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参考人(
江見俊太郎君)
芸術文化振興連絡
会議、長いのでパフォーミング・アーツ・ネットワークを略称してPANと申しております。議長の
江見俊太郎でございます。本日はお呼びいただいてありがとうございます。本業は俳優業でございまして、五十二年間ずっと続けてきましたが、中には悪代官を演ずることも間々ございます。しかし、最近は本物の悪代官の方がふえ過ぎちゃって、どうも役者の悪代官が顔負けするという、悪代官同士としては逆にいささかコンプレックスを感じているというようなところでございます。
PANという
組織は、あらゆる
芸術団体と
市民の文化
団体とが三千
団体もネットワークを組んだ
組織でございまして、こういう
組織はかつてこの国では歴史上なかったんではないかと思います。私ども俳優連合も国際俳優連盟というところに加盟しておりますが、この大会のときに、
活動報告の中でPANの話をしましたところ非常に驚かれました。どういうふうにやっているんだというようなことを盛んに質問を受けました。
まず、私どもが冒頭で申し上げておきたいのは、先日先生方にお渡しいたしました
NPO法案に関する緊急提案のことでございます。これは、私どもPAN単独ではなくて、
NPO法の
成立を期待する運動
団体が一致して提案をいたしたところでございます。
その
趣旨は、文章にもありますように、与野党から提出された三
法案をもとに徹底した審議をしていただき、よりよいところを取り入れ合って、
超党派議員立法として早期に
成立するように御尽力いただきたいというものでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
PANは三千もおりますけれども、約六割は非営利の
団体でございまして、他の
営利団体といっても、その
団体は
自分たちが本当にとりたいと思う適当な
法人格がないためにやむを得ず有限会社とか
株式会社にしている劇団などもございます。また、鑑賞するような
組織もございますが、鑑賞だけではなくて、
市民みずからが創造とか表現
活動に参加するいわゆる
市民参加型の文化
活動が非常に活発になっております。
私ども俳優のための
組織である
日本俳優連合というのがございます。森繁久彌が
理事長でございまして、私も副
理事長の一人を務めておりますが、これは事業協同組合でございます。やむを得ずそういう形をとったんでありますが、実態としては、最近は特に
社会参加の会というような会をつくりまして、老人
施設とか障害者の
施設を慰問したりして車いすサポートボランティアというのをやったり、チャリティーウオーキング、
市民と
一緒に歩いて少しずつ、五百円でしたか、
寄附していただいてそれをジョイセフに
寄附するとか、あるいは献血運動とかそういうこともやっております。これはまさにもう
NPOであります。ところが、俳優連合の会費は四〇%も税金が取られます。滞納者がいても、その人からも税金が取られるというようなことがございます。
PANとしての要望の第一点は、この
NPO法は単にボランティア
活動だけに重点を置かないで、
芸術団体や
市民文化
団体も対象として、その特性を生かした
法律にしていただきたいということでございます。特性とはどういうことかと申しますと、本来の芸術
活動というのは非営利的な性質のものでありまして、営利を第一義としたのではよいものはできません。
NPOであることが
芸術団体の本業と言ってもいいくらいです。
私自身も昨年、悪代官ではございませんで、
自分の戦争体験をもとにした
一つの私なりの使命感を持って芝居をつくりました。これは、準備に一年以上もかかりまして、やった公演はたった四回でございます。多くの
市民の協力も支援も得ましたけれども、結局は赤字でございました。しかし、私自身は俳優としての芸術的な喜びに浸ることができたわけでございます。
しかし問題は、そういう
活動が永続的に続けられるかどうかということです。要するに、何らかの
社会的な支援がなければ芸術は成り立たないというのが、これはもう国際的な常識でもございます。そのことは、一九九六年にPANが
国会議員の皆様を対象に行った
NPO法に関するアンケートの中でも、非
営利団体が継続的な
活動をする上で何らかの
社会的支援が必要かどうか。ぜひ必要というお答えをいただいたのが七七・八%もございました。また、
税制優遇措置がぜひ必要だというお答えも七四・三%ございました。
非
営利団体の特性の
二つ目としまして、芸術や文化
活動は、衣食住のように物質で人々を潤すというのとは違いまして、感性に訴えて人々の心を豊かにし、明日への活力を与えるものです。例えば、子供時代に感性が育てられると大人になってからの創造力が豊かになるそうです。感性が育たなければ創造力が育たない。逆に言えばそういうことになります。ですから、それは国全体の国力と申しますか、経済力にも結びつくことになると思っております。要するに、非営利の芸術・文化
団体のそういう特性を生かした
活動の支えとなるような
制度になることを私どもは要望するのが第一点でございます。
第二点といたしましては、定義上の不
特定多数の利益の増進について、いわゆる
公益などの条件規定で対象範囲が狭められないようにお願いしたいということでございます。例えば、会員制の
団体は不
特定多数ではないじゃないかというようなことを言われますと、従来の
公益法人における
公益の概念と同じように解釈されますと、せっかくできる新しい法
制度の意義が損なわれるのではないかと思います。
確かに、会員制の
団体が幾つもございます。例えば、
市民の文化
団体の
一つである子ども劇場というのは、これは鑑賞も含めておりますけれども、文化
活動自体もやっているわけです。そして、
地域全体の文化的環境の拡充を図っているわけで、最近では子供みずからがその表現
活動、創造
活動にも参加しております。また鑑賞の際には、それこそ不
