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参考人(
伊藤公一君)
伊藤でございます。
最後の者が時間的に割を食うおそれがあるんですが、十五分よりも多少協力的にはしょれるのではないかと思います。
私は、流通
政策の専門をやっておりまして、主に欧米の流通
行政、これを研究しております。それの国際的な視点から見て、
日本の流通
行政なかんずく大店法廃止後あるいは廃止と関連させた三
法案、これについて若干コメントをしたいと思います。
まとまったレジュメを用意できませんでしたが、ちょうど私が「商工金融」という雑誌の六月号に、これは商工中金が出しておりますが、そこに巻頭言として書かされた原稿が私の言いたいエッセンスでございます。そのタイトルが「流通
行政の転換」、しかし「「似て非なる」
日本とイギリス」、こういうサブタイトルをつけている。
流通
行政というのは、ヨーロッパでは九〇年代に入りましてからかなり転換をいたしました。一口で申しますと、今までは特に
大型店に対する規制というのは非常に緩やかであった。だから、
郊外型の立地、
郊外のショッピングセンター、こういうものがかなりヨーロッパで緩やかな規制しかなかった。ところが、九〇年代に入りますと非常に
大型店に対する規制が威しくなってきた。これは、
フランスのロワイエ法
改正、それからこれから申し上げますイギリスの
政策転換、ベルギーの九四年からの
政策転換、代表的に三つの国で大きな転換をしました。それは何かと言いますと、規制を強めるということです。つまり、立地の規制を強めるということ、この方向にヨーロッパは動いております。
アメリカも
郊外型
大型店の立地は旧来に比べますとかなり厳しくなってきた。これが国際的なトレンドだと言い切ってよろしいと思います。
それと全く違った行き方をしようとしているのが
日本でございます。これがまことに不思議でございます。立地上、
大型店を規制していくということについてはヨーロッパではコンセンサスができ上がっております。
アメリカでもかなりそういう状況。これがともすれば誤解されまして、
日本に大店法があるのは、これは規制している、最もけしからぬ国であるというようなことを
アメリカがおっしゃっているようでありますけれども、事、当の
アメリカは
都市計画法でかなり厳しく立地制限をして、さらに、よくウォールマートというような巨大なスーパーが、
世界一の小売業がショッピングセンターを
郊外につくろうとすると市議会が反対してこれをやめさせる、こういうような
都市も
幾つか
アメリカで出てきているわけです。
その
アメリカが、
日本だけが大店法がある、非常に規制が厳しい、おかしい、こう言っているのはまことに解せないことであります。WTOに提訴するというようなことを言っておりますが、イギリスや
フランスで
関係者から聞きますと、
アメリカからWTOで我が国の厳しくした
大型店の規制に対して文句を言われたことは一度もない、
アメリカがなぜ
日本にクレームをつけるのか甚だわからないと。
要するに一口で言いますと、
アメリカは、自分のところは立地制限が厳しくなっている、それから
アメリカ市場、大手資本はもう飽和状態、
日本とそれからアジアへの
進出をねらっているわけでございます。だから、流通外資というのはどっと出てくるというのが予想されるのでございます。
日本が立地制限は極めて緩やかだ、これは出やすい、しかし邪魔になるのは大店法だ、大店法は経済的規制だ、経済的規制はやっている国はごく少ししかない、だから、これはいい、ちょうど批判するのにもってこいだということで
アメリカは大店法を廃止せよということを言っているわけです。そのかわりに立地制限というのを
日本で少し取り入れようという動きが出てきた、これが私の偽らざる感想でございます。
これが第一段階でございまして、多くの国を比較することが時間的な
関係でできませんので、最も最近大きな転換をして、
日本の流通
行政なかんずく
大型店の立地あるいは
都市計画法の一部
改正とか、こういう点に非常に参考になるイギリスの例を申し上げて、御参考に供したいというわけでございます。
