○石
参考人 ただいま御紹介いただきました石でございます。
時間が限られておりますので、以下、三点に絞りまして、最初の私の
意見陳述にかえさせていただきたい、このように思います。
第一点は、
財政構造改革についてのそもそもの基本的姿勢、あるいは、今ここで御審議いただいております
特別措置法についてどうあるべきかという、そういう大きな問題を最初に整理させていただきたいと思います。
今
景気動向が微妙になってまいりまして、この
財政構造改革法案、どうしようかということで、大勢の人がいろいろなことを申しておると思います。しかし、結論から申しますと、私は、これまでやってきました経緯等にかんがみまして、この
法案はぜひ通すべきであろう、このように当然のことながら考えております。
その理由でありますが、
財政赤字の蓄積あるいは累増、これが
我が国にとってもゆゆしき
事態になった。そういう
意味では、
財政赤字削減が絶対に必要である。その手段といたしましては、この種の
法案、この法律で、やはりしかとした歯どめといいますか、やる手段を確立しなければいけない、このように考えております。
顧みますと、既に二年ほど前から、大蔵省の
財政制度審議会の中の
財政構造改革特別部会とか、あるいはその後、自民党に幾つかのワーキンググループができまして、この
財政構造改革に取り組んできたわけであります。
そういう
意味で、中長期的な計画を過去二年にわたって築き上げてきたわけでありまして、これを今の、ある短期的な現象によって大きく修正するとかあるいは変えるとかいうのはまずすべきではないし、中長期的な課題というものは、しかとした
視点で、しかとした法律としてつくっていくべきではないか、このように考えております。
欧米各国を見ますと、
財政赤字削減につきましては、いずれもこの種の手法をとっております。つまり、健全化
目標に類したものをまず法律としてしっかり立てる。一番卑近な例では、アメリカの二〇〇二年までの
財政均衡法みたいに、二〇〇二年までに
財政を均衡させるといったことをしかと議会で審議し、決めるというスタイル。これは、ほかのヨーロッパの国々も大なり小なり同じようなアプローチをとっております。
そういう
意味で、この
特別措置法というのは、ぜひ、
財政赤字削減のためにまず最初にやるべきことではないか、このように考えております。
それでは、なぜ
財政赤字削減にこだわるか。その理由がありませんと、恐らくこの
特別措置法案に肩入れするという理由がなくなるわけであります。
財政赤字の言うなれば功罪あるいはいい悪いにつきましては、学界でも必ずしも
意見が統一されているわけではございません。ただ、四分の一世紀ほど前から、
日本は、
財政赤字につきましていろいろな形で議論が行われ、かつ、事実として
財政赤字が累増してまいりました。
一九七〇年代初頭には恐らく十五兆円ぐらいの債務残高であったのが、今や一般会計で見ましても二百四、五十兆になり、あるいは
地方まで入れますと五百兆近くなる。そのほかに、俗に言われます隠れ
借金、旧国鉄債務等々を含めますと膨大な数になり、今や一国の総
生産量をあらわします
GDPを超えている。こういう
事態になって、
財政赤字削減ということに対して、かなり真剣に、かつ、これは必要だという論者がふえてきたような気がいたします。
幾つか議論はあろうかと思いますが、やはり一番
財政赤字がたまってきて大きくなる問題は、将来
世代への
負担、ツケ回しと俗に言われます現象が大きくなってきた。これにつきましてもいろいろ
意見があるところでありますが、
国債というのは、しょせん課税権を担保にした国の
借金でありますから、いずれ、償還期限までは利子を払い続け、かつ、しかるべき償還期限が来たら元金を返す、そういう
意味においては個人の
借金と変わらないわけであります。
そういう
意味で、後
世代がこの元利を
負担しなければいけない。それも
税負担しかあり得ないわけでありますから、そういう
意味では、私は後
世代に
負担が残ると考えておりまして、この
危機意識が
国民の間でも高まってきた。あるいは、その
危機意識というのをしっかりと理解してもらってこの
削減に協力してもらうという姿勢、これが重要であろうと思っております。言うなれば、
財政が
赤字になった、これが
国民生活に結びついてきたということだと思います。従来、とかく国の
借金は、
財政当局が悪いとかあるいは政治家が悪いというような形で
国民とは一線を画してきましたが、そうではなくなったということ、これが第一点
それから第二点は、やはり
財政運営あるいは
予算原則の中で、元利償還費に充てます
国債費のウエートが見る見るうちにふえた。今二十数%
国債費になっておりますが、これは
社会保障関係費を上回っておるわけでありまして、こういう過去の
借金で手足が縛られるということは、
財政の効率的運営にとって好ましくない。そういう
意味で、この硬直化という現象は、やはり債務残高がたまっていることに起因するわけでありますから、
財政赤字を
削減するということにおいて解決されるということであります。
言うなれば、これが二つ、私自身、
財政運営にとって非常に大きな問題、あるいは
国民の
経済運営上非常に問題だと思っておりますが、そのほかに、一国
経済に与える悪影響というのは、欧米各国で既に指摘されております、例えばインフレの懸念であるとか、為替レートに対する影響であるとか、あるいは
金利を高く生むと。ただ、幸いなことにというか、
現状においては、
日本の
経済はこのようなマクロ的な悪影響というのはまだ顕在化しておりません。ただ、将来こういうものが顕在化するということは絶えず、