特定多数、会員でなくても見ていただくというような
制度もとっているわけです。
それから、劇団とかオーケストラの支援
組織というのがございます。
特定の
芸術団体を支援するための会員制ですけれども、このことは、結局は芸術ジャンル全体の発展を図っていることになります。東京都響とかそういう初めからスポンサードシップのオーケストラというのは非常に安定していますけれども、独立したオーケストラというのは非常に苦しいわけです。また、地方においては文化ホールによる会員
組織というのもございますが、
施設を活用した
地域の文化振興を図っているわけでございます。
要望の第三番目としましては、
税制上の措置のことでございます。財政基盤の中心が事業収入と補助金だけでは、ただでさえ文化予算の少ない
日本では、恐らく芸術・文化
団体は
NPOの
法人格をとっても余り
意味がないことになるのではないかと思います。つまり、具体的に言えば
民間からの
寄附金を集めやすくなるような
制度にしていただきたいわけでございます。
あのレーガン政権は、福祉予算とか教育予算を削減して大変批判をこうむりましたけれども、同時に
税制改正をして
寄附金控除というのをふやしたんです。
個人は所得の五〇%まで全額控除、これは実際には一五兆円も集まったそうです。
企業の場合は五%を一〇%にしました。結果的に、アメリカは
NPOに福祉や教育サービスを肩がわりさせるような結果を生んだわけです。経済的にも八百万人という大勢の人が雇用されました。全体的な経済規模というのは全GNPの七%以上、金額にして十八兆円になりました。
個人からの
寄附は十五兆円を超えました。
日本の大蔵省は、
税制優遇しちゃったら税収はぱっと減っちゃうんじゃないかというふうにどうもお
考えなんじゃないかと思うんです。
私
たちが
税制についてかねがね思っておることは、文化政策自体がきちんと実行されて、いい案が各党から出ておりますが、なかなか実行されません。
NPO法といわず、文化芸術基本法というようなものが
日本にはないわけですけれども、農業基本法とかスポーツ振興法とかいうのがございます。それと同じように芸術についても
考えていただけないものだろうか。そして、文化予算もふやし、
社会的な基盤整備もきちんとしていただくというふうにするか、
NPOのように税金分をとりあえず
市民の手に預けるような形で文化
活動を活発にして
社会還元する、そのどっちかじゃないかというふうに
考えます。
税制優遇がされない限り、芸術・文化
団体にとっては積極的な
NPO法人格取得は
考えられないのではないかと思います。どうか今回の審議で何らかの条文規定をするように
考えていただきたいと思います。何が何でも今回の審議で入れろというようなことを
考えているわけではございません。
附帯決議というのがございますけれども、私
たちはこれについては何度も苦い思いをしておりまして、私は著作権法
改正については三十五年間もやってきました。その間に十二回も附帯決議が衆参でつきましたけれども、全く
実現しません。入場税のときもそうでした。文化予算が少ないので何とかしてくれという運動をやりまして、芸術文化振興基金というのができました。しかし、これも増額するという附帯決議は七年間
実現しておりません。
最後に、この
三つの要望とは別に、ここのところへ来て非常に私気になる
法案上の規定があります。さっき
福島さんがおっしゃったのと同じような点になりますが、
与党案の定義の中の第二条にある政治、宗教上の制限規定でありまして、特に第二項のハのところでしたか、その後半に「若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対するものでないこと。」と。
つまり、推薦したり支持したりしても、それから批判してもいけない。それも、その前半のように「主たる目的とするものでないこと。」という文言がありませんから、例えば演劇
団体が、時の大臣やお役人を褒めても批判しても、そういった芝居をした劇団は
NPOの資格をとれなくなっちゃうんじゃないかなというような危惧を感じるわけでございます。宗教上のこともそうですが、
憲法で言うところの表現の自由とか信教の自由は一体どうなるのか、大変気になるところでございます。
そろそろ時間のようですけれども、最後にちょっとした思いを申し上げますが、本当にこの
NPO法がいいものができますと、
日本の
社会全体が
市民の活力に満ちた文化国家になるというふうに思います。あの阪神大震災では、政府がびっくりするほどに
市民が自発的な活力を発揮して、義援金は千七百八十七億円も集まったそうです。よい
NPO法ができれば、
市民はもっとパワーを発揮すると思います。
戦争中は大政翼賛会なるものがあって、国民は見事にマインドコントロールされました。私自身の青春は、お国のために特攻隊員となって死ぬことでした。全く自由というのはありませんでした。ところが敗戦で、突然自由の身になったときには、私は、長い間おりに閉じ込められた動物が、はい出ていけと言って一遍に解き放たれたときのように実は戸惑いまして、目ばかりぎょろぎょろして、一体おれはこれからどこにいればいいんだ、
自分の進むべき道はどこなんだと必死で探しました。
考えに
考えたあげくで、国境がない芸術の道を選びました。負けた
日本でも対等につき合えるというのは芸術だと思ったわけです。
それから五十二年間、俳優一筋でやってまいりました。つくづく思うのは、この国は確かに物質は豊かになったけれども、何と心貧しい国になってしまったのかなという感慨でございます。私自身の
自分の非力も感じますから、こういう
NPO法に期待する思いは人一倍でございます。
これからは
市民の自発性と自主性を生かした多元的で多様な活力に満ちた
日本の
社会が築かれるように、現在提案されている三
法案を
超党派議員立法として立派な
NPO法ができるように、早期に
成立するように御尽力をお願い申し上げまして、終わります。
ありがとうございました。