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長谷川参考人 明海大学の
長谷川と申します。
私は、
会計の
専門家ではございませんが、
土地政策の
立場でお話をさせていただきたいと
思います。
お手元にメモをつくりましたのでごらんいただきたいと
思いますが、今回の
土地の再
評価に関する
法律につきまして、
現下の
経済情勢から
緊急避難としていろいろなことをしなければならないという事情はよく理解しておりますし、これに関する
皆様方の努力については大変ありがたく思っておりますし、大いにやっていただきたいと思っております。
しかしながら、
対策は労多くして功少なしという、そういう面もなくはないかと
思います。本質的な
対策というものが等閑視されて、やや部分的な、技術的な対応が行われているということに対する危惧を持っております。この
土地の再
評価に関する
法律も、大きな流れとしては、私はその
方向に行くべきだと
思いますが、
現下の
情勢からこの三月三十一日の
決算対策のみに志向するということは、やや労多くして功少なしという
感じがいたしますので、そういうふうに
最初に申し上げておきたいと
思います。
ペーパーは、第一に
問題点として、今回の
法律についての
問題点を指摘し、それから第二にこの
問題点に対する、
問題点はありますけれども
時価評価としての
方向については賛意を表するという点が第二点でございますし、第三点で本質的な
対策として、
不良資産対策、
不良債権対策、本質的な、本格的な
対策を講すべきだという点を申し上げたいと思っております。
第一の
問題点でございますが、なぜ今
拙速に
土地の再
評価が必要なのかということでございます。
この本質的な
論議がなかなか見えてこないということでございまして、先ほどの
株式と同じでございまして、
土地の再
評価についても基本的な
ルールが実は必要だと
思いますが、この基本的な
ルールについて、なぜ今
拙速にそれを変えなければならない必要があるかということだと
思います。
法律を見ますと、
目的が「
金融の円滑に資するとともに、
企業経営の
健全性の向上に寄与する」とありますが、どうも並べ方を見ますと、
金融の
円滑化すなわち貸し渋り
対策、
金融機関の
決算対策ということになっておるのじゃないかという
感じがします。本来、
企業会計原則というのは
企業経営の
健全化や
透明性を確保するために
存在するものであり、短期的な
金融とか貸し渋り
対策を
目的にするのでは余りにも便宜的に過ぎるのじゃないかという
感じがいたします。
さらに、こういう問題は、いわば
国家のあるいは
企業の
根幹的ルールでございますから、広く
会計学の
専門家の
意見、あるいは
法制審議会、
企業会計審議会等の幅広い
論議というのが必要だろう。こういう
方向に行くことについては、
方向としては是認できますが、その
前提として、
国民的な
議論あるいは学問的な
議論が必要ではないか。そういう
意味ではやや
拙速に過ぎる。
議員立法で行うのでなくて、本来
商法や
税法の本則で対応するのが筋ではないかという
感じがいたします。
さらに、政策的に昨今出ておるところを見ますど、
土地の
時価評価を認めて、逆に
株式については
原価法を認める、こういうふうな動きがあるようでございますが、
大変御都合主義ではないだろうか。こういうことをすることは、
政府が、国が
粉飾決算を奨励するというふうに思われないか。これが実は逆に、
国民のみならず海外からの信用を喪失することにならないかというふうに
思います。基本的な
ルールについて、それをあえて短期的な便宜で曲げることは、逆にそういう
評価を受けるのではないかということを危惧するわけであります。
本来、実は
金融機関の貸し渋り
対策あるいは
BIS規制対策として行われるものを、
金融機関以外の一般の
企業をも道連れにしているということでございますが、一般の
企業の必要性なりあるいは要望なりというものがあるのかどうか、その必要性があるかどうかということについて、やや疑問を持っているところであります。
それから、昭和二十二年から二十九年に
資産再
評価が行われました。確かにこの作業が行われましたが、それは、戦争による極端なハイパーインフレということを
前提にしたものであったわけでございまして、今のように短期的な、
金融政策上の視点からではなかったはずでありまして、その
