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参考人(
奥田泰弘君)
奥田でございます。
全国私立大学教職課程研究連絡協議会の
事務局長としてこちらへ参っております。座って失礼いたします。
私は、この
法案に
反対の立場から
意見を申し述べたいと思います。
まず
最初に、
法改正をするときの原則について二点申し上げたいと思うんです。
その第一は、
法改正をするときには
当事者を含んだ
審議会で
審議をすべきだと思っています。
教育職員養成審議会が
当事者を排除した形で第一次
答申を
審議、決定されたことは大変遺憾なことだというふうに思っております。すなわち、
日本教育学会、
日本教師教育学会、
国立大学協会、
日本私立大学団体連合会、それから私
たちの
組織であります
全国私立大学教職課程研究連絡協議会など、
当事者が
組織をしている
組織から一人も
推薦委員が出ていないというのは問題だと思います。
第二点目は、
教育職員免許法の
改正を考える場合には、
養成におけるあるべき
カリキュラムを考えるということと、
法律によってすべての
大学を規制する
最低基準を決めるということとは分けて考えるべきだというふうに思います。
それから三番目として、今、
高倉参考人の方からもおっしゃられたんですが、現在の
学校の
教育現場がいろいろな問題を考えているから、だから
教員養成の
カリキュラムを変えなければいけないという
考え方の中には
大変距離があるんじゃないかというふうに思います。
教員養成の中身を変えて、その
カリキュラムに従って育ってくる
学生たち、新しい
教師は五年後ですし、その五年後から
学校の中でそれ
相当の力を
学校運営の中で発揮するまでにはまたさらに五年ないしは十年かかっていくわけです。ですから、
教員養成カリキュラムを変えることがすぐ現在の
教育現場を変えることになるんだという発想はおかしいというふうに思います。
次に、
反対意見の骨子ですが、この
法律案はいろいろなことが書かれてはおりますけれども、結果的には
教員養成から
一般大学・
学部、これは
国立、公立、
私立を含みますけれども、
一般大学・
学部を排除する
法律だというふうに読み取っております。その結果、
国立の
教員養成系大学・
学部のみに
教員養成を独占させる
危険性がある。そのことは結果として
開放制教員養成制度の崩壊を招くおそれがあるというふうに強く憂慮しております。
この
答申の中には、
得意分野を持つ個性豊かな
教員を育てたいんだ、だから
カリキュラムを豊富にするんだという
意味のことが見出しにもありますし、随所に書かれておりますが、
得意分野を持つ個性豊かな
教員というのはどこから出てくるのかといえば、それは
一般大学・
学部を
卒業した
人たちの中から優秀な人が
教員になってくれて初めて得られることなんだというふうに思うんです。
次に、ではなぜこの
法案が
一般大学・
学部を
教員養成から締め出すことになるのかについて私どもの
考え方を三点申し上げたいと思います。
第一点は、
教職に関する
科目を今度三十一
単位にふやすと言っております。時間の
関係上、
中学校教員免許状に限って申し上げさせていただきます。高校の場合は二十三
単位になっているわけですけれども、この
教職に関する
科目三十一
単位は、おおよそ
大学で勉強しなければいけない一年分の
単位数に
相当するわけです。つまり、百二十四
単位が
卒業の
最低単位で、それを四年間でやりますとちょうど三十一になるんです。
大学を
卒業することが
教員免許状を取ることの
最低条件ですから、百二十四
単位を四年間で取った上に、丸々一年分の三十一
単位の
教職に関する
科目を余分に強制することになるわけです。このことは
学生に
ゆとりのない
生活を送らせる。
今、
ゆとりを持たせるということが
日本の
教育改革の大事な指標になっているわけですけれども、多感な
青年時代の
学生たちに
ゆとりのない
生活を強制することになるのではないかというふうに大変憂慮しています。
二番目は、
教育実習を
現行の二週間から四週間にふやす、これも
中学校教員免許一種のことですが、というふうに言っておりますけれども、それは
一般大学や
学部にとっては大変不可能に近いことだというふうに認識しております。
お手元にお配りしました
資料の右側の
資料二とあります図表をごらんいただきたいと思うんですけれども、
国立の
教員養成系大学・
学部では
教職科目あるいは
教科に関する
科目はすべて
卒業単位百二十四
単位の中に含まれています。ところが
一般学部は、これは何度も申し上げますけれども、
国立大学も
公立大学も、そしてほとんどの
私立大学も
教育学部以外は皆これに該当するわけですが、それぞれの
専門科目を四年間勉強した上に
教職の
単位を取るわけです。それは百二十四
単位の外にはみ出して取るわけです。これが
現行では十九
単位、十年前の
法改正で十四
単位から十九
単位にふえたわけですけれども、それを三十一
単位にしようということになるわけです。これはやはり
学生たちに
ゆとりのない
生活を強制することになると思います。
そこで、もとへ戻りますけれども、
教育実習の二週間を四週間に延ばすということについては、次の三点の
問題点があるというふうに思っております。
第一は、
教育実習は
実習校側の要望でほとんどが六月に集中するように経験的になってきております。
実習生を
