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1997-11-05 第141回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成九年十一月五日(水曜日)    午後一時開会     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     会 長         林田悠紀夫君     理 事                 板垣  正君                 山本 一太君                 戸田 邦司君                 前川 忠夫君                 田  英夫君                 上田耕一郎君     委 員                 笠原 潤一君                 北岡 秀二君                 田村 公平君                 南野知惠子君                 馳   浩君                 林  芳正君                 岩瀬 良三君                 永野 茂門君                 広中和歌子君                 福本 潤一君                 水島  裕君                 川橋 幸子君                 角田 義一君                 大脇 雅子君                 笠井  亮君                 椎名 素夫君    事務局側        第一特別調査室        長        加藤 一宇君    参考人        政策研究大学院        大学教授     高木誠一郎君        慶應義塾大学教        授        小島 朋之君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「アジア太平洋地域の安定と日本役割」の  うち、中国情勢アジア太平洋地域の安定につ  いて)     ―――――――――――――
  2. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会テーマである「アジア太平洋地域の安定と日本役割」のうち、中国情勢アジア太平洋地域の安定について二名の参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、参考人として、政策研究大学院大学教授高木誠一郎君、また、後ほどお見えになられます慶應義塾大学教授小島朋之君に御出席をお願い申し上げております。  この際、高木参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多用中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、忌憚のない御意見を伺い、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、初めに高木参考人、次に小島参考人の順序でそれぞれ三十分程度意見をお伺いいたします。その後、途中十分程度の休憩を挟み午後五時ごろを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願い申し上げます。  なお、意見質疑及び答弁とも、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、まず高木参考人から御意見をお述べいただきたいと存じます。高木参考人
  3. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 会長、どうもありがとうございます。本日は、国政の重責を担っていらっしゃいます議員の先生方に私のつたない中国研究成果を紹介させていただく機会を与えていただきまして、大変光栄に存じております。  事務局の方かち私がいただきました具体的なテーマといたしましては、アジア太平洋地域安全保障中国関係米中関係中国政治安全保障問題と三点ございまして、この三つの問題を三十分でどのように話すか、実は私、大変悩みました。しかし、後に質疑応答の時間が大変長くとってあるということがわかりましたので、私の冒頭のお話はそのための導入ということでよろしいのではないかと思います。非常に無理ではありますが、この三つテーマそれぞれについて簡単に述べさせていただきたいと思います。  なお、事務局の方から昨晩、小島先生のレジュメをファクスで送っていただいたんですが、これを拝見しますと、小島先生はもっと焦点を絞って、一つの問題について突っ込んでお話しになるということですので、私の話は、国内政治の問題が一番最後に触れられておりますので、小島先生お話に対する導入という意味もあろうかと思います。前座としてお話をさせていただきます。  まず、アジア太平洋地域安全保障中国ということでございますが、この点につきましては、もう既にこの調査会でいろいろと議論していらっしゃることが資料を拝見してわかりましたので、ごく単純な表現でお話しさせていただきたいと思いますが、要するに問題はこの地域のさまざまな問題に中国が深くかかわっているということでございます。  アジア太平洋地域における安全保障の問題といたしましては、未解決領土領有権をめぐる問題、それからやはり未解決分裂国家の問題、また国内政治的な不安定性がもたらす地域への影響、さらには、今までは必ずしも安全保障の問題とはされてこなかったいわゆる非通常的な脅威の問題、具体的に申しますと国境を越えた大気汚染、あるいは海洋汚染の問題であるとか不法移民の問題でありますとか麻薬取引というような問題、それから最後に、この地域にかかわる大国すなわち米日中ロ、この四カ国の国内情勢の中にそれぞれ不安定要因があるというようなことが挙げられると思いますが、そのほとんどに中国が関与しているわけでございます。  あえて申し上げるまでもございませんが、領土の問題ということでは、中国は南シナ海の南沙群島領有をめぐって東南アジア諸国と対立しておりますし、尖閣列島領有をめぐっては我が国とも対立しておるわけであります。また、分裂国家の問題ということでは、これも特に申し上げるまでもございませんが、台湾の問題がございます。  また、非通常的な脅威ということでも、中国大気汚染日本に越境してやってくるとか、不法移民が来るとか、あるいは中国産の麻薬取引も国際的な問題になりつつあると思います。そして、さっきも申し上げましたように、中国国内不安定状況というのがこの地域にもたらす影響も非常に大きくなる可能性がございます。  このようなさまざまな問題に対しまして、この地域ではさまざまな安全保障措置がとられております。それは二国間のものもございますし多国間のものもございます。また、従来型の同盟関係、つまり危険を外に想定して、それに対して協力して対応しようというもの、あるいは危険を中に取り込んで、相互協力の推進によってその危険を軽減、除去していこうといういわゆる協力的安全保障のアプローチをとるものもございます。  また、この地域において推進されております安全保障措置の中には、政府間だけのものではなくて、いわゆるトラック2、第二軌道と言われております、民間政府関係者が個人の資格で参加して行われておるさまざまな安全保障フォーラムのようなものがございます。また、第三軌道といいますか、トラック3と言える純民間対話も非常に活発に行われております。このようなさまざまな安全保障措置のそれぞれに中国も深く関与しております。  時間の関係で簡単に申しますが、二国間の従来型の安全保障協力ということでは、例えば中国とミャンマーの関係を挙げることができましょうし、また、中国ロシア関係は従来型と協力型がまざったような感じであります。また、多国間の政府レベル安全保障協力ということでも、中国は御案内のようにASEAN地域フォーラムに参加しておりますし、ロシア及び中央アジア三カ国と信頼醸成措置あるいは国境地帯兵力削減等での合意を積み重ねております。  また、第二軌道では、アジア太平洋安全保障協力会議、CSCAPと言われるものがございますが、これに中国は昨年の十二月に参加しております。また、日米中三カ国のトラック3、第三軌道対話というものも盛んに行われておりまして、その一つには私も参加させていただいておりますし、別のものには小島先生が参加しているものがございます。  このようなことに見られますように、アジア太平洋地域安全保障は、問題の面でもそれからそれに対する対応の面でも中国存在というのは非常に重要でございます。特に中国のあり方が注目されますのは、多国間の安全保障協力に対する中国態度でございます。  事務局に配付していただきました私の論文で指摘させていただきましたように、中国多国間の安全保障協力、具体的に申しますと特にASEAN地域フォーラムでございますが、これに対する態度を微妙に変化させてきつつあります。すなわち、九〇年代の初めごろは、どちらかといえば受動的で状況対応的で、柔軟ではありましたけれども非常に消極的な態度をとっておりましたが、昨年あたりからかなり積極的なイニシアチブをとるような姿勢を示しつつあります。  例えば、ASEAN地域フォーラムには毎年七月に行われます会合の間にさまざまな問題に関する部会、彼らの言葉ではインターセクショナルミーティングズと申しておりますが、この信頼醸成措置に関する部会議長国に名乗り出まして、これはASEAN諸国とそれから非ASEAN諸国共同議長をやるということになっておりますが、ことしの三月、フィリピンと共同でこの部会北京で主宰したというようなことがございます。  このように中国姿勢を積極化させてきている要因としましては、一つには多国間の外交中国がだんだん習熟しつつあるということが挙げられます。国連人権委員会で毎年のように中国を非難する決議が提出されますが、これを中国は見事な外交でもって葬り去ることに成功しているわけでございまして、多分、そのような経験と自信の積み重ねが、この地域における安全保障問題でも多国間の協議の場に積極的に参加してくるようになった要因一つであろうと思います。  それからもう一つは、次に申し上げます日米安保体制の再評価、再確認動きに対する対応策であろうと思います。  御案内のように、中国は昨年四月の橋本首相クリントン大統領共同宣言に象徴されます日米安保の再評価に非常に消極的な、否定的な態度をとっておりまして、これに警戒感を抱いておるわけでございます。その警戒感の発露といいますかあるいはその対応策といたしまして、中国は、冷戦後の時代においては二国間同盟時代おくれである、これからは多国間安全保障協力時代であるというようなことをしきりに述べるようになってきております。そういうこともございまして、ASEAN地域フォーラムに積極的になってきたんだろうと思います。  ただ、中国積極性には一つの大きな限界がございます。それは、今までのお話でもおわかりのことと思いますが、どちらかというとやはり状況対応的な、受動的な面を脱していないということと、この多国間の安全保障協力というものは、集団が国家間の紛争に介入して平和裏解決に導くというようなことをするものではない、あくまで主権平等の原則内政不干渉原則を維持しながら追求する主として対話であるというふうにとらえているところであります。したがいまして、多国間の安全保障協力体制を徐々に強化して紛争解決の機能まで持たせるようにしようとする動きには、どちらかというと消極的であるということであります。  続きまして、日米安保体制の再確認に対する中国の反応を簡単に申し上げたいと思います。  この点につきまして中国は、現在巷間で言われていることと違いまして、当初はむしろ積極的、客観的な対応をしておりました。すなわち、日米共同宣言発表当時の中国共産党の機関紙である人民日報の報道を見てみますと、この共同宣言中国の建設的な役割が重要であるということが述べられているというようなことを言っておりますし、また、共同宣言を報じた記事の隣には橋本クリントン会談に関する報道として、橋本首相がこの会談中国WTO加盟を支持したというようなことを述べております。  しかし、昨年の四月末ごろから、多分これは日本における非常に批判的な報道影響が大きかったのではないかと思いますが、日米安保確認中国に対抗するものである、その宣言の中にも自由とか民主とか人権とか、それから地域不安定性だとか核兵器の保有等に触れたところがあって、これは直接は言っていないけれども中国を念頭に置いたものであるというような指摘がなされるようになってきております。  そして、その批判的な言論の中には、さらに詳しく検討してみますと、二点、非常に重要な内容が含まれております。  一つは、日本に対する非常に強い警戒感であります。日本に対する警戒感は、さらに細かく見てみますと、まず日本軍事力が、特に海上自衛隊航空自衛隊の能力が急速に向上しているということに注目しておりまして、日本は近い将来ハイテク通常化軍事大国になるであろうというような評価をしているものもございます。さらに、共同宣言でうたわれました戦域ミサイル防衛、TMDの研究、あるいはさらにはいずれ配備されるという可能性に対して非常に強い警戒感を抱いております。  また、この共同宣言を彼らが言うところの日本右傾化の一環としてとらえる議論もございます。すなわち、橋本首相が、八月十五日は避けたわけでありますが、靖国神社に参拝したことでありますとか、あるいは右翼の青年が尖閣列島に灯台を設置したというようなことと並べて日米安保確認を論じ、全体として日本右傾化しつつあるというような形で警戒感を表明しております。  もう一点重要な点は、中国から見ますと、日米安保確認あるいは日米安保体制の再評価というのは地域権力構造を大きく動揺させるものであるということであります。あるいは、その可能性を秘めたものであるということであります。  後に申しますが、中国は、アジア太平洋地域におきましては多極的な力の構造権力構造が成立しつつあり、それは中国にとって非常に望ましいという考え方をしておりますが、日米同盟が余りに強化されるということはこの力のバランスを崩す、多極構造を壊して米日共同でこの地域に対して覇権を行使するということになるのではないかという懸念でございます。  以上が第一点でございます。  続きまして第二点、米中関係について、これまた時間の関係でごくかいつまんで申し上げたいと思います。  まず、最近行われました江沢民訪米でございますが、江沢民訪米によって、双方、特に中国側が追求したことは、米中関係における天安門事件衝撃あるいはその後遺症を克服するということでございます。  皆様御記憶のことと思いますが、天安門事件は一九八九年六月四日未明、真夜中に起こったわけでありますが、当時、北京にはそのしばらく前に行われましたゴルバチョフの歴史的な訪中を取材するために非常に多数のテレビクルーがおりまして、彼らが天安門事件に至るまでの民主化要求運動に非常に興味を持って、これを詳細に報じておったわけであります。したがいまして、いわゆる天安門事件も彼らのカメラにとらえられて、アメリカに放映されたわけですが、現地並びに日本ではそれは真夜中の出来事でございましたけれども、時差の関係でこれがアメリカでは白昼堂々ということになるわけでありまして、アメリカ国民に非常に強烈な衝撃を与えたわけであります。それまでアメリカで成り立っておりました中国との友好関係を維持発展させていくという対中政策に関するコンセンサスが、これによってかなり大きなダメージを受けたわけであります。  さらに、それに続きまして、八九年の後半から冷戦体制が急速に崩壊してきたということもございまして、アメリカ国内では対中関係維持コンセンサスというのは非常に形成が難しくなってきておりますし、また、天安門事件に対する対応としてアメリカがとった制裁措置も依然として幾つかまだ残存しているものがございます。このようなことがどの程度克服できるかというのが今回の課題であったわけであります。  アメリカがとった制裁措置一つは、もう既にほとんど解除されておりますけれども、政府高官の直接交流の禁止ということがございます。これがひっかかっておりまして、江沢民は長らく国賓としてアメリカを訪問することができなかったわけでございます。あるいは、アメリカがそれを受け入れることができなかったわけでございます。したがいまして、今回の江沢民訪米につきましては象徴的な成果ということが特に中国側によって非常に重視されております。  江沢民クリントンは実は既に四回会っております。第一回目は一九九三年、シアトルでAPEC総会が開かれましたときにクリントン非公式首脳会談というのを行ったわけでありますが、江沢民も当然これに招待されて訪米したわけですが、中国側は米中の首脳会談をセットすることを条件に江沢民訪米合意したわけでありまして、そのときに会っております。その後も、APEC会議、それから一九九五年にはニューヨーク国連創設五十周年の特別総会が行われましたのを機会に会っておりますが、この一九九五年に江沢民訪米したときに、中国側ついでに、ついでにといいますか、足を延ばしてワシントンに行きまして国賓として訪米したいという希望を表明したわけでありますが、アメリカ側国賓待遇は与えられないということで、結局はニューヨークのホテルで会談するということになったわけであります。  このような経緯を経て、今回十二年ぶりに中国国家主席アメリカを訪問したわけであります。したがいまして、この訪問に関するさまざまな儀礼については、中国は非常に固執したようでございます。ハワイ到着の際には十九発の礼砲ワシントンでは二十一発の礼砲、それからホワイトハウスのディナーはテントの中ではいかぬというようなことで、国賓としての待遇に非常に固執いたしました。  そして、この米中首脳会談におきましては、米中関係正常化がほぼ達成されまして、両国間の建設的な戦略的協力関係を目指して今後とも努力するということがうたわれたわけであります。また、この訪米によりまして、米中双方首脳間の交流を定期化するということで、来年はクリントン大統領が訪中することになっております。  このような象徴的な成果がまあまあそれなりにあった一方、実質的な成果という面では実はそれほど目覚ましいものはございません。いわゆる目玉となるようなものはございません。しかし、地味ではあっても長期的に見るとかなり重要な意味を持つという成果もございます。  まず目玉となったことは、これは日本でも大きく報道されておりますが、一九八五年に締結されたまま実施に至っておらない米中間原子力協力協定実施双方合意しまして、アメリカ製原発機器中国に輸出される可能性が出てきたということであります。中国側はこれに対する見返りとして、アメリカが懸念しておりましたイランに向けた核技術提供を停止するとか、あるいはイラン向け兵器輸出を自粛するということに合意しております。  それから、先ほど申しました、地味ではありますけれども将来的にそれなりに重要な意味を持ってあろうと思われる成果といたしましては、両国間の交流チャンネルが非常に充実してきたと。これは政府閣僚レベルあるいは閣僚以下のレベルでの交流が緊密化し、特に軍の交流が制度化されつつあるということであります。  また、中国における法の支配の貫徹に向けてアメリカ協力するということがうたわれておりまして、さまざまな法律家の訓練でありますとかアドバイスということが行われるようになるようであります。  また、環境問題につきましてもアメリカが積極的に協力していくということがうたわれております。これは特に、三月にゴア副大統領が訪中したときの成果でありますが、中国におけるクリーンエネルギーの開発にアメリカが積極的に関与していくということでございます。  また、麻薬取引等犯罪防止についても米中間担当者交流を進めるということがうたわれております。  