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桑原参考人 おはようございます。どうぞよろしくお願いします。
今回、
参考人として金曜日の午前中に突然決まりまして、光栄と同時に驚いておりますが、この
機会を与えていただきまして、ありがとうございました。きょうは
労働法学者としての、研究者としての
発言をさせていただきます。そのつもりで私はおります。
労働基準法の講義をしておるときに、あるいはまた講演を依頼されたときに、私最初に言うのですけれ
ども、家を出るときに、今晩労災病院で会うからなと女房に言う男の
労働者はおりません。焼き場で今晩会いますからと言う
労働者はいないわけであります。つまり、働く人の基本的な
経営者との約束事を
労働契約といいますけれ
ども、それは、健康とか生活を守るために、契約があっても、それを
法律で
規制をするという仕組みになっていると思うのですね。
したがいまして、きょうお話しさしあげます
労働基準法というものは、実は
経営者側と
労働者側が合意で、こういう条件で働いてもらいましょう、
裁量労働も含め、深夜業も含め働いてもらいましょう、よろしいかと、了解の上で、いわゆる契約の自由で
成立するわけですけれ
ども、それは自由に任せておくわけにはいかぬ、これを
規制するという観点から
労働基準法がある、こういうように私も考え、一般にそう理解されております。
それで、きょう、最初総論的なことをお話しさしあげて、後、各論として、私がここがと思うところについて逐次
意見を陳述させていただきたいと思います。
総論的なことなんですけれ
ども、今回、
労働基準法を
改正するという点につきまして、三つの大きな時代的な背景があると考えております。
まず最初は、国際
経済大競争の時代と思うのですけれ
ども、
企業が
経済競争力を持っために
労働者を
活用したい、これは結構なことでありますけれ
ども、他方、
労働者にとりましては、健康と生活を
法律で守ってもらいたいという条件があると思います。国際
経済大競争の中に、もう
一つは、国際貿易が広くなったために、実は
労働基準法が、
日本に外国から投資をしてもらうための誘因としての条件整備という役割も果たしております。しかし、それにもかかわらず、
労働基準法には最低限度の保障が定められることになろうかと思うわけであります。
二番目でありますが、
規制緩和が言われております。しかし、
規制緩和は市場の自由を考えるわけですから、契約を自由に当事者間でやっていただいたらいいという考え方が基礎ですけれ
ども、実は
労働法というのは、残念ながら
規制の体系なんですね。
労働契約を
規制する体系として
労働基準法があるという原点を思い出すわけであります。
もう一点、三つ目に、行政の腐敗というものが、これは
労働省ではないのですけれ
ども、一部報道されております。後ほど述べますが、行政指導に依拠する、柱にする
法律改正であっていいかというように私は思っておりまして、より専門家、経験者、学識者を
活用する
制度、あるいはまた
労働者の権利保護も考えた
制度であってほしいと思うわけであります。
四つ目、情報公開と透明性が必要となっている時代になっていると思います。後ほど申し上げますように、
労働者にとって知りたいことはやはり知らせてほしい。退職の理由の問題がありますけれ
ども、これは、こういう情報公開、透明性の時代の要請と思います。
最後に、五つ目に、参加の時代と思います。
労使対等に向けて、
労働者の参加を、
労使協定を通してという具体的な、より新しいアイデアが今回の
改正には入っておりますが、
評価したいと考えております。
それでは、各論に入っていきたいと思うのです。どうもちょっと抽象的な話で申しわけございませんが、お許し願いたいと思います。
まず第一に、
改正案に出ております、主体的な働き方のルールの第一点は、
労働契約期間の
上限延長というわけであります。私は、いろいろ
文書を読みまして、条件つきに賛成をしたいと考えております。中基審が言っておりますように、専門的能力を有し、柔軟、多様な働き方を志向する
労働者が、その
労働能力を発揮するためということでありまして、
実態でも、一年の
