが、残りは、いろいろな原因で直後に死亡しております。
十三ページ目をごらんください。
この
技術が確実なものになるといたしますと、長い年月をかけて改良を重ねました望ましい遺伝形質を持つ家畜のコピーをつくり出すことができるということで、先ほど申し上げましたような、二十一世紀に向かっての食糧生産、
畜産物の生産に対応できる
技術になるであろうというふうに考えております。また、
ヒトのための有用な物質を生産するための
技術としても十分に使えるというふうに思います。
十四ページ目をごらんください。
現在私たち、私自身の手の中には、分化した体
細胞を操作いたしまして
個体をつくるという
技術がございます。この
技術を使いまして、どういう
細胞であれば
個体になるのか、逆に言いますと、どういう
細胞であれば奇形なり異常が出るのか、あるいはどういう
方法であれば
個体ができるのかというのを今調べております。また、分化しました体
細胞から
個体ができるわけですから、これはどういう
遺伝子の発現でできるようになっているのかということも調べております。
さらに興味深いことは、得られました
子供の
生殖能力は正常であるか、正常に育つか、特に年齢、寿命はどうなっているかというようなことを今後調べていきたいと考えております。
こういうようなことを通じまして、哺乳類におきます
発生機構の解明に貢献できるだろうというふうに思います。本日は、家畜の生産性の向上ということに絞りまして
お話を申し上げましたが、この
技術は、冒頭申し上げましたように、
発生、それから分化、老化、さらにはがん化等の機構を解明するための新しい切り口になるというふうに思っております。
最後の十五ページ目をごらんください。
極めて私自身困っていることがございます。これは、学術論文として公表する前に次々と
クローン牛に関する話題が報道されておりまして、私自身極めて
研究者として困っております。
これは、
科学技術会議クローン小委員会の
中間報告、
文部省の
学術審議会の部会の
報告、これは私も
委員にならせていただきましたが、ここでの
情報公開の
考え方を農林水産省では拡大解釈をいたしております。
すなわち、農林水産省ではこれらのことを踏まえまして、
クローン委員会を設置し、
核移植胚を
移植された受胚牛が遅くとも妊娠百日目になりますと、申し上げましたように牛では妊娠二百八十日以上ございますので、
細胞の種類等を含めました具体的内容を公表するという通達を、各県の
畜産試験場並びに私どものように特殊法人からお金を、生研機構というようなところからお金をもらっております
大学にも出しております。そのために、最近連日のように体
細胞クローン牛に関する
情報が新聞、テレビ等で報道されます。
このような形で報道されてしまいました仕事は、ネーチャーなどのような学術雑誌に投稿いたしましても受理されません。これは、
大学だけではございませんが、
研究者の
研究意欲を大きく損なうという結果になります。もうこういうことをやるのは嫌だという気にもなってしまいます。
どうか、実験動物や家畜における
研究は、論文として公表されましてからデータベースあるいはホームページあるいはマスコミ等へ公表すればよいというような御配慮をお考えをいただければ、
研究者として非常にありがたく存じる次第でございます。
以上です。