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参考人(リチャード・クー君) ただいま御紹介にあずかりましたリチャード・クーと申します。
私は、今の日本の
状況は、先ほどもいろいろ御
指摘あったわけで、大変厳しいものだというふうに受けとめております。もう一部には、特に国際
金融で見ますと
金融恐慌ではないかと言われるような
状況も起きてしまったわけで、そういう中でこういう政策、法案が審議されているということは非常に心強く思っております。
といいますのは、日本の実体
経済は非常に厳しい
状況にあり、恐らく短期的にはこれからももっと厳しい
状況を迎えるのではないかというふうに思います。政策論議を見ますと、一時この
金融の問題も随分議論されてはきたわけですけれども、全くメスが入らなかったものがここ三カ月でかなりその話は進んだのではないか、バブル崩壊から八年間我々はこの
金融不安の問題を抱えてきたわけですけれども、なかなかそこにメスが入らなかったのがここ三カ月、皆さんの大変な努力のおかげで三十兆円のパッケージも出てきたわけですし、そういう
意味ではやっと八年ぶりにこの問題の核心に迫ることができるようになっているのではないかという気がしております。そういう
意味では大変元気づけられるわけで、
マーケットを見ましても、山時日本売りのような
状況が年末年始に見られたわけですけれども、最近はかなり安定してきているということであります。
私もこういう商売に身を置いている者ですから海外の機関投資家とはもう毎日のように連絡をとって話をしておりますけれども、やはり去年の終わり、ことしの初めぐらいからもしかしたらもしかして日本はいい方向に行くんじゃないかということを皆さん気にし始めました。それまではもうどんどん悪くなるという前提で日本売りを仕掛けて、それは結果正しい判断になってしまったわけですけれども、ここに来て彼らも相当日本株の持っている分は減らしてしまった、円も減らしているというときに日本が正しいことをしますと、今度は円が上がる、株が上がる、しかし彼らはそれを持っていなかったということになりますと、逆に彼らの評価が落ちてしまうわけですね。そういう
意味では、彼らも今、日本の
マーケットに戻ってきているということですから、私はすべて政策面またはその
マーケットの反応はどんどんといい方向へ向かっているのではないかというふうに思います。したがって、実体
経済は非常に厳しい
状況にあるわけで、また恐らくこれはもっとひどくなると思いますが、政策面、そしてその
マーケットの反応が正しい方向へ行っているうちはかなり期待を持てるのではないかという気がします。
ただ、ここで今回の法案に関して
一つ非常に私は懸念を持っている点があります。それは何かと申しますと、この三十兆円の中で十七兆円は
預金保険の強化に回される、この点は大変すばらしいことだと思いますが、もう一方の十三兆円の
金融機関の資本増強というこの
資金の使い方について、またこれがどういうふうに
銀行に実際に支払われるのかという点については私は非常に大きな懸念を持っております。
といいますのは、皆さんも御存じのとおり、この法案には一応七人の
委員会というものが設定されることになっておりまして、またマスコミ等の
報道によりますと、この七人の
委員会と検察が一緒になっていろいろ
責任を問おうという形になっているようであります。しかも、この七人の
委員会に対しては
銀行が個別行ごとにそれなりのリストラ案を持って、頭を下げてぜひこれでお願いしますという形になるわけですね。それに対して、この七人の方がああでもないこうでもないといろいろ
条件をつけたり、また過去を問うたり、いろいろすることになるということだと思うんです。しかも、これは七人の方が全員一致でなければこの金は出せないということになっているわけですが、果たしてこのような
状況の中で
銀行がこの七人
委員会の前に名乗り出るのかどうかという点であります。もしも皆さんが
銀行の
経営者だったら、
銀行員だったら、果たして検察まで後ろで待ち構えているようなところにのこのこ出ていってぜひお願いしますと本当に言うのかどうかという点なんですね。
私も海外で、年始はヨーロッパを回りまして、先週はオーストラリアを回ってこの話をしてきたんですが、それで私も
日本政府は正しい方向へ行っているから日本はこれからいい方向へ向かうんだという話をしたんですが、やはりこの七人