イギリスは九〇年代に入りましてから厳しくなった。これはヨーロッパのトレンドと同じでございますが、あのサッチャー政権の八〇年代、非常に
大型店の
立地規制を緩めようとしました。サッチャーさんは規制緩和論者の筆頭でございまして、レーガン政権と同じようにさまざまな規制を解く。その一環として、
都市計画法上
大型店の立地制限を余りにも厳し過ぎるから緩やかにしようと、こう言ったわけです。
ところが、その結果何だったかと言いますと、他の産業分野ではイギリスはおかげで規制緩和の結果非常に活況を呈しました。しかし、
都市計画の上で言いますと、町は非常に寂れてしまった。
郊外に
大型店がどんどんできるようになって
中心市街地が
空洞化してしまう。
日本の空き店舗率なんて比じゃございません。三〇%、四〇%という空き店舗ができておる。シェフィールドしかり、バーミンガムもしかり、主要な
都市では町は荒廃している、犯罪も起こりやすい、こういう状況に立ち至った。
ところで、九二年に折しもリオデジャネイロで地球
環境会議というのがございました。御記憶だと思います。そこで主張されましたのは、地球
環境を守っていこう、その一つは大気汚染、これをできる限り抑えていこう、そして持続可能性のある発展、サステーナブルディベロプメント。つまり、どういうことかと申しますと、これはいろいろなあいまいな概念で持続可能な開発という概念は使われておりますが、要するに
都市環境と歴史遺産の永続性という概念が非常に強い。イギリスではそうでございます。だから、車を減らせ、市の
中心街を荒廃させるな、これは両輪になっている。
そのために何を確保すべきかというと、これは
都市計画上厳しく小売り集積の配置を決めるべきである。時間的制約がありますから細かいことは言いません。イギリスは九六年から大幅な規制強化というものに転じたわけでございます。
お手元にレジュメがあると思いますけれども、まず九六年に全体の
都市計画の指針、これはプランニング・ポリシー一ガイダンスといいますが、その一番目です。いわゆる総論です。そこで三つの
原則が出されました。
〔
委員長退席、理事岩井
國臣君着席〕
一つはサステーナブルディベロプメント、持続可能な開発だ。それから、
二つ目はミックスドユース、つまりいろいろな用途を取りまぜてミックスドユース、土地の混合使用によって
中心市街地を
活性化していこう。
住宅は
住宅、商業は商業、こういうふうではない。三番目がデザインです。景観を保持しよう。
その全体
計画の中ではっきり大きな
政策指針として出されたのがこのタウンセンター、
中心市街地を維持し
活性化する、これが基本方針として認められたわけです。
それで、それを受けまして、大規模小売開発についての指針が九六年に
政府から出されました。プランニング・ポリシー・ガイダンス、六番目です。十三番目が運輸でございます。一からずっとありまして、二番目が
住宅、三番目はどこと。六番目が小売開発の指針でございます。これは手にしておりますけれども、この指針だけでもA4二十ページぐらい、非常に細かく指針が出ております。
そこで、基本になる目的というのが、とにかく
中心市街地の
活性化を図るというのが第一番目です。
それから、競争は制限するんじゃない、立地の限られたところで、つまり立地の限定されたところで競争はしなさい。あっちこっちばらばらにして競争するんじゃない、これは町を壊すから。町の
中心部に
大型店も出ていらっしゃい。そして、その中で
商店街ともろに競争しなさい、これなんです。だから、競争を否定していることにはならない、これが二番目です。
三番目は、なるべく車を使わせないような
施設、開発にすべきである、こういうのがある。
四つ目が、だれでもどんな人でも、車を使わない人でも高齢者でも身体に障害のある人でも、イージーにアクセスできる。ちょっとげたを履いて、向こうはげたは履きませんけれども、とことこっと出かけていって買い物ができる場所、これも確保しなきゃいけない。だから、イージーアクセス・フォー・エブリピープルなんです、どのような人でも。だから、車で行く人だけが便利な