状況についてどういうふうに我々は理解するかということだと
思います。
それから、私は、一番問題なのは再
評価の方法だろうと思うのです。大変重要な事項ですが、
法律を見ますとこれは政令で定めるということで、再
評価に関する基本的な
ルールというのは、実は
法律上は見えていないわけでございます。一番肝心なのはそこだと
思います。
バブル経済の時期の地価の動きでございますが、御案内のとおり、短期的に三倍に上昇して、かつ三分の一に下落する、こういう極端な地価の変動の中で、一体、時価そのものを明確に把握できる
状況にあるかどうかということだろうと
思います。地価公示あるいは基準地価格あるいは路線価というものがございます。それなりに私は
土地政策としての機能を果たしているとは
思います。しかし、現実の地価公示が本当に
信頼度が高く、これを一つの
ルールとして確定し、これを普遍化できるという、そういう地価水準を今我々が持っているかどうかでございます。
正常時であれば、固定
資産税
評価なり路線価
評価なり地価公示
評価なりというのが一つの流れとして理解できるわけでございますが、昨今のように異常な上昇、異常な下降の中で、果たして
専門家といえども、実は明確に時価というものを把握できない
状況にあるのではないか。そのときに、この三月三十一日でそのことが明確にとらえられて、すべての
金融機関に対してそれが適切に、かつ公平に、均衡を持って
評価ができるかどうか。大変実は私は危惧するところであります。
確かに、路線価を
前提にした地価税の
評価はできました。そのようなことが、例はありますけれども、本当に
企業会計全体について、銀行の
資産全体についてできるかどうか、大変私は危惧するところであります。
それから、
資産再
評価による
利益の顕在化に対して課税をしないということであります。課税を繰り延べる、
土地の処分時に繰り延べるということになっておりますが、果たしてこの
資産再
評価という
目的に適合するかどうかであります。いわばキャピタルゲインが顕在化したということになれば、当然、実は課税があってしかるべきだと
思いますが、それを課税しないというのは、やややはり政策的な便宜に使っているんじゃないかという
感じがしてならないわけであります。
このように実は
問題点もあります。
緊急避難の措置としてやらなきやならないという事情もある程度理解できます。しかし、私は、労多くして功少なしということになると
思いますので、本質的な
対策というものを、やはり議会や政党でもう少し本格的な
対策を立てて、その一環として実はこういうものを位置づけるというならまだ理解できます。しかし、根本的な
不良資産対策、
不良債権対策が見えない段階で、部分的に、技術的に、さほど効果があるものとは思えない
対策をすることに対するやはり問題というのは指摘せざるを得ないというふうに思っております。
第二に、しかしながらでございますが、
時価評価というのは一つの時の流れだというふうに
思います。
国際
会計原則でも欧米の
会計原則でも
時価評価が採用がされておりますし、我が国の
資産評価が取得原価によって
評価されていることは、
含み益経営という不健全な経理を許してきたということから、早晩、この
企業会計について、
資産については
時価評価によるのは当然の動きだろうというふうに私は思っております。この場合には、実は、
金融資産を含めた
資産全体の
時価評価の導入が必要であるでしょうし、あるいは
土地だけ便宜的に選んでということではないかと
思います。
金融システムの安全性確保のために、
資産の
時価評価の考え方は極めて重要な
意味を持ちますし、その中でも重要なのは
金融資産の
時価評価であり、
土地不動産の
時価評価の役割は相対的には小さいんだろうというふうに
思います。
こういうふうに、
資産評価をする場合に、その機能でございますが、現在、我が国が直面している
金融機関の不良債権問題の解決にとって、不良債権の
時価評価は重要なステップになるとは
思います。現在の我が国の
金融機関は、その実情に即した不良債権の流動化を求められておりますが、償却によって不良債権の
バランスシート上の簿価を十分に時価に近づける、さらに、不良債権が
市場性を持つように、その
不動産の利用に即した現実的な価格を設定する、こういうことが
時価評価だろうと
思います。
第二に、
時価評価の考え方を採用することは、取得原価主義が助長したこれまでの
含み益依存型の
経営を是正することにつながると
思います。
