○牛嶋正君 私は、
総理大臣及び
大蔵大臣の
財政演説に対し、公明を代表し
質問を行います。
年明け五日の東京
市場の相場は、
平成十年の
我が国経済の
動向を占うという意味から多くの人々の注目を集めました。しかし、
政府が十二月に打ち出した二兆円
減税を初めとする
景気対策及び
金融システムの
安定化のための一連の
緊急対策にもかかわらず、円相場は五年八カ月ぶりの一ドル百三十二円台後半まで下落し、日経平均
株価も一万五千円を割り込み、波乱含みの幕あけとなりました。そのため、
国民が抱いていたかすかな
景気回復への期待は完全に打ち消されてしまったのであります。
まさに、
市場はこれらの一連の
緊急対策に対してはっきり
効果なしと
判断したことになりますが、これはまた
平成九年度
補正予算案に対する
市場の厳しい評価でもあります。この
市場の反応は、いつも後手に回る
景気対策に対する
国民のいら立ち、一貫性を欠き、場当たり的に打ち出される
緊急対策への
国民の失望及び厳しい
経済の
実態を無視した
政策立案への
国民の怒りを代弁したものであり、橋本政権に対して不信任を突きつけたものであります。
総理は、この
市場の評価をどのように受けとめられておりますか、まず
お尋ねいたします。
私は、
経済の
実態を踏まえた有効な
景気対策を打ち出すためには、これまで
景気回復の足を引っ張ってきた
個人消費の
動向について徹底した分析を加える必要があると
考えます。
昨年一年の
個人消費の推移を振り返るとき、一月から三月までは
消費税率引き上げに対する
駆け込み需要もあって、
景気回復の基調を確かなものにするやに見受けられた時期もありました。そして四月以降の
消費需要の低迷は、一応
消費税率アップによる
駆け込み需要の反動とみなされてきたのであります。しかし、五月、六月を経て七月になっても
消費の
回復の兆しは見られず、ずるずると秋に至り、さらに低迷のまま年を越すことになってしまったのであります。
昨年後半の
個人消費の伸び悩みは、
景気回復の基調を弱めただけでなく、
足踏み状態から
不況へと
我が国経済を追い込んでいきました。なぜ
個人消費は低迷を続けるのか。この説明のためしばしば
先行き不安という言葉が使われてきましたが、その意味のあいまいさのため、残念ながら、そこから
個人消費の
回復のための具体的な
対策を打ち出すことはできなかったのであります。
先行き不安という言葉のあいまいさは、幾つかの要因によって構成されている複合不安であることにあります。すなわち、
景気の
先行き不安、
金融不安、雇用不安、そして老後の生活に対する不安など、多くの要因が複合して
不安感を募らせているのであります。したがって、二兆円
減税が仮に
景気の
先行きに少し明るさを与えたとしても、
国民の心に重く覆いかぶさっている
不安感が取り除かれない限り、
消費への
効果は全く期待できないのであります。
また、
補正予算案では、不安が不安を呼ぶという悪循環を断ち切るため、
金融安定化のための
緊急対策を打ち出していますが、複合不安という
考え方に立つとき、これだけでは不安増殖の悪循環は断ち切れないと
考えますが、
総理の
見解を
お尋ねします。
複合不安を構成する要因の一つ一つを取り除くため、総合的かつ整合的に
改革を進め、
政策を打ち出していくことが必要であります。
とりわけ、
国民生活に直接関連している雇用不安や老後の生活に対する不安を取り除くためには、早急に
国民のだれもが二十一世紀の安心で豊かな少子・高齢社会の姿をはっきりと頭に描くことができるような形で
経済構造
改革や社会保障
改革を進めていかなければなりませんが、これまでの六つの
改革の進め方を見るとき、このような姿勢が全く見られないように思いますが、
総理の
見解を
お尋ねします。
二十一世紀における
我が国の
経済財政運営の
基本的方向を
考えるとき、まず幾つかの制約を想定しておかなければなりません。
中でも、二十一世紀の比較的早い時期に人口減少が始まるという人口推計は、
経済財政運営に最も厳しい制約を課するものであります。そして昨年十二月に開催された地球温暖化防止のための京都
会議で討議された地球環境を守っていくという制約も極めて大きいものであります。また、
我が国はそれほど資源に恵まれているわけではありません。それだけに、資源は有限という制約をいつも
考えておかなければなりません。さらに
我が国は、これまで築いてきた
経済基盤に基づいて、国際社会において
一定の役割と貢献を果たしていかなければなりません。
これらの制約が決める枠組みの中で
我が国の
経済財政を運営していくとなれば、最近の
個人消費の
動向も
考え合わせると、今後、
我が国経済の
成長率は二%前後を上限と
考えざるを得ないと思いますが、この点についての
総理の
見解を
お尋ねします。
しかし、
国民の皆さんに安心を与えるためには、二十一世紀においても完全雇用と物価の安定はどうしても実現していかなければなりませんが、そのためには、これまでの
