○五十嵐
参考人 五十嵐です。
私は、今回の
行政改革を次の三点から眺めてみたいと思っております。
一つは、
国民が統治の客体ではなくて主体となるということです。第二番目は、柔軟な
組織にするということです。三番目は、
スリム化のための
スリム化とか、あるいは
中央省庁の看板のかけかえだけに終わらせてはいけないということであります。これは、私が独自に言っているわけではありませんで、この行革
基本法のもとになっております
行政改革会議の
最終報告の中に書いている文章がそうでありますので、大方この
三つの
視点についてはコンセンサスの得られることではないかというふうに思っております。
この
三つの
観点から、今回の
行政改革の二つのテーマ、
一つは
内閣機能の強化、もう
一つは
省庁再
編成について考えてみたいと思っております。
第一は、
内閣機能の強化であります。
これに関しましては、内閣総理大臣の発議権、第六条、以下条文は省略いたしますけれ
ども、国務大臣の数、あるいは内閣官房の国政に関する基本方針の
企画立案、内閣府の創設、それから国の
行政機関の幹部職員の任免等についてというのが
内閣機能の強化ということで今回の
法案に盛られたものであります。
ただ、これを細かく見ますと、この中には必ずしも法改正を必要としないで現行でもやれるものがあります。多分現行法でやれることの方が非常に重要であります。現行法でやれることの内容の第一番目が内閣総理大臣の発議権でありますし、あるいは内閣官房の国政に関する基本方針の作成ということであります。こちらの方がはるかに
内閣機能の強化を考える上で重要な論点かと私は理解しております。
問題は、現行法でできるにかかわらずなぜ改めて
法律に書くかということでありまして、これは、現行法で必ずしもうまくいかないからやはり書かざるを得ないということでありましょうが、なぜ現行法でもできるにかかわらずうまくいかないかということについての理解を正確にしておかないと、単なる屋上屋を重ねることになるのではないかというふうに私は考えるわけです。
これは、いわば
日本の議院内閣制の根本の理解にかかわる問題でありまして、大きく言って二つの考え方が、ここで分岐点があるのだろうと理解しております。
一つは、御承知のとおり、先
生方、国
会議員の方々は
国民を代表して
国会に来られまして、その中から総理大臣を選出する、いわゆる議院内閣制をとっているわけですが、その場合の総理大臣とは何よりも
国会の代表者であること、それから、それから選ばれる大臣はいわば国務大臣であること、したがって、内閣というのは完全な政治構造体、政治共同決定体といいますか、そういうものだろうというふうに私は理解しております。これはいわば
国会に基礎を置いた議院内閣制だ、本来の趣旨は憲法上そう理解できるのではないかと思います。
しかし、現実には、まさにこれは
行政改革を生み出す
最大の原因かと思いますが、内閣総理大臣はいっか
行政の長になり、国務大臣はいっか
省庁の長になって、いわば事務次官
会議等で決められた
政策をそのまま追認するのが内閣機構だ、いわゆるそういう構造になっておる。こちらの方を仮に
官僚内閣制と言います。つまり、
国会内閣制にするか
官僚内閣制にするかがまさにポイントでありまして、今回の
改革はどうも
官僚内閣制の方に傾斜したままで終わっている。したがって、今後も余り、内閣の
機能強化ということの本当の
意味、つまり
国民を代表する政治家が
政策をつくるということについて
機能しないのではないかというのが私の感じであります。
これを解決するためには、何よりも、内閣総理大臣とそれをめぐるスタッフ、あるいは大臣とそれをめぐるスタッフに民間を含めた政治参加を考えて、そこの
機能を強化して、いわば
官僚を、
政策決定をしたその
政策決定に従って
行政を運営するというふうに機構を変えることの方が先決ではないかというのが第一点であります。
第二点は、
省庁再
編成であります。
この点について、言ってみれば、
地方分権を先行するとかあるいは
規制緩和を先行するとかということは当然の順序論でありまして、ここがやや一緒くたになって進んでいて、必ずしも
行政改革が何をするのかよくわからないのはこれが一緒くたになっていることがあるからだと思います。それから、
省庁の内部についても、財務省や総務省についてもいろいろ問題がありますが、私自身は
公共事業というのを研究してまいりましたので、
国土交通省の
問題点について絞ってお話をさせていただきたいと思います。
なお、ここできよう
指摘することは、各省を考える上でも、いわば共通する論点ではないかというふうに理解していただければと思います。
御承知のとおり、
国土交通省は、建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁をいわば合体する形で新しく設立されることになっております。御承知のとおり、これは
公共事業官庁でありまして、
公共事業の七割ないし八割を担当すると言われております。この予算、人員、局数、許認可数、あるいは
公共事業に
