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浅岡参考人 気候フォーラムから参りました
浅岡でございます。
本日は、このような場にお招きいただきましてありがとうございます。
私は、これまで四半世紀の間、弁護士といたしまして
環境汚染や
製品事故による
被害者救済活動に携わってまいりました。その過程で、
被害を未然に防止いたしますことの
重要性と、しかしながら、
日本の
社会にそのような
社会システムが欠落しているということを実感してまいりました。また、
被害に早く気づき、適切な
対策を早くしなければならない、おくれればおくれるほど
被害は深刻になり、かつ回復に恐るべき時間と費用を要するということも見てまいりました。
このことは、
気候変動問題におきましてもそのまま当てはまることと思います。IPCCの
報告が明確に指摘しておりますように、既に
気候変動は起こっております。このまま
二酸化炭素などの
温室効果ガスの排出が続きますと、とりわけ私
たちがこの三十年来の暮らし方を続けてまいりますならば、
子供たちに深刻な
被害をもたらすでありましょう。さらに、最近の
研究によれば、海洋大循環の停止、海底からのメタンの大規模な噴出など、取り返しのつかない
環境の激変も起こる
可能性すらあります。私
自身、三人の子の母といたしまして、
気候変動の影響の深刻さと、今直ちに
対策をとることの
重要性、緊急性を学んでまいりましたこの一年でございます。
私
たちは、一九八八年のトロント目標の設定以来、既に十年という貴重な歳月を無為に失ってまいりました。
気候変動枠組み
条約の締結からも五年の歳月が経過しております。
温室効果ガスの十分な
削減を
合意した
議定書の採択が
COP3で期待されておりますが、この
COP3は、極めて重要な歴史的意義を持っております。
第一に、
気候変動問題は、私
たちの文明のあり方に再検討を迫る深刻な問題であります。私
たちは、化石
燃料に依存した
エネルギー多消費型の
社会から、文明史的とも言える転回をしていかなければなりません。今年三月に公表されました産業構造
審議会地球環境部会の
報告でもその一端は指摘されておりますけれ
ども、そこでの結論は、これまでの文明観や産業構造に本質的な転換を迫るものではありません。
第二に、このような文明史的な転回のためには、政策形成過程での市民の参加とそのための情報公開の
重要性を幾ら強調いたしましてもし過ぎることはありません。この問題こそ市民が政策形成に参加できる
社会への変化の試金石と言えるでありましょう。
第三に、もしこの
京都会議が失敗いたしますならば、
日本の今後の国際
社会における地位に深刻な影響をもたらすと思います。逆に、
日本がこのような重要な
会議の議長国を務め、困難な
会議を成功に導くことができますならば、憲法の前文にもうたわれておりますような、二十一世紀の国際
社会における名誉ある地位を占めていくかけがえのない機会となるでありましょう。議長国に名乗り出ましたことを好機といたしまして、この
会議をぜひとも成功させていただきたい、私
たちもそう考えております。
さて、
気候変動問題についての
国民の意識を見てまいりますと、本年六月のあるマスコミの世論
調査では、八四%の人々が経済や景気に影響が出ても
温室効果ガスの排出
削減が必要だと
答えております。同時期の総理府の
調査でも、現在程度の生活水準であればよいと
答えた人が八割を超え、一九八五年以前の水準でもよいと
答えた人も七割を超えております。最近の世論
調査会の
調査では、
環境税や
炭素税の導入についても六六%の人が支持をしております。
国民は
地球温暖化の防止の
対策をとっていくことを支持をしているわけであります。また、そのように実践していこうとしております。
しかしながら、
日本におきましては、九〇年以来
アメリカよりも
二酸化炭素の排出の増加率はもっと高く、OECD諸国の中でもトップクラスでありまして、九六年には九〇年比九・四%増となっております。こうした現状から、
日本政府はこれ以上の排出
削減は不可能であるとの態度に終始してまいりました。しかも、
日本政府は最近十月六日まで具体的な自国の
削減数値目標も明らかにできませず、
アメリカとともに
議定書交渉の進展をおくらせてまいりました。
日本は目標数値の国別の差異化を特に強調しておりますが、附属書1の国と申しましても、経済的、資源的、
社会的
環境はさまざまでありまして、差異化についての問題は、それ
自身をいけないと申している立場ではありませんけれ
ども、現在差異化
提案を行っている国々が、真に公平を実現するためではなく、それぞれの自国の目標数値を切り下げるためにしていることにあります。そのために
議論が時間を要しております。差異化についての
日本提案にも、理念的
意味や理論的整合性を欠いていると言わざるを得ません。
COP3の直前になって、なぜ今このような
日本提案が公表されるに至ったのでしょうか。そこに、今日の
日本社会の問題性を凝縮して見ることができると思っております。
そもそも、どれだけ
削減できるかということは、
技術の内容や普及の程度やとられる政策などにかかっておりまして、
削減ゼロの場合にはa、b、cのような政策によるシナリオが、
削減率一〇%の場合であればx、y、zのようなシナリオがあるのでありまして、それらの中から選択をしてまいるのは
国民であります。ただ
一つこれであるということではないはずであります。
国民の側からもシナリオを提起し、
議論する場が必要であります。私
たちの側でも、これまでに本当に