委員会のところでひっかかりました。私はここにこういうちょっとした問題があるという説明をしましたところ、オーストラリアやヨーロッパの投資家の皆さんは真っ青になりまして、もう目玉が飛び出るぐらいびっくりされました。そ、そんな話だったのかと、げげっという感じなんですね。つまり、だれがそんなところに出ていくんですか、そんなところへ出ていく
銀行ほど不自然じゃないか、よほど政治家の圧力や
大蔵省の圧力を受けて出ていくんじゃないか、そんな
システム信用できないじゃないかと、こういうリアクションなんですね。ここは私も一番気にしている点で、しかもこの七人
委員会の審議というのは全部公開されるということになっているわけですから、そうするとこれは下手すると人民裁判になりかねないわけですね。
人民裁判になるような
状況ですと、よほど自信のある
銀行はここへ名乗り出ていくかもしれませんが、ちょっとでもあそこをつかれたら困るなとか、ここは嫌だなと思われる
銀行は、もういいよ、我々で何とかやっていけるんじゃないか、八年間我慢したんだから、あと三、四年我慢すれば、これで貸し渋りを続けて貸し出しを抑えていけば何とかなるんじゃないか、こういう判断をされる
銀行も出てくるのではないかという気がするんですね。恐らく皆さんが
銀行員だったらそういう選択肢も当然あるわけで、
銀行は一応民間
企業ですから強制するわけにはいかない、そういう形で足並みがそろわない。
また、本当に
資金注入しなくちゃいけない
銀行が結局名乗り出なくなってしまいますと、結局問題は何
一つ解決しないということになります。しかも、
自己防衛に走ろう、名乗り出ずに自分たちで何とかやっていこうという
銀行は当然貸し渋りをさらに強化させなければいけないということになりますから貸し渋りはさらに厳しくなってしまう、そうすると何のためにこの十三兆円を準備したのかわからなくなってしまうという危険性がここにあります。
つまり、今、日本
経済が抱えている多くの問題の解決にかなり近づいているわけで、景気
対策も政治家の方がいろいろ動いてかなりまともなものができそうになっていますし、
金融の問題にも三十兆円のパッケージができたということで非常に元気づけられるわけですが、山を登っていて山頂一歩手前で足を踏み外してしまったら谷底に落ちてしまうわけで、やっぱり最後のステップまでこれは油断できないわけであります。やっぱり最後はちゃんと頂上に到達しなくちゃいけない。そういう観点から見ますと、この七人
委員会というそのハードルをどういうふうに考えるべきかということを我々は真剣に検討しなければいけないのではないかという気がします。
私の受けている印象ですけれども、この七人
委員会は結局二つの目的を
一つの手段で達成しようということになってしまっているのではないかという気がします。
ここで二つの目的といいますのは、
一つは
銀行の貸し渋りに向けての
対策、つまり
自己資本を強化して、
銀行が
自己資本を心配することによって貸し渋りに走らないで済むようにするという点、もう
一つは
銀行の峻別なんですね、いい
銀行と悪い
銀行と分けましょうと。悪い
銀行にまで
政府の金を入れるのはどんなものか、こういう批判がマスコミを
中心にあるわけで、それにこたえようということでいい
銀行と悪い
銀行と選んでから、悪い
銀行は舞台からおりてもらって、いい
銀行には
資金を
投入しましょう、こういうことだと思うんですね。
ところが、先ほど申しましたように、
銀行を峻別するということになりますと
銀行の方が今度は
自己防衛に走りますから、結果としてキャピタルインジェクション、
自己資本の強化もできず、下手すると貸し渋りがさらに悪化するということで、この二つの目標はかなり矛盾している
部分があるわけですね。両方できたらそれにこしたことはないわけですけれども、今のような
状況で両方やろうとして、結局両方とも失敗してしまったらこれは大変なことになってしまうのではないかという気がします。
大変なことというのはどういうことかと申しますと、
政府が一回こういう
条件で
お金を出しますと
銀行側に言って、
銀行側がそういう
条件ならちょっと勘弁してもらいます、我々は自分たちで何とかやりますと言ってしまった場合、一回
条件つきで
お金を出したわけですから、今度はみんなが名乗り出ずに出ていってしまった場合、あっ、しまったしまった、さっきの話はなかったことにして、
条件なしでも