しかし、実質的な問題で十分な合意には至らなかった、いわば積み残しと言わざるを得ない課題がやはり幾つかございます。大きく分けて三つあると思います。  まず第一は、皆さんも御案内のことと思いますが、人権問題でございます。アメリカ中国人権状況に非常に深い関心を抱いておりまして、常に中国批判してきているわけであります。特に江沢民訪米に当たりましては、アメリカが懸念しております魏京生とか王丹という政治犯の釈放が行われるのではないかというような観測もありましたが、結局それは行われておりませんし、この面で天安門事件の陰が依然として払拭できていないことは、江沢民が訪問したアメリカ各地で非常に激しい中国非難のデモが行われたということにも明らかであると思います。  また、第二の問題は中国WTO加盟の問題でございまして、これにつきましては米中双方が基本的には合意したということを再確認しておりますが、アメリカは依然として最終的なゴーサインを出しておりませんし、中国アメリカが期待するような市場開放措置にコミットするには至りませんでした。  それから、第三の問題は台湾問題でございまして、これにつきましては、中国側としてはアメリカ台湾国連加盟であるとか独立に対する不支持を明確に表明した第四のコミュニケを作成するということを期待しておったようでありますが、結局はアメリカはこれに応じませんでした。そして、米中首脳会談ではアメリカ一つ中国原則を堅持するということを述べたにとどまったわけであります。  これらのことが示しておりますように、米中関係相互に深刻な相違を抱えつつも、お互い相手が無視できない存在になりつつあるということを認めて、お互いのコミュニケーションをよくし、関係を維持していこうという、決して緊密ではないけれどもそれなりに維持されている関係というのが現在の米中関係の段階であると思います。  このような状況をもたらしたものとしてお互い相手に対する評価ということがあると思いますが、それについてこれまた時間の関係でごく単純に申し上げたいと思います。  まず第一に中国でございますが、中国は、冷戦体制が崩壊していくという状況に直面しまして、当初は世界の権力構造が多極化していくというふうに見ておったわけであります。しかし、湾岸戦争アメリカが大規模な派兵と交戦が可能な唯一の超大国であるということがいや応なく認識されたということがありまして、以後、国際的な力の構造は一超多強であると。つまり、一つの超大国と多くの強国あるいは数個の強国があるという状況であるというふうにとらえるようになっておりまして、唯一の超大国となったアメリカと決定的に対決することは利益にかなわないという状況判断を抱くに至っております。これにつきましては、国内には、むしろ現状は多極化の傾向が加速されつつあるということで論争がございますが、現状はこの一超多強論がどちらかといえば優勢ではないかと思われます。  他方、アメリカの方ですが、アメリカ中国に対して建設的関与でありますとか相互全面的関与というような政策をとっておりますが、これは実は一九八〇年代初めのアメリカ南アフリカに対する政策が起源であると私は思います。当時、レーガン政権は、カーター政権南アフリカにおける人権侵害を厳しく、しかも公に批判するような政策をとっておりましたことに対して、それは有効ではないということで批判いたしまして、南アフリカのような国とは非公開の外交チャンネルを通じてじっくりと批判を展開し、関係を維持しながら改善をもたらすというのが正しいやり方ではないかというようなことを主張したわけであります。  そのような政策の前提にありましたのは、公開の批判とか制裁措置のようなものだけで相手は変わらないという認識であります。この認識が天安門事件以降のブッシュ政権にも引き継がれていたのではないかと思いますが、中国に対してやはり同じような判断をして、ブッシュ政権時代から積極的関与ということを、それほど喧伝はされておりませんでしたけれども行っておりました。そして、クリントン政権になりまして、当初、クリントンはブッシュ政権の対中政策批判して、もっと人権問題について中国に厳しい態度をとるべきだということを主張しておったわけでありますが、結局一九九三年夏に米中関係が非常にぎくしゃくした中でその政策を再検討して、その中から全面的関与という政策が再び浮上したわけでございます。この政策は、御承知のように、一九九五年の李登輝の訪米でありますとか九六年における台湾海峡への航空母艦の派遣というようなことによって何度か揺らぎますけれども、結局はそこに落ちついて、この全面的関与政策のいわば仕上げというものが江沢民訪米であったというふうに思われます。  続きまして、第三の地域安全保障問題と中国国内政治のことでございますが、これにつきましては小島先生が詳しく御報告を準備していらっしゃいますので、二、三点ごく簡単に申し上げたいと思います。  まず第一点は、地域安全保障ということから考えたときに、中国国内政治における最大の目標として経済発展という目標を掲げていることは非常に大きな意味を持っているということでございます。つまり、経済発展の強調、特にそれが対外開放政策とセットになって追求されているということは、中国をこの地域における安定勢力にしているということでございます。  ただ、他方、経済発展を強調するということは、社会主義イデオロギーが衰退していく中で、それにかわるイデオロギーとして、いわば精神的支柱としてナショナリズムを強調するようになったということと相まっておりますが、それはこの地域安全保障問題にとりましては必ずしも望ましい結果をもたらすとは限りません。特に、台湾問題におけるかたくなな態度ですとか、大国関係における非常に強い自己主張というようなものがありますので、経済発展がある程度成果を上げつつある現在、ナショナリズムとそれが一体となったときに中国がどのような行動をしていくかということは、今後のこの地域安全保障に非常に重要な意味を持っているだろうと思います。  また、経済発展の帰結ということから申しますと、現在は経済発展が政治的な安定を保障するというふうに考えて国内的にはそれを追求しておるわけでございますが、必ずしもそうとも言えないこともあるということでございます。すなわち、経済発展に伴う格差の拡大でありますとか腐敗の進行ということ、それから、最後に社会的動員と書きました。この言葉はもしかしたら余りおなじみではないかと思いますが、要するに国民の意識が開かれて、新しい物の考え方がどんどん入ってきているということでございます。  このような状況が経済発展によってつくられてきているということは、経済発展が一本調子で右肩上がりにばかり進むものでないということを考えますと、中国経済が下降局面に入ったときに大きな不安定をもたらす要因となるだろうというふうに私は考えております。  ちょっと抽象的な話になりましたけれども、具体的な突っ込んだお話小島先生にしていただけると思います。時間を多少超過いたしましたが、以上で私の冒頭の発言を終わらせていただきます。  どうもありがとうございました。
  4. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 高木先生、ありがとうございました。  この際、小島参考人に一言ごあいさつ申し上げます。  参考人におかれましては、御多用中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、忌憚のない御意見を伺い、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  それでは、小島参考人に御意見をお述べ願いたいと存じます。小島参考人
  5. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 小島でございます。  若干おくれまして申しわけございません。ただいまから三十分ほど私の意見を申し述べさせていただきます。今、高木先生の方から、最後中国国内状況については小島が説明するというふうにあったわけでありますが、うまく説明できるか若干心配でありますが、試みてみたいと思います。  きょうの私の話は、中国政治現状と今後ということで、中国について少し私の見解を説明させていただきたいと思います。  中国を見る際、私はいつも学生たちに申すのでありますが、イエス・オア・ノーでない、イエス・アンド・ノーである、こういうふうにいつも言います。つまり、中国脅威であるか、中国脅威でないか、こういう設問をされると私は非常に困るわけであります。つまり、脅威でもあるし脅威でもない、そのどちらも持つのが中国であり、そのどちらに対しても対応策を講じるのが周辺地域である、そういうふうに考えているからであります。したがいまして、私がこれからお話しさせていただく中国政治についても、基本的にはどちらの方向に収れんしていくのかということをできるだけ説明できるように努力いたしたいと思いますが、どちらにも収れんできないのがまた中国である、そういうふうなお話にもなるかと思います。  そこで、まず最近の中国政治を中心とした中国情勢の特徴はどのあたりにあるのか、こういうことをお話しするとすれば、やはり十五回党大会を中心に中国情勢というのを語らなければならないだろうと思います。御案内のとおり、中国共産党の第十五回党大会というのが九月十二日から十八日まで開かれました。そして、その翌日に、そこで選ばれました中央委員会が第一回目の全体会議を開きます。これを合わせて十五全大会、一中全会と、こういうふうに中国では言います。この十五全大会、一中全会を中心にしながら、最近の中国情勢というのを少し見てまいりたいと思います。  なぜ十五回党大会なのか、十五全大会なのか。それは、その次に書きましたとおり、中国の発展の歴史にとってこれが極めて重要であるというふうに中国自身によって認識され、そしてまた私自身もそう考えているからであります。  この一月一日、中国共産党の機関紙である人民日報は社説を掲げて、ことし一九九七年は極めて重要な年になるであろう、こういうふうに言いました。その理由として、二つの大きな出来事、二つの大事、両個大事というのが起こるからである、こういうふうに理由づけいたしました。第一番目の大事、大きな出来事というのは、人民日報によれば、七月一日の香港の祖国への復帰、香港返還ということであります。そして、第二番目がまさにこの十五回党大会であるということであります。  実は、中国にとってことしが極めて重要な年であるといったとき、もう一つ大きな大事が起こったことは皆様御案内のとおりであろうかと思います。二月十九日、中国の改革・開放を推進してきた総設計士、ゼネラルプランナー、こういうふうに言われてきた鄧小平さんが亡くなったということであります。言ってみれば、三つの大事というのがあったからこそことしは極めて重要な年である、こういうふうに言ったんだろうと思います。そして、その総仕上げになるのがこの十五回党大会であったということであります。  この十五回党大会においては二つの大きなことが決められました。第一番目は、これから五年間にわたる中国国家としての基本方針が設定されたということ、あるいはされなければならなかったということであります。それをここでは世紀の変わり目の戦略的配置の提示と、こういうふうに書きました。これは、今回の十五回党大会で江沢民党総書記が行った政治報告の中で使われている言葉であります。二十世紀から二十一世紀への変わり目のこれからの五年間、二〇〇二年までの中国国家の方針、つまり戦略的な配置を今回行ったということであります。二つ目は、その戦略的な配置を具体的に実践、推進していく新しいリーダーシップをつくる、こういうことであります。この二つが今回の党大会の重要な任務であったと言ってよかろうかと思います。  そして私は、この二つの任務というのはこれからの中国を考えていく上で極めて重要な意味を持つというふうに考えています。それがどのような内容であるのか、それ次第でこれからの中国というのがある意味で見えてくる、そういうふうに考えております。  なぜそう考えるのか。その次に書きましたとおり、私は、現在の中国はある意味時代的な転換といった状況に入っていると思っているからであります。では、その時代的な転換とは具体的にどんな中身なのか。二十世紀から二十一世紀に変わるからと、そんなことを言っているのではありません。内容を象徴的な言い方でまとめれば、まさに今は鄧小平時代が終わり新しい時代が始まる、そういった時代的な転換点にあるからだというふうに思っております。  それでは、鄧小平時代の終わりとは何なのか。その具体的な指標とは何かといえば、それは基本方針という観点からいけば、改革・開放のいわばある種の終わりということをそれが意味している。もちろん、鄧小平さんが亡くなることによってこれまでの中国政治のあり方、指導のあり方がまた変わったという意味もありますが、何よりも改革・開放がある種時代的な使命を終わったということがその中身なのではないかというふうに思っております。  一体全体それはどういうことなんだということが問題になってまいりますが、これこそ時間が三十分と限られておりますのでまた後ほど詳しく説明させていただくとして、その説明にかえてこう申し上げておきたいと思います。  一九七八年から改革・開放は始まりました。つまり、二十年近く過ぎました、二十年もやれば疲れるでしょうと、こういうことであります。中国においては、一九四九年の建国から五十年近くたちましたけれども、十年以上続いた政策というのはこれまでありません。あの文革でさえも十年で一応終わったわけであります。改革・開放は二十年近く続いた、もうそれだけでも十分であろうということであります。  こういったある種改革・開放に対する疲れ、うみ、それはまさにそういった感情として表現されております。それが次に書きました改革疲倦、こういった表現であります。こういう言い方はこの一年ぐらい前からしばしば中国の中に登場してまいります。改革に疲れた、改革に飽きた、こういうことであります。これはもう日本でも同様のことがもっと短いタームで起こっているわけでありますので、御理解いただけるところだろうと思います。  あるいは、改革は今山場に来ている、改革はある意味でかぎとなる、そういった難関段階に入ってきている、こういう言い方をいたします。なぜそうなのか。改革に疲れた、うんだ、改革が難関段階に入ってきている、こういった言い方が示している、示唆している意味というのは、もう少しやわらかな表現で言えば、改革・開放あるいは時代が問う問題の質が変わってきているということであります。量的な変化でなく質的な変化が今問われているということだろうと思います。  もう少しそれを詰めて言えば、これまでの改革.開放の主たる課題は社会的生産力の拡大、つまり生産をふやす、産めよふやせよ、これでいい、こういうことでありました。しかしながら、この二十年間の産めよふやせよの結果として、次の今からの段階は、まさにふえたパイをどう分配するのか、いわば社会的利害調整あるいは分配調整の問題が問われてきている、こういうことであろうかと思います。  ただ、一言注をつけておきますと、社会的生産力の拡大はもうしなくてもいいと、そういうことを私は言っているわけではありません。もちろん、今回の党大会報告でも、二〇〇〇年、二〇一〇年、二〇二〇年、二〇五〇年、こういった生産力の拡大のプログラムというのは当然出てきているわけであります。  ちなみに、二〇〇〇年というのは一人当たりGDPでいけば八百ドルから一千ドル、二〇一〇年はその倍増、つまりパーキャピタル二千ドル、二〇二〇年には比較的豊かな段階、そして二〇五〇年には、これは数字は出ておりませんがこれまでの資料でいけば、一人当たりGDP四千ドルから五千ドルといった一昔前のASEANあるいはNIESの一人当たりの豊かさというのが目指されております。  ただし、その力点はやはり利益の分配調整、ここに来ているということだろうと思います。その意味で改革というのは質的に変わる段階に来ている、こういうことであろうかと思います。こういう時代的な転換というのが鄧小平時代の終わりと新しい時代の到来、こういうことなのではないかと思っております。  問題は、この党大会はそうした時代的な転換にこたえるといった方針、戦略的な配置とリーダーシップを形成する必要があるということであります。それができたのかどうなのか。そのできたかどうかということを考える一つの手がかりは、江沢民さんを中心とした現在のリーダーシップがこの時代的な転換の重要性、緊迫性、これを一体全体認識しているかどうかということであろうかと思います。答えは、江沢民総書記を初めとした現政権はほぼそういった時代的転換の必要性を認識している、こういうふうに私は考えています。  それを示しているのは、一九九五年九月の第十四期第五回中央委員会全体会議、これをつづめて五中全会と言いますが、五中全会の閉幕の日に行った江沢民さんの演説がそれを象徴的に示していると思っています。その演説は後に十二大関係論という形で公表されてまいります。これは、御案内のとおり、一九五六年にも沢東が行った十大関係論をもじったものであり、ある種の江沢民のも沢東化、ある種の権威化というのと一体化されているものであります。  この十二大関係論の中で江沢民さんは、改革・開放の結果、さまざまな新しい問題、新しい困難、新しい矛盾が生まれてきた、こういうふうに言います。この新しい問題、新しい困難、新しい矛盾に取り組むためにはもちろん改革・開放という従来型の措置を参照しなければならないが、しかしもっと重要なことは、新しい時代の中で新しい措置、新しい方法、新しい経験を模索しなければならないことである、こういうふうに言っております。こういった表現の中で、従来型の改革・開放ではとてもやっていけない、こういう認識が江沢民さんの中にもあるということがまさに示されているのだろうと思います。  問題は、それでは一体全体どういった状況が新しい困難、新しい問題、新しい矛盾なのかということであります。私はその性質から大きく二つの種類にそれは分けてみることができるだろうと思っています。  第一番目は、二十年の改革・開放がさまざまな問題を解決してきたが、しかし解決できない問題がまだ依然としてある、これが第一であります。具体的にどういう問題か。従来型の改革・開放が解決し得なかった最大の問題は、そして今回の十五回党大会で触れているのは、国有企業であります。つまり、国有企業の改革であります。国有企業がなぜ大変な問題なのかというのは、これももう今さら申すまでもないだろうと思いますが、二つもしくは三つの点でこれからの中国にとって極めて重要な問題であります。  依然として中国が社会主義制度の国であるとすれば、まさに経済面においてこの国有企業というのが社会主義経済制度を代表している、これが第一点であります。  第二点は、現実の中国の経済の中でも国有企業が大きな役割を果たしているということであります。工業生産全体の中で国有企業の占める割合は一九八〇年代初めの七、八〇%から現在では四〇%を大きく割り込んではいますが、国家財政収入の中では依然として六〇%を占めている。なかなか取れない税金あるいは利益を確実に入れてくれるのが国有企業である、こういうことであります。  しかし、三つ目に、その国有企業の多くが中国経済の足を引っ張っている。国有企業の赤字が膨大であるというのは皆様よく御存じのとおりであり、それが国家財政を赤字に導いてきているというのも御存じのところであろうと思います。  この国有企業改革が現在の段階ではまだほとんどできない、こういうことであります。これが第一の種類の問題であります。  第二の種類の問題は、改革・開放はさまざまな成果を上げてきたけれども成果とともにさまざまな新しい問題を生んできた、まさに成果がもたらしてきた新しい問題というものであります。具体的にはどういうものか。これもさまざまありますが、最も象徴的なのは格差のいや増す拡大ということであります。これも今さら申すまでもなかろうと思います。  