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1997-11-10 第141回国会 参議院 国際問題に関する調査会対外経済協力に関する小委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成九年十一月十日(月曜日)    午後一時一分開会     ―――――――――――――    小委員異動  十一月七日     辞任         補欠選任      広中和歌子君     木庭健太郎君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     小委員長        板垣  正君     小委員                 馳   浩君                 山本 一太君                 木庭健太郎君                 福本 潤一君                 角田 義一君                 田  英夫君                 上田耕一郎君    政府委員        外務省経済協力        局長       大島 賢三君    事務局側        第一特別調査室        長        加藤 一宇君    参考人        東京大学社会科        学研究所助教授  中川 淳司君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件参考人出席要求に関する件 ○対外経済協力に関する件のうち、「ODAの検  証と改革方向」について     ―――――――――――――
  2. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) ただいまから国際問題に関する調査会対外経済協力に関する小委員会を開会いたします。  まず、小委員異動について御報告いたします。  委員異動に伴い欠員となりました小委員補欠として、去る七日、木庭健太郎君が選任されました。     ―――――――――――――
  3. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  対外経済協力に関する件の調査のため、本日、参考人として東京大学社会科学研究所助教授中川淳司君の出席を求め、その意見を聴取することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ―――――――――――――
  5. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) 対外経済協力に関する件を議題といたします。  本日は、ODAの検証と改革方向について政府からの説明聴取参考人からの意見聴取及びそれに対する質疑を行います。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  このたびは、御多用中のところ本小委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、忌憚のない御意見を伺い、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず政府から十五分程度説明を聴取し、次いで中川参考人から十五分程度意見を伺った後、午後三時半を目途に質疑を行いたいと存じますので、御協力をお願い申し上げます。  なお、意見説明質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、まず政府から説明を聴取いたします。大島外務省経済協力局長
  6. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 外務省経済協力局長大島でございます。本日は、この小委員会にお招きをいただきまして説明をさせていただく機会を得られましたことを大変感謝申し上げます。  きょうは、事務局の御指示で、主としてODA大綱関係につきまして外務省考え方説明するようにということでございますので、御指示に従いまして御説明をさせていただきます。  お手元資料を配付させていただいておりますので、適宜御参照をいただきたいと思います。  まず、ODA大綱制定経緯それから大綱運用、その後若干の実例、特に中国ミャンマーに対する大綱適用実例、それから最後に諸外国におけるこの種問題についての基本的な考え方、こういう四点に絞りまして御説明をさせていただきます。  まず、大綱制定に至る経緯でございますが、お手元資料一にごく簡単に整理してございます。  その右側の方に経緯がございますが、八〇年代後半になりまして、例えばカナダでODA大綱が作成されるといったような話も伝わってきたりしましたが、基本的には、当参議院外交総合安全保障に関する調査会のいろいろな討議を経ました最終報告で七項目の合意事項というのもございましたし、さらにそれを受けるような形で参議院会議の決議もございました。こういったいろいろな討議背景になったと言って差し支えないんではなかろうかと思います。  さらに、直接的には、九〇年に起こりました湾岸危機を契機といたしまして開発途上国における軍備増強に関する関心が高まったこと、加えまして、冷戦が終結して共産主義体制から決別をし、民主化あるいは経済自由化といったようなことが特に注目を集めるようになった、こういった国際関係背景になったということもあると思います。さらに、開発途上国における民主化あるいは人権状況といった問題に対する関心が高まりました。  そういう背景のもとに、九一年四月に参議院予算委員会におきます海部当時内閣総理大臣答弁という形でいわゆるODAの四指針資料一の左の方にございますけれども、これを発表いたしたわけでございます。さらに、その後第三次行革審が、九一年十二月に、政府開発援助大綱を念頭に置くような形で、基本的な援助の理念、考え方援助実施に当たり配慮すべき諸点、こういったことを明らかにすべきであるということもございました。そうした一連の経緯を受けまして、最終的には対外経済協力審議会におきまして集中審議が行われた後、一九九二年六月に至りまして閣議決定という形で大綱決定を見たというのが大ざっぱな経緯でございます。  次に、運用についてでございます。  九二年に制定されて五年余りを経過いたしました。若干の実績も出てきたわけでございます。基本的には、運用原則につきましては大綱原則部分に明記してございますけれども、運用に当たっては国際連合憲章の諸原則、特に主権、平等及び内政不干渉といった諸原則、及び以下の諸点を踏まえて相手国の要請、経済社会状況、二国間関係等を総合的に判断の上実施していくという趣旨がうたわれております。  こうした一般的な原則に従いまして、運用といたしましては具体的な状況、すなわち生きた国際政治経済社会背景にいたしまして、問題を抱える政府国民相手ODAというものは供与をされておるわけでございますが、ODA大綱実施に当たりましては、実際の問題としましては、かなりいろいろ具体的な場面においては微妙な判断を迫られることが多いということは問題の性格上避けられないところがあるかと思います。  結局のところは、先ほどの原則に沿いまして、二国間関係等も含めて総合的に判断の上、個々ケース事例に即しまして最も適当なと思われる判断を行っていく、ケース・バイ・ケースに行っていく、一言で言えばそういうことになるかと思います。  具体的には、いわゆるポジティブリンケージネガティブリンケージ大綱の中に書いてあるわけではございませんけれども、運用に当たりましてはそういう形で運用をされております。  特にネガティブリンケージ、この実施が実際上は難しいわけでございまして、相手国に対して、大綱にうたわれている諸問題がある、あるいはその状況が懸念されるというような状況になりますと、場合によっては援助停止といったような事態に至るわけでございますが、その場合に相当慎重かつ微妙な判断が求められることになります。やはり、機械的、一律的な適用ということは必ずしも適当でない場合が多うございます。非常に明らかなケースは別としまして、かなりそのケースごと判断をしていくということで、相当微妙な判断を強いられるというふうに申し上げていいかと思います。換言をしますと、一刀両断的に対応していくということは必ずしも適当でない。状況によりまして、相手国に対する理解あるいは温かみということを欠く判断を避ける必要もあるといったようなことでございます。  特に、大綱の中にございます四原則の中でも、軍事支出とか民主化の問題につきましては相手国内政にかかわるような問題もございますので、非常に慎重な判断を要する部分かと思います。さらに、日本自身がかつて被援助国としての立場を持っておりました。また、日本アジアの一国ということでございますので、開発途上国状況に対する理解あるいは判断においては、そういう立場状況によっては踏まえるという必要があるかと思います。さらに、途上国一般民衆に対する配慮も必要になります。緊急・人道援助あるいはいわゆる草の根支援的なものに対しましては、例外的な運用を行っていく配慮も時に必要であるということであろうかと思います。  さらに、これは大綱にも盛っておりますけれども、日本が単独に行うということでは必ずしもない場合が実際上多うございまして、いわゆる援助諸国間のある種の政策的な協調といったような枠の中で日本自身が態度を決めるということもございます。  以上が運用に関する部分でございます。  若干の運用例につきまして、簡単に御報告させていただきます。  特に、ネガティブリンケージの場合の停止等具体的な対応措置につきましては、停止のタイミングあるいはその程度をどうするかといったような決定を求められるわけでございますし、また事態改善が見られた場合には再開ということを判断する必要がございます。  たくさん例がございますけれども、まず最近の中国について申し上げます。  中国につきましては、八九年の天安門事件、これはもちろん大綱制定以前のケースでございましたけれども大きな事件があり、その後におきましては、御案内のとおり九五年八月に、核実験に関連をいたしまして累次の申し入れにもかかわらず日本側の言い分が聞き入れられないというようなことがございまして、無償資金協力につきまして一部の人道援助等の例外は設けましたけれども凍結をいたしました。九六年以降についても、核実験停止が明らかにならない限り無償資金協力原則停止を維持するという方針決定いたしました。その結果、実績が約七十八億円程度ございましたけれども、五億円弱に大幅に減少したという実例がございます。その後、中国自身核実験を九六年七月を最後停止いたしまして、いわゆるモラトリアムに移るということになり、さらにCTBTに署名をするに至りまして、我が国としてもことし三月、対中国無償資金協力を再開したと、こういうケースがございます。  なお、もちろん中国につきましては、人権の問題あるいは軍事支出等の観点から引き続き動向には注視をしていっております。  次に、ミャンマーケースでございますけれども、八八年の民主化要求による政情の混乱がございました。その後、国軍によるクーデターがあり、ミャンマー援助原則として停止いたしました。一部緊急的・人道的性格援助については例外的な措置をとるといたしましたけれども、原則停止ということを維持したわけでございます。その後、ミャンマー政府との対話等がございまして、軍事政権側とそれからアウンサンスーチー女史の率いるNLDとの間にいろいろな縛余曲折等がございましたけれども、九五年十月に至りまして、アウンサンスーチー女史の解放という事態がありましたので、その事態を受けて若干の援助方針の見直しを行ったわけでございます。  現在は、民主化及び人権状況改善を見守りつつ、当面は既往の継続案件民衆に直接裨益する基礎生活分野案件を中心に、個々事例に即して検討の上実施していくという一般的な方針のもとに臨むこととしております。  その後も、ミャンマーASEAN加盟が実現をいたしましたし、それからNLD側軍事政権側のいろいろな会談等、駆け引きがございます。一定の進展も見られますけれども、先ほど申し上げました方針を基本的に見直すような状況にはなっておりません。  最後に、他の主要国対応でございます。  こうしたいわゆる民主化に関連する問題等につきまして、一番はっきりした援助方針をとっておると思われますのはアメリカであろうと思います。対外援助法に基づきまして、一定の行為あるいは一定の事実がある場合にははっきりと援助は行わないということを法律上明記しております。すなわち、米国への麻薬の密輸を防止する措置をとっていない国であるとか、共産主義国あるいはテロ支援国家軍事クーデター政権が覆されたような国あるいは米国人への負債状況米国資産の凍結等問題のある国、こういったカテゴリーを明らかにしまして原則として行わないという方針をとっております。  そのほかの、主要援助諸国につきましては、非常にはっきりしたガイドラインを持っているという国、日本のように閣議決定まで経て大綱のような形で非常に明確にしている例はそう多くはございませんが、いろいろな形、すなわち援助政策を述べた文書あるいは議会における発言等々によりまして、それぞれの国の援助に当たっての指針、基本的な考え方を表明しております。  以上、簡単でございますけれども、冒頭の説明とさせていただきます。
  7. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) ありがとうございました。  次に、中川参考人に御意見をお述べいただきたいと存じます。中川参考人
  8. 中川淳司

