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参考人(
石田榮仁郎君) このたび、この一月に
常任委員会として設置されました
行政監視委員会に
参考人としてお招きいただきましてまことにありがとうございました。私のような
浅薄非才な者が
十分皆様方の御期待に沿えるか心配なんですが、ひとつよろしくお願いいたします。
今、
田島先生から
イギリスについてるる御説明してもらったわけですが、私は、
イギリスから独立した
アメリカについて主として説明させていただこうと、かように思っております。なお、先ほど
田島先生が
利害衝突という
言葉を使われたんですが、
利益衝突とかいろいろあるんですが、私の場合は
利益抵触という
言葉で出てきた場合は、
田島先生の
お話と軌を一にするというか、
同義語として御理解いただければと、かように存じております。
そこで、まずこのたびの
一連の大蔵、
日銀等の
不祥事、今NHKで「
徳川慶喜」をやっておりますが、開国以来百年以上たつ我が国を考えた場合に、いわゆる
中央集権、そして
官僚制というものが
日本をある
意味で支えてきたということは紛れもない事実である、かように思います。その
意味において、一部の
官僚の
不祥事によって国民の七一%あるいはそれ以上が
官僚に対して不信を抱いておるというアンケートの結果、大変私は胸を痛めております。その
意味で、
官僚というものがいかにあるべきか、
公務員がいかにあるべきかといったことについてこれから説明させていただきたいと思います。
なお、その
意味におきましては
利益抵触、コンフリクト・オブ・インタレスト、これとファイナンシャル・ディスクロージャー・ロー、
資産公開法、
資産の
公開ということが問題になろうかと思います。そして
資産公開というのは実は
利益抵触の
一部分である、つまり
抵触利益を開示するということの
一部分として
資産公開がある、このように理解していただければ
皆様方おわかりになりやすいのではなかろうか、かように思います。
それでは、私のレジュメに沿って
お話をさせていただきます。
まず、
アメリカにおける
腐敗防止及び
政府倫理法といいましょうか、
公職倫理の確立に向けての
一連の改革ということでございます。
一連の
連邦に限って
お話をさせていただきますと、一九六〇年代以前と以後によって
一つの分け方があるのかなと。一九六〇年代以前について、仮にこれを第一期といたしましたならば、先ほどの
利益抵触に関する最初の
連邦法はどういうものであったかと申しますと、一七八九年、これは
フランス革命の年でございます。その二年前の一七八七年に
アメリカがいわゆる
合衆国憲法を制定しました。その前の一七七六年に
アメリカが独立しております。一七八九年、
財務長官に対し、
公共証券市場に関与することの
禁止ということ、既に十八
世紀の末葉に
アメリカではこのようなことを考えていたということをまず御認識いただけると、少し
考え方の転換という
意味で御理解いただけるのではなかろうか、かように思います。
また、
自己取引の
禁止規定、これは
行政行為の
特定の過程が
公職者の個人的な
経済的利益に顕著な
影響を持つ場合には、その
行政行為に参加することを回避しなければならない、こういったような
規定は実は一八七〇年代の初頭、すなわち十九
世紀の末葉に制定されていたということでございます。
これが一九六二年にケネディ大統領によって強化され、贈収賄汚職、
利益抵触に関する
法律としていわゆるユナイテッドステーツ
コードとして
連邦法典に編入された。御案内のとおりセクション二〇八という刑法典はこのような形ででき上がった、こういうことでございます。
なお、州について申し上げますと、六〇年代の終わりごろに半数の州が
利益抵触法を有しまして、現在では全州にわたって
利益抵触に関する
法律を持っております。
資産公開に関しては、一九七〇年代の半ばには十六州にすぎなかったのが、七九年末までに
連邦のほか約四十州で
資産公開法を有する、このような
状況であるということで、実は私、一九七六年に初めて
資産公開法なるものを、
連邦ではなく州の
資産公開法を論文で紹介いたしました。そのころ、
日本で初めて紹介した
関係上、いろいろ問い合わせがあったりしたんですが、やっと今日このような問題が日の目を見る、日の目を見てはいけないはずの内容がいろいろ世間で話題となっておるということでございます。
そこで、一九六〇年代から七〇年代を第二期といたしますと、このときに、いわゆる
イギリスで言う議会の黄金時代という
言葉もありますけれども、
アメリカで大きな動きがあった年でございます。
その
三つだけ申し上げますと、レジュメに書かせていなだきました、御案内のとおりのいわゆる情報の自由法、フリーダム・オブ・インフォメーション・アクト、FOIA、いわゆる情報