つまり、こういった新旧の問題を解決していく、そういう段階に今来ているということであります。そして、そうした問題を解決していくために、二十年間の改革・開放の結果生まれてきた新しい状況に見合う政治のいわばシステムの問題、こういった問題もまた問われていかなければいけない。その意味中国は今大変な段階に来ていると私は思っております。  それでは、最近の中国政治状況と今後というのを十五回党大会を通じて見ていくとすれば、一体全体こういった問題を十五回党大会はどう解決したのか解決しなかったのか、どの程度やったのか、こういうことが問題になってこようかと思います。  その評価の仕方というのが、その次に書きました「十五全大会評価をめぐる二つの解釈」ということであり、その次に出てきました「大会直後の情報」というのを大会から二カ月足らずの中国情勢から見ていくと、どうも第一番目の方の解釈の方が今のところいいのかな、こういうことが次に説明されているということであります。  しかしながら、残った時間はあと十分足らずでありますので、これを全部説明することはとてもできません。私は今から簡単に私自身の考え方というのを述べさせていただきますが、以下のレジュメはそれの参考にしていただければと思っております。  結論は、そういった新しい問題や困難にこたえられる戦略的な方針、戦略的な配置はなかなか打ち出されなかったのではないかということであります。なぜ打ち出されなかったのか。それは、江沢民総書記にとって焦眉の問題はまずはリーダーシップを固めるというところにあったからだろう。もっとそれを詰めて言ってしまえば、喬石さんに何とか退いていただく、ここのところにどうも絞り込まれたからなのではないか。それが理由となって人事最優先で、今申し上げたような新旧の問題にこたえるような戦略的な配置は示されなかったのではないかということであります。  それは、この十月末の日中国正常化二十五周年記念で多くの国会議員の方々をひっくるめて記念のレセプションに北京で参加されたと思いますが、そのときに江沢民さんが述べた言葉に象徴的にあらわれているのではないかと思います。川は残ったけれども石は落ちた、こう話ったと。私は正確な表現は知りませんが、これは香港でよく言われていた言葉であります。川は流れて石を流した、水は落ちて石が残る、こういうふうな言い方をいたしましたが、それを恐らく江沢民さんは念頭に置いて使ったんでしょう。香港ではそうだったかもしれないけれども私は残った、石は流れた、喬石さんは落ちたと、こういうふうに言っているわけであります。  もう一つ、これを象徴しているのが、まさに竹下元総理と会見したときに、江沢民総書記が七十一歳というところで極めてこそくな何とも言えない年齢計算方法を新たにつくって、そして七十一歳以上において江沢民さんと元党主席の華国鋒さんのみが中央委員に残った、こういうところにあらわれるのだろうと思います。  党大会で打ち出された戦略的な配置がなぜ私が今申し上げましたような新旧の問題にこたえていないのかというと、それは今回の党大会の中で打ち出された戦略的配置の核心部分にそれが見られるからであります。核心部分とは何かと一言で言えば、それは鄧小平理論の偉大な旗を高く掲げて、動揺しないということであります。つまり、鄧小平理論の継承ということであります。私はそれ自体が悪いというふうに言っているわけではありませんが、先ほど申し上げたとおり、今後の課題解決は従来型の改革・開放ではとてもやっていけないということであります。従来型の改革・開放ではとてもやっていけないとすれば、従来型の改革・開放を推進してきた鄧小平理論でどうやっていけるのと、こういうことであります。  もちろん、鄧小平さん自身は一九七八年以降、毛沢東流の課題解決の方法を否定して、改革・開放という方向を本格的に打ち出してまいりました。その際に鄧小平さんが行ったやり方は、毛沢東思想を継承し、毛沢東思想を発展する、こういう言い方でありました。中国語で発展とは修正、否定ということでありますから、そういうことは可能であります。  しかしながら、それには前提条件があります。強力なリーダーシップのもとで、鄧小平理論の解釈権を独占するということが必要になってまいります。それができるか、ここのところが今回の党大会でも問われているということであろうかと思います。  リーダーシップという観点から見れば、かなりのところまで江沢民さんの権力基盤が今回の党大会を通じて固まってきたことは間違いありません。しかしながら、その権力基盤というのが五年を超えてさらに江沢民さんのリーダーシップを可能ならしめているかというと、私にはとてもそうは思えないということであります。こういうことをまとめてまいりますと、戦略的な配置という観点では、新しい時代にふさわしい方針はなお打ち出されないままであるということ、リーダーシップということでいけば、かなりのところまで権力基盤は固めたけれども依然としてなお不安定な要因は残るということであります。  例えば喬石さんの問題について言えば、確かに党の中枢ポストからは外すことができた、しかしながら依然として、全国人民代表者大会の常務委員会委員長のポストは来年三月まで続くわけであります。そして、ここ二カ月の動きを見てまいりますと、なかなかしぶとく頑張っているということであります。  各単位の党組においては、この十五回党大会の江沢民報告に対する学習というのが繰り返し行われ、江沢民同志を核心とした中央指導集団に対する忠誠表明が行われておりますが、全人代常務委員会についてはなかなかそれが出てこない。こういうところにもある種のぎくしゃくさというのが見られるのではないかと思っております。こういった状況ですから、ある意味で、現在の中国が鄧小平さんの逝去前後から極めて顕著になってきた安定最優先の方針を貫くのも、これは理解できるところであろうかと思います。  先ほど高木先生の方からも極めて簡潔に御説明があった江沢民訪米、これもやはりそういった内政安定最優先の方針の一環であろうというふうにも見ることができるのではないかと思います。  これは確認できませんが、党内ナンバーフォーの胡錦涛、これは中央書記処の書記として党の日常業務を取り仕切る最高指導者の一人でありますが、江沢民訪米はことし第三の大事であるというふうに言ったとも言われておりますが、それほど江沢民さんはアメリカ訪問というのを重視していた。あらかじめ成功が約束されていたというふうに言ってもいいほど十五回党大会以降の中国報道というのはこの江沢民訪米に集中していた、大キャンペーンが張られていたというふうにも言えるのではないかと思います。そうしなければならないほど、そうしなければならないとは、米中関係の安定的な発展ということをうたいとげなければならないほど、いわば国内における安定最優先の状況がなおあるということであろうかと思います。  ただし、これで米中関係が安定的な発展の軌道に乗るのかというと、私は必ずしも簡単にはそうはならないというふうに思っております。  一方において、確かに、二十一世紀に向けた建設的な戦略的パートナーシップ関係の確立というのが今回うたわれました。しかし、その表現は中ロ関係においてもそのまま当てはまるということであり、日中関係においても江沢民さんは、戦略的高みに立ってということで戦略的という関係を日中関係にも当てはめているわけでありますから、それでもって安定的な関係とは簡単には言えないということであります。何よりも、米中関係においても日中関係においても、一九九五年前半以降、関係を最悪化していった問題は何一つ解決されていないからであります。  その意味で現在の中国は、内政の安定を最優先しながら、この五年間のうちに新しい時代対応した新しい質的ないわば戦略的な配置というものを模索していく、そういう状況に入ってくるであろう。その意味では、外に対してはある種の安定優先の状況、その安定優先を具体化する全方位協調外交というのが当分は続くのではないかというふうに思っております。  ちょうど時間になりました。私の最初の話はここで終わりたいと思います。
  6. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 小島先生、ありがとうございました。  以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。   これより質疑を行います。  質疑に入る前に、出席者各位にお願いがございます。本日も多くの委員が発言を希望されると思いますので、前回お守りいただいたのと同様、発言時間を一人一回五分以内に制限したいと存じます。なお、希望者の発言の一巡後は再び質疑をすることを認めますので、御協力を何とぞよろしくお願い申し上げます。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  7. 山本一太

    ○山本一太君 両先生から大変興味深い、おもしろいお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。いっぱい御質問したいことがあるんですが、五分以内ということですから、各先生に一問ずつだけ簡潔に御質問させていただきたいと思います。  米中のことなんですけれども、やはり先生もおっしゃっていたように、米中関係というのはアジア太平洋の安全保障にとっても、あるいは日本のアジア太平洋における外交にとっても非常に大切なポイントだと思いまして、私も今回の江沢民訪米というのを期待とある種の不安を持って見ていたわけです。  高木先生の方から象徴的な成果しかなかったというお話もあったんですが、私が印象として持つたのは、アメリカの持っている中国人権問題に対するアレルギー、これがやはりこのぐらい強いのかということを感じました。ハーバードでの例の発言、中国も時々間違うと。あれは大急ぎで何か中国の外務省が直した。きのうのニューヨーク・タイムズの社説を見ていましたら、晩さん会で江沢民天安門事件はリンカーンの奴隷解放みたいなものだと、何もわかっていないという強い論説なんかもたしかあったんですが、米中関係のこれから新しい段階を模索していく中で、どうやって中国側がこの人権問題についてアメリカとかかわっていくのか、どういう形で解決を目指していくのかということをまず高木先生にお聞きしたいと思います。  小島先生に一問お聞きしたいことは、中国が新しい自信を深める中で、先生の御論文にも書いてあったんですが威信大国としてどうも愛国主義の葛藤が一つサインとして見える、まあ必ずしも威信大国の道を進んでいるというわけではないけれどもというお話がありました。  私、若手議員と一緒にアジアにこの間行ってきまして、若手のいわばリーダーにずっと会ってきました。シンガポールのリー・シェンロンだけは別だったんですが、ほかの方々は意外と日本に対して罪の意識を求めるようなことはなくて、むしろ、もうちょっと新しい関係をつくりましょうと。我々の世代は、過去の問題は過去の問題として、そうじゃなくて新しい未来に生きましょうということが意外なくらい多かったんです。  最近、自民党も、ほかの党もそうかもしれないんですが、新しいいろんな動きがありまして、いわば日本におけるニューナショナリズムの勃興みたいな兆候が見られるわけなんです。私、今研究しているのは、ナショナリズムということは決して悪いことじゃない、しかしながら、アメリカのソフトパワーじゃないんですが、右と左があったら真ん中かそこら辺に、私がつくった言葉なんですけれどもソフトナショナリズムという領域が多分あるんじゃないか。すなわち、ナショナリズムは決して国際関係を損なわない、むしろアジアとの関係を建設的にしていく力になり得るソフトナショナリズム的なアプローチというものがないかというのを今考えているんです。  小島先生にお聞きしたいのは、これから中国が、先生のおっしゃる言葉をかりれば戦略的配置ですか、何かストラテジック何かのブレークスルーを図っていく上でこの中国の新しいナショナリズムというものが具体的にはどういう形で外交にあらわれていくのかということをお聞きしたい。  その一問ずつ、お答えいただければと思います。
  8. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 非常に重要な問題を提起していただいたと思っております。  御指摘のように、人権問題というのは米中関係において最も難しい問題の一つであります。もちろん、これだけではございません、台湾問題も非常に難しい問題でございます。  アメリカは、天安門事件以降、九〇年以降一九九四年までは、中国に対する最恵国待遇更新が国内法によって一年ごとにしかできないということがあるために、そのたびに人権状況改善の条件をつけるべきかどうかということで非常に激しい論争を国内的に展開してきたわけであります。ブッシュ政権におきましては、結局、無条件更新ということを政権側主導で行ってきたわけですが、これに対して民主党の優位であった議会は非常に激しく反発しておりまして、クリントン氏も一九九二年の大統領選挙におきましてはこの点を非常に激しく攻撃して、条件づけをすべきだということさえ言っておったわけであります。  しかし、一九九三年に実際にクリントン政権が発足してみますと、クリントン政権はアメリカ経済の再生ということを至上命題にして発足して、その一環として輸出振興を強調せざるを得なかったために、天安門事件以降、一時成長が鈍化しておりました中国が再び九二年以降急速に成長していくという状況の中で、中国市場というものが無視できないということもありまして、ここでジレンマに陥ったわけです。このジレンマに対する対応としては、九三年は無条件で最恵国待遇を延長するけれども九四年の更新には条件をつける、そういう決定であったわけです。そして、九四年までに何とか中国から国内向けに説明のできるような人権状況の改善をかち取ろうとしたわけですが、中国側は一切これに応じなかったわけです。結局、アメリカ側がこれに折れる形で、九四年以降、最恵国待遇の更新の問題と人権状況の改善をリンクするやり方はもう有効性を失ったということで、九四年の更新を無条件にしただけではなく、以後この二つは結びつけないという決定を行ったわけです。  これによってアメリカ中国に対する人権状況改善の要求は大幅に弱まって、以後、人権よりも経済中心の対中関係の運営が行われるという指摘も当時かなりありましたが、私は当時から、これは自分にとって余りにもマイナスの多いやり方で、人権状況の改善を追求するというその方法論上の転換であって、人権状況に対する関心が下がることはないだろうと見ておりました。御指摘のように、江沢民訪米でもまさにそのことが示されておりまして、共同記者会見で両首脳はこの問題に関してだけ激しく言葉を交わしたわけです。  中国がこの問題をどう解決していくかということですが、今の共産党の一党支配体制を維持しながらこの問題を根本的に解決するということは非常に難しいだろうと思います。今、地方で、村レベルで選挙が行われておりまして徐々に民主化が進むような兆候も見えておりますが、これが果たしてどこまで行くのか。あるいは、その過程が非常にスムーズに、いわばソフトランディングの形で共産党一党支配体制が解体されていくのかというと、これは非常に難しい問題で、少なくとも中国としては意識的、主体的にこの問題を解決する手はないのではないかと思います。  しかし、小島先生も御指摘のように、何とか対米関係は維持せざるを得ない。ここでは中国側にジレンマがあると思います。中国としては、できるだけ目先のびほう策でしのげる段階はそれで何とか乗り切っていく、時々政治犯を釈放してみたり国際機関の刑務所への訪問を認めるというような形、あるいはアメリカ人権問題に対する対話を進めるということで何とかこれに対応していこうということだと思いますが、果たしてそれが十分な解決であるかというと、私は非常に疑問であります。
  9. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 山本先生の方から、中国の新しいナショナリズムがどういう形をとるのか、こういう御質問があったと思いますが、幾つかのことをちょっと申し上げてみたいと思います。  まず最初のところで、山本先生の方から、東南アジアの若い同世代の指導者たちといろいろ話をしてみると、日本の戦争を中心とした過去に対する姿勢というのがどうも違うみたいだ、リー・シェンロン以外はと、こういうふうにおっしゃいましたが、これはまさに象徴的だろうと思うんですね。  どういうことかといいますと、我々は過去の日本のアジアとのかかわりについて、歴史問題について非常に厳しい批判を浴びている、こういうふうに理解されがちですけれども、東アジアというのを少しく分けて考えてみなければいけないだろうということがまず第一ですね。つまり、東アジアと言ったとき、東北アジアと東南アジアとではその受けとめ方が随分やはり違うんだろうということを我々は知っておく必要があるだろうと思いますね。それを最も象徴的に示しているのは、一九九五年、当時の村山首相がマレーシアに行ったときにマハティール首相から言われた言葉だろうと思います。  もう一点は、これに関して言えば東南アジアにおいてもやはり厳しい過去を問う対日批判というのがあるのもそのとおりでありますが、子細に見ていくと、どうもそういう東南アジアから出てくる批判というのは押しなべて華人系から出てきているということですね。こういう点はなかなか言いにくいところでありますが、我々はわきまえておいていいのだろうと思います。  つまり、中国の新しいナショナリズムというふうに言ったときに今申し上げたような意味も含まれているということでありまして、中国のナショナリズムと言ったとき、それは中華のナショナリズムのことを言っているのと中華人民共和国のナショナリズムのことを言っているのと、これによってやっぱり随分その持つ意味というのが違ってくるだろうと思いますね。つまり、ネーションステートとしてのナショナリズムなのか、あるいはチャイニーズエンパイアとしてのナショナリズムなのか、このあたりがどうも分けられずにナショナリズムというのが議論されているし、それから中国自身がまたそのあたりのところを峻別してこの言葉を使っていない、こういう問題があるだろうと思います。  それを前提にして、中国のナショナリズムというのが最近になってかなり脚光を浴びてきている。その理由はなぜなのかというと、私は、それがある意味中国という国家国民の統合の機能を非常に大きく持たされてきているからということが第一に挙げられるだろうと思います。第二は、現在の政権の正統性、これについてもやはりナショナリズムに依拠する部分が大きくなってきている。これが二つ重なってきているところから中国におけるナショナリズムというのがしきりに言われ、そしてまたそれが注目されているところだろうと思います。  つまりは、これまでのような社会主義イデオロギー、毛沢東思想に象徴されるような社会主義イデオロギー、そしてその社会主義イデオロギーの背景にある中国近代史の中での悲願である民族の解放、独立を達成したという過去の実績、これがやはり機能としては摩滅してきているということが一つ指摘されなければいけない。  二つ目には、摩滅してきたその中で、新たに国家国民統合と政権の正統性を確保していく手段としてかなり有効に働いてきた経済発展、それによってもたらされてきた国民生活の向上というのが、単純にそのままの形で政権の正統性、国家国民統合のいわば機能というのを果たし得なくなってきている。つまり、先ほど申し上げたような、隣の人がこんなに豊かなのに何で自分はそうでないのかといったいわば豊かさゆえの格差の拡大といったもの、経済発展が一つにはこういった機能を失わさせてきている。  それと同時に、また経済発展それ自体にも私はかなり今陰りが出てきているというふうに思っています。マクロ経済においてはなかなかすばらしい数字が挙げられているけれども、しかしながらミクロ経済を見ていくとかなり惨たんたる状況が今生まれてきていると思っています。  