    参考人中川淳司君) あらかじめ学者用語といいますかレジュメというのをお配りしてありますので、それに沿ってと思っていたんですけれども、今の局長お話かなり程度私のレジュメ前半部分についてはお話しいただいたと思いますので、レジュメで申しますと、主として3の運用状況それから4、5についてお話をいたします。  まず、説明の手順としては、一番最後につけました十二ページから十四ページにかけての資料の2と3をごらんいただきたいと思います。  ODA指針、私のレジュメの中では四原則という言葉を使っておりますけれども、四指針として九一年に海部首相お話しされ、九二年にODA大綱に取り込まれた原則でございますが、その主要な適用事例を、毎年出されております経済協力局編ODA白書国別の詳しい方、カントリーレポートの下巻の方のみを使いまして、私なりにフォローしてまいったものでございます。ただ、ことしの白書が私の研究室に届いたのが先週でして、ちょっと間に合いませんでした。今、局長お話の中で、中国に対する無償援助停止が功を奏したということで再開されたという九七年三月のデータはまだ入っておりません。その点は、いずれ何らかの形で修正なりさせていただこうと思っております。  大島局長の方から、比較的有効に機能した例として中国、努力はしているけれども必ずしも有効とは言えないかもしれない例としてミャンマーの例がお話があったかと思います。ただ、それでも粘り強く外務省の方でなさっているというお話があったと思うんですけれども、私の資料の2は、むしろこれは網羅的と申しますか、とにかく括弧づきですべての例を拾い上げたものであります。  そこで、まずこの例から定量的に何が言えるのかということを申し上げまして、次いで、しかし実はこれがすべてとは言えないということをその後申し上げます。その上で、その有効性ということについて二、三お話をして、最後に、私なりに今後どういうふうに改善していったらいいのかということについて申し上げます。  そこで、一番最後資料3をごらんいただけますでしょうか。そこに、「ODA指針地域別適用状況」というものをつくりました。これは私が勝手につくったものです。計算は足し算だけですので多分間違っていないと思いますが、ひょっとしたら違っているかもしれません。  この表は実はいろんなことを思わせるものでして、幾つかございます。  まず、非常にODA大綱は有効であったということを示す証拠がここにあらわれていると考えます。具体的には、その縦の列の左から三列目の括弧の中であります。それはネガティブリンケージ適用して、その後事態改善されたのでポジティブに転換したという例であります。  例えば、アフリカの場合でありますと、十件のネガティブリンケージに対して五件、打率でいうと五割ですから、これはかなりの高い確率で改善が見られた。また、中南米ラ米に対しては、ニカラグアであるとか、あと恐らくペルーのケースを考えたんだと思いますが、二件中二件。それから、アジアに対してネガティブは一件中一件、これは先ほどの中国無償援助の件はカウントしていませんので、二件中二件ということでかなり高い。何しろアフリカはああいう地域ですから、それを除けばネガティブリンケージかなり有効に機能したと言っていいのではないかということが一点指摘できると思います。  他面、これはやや私は批判的に見ているところなんですけれども、ODA供与国の数あるいは日本ODAのコミットメントの額の大きさということから考えますと、また、ちまたで報道されますさまざまな人権侵害ですとか、あるいは軍事化あるいは民主化等々のさまざまな出来事を考えますと、アフリカに対してネガティブリンケージが十件発動されておるのにもかかわらずアジアに対して一件しか発動されていない、また中近東にはゼロである、中南米に対しては二件しか発動されていないという事実、これをどう考えたらいいのかということについて、できたら外務省の方から御説明いただきたいというふうなことを思ったりもするわけであります。  私は、こういう形で、恐らく理由は局長が先ほど申された中で、二国間関係の重視、さまざまな微妙な配慮ということも必要であると。それはODA大綱原則柱書き部分に確かにそういうふうに書かれておりますから、一律に機械的に適用するものではないということはもとよりでありましょうけれども、しかしそれは極めて危険な、場合によってはオポチュニズムと申しますか、あるいはダブルスタンダードと申しますか、そうともとられかねない危険があるのではないかと考えます。私は、そういうものであるという形で評価を下しているものではありません。  むしろ、個々ケースにつきましては、先ほど中国ケースミャンマーケースを御説明いただきましたように、極めて高度の政治的な判断あるいは中長期的な配慮を踏まえて、またネガティブリンケージというのは非常に創業でして、使ってしまうとそれ以上の手はないんですね、援助をとめた、もうそれっきりで関係が切れるわけですから。これは最後の、いわば伝家の宝刀というものでもありますから使いづらいということもあるのかもしれませんが、そのあたりは、逆に言うと、アフリカに対して余りに安易に使い過ぎていないか、アジアに対して慎重過ぎないか等々さまざまなことが考えられるわけです。この点、まだ私の方で分析が進んでおりませんので、この点に関しては私の個人的な意見ということでお伺いいただきたいと思います。  効果ということについて今申し上げたんですけれども、実はODA原則効果について、私は直接的な効果と間接的な効果を分けて考える必要があると考えています。  直接的な効果と申しますのは、つまり四原則に関して違反があって、ネガティブを発動して改まったかどうかというのが効果だろうと思います。間接的な効果として、日本ODA原則というものを通じて世界あるいは日本国民に対して何を発信しようとしたのかということ、ODA原則ODA大綱日本政府が込めたメッセージが的確に伝わったかどうかという効果であります。  私、考えまするに、それは恐らく冷戦後の世界において新たな秩序原理が求められるこの現代において、日本という国が単なるトップドナー、単なるお金をたくさん出す国ということではなくて、世界の世論、公益をリードするリーディングドナーとしての立場を鮮明にする、そういう意図があったんだろうと思います。八九年にトップドナーになって九一年以降継続的にトップドナーですけれども、そういう多額の援助供与する日本がどういう政策援助という手段に込めるのか、そのことに関する意思表示が、意見表明ODA大綱だったんだろうと考えています。  果たしてその点に関して、間接的と申しますか長期的な効果に関してどのような効果があったと言えるのでありましょうか。五年、六年ではその点の判断は非常に難しいところであると思いますけれども、少なくともオポチュニズム、一貫した適用がなされていないような印象を内外に与えるようでは心もとない気がするのであります。  アメリカ人権外交を七九年にスタートして二十年近くたちました。その間、アメリカはさまざまな過ちを犯してまいりました。ニカラグアに対する侵略を、反政府勢力にCIAを使って援助するとかというふうなうわさ、これは事実かどうかわかりませんけれども。そういったことを含めて人権外交一貫性に関してはかなりの批判も浴びてきたわけでありますけれども、アメリカは現在に至るまで中国に対しても人権外交を一貫して標榜しております。その結果、アメリカという国がたとえ時にエゴイスティックなことを考えようが、やはり人権という価値の普遍化を代弁するオピニオンリーダーであると、そういう評判はかち得たと思います。  今から十五年後、ODA大綱ができて二十年たった後に、我が国国際社会において、憲法前文にありますような名誉ある地位を得ることができるかどうかは、まさにこれからの外交姿勢にかかっているのではないかというふうに考えます。  そこで最後に、簡単ではございますけれども、ODA大綱運用、その効果、その意義を踏まえて今後どのような改善を図るべきかということについて、私の意見を四点にまとめて述べさせていただきます。  第一点は、適用における一貫性の確保ということであります。  とりわけネガティブリンケージまたディプロマティックプレッシャー、私は、それに至る以前のさまざまな政策対話等々のことを含めて外交圧力と呼んでおりますけれども、その発動において慎重であるという日本政府の基本的なスタンスは、相手国との友好関係を損なわないためという一つの外交的配慮のあらわれとしては確かに評価できる、また理解できるものであります。しかし、それがダブルスタンダードオポチュニズムに陥らないためのフェールセーフをかける必要があるということであります。  とは申しましても、そのことは一律の非常に硬直的な運用をやればいいということではありません。四原則運用方法や強さの選択、またその組み合わせに関してはさまざまなマトリックスが考えられます。個々途上国に一律の基準を適用するのではなくて、個々途上国の事情に応じた適切な組み合わせを考えていくという必要があろうかと思います。  一口に発展途上国と申しましても、例えばもう既に経済的には先進国に肩を並べ、政治制度の上でも先進国と遜色のない国もあります。他方で、とりわけアフリカの旧植民地の一部に見られますように、現実には独立の国家としての経済的な、また政治的な体制はいまだ形成されていない、そのような段階にある国もあるわけであります。おのずとそのような国、大ざっぱに申しますとリージョナルな傾向、相手国の実情に応じた四原則適用の仕方、また手段選択が考えられてしかるべきでありましょう。  一点だけ申しますが、アフリカに対しては、私の言葉で申しますとダイレクトアシスタンス、まずは民主主義なり国家体制制度自体をつくるための援助が必要で、その先に民主化ネガティブリンケージポジティブリンケージという問題が多分出てくるんだろうと思います。それは、残念ながら草の根援助だけではだめです。政治制度をどうやってつくるかという問題です。それを旧宗主国に任せておくのは、私は植民地主義の温存につながることでよくないと思います。その点で、日本はもっともっとコミットメントすべきだろうと思います。  援助一貫性に関連する第二の提案ですが、それは一貫性をなおかつ保ちつつ続けていく必要がある、しかし国別のアプローチは必要である。とすれば、そのような筋の通った適用を確保するためのインフラストラクチャーの整備が必要であろうと思います。  具体的には、援助原則の対象項目に関する国別のモニタリングの体制をつくる必要があると思います。最も簡便な方法としては、現在、在外公館に置かれております専門調査員制度をそのマンデートの中に、四原則に関する適用状況調査あるいは状況調査というものを加えるということは可能かと思います。そのためには、専門調査員制度を拡充すべきであろうと思います。  また、より中長期的、強力な政策としましては、米国人権外交に関して行いました国別人権状況のレポート、私、現物を一冊持参しましたけれども、アメリカはカントリーレポートというものを人権に関して出しております。これは膨大なエネルギーが要ることだと思いますけれども、アニュアルレポートを出しております。こういったODA大綱年次報告ないしODA大綱白書といったものをつくってもいいんではないかと思います。  さらに、私、もう一冊持参いたしましたが、それはヒューマン・ライツ・ウォッチ・ワールド・レポートというものでありまして、これは国務省のつくった国別人権報告書のいわばチェックなんですね。アメリカの非常に有力なNGOがモニターをやっている。これはアメリカ民主主義の底力を示す現象だろうと思います。  この二つの、行政とNGOの相互作用によってアメリカ人権外交一貫性が保たれてきたと言えるわけです。私は、残念ながら現在の日本のNGOにはその力量はないと考えています。その役割は国会に求めざるを得ないんではないだろうかというのが私の考えです。  第三点、これは大島局長と同じく政策協調の強化ということであります。  日本が確かにトップドナーですけれども、援助国間で政策協調を強めることが四原則の目的達成度を左右する重要な要因であります。ぜひともそうする必要があります。  その場合に問題となるのは、四原則中三つを占める軍事的な部分です。武器輸出を現に行っているフランスやアメリカは、四原則の中で武器の輸出入の動向に関しては沈黙しております。核開発をやっている安保理の五大国、常任理事国は一切この点に関して問題にしておりません。それは局長からもお話があったとおりであります。日本は憲法第九条を持ち、平和国家、平和主義を掲げる唯一の国としてこの点は絶対に守るべきだと思います。そして、むしろこのサークルに多くの先進国、他のドナーを引っ張り込んでいく、そういう努力が必要であろうと思います。  最後に、第四点として、援助相手国への働きかけの強化ということを挙げたいと思います。  四原則の掲げる目的を達成する主役は日本ではありません。それはあくまでも援助相手国です。したがいまして、相手国のコミットメントがない限りは目的の達成はあり得ません。あらゆる機会と方法を活用して相手国に働きかけをして、相手国のコミットメントを高めていく必要があると考えます。  二〇一〇年になりますか、今から十五年後の日本ODA大綱がどのような形で展開され、その後日本がどのように国際社会で名誉ある地位を得ているのか、それを楽しみに見守っていきたいと思っております。  ありがとうございました。
  9. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) ありがとうございました。  以上で政府からの説明聴取及び参考人からの意見聴取は終わりました。  これより質疑を行います。  質疑のある方は挙手を願い、私の指名を待って御発言願いたいと存じます。  なお、時間が限られておりますので、御発言は五分以内におまとめいただくようお願い申し上げます。  それでは、質疑のある方は挙手を願います。
  10. 山本一太

    ○山本一太君 大島局長中川先生、大変御参考になるお話をありがとうございました。  大島局長に伺いたいことなんですけれども、ネガティブリンケージ適用はやはり難しいというお話を改めて伺ったんですが、その国の民主化程度をどのように判断するかというのは大変難しい問題だなと思うんです。私が国連開発計画に勤めていたときに、UNDPで人間開発報告書というのを出しました。かなりヒット作になりましてその後も続いておるんですけれども、最初の人間開発報告書のレポートの中に人間開発自由度というのがありまして、これが一番からそれこそ二百何番まで人間開発報告書に載せられまして、随分後ろの方にランクされたイラクとか、たしかアフリカの数カ国から大変なクレームがついたということがありまし九。やはり、その国の自由度を判断する基準というのは非常に難しいと思うんですけれども、ここら辺のことについてどういうふうに考えておられるのかというのが一点です。  それから、ミャンマーの例がありました。中川先生にも大変参考になる資料をつくっていただいたんですが、ミャンマーについては、ある意味では日本国際社会とやや違った独自のアプローチをとったということだと思うんですね。国際機関の管理理事会なんかでもアメリカの代表から随分非難されましたけれども、どうして日本ミャンマーについては人権外交が甘いのかという話もありましたが、ここら辺の国際社会とのすり合わせみたいなものについて、もうちょっと大島局長からお聞かせいただきたいと思います。  中川先生にお聞きしたいことは、ネガティブリンケージは創業だということでお話がありまして、地域に格差があるという話があったんですが、私なんかにするとこれは当然のことじゃないかなと思うんです。  それは、アジアに発動が少なくてアフリカに多いというのは、例えばアフリカのブルンジと中国とは、日本の安全保障にとっても経済的な権益にとっても全く重要度が違うということがあるので、これは結果としてニューメリカルにこうなるんですけれども、やはりケース・バイ・ケースのアプローチをとらざるを得ないということになると地域差が出てくるというのは仕方がないんじゃないかなと思うんですが、そこら辺のところをどうお考えになるか。  もう一つ、モニタリングの話があったんですが、先ほども局長にお聞きしたとおり、国別人権レポートというのはかなり難しいと思うんですけれども、そこら辺のところをどうお考えになるか。自由度の基準、これはなかなか一国が出すというのは大変なんじゃないかなと思います。  もう一つ言えば、アフリカのことをおっしゃっていたんですが、日本援助はやはりインスティチューションビルディング専門に、政治制度の確立なんかを中心に今アフリカ援助していると思うんです。アメリカのIRIの人が最近よく訪ねてくるんですけれども、この間、いわゆる民主主義の確立というのを日本援助のコンセプトに入れたらどうかと。これはアメリカのソフトパワーのすごさだと思うんですけれども、先生のお話はそこら辺も含んだお話だったと思うので、それについてどう思われるか。  そして最後に、先生の言ったフェールセーフ、これは言うのは簡単なんですけれども、具体的にはどういうフェールセーフをかけたらいいのかという点です。  随分いっぱいになったんですが、それぞれ簡単にお答えいただければと思います。
  11. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 山本先生に対しますお答えでございますけれども、まず、いわゆる自由度であるとか、あるいはそれに関連いたしまして民主化状況、こういった問題が一連の関係する問題として出てくると思います。  我々としては、例えば先ほども中川先生からお話ありましたように、特にアフリカにおきまして問題になり得る場合が多いわけでございますので、アフリカにおきましては、民主化状況あるいはそれに関連した自由というものについては日常の報告の中でできるだけ把握するようにもちろん努力をいたしております。  最近のアフリカ状況におきましては、例えば複数政党制であるかどうか、それからある種の議会、日本とか欧米の制度とはもちろん違うわけでございますけれども、そういうものができているかどうか、こういった状況を絶えず把握しております。冷戦終了後は、御案内のとおり、アフリカにおきましても複数政党制の国がふえてきております。選挙も行われるようになっております。その選挙の中身であるとかその運用については、部族問題だとかいろいろ複雑な問題が絡みますのでなかなかスムーズにいかないというのがアフリカの今の悩みだろうと思いますけれども、傾向としては複数政党制、選挙というようなものが行われているということで、全体としてベクトルはいい方向に向かっているというふうに見ております。  それ以上にどうこうするということになりますと、これはもう単独で日本がどうこうするというよりも、恐らくより適切な方法は、例えばOECDのDAC、開発援助委員会のような場で議論を深めて、そこで国際的な一つの了解なり理解なりをだんだんとつくり上げていくということではないかと思います。  現に、そういう方向に向けての努力が行われておりまして、これは一般的にはグッドガバナンス、よい政治、よい統治という考え方のもとに、それは一体何を意味するのかと。民主制あるいは人権の尊重、効率的な政府、もっといろいろなことを含みますが、そういうよき統治という考え方のもとにDACの場でも議論が進められている。こういうことで、我々もそれに積極的に参加をしており、ある意味では日本ODA大綱というものが一石を投じたという一面もあるということを指摘してよろしいかと思います。  それから二番目の、国際的なすり合わせをどうやっておるのかということでございます。  大きな問題が生じますと、これはもう当然でございますけれども、主要援助国間、まず現地のその大使館同士で日常的にいろいろ主要援助国は協議の場を何らかの形で持っておりますので、そういうところでまず議論になり、それがすぐ本国政府に打ち返されます。そして、首都間で必要に応じて外交的なチャネルを通じて協議をすることもございます。その当該の国に対します二国間関係の濃淡、性格はいろいろでございますので、その措置の中身についてまできっちりと相談をしながらやるという例は、これはどちらかというと珍しいと思います。しかし、一般的な何らかの措置をとるとかとらないとか、とる方が望ましいとかどうとかといったような議論はこういった外交的な接触の場を通じてやる。それから先は、これはもうその当該国との二国間関係に応じてまさに判断がそれぞれなされていく、大体こういった状況にあるというふうに言ってよろしいかと思います。
  12. 中川淳司