削減の
可能性はないのかということを検証してまいりました。
しかしながら、これまでの
日本提案に係ります
議論の経過はいまだ明らかにされておりませんし、
気候フォーラムが開示を求めてまいりました
資料も私
どもに知らされておりません。省庁間の官僚だけによるプロセスからは、これまでの
COP3の歴史的な意義は消えうせてしまいました。二〇一〇年に九〇年水準に戻すのがぎりぎりである、そのために
原子力発電二十基の増設が必要だという通産省の結論だけが残りました。これは、政策決定のプロセスとその結論を
国民に説明して了解を得るという行政の求められるアカウンタビリティーを果たしておりませんし、さらに第三者からの科学的検証を排除する、こうした態度にほかなりません。
こうした中で、昨日、
地球温暖化問題への国内
対策に関する関係
審議会の
合同会議の最終会合がございまして、総理への
報告を本日なさるとのことであります。
この
合同会議は、これまでの縦割りの省庁間だけの
議論を克服いたしまして、
地球温暖化問題への対応の
基本的な方向づけを行う目的で開催されたはずのものであります。しかしながら、ここでも事態は全く変わりませんでした。通産省は、具体的な根拠を示さないまま政府案を説明し、
合同会議はこれを追認したにすぎないと言わざるを得ません。
もともと
合同会議は、数値目標について
議論をするのではなく、政策方針を検討するという奇妙な位置づけで始められたものであります。しかも、
審議は非公開で行われ、十月二十七日と三十日、急速行われたヒアリングもわずか四人の
委員が
出席しただけということに示されておりますように、本当に
国民の声を聞こうとする姿勢は見られませんでした。
この
合同会議の結論は、政府といいますより通産省の
意見と言ってよいものだと思いますが、これが政府の今後の
議定書交渉に影響を及ぼすものであってはならないと思います。
さらに、以下、二、三、指摘させていただきます。
この
報告は一貫して、
日本はGDP当たりの一次
エネルギーの利用
効率は
世界最高水準であり、運輸と民生部門の増加に対応することが重要であるとの視点で記述されております。
もちろん、
家庭におきます
エネルギー消費や個人のライフスタイルの転換の
重要性は言うまでもありません。しかしながら、大量消費や大量廃棄型のライフスタイルは、大量生産
システムと利便性や快適性を強調した宣伝によって増幅されてきていることを見過ごしていては、とるべき
対策を見誤ることになりましょう。
日本の産業部門からの排出は五〇%を超えます。運輸や民生の業務関連
部分も加えますと、七〇%を超えております。欧米に比べて大変な高率であり、この部門からの排出
削減も重要なことであります。
産業部門における排出
削減は、主に経団連の自主行動計画に依拠したものでありますけれ
ども、この計画は総量での排出
削減をもたらすものではありません。また、ドイツのように拘束力のある目標でもなく、第三者による検証を受けることにもなっておりません。
なお、産業部門での
削減の余地が多いことについては、幾つかの
研究で既に明らかにされております。
国立環境研究所と名古屋大学によるAIMのモデルでは、九〇年レベルから一五%の
削減が、CASAは、
エネルギー消費活動の水準をほぼ現在のレベルに維持していきますと、同じく一四・七%の
削減が可能としております。
また、この通産省の
報告は、
削減のための投資の重さだけを強調いたしまして、
エネルギーコストの
削減や、それによって新たな産業が起こることの効果を見ようとしておりません。
運輸部門でも、ハイブリッドや直噴式エンジンによって大幅な
効率改善が見込まれておりますけれ
ども、これを積極的に導入する施策を取り入れるものとはなっておりません。輸送の
効率化にも踏み込んでおりません。
エネルギー供給面におきまして、通産省は、
原子力発電の推進が必要と強調しておりますけれ
ども、
原子力発電の設置が困難な現状がその
安全性や廃棄物処理問題にあることは、御案内のとおりであります。その問題を解決することなくして、
地球温暖化対策を理由に
原子力発電所の建設を推進しようとするのは、本末転倒と言うべきであります。むしろ、
エネルギー消費自体も
削減し、太陽光や風力など新
エネルギーの導入にこそ本腰を入れるべきであります。
ところで、通産省の資源
エネルギー庁は、通産ジャーナルの今月号で「二〇一〇年の
社会」を書いておりますが、これは大変暗いものであります。
技術開発能力のない企業は市場から撤退しなければならなくなるとか、家電、OA製品などの使用を断念しなければならないなどとして、
国民を怖がらせているのはなぜなのでしょうか。
私
たちは、二十一世紀に求められる
二酸化炭素排出
削減社会というのは、二十世紀型の物質文明とは決別し、
エネルギー効率を高め、また再生可能な代替
エネルギーを拡充することなどによって、本当のゆとりを感じられる
社会になると考えております。
今私
たちに求められているのは、
削減できるのかできないのかといったこうした
議論ではなくして、
削減するのだという強い政治的な意思と、どう
削減するのかについての
国民的
議論であります。
議会の皆様には、
地球温暖化防止に向けた国内の
合意形成を積極的に図っていただきますとともに、その過程を通しまして、
国民への情報公開と参加という、我が国がこれからの
社会的活力を得ていくために必須の課題に取り組んでいただきたいと思います。
ありがとうございました。(
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