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参考人(新美
育文君) 新美でございます。
ただいま竹田
参考人が
委員長を務めました
基本問題検討
委員会の
委員として作業には参画してまいりました。本日はそこでの
議論を踏まえて、また私は医事法及び生命倫理の
研究者でありますので、その
立場から今回の
法案について八点にわたって
意見を申し上げたいというふうに思います。
基本的なスタンスは、竹田
参考人が
委員長を務められました検討
委員会の
報告書を
基本的にベースにして
意見を申し上げたいと思います。以下、お
手元にお配りしましたレジュメをもとに御
報告いたします。
意見の第一点でございますが、この
感染症予防あるいは
医療の提供について考えるときの
基本的な視点であります。この問題につきましては竹田
参考人がおっしゃられたように、
医学の
進歩及び国際的な動向を取り入れて実情に見合った
感染症対策を行おうということで、
法案の中にはそれが盛り込まれており、
基本的には私はそれで適切な実現に向かっていくだろうと考えております。
しかしながら、同時にこの
感染症対策によってもたらされる
人権の制約に対する
対応というものも国際的な調和が望まれるところであります。
感染症というものが
日本人のみならず外国人にも伝染していき、そして
我が国でその
対策がとられざるを得ないということを考えますと、国際的な調和というものは必要不可欠なことだろうというふうに思います。その
意味で、この
法案をつくる前提作業として行ってきたときには、竹田
参考人がおっしゃられたように
基本的
人権の尊重というものも十分に配慮しなければいけないということになったわけであります。そして、その具体的なあらわれが
報告書あるいは
法案の提案説明の中で手続の保障あるいは必要最小限度の制約という
言葉であらわされておるところであります。
このような精神そのものは私は大いに評価されるべきであるし、もっと
推進すべきであると考えております。ただ、一歩下がってこの
法案の各論について見ますと、その
基本的な理念というものが十分に実現され得るものか、いささかの疑念を抱かざるを得ません。以下、七つの点にわたって申し上げますが、その場合に
委員の各先生にお願いしておきたいのは、
委員の
先生方が
病原体の保有者であると診断された、しかし発症はしていない、
自分自身はぴんしゃんしている、そのことを前提に私の提起する
問題点を考えていただければ幸いでございます。
それでは、その第二点でございます。健康診断につきましては、
法案八四号の方でございますが、
法案の十七条二項で強制するということが予定されております。この健康診断を強制的に行うということも、これは
感染者あるいは
患者の自由を奪うことは明らかでございます。このことについて適正な手続が用意されていないということは大きな問題ではなかろうかと思います。とりわけ心配いたしますのは、先ほど申しましたように元気いっぱいの保菌者、その人が健康診断なんか嫌だといって帰ろうとするときにどうやって強制するのか、強制するときにどういう手続をとるのか、何の保障もありません。これは
一つ大きな問題であろうかと思います。
それから、
意見のその三でございます。確かに、良質な
医療の提供ということで設備あるいは費用の負担ということがうたわれておりますけれども、問題は具体的にどんな
医療がなされるべきなのかということが視点として欠落しておるわけであります。
感染症の
医療と申しましても、
基本的には説明と同意に基づいた診療でなければいけないということを確認しておく必要があるのではないかということです。特に、強制的に
入院させられた
患者さんに対して
医療をどうするかということは何も書いていなくて、費用だけ負担しましょうということになっております。これを、うがった見方をしますと、費用を負担するから強制的に
治療を受けろということにもつながりかねません。これは国際的な動向でありますが、
感染症に罹患している人を
病院に強制的に収容するということと
治療を強制するということは、全く次元の異なったものであるということであります。それで、
感染症の
治療において強制をするということは原則的には考えられないのではないのか、そのように考えております。
意見のその四でございますが、健康診断の強制と同様の問題でありまして、七十二時間の
入院については強制できるということが八四号の
法案の十九条で述べられております。この七十二時間の
入院について何ら手続的な保障がなされていないということは大きな問題であります。
次に、
意見のその五でございます。これは強制
入院そのものですね、七十二時間を経たかどうかはともかくとして、十日間の
入院をとりあえず認めるというものですが、この場合に、必要最小限度の強制
入院であるということが求められるわけですし、その判断が適切であることが必要になるわけです。この判断について
協議会による診査というものが考えられておりますが、この
協議会そのものが一体どのような性格なのかが必ずしも明確ではありません。また、
法案の中では
医師が過半数を占めなければいけないということが述べられておりますが、
基本的には
人権制限が必要最小限度であるかどうかという診査であるかと思いますので、法的な判断だということになろうかと思います。したがって、
人権の
専門家、
法律家である必要はありませんが、
人権の
専門家は少なくとも加わる必要があるであろうし、
医師が過半数を占めなければいけないという合理的な理由はないように思います。
それから、
意見の六番でありますが、健康診断や
入院勧告あるいは就業制限に関しまして、本人に対する通知以外に保護者に対して通知をするということが規定されております。しかしながら、本人または保護者ということが述べられておるだけでありまして、どういう優先順位があるのかが全く欠落しております。御本人に判断能力がある場合に保護者に対してだけ通知してもいいのか、極めてあいまいな規定になっております。この点をもう少し明確にしておく必要があろうかと思います。
また同時に、保護者の概念の中身ですが、
法案では親権者または後見人と言っておりますけれども、これらが本当に保護者として適切なのかどうかは大いに疑問があるところであります。親権者とか後見人といいますのは、身上監護の権限ないしは義務というものがあるというのは民法で規定されておりますが、本人にかわって
医療上の意思決定ができるかどうかは法文上全く根拠がありません。そのこともあって、成年後見法の
制度化ということで法務省あたりで現在
議論がなされていることは
委員の
皆様も御承知のことだと思います。そのあたりの
議論を踏まえないで保護者という概念を先行させることはやや問題としては不明朗の感を免れないというふうに思います。
意見のその七でございますが、これはいろいろな処分の解除の要件についての
意見でございます。就業制限の解除とか強制
入院させられた場合の退院の要件として、
病原体を保有していないことが確認された場合であるということを言いましたが、これは
法律家の
意見から申しますと、無の証明、ないことの証明は悪魔の証明と言われまして、事実上不可能であります。不可能なことを処分解除の要件にするということは、処分が永続していくということも
意味するのだということになりかねません。そうであるとするならば、むしろ同じような趣旨を生かすとしたら、
病原体の存在が確認できない、あるいは確認したと言えないというような形で証明責任を逆転していくことの考慮が必要であろうというふうに思います。
それから、
意見のその八、最後でございますが、新
感染症に対する
対応でございます。原因不明な新たな
感染症に対する的確な
対応が必要であることは疑いもありません。先ほど来申し上げております
基本問題検討小
委員会でもその必要性を認めてきておりました。ただ、そこでは、
基本的には高度の蓋然性というものを要件としていろんな措置を考えました。この高度な蓋然性と申しますのは、十中八九そうであろう、それくらいの確率性がある場合にさまざまな
対応をとろうということをしてきたわけでありますが、
法案を見てみますと、それが単に「おそれ」という表現になっております。「おそれ」という表現はどの程度のものなのか、単なる懸念、杞憂でもいいのか、そういう問題がございます。的確にかつ強力な
対策がとれるというためには明確な要件を立てていただくことが必要ではないのか、そのように考えております。
以上でございます。