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参考人(
紺谷典子君)
日本証券経済研究所の
紺谷でございます。よろしくお
願いいたします。
私は、この
預金保険法の
改正というのは
基本的には賛成ではありません。ですけれ
ども、今の
状況ではいたし方なしと思っております。どうしてかと申しますと、
日本の
金融不安の
現状、不況の
現状というのが余りにも緊急を要しているからなんです。
金融というのは、人間の体に例えれば心臓みたいなものです。
一般の企業とか家計から預金としてお金を集めて、それを必要とする事業主、企業とか、あるいは住宅ローンとして流していく、借りた方たちがまた預金をし、それをまた貸してというようにお金をぐるぐる回転させる役割を持っているのが
銀行ですね。
銀行という名前がついておりませんでも、信用金庫、信用組合も同一でございます。そういうところが貸した先で
資金が焦げついて返ってこないということが起きた、その結果として人間の体に例えれば血液が十分に回らない、飛行機でいえば片肺飛行みたいなそういう
状況になってしまっているわけです。それが余りにも長引きましたために、どんどん
状況が悪くなっている、病巣が深く大きくなっているという
状況を生んでいるわけです。
そういうふうに
不良債権問題が一向に片づいていないにもかかわらず、増税とかあるいは特別減税の廃止、あるいは社会保険料の値上げ、公共事業の削減ということを
政府はお決めになりまして、それは言ってみればまだ病み上がりでもない、病巣を抱えたまま何とか病気をあしらい、歩き始めた病人の上に何だ歩けるのではないかと言って大きな荷物を四つも一遍にしょわせたに等しいんですね。ですから、
経済は完全にへたり込んでしまったというのがこの春以降でございます。
そこにアジアの
金融不安、通貨不安が起きたということでございまして、
日本はアジア
地域に巨額なお金を融資しておりますし、それから重要な輸出先の
一つでもありましたから、不況と
不良債権と両方の
事態を悪化させてしまったわけです。言ってみれば、何とか病巣を抱えながら歩き始めた病人に大きな荷物を背負わせた上に、頭から水をぶっかけるような、そういう
事態が生じたというのが今回の
状況ではないかと思っているわけでございます。
ですから、この十一月からほんの一月余りの間にばたばたと四つも
金融機関が
破綻をする。三洋
証券がだめになった。北海道拓殖
銀行が
破綻した。山一まで来て、さらに徳陽シティということが起きたわけなんですけれ
ども、これは非常に危機的な
状況でありまして、どういうふうに危機的かと申しますと、従来でしたらば十分に営業が可能であったかもしれない
金融機関が
資金繰りが苦しくてこの場をしのげなくてつぶれ始めているということでございます。山一の
破綻の後に生じた
銀行株の暴落というのはその危険性を非常に大きく物語っていたわけでございまして、その危機は一向に去っていないと思うんですね。
どうしてかと申しますと、今幾らか株価にしろ何にしろ落ちついているというのは、
政府がいろんな
意味での
不良債権処理を進めて
金融不安を静めるという政策をいろんな形でおとりになっていらっしゃる、それが確定するまでの間少し様子を見ようという形で静かになっているだけでございまして、危機は一向に去っていないんだと思うわけです。
どういう
意味で
日本は今危機かと申しますと、
金融不安とか不況の危機というのがただならないと私が考えますのは二つの
理由があります。
一つは、今、
日本経済が置かれている
現状というのが家計あるいは企業あるいは
金融機関が自己防衛のために自己
責任でいろいろ
努力すればするほどマクロ
経済的に全体が一層悪化するという
状況にあるわけです。家計が節約すれば消費が減ってしまう。あるいは企業が、うちの商品は売れているんだから工場をつくってもいいんだけれ
ども、景気の先行きが不安だといって投資を控える。あるいは
金融機関は今後早期是正措置ということで数字が悪かったらば業務停止するよ、あるいは自動的に
破綻処理に入るよという、そういうおっかないことが決まってしまったわけですからほとんどおしりに火がついてしまったような
状況でございまして、それは何とか数字をよくしたいと思うわけです。この先
不良債権がどれほどふえるかわからないと思えば、貸し出しを渋っておこうということを考えるわけですね。そうしないと、持っている自己資本と資産の比率というのが
処理に入られる比率を下回ってくるという可能性があるわけです。
ですから、今非常に深刻なのは、先ほど
西崎参考人もおっしゃいましたように、中小企業に対する貸し渋りというのが起きていて、それがさらに景気を悪化させている、非常に困った問題が起きているんですね。大丈夫な企業が
資金繰りのためにどんどんつぶれ始めているということが起きているわけです。
今、
日本の
現状というのは、先ほど申し上げましたように、一人一人が自己
責任で防衛
努力をすればするほど全体が悪くなる、景気が悪化して株価が下がった、株価が悪くなることによって
金融機関の
経営がさらに悪くなって
金融不安がいや増す、貸し渋りが景気をさらに悪化させる、それによって株価が下がって株価の下落が
金融機関の損失をさらに大きくするという、そういう悪循環が生じているわけです。一人一人の
努力が
経済を一層悪化させるという形の悪循環が生じてしまっているわけですから、ここは政策の出番なので何らかの形で歯どめをかけないととても困った
状態が生じる。
これだけ円安が進んでいるにもかかわらず物価が下落しているということは、円安だったらば通常は輸入物価が上がりますので物価上昇に結びつくわけです。それが卸売物価も消費者物価も低落傾向をたどっている、これはただならない
事態なんですね。つまり、
経済全体がデフレ
経済、縮小均衡に向かっているということでございます。
