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参考人(
前田稔君) 私は、宮崎県県立
学校の五ヶ瀬
中学校・
高等学校の
前田稔でございます。
私は四月一日に赴任いたしまして、現在二カ月になるわけでございますが、二カ月間特にフレッシュな目で
生徒たちを見た感想も交えながら、
学校の設立の経緯、
現状、成果、
問題点、
課題というふうな順番で
意見を述べさせていただきたいと思います。
学びの森
学校設立の経緯でございますが、昭和六十二年に人間性回復の森林を含むフォレストピア宮崎構想というのが発表されました。ほかにリゾート構想とかシルバー構想、こういうものもございます。特にフォレストピア宮崎構想の中の
一つとして、学びの森のメーン事業に
中等教育の一貫性を重視したユニークな全寮制の
学校の設立が挙げられたわけでございます。
平成三年度、四年度にはそういうことについての建設構想協議会等が設けられまして、
平成五年四月に新設県立
学校開設
準備委員会が開設されまして、そして
平成六年四月に開校した経緯がございます。
中高一貫六年ということでございますが、今年度がちょうど五年目でございます。つまり、
中学校一年生で
入学した
生徒が現在
高校二年生でございます。来年度が中高六年間を経験した
生徒がそろうと、そういうふうな
状況でございます。
それで、私が四月一日より赴任しまして、二カ月間の中でいろんな行事がございましたが、主なものを、印象的な場面を御紹介したいと思います。
本校はいろんな
体験学習を重視した
学校でございます。それを全体をひっくるめましてフォレストピア
学習というふうに言っておるわけですが、その中の
一つとしまして、せんだって四月十九日でしたか、わらじづくりを実施いたしました。
これはどういうねらいがあるかといいますと、先人の苦労それからたくましさ、そういったものを学ぶ場でございます。したがいまして、
地域のそういうわらじがつくれる方々に講師になっていただきまして、そしてグループごとにわらじをつくります。中には縄をなうこともできないようなそういう
生徒たちもございますが、四苦八苦しながら、おじいちゃん、おばあちゃんでございますが、その方々から手とり足とりしていただきながらわらじをつくっていく姿は非常に印象的でございました。
そのわらじを履いて、今度は持久力遠足、そういったものに挑戦するわけです。
自分でつくった粗末なわらじでございますが、そのわらじを履いて、往復十五キロでございますが、そういう道のりを遠足するわけです。そして、向こうでは飯ごう炊飯を中心とする食を
自分たちで
準備すると。
ですから、私はそのときに三つの挑戦というのを
生徒に言いました。
一つはわらじで挑戦しよう。二つ目は自己、いわゆる
自分に挑戦しよう。三つ目は食に挑戦しよう。この三つの挑戦を
生徒たちに提案いたしました。
本校の場合は、いわゆる異学年集団のグループをつくっております。それをファミリー
制度と言っておりますが、
高校三年生を頭に
中学校一年生までの縦の集団をつくりまして、すべての部活動とか寮
生活とか
学校行事、そういったもので活動しているわけですけれども、特に遠足またはわらじづくりの場での人間
関係、非常にほぼ笑ましいものがございました。
といいますのは、わらじづくりに至るにはやはりいろんな
準備がございます。そのときに先輩、
高校三年生、二年生がわらの打ち方からそういった下
準備をいたします。
自分たちはもう経験しておりますので、どういうふうな点が苦労するかというのはよくわかっておりますから
準備をしまして、そして特に
中学校一年生に対しては前もって
自分たちで
準備したことを予備知識として与えまして、そして実際のわらじづくりに挑戦する。非常にほぼ笑ましい場面がございます。中学一年生あたりはもうお兄ちゃん、お姉ちゃんに頼り切って、そしてわらじをつくっている姿、こういったものは非常に印象的でございました。
一つの例でございますが、発見と感動、こういったものがこういう
体験学習の中にあるんじゃないか、そして、私たちの先人がつくった文化というか、そういったものを身をもって体験する場にはなるんじゃないかなというふうに思いました。
