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原田(明)
政府委員 まず、
法案を提出させていただきました私どもの立場から、今の
実情についての端的な、何が心配なのかという点について概括的に申し上げさせていただきたいと思います。
国際的に
組織的な
犯罪が問題にされていることは先ほどるる述べさせていただきましたが、従来、
我が国の刑法典、
刑事司法は、あくまで
犯罪というものを個人のものとしてとらえてまいりました。そこでは、個人的ないろいろな動機もございましょう、背景もございましょう、それなりに対処してきたという点はございますが、最近の
状況を見ますと、いわば
一定の
組織的な団体と申しますか、ある種の
犯罪においては、
犯罪をいわばビジネスとして行う、何らかの他の理由があって
犯罪を犯すということではなくて、まさに利益を上げるために、しかもそのためには手段を選ばず
犯罪行為に及ぶということが
指摘されております。このことは、
我が国だけではございません。既に先進
各国を含めて
国際会議でこれほど問題になっているそのことの背景には、やはり
共通する認識として行われているのだと思います。
それで、
我が国ではどうなのかという点について申し上げますと、私どもは、これは私どもの努力が足りなかったという点はあるいはあるのかもしれませんが、いわば
犯罪の背景となる事情、つまり、
犯罪によって得られた利益がどうなっていくのか、それがどう処分されていくのか、そしてそれは何のためにそういうことが行われたのかということについての解明が十分行われてこなかったとかということは事実だと思います。これは、
我が国の
刑事司法の持つ
一つの
問題点として私どもは意識するに至っております。
そういう
観点から申し上げますと、現行のいろいろな手続の中でも、
犯罪によって得られた利益がどう実現されてどう利用されていくのかということについてももう少し
関心を持つべきだと思います。しかし、そのためのさまざまな
立法的な手当てと申しますか装置が必要だということもぜひ御理解いただきたいと思います。
その上で、現在行われている日本における
犯罪の
状況ということを考えました場合、私どももこれは刊行物の中で
指摘させていただいておりますけれども、件数的に全般的に大変に
犯罪が伸びているというのではございません。しかし、
一つ一つの
状況を見ますと、大変深刻な問題が出てきております。
一つは、やはり殺人
一つとってみましても、
企業の経営者あるいは役員、
相当な責任のある方々が銃器によって殺害されるあるいは刺殺されるというようなことが現実に起こっておりますが、その背景について十分な解明が行われないまま推移しております。このことは、実は、
経済界を含めて、
社会にとっては大変な問題として意識されているわけです。何か問題があった場合に本人の生命、身体に重大な侵害が及ぶことがある。しかもその背景には、わからない面が十分あるのでございますけれども、
組織的な
一つの影が見えるということは十分想定できることでございます。現実に、そういうことを背景としたいわばおどしと申しますか、そのような働きかけがあるということも多数あるわけでございます。
そのことは、ひとりその
犯罪の効果と申しますか、そのことに対する
脅威にとどまらず、現在、いろいろ
指摘されましたような、あるいは
企業に対するさまざまな利益供与の要求、利益の提供というものの背景にもそういうことが行われている。つまり、世の中のさまざまな事象の中に暴力の影、しかもそのことが
組織的に行われている影
がある。そのことが現在の
社会にとって重大な問題になりつつあるという点がまずあろうと思います。
それから、例えば
薬物でございます。
我が国は、いわゆるハードドラッグと言われておりますヘロインその他のいわば欧米で問題になっている
薬物については、比較的その末端の使用者は少ないということがございます。これは、
社会的にもさまざまな、長年にわたる教育的効果ということもございましょう、また、法執行のあり方にもよるのだと思います。
しかし、覚せい剤につきましては、昭和二十年代の大変しょうけつをきわめた時代、これについては一たんは抑え込んだのでございますが、昭和五十年代の後半、第二のピークがありました。これについても若干おさまったのでございますが、さらに大きなピークを迎えつつございます。その背景は、やはり
薬物を利用することによって、いわばビジネスとしてこれを取り扱っているある種の
行為があるということは当然想定され、そのことについての解明は進んでいないというような
状況でございます。このことは、私どもにとって放置できない日本の問題であるのではなかろうかと思います。
しかも、そのような
状況が、
我が国単独で行われるというよりは、むしろ国際的な中で取り上げられているということでございます。
委員も御
指摘になりましたように、今の日本の
状況が、世界的な水準でもって
犯罪がとてつもない
状況になって、このことが
社会問題、政治問題の最大の焦点になっていないという点は本当にまだ幸いなことだと思います。しかし、その萌芽と申しますか芽は十分にあり得るというのが私どもの認識でございます。
そういう
観点から、これにつきまして、もうこの
社会が
犯罪に対して手が打てない、
犯罪をビジネスとして考え、
犯罪をペイするということが
一般的に蔓延するようになってしまってからでは、それに対する
対策はもう手おくれという事態も考えられるわけでございます。今のうちから諸
外国の例に学び、そして諸
外国と連携をとりながら、
我が国としてできるだけのことをやっていきたい。
しかし、
我が国の司
法制度の中では、許されることも許されないこともございましょう、また、いろいろ
議論を尽くさなければならないこともたくさんあると思います。その中で、国として、国民の生命、身体を守るという法秩序維持のいわば基盤を守っていくために何が必要かということについて、慎重な
議論を進めさせていただいた上で、これだけは緊急な
課題としてやらせていただきたいということで現在提案をさせていただいていることの背景となったということについては、ぜひとも御理解を賜りたいと思います。
〔橘
委員長代理退席、
委員長着席〕