労働契約の更新でトラブルが起こっている問題もあることは知られているところであります。しかし、条件つきというところにいきますと、この三年契約自体が、さらに、この
法律で
規定している特別の業種以外に一般的に
拡大するということに将来なるといたしますと、短期
労働者がふえるということであります。短期日の、三年ぐらいの契約の
労働者がふえる。そうすると、終身
雇用の
労働者は相対的に場所を失うわけであります。
いろいろ
議論はありますが、私は、終身
雇用制度は、それなりに
日本の
社会に定着している面が
あるとか、さらにまた、各
企業には必要な技術や経験者を残し、それを育成するために役割を果たしているとか、いろいろいい
意味もあるわけでありますから、短期
労働契約の
労働者がふえることによって、こういった終身
雇用への必要な
部分について悪
影響が及ぶことを恐れている点で、私は条件つき賛成であります。
第二番目、
裁量労働制でありますが、これにつきましても、条件つき賛成ではあります。実際、今回の
法律で出ましたのは、従来から許されておるものに、新しい二種類のものをつけ加えたというように理解もできるわけでありますけれ
ども、そういう
意味では、従来の路線を
拡大したというように理解ができる面がございます。しかし、やはりこれも条件つき賛成なんですね。すなわち、条件つきとはどういうことかということであります。つまり、
裁量労働がこれまた一般に、
ホワイトカラー全体に将来及ぶ、そのための一歩として今回の
改正を考えるとするならば、私は非常に心配であります。
理由を申し上げます。
第一は、
裁量労働といっても、どれが裁量といっているか、限界が不明確。第二番目に、
裁量労働ですと時間外
勤務手当が払われないわけでありますから、この点につきましては、
労働者にとっては、非常に重要な判断を与える条件が要ると思います。三番目、この
制度が拡充しますと、
労働者間に過当な競争を生む危険があります。四番目、この
裁量労働というのは、
仕事の成果によって給料をたくさん上げるということですから、それを判定する業務
評価、業績
評価をだれがするかという問題がありまして、その
基準がはっきりしないと、これまた過当な
労働者間の競争を生むと思うわけであります。
しかし、非常に重要なことは、
裁量労働というのは、実は
労働基準法の大きな根幹にかかわっていると私は思うのですね。というのは、
労働基準法は、普通、
労働時間で計算をして給料を払うというシステムですよね。それが今回、
裁量労働というのは時間の枠を外す、
仕事の結果だけでお金を払うというシステムでありますから、
労働基準法のかなり基本的な
部分にタッチするものであります。
したがいまして、この
裁量労働につきましては、私は十分に慎重な
方法で今回の
改正案を検討すべきではないかと思っております。性急に今回の
法案を、そのまま施行に結びつけていいかどうか、私は疑問を持っているわけであります。
次に、この
裁量労働との
関係で、
労使委員会というシステムが今回書かれております。これはなかなか、私
たち研究者にとっては研究の材料を提供してくれるものであります。ドイツなどであると言われております
労使協議制、
日本でも別の
意味での協議制が定着しているわけでありますが、これを法制化するという一歩ではなかろうかなどと私は理解しておりますので、これはこれとして
評価したい、賛成したいと思っております。
ただ、この
労使委員会は、全員で決議をするというアイデアで
法律で決まっておりますけれ
ども、この場が団体交渉の場に
変化するということもあり得ると思うのですね。今回、これを
法律で禁止してはおりませんが、そういう動態的な
労使関係の流れの中で物事を見て、施行していく必要があると思います。
次に、時間
外労働の
規制の問題でありますけれ
ども、私は賛成であります。特に、
労働大臣が時間
外労働の
上限の
基準を決めると今回決めておりますが、これは私、賛成であります。
理由は、この際、参考になるのは国際比較なんですけれ
ども、実は、ILOの一号条約、ですから、一九二八年当時の一号条約を
日本に適用する項目がありまして、その一番終わり、九条bにはっきり書いてあります。一週間の
単位であるけれ
