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参考人(
中川淳司君) あらかじめ
学者用語といいますか
レジュメというのをお配りしてありますので、それに沿ってと思っていたんですけれども、今の
局長の
お話で
かなりの
程度私の
レジュメの
前半部分については
お話しいただいたと思いますので、
レジュメで申しますと、主として3の
運用状況それから4、5について
お話をいたします。
まず、
説明の手順としては、一番
最後につけました十二ページから十四ページにかけての
資料の2と3をごらんいただきたいと思います。
ODA四
指針、私の
レジュメの中では四
原則という
言葉を使っておりますけれども、四
指針として九一年に
海部首相が
お話しされ、九二年に
ODA大綱に取り込まれた
原則でございますが、その主要な
適用事例を、毎年出されております
経済協力局編の
ODA白書の
国別の詳しい方、カントリーレポートの下巻の方のみを使いまして、私なりにフォローしてまいったものでございます。ただ、ことしの
白書が私の
研究室に届いたのが先週でして、ちょっと間に合いませんでした。今、
局長の
お話の中で、
中国に対する
無償援助の
停止が功を奏したということで再開されたという九七年三月のデータはまだ入っておりません。その点は、いずれ何らかの形で修正なりさせていただこうと思っております。
大島局長の方から、比較的有効に機能した例として
中国、努力はしているけれども必ずしも有効とは言えないかもしれない例として
ミャンマーの例が
お話があったかと思います。ただ、それでも粘り強く
外務省の方でなさっているという
お話があったと思うんですけれども、私の
資料の2は、むしろこれは網羅的と申しますか、とにかく括弧づきですべての例を拾い上げたものであります。
そこで、まずこの例から定量的に何が言えるのかということを申し上げまして、次いで、しかし実はこれがすべてとは言えないということをその後申し上げます。その上で、その
有効性ということについて二、三
お話をして、
最後に、私なりに今後どういうふうに
改善していったらいいのかということについて申し上げます。
そこで、一番
最後の
資料3をごらんいただけますでしょうか。そこに、「
ODA四
指針の
地域別適用状況」というものをつくりました。これは私が勝手につくったものです。計算は足し算だけですので多分間違っていないと思いますが、ひょっとしたら違っているかもしれません。
この表は実はいろんなことを思わせるものでして、幾つかございます。
まず、非常に
ODA大綱は有効であったということを示す証拠がここにあらわれていると考えます。具体的には、その縦の列の左から三列目の括弧の中であります。それは
ネガティブリンケージを
適用して、その後
事態が
改善されたのでポジティブに転換したという例であります。
例えば、
アフリカの場合でありますと、十件の
ネガティブリンケージに対して五件、打率でいうと五割ですから、これは
かなりの高い確率で
改善が見られた。また、
中南米、
ラ米に対しては、
ニカラグアであるとか、あと恐らくペルーの
ケースを考えたんだと思いますが、二件中二件。それから、
アジアに対してネガティブは一件中一件、これは先ほどの
中国の
無償援助の件はカウントしていませんので、二件中二件ということで
かなり高い。何しろ
アフリカはああいう
地域ですから、それを除けば
ネガティブリンケージは
かなり有効に機能したと言っていいのではないかということが一点指摘できると思います。
他面、これはやや私は批判的に見ているところなんですけれども、
ODA供与国の数あるいは
日本の
ODAのコミットメントの額の大きさということから考えますと、また、ちまたで報道されますさまざまな
人権侵害ですとか、あるいは
軍事化あるいは
民主化等々のさまざまな出来事を考えますと、
アフリカに対して
ネガティブリンケージが十件発動されておるのにもかかわらず
アジアに対して一件しか発動されていない、また中近東にはゼロである、
中南米に対しては二件しか発動されていないという事実、これをどう考えたらいいのかということについて、できたら
外務省の方から御
説明いただきたいというふうなことを思ったりもするわけであります。
私は、こういう形で、恐らく理由は
局長が先ほど申された中で、二
国間関係の重視、さまざまな微妙な
配慮ということも必要であると。それは
ODA大綱の
原則の
柱書きの
部分に確かにそういうふうに書かれておりますから、一律に機械的に
適用するものではないということはもとよりでありましょうけれども、しかしそれは極めて危険な、場合によっては
オポチュニズムと申しますか、あるいは