公開法でございます。それとサンシャイン法、ガバメント・イン・ザ・サンシャイン・アクト、会議を日の当たる会議とする、日の当たる
政府法とも言われております。それから
政府倫理法、エシックス・イン・ガバメント・アクト。この
三つが三位一体となっていわゆる
アメリカンデモグラシー、
アメリカの民主主義を構築してきたんだと、まず出発が情報
公開だったということを御理解いただきたい、かように思います。
そして、一九八〇年代を第三期と仮にいたしましたならば、とりわけ一九八五年に七八年の
倫理法を改正しております。それから八九年に大改正が行われました。
実は、前後して我が国にいま
一つの
不祥事が起こりまして、そして明治大学の先生と私とが、
アメリカのコモンコーズとかカリフォルニア大学とかジョージワシントンとか、
日本選挙学会からの派遣ということでいろいろ
調査して
資料を作成したんですが、ちょうどその一九八九年には大統領
行政命令、エグゼクティブオーダーが出まして、そして
倫理法改正に関する大統領
委員会報告書というものが出されました。これは、
皆様のお
手元にあります
資料にも、一九八九年度における改革の動向、
委員会報告書の要旨、ここに書かれてありますので、御
参考にしていただければありがたいと思います。それから、いわゆる
倫理改革法などが成立したということでございます。
そして、
資産公開制度及び
利益抵触防止の沿革につきましては、時間の
関係で省略いたしますので、
資料等を
参考にしていただければありがたいと思います。
なお、先ほど申し上げたように、
資産公開法というのはあくまでも
利益抵触の一部をなすものである。つまり、抵触する
利益、もし自分の持っている土地が商業地域に指定されるならばその土地は値上がりするであろうから、その
委員会での賛否には加わらないというのがいわゆる
利益抵触の基本的な
考え方でございます。そして、みずからの公務の公平公正というものを国民に、市民に対して明らかにするために、それをわかっていただくために
資産の
公開があるわけでございます。
次に、
資産公開の合憲性に関する判例ということでございますが、これは州判例と
連邦判例がございますが、とりわけ
連邦判例について御説明させていただきます。
連邦判例についてでございますけれども、フロリダ州のサンシャイン・アメンドメントというのがあります。それはフロリダ州憲法を改正して、公衆の信頼を高めるために
資産公開法を求めました。憲法改正で
規定いたしました。
しかし、
アメリカでは御案内のとおりネブラスカ州を除いて二院制をとっております。そして、五十州すべての議会と知事と、それから五十州すべてに
連邦の最高裁、フェデラル・スプリーム・コートに対してステート・スプリーム・コート、例えばカリフォルニア・ステート・スプリーム・コートというように各州に裁判所がございます。
ですから、フェデラルガバメントというのは、
連邦議会、キャピタルコンクレスと、それからプレジデンシー、
連邦大統領府、それから裁判所、これを全部総称して
連邦政府と呼んでおりますので、通常我々が言うところの
政府というと「
行政権は、内閣に属する。」という憲法六十五条の範疇の中で考えられがちですが、
アメリカではそうでないということをまず御認識いただきたいと思います。
そこで、例えばフロリダ州の上院
議員は、お医者さんであったり弁護士であったり、兼業している方が結構いらっしゃいます。そうすると、
資産公開となると、医者の場合は患者、弁護士の場合は依頼者の例えば金額がネットで、つまり段階的でなく正味の
資産を
公開することとなっておりましたので、それをそのまま
公開すると患者のプライバシーとか、定型料金でやっておりますので、名前を伏せていても、あっ、この人はとかいうことをいろいろ、名前がそのときは出ておりましたので何をしたかということが大体わかることになってしまうし、あるいは弁護士さんですと、例えば離婚訴訟の、離婚にまで至っていなくても訴訟になっているということになると、これは好ましくないということでプライバシーが争われました。
そのときに、いわゆるフェデラル・ディストリクト・コート、
連邦地裁でどうなっていたかといいますと、バランシング・テストを採用しまして、
腐敗と
腐敗の疑惑、つまりコラプション・オア・アピアレンス・オブ・コラプションという
言葉を使っておるんですが、
腐敗と
腐敗の疑惑、あるいはそれに類するものと、公衆の信頼の創設、
利益抵触の防止とを考えた場合には公衆の信頼の創設、あるいは国民の、市民の知る権利といったものにはかりのおもしがかかる、つまりプライバシーというものが犠牲になってもやむを得ないという
考え方でございます。これは
連邦控訴裁でも確認され、また
連邦最高裁でもここに書いてあるようなサーシオレライ・ディナイドということで、上告棄却されておりますので、究極的な