ども、最高の
労働時間は、この時代では五十七時間と決めているのですけれ
ども、一週の最高の
労働時間は決めなさいとILOは言っております。
日本は批准しておりませんけれ
ども、この
制度は非常に関心があって、
日本には参考になると思います。今回も、残業をしてもらう、それで割り増し賃金をもらってもらう、しかし、その時間の
上限を、結局、
基準であるけれ
ども、
労働大臣が決めるように
法律で定めたことは結構なことだと私は思います。
しかし、この
制度を守らない
経営者をどうするか、違反に対してどうするかという問題がありまして、これにつきましては、今回、この
制度によりますと、結局、罰則はない、違反をした
経営者に対して処罰をする
制度はございません。この点について私は疑問を持っているわけであります。
もう時間がございませんけれ
ども、最近
労働省が出した申告事例に対する違反率を見ておりますと、大体五割ぐらい、臨検をした五割ぐらいに違反が発見されているという数字が出ておりますから、
労働基準法違反の事実が多いということはどうも統計でも明らかなようであります。そういうときにこの新しい
制度をつくるわけでありまして、それに違反をした
経営者に対して、どのように
法律の趣旨を生かして守ってもらうようにするのか。私はやはり、処罰
規定が入っていないという点について、この
部分について非常に残念に思うわけであります。
次は、女子
労働時間に関するものがありますが、ごく簡単でございますけれ
ども、実は、ILO、国際
労働機関が、男女平等の一環として、女の人も男と同じように深夜業を許す法
制度については認める
方向というわけであります。私は、それは理念的には賛成であります。しかし、
日本の現実は、お母さんが子供の世話をするという
実態が残っている
部分もあるわけであります。したがいまして、深夜業の辞退を希望する女子については特別扱いをするとこの
法律に書いてありますけれ
ども、それを求めた、つまり、休ませていただきたい、深夜業をお断りするという権利を行使した人を、残業を割り当てないとか差別をするという危険がなきにしもあらずでありますから、これから守るための法
制度があってもよかったのではないかと考えております。つまり、深夜業をお断りするということが権利として保障される
制度が不十分であろうと思います。
もう一点でありますが、施行するときに、実際申し出る人の子供の年齢であります。中学卒業ぐらいのところまで、これは中学生がキレるという話があるのですけれ
ども、お子さんをお持ちの人についてはやはり深夜業の拒否を認めるというように考えた方がいいのではないかと思っております。
退職の事由の明示については、私は賛成であります。
最後に、もう一、二点だけです。
労働条件紛争解決システムという項目が今回ございますが、私は異論がございます。
労働基準監督署に
個別労使紛争は頼むというのですけれ
ども、私は、
労働委員会にお願いした方がいいと従来考えておりますし、今回も考えております。この点につきましては、時間がございませんので、もし御質問があったら述べたいと思っております。
労働者の最低年齢の
延長につきましては、国際的
基準からいって結構ですし、先ほど言いましたように、
日本が外国からの投資を受け入れる条件としての
労働法というように考えた場合には、今回の
改正は結構なことかと考えております。
最後に、今回の法
改正につきまして、
見直し規定が入っていないということについて、若干疑問を持つわけであります。
男女
雇用均等法や
労働者派遣法には、でき上がった
法律を何年間か置いて、三年とか五年置いて、その間見て、再検討するという条項があって、それに従って法
改正が実際行われているわけであります。今回の
法律につきましても、一部につきましては、やはり数年後再検討した方がいいという項目があると私は思います。それは、
労働契約期間の
上限設定、
変形労働時間制、時間
外労働の
上限の設定、
裁量労働制、紛争解決の援助それから
労働者への法令周知義務、こういった項目につきましては、数年後は再検討するという見直
し
規定を附則の中に入れられてはいかがかと私は考えております。
学者のたわ言、御清聴どうもありがとうございました。