関係する特殊法人あるいは公益法人というのを考えますと、世界に全く例のない巨大官庁であります。イギリス、ドイツ、フランス等々、
行政について調べましたけれ
ども、こういう巨大官庁は世界に全く存在しておりません。そもそも、なぜこのような巨大な官庁をこの際つくる必要があるのかということについて、絶えず疑問を持っておりました。
そこで、私自身は、こういうのはやはりよくないだろう、少なくとも二十一
世紀の新
社会資本を考える上で、こんな巨大官庁をつくるとだれもがコントロールできなくなるという心配がありましたので、できればこの
国土交通省については再考願えないかということを考えまして、実は各党の代表者の方々をつい過日訪ねました。自民党加藤幹事長以下それぞれの党首にお会いしまして、率直に私
どもの
意見を申し上げましたところ、少なくとも野党ははっきりこの巨大
国土交通省については反対であるということを、自由党の方も民主党の方もその他の政党の
人たちも言っておりました。
問題は与党であります。加藤幹事長は、これは問題があることはわかるけれ
ども、後で申し上げます
地方支分部局というところにいわば分散をするので、そんな恐れるほどの巨大官庁にならないのではないかということでありました。社民党及びさきがけの
人たちも、行革全体としては賛成だけれ
ども、やはりこれにはいろいろまだ問題があるのではないかということを言っておりました。つまり、明確にこれは絶対に正しい、これは絶対にやるべきだと言っているのは、およそ建設省と一部を除いてほとんど世の中にいないのではないかというふうに私は思っております。
さらに、
行革会議のプロセスで、この問題については絶えず問題になっていたことを御承知おき願いたいと思います。何よりもこの巨大化を心配していたのは
行革会議そのものでありまして、御承知のとおり、橋本総理大臣みずからが、巨大官庁はぐあいが悪いということで、中間報告のときには国土開発省と国土保全省に二分するということを決めていたわけであります。
中間報告から
最終報告の段階でこれは逆転するわけですが、報道等によりますと、大蔵省や郵政三事業に対するのと同じようないろいろな政治的な動きがありまして一括されたということのようでありますが、なぜ二分割案が統合される必要があるかについて、ほとんど明快な理由は
国民の前に示されていないと思います。橋本総理大臣の
危惧が当たるのではないかと私は思っております。
さらに、これについてさまざまなアンケートや識者の談話等が発表されております。新聞の報道によりますと、
国土交通省については大方の
国民が反対しております。
さらに重要なことで幾つか
指摘しておきたいと思いますけれ
ども、例えば橋本さんの
行政改革を支える文化人あるいは学者の会があります。この筆頭者が堺屋太一さんになっておりますが、この人も、国土を開発するなどというのはもう幻想に近いということとか時代錯誤だとか言っております。さらには、
政府のかなり高官であります榊原さんも、
公共事業に頼る時代はもう終わったんだというようなことを言っておりまして、多分大方の、党派を問わず、年齢を問わず、全国的に、この
国土交通省については問題があると
皆さん考えているのではないかということを第一点に申し上げたいということであります。
第二点は、唯一
国土交通省巨大化に対する反論として言われているのが、
地方支分部局に
公共事業を分担させるということであります。つまり、国がやるべきことと自治体がやるべきことを分けた上で、さらに国のやるべきことを
地方支分部局に分担させるというやり方でありますが、一体この
地方支分部局は何かということについても必ずしも明瞭になっていません。今のところ、これは国家
組織そのものでありまして、必ずしも国の仕事を減らすわけではないということが
一つであります。
二番目は、これはやはり大きな矛盾をはらんでいると思うのですね。国が余り大きな事業をやらないということのためには、
地方支分部局について独立した
権限を与えなければいけない。予算をつくり、あるいは箇所づけをするということになると思いますが、
地方支分部局に対してチェックする
機能は一体どこにあるのかということが明瞭でありません。国でありますと
国会がありますし、自治体でありますと議会があるわけですけれ
ども、この
地方支分部局については、これが暴走したときにとめる方法は全くないということであります。仮に独立を減ずる方向でいきますと国家と全く変わりがないということで、唯一の切り札とした
地方支分部局案についてもほとんど理由がないのではないかと私は思います。
こういうふうに、
内閣機能と
省庁の再
編成、両方とも私は非常に大きな疑問を感じますが、もっと大きい疑問は、
国会の中に、国家のいわば骨格をなす
行政改革について内閣からたった
一つの案しか与えられていなくて、これがいいか悪いかしか答えようがないというのが
最大の不幸ではないか。ぜひ野党の先
生方もこれにかわる対案を
国民の前に示していただいて、そのどちらがいいか、優劣を
国民が決めていくというスタイルにしてほしいというのが私の願いであります。
終わります。