連邦最高裁の判決が下ったということでございます。
次に、
政府倫理法に対する合憲判決という
意味では、ここに書いてあるようなデュプランティア・バーサス・ユナイテッドステーツですけれども、これは一九七八年にできました最初の
政府倫理法の折ですが、御案内のとおり、これは
アメリカの大統領、副大統領、上下両院
議員、そして
連邦の裁判官までをも
資産公開に服するというものでございました。もちろん、上級
公務員、この当時はジェネラルスケジュール、つまり
連邦俸給表の一般俸給表の十六等級以上、現在十五になっておりますが、以上の
高級公務員も
資産公開に服するということでしたが、
連邦の裁判官を
資産公開に服するとは一体何事かということで
連邦の裁判官が訴訟を起こしたというケースでございます。
つまり、裁判官は
選挙で選ばれない、にもかかわらずそこで、イレクテッドオフィスでないにもかかわらず
資産公開に服するというのはけしからぬという考えなんですが、これについても
連邦控訴裁は、いわゆる裁判官も国民から選ばれたエリートなんだ、したがって
資産公開に服するべきである、こういうような
連邦控訴裁の判決が下っておりまして、これも同じくサーシオレライ・ディナイドされておりまして、上告棄却されておりますので、
連邦最高裁の最終的な確定判決と、このようになっております。
第三に、
資産の開示・
公開と
利益抵触防止の具体的な手続がどのようになっているかということにつきましては、詳しくは御質問の折につまびらかにさせていただきたいと思いますが、
一連の説明のアウトラインだけ説明させていただきますと、お
手元の
資料の方に若干書かれてあると思います。
そこで、ここにオフィス・オブ・ガバメント・エシックス、一番大事なOGEという
政府(公職)
倫理局。そしてファーストラインで行うのが各
省庁の
倫理担当官、デジグネイテッド・エージェンシー・エシックス・オフィシャルズ、通常DAEOと言っております、これがまず第一義的にファーストラインで審査するということになります。それから大統領
法律顧問、上院承認
委員会等がございます。
そして、勤務庁の
報告書の審査過程がどうなっているかということにつきましては、お
手元の
資料の「
資産開示
報告書の審査過程」ということでまずDAEOが行い、それからOGEが行うということでございます。
では、
公開手続がどうなっているかということにつきましては、同じくこの
資料に書かれてありますのでお読みいただきたいと思います。そして、開示
対象、あるいは
利益抵触防止の意義はどうなのかといったようなことについても書かれてあります。
次に、
利益抵触を避けるために用いられる手段がどういうものかということで、これはちょっと
参考になると思いますので、ここの
部分については少し御説明させていただきます。
まず、
利益抵触条項の不適用の許可書、いわゆるウェイバーということで、これはブッシュ大統領がいわゆるエグゼクティブオーダーを出したときにも言っていたんですが、教書の中でも言っていたんですが、有能な
公務員を締め出すような
制度であってはならない、つまり
倫理法というものが有能な
公務員を締め出す
制度としての
倫理法であってはならない。その
意味で、個人的な
経済的利益に
影響する
行為の
禁止に違反した場合の処罰条項を適用しないこと、すなわち、適用の除外を認める所属庁の長官の認定書でございます。これがいわゆるウェイバーということでございます。
また回避同意書、リキューザルというものがあります。これは被任命者が
利益抵触に遭遇するかもしれない
特定事項に参加しないことに同意する声明書でございます。
それから、
利益抵触原因となる
資産を処分するという、ダイバスティチャーというものもございます。
なお、ブラインドトラストという
制度がちょっと
参考になるかなと思いますが、いわゆる抵触する
利益、株などででもいろいろな問題が今回起こりましたが、それをブラインドにしてしまう。自分の株がどこにあるかわからないように、何か、がらがらっという年末のくじじゃないんですが、わからないようにして、そして自分の
資産がどうなっているかというのは一応わからないようにして、しかし個人が余り不
利益にならないようにする、こういうような仕組みがブラインドトラストでございます。
なお、各種の
利益抵触の内容と
規制目的はここに書かれてありますので、後ほど御説明させていただきます。
最後に、我が国の
公務員不祥事の防止策について、私見として、日米の比較ということで、時間が参りましたけれども若干御説明させていただきます。
まず、公務の公平公正のあかしというものをどのように立てるかという日米の比較ですが、自分のやっている公務が公正であり公平であるということを国民にみずからが説明していく、挙証していく、これが