このレジュメの中にも書きましたように、郷鎮レベル以上の企業の工業製品は昨年末で在庫が一兆元を超えると。つまり、GDPが六兆四千億元程度のところで一兆元を超えると。いや、それ以上に、今度は郷鎮以下もひっくるめた商品について見ればこれは在庫が三兆元を超える、つまりGDPの半分近くが在庫だと。物をつくっても売れない、こういう状況であります。  つまり、経済発展が国家国民統合、政権正統性の機能を果たし得なくなるかもしれないという状況があるわけで、その意味で頼るのはナショナリズム、愛国主義だということになるのだろうと思います。ただし、愛国主義だけをこれから中国の現在の政権が強調できるか、頼っていけるかと。私はこれはかなり危ういというふうに思いますし、また政権も考えているのではないかと思います。  先ほど私は、ナショナリズムと言ったときに中華のナショナリズムと中国のナショナリズムというのがあると申し上げましたが、ついでに言えば、チベットのナショナリズムもあればウイグル族のナショナリズムもある、台湾のナショナリズムもあるということであります。ナショナリズムの強調はサブナショナリズムを刺激しかねないということであり、そう簡単に新しいナショナリズムと言うわけにはどうも中国としてもなかなかいかないだろうと。そして、それはかなり繊細な使い分けが必要になってくるのであろうと思っております。  私が反応する必要はないのだろうと思いますが、米中関係における人権問題について一言だけ申し述べさせていただくとすると、日本中国人権問題を言っても中国は何の麻痺も感じない、しかしアメリカが言い募ることに対して中国は反応せざるを得ない。それほど中国にとってアメリカとの関係は大きい。したがって、先ほど高木先生がおっしゃられたとおり、非常にこそくな手段、こそくな改善措置ではあるけれども、やはり何らかのことはやってみせなければいけない。人権白書というのを出してみたり、あるいは人権問題調査団をカナダやオーストラリアとともにアメリカが送り込むとそれを受け入れていかなければいけない。やはりそれなり対応中国としてやっていかなければいけないだろうと。  ただし、それが根本的な人権問題の解決につながっていくのか。根本的というのは、つまりアメリカが考えているような意味での根本的な人権問題の解決ができるかと。現在の政権ではそれはとても無理だし、それをやってしまえば現在の政権はどっかに行ってしまうということで、とてもできないだろう。そしてまた、そこまでアメリカ中国に対して要求するかというと、そういう要求をする人々もいるけれども、アメリカの政権がそういった要求をするかというと、少なくともそれはないだろう。ただし、そうした要求を続けていくというのは、冷戦終結後のアメリカの政権の外交戦略というのが現在に至るも基本的にはエンラージメント・アンド・エンゲージメント、拡大関与戦略である。アメリカは、冷戦に勝利した最大の源泉は民主主義であり市場経済である、それを拡大する、その拡大のために中国をひっくるめた関与戦略を展開すると、こう考えているわけですから、常に人権問題というのはごりごり中国に対して言っていくだろう。ただし、それにはある種の抑制というのがあるのではないかというふうに思っております。
  10. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 小島先生が私に向けられた問題にも発言なさいましたので、私も小島先生に向けられた問題に簡単に補足的な発言をさせていただいてよろしいでしょうか。
  11. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) どうぞ。
  12. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 中国のナショナリズムの件ですが、山本先生がおっしゃいましたソフトナショナリズムという表現は非常に興味深いものだと思います。  小島先生のおっしゃったことすべてに賛成した上でつけ加えたいと思いますのは、中国のナショナリズムというのは、どこの国にもある程度はあるのですが、後ろ向きの、民族の過去の屈辱の歴史を思い起こすことをばねにしているという面が非常に強いんですね。もっとよりすばらしい中国をつくっていこうという前向きのナショナリズムよりも、過去の屈辱を晴らすと。香港返還の際にさえ、百年の国の恥をすすいだというようなことをまだ言っておるわけでありまして、非常に後ろ向きなんですね。このような側面をどのように中国は脱却できるかということが、中国のナショナリズムの今後を占う上で一つの大きな注目点になるだろうというふうに私は考えております。  それから、もう一点だけ申しますと、これまた小島先生のおっしゃったことの補足なんですが、現在の政権はナショナリズム以外に国を統合するイデオロギーとかスローガンが見つからないのですが、これを過度に強調することもできないというジレンマにあると思います。と申しますのは、ナショナリズムを余り過度に強調しますと、例えば尖閣列島の問題で中国がとっている今の穏当な政策に対する批判を噴出させるということにもなるわけでありまして、中国としては対外関係の維持が非常に難しくなります。  また、これをばねに、現在の政権が軟弱外交であるとか国の誇りを売り渡しているというような批判にさらされることになりますと、政権の基盤を揺るがすという力にさえなりかねない。そういう面で、ナショナリズムの問題というのは現在の政権にとっても非常に頭の痛い問題であろうと思います。  以上でございます。
  13. 永野茂門

    ○永野茂門君 両先生に一問ずつお願いいたします。  最初に、高木先生にお願いいたします。  今、最後にお答えになっていたことと関連するわけでありますけれども、中国外交を見ておりますと、非常に原則的であり、一たん決めたらまず変えることはない。人権問題にしてもそうでありますし、それから領土問題、尖閣あるいは南沙等についても全く自分のところの原則を変えない。さらにまた、今最後お話がありました日本との間の歴史認識の問題でも絶対に変更しないという、非常に原則的な外交をやってきております。我々から見ると、原則を変えないといっても、あるいは原則主義と名づけても、これは中国の勝手な原則であって、客観的にどうであるかということについては大変に問題があることであります。  これに対して、我が日本外交はまさに追随式であるし、思慮分別があるのかないのかわからないほど妥協の外交を重ねてきておるわけであります。  私はそのどちらがいいとかどちらが悪いとかいうことはなかなか難しい問題だと思いますけれども、少なくも日本はこういうようにしたいということ、あるいは日本はこう考えるんだということを相手に理解させるということは、何らかの手段によってやらなきゃいけない。そこのところが一番大事なんであって、そこが我が外交においてかなり欠けている面だ、こう思うわけであります。それを非難するというのではなくて、中国に対してそういう日本の立場をしっかりと説得する、理解させるための何らかのうまい術はあるか、日本外交に対するアドバイスをお願いしたいと思います。これが高木先生に対する設問であります。  その次は、小島先生にお願いしますが、先生のお話の中にありましたように、中国経済は、マクロで見れば非常にうまくいっているようですけれども大変にいろんな問題を含んでおって、これから先どうなるかわからないと。私も全くそう思います。  特に、特区と非特区との関係でありますとか、特定の地域間の非常に大きな経済格差、貧富の格差その他、非常に大きく格差が明瞭にあらわれてきている。さらに、業種によって採算の問題でこれまた格差があって、国有企業について株式制を採用するというようなことをこれからやろうとしているわけであります。淡々としてとは言いませんけれども、中国が今まで追求してきていた中国式の市場経済制度といいますか、あるいは中国式の社会主義といいますか、これが恐らく矛盾が明確になってきて、双方ともいろいろと難しい状況に入るのではないか。先生はどちらとも断定しないというようなお話でありましたけれども、私は悲観的に見てその対応策を考えておった方がいいと思うものですから、特にそう申し上げるわけです。  そういう状況に対して、これも中国が制度的に、先ほどから話が出ておりますように、中米関係をどうする、中日関係をどうする、あるいは中ロ関係をどうする、そういう関係の方の修正によってとりあえずの浮揚を図っていくというか問題解決を図るという方向の対応策もありますけれども、もっと政治制度、経済制度にメスを入れた対応をしないと大変なことになる可能性があるんじゃないか、こう見るものであります。それに対して先生はどういうような見通しを持っておられ、さらにどうすればそういうことが若干でも緩和されるとお考えかということについて承りたいと思います。
  14. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) ありがとうございます。今の永野先生の御指摘及び問題提起は、私にとっても非常に耳の痛い問題でございます。  研究者としての立場ばかり考えておりますとついつい第三者的になって、人のやっていることをあげつらう、あるいは客観的と称して事態の解明だけを考えて、それではどうしたらいいのか、具体的に何ができるのかというようなことは、それはそれこそ政治家の先生方のお仕事でしょうということで逃げる傾向がやはりあるなということを自覚させられました。しかし、私は現在、十月一日に発足しました政策研究大学院大学というところに所属しておりまして、そのようなのんきな態度は許されないところにおりますので、実は小島先生に向けて御質問、コメントをしていらっしゃる間に一生懸命御質問の趣旨を考えておりました。もちろん、現在外交の最前線にあって懸命にこの難しい隣人であります中国との関係の維持改善処理に腐心していらっしゃる方にアドバイスめいたことが申し上げられるとも思いませんが、私の思いつきますことは二点ございます。  一つは、相手の論理をよく理解して、その中で使えるものは積極的に使って、それに乗っけて自分の主張を展開していくということだろうと思います。  個人的な経験で恐縮でありますが、ある中国とのシンポジウムにおきまして中国側の方が、台湾に独立傾向があるのは外国がこれを唆しているからだ、外国がいろいろ余計なことをやっているからだという発言がありました。私は、そのときに手を挙げまして、その言い方は毛沢東の論理に反する言い方である、もしそこに深刻な矛盾があるとすれば、毛沢東は内因が主要なものであり外因は副次的なものであるということを言っているではないかと。もし台湾に深刻な独立傾向があるんだとしたらこれはあくまで台湾内部に重要な原因があるのであって、外国の作用で全島が独立に傾くというようなことを言うのは毛沢東思想と矛盾するのではないかということを言ったことがありますけれども、言われた当人は余りうれしくはなかったと思います。外国から若いのが来て生意気なことを言うやつだというふうに思われたようですが、ほかの中国人からは後で褒められました。  こんな感じで、なるべく相手の論理を十分踏まえた上で自分の主張を展開するということ、これは意地悪いやり方になるかもしれませんが、また、相手の矛盾をつくということもそこに含まれるだろうと思います。  先ほど小島先生がおっしゃいましたように、人権問題というのはアメリカに言われると反応するが日本に言われると非常に怒るという傾向がありますけれども、どう考えてもこれは非のあるのは中国の方であります。日本人権というのは普遍的な原則であるという立場に立っておるわけですから、アメリカが言えば正しいけれども日本が言うのはおかしいという対応は成り立たないわけでありまして、そのこともきちんと主張したらいいと私は思います。  それからもう一点は、中国多国間安全保障協力に対する対応の面でも申し上げたことなんですが、日本外交も永野先生御指摘のようにどちらかというと反応的、受動的な傾向が非常に強い。反応ばかりしておりますと、どうしても説得的な主張の展開というのが難しくなるのではないでしょうか。みずから何をどのようにして追求していくかという外交戦略を持って、イニシアチブをとっていくということがやはり大事なのではないかと思います。こういう点から申しますと、最近の橋本首相の対ロ外交などは、かなり日本の過去のやり方を変える望ましい傾向であるというふうに私は考えております。
  15. 小島朋之

    参考人小島朋之君) どうもありがとうございます。永野先生の方から、中国経済はある種難局に直面してきている、その難局をどう打開していくのか、根本的な解決策というのはあるのか、こういう御質問があったかと思います。  根本的な解決策というのはとても今の中国ではありそうにないと思うのでありますが、先ほども申し上げましたように、中国の中でも経済に関して、少なくともその問題の所在そして深刻さということについて認識している指導者たち、あるいは官僚が随分いるということは確かだろうと私は思います。問題はその問題にどう取り組むのか、ここのところでなかなか意見がまとまらないのだろうと思っています。  ただ、全くそうした根本的な問題解決の方策が提起されていないのかというと、私はそうではないのだろうと思っています。例えば、今回の十五回党大会の政治報告を見ますと、その根本的な解決一つの手がかりになるような提案はされているのではないかと思います。それは、具体的には国有企業改革であり、国有企業改革の中でもそれを絞り込んだ形で、株式制の導入という形で提案されておりますが、特に私はこの株式制の導入というところにある種現在の中国の政権の決意というものを見てとってもいいのかなというふうに思っています。  つまり、現在の段階では依然として、株式制の導入というのは、公有制の多様化、公有制もいろんな形があるんだ、そのいろんな形の一つで株式制というのが位置づけられるんだ、何も株式制というのは資本主義だけが採用できるものでもなければ社会主義が採用していけないものでもない、こういうふうな言い方で、公有制の多様化ということで株式制の導入というのを図ろうとしています。十一万ぐらいあります国有企業のうち、九万ぐらいが小型であり、残った二万ちょっとが大中型でありますが、もしそのあたりまで本当に導入されていくとすると、実質的に公有制の多様化なんていうのはとても言えなくなってくる。いわば、それは私有制への道を開いていくことにならざるを得ないだろう。  そうであるとするならば、先ほど私は説明の冒頭で従来型の改革・開放ではとてもやっていけない、こう申しました。その従来型の改革・開放の改革、その経済面での改革というのはあくまでも体制の改革であります。体制の改革というのは、社会主義という構造中国語では制度と言いますが日本語ではむしろ構造の方がいいのだろうと思います、社会主義という構造そのものには目をつぶった形で行われました。その社会主義制度という構造の中心的な部分にあるのがまさに所有制の問題である。その問題に手をつけていくことにならざるを得ないわけですから、これはかなり根本的な問題解決につながってくるだろう、こういうふうに思います。  ただし、本当にそれができるのか。この株式制の導入というのは、全人代の常務委員会の常務委員の一人でもあります北京大学の経済学者、改革派の経済学者の属以寧という方が一九八〇年代の初めから提起してまいりました。それゆえに属以寧さんは、日本語で訳せば属株式とニックネームで呼ばれるほどでありました。この株式制の導入は、一九八七年の十三回党大会で、百年間社会主義の初級段階は続くから何でもやってよろしいというテーゼが趙紫陽さんによって提起されましたとき、既に推奨されておりました。それから十年、ちっとも進まなかったものであります。じゃ十年間進まなかったのがここでこういうお墨つきを得たから進むかというと、やっぱりそう簡単にはまいらないだろうというふうに感じております。  ただ、もう一点、ある種根本的な問題解決への可能性を示すかなと思うのは、今回の十五回党大会の政治報告の中ではっきりと国有企業改革は大量の失業者を伴わざるを得ないということを認めております。ただし最終的にはこうした国有企業改革は労働者階級の利益になる、こういうふうに言っていますが、千五百万から三千万人の国有企業の中の企業内労働者が解雇されるということですから、こういう人たちにとって最終的に利益になると言われてもちっともこれはそれで納得できるわけのものではありませんが、つまりそういう決意をしていると。この決意が本物であるとすると国有企業改革についてはかなりのところまで進む可能性がある、ある種産みの苦しみを覚悟するとそういう方向が出てくるだろうということであります。  ただし、もう一つ問題があります。公有制の問題をクリアしたとしても、現在の中国における社会主義概念を構成している基本的な要素であと一つ二つ残ります。  一つは、ともに豊かになるということ、共同富裕ということであります。これは社会主義でも我々資本主義でも基本的な理念の一つなのではないかと思いますので、どうでもよろしい。もう一つ残るのは、社会主義の基本的な要素とは党の指導であると、こういうことになっております。まさにこの党の指導というところにどう手をつけるのかというところがなかなか難しい。  ことしに入って、全国人民代表者大会、十五回党大会で国有企業改革に対して大胆な提案と指示というのが出てまいりました。しかし、それと同時に、それにある意味で水をかけるような形で、党の側から国有企業における党委員会の指導の強化についてといった指示が出てまいります。この指示のエッセンスは何かと言えば、一言で言えば課長以上の企業内のポストについての人事権は手放すな、こういうことであります。この部分をさわることなしにはなかなかやはり根本的な解決は難しいだろう、こういう観点からいけば政治改革の問題がどうしても出てこざるを得ない。  それをやらなければいけないという認識は江沢民政権の中にもあります。この党大会を控えて、江沢民のブレーンと呼ばれる社会科学院副院長の劉吉という人が中心になって「関鍵的時刻」、つまりかぎとなる時代、こういう本が出されました。二十七の問題をこれから解決していかなければいけない、そのうちの一つとして政治体制改革にも触れられています。先ほど高木先生が少し触れられた村レベルの末端単位の民主的な選挙にも触れられておりますし、さらにそれが行き着く先として国家元首の直接選挙制もやらなければいけない、天安門事件の結果タブーになった党の権限と行政の権限を分離しなければいけない、こういった問題も提起されています。いますが、これが政権の中でコンセンサスになるのはやっぱり時間がかかりそうだなと。  その意味では、永野先生がおっしゃられたような中国式社会主義の矛盾の顕在化に対して根本的な解決のステップを中国自身がとれるかということになると、当面なかなか難しいだろうというふうに私は考えております。
  16. 永野茂門

    ○永野茂門君 ありがとうございました。
  17. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  それでは、これより午後三時五分まで休憩いたします。    午後二時五十四分休憩      ―――――・―――――    午後三時五分開会
  18. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 国際問題に関する調査会を再開いたします。  休憩前に引き続き、国際問題に関する調査を議題とし、参考人に対する質疑を行います。
  19. 広中和歌子