それから、
中高一貫教育から生ずる
ゆとりの活用ということで申し上げますと、先ほど言いましたフォレスト
学習もそうですが、今回、
中学校一年生が田植えをいたしました。これはモチ米でございます。実際、田んぼに足を突っ込むときには非常にけげんな、嫌悪感を感じる顔をしておりましたけれども、一回入ってしまいまして田植えに興しますともう夢中です。一生懸命田植えをしている姿が非常に印象的でございましたが、これは秋になりまして収穫をします。収穫したものを、今度は十二月のクリスマス会というのがあるんですけれども、寮の行事でございますが、そういったところで収穫したモチ米でもちをついてそして食べる。いわゆる生産と、それからそれの恩恵にあずかるというか、そういうふうな体験をさせる。一年生の姿を見ておりましたが、なれてきましたら、泥がもう体いっぱいについても全然抵抗感を示さない、泥だらけになって田植えをしている姿が非常にいいなという感じがいたしました。
それから、六年間というスパンがあるわけですけれども、その六年間の中高の期間の中で、
生徒を見ることもさることながら、親をやはり六年間見られるというメリットがございます。やはりじっくり
子供を見ることができる。この子はどんな特性を持っているかな、こんなところにこんな弱点を持っているなとかいろんなことがわかります。親もそうです。親もやっぱりいろいろな
教育観を持っていらっしゃいますから、そういう親と接する中でいろんな協議ができるわけです。そういう中で、先ほどから出ておりますが、
生徒は
高校入試を
意識しない。非常に
ゆとりを持っております。
自分をしっかり見詰めます。将来何をするかということをじっくり
考えます。
ですから、例えば
一つの例でございますが、
高校三年生になりますと、大体普通は
自分は何点とれればどの
大学に行けるんだろうかという視点で
大学を見るわけですけれども、今のうちの
生徒の場合は、
自分はこういう勉強をしたい、将来はこういった点で世の中において貢献をしたい。一例を申し上げますと、いろいろな研究
課題を
生徒は持っているわけですが、砂丘についての研究をしたい、今非常に砂漠化が進んでおりますけれども、そこに緑をよみがえらせたいというふうな夢を持っている
生徒がおるわけですが、砂丘の研究だったらもう鳥取大しかないということで鳥取
大学を選んでいる。そういう
進路意識と申しますか目的
意識といいますか、それからフォレストピア
学習をする中でやはり園芸に非常に興味を持ったと、実際は
自分の家ではそんな体験は一切ないわけですけれども、
学校でそういう体験をする中で大体そういう方向に進みたいという夢を語り出した。そういう
関係でこの子は千葉大の園芸の方に進んでおります。例えば
一つの例でございます。
進路先は、北は北海道から宮崎、鹿
児島まで各種多様になっております。医学部もおれば農学部系、工学部系、それから昨年度は
私立ては慶応、早稲田、いろいろ行っております。それから
教育関係、それから東大も一人出ました。そういうことでもう
進路先が非常にバラエティーに富んでいるなということを実感いたします。
それからもう一点でございますが、性格といえばやはり
個性を伸ばすことができる。といいますのは、先ほど申しました寮とか
学校での個人指導とか
進路希望に応じた指導が十分できるということがあります。
それから、中高の
教育内容を系統化できるといいますか、うちの職員の場合は
中学校籍、
高等学校籍はございますけれども、すべて兼任、
中学校であれば
高校、
高校であれば
中学校という兼任の辞令が発令されておりますので、進度面とか
内容面のいろんなむだを省いて系統的に教材を配列できる。そこから生じる
ゆとり、これをいろんなそういうフォレストピア
学習等に生かしておるという
実態がございます。
それから、全寮制による
生活体験を通して
社会性とか自己管理
能力とか自主性、自立性、協調性、忍耐力、それからリーダー性、そういったものが増えるんじゃないかなというふうなことを
考えます。確かに
中学校一年に