金融機関が
含み益を実現するために無理に有価証券等の売却を進めることは、内部留保を必要以上に流出させ、その
経営体力を弱らせる
可能性もあるし、現実にそうやっているわけであります。
不良債権対策でそのようにやってきました。それは、今の
評価の
問題点の裏返したと
思います。
時価評価は、こういうような益出し
自体を無
意味なものにすると
思います。
第三に、
金融自由化が進み、
資産価格の変動が高まるにつれて、
金融機関はマーケットリスクにさらされるようになっていますが、
金融資産の時価の
評価の把握は、
金融機関にとってはリスクの管理上不可欠な条件になってきております。特に、トレーディング
目的の
金融資産については時価主義
会計の導入が喫緊の課題として求められているのは、
専門家の間でよく
論議されているところであります。
さらに、
時価評価によって期待される経済効果として、
金融資産であれ営業
資産であれ、収益性の
評価は時価ベースの投下
資本に対する
利益率であることが必要であります。
金融資産の収益性を
評価するときは、時価ベースの投下
資本に対する未実現の
評価損益を含めて、トータルリターンの
比率が必要だと
思います。そういう
意味で、
時価評価の
方向というのは一つの流れとして十分理解できるわけであります。
また、
時価評価のリスク管理支援機能もございますし、リスクにさらされている
金融資産、
負債を並行的に
時価評価すれば、ヘッジ機能の効果があると思われます。
さらに、これまでの原価主義のもとで生じた
投資のゆがみあるいは非効率な益出し、
投資対象選択のゆがみ、こういった
問題点の解消につながってくるという
意味では、
資産の
時価評価というのは大いに
評価できるところだろうと
思いますし、また、私は
会計学は専門ではございませんが、
会計学の
専門家においてもそういう
意見が主流だろうというふうに思っております。
しかしながら、実は、今回の
対策が不良債権、
不良資産対策に加えて貸し渋り
対策という点で行われている。これはまさに政策目標がそうなっておりますが、果たしてこの
制度でもってそれが解消できるかどうかということについては、かなりの問題があるところだろうと
思います。
最大の問題である
金融機関の不良
資産、不良債権について、残念ながら、いろいろな
対策が出ましたが、しょせんは不良
資産の、不良債権の帳簿上の償却ということに終始してきたと
思います。帳簿上の償却ができないときはそれを税金に転嫁する、こういうやり方で実はこの数年
不良債権対策をやってきました。
本質的には、実はこの
不良債権対策より、むしろ不良
資産というものをどうやって流動化し、有効利用し、これの付加価値を高め、これをエンドユーザーに渡し、これから
資金を回収していくか、こういうスキームというか全体像が必要であって、その上に立って、それぞれの施策がどういう効果をそれに対して上げるのかということを
論議すべきではないでしょうか。
部分的な、技術的なものを取り上げて、それがどういう効果があるかよくわからないけれども、とにかくやってみたらやらないよりましじゃないかということでは、それでは全体にとっては大変不幸だろうと思うのです。本質的な
議論、本質的な計画があって、展望があって、この
制度がそれに幾らかでも寄与するということであれば、それはそれなりに私は
評価ができると
思いますが、基本的に必要な全体像が見えずに、部分的な、テクニカルな手段でこれを何とか乗り切ろうというのは、いささか実は問題を逆に複雑にするのではないだろうか。
ということで、
最後にぜひ先生方にお願いしたいのは、本質的な問題、
不良債権対策、不良
資産の流動化、有効利用に対する本質的な
対策を出していただきたい。これをやはり、これからの低成長の中で、着実に実需を回復して、経済を回復して、その実需によってこの不良
資産、不良債権を処理していくしか方法がないわけでありますが、そういう展望をぜひお示しいただいて、その上で本
法案の採択をいろいろ御
議論いただければありがたいと
思います。
この
法案は
緊急避難である、現在の経済の
状況からして何とかしたいという
気持ちは痛いほどよくわかります。そういう
意味では、御努力については大いに多とするところでありますが、ぜひ、
不良資産対策、
不良債権対策の全体像が見え、
日本経済がもう一度健全な姿に立ち戻っていく、そういうスキーム、プロセスをお示し願いたいというふうに思っております。
以上であります。(拍手)