それからもう
一つの
理由は、
日本発の
金融不安が今
世界じゅうで懸念されているということでございます。
それは、言ってみれば
日本はこんなに病んでいる
状態でもあるにもかかわらず資産を大量に持っていて、よその国にたくさんお金を貸している
状態である、
日本のお金が
世界の
経済を支えているという側面がありまして、
日本経済がどんどん悪くなってくれば
金融機関を中心に諸外国から
資金を引き揚げ始めるということが起きるわけでございます。それがさらに海外の
経済状態を悪化させて
金融不安をいや増すということでございますから、これはもし本当にそういうことが起きてしまいますと、第二次
世界大戦以来の
世界への大迷惑ということでございまして、
日本の
経済政策のいかんによっては
世界に甚大な被害を及ぼすかもしれないというような、ほとんどがけっ縁といっていいところに
日本は今いると思うわけですね。ですから、そういう二つの点で
日本経済自体が大きなスパイラル、悪循環に入っている。
もう
一つは、
日本発の
金融不安、大不況が
世界に波及するかもしれないというような
状態まで来ている、これを何としてでも食いとめなかったらば大変なことになるということでございます。
ですから、今回の
預金保険法の
改正につきましては、
破綻した
金融機関同士をどうして助けるのか、そのためになぜ公的に
資金支援を行うのかというような疑念というのは所々方々から生じておりますけれ
ども、通常の
状態ではないということです。
それから、今起きていることは、もしかしたらこんな
状態じゃなければ生き長らえたかもしれない
金融機関をさえも死なせてしまう
状況にあるということなんです。そのことによって生じる損失というのは甚大なものがございまして、山一の
破綻でも何でもそうですけれ
ども、
一つの組織が壊れると、仮に失業者を出さずにみんな引き取ってもらえたといたしましても、組織であることによって生まれていた付加価値というのは消えてしまうわけでございます。
それから、さまざまな摩擦コストが生じます。山一の
破綻で大きく株価が下がりましたのは、あれがどんなに大きなショックを
国民に与えたかということなんです。山一までつぶれるのか、山一というのは
世界に名前がとどろいた大
証券会社でございます。そこまでついに来たのかということで株価が大暴落したのでございますけれ
ども、あれによって
一般の
国民の気分あるいは
金融市場の気分というのは非常に大きく変わってしまいました。つまり、私のところなんかに取材に来る方々が何をテーマにしているかというと、もしもうちのお父さんの会社がつぶれたらどうしたらいいのかとか、そういう話になっちゃったんです。退職金は出るのか出ないのかとか、山一の人たちは失業してその後本当に就職先が見つかるのかどうかとか、自分の身に引き比べて非常な
不安感を持ってしまったということでございます。
それから、
世界に対しても、
世界に名がとどろいて
世界じゅうに三十もの海外現法を持っている大
証券会社がつぶれたということは、
日本がいかに危機的な
状況かということを
世界に知らしめてしまいました。
しかも、あのときの記者会見というのが非常に情けないものでございまして、つまり山一の
経営責任を追及して、それに終始したということでございます。本来あの記者会見は、
証券局長の記者会見でございますけれ
ども、
世界じゅうが注目した、
日本じゅうが注目した記者会見でございますから、不安を静める、
責任ある対処をどうとるかということを示すための記者会見であったはずでございます。そうであるにもかかわらず
責任逃れに終始してしまった。知らなかった、初めて聞いたとおっしゃる。それは、知らなかったと言うことによって
責任逃れをしようという姿勢がありありとしたものでございまして、あれをきっかけに
大蔵省に対する
世界の
信頼というのは大きく大きく損なわれたであろうと思います。
ですから、
大蔵省が
金融行政をつかさどっている限りは
日本の
金融不安に対する懸念というのはなかなか鎮静しないのではないだろうかと。そのためにも政治主導できちっとやっていかなくてはいけない
状況が生じたということでございます。つまり、あの記者会見は
世界じゅうの不安を一層強めた記者会見であったわけです。
日本の国際信用も大きく損ないました。それを通して
日本の
経済交渉力というものも国際交渉力というものも大きく損なった記者会見であったろうと思います。
ですから、そういう点からかんがみまして、この
預金保険法改正について、どうしても
一つクレームをつけたいことがあるわけでございます。
それは、
大蔵大臣の裁量によってどの
金融機関に
資金支援をするかということを決めることになっている。
大蔵大臣のあっせんを受けた
金融機関にのみ
資金支援を行うという形になっている。
大蔵大臣がお決めになるということは、実質問題として
大蔵省がお決めになるということですね。この大きな問題を引き起こした監督官庁が何ら
責任を負うことなくしかも今まで非常に無
責任にどんどん先送りしてきて今日の
事態を招いたところにその判断をゆだねるということは到底容認し得ないことでございまして、その辺に関しては、例えば第三機関とか、もう少し別の御
処理があってしかるべきと考えております。
その点を除けば、非常に緊急
事態でございますから、
破綻する
金融機関に手を差し伸べて何とか
金融不安を静める、ありとあらゆる考えられ得るすべての方法をとってでもこの
金融不安から脱しなくてはいけないような危機的
状況に
日本はあると思います。
重ねて申し上げますけれ
ども、今日の
事態を招きましたのは
金融行政の
責任者であるところの
大蔵省だと思うわけです。そこの裁量権をさらに
拡大するというような措置というのが
金融不安を静める方向に働くとは到底思えないわけでございまして、その点の再考だけをお
願いしたいと思います。