お金出します、これはもう格好悪くてできないわけですね。ということは、その時点で
政府はこの問題に対しての主導権を一切失ってしまうということであります。
それは海外の
金融機関、格付機関が見て、今までは
日本政府もどんどん前向きに向かっているじゃないか、動いているではないかということで評価していたものが最後の一歩で、あっ、これ以上もう何も言えなくなってしまったということになるとこれが一気に全部ひっくり返ってしまうというリスクがあるわけで、そこが
金融を見ていると非常に怖いなという気がします。
そこで、この二つの目標に対して今
一つの手段でやろうとしているからこういうことになるわけで、私はこれは二つの手段を準備してはどうかというふうに思います。つまり、
銀行の貸し渋り問題、これは
システムリスクといいますか全体の問題ですから、こういうことに関してはとにかく一律で
お金を出す、いい
銀行も悪い
銀行も峻別せずに金を出す、そうしますと全部の
銀行に
政府の支援が入るということですから
国民の、特に
預金者のこの
銀行危ないんじゃないか、あそこはどうかという不安は一気に解消されるわけです、全部の
銀行に
政府の支援が入ったと。また、
政府の支援が入りますと貸し渋りの問題も解消に向かうのではないかという気がします。
そうすると、じゃ悪い
銀行はどうするのかという問題が残りますが、これに関してはまたモラルハザードの問題、
銀行経営者に甘えを許すのではないかという問題、これに対しては実はそれ用の制度があります。
銀行業というのは民間の中で唯一
政府の
検査が入る業界なんですね。なぜ
政府の
検査が入るか、なぜ
銀行検査官というものがいるのかといいますと、それは
銀行業というのは
政府の信用で
預金を集めて仕事をやっているわけですからもともとモラルハザードが発生しやすい業界である、第三者の信用をかりてきて仕事をするわけですから。自分の信用ですともう少し真剣にやりますが、ほかの人の信用ですとどうもルーズになってしまう、これがモラルハザードの根底にあるわけで、私はここを徹底的に強化すべきではないかというふうに思います。
日本の場合、残念ながら
銀行検査体制というのは極めて脆弱でして、
アメリカではプロの
銀行検査官が八千人おります。彼らは普通の公務員よりも高い給料をもらってこういう問題に日々対応しているわけですが、日本では
銀行の
検査官は四百人しかいない。
銀行の資産額は
アメリカよりも欠きいわけですから、この四百人で八千人の仕事をしろといってもこれはしょせん無理ですから、そういう
意味でここが今非常に脆弱であると。
したがって、私は、貸し渋り問題は一律に対応して、そのかわり問題がある
銀行に対しては
銀行検査体制を総動員してもここにメスを入れる、その結果
清算すべきか、どこかと合併すべきか、場合によっては国営にすべきかという幾つかの判断、またそこにはいろんな技術的な
可能性があると思いますが、そこで対応された方が
マーケットの大きな混乱を起こさずに、また人民裁判みたいな
状況にならずに両方の目的を達成できるのではないかという気がします。
銀行検査官が調べて、やっぱりこの
銀行はつぶした方がいいという結論になったときには、それ以前にその
銀行の
優先株を
政府は買っているわけですからこの
優先株は全部損失化してしまうわけですけれども、ただこれはもしも買わなかったらどうなるのか。
例えば
銀行が一兆円の負債を抱えていたとします。その一兆円の負債を、例えば、三千億分
優先株を買ってしまった、そうするとその三千億もなくなりますし、あと七千億も損失があるわけですが、結局それは
預金保険から埋めることになるわけですね。そうすると、十三兆円のところから三千億が来て、十七兆円の方から七千億を埋めるという結果になるわけですが、もしも
優先株を買っていなかったらどうなるか。そうすると、その一兆円全部を
預金保険からカバーしなくちゃならなくなるわけですね。そうすると、どっちに転んでも一兆円は負担しなくちゃならないということになります。十三兆円からどのくらい負担するのか、十七兆円からどのくらい負担するのかの問題が残るだけであって、結局は負担する
金額は同じであると。
そうだとしたら、七人
委員会で峻別するのではなくて、まず貸し渋りの問題、これは全国的な問題ですからそれを最初に対応されて、それからその峻別の方を時間をかけて専門家を動員してやられた方が全体の安定につながるのではないかという気がします。
以上でございます。