アメリカの
考え方でございます。そして、
行政の透明化を図り、
行政に対する信頼を回復するという、これが
アメリカ的な
考え方、みずからが挙証していくという
考え方でございます。
それから、政策決定・政策起案従事者、いわゆるパブリックフィギュアと個人のプライバシーについては先ほどの判例の
考え方のとおりでございまして、いわゆるパブリックフィギュア、公的な人物であるからプライバシーというものがある程度犠牲にされても仕方がない、余りにもということは問題がありますが、ある程度犠牲にされるということはやむを得ないという
考え方が
アメリカの
考え方でございます。バランシング・テストでございます。
それから、いわゆる贈答文化、ギフトカルチャーということについて、その限界ということと、今回の
不祥事を検証してまいりますと、いわゆる官庁の官庁あるいは銀行の中の銀行、通貨の番人と言われる大蔵省あるいは日銀の
不祥事に思いをいたすと、やはりそこに限界というものがあるのではなかろうかということでございます。
いわゆる冠婚葬祭とかいろいろと我が国でもそういう贈答文化が一種の文化として定着していると思います。これについては理解できるわけですけれども、やはりそこには限界がある。つまり、公務の職権といわゆる
利益誘導の
関係があればそこはやはり考えなければならないというのが
アメリカ的な考えで、つまり、自由で公平公正な、健全な状態を維持するためにいわゆるデモクラシーの必要経費論、維持論として、
政府倫理、
公職倫理のため、このたび二億から三億ぐらいかかるのではなかろうかと言われておるわけなんですが、それは必要経費論として考えていく必要があるのではなかろうか。つまりそれは、
日本が市場をオープンにする、あるいは
日本が市場に参入できないといったようなことを避ける
意味においてもやはり公平公正であらねばならない、このように思います。
では、
公務員倫理は何で、あるいはだれをどのようにどこまで、これは罰則等になるわけですが、これはいわゆる橋本総理の御
発言の内容も変遷してきております。その
意味で、本来内心に問うべき、法と道徳の問題になってまいりますが、個人の内心に問うべき
倫理、エシックスという問題を法の分野に高めざるを得ない、ここが大きな問題ではなかろうか、このように思う次第でございます。
それから、罰則等については、これはいろいろ御
議論があると思いますけれども、例えば公職
選挙法の連座制の強化で、五年間の公民権停止、これを拡大する動きがあったわけですが、五年間の公民権停止ということで違反者が激減しました。そうなると、ここに今おいでの国会
議員の先生方に大変失礼な言い方かもしれませんが、国会
議員にとってのいわゆる死刑判決というのは何かというと公民権停止であるということになると、
公務員にとってそれは何かということをお考えいただければ罰則というものもおのずと解決していくのではなかろうか、このように思う次第でございます。
次に、
利益抵触の治癒方法については先ほど御説明したとおりでございます。
それから、
倫理研修の徹底強化ということで、これについては後ほどジョアンさんから御説明いただけるのではなかろうかと思っております。
最後に、第三者機関としてのチェック機関の設置ということで
公務員倫理審査会、違反者を司法当局に告発できるような、例えば
アメリカのフェデラル・イレクション・コミッション、FECのような強力な第三者機関の設置というものがこれからの課題になるのではなかろうか、このように思います。
最終的なゴールは、その
意味で
行政情報の
公開、すなわち情報
公開が必要になる。先ほど申し上げましたように、
アメリカでは一九六六年の情報の自由法から出発いたしました。ところが
日本は、今この通常国会でいろいろ
議論されていくわけでしょうが、情報
公開法がまだ成立しておりません。そう遠くない将来といいましょうか、まず近い将来制定される運びとなるのではなかろうかと思いますが、この情報
公開がやはり必要になってくる。その前に、いわゆる地方分権とか特殊法人の廃止とか
規制緩和というのも必要になってくるのではなかろうか。
ただし、この
規制緩和というのが、今回のいわゆる金融ビッグバン、
日本版のビッグバンに向けた
規制緩和の程度や時期というものが事実上大蔵省の裁量で決められてきたところに今回の
不祥事の原因があったのかな、こういうような気もいたすわけでございます。そうすると、そういうような
規制緩和ではなく、もう少しフェアな
意味での
規制緩和というものを考えて、それには情報
公開というものを最終的に押さえていく必要があるのかな、かように存ずる次第でございます。
若干時間を延長してしまいまして大変失礼しましたが、以上をもって私のつたない陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。