    広中和歌子君 最初に高木先生には外交問題、そして小島先生には経済についてお伺いいたします。この両方の質問とも、今までの御質問の流れに沿うものでございます。  まず、外交問題についてですが、日本から見ておりますと、中国というのは非常に自己主張が強いというのでしょうか、独自外交を展開している。永野先生のお言葉をかりれば、原則を変えないというふうなことでございます。世界の世論を無視しても立場を通してしまう。人権問題においてしかり、核実験でもしかりでございます。また、環境問題を我が国が中国に与えているODAに絡めようとしても決して妥協しなかった。最近、ちょっと態度が変わってきておりますけれども、それは中国国内事情によって変わるんであって、例えば環境問題にODAを使ってほしいといったような我が国の主張に対しても頑としてはねつけてしまう。このような非常に強い外交姿勢を持っている彼らの切り札というのは何なのだろうかということでございます。  このたびの江沢民訪米に関しましても、結局、ボーイングを数十機買いつけることを一つのバーターにしているのかなと。つまり、大きな市場がバックにあるからこのような強い外交姿勢がとれるのか、それとも、フランスとも非常に似ているんですが、超大国としての何らかの歴史的な、文化的なものからくるところの自信によるものなのか。よくわからないので、もう少し掘り下げて御説明していただけたらと思います。  それから、小島先生には経済の問題なんですけれども、確かにマクロの視点では中国の経済発展はすばらしい、二十一世紀はもうGNPにおいては世界第一になるであろうというようなことで、日本は非常に脅威を感じているというのが大方の見方でございますけれども、現実には改革・開放路線が大きな困難、問題、矛盾を抱えているという御指摘があったところでございます。それだけではなくて、ある外国人が例えば上海の金融市場を見まして、そのうちに日本の東京市場なんというのはテークオーバーされちゃうよと言われているにもかかわらず、彼らの目から見ると、金融規模にしても何にしても非常に脆弱である、GNPも非常に小さいというようなことを指摘して、やはり何といっても東京だよと安心させてくれたりするんですが。それからまた、経済発展の中の矛盾としての大きな格差。内陸部と沿岸部で、例えば深川対内陸部で八対一であったり、北京と比べても二対一であるというようなことで、それは公務員の給料にまで反映されているんだそうです。  この解決法でございますけれども、先ほどいろんなことをおっしゃいましたけれども、国有企業の改善とか民営化ですね、そういうことでパイを広げ、そして分配の点で強力な指導力を発揮していくという方向があり得るのかどうか。これは旧ソ連、ロシアにおいても同じことが言えるんじゃないかと思うんですが、いわゆる十八世紀的な、資本主義的なやり方で今経済発展が進んでいるわけですけれども、そういう中でかつての共産主義、社会主義のいい点をどうやって取り戻すというんでしょうか。ですから、税制とか社会福祉とかというものを強力な社会主義的な指導体制で取り込んでいくことができるのか、それとも別のやり方があるのかどうか、その点についてお伺いしたいと思います。  どうもありがとうございました。
  20. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 広中先生からまたまた非常に重要な、しかも興味深い問題提起をいただきました。  中国がどうしてそこまでかたくなでいられるのかということなんですが、私は、中国は確かに自己主張は強いんですが、たびたび申しておりますように、やはり中国もどちらかというと受け身で、受動的で、状況反応的な面が非常に強いと思います。ですから、かたくななのも、あるいは自己主張が強いのも、みずからある政策なりプログラムを提示してそれを通すというようなことができているかというと、まずできていないと思います。そういう意味で、しばしば中国は非常に外交がうまいということが言われますが、私はそんなに驚くほどのものでもないのではないかというふうに考えております。  中国対応がかたくななのは、確かにおっしゃったとおり、特に一九九二年、一二・六%ですか、非常に高い経済成長をマークして以後、一〇%を超す経済成長を数年続けて、中国が非常に巨大な存在として世界に登場してきたころから確かに市場の規模というのが大きな自信の要因一つにはなっていると思いますが、それ以上に、国内的な事情によって外交当局者がかたくなな対応をせざるを得ないと、いわば手詰まり状況の受け身のかたくなさという面があるのではないかと思います。  ですから、中国のリーダーが非常にその地位が安定しているときにはかなり思い切った譲歩をすることもあるんですね。先ほど永野先生が原則を主張するということを引かれたわけですが、中国は確かに原則性というのを非常に強調しますが、同時に柔軟性の強調とそれはペアになっているんですね。ですから、原則原則として維持しながら、それを原則として受け入れてもらえさえずれば、具体的な措置は非常に柔軟な対応をとり得るということもしばしば言うことでありまして、さっきのお話に戻りますが、特にリーダーの地位が強力で安定しているようなときにはそういうことがしばしば見られると思います。  例えば尖閣列島の問題について、次の世代にその解決を任せようというようなことは鄧小平だから言えたことだと思いますし、これは従来の中国の主張からしたらびっくりするような譲歩であると、少なくとも中国の立場からすればそういうことになるんだと思います。あるいは、台湾の問題につきましても、中国は一九九一年にAPECに入るわけですが、当然台湾が一緒にAPECに加盟しているなどということは中国としては我慢ならないことですが、当時中国は、天安門事件以降に西側諸国の経済制裁を受けておりまして非常に国際的に孤立していたわけです。その孤立からの脱却を懸命に図っていたときでありまして、そういう弱い立場にあったということもあって、このときは台湾との同時加盟をのんでいる。同時といっても幾分時間はずれておりますけれども、台湾と席を同じくすることを受け入れているわけですね一ですから、必ずしも常にかたくなであるとばかりは言えないんだろうと思います。  ですから、日本が対中外交において、例えばおっしゃった環境とODAをリンクするというようなことについて反発を受けるとすると、やはり事の運び方が必ずしも適切ではないのかなと。例えば、これを日本一国の要求として出さずに、環境問題に関する国際的な政策コミュニティーのコンセンサスとして、中国の環境問題はグローバルな意味を持つのであって中国一国の問題ではないというようなことをじゅんじゅんと説得すれば、そしてもちろんこれは中国の利益にもなる、中国国民の健康を保持する上でも非常に重要なわけですから、私は必ずしも常に拒絶されるというものではないのではないかというふうに思います。
  21. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 外交については、私も高木先生と全く同じ考え方であります。核実験についても、これはCTBTを締結して、そして一時凍結宣言を出してしまいましたね。やっぱりこれは、日本が世界の中で唯一、私流の言葉で言えば経済制裁をやった結果だろうと思うんですね。そういうことをやったらすぐに無償資金協力の凍結解除ぐらいちゃんとやってあげれば、もう少し日本影響力というのが外に見えてくるんだろうと思いますが、私はその意味中国もやっぱり変わってきていると思います。  ただ、最初にも申し上げましたように、中国を見る際には外交についてもやはりイエス・アンド・ノーだろうと思いますので、どっちというふうにはなかなか言えないだろうと思います。原則を重視するし、重視しないということだろうと思います。何がその核にあるのかというと、いろいろあるけれども、一つ常に我々が頭の中に入れておかなければいけないのは、これは天安門事件の直後でしたか直前だったかちょっと忘れましたが、鄧小平さんの言葉だと思いますね。つまり、中国がだめになったらどうなるか、二千万人がインドネシアに行き、六百万人が香港に行き、日本に数百万、それがどのくらい行くかわからないと。こういったいわばある種のマイナスの恫喝というのが、もし中国の強硬外交というのが一貫してあるとすれば、そういうものがやはり根底にあるんじゃないかと思います。  それから、私に与えられた御質問、現実経済の難しさをどういうふうに解決していくのかと。これからの問題はむしろ生産力の拡大でなく利益の分配のところにある、その分配においてリーダーシップが介入することで何とか解決できる可能性はないのかと。あるいは、税制や社会福祉制度といったようなもの、ある意味でのかつての社会主義の復活によって問題解決を図る可能性はないのかということでありますが、一言で申し上げれば、私はその可能性はないというふうに思っております。  例えば社会福祉制度ということでいけば、実は社会福祉制度、社会保障制度なんというのは中国はこれまで全くなかったわけであります。全くなかった理由は、国有企業がまさに社会保障制度を代行してきていたからであります。これを今、国有企業改革を本格的に進めていこうとしているときに、その前提としては社会保障制度の整備充実というのが当然必要になってくるわけでありますが、これは大変な財政負担があるわけで、とてもできないだろうと。その意味では、社会主義の復活によってというか、社会福祉の実現によってそれが可能かというと、とてもその可能性はない。  税制をしっかりしていくと、これも言ってみれば改革・開放になってやっと出てきたものであります。しかしながら、一九九四年から地方税そして国が取る税金というのを分ける分税制というのを進めてきましたけれども、ちっともこれが機能しない。税は取れるけれどもそれが財政に入らない、財政に入らないけれどもさまざまな赤字の補てんは財政が賄わなければならないと。こんな間尺に合わないことが指導者の口から出てくるということですから、本来、きちんとした税制をつくりそれを執行していければいいんですが、これもかなりの時間がやはりかかってくるのだろう。その意味では、私が最初に申し上げたような格差の拡大の問題をどう解決していくのかというのはちょっと見通しがまだまだ立たない、そういう状況なのではないかというふうに思っております。
  22. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 共産党の上田です。  両先生、ありがとうございました。  一回五分の発言というので、高木参考人にどうも五分かかりそうなので、小島先生には後で時間があればさせていただきます。  米中関係相互政策についてそれぞれ質問したいんですが、まず第一にアメリカの対中国関与政策ですね。  きょうのお話で、南アフリカに対する対策が淵源だったということを初めて聞いたんですが、それはカーター政権、ブッシュ政権、それからクリントン政権にいろいろ問題はありながらも受け継がれていったと。  クリントン政権時代に、九五年十月三十日、ペリー国防長官が中国関係評議会での講演で、包括的な関与政策についてかなり詳しい講演をやりまして、これは世界週報に全文載ったので私も読んだんです。封じ込め政策はとるべきではない、対話へ移るべきだと積極的に主張しているんですが、単なる対話でなくてかなり強いものもペリー演説に含まれているんですね。例えば、関与政策中国自身の利益にもなる、中国指導部も我々と同じような考え方を持たなければならない、こう言っている。最後に、クリントン政権は関与政策にコミットしているが、どんな犠牲を払ってでも関与政策にコミットすることはしないという両面がある、こう結んでいまして、それは私、比重はいろいろあってもやはり二面的政策ではないかと思うんですよ。  その後、ちょっと注目したのは、ロサンゼルス・タイムズ紙、九七年二月十二日付に「米の対中国政策 究極目標は「打倒共産体制」」という題の記事が載りました。クリントン大統領は最近の記者会見での即席答弁で、ベルリンの壁が最後には崩れたように、中国で自由に反対する者がいても抑え込める方法があるとは思わない、まさしく必然的なことだと思うと、こう主張したというのを引用して、結局クリントン大統領は、対中国関与政策を口にする一方で、ベルリンの壁理論によって長期的目標は中国の共産主義体制を変化あるいは倒すことにあると示唆しているといテコメントをロサンゼルス・タイムズがつけたというんです。  この論評が正確かどうかは別にしまして、今度の新ガイドライン、あれはアメリカが普天間基地の返還問題と交換条件で押しつけてきたものですから長期的には中国に対する封じ込めと言えるかどうかわかりませんけれども、例えば二十一世紀に中国に対する戦略的なアメリカ優位の体制をという構想があるのではないかと僕は思っているんで、アメリカの対中国政策の二面的性格、これについてお聞きしたいと思うんです。  二番目は、中国側の対アメリカ政策なんですが、例えば今度の新ガイドライン問題について中国は厳しい批判をしている。ところが、押しつけたアメリカに対しては余り言わないわけですね。非常に奇妙なことだと思うんですよ。  江沢民主席が訪米前のワシントン・ポストとのインタビューで、我々は、日本中国を侵略し、中国に対する戦争を行い、中国国民に多大な損害を与え、日本国民をも犠牲者とした歴史を決して忘れないということを希望すると厳しく言って、最近の日米安全保障合意について、我々はこの日米軍事協定に関して極めて強く警戒している、そしてこの協定が中国に向けられたものでないことを期待していると、こう言っているんですね。  日本報道で、中国の解放軍報なんかは「日米安保の変質」「専守防衛の原則破った」というので六点にわたって厳しい批判をしていますし、朝日新聞に載った記事で元人民解放軍副総参謀長の徐信氏は、梶山官房長官発言のように範囲が中国領土台湾を含むなら明白な侵略行為であり警戒せざるを得ないと、これは侵略とまで言っているんですね。  ところが、アメリカの方は、台湾関係法を持っていって中国の一部領土軍事力で守るぞというのをやっているんだけれども、先生の論文を拝見すると、F16などの輸出問題ではかなりいろんな交渉があったと、それで最後に妥協が成ったと書かれているんですけれども、この台湾関係法即時破棄なんていう要求は掲げていないし、日本に対する態度といろいろ違うわけですね。  これは、恐らく小島参考人も触れられた今の経済的な深刻な危機、その中で最恵国待遇の更新はあくまでやっていただきたいし、WTOにも加盟したいし、アメリカからの資本導入に最も多く期待するという点で、アメリカに対しては日本とかなり違った政策を意識的にとっているのではないかという感じがするんですけれども、中国の対米政策についても第二点としてお伺いしたいと思います。
  23. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 先ほどスタッフの方から、たくさんの先生方の御質問があるので答えは五分以内に限れという指示がございまして、そうしますと五分以内に米中二分半ずつということで、かなり単純化したお話にせざるを得ないと思いますが。  まず、アメリカの対中政策に二面性があるのではないかという点でございますが、これはおっしゃるとおりだと思います。先ほど時間の都合で非常にはしょった言い方をいたしましたが、これはレーガン政権南アフリカ政策以来のことですが、関与政策というのはもともと二面性のあるもの、それ自体が二面性があるものだというふうに私は考えております。  すなわち、関与を通じて相手を変えていく。どういうふうに変えるかといいますと、アメリカの価値観に沿った形に変えていくということなんですね。ですから、ブッシュが九〇年、九一年と中国に対する最恵国待遇更新の問題について民主党主導の議会から厳しい批判を受けていたときに、建設的関与ということで最恵国待遇の方針を正当化したわけですが、そのときの言い方も、最恵国待遇を停止したり中国を孤立化に追い込むことはかえって中国アメリカにとって望ましくない形にしてしまう、むしろ関与を通じて相手を変えていくのだということを言っているわけで、決して現状容認ではないんですね。クリントン政権の関与政策も基本的にそういう面があると思います。つまり、関係を維持し交流を深化させていくことがむしろ中国を変えていくのだと。おっしゃるように、中国をどういうふうに変えていくのかといいますと、究極のところはやはり民主化であると思います。先ほど小島先生が拡大と関与というアメリカの新戦略にちょっと触れられましたけれども、この拡大戦略というのは単にアメリカの価値観を広げるということだけではなくて、そういうことが言われるようになりましたころ、一時非常にはやった議論でデモクラティックピースという考え方がございます。これは、民主体制の国同士は戦争をする確率が非常に低い、したがって世界じゅうに民主主義を広げれば世界から戦争の確率が大きく下がる、ですからこれは単に価値観の拡大、伝播ではなくてアメリカ安全保障戦略でもあると、そういう意義づけがされているんですね。.  また、御案内のように中国は、西側諸国が中国政治、社会体制を変えていこうとする試みを、天安門事件以降、和平演変という言葉で表現しておりますけれども、日本では平和的転化とか転覆と訳しておりますが、これは英語ではピースエボリューションと言います。  クリントン政権の第一期の国務長官を務めたウォーレン・クリストファーが承認のための上院の公聴会で対中政策について述べたときに、我々はピースエボリューションをやるんだというふうに言っているんですね。これは、もちろんピースエボリューションという言葉だけを見ますとごく普通の英語の表現ですから、和平演変ということを考えずに単に言ったとも考えられますけれども、私がアメリカの友人に確かめたところ、これは明らかに和平演変の英訳としてのピースエボリューションを念頭に置いて言っているんだというようなことを言う人もおりまして、まあ本人に確かめたわけではございませんのでもしかしたら間違っているかもしれませんが。  中国は、アメリカ中国に対して和平演変戦略をとっていると言って非難しますけれども、そして、政府の明示的な政策としてどこまであるかわかりませんが、アメリカ社会全体に中国との関与を通じてあの国を変えていくんだという指向性があること、これは否定できないことだと思います。ですから、和平演変論というのはある意味では正しい、中国が言う和平演変戦略論というんですかね、これは正しいことだろうと思います。  エンゲージメントといいますか、関与政策については、アメリカは九三年以降、封じ込めをやっていると言って中国がしきりにアメリカの対中政策を非難したときに、それに対して、いや、そうではない、我々がとっているのはあくまで関与、エンゲージメントの政策なんだという形で反論をしていたんです。これにつきまして、九六年の一月に出ましたある外交問題を扱う雑誌に非常に有力なアメリカ研究者が、コンテーンメントであろうとエンゲージメントであろうとそこに共通する流れがあるではないか、両方とも中国アメリカの価値観に沿った形に変えようとしているのではないかということを指摘しておりまして、これはまさに正しい指摘だろうと私は思います。  続きまして中国の方ですが、上田先生のおっしゃったことはまさに我が意を得たりであります。中国の昨年の日米安保共同宣言に対する非難、あるいはガイドラインの改定に対する非難についていろんなことが言われておりますが、おっしゃったようなことは余り言われておりませんので、私はそれはおかしいのではないかと何人かの友人に個人的に随分話したことがございまして、これは明らかにそういう傾向があると私も思います。主に日本を非難しているんですね。  私は、ある中国の友人に、ちょうど梶山発言の後ですけれども、もし梶山発言のとおりであって、台湾海峡の事態に日米安保条約あるいは改定された防衛協力の指針が適用されるようになったとしても、実際にいろんなことをやるのはほとんどアメリカではないか。やるかやらないかはまたわかりませんけれども、日本はせいぜいやったとしてもお手伝いするぐらいのことで、非常に補助的なことをやる。これを何で専ら日本ばかり非難するんだ、アメリカを非難したらどうかと言ったところ、私の友人は、いや、日本は弱い環だからねと、ウイークリングだということを言っておりました。多分、そういう計算もあるんだろうと思います。  それから、日米安保体制というのは中国の立場からすると非常に扱いに困る。小島先生の表現を使わせていただければ、中国からするとやっぱりこれはイエス・アンド・ノーなんですね。つまり、日米安保体制は、少なくとも昨年の日米安保共同宣言以前の状態で存続することがむしろ中国にとっては望ましいんです。中国では、御指摘あるいは御案内のように、日本軍事力が強化されるということに対する懸念、不安、警戒感というのが非常にございまして、これを封じ込める、いわゆる瓶のふた論で日米安保体制を考えているところがあります。しかし、これが余りに強化されて緊密になってくると、今度は、先ほどお話ししましたけれども共同覇権に対する懸念というのが出てくるわけですね。ですから、中国側からすると、日米安保体制というのは余り緊密ではないけれども全く壊れてほしくはないという状態が一番望ましいということになるわけでありまして、そういう点で煮え切らないわけです。  したがって、ガイドラインの見直し等を非難するときも、日本側の役割が高まることを専ら非難して、しかしこれが対米非難につながる直前までいくと彼らの非難はとまってしまう。ですから、今回のガイドラインの最終報告が出た後の反応も、江沢民訪米が近づいていたということもあると思うんですが、それほど強烈なものではなかったわけですね。そういうところに一つ中国側の計算があるんだろうと私は考えております。