    参考人中川淳司君) お答えいたします。  まず、地域差がアジアアフリカで濃淡があるのはやむを得ないんじゃないかという御意見については、ある程度は賛成ですけれども賛成できない部分があります。アフリカに対して非常にやっていると。この場合に、果たして日本がどういう外交的配慮をやっているのか、そもそも外交的配慮はあるのかということが問題であります。  私は、日本政府が独自の方針アフリカに対してネガティブリンケージを発動しているとは思っておりません。これはDACと申しますか、国際協調と言えば聞こえがいいですけれども、簡単に言うと旧宗主国の意向にゆだねている。つまり、この点に関しては、日本アフリカに関してはフォロアーであると、リーダーではないと思っています。  逆に、中国あるいはミャンマーに関して独自の立場をとっているのは、まさにこれは日本がリーダーたろうとしている。しかし、そのリーダーたろうとしていることの外交的配慮の中身がまさに問題であると考えます。それが果たして、日本にとっての安全保障と先生は言われましたけれども、安全保障も非常に多義的な概念でありまして、経済安全保障もあれば軍事安全保障もある。そもそも、冷戦後のこの時期に軍事的な冷戦的な思考の安全保障という概念を維持して考えることで本当にいいのかどうか、そこから問い直してみる必要があるんじゃないかということを思います。  いずれにしても、私が申し上げたのは地域によって一律の基準を適用するのは適当でないということですが、一律の基準を適用しない場合に、なぜこのケース適用してなぜこのケース適用しなかったのか、そのことについて少なくとも説明する責任がある、アカウンタビリティーがあるということであります。そのことは、一兆円以上の税金を負担している国民、資金を負担している国民、税金だけじゃなく財政投融資もありますけれども、またリーディングドナートップドナーとして日本のあり方に注目をしている世界の人たちに対する責任の問題だろうというふうに思っています。  自由度の基準について、果たしてそんなものが立てられるんだろうかということですが、私はそれは立てられるとも言えるし立てられないとも言えると思います。  立てられるというのは、現にさまざまな試行錯誤の試みがございます。ヒューマン・ライツ・ウォッチ・ワールド・レポートもあります。先生御経験のとおり、UNDPの人間開発報告における人間開発指標は、さまざまな批判を受けて毎年のように修正されております。変えていけばいいんだろうと思うんです。まずある基準、幾つかの指標を立てて採点をしてみて、明らかにそれで都合が悪いということがあれば翌年変えればいいと思うんですね。それはまさにアカウンタビリティーの問題でありまして、これはオポチュニズムとは全く反対だろうと思います。  それから、繰り返しになりますけれども、確かに外交的配慮は大事だと思うんですが、問題は、原則運用するという場に一貫した運用ができるかどうかという前提として、ある原則の中身が明確じゃなきゃいけないと思うんですね。しかし、例えば民主化あるいは人権といった場合に非常に不明確である、まさにそれが自由度の基準という指標の問題につながってくるわけですけれども。  しかし、私は、民主化に関してコアに当たるものは必ずあると思います。例えば、市民的、政治的権利とりわけ参政権、集会結社の自由、表現の自由を組織的、継続的に侵害する国、これは具体的にはミャンマーを念頭に置いていますけれども。そういった国に対しては、これは明らかな民主化に対する違反ですから、つまり、そもそも国民の声が上がってきょうがないわけですから、こういう場には一貫してネガティブリンケージを発動すべきだろうというふうに思っています。また、総選挙によって選ばれた大統領を、あるいは総選挙の結果を無視して、これはミャンマーケースがそうですしグアテマラのケースもそうでしたけれども、いわゆるクーデターによる政権転覆に対しては断固とした弁解の余地のないネガティブリンケージの発動をすべきだろうというふうに思います。  それから、フェールセーフに関しては、私はどの文脈で申し上げたかちょっと今記憶にないので、その点どういう質問の御趣旨だったか、もう一度言っていただけるとありがたいんですけれども。
  13. 山本一太

    ○山本一太君 もうそれはお答えいただいたんですけれども、すなわち一貫性を確保するということが必要だと、しかしそこにある程度のフェールセーフをかげながらやるというお話だったんです。大体今のお答えで、先生の言わんとしていることはわかりました。
  14. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 最後にもう一点だけ。  軍事化に関して、日本は非常に孤立無援の戦いをODA大綱については強いられていると思うんです。しかし、例えばいわゆる武器輸出に関しては、国連で通常兵器の移転登録制度というものを日本が中心になってイギリスなんかと組んでやって、武器取引に関しても一石を投じるということをやってきているわけですね。そういったこととODA大綱との連携、リンケージが非常に重要なんだろうというふうなことをちょっと思っています。
  15. 山本一太

    ○山本一太君 あと一点だけ。  例のアフリカのいわゆるインスティチューションビルディングの話、いわゆるIRIとかというところがやっている話を日本の技術協力で乗せられないかということについてはいかがでしょうか。
  16. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 一番簡単なのが恐らくお金をただ上げることで、一番難しいのが人づくり、さらには制度づくりだろうと思うんですね。  例えば、向こうに国会議事堂を建てて三権分立をと。私が聞いた話ですが、イギリスあたりで憲法学者が旧植民地の独立の憲法を書くと四千万円ぐらいもらえる、そういう下請のアルバイトがあるそうです。じゃ、それで民主主義になるかというとそれは無理です。基本的には時間がかかると思います。教育も必要でしょうし、生活水準の向上それからさまざまな政党もつくらなきゃいけない、選挙もちゃんとやらなきゃいけない。  しかし、一番根本的な問題は、そういった国が外見は民主主義、二党制をとっていようが、旧植民地以来のさまざまな利権の中で植民地的な政治経済システムを変えていないということにあるんではないかと思います。そういった大きな不公正を温存したまま、一見して民主的なリップサービスをやっている国が余りにも多いということを、これはアフリカに限らず、印象論ですけれども私は持っております。  その点が果たしてODAだけで変えられるのか。あるいは、それはそもそも外国が関与できる問題なのか。ODA大綱でどこまでできるのかということの限界もあわせて考えるところであります。
  17. 馳浩