入学した時点では、親元を離れて非常にホームシックになるのは間違いありません。しかし、じっと涙をこらえながら夕日を眺めておる。その姿を見て、私たちはすぐ手を差し伸べるんじゃなくて、いわゆる待ちの指導といいますか、本人が本当に自立するのは
自分しかないわけですから、そういうふうな姿をじっと後ろから見ておって、今だというときにフォローするというふうな姿勢で職員には指導しましょうということを訴えているところでございます。
それから、先ほどから出ておりますが、
地域の特性、人的な
環境とか自然
環境を生かした
教育課程が展開できるということです。
例えば、もう既にことしもやりましたけれども、いわゆる海外での良業の体験を持った方を講師に招いたとか、獣医さんに来てもらうとか、それから荒踊りという伝統文化があるんですけれども、そういう踊りの講師を招くとか、それから神楽もございます。そういった方々、それから特に和太鼓については町の
青年部の人たちが非常に積極的に指導していただいております。そういった
地域の特性、いわゆる人的
環境とか自然
環境を十分生かすということです。
それから、
生徒に毎年
学校生活についてのアンケートをとっているんですが、今のところ九八%は満足しているというふうな回答を得ていることについては非常にうれしゅうございます。
寮での
生活は、ハウスマスターという教諭がおります。六人おるわけですが、それを頂点とした先ほど言ったファミリーという集団がございまして、その中でいろんな教科面、
生活面の指導をしていただいておりますので、非常にそういう
意味ではファミリー、つまり教師がおやじです、そして一番上が長男坊です、
高校三年生が長男になる、一番下が末っ子です。遊ぶときも、それからいろいろな
学校行事でもその縦
社会のファミリーでもって行動する中で、より縦横の幅広い人間
関係ができるんじゃないかなというふうなことを
考えております。
最後になりますが、
問題点とか
課題になりますけれども、六年間の
教育の中で人間
関係がある程度限定されるんじゃないかなとか、長期修学期間から中だるみが出てくるんじゃないかということが
懸念されるわけですけれども、この期間を中だるみではなくて
ゆとりとやはりとらえたい、そういうふうに思います。
今後も
個性の伸長とか
個性の発揮の場の提供を十分行いながら、さらに
教育課程の工夫には努力してみたい、創設の理念を大事にしたいというふうに
考えています。
それからもう
一つは、
子供が親離れするのは割とスムーズにいくんですけれども、逆の場合、親かいつまでも
子供にくっつくというふうな
状況は確かにあります。しかし、これは少子化の現在の中ではいたし方ない面があるのかもしれませんが、県下全域から来ている
生徒たちのことを理解していただくために地区会を設けておりますが、やはり県下に散らばっておりますので、こちらは出前の精神でいこう、来ていただくんじゃなくてこちらから行こうという形で
学校の
教育理念等を理解していただいている
状況がございます。
それから、
中学校、
高校六年間の
教育を受けた
生徒が来年度で一応
高校三年生になるわけですけれども、この二、三年が正念場だなというふうなことを感じております。いよいよこの
学校もひとり立ちをしなければならない時期が来ておりますから、やはり行政面からいろんな角度からバックアップをしていただきたい。いい面を伸ばしたいというふうなことを感じておるわけですけれども、もう
一つの
課題とすれば、フォレストピア
学習というものと既存の
学習の関連性といいますか、客観的に数値的に出せるかどうかわかりませんけれども、そういうものをもう少し関連性を見てみた。いというふうなことを
考えております。
中だるみが
懸念されるということも先ほど言いましたけれども、一応中一、中二を基礎期、それから中三、高一を充実期として、高二、高三を
発展期ということで、特に
発展期の
段階で今まで勉強して培ってきたことをもとにしながら研究
課題発表をするわけですけれども、いわゆる卒業論文みたいなものですが、非常にユニークなものがあります。後でまたもし必要があれば御紹介したいと思います。
以上で終わります。