  24. 板垣正

    ○板垣正君 高木先生に。  今度の米中会談は、中国も随分一生懸命努めた姿が見えましたし、アメリカはやはり原則の立場というもの、双方原則をぶつけ合ったわけですけれども、その間における中国日本に対する姿勢米中首脳会談日米安保体制なりガイドラインあるいは日本の問題がどこまで話題になったのか、そこに疑問を持つわけなんですね。  まずパールハーバーに乗り込んでいって、五十年前の日本のファシズムを倒したんだ、米中でやったんだというふうな、我々から見ればまさに逆なでするような、せっかく日中も二十五周年を迎えているのにそういう間の経緯というようなものも抜きにしたああいう中国姿勢に、私は非常に政治的に成熟していないというか、肩を怒らしたというか未熟というか、そんな感じを持ったんです。そうなれば、我が方もそういう姿勢というものを十分のみ込みながら今後の対応を考えていかなければなという感じを持ちました。  それはそれとして、一つ具体的なことは、やはり台湾の問題が今度のあれでも焦点になっていたと思います。私は、基本的には、このアジア太平洋の平和、これは世界の平和にもつながりますが、要するにこれは対話と協調で気を長くしていくほかないと、いろんな関係でですね。ただ、そういう中において台湾の問題というものは、アジア太平洋における安保体制の、安全保障問題の一つの中心問題である。今度中国は四回目のコミュニケを出せというような動きもあったようですが、アメリカは基本的に過去の一つ中国で行くんだという以上は出ないと。今後の米中関係においてアメリカ台湾政策は全く変更はないというふうに受けとめていいのか、台湾にはそういう説明をしているようですけれども。  ただ、台湾側で言われている面で、基本政策には変わりないという立場ではあるけれども、反面、だからこそアメリカの立場からも、台湾と中台関係対話を進めろ、平和的な解決をするために平和的な話し合いを進めるべきだと、こういう示唆は行われたのではないのか。これはたしか文言の中にもあったと思います。そのことは、とりもなおさず、台湾の立場からすれば一つの圧力といいますか、対話なり交流なりを進めていけという、受け身への政策の変更ということにもつながりかねない。  いずれにいたしましても、台湾の位置というものは、民主主義なり自由なり、そういう価値観からいっても、あるいは日本のシーレーンに位置づけられているという流れの中で、非常に安全保障上も大切なポイントを占めておる。そういう立場で、今の流れの中における日本の安保体制日米中の三カ国の安保対話というようなことも話題に出ておりますが、中国側はまず民間の段階から始めようというふうなことを言っておりますが、その辺のこれからの我々の取り組み方についての御見解を承れればと思います。  それから、小島先生に。  やはり天安門事件というものは人権問題の非常に大きな象徴的な問題ですが、しかも今度も最後まで突っぱねて天安門の自分たちの姿勢が正しいということを言い、あるいは人権問題の象徴と言われた政治犯の釈放もとうとう一人も出さなかった。もう少ししてから出すというふうな見方もありますが、この辺の見通しはどうなんでしょうか。同時に、趙紫陽さんがこのごろ江沢民意見書を出してやはり天安門の再評価をすべきだと、こういう具体的な動きも大分注目されているという報道もありますが、その辺のところで趙紫陽の存在というものに関連して例えればと思います。  以上です。
  25. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) ありがとうございます。非常に多岐にわたる問題を提起していただきましたので全部にきちんとお答えできるかわかりませんが、五分以内でベストを尽くしたいと思います。  まず、江沢民訪米の際の中国側態度で、日本に対する扱い方をどう思うかということなんですが、私は、日米中三国の関係についてはしばしば日米中三角だとかトライアングルだとかなんとかという比喩で語られることが多いんですが、これは余り使うべきでない比喩だというふうに考えております。  といいますのは、三角の関係というのは、例えば日本からアメリカに対してある政策をとるときにそれによって中国に何か影響させようとか、あるいは中国に対する政策によってアメリカ影響を与えようというようなことをやるのが三角外交だと思うんですが、ある程度のバランスということは常に気配りの対象になると思いますけれども、基本的に日米関係の問題は日米関係の問題であるし、日中関係の問題は日中関係の問題として処理すべきだろうというふうに考えております。しかし、中国はこの三角外交的な考え方が比較的濃厚でありまして、アメリカに対して何かやったときは、それによって日本にあるメッセージを送るとか圧力をかけるということをやろうとする傾向が比較的強いと思います。したがいまして、今回のパールハーバー訪問等でやはり戦前のことを持ち出したりしたのもまさにそのあらわれだろうというふうに私は考えておりまして、またやったなというのが私の率直な感想でありました。  それから、米中首脳会談日本のことがどの程度話し合われたのかというのは、もちろん私も公開された資料しか持っておりませんのでわかりませんが、新聞報道によりますと、クリントンの方から日米安保再定義、再確認中国に向けられたものではないという説明があって、江沢民の方から過去の経緯によって日本に対する警戒心がまだ消えないんだということを指摘されたということがあった程度で、必ずしも大きな問題になったというふうには報じられていないと思います。しかし、これは、もっと詳しい報道があればまた私も意見を変えなきゃいかぬかと思っております。  先ほど板垣先生が中国政治的な未熟さということをおっしゃいましたが、この三角外交的なやり方というのも私はある意味ではそういうことだろうと思います。やはりこういう対応中国になるべく早く脱却してもらうためには、国際社会に引っ張り込んで、国際社会の現実になるべく多く、多角的、多方面に触れていただくということが一番いいのではないでしょうか。どなたかしばらく前に御指摘になりましたけれども、チベット進駐をリンカーンの奴隷解放になぞらえたりしてアメリカでは全然説得力がなかったということが示しますように、中国は自分の論理がどこまで世界で通じるかということに対して比較的鈍感だろうと思うんですね。ですから、通じないことは通じない、おかしいことはおかしいということをどんどん言う、そしてそういう場にどんどん出てきてもらうということが大事なのではないかと思います。  それから、台湾につきましては、基本的に現在の日米両国政府がとっている立場が一番妥当なものでありまして、これが安保体制のかなめであるとかいうようなことを余り表に出すというのはよくないだろうと思います。台湾海峡の安定ということは、日米両国のみならずアジア太平洋全体にとっても非常に重要なことなんですが、そのためにはやはり中台双方の慎重さが求められなくてはいけないんだろうと思います。  御記憶のことと思いますが、昨年の台湾の総統選挙の際、中国がミサイル実験等を行ってアメリカが航空母艦二隻を派遣したときも、アメリカは中台双方と非常に緊密なコミュニケーションを持っておりまして、中国側からは台湾に対する直接の武力行使はないという言質をとり、また台湾に対しては余り独立に走るような無謀な動きはやめてほしいということをはっきりと意思表示しているわけであります。双方の慎重さによってこの地域の安定を確保し、それをなるべく長く持続させていく、そしてその間に問題の平和的な解決を図るというのが妥当な対応だと思うんです。  したがって、この地域に必ず日米が関与するというようなことを明言することはむしろ台湾の独立志向に油を注ぐことになるでしょうし、全くそういうことはないということになると今度は中国の武力行使の誘惑を強めるということになるでしょうから、現在の何とも言えない戦略的あいまい性というのは非常に妥当な対応であろうというふうに私は考えております。これによって、中台双方に慎重さを求めるというはっきりとしたメッセージを両方に伝えるというのがよいのではないでしょうか。
  26. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 二つ御質問があったかと思います。一つ米中関係で、今回の江沢民アメリカ訪問で人権問題が非常に大きな焦点になった。その中で、中国側アメリカが問題にした人権問題についてある種の妥協策あるいは改善策を打ち出してくるのではないか。その一つとして、魏京生やそのほかの民主化運動の指導者たちで投獄されている人々の釈放の見通しが出てくるのではないか。その点がまず第一点で、第二点が趙紫陽の存在ということが御質問であったかと思います。  第一点について結論から申し上げれば、魏京生であるのかそれから王丹であるのかわかりませんけれども、民主運動家の釈放みたいなことが起こってもおかしくないだろうというふうに思っています。なぜなのかというと、これまで一連の米中間のある種の交渉というのが行われてきましたけれども、そういった米中間の国務長官あるいは大統領レベル会談という接触があったときには、その後そういった動きがしばしばあったということであります。  中国は一方で唯我独尊的でありますけれども、他方で経済発展というのを国の最重要課題として掲げている限り、周辺の平和な国際環境の確保と日米をひっくるめた周辺アジア諸国の多国間の協力というのを確保していかなければなりません。特に、アメリカの動向というのが大きな影響を与えてまいります。その意味で、アメリカの動向に対して配慮するということは大いに考えられることだろうと思っています。  第二点の趙紫陽の問題でありますが、現実には、現在の江沢民政権が進めている政策の大もとは趙紫陽路線の継承であります。ほとんどの政策が十三全大会、一九八七年に趙紫陽が打ち出した初級段階論あるいは株式制の導入、こういった部分についてはほぼ趙紫陽路線を継承したものであって、現実には事実上趙紫陽路線が復活しているということであります。しかしながら、趙紫陽さんももう八十に近いわけでありまして、確認がとれないさまざまな手紙が趙紫陽から江沢民に出されたと言われておりますが、これがすぐさま名誉回復につながっていくのかということは私にはわかりません。わかりませんし、恐らくそう簡単ではないだろうというふうに思っております。  以上であります。
  27. 田英夫

    ○田英夫君 両先生、ありがとうございます。  最初に、高木先生に日米中トライアングルのことをお伺いしたいと思います。今、板垣委員の御質問に基本的な点はお答えになりましたが、若干私の意見を申し上げて、御意見があれば聞かせていただきたいと思います。  といいますのは、実は日米防衛協力のための指針、ガイドラインの討議を与党でやりましたときに、私は日米中トライアングルという視点を持つべきだという主張をいたしました。日米基軸、日米安保条約中心という外交はもはや二十一世紀には改めるべきではないかと。日米基軸だから日米防衛協力のガイドラインという方向に行くということであって、日米中トライアングルをと。これは、さっきおっしゃった三角外交ということではなくて、もっと密接な関係を築いていくという意味なんですが。  そういうことを主張していたやさきに、六月でしたが与党のガイドライン問題のメンバーが訪米をいたしまして、そのときにいろんな人に会っております。その中で一人、ブレジンスキー、元カーター政権安全保障担当補佐官ですが、彼が自分の方から、日米中トライアングルをやるべきだ、ただし政府間ですぐにやることは困難であろうから民間のシンクタンクの交流というようなところからその空気をつくっていくということをやるべきではないかと言っております。  それから、ことしの三月に元ワシントン・ポスト記者のオーバードーファー氏が来日して、まさに日米中トライアングルという題で講演をしておりました。内容は省きますが、簡単に言えば、現在は三角形の中で日米間の一辺は非常に太い実線になっているけれども、米中間あるいは日中間は途切れ途切れのような細い線でしかない、これは完全な三角形になるべきではないかという話をしています。  それから、私は去年からことしにかけて何回か中国を訪問しておりますが、例えば日中民間会議とか、ことしは社民党の訪中団というようなところで、中国の国際政治学者、国際交流協会とか国際問題研究所の専門の学者何人かが、中国の言い方で言えば中日米三角形という言い方で同じことを主張しているのを聞いております。こういうことで、中国の言う安全保障も二国間安全保障じゃなくて多国安全保障を考えるべきだということにも関連をして考えるべきではないか。  もう一つ、松永元中米大使が与党ガイドライン問題協議会の席に来て話されたときに、やはり全くブレジンスキー氏と同じように、日米中トライアングルをつくるべきで、しかもその場合は日中間で十分話し合いをして計画をつくった上でアメリカに呼びかけるという配慮が必要だと、ここまで言っておられます。  ということで、私はこれに対する高木さんの御意見を例えればと思います。  それから、小島先生に伺いたいのは台湾の問題であります。  台湾の問題も既に大分出ておりますが、二十年ほど前に廖承志さんが元気なころに、台湾の国民党の人たちは敵ではあるけれども抗日戦争を戦う意味で共通の敵を持った仲間であったから、かつては彼らが何を考えているか大体わかっていたけれども、ちょうど二十年前ぐらい、一九七〇年代終わりのころですが、最近は国民党も代がわりして彼らが何を考えているかよくわからなくなってきているという話をされて、田さんがもし台湾に行く機会があったらぜひ国民党の指導者の話を聞いてくださいなんということを言われた。ある意味では非常に中国のターレンらしい感じだなと思ったんです。最近、中国の指導者あるいは実務者は、むしろもっと激しく、台湾の独立ということに対して非常に強い態度でいろんな意見を言って対応している。最後軍事力ということもあり得るということまで言うわけですが、これは台湾の中で独立派が顕在化してきた、民進党だからなのかとも思いますが、どういうことが原因なのか。  私は、実は李登輝さんとも長時間話したことがあります。あるいは許信良、今民進党総裁ですか、彼とも会いましたが、許信良氏それから李登輝氏も私は強固な独立派だとは思えないんです。それに対して非常に中国の実務者は強硬ですが、これはどういうことが原因なのか教えていただければと思います。  以上です。
  28. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) ありがとうございます。田先生から非常に重要な問題提起をしていただきました。  私が先ほど三角外交をやるべきでないというふうに申し上げたのは、まさに中国がやっているような、Aに圧力をかけるためにBに何かをやる、この誘惑に負けてはならないということでありまして、おっしゃったように三国間の緊密な対話協力関係を築き上げていくべきだということは全く私も同感、同意見でございます。それは、この地域における圧倒的な影響力を持った三国でありますから、その間の関係が不必要にゆがんでしまうというのは避けるべきであろうと思います。ただ、単純な三角関係的発想で、こことここと同じぐらいこことここを近くしようとか、そういう考え方で処理すべき問題ではないという気もいたしております。  日米の間には価値観を共有している、政治制度を共有している、緊密な経済社会関係があるということはやはり否定できないわけでありまして、それと同じことが中国との間にあるというわけではございませんし、また中国日本にとって巨大な隣国であり文化的にも通ずるところがあるということもありますが、この条件は対米関係には逆にないわけでありまして、それぞれに最もいい関係をつくっていくという努力をした方がいい、むしろつなげない方がいいというのが私の考えであります。ただ、中国にそういうつなげる考え方がある以上、それを無視して行動していいということではありませんので、そのことはもちろん計算に入れておく必要はありますけれども、日本から主体的に無理につなげるようなことはすべきではない。  その上でこの三国の対話のメカニズムを構築していく努力というのは当然なされるべきだろうと思いますが、一つには、これは日米安保体制を否定するということを必ずしも伴うものではないんではないかと思います。日米間の緊密な関係というのは、先ほども申しました政治的、経済的、文化的、社会的なつながり、それから日本の基本的な安全保障政策から考えましてこれを緩める要因は今のところないだろうと。もちろん、どなたかが未来永劫、安保体制を維持するのかというようなことをどこかで言っておられるのを聞いたことがありますが、未来永劫通ずるような政策を今とれるわけがないわけでありまして、やはり状況は変化するわけで、それに応じて、もちろんこれを不必要とするような状況もあり得るとは思いますが、現在は少なくともそうではないだろうというふうに考えております。  問題は、この緊密な日米関係の中にどうやって対中関係を上手に組み込んでいくかということでありまして、中国が一時、一時といいますか戦術的に主張しておりますように、今や二国間協力時代ではなくて多国間だということで、多国協力を強調して日米関係を薄めていこうというような方策は私はとるべきではないだろうというふうに考えております。  ただ、この三者の対話ということは、先ほど冒頭の発言でもちょっと申しましたが、既に民間幾つか行われておりまして、小島先生はその一つに参加しておられますし、私はまた別のものに参加して、間もなくその会議ワシントンに参りますけれども、なかなか難しいものであります。といいますのは、やはり日米民間であっても非常によく話が通じて、中国だけが浮いてしまうという状況がどうしてもできてしまうんですね。これをどうやって回避して、しかも実のある対話をやっていくかというのは、今後に残された課題ではないかというふうに考えております。