大型店、こういうものはむしろ、否定的とは言いませんが、これは一部の人だけの利便になる。そういう
意味で
郊外型をつくるということは、
環境の面でも軍使用の面でも、それから一部の車使用ができる者だけの利便という
意味で抑制的になったのでございます。
それで、それに関して非常に注目されるところは、すべての開発、特に小売の大きいやつは全部許可が要るんです。これはすべて小売
施設に限らずイギリスは許可です。しかし、
原則は何といっても県、
日本で言うと県です、向こうではカウンティーと言います。カウンティーを含めた大きな
地域で、どこにどの
地域に小売集積を持っていくべきか、五年後十年後にはどれぐらいの需要がふえそうかということを見計らって、
日本で言うと一つの
地域、四つの県ぐらい、ここでどういう小売集積の配置をすべきかというのをきちっと決めます。それを受けて県が、あそこに大きいのがあるならうちは小さい、これぐらいだ、これの配置を決めます、その下で
市町村がじゃここはうちはこれぐらい、こういうふうにきちっと整合性ができている。
中心部というのはやはり買い
回り品を置かなきゃいけない。だから、
郊外型ショッピングセンターで市の
中心部に人が集まって買うような専門品やいわゆる高価な物、こういうものと競争するものは置かないという、要するにどういう物を売るかもきちっと決めて指針を出しています。
それから、ロードサイド店はいけません。ディスカウントストアはいけません。なぜかというと、
道路のわきに来る。これは市の
中心部とは全然
関係のないものだ、こういうものはいけません。しかもそこで消費財を売る、これは市の
中心部と競争するからだめ。
じゃ、どういうものが
郊外へ出ていった場合に認められるかというと、一つは車で持ち運ばなきゃならないような重い物、これはよろしい、やむを得ない場合だと、こういう限定をしてしまう。あとの
施設は第一に市の
中心部にスーパーであろうとデパートであろうと来るべきだ。そこで競争する。やむを得ない、それでも土地がない場合はその第二段階の市内のどこかだ。それてもやむを得ないときは市の縁だ。一番最後が
郊外だ。これはもう万やむを得ぬときに認める。すべての小売
施設について、
大型店についてこういう
原則を持っております。これをシークエンシャルアプローチ、優先順位方式と申します。それがあって初めて市の
中心部は
市街地活性化はできるのでございます。イギリスの今
中心市街地はどんどんよみがえりつつあります。
日本の何分の一の予算でやっております。
それは、
関係者と話をしましたら、
都市計画で立地を制限しなくて
中心市街地活性化をどうやってやれるか、これが
前提だとだれでも言っております。その国を挙げてのポリシー、これできちっと
政策を立てて、地方、それから県、
市町村、こういうレベルできっちりした方針を固めて、そして
中心市街地の
活性化に取り組んでいる。ですから、非常によみがえって見違えるようになりました。
日本はこういう
中心市街地活性化法はありますけれども、どこかのまねをしたんだと思いますけれども、まねをしても、その枠組みがなかったらお金をつぎ込むだけだというような、
商店街は目先のことを考える人が多いですからつかみ金ならいいだろうと思うけれども、これは長期的に何にもならないんです。やっぱり
都市計画で枠をつくらなくては
中心市街地活性化はできない。
それから、
環境問題と言っているんだけれども、徹底的にこれを商業の
施設についても貫徹していかないと
環境問題にはならない。こういうことがイギリスで言われておりまして、
日本の実情を話しましたら、極めてこれは難しいな、
日本のように余り
都市計画がしっかりしていない国では仕方がないと非常に同情しておりましたが、うちがこんなに金をもらうならすごく市の
中心部はよみがえるのになと、こう言っておりました。
それでは、時間がございませんのでもう話をやめますけれども、外国の事例を御参考にしていただいて、ぜひとも
都市計画の上でやはり規制をしていく。これは経済的規制ではないんです。ディレギュレーションに反することではないんです。規制はすべて悪いというわけではあり得ないということです。
以上でございます。