ダブルスタンダードと申しますか、そうともとられかねない危険があるのではないかと考えます。私は、そういうものであるという形で評価を下しているものではありません。
むしろ、
個々の
ケースにつきましては、先ほど
中国の
ケース、
ミャンマーの
ケースを御
説明いただきましたように、極めて高度の政治的な
判断あるいは中長期的な
配慮を踏まえて、また
ネガティブリンケージというのは非常に創業でして、使ってしまうとそれ以上の手はないんですね、
援助をとめた、もうそれっきりで
関係が切れるわけですから。これは
最後の、いわば伝家の宝刀というものでもありますから使いづらいということもあるのかもしれませんが、そのあたりは、逆に言うと、
アフリカに対して余りに安易に使い過ぎていないか、
アジアに対して慎重過ぎないか等々さまざまなことが考えられるわけです。この点、まだ私の方で分析が進んでおりませんので、この点に関しては私の個人的な
意見ということでお伺いいただきたいと思います。
効果ということについて今申し上げたんですけれども、実は
ODA原則の
効果について、私は直接的な
効果と間接的な
効果を分けて考える必要があると考えています。
直接的な
効果と申しますのは、つまり四
原則に関して違反があって、ネガティブを発動して改まったかどうかというのが
効果だろうと思います。間接的な
効果として、
日本が
ODA四
原則というものを通じて
世界あるいは
日本国民に対して何を発信しようとしたのかということ、
ODA四
原則、
ODA大綱に
日本政府が込めたメッセージが的確に伝わったかどうかという
効果であります。
私、考えまするに、それは恐らく
冷戦後の
世界において新たな
秩序原理が求められるこの現代において、
日本という国が単なる
トップドナー、単なるお金をたくさん出す国ということではなくて、
世界の世論、公益をリードする
リーディングドナーとしての
立場を鮮明にする、そういう意図があったんだろうと思います。八九年に
トップドナーになって九一年以降継続的に
トップドナーですけれども、そういう多額の
援助を
供与する
日本がどういう
政策を
援助という
手段に込めるのか、そのことに関する
意思表示が、
意見表明が
ODA大綱だったんだろうと考えています。
果たしてその点に関して、間接的と申しますか長期的な
効果に関してどのような
効果があったと言えるのでありましょうか。五年、六年ではその点の
判断は非常に難しいところであると思いますけれども、少なくとも
オポチュニズム、一貫した
適用がなされていないような印象を内外に与えるようでは心もとない気がするのであります。
アメリカが
人権外交を七九年にスタートして二十年近くたちました。その間、
アメリカはさまざまな過ちを犯してまいりました。
ニカラグアに対する侵略を、反
政府勢力にCIAを使って
援助するとかというふうなうわさ、これは事実かどうかわかりませんけれども。そういったことを含めて
人権外交の
一貫性に関しては
かなりの批判も浴びてきたわけでありますけれども、
アメリカは現在に至るまで
中国に対しても
人権外交を一貫して標榜しております。その結果、
アメリカという国がたとえ時にエゴイスティックなことを考えようが、やはり
人権という価値の
普遍化を代弁する
オピニオンリーダーであると、そういう評判はかち得たと思います。
今から十五年後、
ODA大綱ができて二十年たった後に、
我が国が
国際社会において、
憲法前文にありますような名誉ある地位を得ることができるかどうかは、まさにこれからの
外交姿勢にかかっているのではないかというふうに考えます。
そこで
最後に、簡単ではございますけれども、
ODA大綱の
運用、その
効果、その意義を踏まえて今後どのような
改善を図るべきかということについて、私の
意見を四点にまとめて述べさせていただきます。
第一点は、
適用における
一貫性の確保ということであります。
とりわけ
ネガティブリンケージまたディプロマティックプレッシャー、私は、それに至る以前のさまざまな
政策対話等々のことを含めて
外交圧力と呼んでおりますけれども、その発動において慎重であるという
日本政府の基本的なスタンスは、
相手国との
友好関係を損なわないためという一つの
外交的配慮のあらわれとしては確かに評価できる、また
理解できるものであります。しかし、それが
ダブルスタンダードや
オポチュニズムに陥らないためのフェールセーフをかける必要があるということであります。
とは申しましても、そのことは一律の非常に硬直的な
運用をやればいいということではありません。四
原則の
運用方法や強さの
選択、またその
組み合わせに関してはさまざまなマトリックスが考えられます。
個々の
