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金森参考人 おはようございます。
日本経済研究センターの顧問の
金森でございます。ちょっと風邪を引いておって、声がおかしくなっておりますが、お許しを願います。
日本の経済を振り返ってみますと、一九九六年には大体回復の軌道に乗っておりました。九六年度の経済成長率が三・二%なのですね。これはかなり望ましいレベルに入ってきたわけであります。
経済というのは、大体、一度回復をいたしますと、投資が
消費をふやす、
消費がまた投資を拡大するというような累積的な過程が起きまして、九七年もさらに高い成長になるべき状況だったわけであります。ところが、実際にはそうならずに、非常に大きな落ち込みが起きまして、九七年度は恐らくゼロ成長ぐらいになるのではないかと思うわけです。
どうしてこういうような状況になったかと申しますと、やはり、九七年度はいろいろな要因が作用をしておりました。プラス要因、マイナス要因がいろいろまざっているわけでありますが、プラス要因としては、
一つは、経済は、バブル不況から脱出しまして、自然的な回復
段階にあったわけですね。ですから、設備投資等がリプレースメントの取りかえ
需要のためにかなり強かった。それから第二番目には、輸出が非常に好調でございました。
この二つはプラス要因でありますが、マイナス要因が三つございました。
一つは、まだ
不良資産が非常にたくさん残っていたということですね。それからもう
一つは、九六年度に、
消費税の引き上げを前にいたしまして、駆け込み
需要がございました。それの反動が起きてくる。
政府はこれは余り大きくないだろうというように考えていたようでありますけれども、実際には相当大きな反動がございまして、九七年度の住宅とかあるいは耐久
消費財、自動車等の内需を抑制したわけですね。それからもう
一つ、最後の要因でありますが、これは
政府が余りにも強い引き締め
政策をやったということでありまして、これがやはり最大の要因であるということは間違いないと思います。
御承知のように、
消費税の引き上げと
特別減税の廃止、それから医療費の自己負担の増大、こういうものによりまして、約九兆円の個人所得が
政府に吸い上げられたわけであります。これは、
個人消費は三百兆といいますと、その三%に当たるわけでありますから、非常に大きいわけですね。
消費は大体年に三%もふえないわけでありますが、一気に三%だけ負担を課した。その結果といたしまして、九七年度の
消費は、ゼロあるいはマイナスになるのではないかというように言われておりますが、非常に異例の状況が起きたわけであります。それから、いま
一つの
政府の抑制としましては、公共投資の
削減、これが恐らく三兆円近い減少ではないかと思います。
こういうようなことでありますので、
政府は、当初は、
景気は緩やかに回復していると言ったわけでありますけれども、実際にはそれとは逆に、後半になりまして、落ち込みが一段とひどくなりました。
そこで、これに対しまして、いろいろな緊急経済対策を出されたわけでありまして、それは私は非常に結構なことだと思うわけであります。この場合、
金融対策と所得対策とどちらが優先すべきであるかという問題が発生するわけでございますけれども、現実にとられました
政策は、まず
金融対策が先にとられたわけですね。それは北海道拓殖
銀行とか山一証券とか、そういう
金融関連の機関が
破綻を来すという現実の問題が生じたからであります。そのためにだんだん金額もかさんでまいりまして、三十兆円をこれに充てるというようなことになってまいりました。
私は、これもやむを得ないことではないかと思いますが、これは先ほどの
参考人も触れられましたけれども、
預金者保護のためにお金を使うというのは、これは当然のことであります。それから、
金融システム安定、コール
市場が混乱するというようなことでは大変でありますから、このために使うのと、それからいま
一つは、やはり
議論が分かれておりますのは
銀行にお金を出すかということですね。劣後債か優先株を
政府が買うことによってそれを
救済するか、
救済すべきか、この点は非常に
議論が分かれておるところでありますけれども、私はある程度そういうことも必要ではないかと思います。大きな
銀行がつぶれましたときに、
受け皿銀行のバランスシートを改善するためにも、
政府は何かの手を打たなければなりません。
それから、やはり
銀行の貸し渋り等で中小
企業が非常な混乱を受けるという問題が発生しておりますので、それもやはり必要であろうというように思うわけでありますが、この最後の点につきましてはやはり大変な危険性を同時に持っている。不良