    ○馳浩君 私は、山本委員のように専門的に携わっていたわけではないので、いろいろ御質問したいんです。  まず大島局長に、国別地域別の援助計画を立てて、我々の税金あるいは財投で出ている資金を今後活用していただくためにも、在外公館の情報収集のあり方に対する批判がちょっと多いわけですね。あるいは、現地スタッフの意見、活動が案件の発掘や実施に有効に反映されていないのではないかという批判が多いわけですけれども、この点について、実態であるとかあるいは御意見があったらお願いいたします。  とりわけ、JICAの所長などは二年か三年ぐらいで現地を交代いたしますね。本当にこういうふうな人事のあり方でいいのかということを考えると、より有能な現地スタッフに案件発掘などの計画に参画していただいたりとか、あるいは大胆に言えば、本省にある権限をできるだけ現地の方に持っていくとか、そういった方策もとられてしかるべきだと思うんですが、その点についてお教えいただきたいと思います。  もう一つは、為替レートが変動すれば、一ドル八十円のときと、今のように百二十三円のときとは三分の一も援助予算が変わってしまうわけですね。一番打撃を受けるのは国際機関の運営などだと思いますが、これは日本外務省に対する国際機関や相手国からの批判であるとか、あるいは不安であるとか不満であるとかが非常に多いと思うんですけれども、これにはどういうふうに対処しておられるのか。  そして、来年度予算では一〇%削減という大変な厳しいキャップをかけられておりますけれども、今後これは有効に活用していかなきゃいけないわけですから、どういうアイデアで取り組まれるのかという点。  最後に、まさしく国会の関与ということを考えれば、過去にも新進党の方から基本法案が出ておりますが、実際にアメリカで一九六一年でしたか、対外援助法に基づいてなされているようではありますが、これはそのまま日本には適用できない日本の事情があると思います。ただ、そうは言うものの、国会において、例えば決算委員会とかあるいは外務委員会等でどの程度の議論がなされているかといえば、報告をいただいたものをなぞる程度でしかないのではないか。これでは、本当の意味で我々国民が十分にチェックをする機能が欠けているのではないかという点がありますので、基本法が制定される場合のメリット、デメリットを考えた上でもし御意見があれば伺いたいと思います。  以上です。
  18. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) まず国別援助計画を策定し、さらにその実施をしていく上での海外の役割、これは在外公館であり、JICAあるいはOECFの出先、こういうことでございますが、申し上げるまでもなく、その出先の持つ重要性、これは絶対的であります。  日本の制度は、御案内のとおり東京集中型でございます。現地への権限の委譲が従来からかなりいろいろなところで言われておりまして、それに努めており、ある程度実現しつつあると思いますが、まだまだ不十分だと認識をいたしております。  御案内のとおり、ただいま外務大臣の諮問委員会で、二十一世紀に向けてのODA改革懇談会というものを有識者の御参加を得てやっておりますが、七月に出されました中間報告の中でも、現地への責任、権限の委譲をもっと思い切ってやれということが既に言われております。これは方向としては今後そうすべきだろうと思います。  加えまして、世界銀行等ほかの国際的な援助機関それから援助国体制も、一つは恐らく節約の意味、それからもう一つはより効率的に実施していく上で、一番よくわかっているのは現地である。したがって、そこにもう少し権限とか責任を移すべきであるという流れになっているというふうに承知いたします。  現地で援助国間の諸援助機関、国の間の調整もだんだんやるようになっておりますので、そういう意味で、日本だけが東京に権限を集中していますと間尺が合わなくなるというような状況も今後出てくると思いますので、我々としては、方向としてできるだけ現地に権限、責任を可能な限り委譲して、そういう国際的な流れにも合った形でやっていくという方向で進めていきたいと思っております。  それから二番目に、今回のODA予算の一〇%削減に伴いますいろいろな影響でございます。  特に、国際機関に対します任意拠出金の部分が相当大幅にカットされておるということでございますが、外務省だけについて申し上げますと、外務省全体で一〇%削減ということは、額にしますと五百八十五億円を平成九年度に比べて切れと、こういうことでございますので、五百八十五億円削減した概算要求を今財政当局に出して折衝しておるわけでございます。そのうち約四分の三を二国間援助、すなわちJICAの二国間技術協力予算それから二国間のいろいろな無償資金協力予算、合わせまして全体の約四分の三を二国間援助で削減して、四分の一弱を国際機関に充てております。  国際機関につきましては、御案内のとおり分担金それから拠出金とございまして、分担金は義務的な国際約束でございますので、これは削るわけにはいきません。したがいまして、最後のところはどうしても任意拠出金のところにしわが寄ってこざるを得ないという状況がございます。私どもも、決して国際機関あるいは国連の機関を通じます援助を軽視するつもりは毛頭ございませんし、非常に残念な事態でございますが、全体がそういう大幅な削減をしなきゃいかぬという状況でございますので、そういうことになっております。  以上申し上げた上で、しかしながらことしの予算作成につきましては、そういう一〇%削減という前例にない異常な事態、緊急避難的な事態でございますので、総理大臣の方から、そういう各省一律の削減ということではなくて、省庁の所管の枠を超えた総合調整をことしはやるということでございます。まさに現在、その趣旨で我々は財政当局とも折衝を図っておりまして、この概算要求のラインですべてが決まるということではなくて、そこはそれぞれ必要な予算だと思いますけれども、その中でもある程度待てるものと、どうしてもやはり厚く見ざるを得ないというものがおのずとあるわけでございますので、そういうことを踏まえながら、今財政当局と折衝をいたしております。  私どもも、国際機関、国連機関の中でも、いわゆる顔の見える援助、人道的な関係のもの、人づくりを担当している機関あるいは環境とか、いろいろなところで重要な役割を果たしているもので一緒くたに国連機関を見ているわけでは必ずしもございません。その辺につきましては、これから十二月の仕上がりの段階に向けまして、非常に厳しい状況でございますけれども、与えられた厳しい状況の中で、できるだけ国民あるいは我々の考えが反映できるものにまとめ上げたい、こういうふうに考えております。  最後に、基本法に関連する問題でございます。  基本法につきましては、御案内のとおり、基本法を制定している国それから制定していない国がございます。制定している国の方がDAC二十一カ国の中では少数派でございます。本来、援助法に値するような形できちっと法律でやっているのは恐らくアメリカがほとんど唯一の例で、そのほかにつきましては、法律と名のつくものはありますけれども、非常にふんわりとしたものあるいは手続法的なものでございます。  日本についてメリット、デメリットはどうかということでございます。  私どもとしては、国会に対する報告はきちんとやる必要がありますし、今回こういう小委員会を設けられたのは実は画期的なことでございます。こういう形で議論させていただくことができるということは非常に我々としてもまさに歓迎と申しますか、大変に望ましく、本来の姿として非常に結構なことだと思っております。たしか数年前に、参議院の例の七項目の中でもその趣旨がうたわれておったわけでございますけれども、それがこういう形で成立したというふうに受けとめております。私ども、大変にこれを歓迎いたしておるわけですが、国会に対する報告、これは当然きちんとやる必要があると思います。  と同時に、御理解いただきたいと思いますのは、まさにODA大綱がそうでございますけれども、いろいろ原理原則にかかわる部分につきましての運用は、ある意味では外交判断そのものにつながる部分があると思うんですね。大きな原則の中でそれを実際にどういうふうにやるかということについては、まさに性格的に言うと外交判断そのものというものがあると、ここがやはりきちんと担保されるということについて私どもは非常に重要性を付して考えていきたい、こういうふうに思っております。  諸外国においても多かれ少なかれ日本のような状況、あるいは日本ODA大綱のようなものをきちっとつくっていないという意味では、ある意味ではまだおくれているかもしれませんけれども、あえて推測しますと、やはり援助実施というものについてはいろいろな考慮があるわけでございますが、最後のところは、そういう外交的な判断というものの余地といいますか裁量というものを大事にしたいという考え方が背後にあるんじゃないかというふうに察しをいたしております。
  19. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) 関連して御意見をどうぞ。
  20. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 関連で、三点ございます。  国際機関向け援助の減額についての馳先生の御質問に関連してなんですが、どうも見ていますと、少なくとも概算要求レベルでは一律一〇%削減という形で基本的にやっているわけですね。そうなると、国際機関向け援助も一〇%横並びでやろうということになるわけですが、それが結果的に拠出金の部分にしわ寄せが行くと。拠出金の部分というのはいわば事業予算の部分です。つまり、経常費じゃない部分ですから、しかも日本が出している額のパイが大きいものですから、日本が一〇%拠出金を削ったということによって、実際上、事業予算が例えば半分ぐらいあるいはそれ以下に削られるケースがあるということをザンビアに行った友人から聞きました。その点をどうお考えなのかということを伺いたいのが一つです。  それともう一つは、一律にと申しますけれども、援助全体で見た場合に、最大の大きな額を占めるのは有償資金協力、円借款であります。これについては昨今、きょうもありましたが、行財政改革の中で、財政投融資が本当にいいのかという見直しの議論が出ているわけですね。片や日本経済は、不景気、低金利でお金がだぶついてしょうがない。日本企業としては、民活インフラでこれまでどんどん円借款でやってきた部分をむしろ日本の民間企業でやりたい。それは相手国も望んでいる。なぜならば、円借款の金利よりも今民間企業の金利の方が低いからです。とすれば、例えば有償資金協力を半分に減額して、その分日本企業に回すと日本企業の景気回復にもなるし、しかも国際機関向け拠出金はむしろ倍増すると。これはもともとパイが小さいですから、倍増して、それでも多分差し引き一〇%の減にはなると思うんですね。これで日本国際社会においてどのぐらいアピールできるかという戦略的なお考えはないのかどうかということです。  それから三点目に、対外援助法に関して、これはコメントと質問ですけれども、アメリカ対外援助法がなぜあれだけ強いのか。なぜあれだけ気を使うのかというと、あれは毎年毎年の予算法なんですね。あれが通らないと予算が執行できないということです。ですから、ベンチマークという形で議員がいろんな条件をつける。中には自分の出身の、例えばミズーリ州の製品を援助供与の品物の中に回せ、ミズーリ州の車を必ず売れ、持っていけと、そういったことを言ったりする。それに対するアカウンタビリティーということでUSAIDが非常に苦労しているということを聞いています。  しかし、援助基本法ということで、日本なり他のカナダであるとかが考えられていることというのは、むしろODA大綱原則のよりリファインされたもので、しかもそれを国民に対して明確にアピールできるものにするということですから、先ほど局長がおっしゃられたように、国会に対する説明責任だけではなくて、ぜひとも国民に対する説明責任ということでは白書の形にしていただきたい。  その場合に、私、研究者として申し上げるんですが、ODA大綱運用例ということで網羅的につくったリストではないと先ほど申し上げました。それは、本来適用すべきかもしれないけれども適用しなかったケースが全部署愛されているからです、個々具体的には申し上げませんけれども。その場合に、どういう外交的な配慮を働かせたのかということについてもできたら説明をいただきたい。そういったODA大綱白書というものをお願いしたいということがあります。  以上です。
  21. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) 馳先生の質疑との関連という形で、外務省にお答え願います。
  22. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) それでは簡単にお答えをさせていただきます。  まず、国際機関の任意拠出金の部分でございますが、これは我々の台所の事情を暴露するようでなんでございますが、ことしは単に一〇%削減されるということに加えて円安であります。  国際機関への拠出金というのは外貨でやるものでございます。円安になりますと、途端にマイナスの方にきいてくる。しかも、義務的分担金と任意的な拠出金とある。義務的な分担というのはどんどん日本のGNPがふえていくに従ってふえてまいります。そういう意味で、実はどうしても拠出金のところにしわが寄らざるを得ない。にもかかわらず、その事業費のかなり部分は任意的な拠出金で成り立っている。事実、多くの国際機関がそうでございます。  したがって、よそを削ってでもここをふやせ、こういう御意見だろうと思いますが、これはこれで、先ほど申しましたように、私どもも、ことしの予算のつくり方というのはある種緊急避難的と申しますか例のないことでございますので、どこから財源を持ってくるかということは、これは財政当局とのいろいろな折衝になります。円借款の部分に切り込んだ上でという先ほどの御示唆もございましたけれども、どうするかということはこれから折衝の中でやっていきたいと思っております。  いずれにしましても、最後の落ちつきというものについては、やはりいろいろな各方面での意見というものを当然反映される形で、与えられた要件の中で一番いい形に持っていくということではないかと思いますので、そういうことで努力をしていきたいと思います。  それから、ODA大綱白書の問題でございますけれども、これは私どもとしては、ODA白書の中で毎年かなりのスペースを割くべく努力して、できるだけ説明責任を果たすように努力をいたしております。  ただ、事柄の性格上、本来発動すべきであったかもしれないけれども発動しなかったケースまで、それがなぜであったかといったようなところまで立ち入ってそれを書くということについては、場合によるかもしれませんけれども、これはなかなか難しいんだろうと思います。なぜそれをしなかったかということについて、例えば数カ国がある国に対して援助停止措置なり何らかの措置をとった、そのときに日本は何らかの考慮があってとらなかった。そういうケースについては、恐らくなぜそれをしなかったかということについての説明責任というのはあると思うんですけれども、そうでないような一般的な場合に、これをどういうふうに書くといいますか説明をしていくかというのは、これは相当難しい話だろうというふうに思います。  ただ、できるだけこれからも運用例を詳しく出していくということは、我々も必要だろうと思いますし、まさにこういった小委員会ができましたので、こういうところできちっと報告なり説明なり議論をさせていただく、あるいは議論をしていただくという形で、その点は十分に国民に対する説明という役割は果たしていけるんではないかというふうに感じます。
  23. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 全般的な問題に入る前に、国際機関の問題、我々国会議員も連名でこの復活を要望しているんですけれども、読売の八月二十四日付に大きな記事が載っていて、この数字、外務省の数字というんですが、任意拠出金の削減率は世界食糧計画四五%、国連児童基金四一%それから国連難民高等弁務官事務所三九%、任意拠出金を出している主要十機関で三五%から四五%減額する、ゼロ査定が大小約三十機関に上るというんです。それで、緒方貞子国連難民高等弁務官は橋本首相を訪ねて直訴したと。「日本の拠出金が五割程度減った場合、①アジアでの事業がゼロになる②アフリカで難民二百三十万人分の給水、衛生事業ができない③旧ユーゴスラビアでも難民百二十六万人分の給水、衛生事業ができない」と訴えたというんだけれども、大体この報道は、数字その他は事実なんでしょうね。
  24. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) おおむね事実だと思います。
  25. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 そういうのを全部頭に入れた上で、これを切っているんですか。
  26. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) はい。
  27. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 わかりました、やむを得ないというので。
  28. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 概算要求でございます。
  29. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 概算要求ですね。  これは非常に大問題で、我々国会議員も連名で出しているんですけれども、これは本当に再検討をしないと、せっかく人間を重視したODAODAと言いながら、こういう状況で大変だと思うんです。  全般的問題についてお伺いしたいんですが、この四指針、いいものもあるんだけれども、ちょっと問題になるのがあると思うんですね。  例えば、核兵器等の大量破壊兵器及びミサイルの不拡散努力強化と。ところが、核拡散防止条約の無期限延長の会議では、発展途上国数十カ国から採決された後でも不満が出たんですね。だから、核兵器を持っている五大国と持っていない百八十カ国とを永久に差別するというのは非常に無理な体制で、私たちは非常に批判的なんだけれども、日本は被爆国でありながら、五大大国の核保有を永久化することに賛成して拡散するなというのを基準にするというのは、私の立場から言うと非常に問題だと思うんです。  二番目は、民主化の促進。これも一般的に言えば民主化はみんな大賛成なんだけれども、やっぱりそれぞれ国によって解釈が違うし、なかなかこれは難しい基準だと思うんですよ。  三番目に、市場指向型経済導入の努力となっているんです。核拡散なんというのは言葉としては大綱には入ってないんだけれども、民主化の促進並びに市場指向型経済導入というのはODA大綱にもはっきり入っているんですね。  それで私、第十二回非同盟諸国首脳会議の外相会議、ことしの四月にニューデリーで開かれて、ここに最終文書があるんですよ。この八項目にはこうなっているんですよ。  非同盟諸国がつねに擁護してきたものは、協力的自立てある。非同盟運動が近代化の課題を達成するために先進世界協力国に期待しているものは、対等の協力である。先進国発展途上国のための規範や価値基準を決定する特別の権利を有しているという、一部の先進国の発想は、植民地主義的思考方法をさらけだしたものであり、非同盟運動はそれを拒否すると、非常に厳しいんですね。  非同盟諸国というのは今加盟国百十二カ国ですから、国連の三分の二以上入っている。発展途上国はほとんど入っているんですね。そこの外相会議で、「価値基準を決定」と、これは「植民地主義的思考方法をさらけだしたもの」だという非難があるんだけれども、やはりこういう非難を受けかねない危険性があると思うんですよ。  例えば、今一番力のあるアメリカは、九三年九月にクリントン大統領が国連総会で演説したんだけれども、彼の採用している戦略というのは、市場民主主義諸国の世界共同体を拡大すると。共同体なんですね、コミューンという言葉を使っていまして。この間の調査会でも中国関与政策のことで、私の質問に対して、やっぱりアメリカアメリカの価値観、それを基準にして中国は従うべきだと、従わない場合は等々ということが参考人からも話があったけれども、やはりアメリカの価値観に基づく世界共同体を広げていこうということを公然と言っていますからね。  その際私は、民主化の基準もそうだけれども、市場指向型経済導入、この基準というのは、これは発展途上国にとって、またODAの本質にもかかわる問題として大変重要だと思うんですよ。結局、これは何かと言うと貿易投資の自由化ですよ、いわゆるグローバリゼーション。多国籍企業のグローバリゼーションが自由に進むように貿易投資の自由化と、APECも貿易投資の自由化の期限まで決めてやっていますけれども。  これをやっていくと、例えば発展途上国の場合、本当にじゃ自分の国の自助努力で自分の経済発展をさせようと、特に農業が発展途上国では大きいんだけれども、農業に対する保護政策がこういう貿易投資の自由化で、大体保護的な関税はやめようという方向になっていくというのはなかなか実際には非常に難しい問題が生まれるし、本当にこういうやり方で自助努力が進むのかどうかということが提起されているというふうに思うんですね。  OECDのDACが昨年五月、新開発戦略というのを採択したんだと。特に、アフリカで自助努力を認めよう、強化しようと。記事によりますと、アメリカのハーバード大学でも、本当に一番大事なのは自助だということで、これまでの援助の仕方を根本的に考えなきゃならぬという新しい研究報告を発表したというんだけれども、やっぱりそういう自助努力を本当に育てていく上で、こういう市場指向型経済導入を基準にするということが特にアフリカの自助努力の支援について有効なのかどうか。そういうことを感じているんですけれども、お二人に御意見を伺いたいと思います。
  30. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 四原則の中の市場主導型の経済導入の問題でございますけれども、冷戦が終わりまして、大きな方向としてはやはり市場経済を取り入れていくというものは、これはもうほぼ定着しつつあるんだろうというふうに思います。問題は、その市場経済化をどういうスピードで行っていくか、どういう形といいますか多分スピードだろうと思います。  そこで、あえて問題があるとしますと、よく問題になりますのは、いわゆる世界銀行とかIMFが開発途上国アフリカ等を含めまして金融支援をやります場合に一定の条件、コンディショナリティーというものをつけて、それをぎりぎり守らせるとこれについていけない。方向は正しいとしても、そのやり方あるいはそのスピードについて非常に厳格にやる場合が多うございますのでついていけない。その結果、社会的な不安を生じたりとかというようなことが場合としてあって、そういうブレトンウッズ体制のもとにおけるコンディショナリティーのつけ方については、これはいろいろ現に批判があります。  日本のように援助を受ける立場にいた経験を持つ国、それからアジアに身を置く我々としては、時としてはそういうやり方によって、これはちょっときっ過ぎるんじゃないかというようなことで疑問を持つこともないわけではございませんし、現にそういうコンディショナリティーをつけられた国から支援を求められたときに、ぜひそういう厳しい形でない、もうちょっと理解ある、もうちょっと温かいといいますか、もうちょっと我々の状況により理解を示した形でやってくれというような話を聞くこともあります。  こういう問題は、つまり運用面におけるいろいろな問題がありますけれども、方向性として今のグローバリゼーションに向かっている世の中にあって市場経済方向を目指すと。これは民主化等々とあわせ、一つの大きな方向ではないかと思います。  そういうことで、ODA大綱もその点を踏まえているわけでございますが、これは言うならば、あるいは一部に異論はあるかもしれませんけれども、大きなところでは、日本国際社会において実現されるべき一つの価値であろうというふうに認識をして、それを忠実に反映してODA大綱にも取り入れられているものと、こういうふうに理解をいたしております。
  31. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 二点お答えいたします。  まず第一点は、上田先生が大量破壊兵器に関して、核不拡散体制といいますか、要するに五大国体制を維持したままで途上国に対して核開発を禁じるのはちょっとおかしいんじゃないかというお話があったと思うんですが、おっしゃるとおりだと思います。  最終的に目指すべきは核廃絶にあるわけです。ただ問題は、五大国に日本援助を提供していません。先進国ですから、ODA大綱を使ってアメリカやフランスの核開発をとめることはできないんですね。仮に、日本が本気で核廃絶ということを考えるのであれば、もとよりアメリカや五大国が持っているからといってパキスタンやインドが持っていい、あるいはイスラエルや北朝鮮が持っていいという理由はありません。目指すべきはトータルな核廃絶であるとすれば、国によって使えるあらゆる手段を使って核廃絶を考えていくべきだろうというふうに思います。そのために、その一環としてODA大綱を使うことは意味があるというふうに考えます。  そこで私は、先ほど最初のプレゼンテーションの中で少し申し上げたんですが、一言だけ補足六せていただきます。  やはり、ODAだけを日本の影響力行使の手段として独立してとらえるのが大きな間違いだろうと思っています。恐らく、日本世界に対して最も強い影響力を行使できる手段は、経済、貿易、投資であります。五百兆円で、今貿易依存率が日本の場合二八%ぐらいでしょうか、八十兆円ぐらいの金額を輸出したり輸入したりしているわけですね。  例えば、中国に対して円借款を出すか出さないかということよりも対中国貿易を一切とめる、あるいは対中国最恵国待遇を供与しない。これはガット違反、WTO協定に違反しますけれども、しかし二十条という例外条項がありますから、例えばそこを使ってやると。あるいは、これは日本の安全保障にかかわる。例えば中国が核開発をやっている、そういった恐ろしい国にとてもじゃないけれども、平常の関係は保てない。日本の安全保障を保つために対中国最恵国待遇をやめる、あるいは中国から一切何も買わない売らないということは多分二十一条で正当化できるというふうに考えています、これはWTO協定の問題ですけれども。  つまり、私が申し上げたいのは、援助だけではなくて貿易、投資、人の移動、外交関係、その他輸銀の借款、いろいろありますけれども、そういったアメリカが好きな言葉を使えば経済制裁、私はサンクションというのはやや上下関係が入っているので嫌な言葉なんですけれども、経済的な影響力行使の手段を総合的に考えていく必要がある。  私がジョージタウン大学に留学しましたときに、最初に指導教官をお願いしようと思ったパリー・カーターという教授は、実は私が行く直前にカーター政権に引き抜かれまして、彼は経済制裁の複合化が必要であると。各省庁間の権益争い、利害関係の対立をやめて総合的にコーディネートしょうというインターエージェンシーな経済制裁の方策を本として提案して、それはアメリカの国際法学会の学会賞をとったんですけれども、それをまさに実践するべくカーター政権第一期に入った。そういう理由で私は指導教官を断られまして、ちょっと困ったんですけれども。  私は、そのしっぺ返しじゃないですけれども、同じようなことを日本も考えていいんではないか。問題は、通産省と大蔵省と外務省が仲よくやれるのか。そこでまた主導権争いをやるようではつまらないと思いますけれども、幸いに橋本総理大臣は内閣機能の強化ということを言われていますので、その観点から内閣あるいは国会の協力を得て、そういった経済的な戦略といいますか、それを総合的に判断するような部署をなるべく上の方につくった方がいいんじゃないかというふうなことを個人的には夢想しております。  第二点でありますが、上田耕一郎先生御指摘の、市場経済民主化というのは途上国に対する先進国の価値の押しつけではないかという点はまさにおっしゃるとおりであると思います。  とりわけ、アメリカが言っているような意味での市場指向型経済導入、これは理論的に申しますといわゆる新古典派、ネオクラシックの経済学、これは市場万能で、政府は小さければ小さいほどいいと。これは規制緩和の流れにも共通する流れでありますけれども、つまり、例えば日本政府が戦後の高度成長の中で果たしてきたような産業政策の役割を一切否定するような方向での議論であります。  果たして市場は万能でありましょうか。それはある意味では、弱肉強食のジャングルのおきてが支配する世界であります。何よりも注意しなければいけないのは、そういう世界で勝ちをおさめるのは、あるいは自由貿易で一番勝ちをおさめるのは今強い国であります。これは強者必勝、弱者必滅のルールでありますから、私は市場指向型経済導入に当たっては極めて慎重であるべきであろうと思います。  しかし、そのためには、例えば日本モデルがなぜうまくいったのか、あるいはなぜうまくいかなくなったのか、そういったことを含めて、経済発展における政府の役割ということについての普遍的な理論化を考える必要があるというふうなことを思います。例えば、ソ連型の社会主義はなぜ失敗したのか。中国は、なぜ社会主義に市場経済という概念を取り込んで段階的にやろうとしているのか、そして今のところまだ破綻を来していないのか。そういった点の理論的な分析が必要であります。  これは個人的な話で恐縮ですけれども、メキシコに来年から一年ほど行って、ラ米の構造調整の話を検討してこようと思っているんですけれども、ことしのアジアのタイを初めとする金融危機の中で、研究テーマが幸か不幸か構造調整は世界じゅうで必要であるということになりましたので、そこら辺のことを今度は勉強しようかなというふうに思っています。最終的には、経済開発における政府の役割は何なのかということについて考えてみたい。ここで私の決意表明を述べてもしようがないんですけれども、そういうことがあります。  もう一つだけつけ加えます。どうもお時間をとって恐縮です。  申し上げたいのは、つまり、例えば大量破壊兵器については日本は絶対譲るべきじゃない。しかし、市場指向型経済あるいは民主化については日本はさまざまな留保をつけるべきである。  軍事費の動向については、これは確かに難しいことがありましょう。しかし、例えば地域的な安全保障のメカニズムを強化する信頼醸成措置の強化によって軍事的な脅威を落とせば、軍事費の削減は可能でありましょう。そのために、そういう形で総合的な外交戦略を使って軍事費の削減を粘り強く要求していくことは必要な努力だろうと思います。  武器の輸出入に関しましては、先ほど申しましたように、国際的なさまざまなフォーラムを使って武器を売っていいわけがない、世界じゅうに二億個も地雷が埋まっているというのはどう考えてもアブノーマルな状況です。こういう状況はぜひとも廃絶したいというふうに思うわけですね。  つまり、現在あるODA原則日本が初めてつくったものですから、完全なものではあり得ないわけですね。五年たってそういったことがある程度わかってきた今こそ、ODA原則のリビジョン、改善ということを考えてさらに磨いていけばいいんではないかと思います。  以上です。
  32. 福本潤一

