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参考人(
中條石君)
中條でございます。
海外在住者投票制度の
実現を目指す会の
企画委員長をやっております。
私は今より約十年前、一九八八年十一月に本社を東京に置く
大手医薬品総合商社の
現地法人の設立のため
米国ロサンゼルスに赴任いたしました。それ以来今日に至っております。
本日は、私
たち海外在住日本人が懸案としております
国政選挙に関することで
意見陳述ができます
機会に恵まれましたことに対し、心より御礼を申し上げます。今回、
日本への出張で、
昨晩成田に到着したところですが、
海外に暮らす者として率直な
意見を聞いていただければ幸いに思います。
私が赴任したころは、ちょうど
バブル絶頂から少しずつ
経済が陰りを見せ始めてきたころかと思います。当時、
ロサンゼルスの
ダウンタウンの大きな
ビルの三割ぐらいは
日本の
会社が買収して所有しているということで、新聞など
マスコミでいろいろよく取りざたされておりました。結果としては、
バブルがはじけ大損したというのが
日本の
経済の現状だと思うのですが、結局、そういうことを通じて一番得をしたのは
アメリカ人を初めとする
海外投資家だった、こういうことが言えると思います。
こんな話も、私ども
アメリカにいる人間は
アメリカ人と、どうして
日本はそんなに
ビルをどんどん買うんだというようなことでいろいろ言われたこともありましたし、
議論をしたこともございました。そのいい例としては、ニューヨークで三菱地所が
ロックフェラーセンターを買収したと、結果的には買収して余りうまくなかったということがありましたけれども。これについても、買収した当時、私
たち日系人もしくは
日本から長期滞在している
人たちの間で出たこととしては、
アメリカのシンボルである
ロックフェラーセンターを買収しちゃうというのはちょっとまずいんじゃないのということで、思ってたとおり
マスコミ等でも大分たたかれましたね。そんなこともあったりして、いろいろなことで
日本との
関係で矢面に立って話をする
機会が多いのは私
たちでございます。
また、ちょうど在任中に、数年前ですか、
湾岸戦争もありました。私は
アメリカの底力というか、国の力というものを肌身をもって感じたわけです。これはどういうことかといいますと、
国民が一丸となって国を応援するんですね。
高速道路を走っておりますと、
高速道路の脇にあるビールの
会社の
ビルディング全体に大きな黄色い
リボンをかけて、そしてのぼりが出るわけですね、私
たちの仲間、
兵隊が早く無事に帰ってくるようにということを書いて。そして警察官はオートバイに国旗をつけて走っているんですね。それから乗用車には黄色い
リボンがついているんですね。そして共通の話題が、我々の今の国の
兵隊はこうやっているぞ、こうやっているぞという話をいつもみんなしていました。そんな中で、
日本の
国際協力というのはどうなっているんだろうということで、よく
アメリカ人とも
議論をしました。当時、
日本ではこのことについていろいろ
議論がされていたようですけれども。
いずれにしましても、私
たちは
日本という国の
民間レベルでの外交官的な役割を担っているのではないかというふうに思っております。したがいまして、
海外在住者というのは、よいにつけ悪いにつけ
日本とのかかわり合いを持って生活をしていると思います。
このような経験をしていく中で、我々
海外在住者に
投票権がないのは少しおかしいのじゃないかという率直な疑問を持った有志が集まり、
平成五年、今から約五年ほど前になりますが、
ロサンゼルス近郊に住む我々
日本人が集まって
海外在住者投票制度の
実現を目指す会をつくりました。
皆さんビジネスマンが多く非常に忙しいのですが、休日に
日本人の多く集まるスーパーマーケットですとかそういうところに立ちまして、
署名活動をしたり、
国会への請願のための
署名をとったりいたしました。
実は、こういう会が
ロサンゼルスだけでなく
世界各地の
都市でもほぼ同時期につくられてきました。
平成六年には
世界各地のこのような会を結ぶ
海外有権者ネットワークが結成され、現在この
ネットワークには十カ国十三
都市が入っております。
その後、
平成七年には、
ネットワークは
日本弁護士連合会人権擁護委員会に
人権救済の申し立てを行いました。あるいは衆参の議員の
方々にこの問題についてのアンケートをとらせていただきました。アンケートの結果ですが、回答をくださった
国会議員二百七十四名のうち九七%の二百六十七名が
在外投票制度を
実現すべきだ、
海外にいる
日本人にも
投票させるべきだということで答えをいただいております。
平成八年には司法の判断を仰ぐため国家賠償訴訟も起こしました。そして、このたびこのように
在外投票のための
公職選挙法の改正案が
衆議院で可決され、現在参議院で
審議していただけることは、
海外有権者ネットワークのメンバーの一人として殊のほかうれしく思っております。この改正案が十分に
審議され、必ずや成立することを願っております。
ここで法案について二点申し上げたいことがございます。
まず第一点は、
日本国
憲法は、
海外在住者についても、
日本国籍を有する以上ひとしく
国政選挙権を認めているということです。十五条一項にありますように
選挙権は
国民固有の権利であり、十四条一項にはすべての
国民は法のもとに平等であると明記されております。さらに二十二条は居住、移転、