財政赤字がたまってきたときには考えておくべきことであろう、このように考えます。
第一点は、この種の悪影響が既に明らかになった、あるいは将来もっと顕在化するであろうということを前提にいたしまして、
法案できっちりと
財政赤字削減、これを
財政構造の
改革を通じてやるという姿勢を打ち出すのが極めて重要なことだと思っております。
それから第二点でありますが、その
法案の内容につきまして、やはり細かく見ますと、幾つか不備な点もあるし問題点もあろうと考えておりますが、ただ、
財政赤字削減の手法としましては、今ここに盛り込まれておりますような総論と各論を組み合わせたような形でやるほかないと考えております。
どういうことかといいますと、まず最初に、大きな網をかけるといいますか、恐らく健全化
目標という
言葉で説明されると思いますが、そういうターゲットを決める。つまり、二〇〇三年までに対
GDP比率で
財政赤字を三%にするとか、あるいは
赤字国債から脱却するとか、この種の話。あるいは二〇〇〇年までを集中
改革期間とするといった話ですね。こういう大きな
目標を立てるというのがまず最初に重要であります。
どこの国もこの種の話を最初にやって、実はこれだけで終わっては何にもならない。昔の
財政再建というのは、特例公債をなくすというだけでやってしまいましたから、そのやり方については縛りがなかった。そういう
意味では、
歳出カットでやるのか増税でやるのか、それの組み合わせでやるのかということにつきまして具体的な指針がありませんでしたから、いろいろなことをやったというふうに理解いたしますが、今回は、はっきり個別
歳出削減でやるということを言っているわけでありますので、各論といたしまして、個別
歳出に、俗に言う
キャップをかけなければ
意味がない。要するに、大きく網をかけた後でどこの経費項目を重点的に
削減するかという
キャップをかける、これが実は必要であります。
例えば、来年度
予算で
公共事業費はマイナス七%とすると言っておりますが、この種のことに関しまして、幾つか各個別経費ごとに
キャップがかかったということを私は大きく
評価いたしているわけであります。恐らく、この
キャップのかけ方なくしては、総論賛成、各論反対になって、また
財政赤字削減ということはもとのもくあみになるのではないかと危惧いたしておりましたが、そういう
意味で、総論部分と各論部分が二つ合わさったこの
法案につきましては、細かい点は抜きにいたしまして、大きな目で見れば
評価し得るに足る、このように考えております。
さて、第三点でありますが、この三点目、
景気動向との関係、これが恐らく一番の問題あるいは
国民的関心になっているのではないかと思いますし、
財政構造改革の是非もこの
視点に絞られてくる
可能性もあります。
そこで、私は次のように考えております。
財政構造改革というのはそもそも中長期的な課題でありまして、現にこの
法案でも二〇〇三年までをにらんでやっているわけであります。ところが今、世界同時株安みたいな現象が短期的な現象として株式市場を襲っておりますが、
日本の
景気動向も、バブル崩壊後、後を引きずって、かなり長い間勢いかない、低迷していると言われております。しかし、あくまでやはり
景気対策というのは、緊急性を要するという
意味においては短期的な課題であろうかと思います。したがいまして、中長期的ないろいろな
政策立案にその時々の現象で起こる短期的なものを組み合わせるというのは、まず難しいというか不可能であろうと思っております。
そういう
意味では、中長期的な
視点をしっかり織り込んだ施策を立てて、あとその時々出てくる
経済面の諸現象はそれに合わせて執行面でカバーするほかないだろう、このように考えておりますので、今の中長期的な課題としての
財政構造改革の特別
法案は、とりあえず最初に確立しておくということがどうしても必要なことだと思います。
ただ、両者はうまく相両立てきないかということを言う方もいらっしゃいますが、究極的に詰めていきますと、やはり
景気対策と
財政構造改革というのはトレードオフの関係に当面はなるだろう、このように考えますので、この関係はこれからしばしば問われてこようかと思っております。
これは、今
日本の
経済現象をどう見るか、
経済の停滞面をどう見るかにひとえによってくるわけでありますが、私は、今の
景気低迷は、バブル崩壊後の言うなれば構造的な要因によっていることが大半であって、例えば資産デフレの問題だとか土地が流動化していないとか、あるいは最近での金融・証券不祥事等々が人々の活性化につながらないようなことになったとか、さまざまあろうかと思います。あるいは、アジア発の言うなれば金融面での悪影響、あるいは雇用の慣行が大分変わってきた等々ありまして、こういった構造的な問題はやはり構造的な対応で対応するしかないだろう。
つまり、
減税なり
公共事業を増大させて有効需要を
拡大して、短期的な
視点からという、俗に言われますケインズ的な施策というのは今の段階ではなじまない。したがって、過去六回やりました総合
経済対策の反省も踏まえまして、私は、今構造的な
改革に
視点を移して、そして議論をすべきであろうと思います。ただ、
財政構造改革の方向と矛盾しないような形での税制
改革なり、あるいは
政府の施策というのはないことはないので、その辺で知恵を絞るという余地はあろうかと思います。
失礼いたしました。後で、質問等々のところで補足させていただきます。(
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