銀行を
政府の税金で
救済するということになりかねないわけでありますから、住専のときに
国民が非常な
反発を起こしましたように、これが起きる危険というのはかなりあるわけであります。
したがって、これも先ほどの方、皆さん言われたわけでありますけれども、中立的な
審査機関を設ける、それから
政府のお金を入れてもらう
銀行につきましては経営
責任を十分にはっきりしてとってもらう、そういう
措置がとられるということを前提といたしまして、できるだけ幅広い資産対策というものが行われないと日本の経済は大変な混乱に陥るというように考えるわけであります。
しかし、そうした
金融対策だけでは十分でありません。むしろ、やはり有効
需要をふやしていくということが先決であります。有効
需要がふえなければ、今の
金融の方を
救済しようというようなことでお金を出しましても、これはいつまでも出るばかりということでありまして、もとになります経済の成長率を復活させるということがまず大事であります。
しかし、
政府は、お金は
減税あるいは公共投資とかそういうところには使いませんよ、これは
財政構造改革という基本方針に反しますよというように言われておりまして、私も非常に心配していたわけでありますが、幸い橋本首相が突然二兆円
減税ということを言われまして、私もこれは非常によかったことだというように思うわけであります。
減税につきましては、先ほどの
参考人の御
意見にもございましたように、連合もあるいは日経連も共同して五兆円ぐらいの
減税をやってほしいという要望を出しておりまして、これについては問題がないのではないかと思います。ただ、
減税につきましては、これは規模がいかにも小さい。九兆円、九七年度に
国民の方から
政府に取り上げたわけでありますから、そのうち二兆円だけ返したというのではこれは十分な
効果を持たないと思います。
それからもう
一つは、一回限りということでは、これは
効果が非常に減殺されてしまうわけでありますので、まずとりあえずは二兆円
減税でありますが、これは恒久
減税に切りかえていくべきではないかというように思うわけであります。
それから、いま
一つの問題は公共投資であります。
減税をやるべきだという
意見は新聞でも評論家の間でもほとんど一致しておりますけれども、今公共投資をやるべきだという見方は大変少数であります。しかし、私はやはり
需要拡大のためには、
減税と公共投資は車の両輪でありますから、両方をやらなければいけないというように考えております。
公共投資は余り
効果がなかったということで先ほど
参考人は言われたわけでございますけれども、決してそういうことではありません。私の資料をお配りしてございますけれども、今回の不況では、従来に例を見ないほど大幅な民間設備投資の落ち込みというのがあったわけですね。日本では民間設備投資が落ち込む例というのは、ほとんどこれまでなかったわけでございますけれども、九二年から九四年度までにつきまして三年間設備投資が落ちる。九三年に至りましては一〇%も落ちたわけであります。
そういう非常に大きな落ち込みを支えるというために公共投資が発動されたわけでありまして、いわばもう凍りそうになるときに公共投資でたき火をしたわけでありますから、その結果経済が上向かなかった、部屋が暖かくならなかったからといって、これが
効果がなかったということではありません。もし公共投資が行われなければ、日本の経済は冷却して大変なことになったというように考えられるわけであります。
現在の
政府の方針を見ますと、九七年度につきましても九八年度の経済見通しにつきましても、大幅な公共投資の減少ということになっているわけですね。こういう不況の
段階で公共投資を六%も七%も減らすというのが、いかに非常識な経済
政策であるかということは、十分にお考えいただきたいと思います。
公共投資につきましては、これが非常に能率が悪いとかむだなところに行われているとか、いろいろ変なところに結局お金が回ってしまうとかいう批判というのが非常に多いわけでありまして、その一部私は妥当ではないかと思うわけでありまして、日本の公共投資を透明にし、能率を上げるというためにはいろいろな工夫が要るわけでありますけれども、そういうところを改めて、そうして公共投資を拡大する。初年度七%、三年間で一五%引き下げるというような
政策というのは妥当でないというように考えるわけであります。
現在、日本の経済は非常に需給ギャップがあるのですね。日本の持っております潜在的な能力に比べまして、