途上国に一律の基準を
適用するのではなくて、
個々の
途上国の事情に応じた適切な
組み合わせを考えていくという必要があろうかと思います。
一口に
発展途上国と申しましても、例えばもう既に
経済的には
先進国に肩を並べ、
政治制度の上でも
先進国と遜色のない国もあります。他方で、とりわけ
アフリカの旧
植民地の一部に見られますように、現実には独立の
国家としての
経済的な、また政治的な
体制はいまだ形成されていない、そのような段階にある国もあるわけであります。おのずとそのような国、大ざっぱに申しますとリージョナルな傾向、
相手国の実情に応じた四
原則の
適用の仕方、また
手段の
選択が考えられてしかるべきでありましょう。
一点だけ申しますが、
アフリカに対しては、私の
言葉で申しますとダイレクトアシスタンス、まずは
民主主義なり
国家体制の
制度自体をつくるための
援助が必要で、その先に
民主化、
ネガティブリンケージ、
ポジティブリンケージという問題が多分出てくるんだろうと思います。それは、残念ながら
草の根援助だけではだめです。
政治制度をどうやってつくるかという問題です。それを旧
宗主国に任せておくのは、私は
植民地主義の温存につながることでよくないと思います。その点で、
日本はもっともっとコミットメントすべきだろうと思います。
援助の
一貫性に関連する第二の提案ですが、それは
一貫性をなおかつ保ちつつ続けていく必要がある、しかし
国別のアプローチは必要である。とすれば、そのような筋の通った
適用を確保するためのインフラストラクチャーの整備が必要であろうと思います。
具体的には、
援助四
原則の対象項目に関する
国別のモニタリングの
体制をつくる必要があると思います。最も簡便な方法としては、現在、在外公館に置かれております専門
調査員制度をそのマンデートの中に、四
原則に関する
適用状況の
調査あるいは
状況の
調査というものを加えるということは可能かと思います。そのためには、専門
調査員制度を拡充すべきであろうと思います。
また、より中長期的、強力な
政策としましては、
米国が
人権外交に関して行いました
国別人権状況のレポート、私、現物を一冊持参しましたけれども、
アメリカはカントリーレポートというものを
人権に関して出しております。これは膨大なエネルギーが要ることだと思いますけれども、アニュアルレポートを出しております。こういった
ODA大綱年次報告ないし
ODA大綱白書といったものをつくってもいいんではないかと思います。
さらに、私、もう一冊持参いたしましたが、それはヒューマン・ライツ・ウォッチ・ワールド・レポートというものでありまして、これは国務省のつくった
国別人権報告書のいわばチェックなんですね。
アメリカの非常に有力なNGOがモニターをやっている。これは
アメリカの
民主主義の底力を示す現象だろうと思います。
この二つの、行政とNGOの相互作用によって
アメリカの
人権外交の
一貫性が保たれてきたと言えるわけです。私は、残念ながら現在の
日本のNGOにはその力量はないと考えています。その役割は国会に求めざるを得ないんではないだろうかというのが私の考えです。
第三点、これは
大島局長と同じく
政策協調の強化ということであります。
日本が確かに
トップドナーですけれども、
援助国間で
政策協調を強めることが四
原則の目的達成度を左右する重要な要因であります。ぜひともそうする必要があります。
その場合に問題となるのは、四
原則中三つを占める軍事的な
部分です。武器輸出を現に行っているフランスや
アメリカは、四
原則の中で武器の輸出入の動向に関しては沈黙しております。核開発をやっている安保理の五大国、常任理事国は一切この点に関して問題にしておりません。それは
局長からも
お話があったとおりであります。
日本は憲法第九条を持ち、平和
国家、平和主義を掲げる唯一の国としてこの点は絶対に守るべきだと思います。そして、むしろこのサークルに多くの
先進国、他のドナーを引っ張り込んでいく、そういう努力が必要であろうと思います。
最後に、第四点として、
援助相手国への働きかけの強化ということを挙げたいと思います。
四
原則の掲げる目的を達成する主役は
日本ではありません。それはあくまでも
援助の
相手国です。したがいまして、
相手国のコミットメントがない限りは目的の達成はあり得ません。あらゆる機会と方法を活用して
相手国に働きかけをして、
相手国のコミットメントを高めていく必要があると考えます。
二〇一〇年になりますか、今から十五年後の
日本の
ODA大綱がどのような形で展開され、その後
日本がどのように
国際社会で名誉ある地位を得ているのか、それを楽しみに見守っていきたいと思っております。
ありがとうございました。