    ○福本潤一君 議論が具体的で、討論的になってきておりますが、まず若干大島局長の方に基本的なことで御質問します。  かつて日本が被援助国であったという表現をされましたけれども、ODAだけに限らないという意味かもわかりませんが、その年月、総額、中身がわかれば教えていただければと思います。  そのときには、まだ具体的に例えば制裁措置的な手段というのはなかったかもわかりませんけれども、日本がそういうことを受けた事例があるかどうかということですね。  それと、同じく大島局長に、地下核実験中国がやったときに対中無償資金協力を中止して、一年半後に中国核実験のモラトリアム実施をしたという具体的事例があります。先ほど中川参考人の方から、経済的制裁等を含めてそちらの方がまた有効だというお話もありましたけれども、このとき中国がモラトリアム実施を発表した、それによって日本は再開したということを踏まえていったときに、経済的な対応でその効果が、要するにODA凍結ということがそのことを生み出した要因の一番大きなものだと思っておられるかどうかを外務省の御見解としてお伺いしたいと思います。  それと、先ほどから中川先生はかなり具体的な話で言っておられたのでお伺いしたいんですが、ODA大綱の今後の改善点ということで四点述べていただきました。ダブルスタンダードであったらまずいとか一貫性の確保が必要だということがありました。  その中に、先ほどからのアメリカの海外援助法の関係で、アメリカの場合は法案に基づいて予算が確定されるということがありました。日本でも、こういう一貫性を確保するという場合には、大綱はあるにしても、具体的なガイダンスとか法律で基本的な原則を決めるということは、一貫性を確保するため、また国会での報告ということがありますけれども、報告の中での議論をする場合ということで非常に基本的な原則として大事ではなかろうかと思っておりますが、それに関する御意見があればお願いしたいと思います。  あと今後、ODA原則の中で軍事的な制裁措置はあるんですけれども、環境と開発を両立させるというような意味で具体的な事例があった場合、そういう形で法律、制度があれば具体的な形で議論が進むんじゃなかろうかというふうに思われますが、その点についてもお伺いしたいと思います。
  33. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 福本先生のまず第一点、過去に日本援助を受けたことでございます。  念のためにちょっと手持ちの資料で御説明させていただきますと、例えば日本は、かつて世界銀行から一九五三年に援助を受け始めたわけでございますけれども、合計八・六億ドル、当時の日本円で三千二百億円、現在の額で約六兆円と見られますが、こういう国際機関からの支援を受けております。これはインドに次いで額で二番目でございまして、東海道新幹線だとか東名高速、愛知田水、黒部第四ダム等々の主要な経済インフラストラクチャーを世銀の支援に頼ったということがございますが、別途アメリカからガリオァ・エロア資金というもので、これは戦後の復興援助でございますけれども、四六年から五一年の六年間、合計で約十八億ドル、そのうち十三億ドルが無償ということであったようでございまして、現在価値にしますと約十二兆円、日本ODAが現在約一兆一千億円程度でございますから大変な額であったと。そのほかにケア物資とかその他、いろいろ民間からの支援を受けた、こういう事例がございます。  それから二番目に、中国に対します無償資金協力停止中国核実験禁止条約に対する態度変更にどの程度効果を持ったかという点でございます。  これは、もちろん中国自身がそういうことを口にするわけでもございませんのでよくわかりません。ただ、中国核実験に対しましてこういう形で毅然とした対応をとったのは日本だけでございまして、ヨーロッパ諸国あるいはオーストラリア等も含めまして態度で示した、行動で示したという国はございません。  この当時、日本無償資金協力とあわせて一部新聞紙上等で報じられ、若干の議論がございましたのは、円借款にもその措置を及ぼすべきではないか、こういう意見がございました。これは諸般の考慮、全体的な判断としてそこは適当でないということで、そこまではいきませんでした。いろいろ対中円借款までそういう話が及ぶということになりますと、これは中国改革開放政策そのものの相当根幹部分に及ぶという可能性もあって慎重を期すべきであるといったようなこともございました。結論としてはいきませんでした。  したがって、これはかなり私の個人的な印象論のようになって恐縮でございますが、私は、あの時点で日本無償資金協力という形でございましたけれども毅然とした態度をとったということは、中国政府の態度決定にある種のといいますか一定の影響は持ち得たんではないかなというふうに、個人的な印象でございますけれども感じます。  それから、三番目の援助法の関係でございます。  一貫性を保っために法律できちんと書いておくこと、法律をきちんと制定しておくことの重要性という点でございます。この点につきましてはいろいろ諸議論があると思いますけれども、先ほど申しましたように、ODA大綱ということできちんと制定をされているということはもう申し上げましたので繰り返しませんけれども……
  34. 福本潤一