経済や社会の仕組みのもとではGDPの
成長率は三%前後が維持されねばならないと想定されてきました。結局この一%のギャップは、
経済や社会の仕組みを変えることで埋めていかざるを得ないのであります。しかるに
政府は、
財政構造改革を進めるに当たって
成長率三%を
前提としています。これでは
財政構造改革案全体が画餅にすぎないと言わざるを得ません。
総理の
見解を
お尋ねいたします。
このような
経済や社会の仕組みの大
改革は、二十一世紀を迎えるために私たちが越えなければならない高いハードルであるとともに、後年、
経済史を振り返るとき、まさに産業革命にも並ぶべき大きな出来事になると
考えられます。
産業革命は、
市場原理という資源の効率的利用を実現させるためのすばらしいメカニズムを用意してきました。そして
市場原理は、私たちの生活水準を高め、物質面で豊かな生活をもたらしてくれました。そのため、今進められている
経済構造
改革にしても
金融構造
改革にしても、
市場原理の
活用を促すことを念頭に進められているとみなされます。
しかし、ここで私たちは、産業革命以降、
市場原理がもたらしてきた
経済社会の究極の仕組みが大量生産、大量
消費、大量排出の仕組みであることを忘れてはなりません。この仕組みは私たちの生活を豊かにしてくれましたが、この仕組みによって私たちは多くのものを失いました。このことを
考えるとき、今
政府が進めている六つの
改革は、大量生産、大量
消費、大量排出という仕組みに対する挑戦でなければなりません。この仕組みのいい面を残しながら、さきに示した四つの制約の枠組みの中で私たちの失ったものをどう取り戻していくかであります。
このように
改革を進めていくためには、
市場原理に加えてもう一つの原理原則、例えば外部
経済を内部化するためのルールづくりなどが求められると思いますが、この点についての
総理のお
考えを
お尋ねいたします。
政府が進める
改革や
政策に対して常に
国民の
信頼を得て強力に推進していくためには、少なくとも
二つの
要件が満たされねばならないと思います。
第一の
要件は、
改革の目指す方向や
政策の
目標がすべての
国民にとって明確であるということであります。この
要件が満たされることで、
改革に伴う痛みについても
国民はある
程度受け入れるはずであります。
そして第二の
要件は、打ち出される
改革案及び
政策が公正、透明であり、相互に
整合性を保ち、そして全体として
政策に一貫性が見られることであります。特に今回の
金融システムの
安定化のための
緊急対策の柱となっている
公的資金導入に対しては、第二の
要件、すなわち公正、透明性がきちっと満たされなければ
国民の理解を得ることは到底不可能です。私は、これまで
政府、大蔵省が進めてきた
安定化策を振り返るとき、この点に関して強い危惧を抱くものであります。
すなわち、
住専処理も含めてこれまで
政府、大蔵省が進めてきた
安定化策は、現行の
金融システムをできるだけ守りながら、個々の
金融機関を
健全な
経営状態に戻すとともに
預金の
全額保護を
基本としてきました。その意味では、これまでの
安定化策は、大蔵省の
金融行政の姿勢とみなされてきたいわゆる護送船団方式をそのまま受け継いでいると言わざるを得ないのであります。そのため、刻々変化する
経済の
実態とともに
金融取引の
グローバル化や複雑化が進む中で、その時々に発生する新しい問題に適切に
対応できる迅速性が確保できなかったのであります。現に、山一証券
破綻の直接の原因となった簿外債務の問題とか貸し渋りの問題は、
金融安定化策が後手に回ってきたことを示すものにほかなりません。
今、
金融システムの
安定化を進めるに当たって求められる
金融行政の姿勢は、もはや自力で立ち直ることが難しい
金融機関は思い切って整理するという前向きの姿勢であります。今回の
緊急対策にはこの姿勢がまだ十分に見られないと思うが、
大蔵大臣の強い決意を求めます。
これまで
政府、大蔵省が進めてきた
金融安定化策において
指摘しておかなければならない重要な点がもう一つあります。それは、
経営者に対する自己責任の追及が甘かったことであります。ここにも護送船団方式が抱えている
救済型の
安定化策の問題がうかがわれます。特に、
公的資金の導入に当たって、このスキームが公正で透明で、そして整合的であるためには、
公的資金配分の公正なルールの確立とともに、モラルハザードを完全に封じ込める基準を設定しなければなりません。これが大
前提であると思います。そのため、
金融安定化のための
緊急対策において、
経営者の自己責任の原則とそれに伴う情報開示のルールに少しでもすき間が見られるならば、私は断固この
政策に対して反対していくつもりでございます。
このことを強く訴えまして、私の
質問を終わらせていただきます。(
拍手)
〔
国務大臣橋本龍太郎君
登壇、
拍手〕