外国移住の自由も保障しています。したがいまして、
憲法によるならば、
選挙権について、
海外在住者であろうと
日本国籍を有している以上いかなる制約条件をもつけることは
原則的にはできないというふうに理解しております。この大
原則をぜひ理解していただければというふうに思っております。
先日、内閣から
衆議院に提出された法案では、
投票できるのは、「将来国内に
住所を定める
意思を有する者と認められる者に限る。」という条件が書かれておりました。この条項について、例えば
外国の永住権を保持している
海外在住者を
投票から一律に排除するものではないかと私
たちは危惧いたしました。幸い、
衆議院の
審議の結果、この条項が削除され、非常にうれしく思っております。
念のために説明いたしますと、永住権とは、例えば米国の場合ですとグリーンカードと言われるものですが、これはあくまでも米国に入国する際、入国
審査をそのたびに細かく受ける必要がないようにあらかじめ詳細な手続を経て発給した長期滞在者のためのビザの一種です。このグリーンカードを持つことによって、永住権という名前がついているからといって、
日本の国籍や
日本人としてのアイデンティティーを捨てるということにはならないのじゃないかというふうに思います。
第二点は、この法案の附則に、当分の間、
在外投票は衆参の
比例代表選出議員の
選挙に限って行うと書いてある点です。
自治大臣は、当分の間比例
選挙に限定した理由を、国外に居住する
選挙人へ
候補者個人に関する
情報を伝達することは極めて困難であるということを勘案してと説明したそうです。しかし、現在
海外に住む
日本人は、
日本に関する相当量の
情報をほぼ同じ時間に接しているということを御理解いただきたいと思います。
交通手段においても非常に整備され、簡単に
海外に行くことができます。現在
日本から
海外に出かける方は千五百万人を超えるというふうに聞いておりますが、そのくらい簡単になっております。通信の方法その他いろいろ連絡方法も大変便利になっているのじゃないかというふうに思います。電話、ファクス、手紙、それから国際版の新聞もあります。NHKの衛星放送もあります。ケーブルテレビもあります。それから雑誌や書籍も
日本とほぼ同時に
日本の大手書籍出版店が
現地で販売しております。インターネットや電子メールもあります。
これはたまたま私が
ロサンゼルスからきのう飛行機に乗ったときに目にした新聞でございます。これがきのうの
日本の新聞でございます。全く同じなんです。色刷りじゃないというだけなんです。違うのは、ここに衛星版と書いてあるだけで、全く中身は同じなんです。
私
たちがこの新聞を手にできるのは、
ロサンゼルスの場合ですと大体昼前後に手にしますが、
日本の時間でいきますと、十七、八時間
日本が進んでおりますから、実を言うと
皆様方より先に多分ニュースを読んでおると思います。というのは、どういうことかというと、私
たちが昼に読んでいるニュースというのは、
皆さんがまだ明け方の四時五時という時間に読んでいるわけです。したがいまして、ニュースが遅いということは絶対ないんです。その点は十分御理解いただきたいというふうに思います。私なんぞは大変相撲が好きですから、余分なことかもしれませんが、
日本と同時放送を見ているわけです、深夜に。貴乃花が勝ったとか負けたとかというのも同時に知っているわけです。そのくらいニュースというのは今もう
世界じゅうを速く飛び回っているということを理解していただきたいと思います。
海外で
投票できるとなれば、政党に関する
情報も
選挙区の個人の
候補者の
情報も今以上に入ってくると思います。
情報の伝達が極めて困難という理由で
在外投票を当分の間比例
選挙のみに限定してしまうのは大変残念だと思います。これは私の個人的主観ですが、できないことを理由にした行政の怠慢以外の何物でもないというふうに私は思っております。
選挙権を
行使したいという人にどうしてさせないのか。アフリカのジャングルにいる人、アマゾンにいる人にも上げなきゃいけませんでしょうけれども、その
人たちに上げることをフォーカスするとやりたい人ができないということがもしも理由だとするならば大きな問題ではないかというふうに思っております。
私は、
選挙区
選挙についても早期の
実現を要望します。これにつきましては、具体的な実施時期を明記していただきたいというのが私の一番の願いでございます。
最後に、
日本のような、食糧もない、資源もないという島国が通商国家として繁栄していくためには、私
たちのように
海外で仕事する者が少なからず役に立っているはずです。私のように
日本企業の
代表として赴任している者、みずから事業を展開している人、留学生、
政府の仕事で赴任する者、国際機関で働く人など、たくさんの人々が
日本という看板を背負って民間外交を草の根レベルでやっているわけです。これら
海外で生活している二十歳以上の
有権者の数は恐らく五十万人以上というふうに言われております。時には苦しい思いをして
海外で生活する
国民がこうして考えたこと、
外国人と
議論したことは、
日本にとって非常に有益だと思います。これはぜひとも
国政に反映させ、間接的に
日本の政治、行政、
経済の
国際化に貢献したいと思っております。
私
たちは、国内の
国政選挙の
投票率の低さを聞くにつけ、非常に歯がゆい思いをしているというのが現状でございます。
有権者五十万人が望む
海外での
投票制度の一刻も早い実施要望をお願いといたしまして、私としての陳述を終えたいと思います。
ありがとうございました。