  29. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 田先生の方から、中国側台湾独立に対して非常に強く反発しているけれどもその原因はどこか、こういう御質問がございました。  大変な問題で一言で御説明できないわけでありますが、それをあえて大胆に一言で説明すれば、中国側が主張する台湾問題の原則と、台湾が今どんどん進めてきている台湾側のいわば現実、これのギャップ、差の拡大の結果、つまりそのギャップというのを心理的に埋めていかなければいけない、政治的に正当化していかなければいけない、その結果として台湾独立に対する反発が非常に強まっているのだろうというふうに思っています。  中国側原則というのは、申すまでもなく一つ中国であり、台湾中国領土の不可分の神聖な一部であり、台湾問題は内政問題である、したがって台湾の平和的な統一、そして一国両制の適用を進めていくんだ、これが中国側原則であります。  他方、台湾の現実というのは、今さら御説明するまでもなく、とてもそれを受け入れられるようなものではない。台湾の経済的な目覚ましい発展とそれに裏打ちされた政治的な民主化という、いわば李登輝総統の言葉をかりれば台湾経験、こういうものが既に打ち出されてき、それに裏打ちされるような形で台湾の人々自身が、ある意味で四百年の歴史の中で初めて台湾に対する誇り、台湾に対するアイデンティティー、こういうものを持つようになってきている。それは、もう一歩進めば台湾ナショナリズム、こういうところに行かざるを得ない。それをぐっと押しとどめているのが李登輝総統であり、そして今では民進党のもとの党首であった許信良さん自身もそこまで行くのを押しとどめている、こういう状況なのだろうと思います。  というのが私の説明でございます。  もう一歩進めて、中国の現在の台湾に対する対応というのを見てまいりますと、特に米中首脳会談の結果を受けて、私は、これから来年の初めにかけてある意味ではかなり大胆な動きが出てくるのではないかというふうに思っております。  一つには、台湾自身は極めて今回の米中会談について注目しておりました。不安を持っておりました。先ほど来挙がっている第四のコミュニケが出てくるのではないか、そういう懸念を持っておりました。それは何とか解消されました。その点では満足であります。しかしながら、クリントン江沢民会談の中で、アメリカ側が平和的な話し合いを望む、こういうことを述べております。いわば今後の両岸関係における交渉というものにお墨つきをつけた、こういうふうにも解釈できるわけでありまして、特にことしに入ってから中国側台湾に対するさまざまな攻勢というのが目立っております。それにある種のモメンタムを与えるというふうにも見ることができようかと思います。  他方、台湾の側はかつてほど強い凝集性というのを持っておりません。一言で言えば、李登輝さんが二千年までの総統であるということ、ある種のレームダック化というのが始まってきているということでありまして、その意味台湾問題というのは台湾の内政の動きと絡めて注目されてしかるべきだろうというふうに思っております。
  30. 岩瀬良三

    ○岩瀬良三君 それでは高木先生に初めにお願いしたいんですけれども、先生は冒頭、安定のためには領土もあるし、環境もあれば食糧もあるというようなことを言われておったわけでございますけれども、環境問題でお聞きしたいと思います。  中国の成長率は年々すばらしかったわけでございますが、それとともに、我々もいろいろなところで見聞きしているように、経済的な向上というのは目につくようにわかってきていたわけでございます。そういう中で、我々が中国を伺ったときでも、エネルギー源が石炭だということで、これらが非常に大気環境にも影響を及ぼしている。物によりますと、将来の地球温暖化の原因に一番大きく寄与するのは、比喩でございますけれども、中国じゃないかというようなことも言われてもおるわけでございますし、現実に酸性雨がもう日本の国等にも来ておるわけでございます。こういう中で、ある程度の経済成長を維持しつつ発展をしていくということは、どうしても環境問題にもぶっからざるを得ない。私はちょっと悲観的に見ておるんですけれども、こういう点での先生のお考えを伺わせていただければと思うわけでございます。  それからもう一つ小島先生ですけれども、初めに、今年度の大事なものは香港返還があるよということを言われました。その後、香港の記事というのはかなり少なくなってきているわけでございますが、我々がこの前、金融ビッグバンでやったときも、香港が日本を追いかけてくるんじゃないかというようなこともあった、それくらい活性化があったわけでございます。今それがなくなっているということではございませんけれども、いろいろな面での制約が出てきているんじゃないか。また、台湾中国の緩衝緑地帯としての香港、人がそこを通じて行き来したりというようなことが随分あったんではないかと思うわけでございますが、今後の香港のあり方を中国はどう考えているのだろうというような点をお話しいただければと思うわけでございます。
  31. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 今、岩瀬先生から提起されました環境の問題については、私は、心配はしておるんですが十分な勉強をしておりませんで、余り突っ込んだお答えが残念ながら提示できないんですけれども、とりあえず思いついたことを二点申し上げさせていただきたいと思います。  一つは、先ほど広中先生からも提示された問題なんですが、やはり日本中国の環境問題に対して影響を与え得る最大の資源はODAだと思うんですね。ですから、このODAを積極的に中国の環境問題に活用していくという方針は今後とも維持すべきだろうと思います。既に円借款の中にはODA関連が組み込まれておりますが、この方針は維持拡大していくべきだろうと思います。確かに中国側の反発は無視できないと思いますが、これは先ほど申しましたように国際社会のコンセンサスを彼らに理解してもらうという形で何とか克服できるのではないかと思います。  それからもう一つは、先ほどおっしゃいましたように中国側のエネルギー源に占める石炭の比重の高さでありまして、あの膨大な人口が経済発展に伴って必要になるエネルギーの供給を石炭燃焼を拡大することによって一部でも補おうとしていくとすれば、当然、大気汚染の問題あるいはCO2の排出増加といった事態が懸念されるわけでありまして、これに対する対応策も、単に外国の問題としてでなく、日本も考えて実施していくべきだろうと思います。  その点、当然のこととして到達するのは、一つはエネルギー源をかえるということですから、シベリアの天然ガス開発、これは中国への供給も視野に入れた形で推進していく必要があるだろうと思います。それから、中国でも既にその方針を立てておりますが、やはり原子力発電が今後拡大していくだろうと思うんですね。これも中国の社会的な規律でありますとか技術水準が今のままで原発がどんどんふえていくというのは日本にとっても非常に怖い話でありますので、やはり原発の安全性確保、向上のための対中協力というのを実施、拡大していくべきなんではないでしょうか。
  32. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 中国の香港に対する政策、香港をどのようにしようと考えているのかということが御質問であったかと思います。  これも簡単に言ってしまえば、中国にとって利用価値のある香港、これを維持していきたいということだろうと思います。利用価値の最大のものは、やはりこれは投資、技術両面にわたって中国経済にとって極めて重要な供給先である、あるいは経由先であるということであり、そうした香港経済の繁栄を確保していくというのが中国の香港に対する最大の目的だろうと思います。ただし、それには前提条件があるわけでありまして、香港が別の面で、つまり経済的な面以外のところで中国影響を与える存在になることは困る、ある種の政治的な民主化のいわば影響力の発源地になる、こういうことは困るということだろうと思います。この両面にわたって、今中国は、香港問題である種の正念場に来ているというふうに見てよかろうかと思います。  一つには、タイの通貨危機に端を発したアジア全体の通貨危機、これがやっぱり香港についにやってきてしまっている。ペッグ制を維持するのかどうか。今回の場合は、ペッグ制の維持のために株価をある意味では見放さざるを得なくなった。こういう状況が続き得るのかどうか。ここでまず、香港の今後、返還後五十年間の繁栄を約束するといったことが今問われるということであります。  次に、来年の五月には、これはもう既に決まっておりますが、五月二十四日に立法会の選挙が行われます。非常に巧妙な改正というのを行って、直接選挙制二十名についても比例代表制というところに持っていって民主派の突出というのを抑え込む、そういう保証を得ましたけれども、にもかかわらず、やはり直接選挙では民主派が出てくるだろうと思います。これをどう処理するのか、対応するのか、これがなかなか難しい。  つまり、もう既に中国は、一国二制度の国際的な約束の遵守というのを問われ始めてきているというふうに思います。  それからついでに、環境問題について一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。  毎年六月あたりに中国は環境状況公報というのを発表いたします。ことしも発表いたしました。いろんな改善策をやったといいます。しかしながら結論的には環境汚染と生態破壊の状況は極めて深刻であると、こういうふうに率直に認めております。  その深刻さを最も象徴的に示しているのは重慶だろうと思います。日本が環境問題について本格的に真剣に取り組むようになったのは、これはやはり六〇年代末から七〇年代初めにかけての水俣病、そしてもう一つは四日市公害ぜんそく、この問題だろうと思います。四日市の場合、最悪のときに呼吸器系疾患の疾病率というのは一六、一七%程度でありました。現在、重慶市はそれが三五%を超えているということであります。  酸性雨は、二年前には中国全土で五分の一ないし四分の一であったのが、二年で三分の一というふうに膨れ上がってきている。これは極めて深刻だと言わなければいけない。  それに対して日本として何かできるのか。私は、大変大きくできることがあるというふうに思っています。そして、まさにそれは高木先生がおっしゃられたODAという形でできるのだろうと思います。現在、円借の中で環境関連の占める割合というのはわずか四%であります。それはもっとふやしていくことができるだろうと思います。無償協力もしかり、技術協力もしかりだろうと思います。なぜ日本ができることが多いかというと、一言で言えば、まさに日本の公害解決のいわば経験、日本経験というのが非常に大きく中国には効果を上げるだろうと思っているからであります。  私自身、ここ数年、慶応大学で中国環境研究会というのをやっております。これは学部横断的で、医学部から法学部、総合政策学部までいろんな先生方が絡んでおりますが、これはちょっと宣伝になりますが、四川省の成都市と遼寧省の落陽市で環境保全と都市開発の同時発展のモデルづくりというのを進めております。  その一つの重要な取っかかりとして、今、バイオ・ブリケットの技術の導入というのをやっております。中国はどう考えても石炭依存体質から簡単には脱出できない。たとえ原子力発電をやっても、二〇〇〇年までの計画ではせいぜい電力のうちの八%程度にしかすぎないということでありますから、やっぱりこれは石炭に頼っていかざるを得ない。そうすると、中国の石炭はまことに劣悪であります。そうであると、CO2やSOxというのがどんどん出てくる。何とかこれを使いながら、しかしながらそれが出てこない、そういう技術はないのかというと、それがもう簡単に申しますとバイオ・ブリケットの技術であります。これは費用的にもそんなにかからないし、極めてクリーンな煙がこれによって出てきます。  こういうことを今やっておりますけれども、我々研究レベルでも、そういうことをやろうと思えば少し企業からお金を集めればできるわけでありまして、そういった日本経験の蓄積というのがございます。これを中国的な条件の中でどう適応させていくのか、ここの部分と、中国自身がそれをどう利用して自前のものにしていくのか、そういった側面からの支援、そういう精神を持っていけば、随分いろんなことで中国の環境問題に対して日本協力できるのだろうと思っています。
  33. 福本潤一

    ○福本潤一君 両先生の本格的などっしりとした論説、また、腰の座った質問に御丁寧に答えていただいてありがとうございました。私もそういう質問をさせていただきたかったわけでございますが、ほとんどありましたので、若干斜めの方から見たような質問、両先生とも見識の幅広いところでお答えいただければと思います。  最初に高木先生の方ですが、今回、米中関係ということで江沢民訪米している。その最中に日本から橋本首相ロシアに行かれて、日ロの関係の改善という方向で二〇〇〇年までに日ロの友好条約、平和条約を締結しようと。外務省によれば、メガトン級の一つ成果が上がっているという言い方をしておるわけでございますが。中国から見たときに、ロシアという一つの国がありますが、そこに対しても外交原則、先ほど中国という国の外交原則は案外状況反応的だしという話がありましたけれども、中国からロシアに対する外交もそのような状態なのかということ。また、日本ロシア国境問題を抱えていて、この問題を解決すると。沖縄の問題は一つの決着がついていますけれども、北方領土はまだ返還が終わっていないということになりますと、この改善の一つの方向を日本政府が目指しているということは中国政府から見たらどういうふうなとらえ方をしておるかというのを高木先生にお願いしたいと思います。  小島先生の方には、政府対応に関して本格的なお話があったわけですが、今度は民間外交レベルで考えたときに、中国から日本にかなりの人が入っている。日本全体で百万人を超える人が外国人として入っておるわけでございますが、そうすると密入国の問題もある。文化大革命のときには中国の留学生というのは成績のよくないのが多かったというが、今は非常に順調に基礎学力をつけた学生が入っているというようなプラス面もありますが、日本への密入国等々含めて、中国の地下経済と日本とかなり大きな金銭の受け渡しが行われているという問題が起こっている。そこらの問題を具体的に知見があられましたら私らにも教えていただければと思います。  あと、先ほど環境問題、ODAでありましたので、もう一点。中国はあれだけの大人口ですから、今後、三峡ダムの開発とか新幹線の整備とか、日本が高度経済成長期に行われたような大規模インフラ整備というのが必須の課題になっていくだろうと思いますが、ここに対する中国政府側の取り組み、具体的にどういう影響を与えていくかというのも含めてお話しいただければと思います。  よろしくお願いいたします。
  34. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) ありがとうございます。  中ロの関係でございますが、中ロは、先ほどちょっと小島先生からもお話があったと思いますけれども、今度の江沢民訪米で出てきました戦略的関係というのを既に一応文書の上では持っております。中国の対ロ関係、緊密化の過程で出てきました文書を見ておりますと、中国は、何度か冒頭に申しましたように、アジア太平洋地域、ひいては世界の権力構造が多極化していくことを中国の立場から見て望ましいというふうに考えておるわけでありまして、冷戦後に形成される新国際秩序というものも多極的な権力構造を基盤に置いたものにすべきだというふうに主張しております。ロシアとの共同宣言等を見ておりますと、やはり多極構造、新国際秩序ということが非常に強くうたわれておりまして、ロシアが世界的にも、あるいはアジア太平洋地域においても一つのパワーとして台頭してくることを歓迎する傾向が一つあると思います。  そういう点から考えますと、今回の日ロの関係改善、特に日本側がロシアのアジア太平洋への進出のいわば先導役を務めるといいますか、APEC加盟を支援するとかいう形でアジア太平洋に積極的に関与してくるように促すという側面がありますので、その点は中国の立場からすると歓迎できることだろうと思います。  ただ、余りにも最近のことですので、具体的にどういう評論をしているか、評価をしているか、残念ながらまだ私は資料を入手しておりません。一般論との関係で申し上げられることはそういうことだろうと思います。  それから、日本の対ロ外交に対する評価ということですが、これもごく最近のことはわかりませんけれども、中国は最近、対ロ外交だけではなくて、ことし初めの橋本首相のASEAN訪問、そしてその結果出てきました日本とASEANの対話というような事態、特にこれが日本側のイニシアチブで進展したということを非常に注目しておりまして、日本外交の自主性が高まったというふうな評価をしていると思います。これは、中国からすれば、アメリカに対する自主性という形で展開してくるのであれば望ましいし、アメリカと手を組んで、アメリカ影響力を減殺しない形で発揮されていく、あるいはそれを増強する形で発揮されてくるということになれば望ましくないということになるのではないかと思います。
  35. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 二つ御質問があったかと思います。一つは、日本への中国人の流入、これの結果として出てくるある種の地下経済、これとの関係はどうなのかというのが一つ。二つ目は、これからの中国のインフラ整備の問題。この二つの御質問だろうと思います。  これはどちらもなかなか難しいんで、私、前者については本当に何の資料もありません。中国の中でも、地下経済、裏経済なんというタイトルのついた本が随分出てきております。しかしながら、その実態ということになるとなかなかよく見えてまいりません。  私が知っている限りの数字でいけば、一九八九年に、今はアメリカに亡命しているマルクス・レーニン主義・毛沢東思想研究所の所長で蘇紹智という有名な改革派の研究者がいますが、彼が述べた発言の中で、一九八九年段階で裏経済が中国のGNPの三〇%を占めている、こういう発言がありました。しかし、何を基準に裏経済と言っているのか、このあたりのことはよくわかりません。  ただ、先ほど申し上げたと思いますが、税制はかなり整備されてきておりますけれども、捕捉率が極めて悪い。所得税はあるけれども、個人の所得税の捕捉率というのは五〇%行っていないんじゃないですかね。つまり、大体税を納めるという意識がないわけですから、本来取るべき税が取られていない、とすればそれこそまさに地下経済、裏経済ということになるんだろうと思います。  そういう形で、例えば日本にやってきた人々が裏の地下銀行を通じて中国国内に送金する、こういった形で中国の地下経済とつながっている、そしてそれが特に地方において大きな影響力を持ってきているのではないかというふうに思われます。これは私もうまく説明できないのでありますが、中国の財政の場合には予算内財政と予算外の財政があります。予算外というのが本来のものの五〇%近いわけでありまして、この部分にどうそれが影響を持っているのか、少し調べてみなければいけないと思っております。  二つ目のインフラ整備ということでありますが、依然としてこれは中国にとっては非常に重要な問題だろうと思います。先ほど冒頭のところで、中国においては生産力の拡大から、拡大した生産を今度は分配する、どのように分配するのか、そこに焦点が変わってきた、こう申しましたけれども、依然としてやはり生産力の拡大は重要であり、そのために必要な基盤整備というのはなお非常に大きな緊急の課題だろうと思います。  物流についても、鉄道輸送はほとんど限界点に達しております。もっとそれを拡大していかなければいけない。道路網の整備、こういった問題もあります。さらには、産業の最も基本であるエネルギーや水という問題についても、先ほどエネルギーについては既に高木先生の方から問題が提起されましたけれども、石油はもうほとんど増産できない、コンマ以下の増産状況であり、既に一九九三年から輸入大国に転じているわけでありまして、こういったエネルギーの問題。それから、水資源の枯渇というのは中国の北部、華北以北ではもう極めて深刻であり、この問題をどうするのか。三峡ダムの建設というのも長期的に見れば揚子江の水を北に持っていく、黄河に持っていく、こういうことが裏の本当の意味だと、こういうふうにも言われております。  さまざまな面でこれからも大規模なインフラ整備を中国は必要とし、そしてそれに対する日本協力が期待されているということだろうと思います。