    ○福本潤一君 これは中川先生に。
  35. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) ああ、そうでございますか。どうも失礼しました。
  36. 中川淳司

    参考人中川淳司君) また余計なことばかり申し上げますが、私も中国に対して無償資金をとめたことは因果関係があったと思います。無償をとめたら次は有償をとめるぞというブラフが当然効くわけですね。そちらをやられると天安門の苦い経験が思い出されますから、えらいことになるわけです。当然、そういう含みも込めて無償をシンボリックにとめたという意味では非常に因果関係があっただろう。そういう使い方がまさに強度それから手段組み合わせという、私が先ほど申しましたことに関連してくるんだろうというふうに思っています。ただ一方的に、一律に強いものだけやればいいというものではあくまでもない。ネガティブリンケージは伝家の宝刀でとっておけばいいんだと、それがまさに外交だろうと思います。  そのことと関連しますけれども、したがって、やはりODA大綱は基本法にはなじまない、国会の法律にはなじまない。それはつまり、国会という機関が外交できるかという問題であります。  極めて変転する国際情勢の中で、時々刻々変化する各国の状況を総合的に判断しながら的確な判断を下すとなると、これはやはり外務省外交官、外交のプロフェッショナルに任せて、しかし国会は国民代表として、コントロールではないですね、サーベイランスですか、それをチェックし、チェックアンドバランスといいますか、あくまでもその事後であれ、あるいは事前であれ報告を受けて、説明を求めて、それに対して正すべきところは正すという要求をしていくというのが本来のあり方でありましょう。  ODA大綱閣議決定であります。これはアメリカのある学者と議論したことがあるんですけれども、あれはいいかげんなもので法律じゃないんだからどうだっていいんだというふうに彼は言ったんですが、私は、閣議決定を無視したらその内閣はつぶれると思います。そういういいかげんな閣議決定はあり得ないと思います。  問題はあくまでも、繰り返しますけれども、一貫した適用、しかも原則の中身をリファインしていく中で一貫した適用を保てるかどうかということにかかっているのだろうと思います。  アメリカ人権外交もまさに人権外交法という法律はありません。あれは一つの外交方針として展開されてきたということを思い出したりもするわけであります。  それから、先生の御質問の中で、環境と開発の両立ということについていかがかということがございましたけれども、これに対しては、昨今も地球環境問題に関して京都会議もございますし、いろいろと議論があるところで、途上国に関しては非常に反発が強い問題でもあります。  つまり、汚したのは先進国なのに、自分たちが経済開発をやろうとすると持続可能な開発だからやめてくれというふうなことを言う、先進国がたどった道をとらせないのは非常に不合理だというふうなことで、途上国側が反発しているというふうな問題があるわけです。  私は、これは根本的には南北問題を解決するということでしか解決できないんだろうと思います。持続可能な開発が必要であることは間違いありません。そして、そのためにODAが必要であることも間違いありません。しかし、だからといってお金をばらまけばいいのか、環境援助をすればいいのか。根本的な問題の解決には、やはり私は民主化を含めた制度づくりが必要なんだろうと思うわけであります。  それからもう一点補足いたしますけれども、評価報告書、国会報告の必要性についてどうお考えかというふうな質問があったかと思いますけれども、国会報告は必要である。私は、一貫してODA大綱白書のことを言っておりますけれども、大綱白書だけでいいのか、それを国会に報告すれば済むのかという点はいささか疑問に感じております。  ヒューマン・ライツ・ウォッチ・ワールド・レポートは、アメリカのNGOが毎年出している。その裏には、アメリカの企業を含めた非常に多数の市民の賛助、資金協力があって成り立っているものでありますけれども、日本には確かにこういうものは残念ながら今ございませんが、最終的にはこういうものを考えなきゃいかぬだろうと思っています。  なぜかと申しますと、人権であれ民主化であれ軍事化であれ、これは国家は押しなべて触れられたくない部分であります。ですから、こういった点について本当に正確な情報を得ようと思えば、これは国のチャンネルを通してはだめなんです。私、国連の人権委員会というところの審議をしばらくフォローしたことがありますけれども、あそこでも国別人権状況の報告に関しては非常に難しい問題があって、つまり情報が出てこないんです。ミャンマー人権状況について、同僚の横田洋三先生がいろいろと御苦労ありましたけれども、結局情報が出ない。そのために、例えばヒューマン・ライツ・ウォッチであるとかアムネスティ・インターナショナルであるとか、そういったNGOが非常に御努力されているわけです。  日本に関しても、日本版のそういうヒューマン・ライツ・ウォッチ・ワールド・レポート・ジャパニーズバージョン、多分、基準はアメリカ版とは違うものである必要があると思いますけれども、そういったものが考えられていいんだろう、そのためには政府はお金を使ってもいいというふうに思います。  以上です。
  37. 木庭健太郎

    木庭健太郎君 まず、大島局長に一点だけ。  せっかく中川参考人がこうやって運用状況適用状況をお調べいただいて、アジアアフリカに格差があるという結果になった。私も見てみて本当にびっくりしまして、こんなに差があるものかなと思いました。一応、これに対する公式見解を外務省としてきちんとしておいていただきたい、この場で。これが一点、大島局長にお願いしたいと思います。  もう一点は基本法の問題です。  今、中川参考人からお話がありました。私は、国会という場にいさせていただいて特に感じていることですけれども、この大綱ができてこれだけたった、しかしなかなか運用方法その他で難しいところが出てきていると。難しいというのは、指摘されている点は一々ごもっともだと思うんですけれども、ここに本当に、これを厳格にというか、ある程度きちんとした形でやらせるにはどうすればいいだろうかということを考えた場合、私は、原則となるものというのはやはり国会で基本法として定め、それについての報告を国会できちんとできるという形の法体系、これは少なくとも必要ではないかと。  逆に言えば、それがあることによって、中川参考人がさっきからおっしゃっている大きな本も、国会が関与する形において、何でアメリカでそれが出せて日本で出せないんだという部分を考えた場合、私はアメリカ援助法を決していいと思っていません。あそこまでやるとこれは間違いだと私は個人的に思っています。それは別として、やはりそういうものを出さない限り、政府として、局長は出すとおっしゃるかもしれませんけれども、なかなか私は出してこないと。これからODA国民の論議とし、これだけ額がふえて見直しのいろんな議論もあるときに、そこの部分をきちんとなし得ていないからこそできていないんだろう、私はこう思っております。  したがって、これから大綱をどうまたもう一つ見直していくかという論議が起きてくると思うんですけれども、変えていくとするならば、それはぜひ国会の中での基本法という形でやり、それに関する、ある意味では国会の関与ということを明確に位置づけることが国民に開かれたことになるだろうし、それで決して私は外交すべてを縛ることにはならぬと思うんです。  原則においてそれを運用するやり方というのは、当然それは政府の責任でやる話でございまして、そこの部分を立て分けながら、日本としてはそろそろ大綱から基本法に進んでいい時期に来ているんじゃないか、私はこういう判断をしているんですけれども、何かお考えがあれば中川参考人からこれも聞いておきたい。  以上、二点でございます。
  38. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 木庭先生の第一点に関しまして、従来、アフリカケースとして多いということは先ほど来指摘されておるとおりでございます。確かに、アフリカは最貧国等政治的に不安定な国が多うございますので、その結果として、民主化の動向等についてともすれば援助見直しの対象になることが多かったということはあると思います。  他方、アジアにおきましては、特に大綱成立後、九二年以降につきましては、御案内のとおり相当やはり民主化も進んできておりまして、以前でございましたら、例えばタイならタイで軍事クーデターなんてしょっちゅうございましたけれども、最近はそうではございませんですし、確かにそういう意味での政情の安定、ミャンマー、カンボジア等問題がございますし、中国の例もございますけれども、概して言えば、そういうケースというのは非常に幸いなことにアジアでは少なくなってきている、そういう大きな政治状況の反映ということであろうと思います。  あえてアジアについて大綱運用上甘くしているとか、アフリカに対して厳しいとか、そういう意図が働いた結果ということではないということははっきり申し上げられると思います。
  39. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 今の点については異論があります。先にそこから申し上げます。  例えば、インドネシアにスハルトという政権があって、ネポチズムの極致をやっています。自分の三男坊にいい顔をさせるために国民車というのを横車を押して、WTO違反のことをやっていまだに頑張っているという状況でした。ところが幸か不幸か、私は幸だと思いますけれども、通貨危機が起きましてIMFが入りまして、構造調整ということになったときにあれをやめろというプレッシャーが非常に強力にかかって、IMFの融資というのは他の民間市中金融機関の融資のいわば前提条件なんです。ですから、単にIMF融資が受けられるかどうかという話じゃなくて、要するに国際的に破産するかどうかという非常に強いプレッシャーの中で、どうやら三男坊さんは国民車構想から外されるような気配です。その他、もろもろの開発独裁的な事柄が変えられようとしている。そのことは周知の事実であります。  私は、今でも非常に痛烈に覚えていることがあるんです。またお時間をとりますけれども、五年前の国際法学会で、インドネシアに関して首藤もと子さんという専門家が報告をされて、インドネシアの民主化の現状について話されたんです。私、質問いたしまして、ODA大綱によってインドネシアは民主化できるかと言いましたら、首藤さんは言下に、それは無理ですとおっしゃいました。それは恐らく、外務省にそこまでする気がないというふうに首藤さんがお考えになったからだろうと思うんです。  しかし、実際にはIMFなり国際金融情勢の変化によって、また日本国民車構想に関してはWTOに提訴いたしました。そういったあらゆる経済的、とりわけ金融的貿易手段を用いた複合的な戦略によって、インドネシアのあのスハルトの独裁すら変革することが可能でありました。  その点に関して、外務省が三十年間それを、東チモールのときは若干のことはやりましたけれども、少なくとも表立っては全くネガティブリンケージを発動してこなかった、あるいは他の官庁とのコーディネーションを考えて実際にどうこうしようということはなくて、他方でインドネシアと日本との括弧つきの友好的な経済協力関係を維持し続けてきたという責任はあると思います。  それから、御質問の点でありますけれども、基本法が不要であるということを私は申しておりません。アメリカ的な基本法はナンセンスであるということであります。ODA大綱閣議決定され、そしてその中身について、私は原則のリファインを提案いたしました。それに関して、さらにODA大綱白書を通じて国民に、また国会にアカウンタビリティー、説明責任を保つということであれば、それは限りなく木庭先生のおっしゃる基本法の考え方に近づくということであります。  逆に申しますと、そういう形でODA大綱の内容及び運用さらにはエンフォースメントといいますか、実行が改善されていけば基本法をつくる必要は逆になくなると、そういうものはあるわけですから。  以上です。
  40. 山本一太

    ○山本一太君 ちょっと馳先生が最初におっしゃったことについてなんですけれども、JICAのリーダーが現地で大体二年か三年でかわるというのですけれども、長い人は十年ぐらいおりますので、必ずしもプロジェクトリーダーはそんなに簡単にかわりませんから、それだけをちょっとまず申し上げたいと思います。  中川先生が私のジョージタウンの先輩だということがわかりまして大変うれしく思っているんですけれども、さっき先生がおっしゃった、ODA外交最後の切り札ではない、経済、貿易、投資、例えば中国でいうと八十兆円ぐらいあって、ここら辺はやはり総合的な戦略として経済的影響力をいかに総合的にアプライするかという……
  41. 中川淳司

    参考人中川淳司君) いい方向に。
  42. 山本一太

    ○山本一太君 いい方向にというので、インターエージェンシーの話は大変参考になりまして、おもしろいと思いました。何かまた論文がありましたらぜひ回していただきたいなと。
  43. 中川淳司

