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参考人(
芹生琢也君) 連合の
芹生でございます。本日は参議院
予算委員会において
意見を述べる
機会を与えていただきまして、ありがとうございます。私は税制に関しまして今連合が要求している幾つかの問題について
意見を述べさせていただきます。
連合は、今回の消費税
引き上げの前提条件といたしまして、第一に益税解消など消費税の改革、それから第二に総合課税、納税者番号
制度の早期導入、さらには特別減税の継続
実施を求めてまいりました。このうち、特別減税の問題につきましてはさきに本
予算委員会の公聴会におきまして私どもの鷲尾
事務局長が
意見を申し上げさせていただいておりますので、私は税制の不公平を是正するという立場から、総合課税、納税者番号制の導入の問題とそれから消費税の改革について
意見を申し上げたいと思います。
ただいま石先生から大きな問題というか大きな流れについてお話がございました。私が申し上げるのは非常に小さい面からの話になると思いますけれども、しかし勤労
国民の立場からすれば非常に重要な問題と考えておりますので、よろしくお願いいたします。
まず初めに、税制の基本的なあり方について。私たち連合は、税制・
財政に求められております社会的再分配の
役割という観点から、累進税率を持つ所得課税を基本としつつ、所得、消費、
資産課税のバランスのとれた税制を確立すべきであると考えております。
所得税が今日の基本税目になっている理由というのは、
一つは納税者の租税
負担能力に応じて税を納めるという税の応能
負担の原理に適合していること、したがって税
負担の公平の理念に最もよく適合していること、そして所得の再分配機能にすぐれていること、そういうことが理由と考えられます。しかし、
我が国の税制では、利子配当所得や株式、土地など譲渡所得、いわゆる
資産性所得が分離課税とされていることから、税の垂直的公平が損なわれているというふうに言わなければなりません。
例えば、預貯金の利子については、所得税一五%、住民税五%、合わせて二〇%の源泉一律分離課税となっております。これは、所得税の最低税率一〇%が適用される課税所得三百万円以下の人であっても、その預貯金の利子に対しては一五%の税率で所得税が徴収されるということでありますけれども、その差の五%分というのは本来払い過ぎの税金というふうに言うべきでありましょう。しかし、それを還付する
制度というのはございません。一方、最高税率五〇%が適用される課税所得二千万円以上の人の場合、その利子所得に対しまして一五%の源泉徴収で納税完了というふうになります。
したがって、垂直的公平を確保するためには総合課税がぜひ必要だというふうに考えております。そして、こうした総合課税を厳格に
実施しようとすれば納税者番号
制度の導入というのがぜひ必要になるというふうに考えておるところでございます。
この納税者番号
制度につきましては、
政府の税制調査会におきまして一九七八年、
昭和五十三年以来さまざまな角度から検討が行われております。一九八八年、
昭和六十三年には納税者番号等検討小
委員会も設置されまして、同年十二月と
平成四年、一九九二年の二回にわたりまして報告も行われております。
八八年十二月の報告では、「納税者番号
制度は、」「納税者の所得等を把握し適正・公平な課税を実現するためには有効な
制度である」というふうに述べられております。さらに、一九九四年十一月の
平成七年度税調答申では、納税者番号の目的、効果が三つの類型に整理されまして、それぞれについて具体的な仕組みのイメージ図も作成されております。したがって、私たち連合も、この税調の示しました納税者番号の類型のイメージ等について、これをもとに検討してまいりました。
政府税制調査会が示した三つの類型のうち、まず第一の類型は納税者番号を税務行政の機械化、効率化に利用するというものでございます。
現在でも税務署は大量の法定資料を住所、氏名によって名寄せそれからマッチングしておるわけですけれども、これは膨大な作業になっております。しかし、納税者番号を導入することによって番号によるコンピューター処理が可能になるということで、このような法定資料を大量にかつ正確迅速に処理することができるという目的、効果を期待するものが第一の類型でございます。
それから、第二の類型は、総合課税のために利用するというものでございます。
利子配当あるいは株式譲渡益などについて給与などの所得と合算して課税する総合課税の
必要性についてはただいま既に申し上げたところですけれども、この総合課税のためには所得把握
体制の整備が必要となります。そして、そのための法定資料も非常に膨大なものになります。それを効率的に整理、
管理するためには納税者番号の導入が不可避だというふうに考えられます。
なお、総合課税とする場合、大蔵省では一般のサラリーマンでも原則として確定申告が必要になるというふうに言っているようですけれども、私たちは一定額以下の少額な利子配当あるいは株式譲渡益などについては現行どおり源泉分離課税というふうにすればそれほど膨大な申告数にはならないのではないかというふうに考えております。現に総合課税を基本としているアメリカなどでも少額の利子所得などは分離課税というふうにされているところであります。
第三の類型は、相続税など
資産課税にもこの納税者番号制を利用するということでございます。