中学三年生に当てるということはほとんどどこの
中学校でもいたしませんが、秋は
大変行事も多いし、三年生が受験を控えていて大変な時期だから
前期に、
入学式の後すぐにというわけにいかないから、とにかく
中間テストをやるまでは
実習生は引き受けない。
中間テストが終わった後でというふうに、大体六月の中旬に
教育実習を受け入れるというのが一般化してきております。そこで、四週間ということになりますと、これは
中学校側も大変ですし、
大学生側も
大学の普通の
授業が行われている上に
教育実習に出るわけですから、
大学の
通常の成績に大きく
影響をしてきます。
二番目は、これは文部省の方も今大いに進めていらっしゃることですけれども、多くの
大学が
セメスター制をとり始めております。
セメスター制と申しますのは、
前期で
単位を出す、後期でも独立して
単位を出す。通年で
単位を出すという今史での
やり方を前後期に分けるという
やり方です。その場合に、
前期の六月という一番大事な時期に一カ月近く休まなければいけない
教職履修者は、恐らく
前期の
試験全部がだめになる
可能性を含んでいる問題だというふうに思います。
三つ目は、先ほどの
高倉参考人もおっしゃいましたけれども、二週間ずつ分割してやればいいではないかという案があるというふうに伺ってはおりますが、その場合には、
教員志願がまだしっかり固まっていない
学生を
実習校に出さなければいけません。これは
実習校にとっては大変迷惑な話だというふうに思います。そして、二年後は人数からいえば、二週間が四週間になるわけですから、
実習生の数がふえることは間違いないわけです。
三番目に、新設が予定されている総合演習というのがございますが、この総合演習というのを良心的に実施しようとしますと大変な数の
授業時間数と
教員数が必要になってまいります。私の
大学の場合を申し上げますと、私の
大学は二年生から
教職課程をとれるようにしておりますが、大体少なくて千人ぐらいがまず
教職課程にノミネートをしてきます。多いときには千二百人ぐらいになるんですが、仮に千人として、演習ですから、一クラス二十人のクラスをつくるとしますと五十こま必要です。五十人の
教員が必要になるわけです。仮に三十人に水増ししたクラスをつくるとして三十三人強必要になってきます。これだけのことをすべての
大学に強制するということが問題なのではないかというふうに考えています。
次に、その他に心配される事柄を三つ申し上げたいと思います。
第一は、優秀な若者が
教職離れをますます起こすのではないかという心配です。現在、東京の小
学校で申しますと一年間に百人ぐらいしか就職できません。東京じゅうの小
学校です。一番多いときは、今五十歳ぐらいの
先生方が一番多いんですが、一年で千五百人就職されたんです。千五百人就職されたものが今百人ぐらいずつしか就職できていないんです。しかし、これはまた数年
たちますとふえてくるんです。それだけでも
教職離れを起こしておりますのに、このように
ゆとりのない
大学生活を強制されるのならということで
教職離れがますます進むのではないかと心配します。
二番目は、先ほども申しましたように、あと数年
たちますと
教員を必要とする時期が来ます。毎年たくさんとった
教員があと数年しできますと退職していきますので、数年後、十年前後までは、また先ほどの東京都の小
学校の例でいいますと
最低八百人から千二百人ぐらいを毎年とらなければいけなくなります。それに
対応できるのかなという心配を持ちます。
三番目は、この
法案で生き残りが策されていると私どもは考えておりますが、
国立教員養成系大学・
学部自体にも大きな心配があります。それは、
教科に関する
科目を
現行の四十
単位を二十
単位に減らすわけですが、先ほど
高倉参考人もおっしゃいましたけれども、
専門学科を勉強しているから大丈夫だとおっしゃるんですが、それは私ども
国立、公立、
私立の
一般大学・
学部はそこが減ろうがふえようが
卒業単位として七十
単位ぐらい取りますから変わらないんです。ところが、
国立教員養成系大学・
学部の場合には、それが学科の力を支える
単位になっているわけです。それが
卒業単位の中に含まれているわけですから、それを四十から二十に減らして、それ以外にその減らした分を
教職に充てるというのは
教科に対する力を落とすのではないかとむしろ心配しているわけです。
最後に、ぜひお願いしたいことは、慎重な
審議をしてくださいましてこの
法案を一度廃案にした後、先ほど申しましたように、
日本教育学会等、私ども
当事者を含めてもう一度検討し直していただきたいというふうに強く要望しておきます。ただ、どうしてもそれがかなわない場合には、せめて以下の修正をお願いしたいというふうにも考えているわけです。
それは、
中学校教諭一種
免許状の
教職に関する
科目三十一
単位となっておりますが、それを二十五
単位ぐらいに減らしていただきたい。そして、減らしていただいた六
単位分については、先ほども申しました
教育実習の増加分二
単位、総合演習新設分二
単位、それから
教育課程及び指導法に関する
科目のうちどれか二
単位、それは
大学の判断でいいと思うんですが、合計六
単位を選択
科目としていただきたい。それをやるということが大事だと考えられる
大学がそれをなさればいい。それをやろうという
大学はやるということになります。しかし、それをすべての
大学に強制する必要はない、そういうふうに考えております。
以上でございます。