    参考人中川淳司君) まだ書いていません、締め切りは過ぎているんですけれども。
  44. 山本一太

    ○山本一太君 論文が完成したら、ぜひまた各委員にも配っていただきたいと思います。  中国無償資金協力停止のときは、自民党といいますか、たまたま私の党の方では部会とか調査会でもやっぱり借款まで行けというような意見も随分ありまして、どうしてもうちょっと断固たる態度をとれないのかなんという議論もあったんです。結局、それを踏みとどまらせたのは、先生がおっしゃったようにネガティブアプローチといいますか、借款はもう最後のチャイナ・カードだと、これを切っちゃうとそれ以上に外交手段がないというような、何かいろいろ御意見あるかもしれませんけれども、そういう話だったように思います。そこら辺についてちょっと先生にお聞きしたい。  それと、木庭先生がおっしゃったODA基本法の話なんですけれども、私もODA基本法の妥当性についてはいろいろ迷っているところもありまして、文字どおりODA大綱みたいなものがきちっと担保されるメカニズムがあればいいんだと思うんです。だから、それはODA大綱閣議決定みたいなものをどんどん進化させて新しい項目を加えていったりすることなのか、あるいは違う形で、ほかの国がやっているみたいな経済閣僚とパーラメンタリアンがもう少し頻繁に会って常にODA状況をフォローするやり方がいいのか、あるいは一番わかりやすいODA基本法という形がいいのかと、多分そういう話だと思うんです。  一つだけ思うのは、木庭先生も、やり方によってはODA基本法が外交の足を縛るようなことはないというお話なので、やっぱりそれはっくり方かなと思うんです。援助の現場でちょっと経験した者からいくと、やり方によると、大事なことですから面倒くさくてもいいんですけれども、かなり面倒くさいことになるという話と、あと法律の議論になる可能性もあるかなというものがありまして、だからそこら辺をどうするのかというのが一点あると思うんですね。  もう一つは、例えばODA基本法をつくっていって、ここら辺はちょっと外交運用上まずいと落としていくと、例えばこの間、木庭先生の党の方から出された基本法もそういうあれがあるんですけれども、多分に精神主義的なものになるわけなんですね。  だから、全体の枠を決めるような法律になってもつくる意味があるか。見方によってはそれでも意味があるのか、あるいはそれは実質的な意味がないのかとか、そこら辺のことを考えながらどういうかかわりを持つべきかというのを考えていけばいいので、やっぱりODA基本法というのはメカニズムの一つとして考えていくべきなのかなということを感じたので、ちょっとコメントさせていただきました。
  45. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 私、今お話を伺いながらちょっと思いついたことで、これは本邦初公開、たった今思いついたのですが、基本法も案外いいかもしれないということなんです。  思い浮かびましたのは、アメリカが通商法三〇一条という、ジョン・ジャクソンという権威に言わせると、三〇一というのは世界で一番評判の悪い数字だというふうに言っていましたけれども、あれでさんざんほかの国にハラスメントをやって、結果的にアメリカのトレードインタレストを非常に拡大してきているということがあるわけです。  私は、あれは中身に関しては非常に問題があると思っています。とりわけ、不公正貿易という概念は非常にまやかしが入っていると思いますけれども、なぜ三〇一条があれだけ効くのかというと、これはクリントンが例えばこう言うわけです。自分としては、大統領としてはいろんなことも考えたい、国務省なり商務省としてはもう少し穏当な方法も考えたいけれども議会側が黙っていないんだ、やられちゃうんだと。これが効くのですね、恐らく。  しかし私、三〇一条について発動事例というのを全部勉強したことがあるのです。大体何かそういうことがあると昔のことを全部勉強する、私はドクター論文からそういうことばかりやっているのですけれども。そういうパターンなのですが、実際にやったケースはほとんどないのです、最後まで行ったケースは制裁発動まで。御記憶のとおり、日米自動車のケースはぎりぎりで踏みとどまりましたけれども、あれは三〇一条と日本のWTO提訴でドローという形になったわけです。それを考えれば、問題は中身だと思いますし、やり方でしょうけれども、少なくとも国会が黙っていないからということで外務省が強く迫れるというパターンはあり得るのじゃないですかね。これは中身さえよければ使ってもいいかもしれない。  ただ、これは個人的な意見というか本当にこの場の思いつきで、本邦初公開なんですが、皆さんの御意見を伺いたいと思います。
  46. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) 今、中国の問題をやりましたね。中国の問題のお答えをお願いいたします。
  47. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 失念いたしました。何でしたでしょうか。
  48. 山本一太

    ○山本一太君 最初に、中国の円借款を核実験のときにとめるかどうかという議論が結構自民党の中にあったという話をしたら、何かおっしゃりたそうなそぶりをなさったので。
  49. 中川淳司

    参考人中川淳司君) それなんです。つまり、自民党、国会議員がとめる意見を出しているらしいという情報が流れることが重要だと思うのです。つまり、本当は、この先は有償がとまるぞ、なぜならば国会からの圧力に対して外務省が抗し切れない、そういう状況をつくることがまさに意味がある。これは非常に有効な外交手段。さっき基本法の話が使えるかもしれないと言ったのは、そのもともとのきっかけをネグったのでちょっとあれでしたけれども、そういうことです。
  50. 角田義一

    ○角田義一君 私がこれから質問することが杞憂であればよろしいのですけれども、お二人にお聞きしたいと思います。  先ほどの中国核実験については、これはもう日本国民も、世界で唯一の核の被害者でもあるということもありますし、ああいう措置をとったということについては当然国民的な理解も得られただろうと思います。そういう背景もあって、中国政府も最終的には核実験を中止するというようなことになったのかもしれません。  問題は、ODA大綱の中に「基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。」、こういうのがあります。  核実験については、中国に対して相当強い物の言い方をしても結構だったと思うのですけれども、人権の問題については、例えば天安門なんかについて、もし日本政府がいろいろなことを中国政府に仮に言ったとしますと、そのときに必ずやっぱり歴史的なことが私は出てくるのではないかというふうに思うのです。日本は一体何を中国にしたのだ、君らは天安門のことを言える立場なのかというようなことが当然私は出てくるのじゃないかと思います。それが、例えばアジアに対しても多かれ少なかれそういうことがなければいいがなというふうに思います。  外務省にまず聞きますけれども、アメリカ人権外交はそれなりの歴史もあるし、またアメリカアメリカの一つの理念でやっておると思います。日本の場合は、基本的人権あるいは自由というような問題と、かつての日本の戦争、これはいろいろ性格づけや議論がありますが、私ははっきり申し上げて侵略戦争だというふうに思いますけれども、そういう問題がこのODAに影を落とすのか落とさないのかというような問題。これは実際の経験があるのかないのか、そういうことは先生、一切心配ないんですよ、もう五十年もたっているから関係ないんですよということなのか。それとも、中川先生は大変お若いですけれども、そういうことはもう全然配慮せぬでもいいんだ、もう時代は変わっておるんだということなのか。その辺、私も非常に気になるところなんで、お二人に聞いておきたいなというふうに思うんです。
  51. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 今の角田先生の御指摘の点は、相当に機微な部分であろうかと思います。  日本も基本的人権を最も大事にする国の一つということではあるわけですけれども、それをどういうふうに主張し実現していくかという点について、特にアジアにおいての問題というのは、それはやはり政府がということだけでなくて、国民全体としての問題もあろうかと思います。先ほど私は、日本ODA大綱実施する上でアジアの一国であるということでさらりと言ってのけましたけれども、一つには、そういう単に地理的にアジアで隣国であるということにとどまらず、やはりそういう面というのはあると思います。  つまり、アメリカ流の理念外交といいますか、理念を高々と掲げ、自分の主義主張の通らないところ、気に入らないところがあればパニシュメントということでやりかねない、そういうところがあるわけでございます。これはアメリカのやり方でございましょうけれども、日本はとてもそういうことはできないし、やるべきでないと思うんですね。しかし、それはもちろん人権を大事にしないとか、そういうこととは全く違うんで、やはり日本には日本人権尊重のやり方というものがあると思います。  具体的にそれがある程度出ているのはやはり今のミャンマー状況で、何も日本ミャンマー人権状況あるいは民主化状況に対して不干渉であるということではとてもないわけでございますけれども、やり方においてやはりアメリカないしは欧米の行き方と同じふうにやるわけにはいかないというふうに思います。  中国の場合でございますけれども、中国の場合にはこれは単独でやりませんで、御記憶だと思いますが、あのときにはちょうどアルシュ・サミット、フランスのサミットの場で中国天安門事件の後にG7が協調しまして、中国の抑圧にかんがみて深甚なる非難の意を表明し、二国間における閣僚その他のハイレベルの接触を停止し、また中国との武器貿易があればこれを停止するといった適当な措置をとることにした、それから世界銀行による新規融資の審査が延期されるべきことに同意したと、こういったことをG7の場で、サミットの場で共同でとったというのが経緯であったわけでございます。  こういうふうに共同で表明できればそれはそれでいいと思いますけれども、そういうものを離れて単独に日本が特定の意思表明を人権問題等についてするというのは、やはりよほどのことがあったときということではないかと思います。
  52. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 今の角田先生の御質問にお答えする前に、私、先ほど思いつきを申し上げましたので、補足しておかないとまずいということに気がつきました。一点言っておきます。  なぜアメリカの通商法三〇一条はあんなに評判が悪いのかといいますと、結局そこで言われている公正貿易、不公正貿易というのがまやかしで、実はアメリカの国益、もうちょっと言うと、議員の出身州の収益の保護手段として使われているからだということなんですね。それが見え見えだからあれだけ批判されるわけです。  逆に申しますとこういうことですね。仮に援助基本法をつくって国会が政府と連携しながらODA大綱の実現に向けていくということになった場合に、国会は原則一貫性あるいはそこに盛られた価値の普遍化に関して政府と連帯して責任を負うということになります。間違っても、族議員というふうな言葉に象徴されるような怪しげな私利私欲に駆られることなく、広い意味での国際公益といいますか、その実現に国会が、先生方が当たっていかれるという覚悟と責任がおありになるのか。それは恐らくさまざまな批判を浴びていく中で改正していく必要があると思うんですね、定期的にも。  つまり、今外務省に対して私が言っているようないろんなクレームが今度は直接国会の皆さんに来る、それに対して皆さんが果たしておこたえできるのか、それだけの情報なりお覚悟がおありなのか。これははっきり言ってデメリットだと思います、しんどい話だと思うんですね、やっぱりこういうことは。それでもなおかつやれればやった方がいいと、私はそう思いますけれども、それは大変なことですが、本当に国際社会において名誉ある地位を日本が得たいと思えば、国民代表としての国会の先生方はそこまで考えてなさるべきだ。最低二十年、やってみたらいいんじゃないかなというふうに思います。しかし、大変なことだと思います。  それから、質問にお答えしますが、私はこういうふうに角田先生の質問を理解いたしました。日本のように、侵略を行って過去に大規模な人権侵害を行ったような国が果たして他国の人権状況を云々できるのか、人権を侵害する国あるいはした国が人権外交は言えないのかということであります。私は、言えると思います。  アメリカ人権外交の旗手と自任しておりますが、アメリカの国内で人権侵害はあります。私、二年ほど住んでおりましたが、いわゆる公民権運動が挫折して、ワシントン近郊も、黒人居住区とヒスパニックの居住区、白人の中産階級、低所得階級、上層階級の住まいが違う、学校も別々、そういうところにおりました。アメリカは国内に非常に深刻な人権問題を抱えております。最近では、とりわけヒスパニックに対するアファーマティブアクションの撤廃が問題になっておりますが、しかしそういった国内事情に対して決してアメリカはそれを隠していない、それを解決すべく努力をしている。そのことを世界にやはり発信していると思うんですね。人権問題は非常にデリケートで難しい問題で、一朝一夕で解決できる問題ではありません。しかし、そういう努力をしている国であるからこそ人権外交に説得力も出てくるんだろうということを思います。  同じことが日本の場合も言えるんじゃないでしょうか。日本は確かに大規模な侵略をいたしました。しかし、過去に一度でも侵略を行ったら、あるいは大量殺りくを行ったら、未来永劫他国の人権を非難できないのか、人権外交にコミットできないのか。私はそれはナンセンスだと思います。それはまるで、私は無神論ですけれども、キリスト教で言う原罪を死ぬまで引きずれという話でありまして、私はちょっとそれはついていけない議論ですね。そのかわり、逆に日本のまさに国内国外、国際的な人権外交あるいは民主化外交における一貫性ということが問われてくる。日本の国内における少数民族の問題をどうするのか等々、それから政治の方ではさまざまな腐敗の問題をどうするのかというふうなことについても当然問われてくる。  いろんな意味で、こういうある価値なり原理の普遍化ということを一たん打ち出しますと、それは全部我が身に返ってきますから大変な重荷をしょうことになるんですけれども、それをしない限り、日本はついに世界オピニオンリーダーになることはないだろう、ついにフォロワーに終わるだろうということをかなり危機感を持って最近感じております。
  53. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 先ほどの私の発言の中で、天安門事件のときに日本はマルチによる措置以外何もしなかったというような、そういう印象を私の発言で与えたかもしれませんけれども、ちょっと補足をさせていただきます。  その前に日本自身が、これは中国の国内問題であっても民主主義国である我が国の基本的価値と相入れないという認識を参議院外務委員会の外務大臣の所信表明等できちっと表明しておりますし、同時に、日本は在留邦人に退避勧告が出された等の状況のもとで、技術協力とかあるいはその他開発協力関係のミッションの派遣延期、それから中国におりました派遣専門家等の引き揚げ、こういった措置も同時に行っております。
  54. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 言い忘れました。今の局長の追加発言に関連するところですけれども、人権外交というのはアメリカが使っている言葉なので、日本人権外交をすべきだという場合に、アメリカと同じ流儀でやればいいということではないと思うんですね。  一番単純に言うと、北風と太陽という比喩がありますけれども、日本には日本のやり方があるということはきっちり言うべきだと思うんです。ただし、それは日本特殊論に陥ってはいけないと思います。リビジョニストがそこをとらえて、要するに日本経済なんというのは日本しかできない不可解なやり方であるというふうなことを言って、つまり例外として処理しようとするわけですね。日本流の人権外交日本特殊論に陥ってしまうと、結局それは普遍化につながっていかない。オピニオンリーダーとしては、つまり日本のやり方がなぜアメリカのやり方よりもいいのかということについてのきちっとした説明が必要なんです。それはなかなか容易じゃないとは思いますけれども、必要なことだと思います。
  55. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 アフリカの支援問題で二つお伺いしたいんですが、一つは、前回小委員会で問題になったケニアの問題なんです。  中川参考人のリストでネガティブリンケージからポジティブリンケージに移った例の一つが、これを見るとケニアなんですね。九一年十一月に新規援助額通告拒絶・国際収支支援型援助停止それから九三年七月に援助再開と。だから、ネガティブからポジティブに移っている。  この白書のケニアの項を見ますと、局長御存じと思いますけれども、古森義久さんが産経でいっぱい書いているでしょう、そのことで前回、ちょっとここで問題になったんですよ。古森さんの言うように、これを見ますと、日本は、東アフリカのケニアの地理的重要性に加え、政治経済面での指導的役割を果たしていることを重視して積極的に行っていると。ケニアに対する援助国として日本は第一位、九五年でそうなっています。それで民主化のところでは、九二年末に複数政党制のもとで、自由かつ公正と評価し得る大統領・国会議員選挙を実施するなど民主化プロセスを進めていることと、そうなっているんですね。  ところが、私はケニアの実情を知らないので、古森さんが盛んに書いているのでちょっとお聞きしたいんですけれども、古森さんの記事によりますと、ことしの七月から八月にかけてIMFと世界銀行が相次いでケニアへの融資を停止民主化の推進と汚職の防止が十分でないという理由だと。世界銀行は、同時に投資プロジェクトも中断、こう書いてあるんですよね。それから、その次の十月七日の記事では、ノルウェー、フランスなど欧州諸国も同様にNGO援助を主体、NGOだけにした、ドイツはODA停止の警告を発したと。結局、日本だけ非常に異色だというのが古森さんの判断で、だから少なくともNGOのみにしたらどうだと、どうもそういう主張のようなんですよ。  世界銀行、IMFそれからヨーロッパ諸国が、このケニアの民主化問題や腐敗問題で本当にそういう態度をとっているのか。日本だけ我が道を行っているのは、中川参考人が言われた慎重な態度からなのか、それとも独自な別個の判断があっておやりになっているのか。ケニアの問題についての具体的な問題をお聞きしたい。  二番目は、このケニアにもかかわるんですけれども、アフリカ諸国の債務問題ですね。このODA白書国別援助方針を見ても、ケニアは依然として過大な対外債務だと、対外債務は相当だというんですね。  この間、七月十日に読売新聞で座談会があって、これを見ると、ワタラ国際通貨基金副専務理事は、債務の問題は非常に重要なんだ、債務は被援助国の発展の障害となっている、世界銀行は既にウガンダの債務救済を決定、ことし九月までにさらに三カ国の債務救済を認める方針だと、そう言っている。それで、カバジというアフリカ開発銀行総裁は、アフリカ諸国にとって、総額三千二百億ドルに上る債務は極めて重たい負担だ、さらなる救済を求めたい、と。  ラテンアメリカアフリカは、八〇年代から九〇年代はこの債務問題で暗黒の十年といって苦しんだのは有名な話ですけれども、世界銀行、IMFの構造調整融資、それに基づく緊縮財政の国際的な重圧等々は非常に大変な問題になっていると思うんです。さっき私が言いました、ハーバード大学の国際開発研究所がアフリカの成長のための新しいパートナーシップというレポートをつくった。この論文の要約を読みますと、二番目に債務の大幅削減というのをやっぱり挙げているんです。  だから、アフリカの本当の自助努力を進める上で、民主化という政治的問題でストップしたりなんかすることが本当にどうなのか。これほど債務問題の重圧がある際、これはケニアだけじゃないけれども、そういうアフリカの現状で、先進諸国のODAがどういう原則方向をとるべきかということがいろいろ問われているんじゃないかと思うんです。  以上、二点。
  56. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 上田先生から今アフリカの問題の御指摘ございました中でケニアの問題ですが、その前に、アフリカ全体につきましては、御案内のとおり日本アフリカ開発会議というのを来年十月に予定しておりまして、まさに今週東京で準備会議をやっておるわけでございます。そういう中で、今まで開発から取り残されておるアフリカに、日本の経験それからアジアの諸国、そのほかの国際機関、援助国等を巻き込んで、アフリカ開発のために何かできないかということで大変な努力をしつつあるということをまず申し上げておきたいと思います。  その上で、ケニアにつきまして確かに産経新聞で何回か批判記事がございました。私どもとしましては、これはちょっと事実関係の点において、あるいは事実認識において必ずしも適当でないということで反論を載せることをやったわけですが、残念ながら結果的にはうまくいきませんでした。しかし、私どもの主張をきちんと整理しまして、それを当時、全国会議員の諸先生方を含めて各方面に主張をお知らせさせていただいた、こういうことがございます。  要するに、確かに国内に問題がないというわけではございません。それは、アフリカの最貧国たくさんある中で、多数党制を取り入れている、それからケニア自身も九二年から複数政党制のもとで選挙をやりまして今の大統領が選出されておるわけでございまして、ほかの国もそういうことでいい方向には行っておると思います。ただ、いわゆる民主主義の定着につきましてはさまざまな問題が当然あります。幾つかいろいろな理由がある中でも、アフリカ特有の問題として特に言われております部族間のいろいろな権益問題とか、土地に根差した非常に根深い問題がありまして、そんなに順調にすんなりいかないといったようなことが現実としてあります。  問題は、こういった事態を外におります我々がどういうふうに見るか。産経に載りましたのも、ニュースソースは反政府側のNGOだとかいった人たちの言い分を取材して、それで記事にして批判しておるわけでございます。そういう批判があるのもこれは一部だろうと思いますが、事実だろうと思います。しかし、国全体としては、そういう部族間の問題等々がある中で憲法を定め、それから民主化の定着に向かって努力しておる。そういう姿勢を我々としてどこまで温かく、あるいはより長い目で見て評価をして、そういう方向に進むことをけちをつけて足を引っ張るのではなくて、そういう方向に育っていくようにどれだけ外部の者としてエンカレッジしていけるか、言ってみればそういうことじゃないかと思うんです。  私どもの姿勢は、黙って見ているのではなくて、意見は言います。現地の大使も単独に意見をケニア政府に対して言いますし、それから複数の援助国がありますから援助国で話し合って共同で申し入れをしたりして、そういう意味で注文もきちっとつけていく。つけていく中で、しかし全体としては、そういう方向としては必ずしも間違った方向に行っているわけじゃございませんので、できるだけそういう方向をエンカレッジしていく。そこにある種の多少の温かい目というものも必要だろうというぐらいのつもりでやっております。これが、例えば選挙の結果をひっくり返して政権を纂奪するような行為があるとかということがあればそれは別でございますけれども、野党との話し合い等々を含めまして、やはり外部の世界の言い分も聞く、そういう努力も政権はやり始めておりますので、ここはもう少し見守っていきたいという気持ちでございます。  それから、日本援助というのは政権支持に、あるいは特定の政党の支持に向けられているというのが批判の中のもう一つの論点であったわけでございますが、御案内のとおり、日本の支援というのは別に政権支援をやってキャッシュを渡すとかというやり方はもちろんやっていないわけでございます。基本的にはプロジェクトでございますし、道路とか橋とかあるいは保健衛生、学校、こういった民生に役立つようなことをアフリカ全般においてやっていますし、ケニアにおいてもやっております。その点についても、一部のNGOとか、その政権が気に食わない勢力からすればそういうふうに見えるのかもしれませんけれども、私どもとしては、そういう援助をやっておりますので、そこはやはり正しく理解をしていただきたいということでございます。  二番目の累積債務の問題でございますが、実はこれは御指摘のとおりアフリカ諸国にとりましては最も深刻な問題であり、これを何とかしないとやはり開発の促進ということは望めません。したがいまして、既にパリ・クラブを通じますいろいろな債務救済の道が開かれておりますし、世界銀行もまた、そういう特に重債務の最貧国の諸国に対しましては特別に配慮された債務救済のための措置をとっております。  日本もそういう国際的な合意ででき上がっていく債務救済の措置については参加していくということで、日本自身アフリカに対する特に大きな債権国ということではございませんけれども、そういう形で協力するということでございます。これはやはり、そういうアフリカの窮状に対しては、世界銀行その他、既に十分な認識と理解がありますので、可能な範囲で債務救済措置をとって少しでもその軽減をするということの中で取り組みがなされております。なされておりますけれども、ただ事態はなかなか厳しいというのが偽らざるところでございます。
  57. 中川淳司