  36. 川橋幸子

    川橋幸子君 両先生、ありがとうございます。お疲れだと思いますが、言ってみれば非常に幼稚な質問をさせていただいて、お答えいただければありがたいと思います。  まず高木先生には、レジュメの一番最後のところでございますが、「経済発展の帰結と政治的安定」の三に書かれた「社会的動員」というところの御説明、時間がなくて十分でいらっしゃらなかったような気がいたします。この「社会的動員」というのが政治的安定のキーポイントになるのかどうかというあたりをお教えいただきたいと思います。  次に小島先生には、同じ問題意識なんでございますけれども、中国式社会主義の自己矛盾を解決できるような国になるのかどうか。そのあたり、テンポもあるのかもわかりません、さまざま浮き沈みがあるのかもわかりませんけれども、かなり長期のタームで見ていただいた場合にどんなストーリーを描いていくのかなということをお教えいただきたいと思います。  両先生に同じような質問をさせていただいた私の非常に基本的な疑問は、米ソの冷戦構造の終結によってロシア中国は明暗を分けたのかなと。ロシアの方は一時期非常に荒廃して、このごろ立ち直りつつあるというふうに報じられているようでありますけれども、中国の方は崩壊を経験せずに、指導層の指導なりあるいは対外資本の投資なりで経済も政治も比較的うまくいっているのかなと思いましたら、お二方の先生のお話では、私の受けとめ方では、それほど安定的ではないと、まだまだいろんな問題をはらんでいる過渡期の状況というふうなお話がありました。ですから、もしかしたらロシアのように崩壊して立ち直るようなことがよかったのか。それとも、日本人というか、アジア的価値なんていうとちょっと漠然といたしますけれども、それほどの困窮といいますか混乱を経ずに立ち直ることが人類にとって幸せだとすると、中国式モデルでうまく政治的に安定して世界的にも混乱を及ぼさない、そういう国に変身していくのかどうか、そのあたりのところが非常に基本的な疑問でございました。  そういう趣旨から、両先生に順にお伺いさせていただきたいと思います。
  37. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 非常に大きな、しかも重要な問題を提起していただきまして、私もどういうふうにお答えしていいかと思いますが、多分私の足りないところは全部小島先生がそれ以上のことをおっしゃってくださると思いますので、安心してトップバッターを務めさせていただきたいと思います。  まず、細かいテクニカルなことですが、私のレジュメの最後に書きました「社会的動員」ということについて、御指摘のとおりちょっと時間で押されておりまして説明が不十分でありましたが、要するにここで言っていることは、国民とか人民の心の対外開放といいますか、多様な価値観だとか情報を受け入れるようになるというそういう状況、そして新しい物の考え方に従うことが可能な状況ができるということであります。これはちょっと抽象的な言い方ですが、具体的には経済成長でありますとか、都市化の進展でありますとか、教育水準の向上でありますとか、メディアとの接触の増大というようなことが条件となって起こることでありまして、中国にはそういう状況が既にできている、特に都市部においてはできていると私は思います。  これはある政治学者の理論なんですが、この社会的動員状況がある中で何らかの理由により人々が問題を政治的に解決しようという状況が起こるとここに爆発的な政治参加の拡大が起こる、爆発的に政治参加が拡大したときに政治制度がそれを吸収し得るような制度でないとすれば、そこに政治的な不安定状況が現出するだろうということであります。  中国は、御案内のとおり、共産党の一党独裁の体制を依然として維持しているわけでありまして、この体制の中で急速な経済成長を遂げ、それに伴って社会的にも大きな変動が起きておりますし、利益の多元化ということも進んできております。これが、それぞれが右肩上がりで欲求を満足させ得るような状況においては、とりあえず矛盾は顕在化を抑えることができる、格差の拡大にせよ腐敗にせよ。しかし、この右肩上がりの成長が見込めなくなったような段階においては、欲求ばかり上がっていって実績が下がってくるということでギャップができるわけですね。具体的な数字としてはなかなか示せませんが、このギャップがある閾値を超えますとそこに爆発的な政治参加の拡大というものがもたらされるだろうと。  クリントン大統領が先月の二十四日に対中政策に関する演説をしたんですが、その中に非常に興味深い一節がありまして、彼はまさにその社会的動員のことを指摘しているわけであります。すなわち、三十年前には四十二しかなかった新聞が今や二千二百ある、そして七千の雑誌があってその内容はますますオープンになってきている、十年前にはたった五万しかなかった携帯電話が今や七百万以上ある、インターネットは口座を持っている人が既に十五万いるというような数字を挙げているんですが、これはまさにその社会的な動員状況が起こっているということであります。  先ほど来の小島先生お話にもありますように、中国の経済の今後というのが決して楽観できるものでないとすると、いずれそれが、国有企業の民営化に伴う失業者の急速な増大でありますとか社会保障の急速な劣悪化というようなことを発火点とするのかもしれませんが、政治参加の爆発的な増大ということは今後ともあり得るだろうと思いますね。そうしたときに、そういう状況を見越して今のリーダーシップが有効な政治制度の改革を進めていけば何とか無事乗り切れると思いますが、共産党の一党独裁体制に利益を持つ人たちがこれにがっちりとしがみついてこの体制を何とかして維持しょうとすると、どこかで爆発点があらわれてしまうのではないかということを私は懸念しております。
  38. 小島朋之

    参考人小島朋之君) 私も余りうまくお答えできるかどうかわかりませんが、まず第一点、これまで中国ロシアとでは、ロシアが非常にまずい、中国はうまくやった、こういうふうによく言われると。私もそうだとは思いますけれども、まさに川橋先生がおっしゃられたとおり、私はまだ長期的に見たら勝負はついてないんだろうというふうに思っています。  確かに、ここまでのロシアというのはまことに問題が多かった。しかしながら、政治面における改革というのはとにもかくにもやっちゃった、たとえ旧ロシア的なツァーリスト的な側面はあったとしてもとにかくそれはやつちゃったと。これからは経済をちゃんとすればいいということは、これからどんどん伸びていく、そういう可能性は十分秘めているのだろうと。片や中国は、政治はがっちりと固めたまま問題に目をつぶって経済のみでやってきた。しかしながら、まさにこれから、今高木先生がおっしゃられたようなそういう条件の変化によって政治の問題に直面していかざるを得ない。これをどうするのかということになると、まだ勝負はついていないというふうに私自身は思っております。それがまず第一点であります。  その中でも中国自身が自己矛盾を解決できるような日が来るのか、長期的なシナリオの中でそれを考えていくとどうなのかという御質問に対しては、申しわけありませんがイエス・オア・ノーではなくイエス・アンド・ノーと、こういうふうに答えたいと思います。つまり、やはり幾つかの条件が必要になってくるだろうと思います。  一つは、これまでの中国の変化の最大の要因一つが国際社会の協力を仰いでいくということであったと思います。それをまとめてみれば、国際化ということだろうと思います。これをこれからも中国はやっていかざるを得ない、こういうふうに考えるとするならば、私はある種の自己矛盾を解決する可能性はあるのだろうと思っております。  二十年前の中国をちょっと振り返っていただきたいと思います。いろんな言い方をいたしますが、自力更生とも言いますが、しかし鎖国状況でありました。全く外の世界を知りませんでした。ある意味で全くの唯我独尊でありました。しかし、この二十年間、経済の対外開放を中心にしてやはり中国は変わったというふうに見ることができるのではないか、国際社会の中でのルールというのを守っていかざるを得ないということを認識するようになってきたのではないかと思います。  それは、まさに中国の経済の対外依存度があの大国にして四〇%をはるかに超えてしまった。固定資産投資、いわば公共投資と民間投資をひっくるめた全投資額の中で、外からの直接投資が占める割合が一九九五年では一八%、昨年でも一四%、これはもう圧倒的な外への依存度であります。輸出についても三〇%が外資系の企業によって行われている。これは外に頼っていかざるを得ないわけであります、変わらざるを得ないわけであります。これは経済だけでなく、ある種の未成熟な形で終わってしまいましたけれども一九八九年の天安門事件というのは、そういった中でいわば外の世界の情報革命というものを中国が受けた、浴びたその一つのあらわれであり、これからはますますその情報革命というのがいや応なしに中国を、都市を、農村を覆い尽くしていかざるを得ない。  そういう観点からいけば、国際的な圧力というのをますます中国は受けていかざるを得なくなってくる。これにどう対応していくのかということからいけば、二つ目の条件というのは、リーダーシップの頑迷さがどこまで溶解するのか、溶けていくのか、ここのところが問題になってくるだろうというふうに思います。  なかなか頑迷であります。頑迷というのは、これは私、何も共産党独裁体制を維持しようという意味で頑迷と言っているんじゃないのであります。中国政治史を見てまいりますと、中国が安定し、統一し、国民が統合される、そのときに中国の歴史においてはある種の定一尊、すべての価値を一人が決める、こういう状況がどうしても必要であります。つまり、皇帝型権威、権力というのが必要になってくる。まさにそれの現代版というのが中国共産党であり、そういった統一を図っていこう、統合を維持していこうという力が非常に強く働くとき、やはりこのリーダーシップの頑迷さというのはそう簡単になくならないだろう。  これがどう溶解していくのか、ここのところが問題であり、それを溶解していくとぎに、高木先生の言葉を使えば社会的動員と国際的な圧力というのが非常に大きな意味を持ってくるだろう。そのかかり方によって、自己矛盾を中国解決できるような日が来るかもしれないし、なかなかそれは難しいというふうな状況が続くかもしれないというふうに思っております。
  39. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 両先生のお話でかなり本質的なところに討議が進んだように思うんです。  小島先生のレジュメの最後に、今のような状況の中で「「鄧小平理論」で乗り切れるのか?……「鄧小平理論」の功罪を問う時期が到来」というふうに書かれているんですけれども、今のような頑迷な上からの指導のある社会で、本当の民主主義化なしに、例えば最大の課題である国有企業の問題の解決等々が実現できるような社会科学的な研究とか分析あるいは政策立案、そういうことがあり得るのかということを思うんです。  一つ、私は救いだなと思ったのは、日本国内でもかなり評価された渡辺利夫教授の中央公論の論文「虚妄の中国経済大国論」、これを渡辺さんが読売のインタビューで語っているところを見ると、「この論文は、意外にも中国で好評でした。等身大で描いてくれてありがたいと。中国共産党の情報紙で翻訳紹介されたのです。」というので、これは一つ救いがあるなと私は思ったんですけれどもね。  あの教授論文は、中国には統一市場はないんだと、中国にあるのは広大な国土に分散する無数の、多分に自給的な小規模市場の集計にすぎないと。鄧小平がやったことというのは、毛沢東が追い出した華僑資本を経済特別区等々で導入したところに最大の功績があるという分析なんですけれども、そういう鄧小平理論の二十年間続いた開放政策の本当の意味での功罪を問うだけの理論研究が今のままで可能なのかと思うんですよ。  鄧小平理論の前のも沢東時代の例えば大躍進政策、これが物すごく被害を及ぼした。清華大学を卒業してアメリカに留学された丁抒という人の「人禍」という本を見ますと、餓死者二千万人という恐るべき数字が詳細に書かれているんです。二千万人というと日本軍国主義の被害者と同じ数ですからね。その後これは毛沢東を目覚めさせるどころか、逆に史上前例のない文化大革命を引き起こさせ、さらに何百万人もの生命を葬り去らせたと書いているんです。  かつて外交・安保調査会時代に中嶋嶺雄現外語大学長が参考人でお見えになりまして、中国から帰ってきたと、文化大革命で犠牲者二千万人という数を聞いたと述べられたことがあるんです。その二千万人が死者の数か負傷者も含めてかわかりませんけれども、とにかく大変なことで、だから中国の戦後史というのは偉大さと暗黒面がないまぜられて展開されてきたと、そう思うんです。  私たちは、ちょうど大躍進政策の失敗でも沢東が上海に引っ込んでソ連との論争を指導していた時期、六六年に上海で会いました。フルシチョフがちょうどやめた後で、彼は意気軒高で、宮本書記長と決裂して、決裂した晩に紅衛兵に天空に攻め上れと彼が命令を出したということが後で明らかになった。そういう時期に私たちは中国へ行ったことがあるんです。  そういうプロレタリア文化大革命はある総括が行われましたけれども、大躍進政策にしろ、あるいはまた天安門事件にしろ、本当の総括は、例えば天安門事件の死者の数さえまだ明らかではないでしょう。それだけに、きょうお話しになったような今後の国有企業の改革問題、千五百万から三千万人の失業者が出るとか、また社会保障は今全くないというお話のような状況の中で中国が前進していく際には、アメリカの価値観を押しつける民主化でもないし文化大革命のときのような社会的動員でもない、本当に中国の条件に適合した民主主義化がないと科学的な研究も困難なんじゃないか。自然科学はかなり進んでいるようですけれども社会科学の方は大丈夫かなと思うんですけれども、いかがでしょうか。
  40. 小島朋之

    参考人小島朋之君) なかなか難しいところであります。  これもまず結論から申し上げれば、今の状況の中では、そうした理論研究、つまり今の体制を突き抜けるようなそういう理論研究中国国内で可能かというと、非常に難しいというふうに思っています。しかしながら、全くできないのかというと、私はそういう努力というのは中国の中でも続けられているだろうと思います。まさにそういう努力の結果として、文化大革命の後、鄧小平が改革というのを決定し、外に向けての開放というのを進めていったんだろうと思います。  その中で、天安門事件、あの前後においては、中国共産党としてはこの改革について枠をはめたにもかかわらず、例えば政治体制改革というのが必要であると、そして、政治体制改革というのは中国共産党の指導というものをもやはり考慮の一つとして進められていかなければいけないと、ある意味中国共産党の支配というのを否定するようなそういう議論さえも政治体制改革の中で出てきたんだろうと思います。  例えば、趙紫陽のもとで置かれた中国政治体制改革小組というのがありますが、その小組の組長というのは中国の社会科学院の政治研究所の所長で厳家其という人物であります。この人物というのは、今も申し上げたような形でのかなり先鋭な、現在の一党独裁体制を突き抜けるような改革案というのを提示していったわけであります。まさにそれは体制の中から出てきたわけであります。ただし、天安門事件の際に、彼は三名のほかの知識人とともに、肩書のない年とった皇帝が今中国を支配していると、こういう宣言をして亡命せざるを得なくなったわけでありますが、まさに体制の中からそういった理論研究、議論というのが出てくる。アメリカ合衆国の連邦制というものを学んでいかなければいけないんだ、それしか中国の国のありようというのは考えられないんだと、こういう議論さえもそのときには出てきていたわけであります。天安門事件の結果、完全にタブー視されてきたわけでありますが、ここ一、二年、若干こういった面での政治改革の議論というのが内部ではありますけれどももう一度復活してきている。  さらには、経済体制改革についても、先ほど申し上げたような国有企業改革、これについては保守派の側から激しい反発がありましたが、今回、ノミナルには、形式的には公有性の主体的な地位を守ると言いながら公有性の多様化という言い方で私有化へのある種の道を開く、そういった政策が提案されてきているということでありますから、こういう状況の中でも理論研究、ブレークスルーと言えるようなそういう理論研究は可能なのではないか、そういうふうに思っております。  特に、そういったことを進めていくテクノクラート、そのかなりの部分というのがアメリカ帰りの人々である。日本帰りが少ないというのが非常に残念でありますけれども、まさに我々あるいは世界の一流の経済研究者、政治研究者とほぼ同じレベルの理論的な素養を持った中国人の研究者、テクノクラートがいて、そういう人々が、今、上田先生がおっしゃられたようなブレークスルーにつながるような理論研究というのを進めていく可能性というのはあるのではないか。ただし、それが具体化されるかということになると、それこそ制約条件としての一党独裁体制というのはかなりしんどいなというふうに思っております。
  41. 高木誠一郎

    参考人高木誠一郎君) 今、小島先生から非常に広範かつ完璧に近いお答えがあったんですが、あえて二、三点つけ加えさせていただきたいと思います。  一つは、先ほどの川橋先生からの御質問に答え残したということにもなるのかもしれませんが、非常に長期的に見れば中国は何らかの形で民主主義的な体制になっていかざるを得ないだろうと思います。問題は、この転換がどの程度平和的にいわゆる軟着陸として起こるか、あるいは胴体着陸で済むのか、あるいは激突してしまうのかということで、民主体制中国になればそれなりに安定した国になると思いますが、問題は民主化が安定的にできるかどうかということにあると思います。  今、小島先生が上田先生の御質問に答えて、社会科学の研究状況について非常に懇切な説明をされましたけれども、一点つけ加えさせていただくとすると、アメリカには中国からの留学生が非常に多いんですね。今大体四万人と言われておりますけれども、特に天安門事件以降、あるいはそれ以前から留学していて帰らなかったような人たちの中に社会科学系の人が非常に多いです。私はちょっと比率の統計は持っておりませんが、その人たちがかなりアメリカに根を張って執拗に中国状況研究をしております。その中には、先ほど小島先生お話の中にも名前の出てきた蘇紹智というような人も含まれているわけで、中国現状、行く末をかなりじっくりと、突っ込んで、腰を据えて分析している人たちがアメリカにいると思います。彼らは中国アメリカ帰りのインテリたちといろんな形でコンタクトをとっておりますので、ブレークスルーにつながるような議論というのは、中国人の中から出てくるとしても、必ずしも中国在住でない人たちがそれを提供する可能性もあるということをちょっと一点、全くの補足なんですが、つけ加えさせていただきたいと思います。
  42. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  まだまだ質疑もあろうかと存じますが、予定した時間が参りましたので、参考人に対する質疑はこの程度といたします。  一言ごあいさつを申し上げます。  高木参考人小島参考人におかれましては、大変お忙しい中、長時間御出席をいただき、貴重な御意見を賜りましてまことにありがとうございました。本調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時五十八分散会