需要が不足している。これがどれぐらい不足しているかということはいろいろな計算がございますが、今OECDでやっております計算では、需給ギャップが三%であります。これは世界で、OECD二十一カ国の中で、スイスを除きますと、一番大きな需給ギャップなんですね。
世界の倍以上の需給ギャップというものがあって、非常に大きい。三%といいますと、五百兆円GNPに比べまして三%でありますから、十五兆円の需給ギャップがある。正しい
政策としては、やはりこれをだんだん埋めていくような積極
政策が必要であったというように考えるわけでありますが、実際には、九七年度は十五兆円の需給ギャップがあるのに、逆に九兆円の増税その他と三兆円の公共投資の減少で、十二兆円の
削減を行ったわけですね。
これでは、バランスが崩れてしまうということは当然でありまして、ここのところをさらに改めていかないと、九八年度の
景気の回復というのも難しいのではないだろうかというように思うわけであります。
これだけ
需要が不足のときに、さらに
政府が抑制的な
政策をとられたのは、言うまでもなく日本の
財政赤字が非常に大きいということで、それを直すのが何よりも大事だというようなお考えであったと思いますけれども、やはりこれは順序がちょっと違っていると思うのですね。今どちらの方が緊急問題かといえば、やはり
需要を高めて適正な成長路線に経済を乗せてやるということが大事であります。
日本の赤字というのはGDPの七%くらい、累積の赤字は、GDPを超えて五百兆円以上の累積の赤字があるというようなことは言われておりますけれども、実際には、それほどその赤字が危機直前に迫っているということではありません。
政府の赤字が大き過ぎて経済に問題を起こすというのは、どういうところで問題があるかといいますと、金利が上がって民間の投資ができなくなるといういわゆるクラウディングアウトの問題、あるいは
財政赤字のために物価が上がるということですね。あるいはまた、
財政赤字が大き過ぎるために国際収支が赤字である、こういうような状況が起きたときには、確かに
財政赤字というのは問題であります。
現在、日本の場合には、金利は下がっておりますし、物価は安定している、国際収支は黒字が大き過ぎて困るというような状況でありますから、経済全体から見れば、決して危険な状況に財政の赤字が膨らんでいるということではありません。やはり
財政赤字問題というのは、経済全体の中でもって考えないと正しい答えは出ないのではないかと思います。
現在では、まず
景気をよくする、そして税の自然増収を図る、それでも、完全に経済が回復いたしましてもなお赤字が残るというときには、またその
財政赤字の
削減のための
政策というものは必要であるというように私も思うわけでありますが、現在のやり方というのは完全に逆になっているわけですね。まず
財政赤字を減らすために、経済の非常に強い引き締め
政策をやりまして
景気自身を冷やしてしまったということで、この矛盾が最近至るところにあらわれているのではないかというように思うわけであります。
新年度の見通しにつきましては、非常に心配な点がございます。
一つは、これまで設備投資は比較的堅調だったわけですね。これは、先ほど言いましたように、リプレースメントのための設備投資
需要というものがございましたが、これが現在、
企業は非常に弱気になっておりますから、設備投資も下がってくるという可能性がございます。
それからいま
一つは、東南アジアの混乱ということですね。これを比較的日本ではまた軽視しているようでありますけれども、とにかく東南アジア諸国は、日本は最も東南アジア諸国の影響を強く受けるわけでありまして、最近の混乱によりまして、来年度は〇・四%ぐらいGNPが下がってくるんじゃないかという見方が多くのシンクタンクから出されております。OECD等の見方では、一・四%という見方をとっているわけですね。ですから、輸出依存型の
景気政策というのは新年はとることはできません。
また、設備投資の支持力というのにも期待ができない。やはり内需拡大がどうしても必要な
段階にあるわけでありまして、私は、これは幾ら上げたらいいかというのは、なかなか難しいですね。簡単に言えませんけれども、先ほど言いましたように、十五兆円ぐらいの需給ギャップがあるわけでございますから、五兆
減税、五兆
施策ですね。昔は、千億
減税、千億
施策ということがございましたが、もう経済規模が大きくなっておりますから、五兆
減税、五兆
施策。あとはやはり日本の経済の自然回復力によって埋めていくという程度の思い切った対策を打って、気分を一新するということが必要ではないかというように考えております。
以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)