    参考人中川淳司君) 債務の問題に関してです。  上田先生御紹介のハーバードの日経の記事、「経済教室」に載ったやつですね。私も読んで切り抜きをしたんですけれども、そのとき二つのことを印象として持ちました。  一つは、これは今局長の御紹介にあったような従来型のIMF、世銀の構造調整的なアプローチではないことを提案しているんですね。そこに非常に新鮮な印象を受けました。具体的に申しますと、対症療法として債務のリスケジューリングであるとか借金の棒引きをやっても結局だめだ、アフリカ経済の根本的な構造改革をしないとだめであると。具体的には、貿易の自由化をするんだということを言っているんですね。  私が非常に感銘を受けたのは、一九六四年、援助よりも貿易が大事なんだということを言ってuNCTADは登場したんですね。途上国はまさにそうで、「同情するなら金をくれ」というドラマがありましたけれども、金をくれるぐらいなら貿易をやってくれというのが本音です。ですから、それに対してアメリカは聞く耳持たなかったのがついにそこまで来たのかというのが第一印象です。  しかし、私、ただそれだけじゃないと思うんですね。ハーバードがそういうことを言ったというのもアメリカの国策だろうと思いますけれども、言ったことの意味はもう一つあって、それは結局、アメリカアフリカの市場が欲しいんだろうと思うんですね。  具体的には、ヨーロッパ共同体がロメ協定等を通じて旧植民地として取り込んできて植民地特恵を維持してきている部分で、アフリカ経済アメリカ経済の、特に金融資本にとっては残されたフロンティアであると。いずれここがエマージングマーケットになっていけば、そこでEUがロメ協定で踏ん張ってブロック化しておればよくないからそれを取っ払おうと、そういうアメリカの国益を自由貿易というきれいな言葉に包んでやっているということなんだろうなというふうにちょっと思ったんですね。  ただ、それでどうするかなんですけれども、私は、日本もこれはやはり乗った方がいいと思うんです。ただし、そのためには、日本は農産物の貿易を自由化しないといけません。アフリカが、たちまち今日本に輸出できるのは農業産品しかありません。しかし、そうなると、果たして衰退産業を抱える日本の農水省がどこまで日本の農産物市場を開けるかということなので、きれいなことを言っても、結局日本自体が言ったことは全部返ってくる、責任はこっちにかかってくる。これはもう援助基本法の話もすべて同じなんじゃないか。私なんかは、最近、どんなテーマをやっていても同じ結論になって、議論がほとんど煮詰まっちゃっているんですけれども、同じようなことを感じました。  以上です。
  58. 馳浩

    ○馳浩君 いろんな議論をありがとうございました。  最後に、大島局長にお聞きしたいことがあるんですが、ODA予算もこれからはリサイクルの時代に入るんじゃないかと。要は、今までの円借款が元本と金利の部分と順調に返ってきているのかと。日本のどこの財布に返ってきて、それをODA当局としては日本側はどういうふうに活用していけるのかと。  二つ目は、南南支援です。今まで支援してきた国が周辺の諸国を支援する。とりわけ、日本の技協よりも、周辺の拠点となる国が人材育成あるいはコンサルタントの育成などをしていくべきだと思うんですけれども、この点の展開。  最後に、青年海外協力隊は、ことしの概算要求では千三百人が千人に、三百人ぐらい減らされるようになったと。二十歳から三十九歳までの枠があるんですが、シルバー人材という形での支援があるのも知っておるんです。例えば地方公共団体の退職者であるとか退職教員であるとか、六十歳から六十五歳あるいは七十歳ぐらい、まさしくある意味では日本国内で今まで蓄えてきた人的な価値、知的財産ですね。それを活用すれば、青年海外協力隊員二人のところをシルバー人材を使えば三人という形で人員の確保もできるわけでもありますから、そういった考えはないのか、その点を教えてください。
  59. 大島賢三

    政府委員大島賢三君) 時間もございますので、簡単に御説明します。  今、馳先生から大変に心強い御発言をいただきまして、私ども、ぜひ研究してまいりたいと思います。  まず、これから三年間はODA予算も伸びません。伸びないというか減らされていくわけでございますが、同時に、この時期は私どもは重要な改革の時期だと。いろいろな意味で、制度改革も含めまして改革をすべきときでございますし、いろいろ工夫をしていく必要があろうと思います。そういう形によって、マイナスの影響をできるだけ小さくしていくということであろうと思います。  そういう中で、今の、円借款の回収金がふえている、これを一体どういうふうによりいい形に政府全体として対応していくかという問題も重要な問題でございます。それから、南南協力的な側面、今は東南アジアも通貨危機で、しばらくはちょっと元気がないかもしれませんけれども、しかし中長期的には大変に南南協力に対して熱心になってきております。現に、インドネシアあたりは今、南南協力センターというのをみずからつくってこれから積極的に乗り出すというようなことも言っておりますし、マレーシアあたりもアフリカに対して大変熱心になってきております。タイもその周辺国に対して既に予算もとってやり始めている、こういう状況でございます。中南米民主化、安定化が進み、その意味で日本のパートナーに、南南協力の見地からもそういう国がふえてきている。周りを見てみますと、そういう意味で状況はよくなっている面がございます。  したがって、日本は、日本ODA予算だけで相撲をとるのではなくて、そういう国々とうまくパートナーシップを組んでいく、そういう中でリーダーシップを発揮していくと、こういうふうに心がけ、工夫をしていきたいと思いますので、ぜひ御支援をお願いいたしたいと思います。
  60. 板垣正

    ○小委員長板垣正君) まだまだ質疑もあろうかと存じますが、予定した時間が参りましたので、政府及び参考人に対する質疑はこの程度とさせていただきます。  一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、大変お忙しい中、長時間御出席をいただき、貴重な御意見を賜りましてまことにありがとうございました。本小委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時三十分散会