現在は、預貯金あるいは株式、
不動産、貴金属などの相続が発生した時点で相続人が税務署に納税申告を行うということになっておりますけれども、これら
資産保有についての資料というのはございません。そこで、
金融機関、株式会社あるいは証券会社、さらには登記所などからこのような納税者番号を記載した資料というものを税務署に提出し、法定資料としてそのような納税申告書と照合を行えるようにするということが第三の類型というふうにされております。
私たち連合は、納税事務の合理化、効率化のためだけに納税者番号を利用するというようなことは想定しておりません。すべての所得に関して総合課税を
実施するため、あるいは
資産課税にも利用するため、これらの三類型すべてにわたって納税者番号を活用するということで課税をより公平にしていくべきだというふうに考えております。
諸外国でも納税者番号を取り入れている国はたくさんございます。番号の付与の方式によって幾つかのパターンに分かれると思いますけれども、アメリカ、カナダは社会保障あるいは社会保険番号を使用しているようでございます。それから、住民登録番号を利用しているのがスウェーデン、デンマークなど一般的に北欧方式というふうに呼ばれておるようです。それからもう
一つ、イタリアとかオーストラリアでは税務当局が直接納税者に対して納税者番号を付与しているようでございます。
なお、フランスではこのような
国民に対する
国民ID番号というのがあるわけですけれども、これは税務には利用されておりません。そしてまた、ドイツやイギリスではこのような番号自体がございません。これはプライバシーに問題があるからというふうにされております。
我が国でも近年納税者番号の候補になるような番号というのはできております。その
一つは、九七年一月から
実施されている基礎年金番号でございます。もう
一つは、二〇〇〇年からの導入を目指して準備が進められている住民基本台帳コードでございます。
基礎年金番号というのは、これは年金給付という受益を伴うので、番号としては
国民に非常に受け入れられやすいという要素があるかと思いますけれども、しかし一面で、年金未加入者の問題、あるいは住所変更がある場合、それを把握するという点が難しいというふうな問題もございます。一方、住民基本台帳コードというのは、番号としてはより包括的で、自治省の研究会報告書でも納税者番号としても活用が可能というふうに報告しております。
納税者番号を導入していくためには、もちろんなお解明しなければならないいろんな問題点があります。
その
一つは、プライバシーにかかわる問題でございます。
税務当局に集められた情報が外部に漏れたりあるいは税務以外の目的に利用されたりするということになれば、これは大変な問題であります。この点で、税務職員には、一般の公務員よりも重い守秘義務というのが公務員法のほか税法でも課せられているということでございます。また現在、個人情報
保護法というのもあるわけですけれども、しかし今後、情報社会化が一層進展するという中では個人情報が今まで以上に収集、利用されるという社会的な現象も起こってくるというふうに思いますので、行政だけではなしに、現在野放しになっている民間も対象にしたプライバシー
保護に関する法
制度の整備というのはぜひ必要だというふうに考えます。
第二に、納税者番号の導入を進めようとすれば、さまざまなコストがこれは行政にも民間にもかかってきます。
税調でも行政コストについていろいろ試算されているようですけれども、納番制をどこまで利用するかということによってコストもいろいろ違ってくるというふうに言われております。税調では、初期費用としては一千数百億円、それから経常費用としては年間数百億円が見込まれるというふうに言われております。このほかに、金銭に換算できないようないわば手間暇に属するようなコストというのもたくさん出てくると思います。しかし、公平公正な税制を実現するためにはさまざまなコストが生じるというのはやむを得ないことだと思いますし、そのような必要なコストというのは互いに
負担しなければならないのではないかというふうに考えております。
それから第三に、経済取引への影響の問題があります。
経済のストック化ということが言われる中で、投資の対象というのも非常に多様化しております。一部の分野だけ納税者番号によって把握しようとすれば、他の分野に大量の資金移動が生じるという可能性も指摘されております。したがって、納税者番号
制度の対象となる取引の範囲というのはできる限り広くして、そうした資金シフトにも対応できるようにしていくことが必要かと思います。
それから、先ほど石先生もおっしゃいましたけれども、
金融の国際化が進む中では、国内取引のみを対象とするのでなしに、海外への送金等についてもこの納税者番号
制度による把握の対象とするということも必要になるかと思います。あわせて、税務執行の国際協力を一層推進するという必要があると思います。
納税者番号の意義について、ここでもう一度まとめておきたいと思います。
納税者番号を導入して総合課税を図れば確かに税収はふえます。例えば、中央大学の教授で元
政府税調の特別
委員をなさっておりました富岡幸雄先生が三年ほど前に試算されておりますけれども、利子について分離課税をやめて総合課税に変えた場合、所得税がどれほど増収になるかということで計算して、約二兆二千六百億円の増収になるというふうに発表されております。ところが、その後、公定歩合が〇・五%まで低下しているという事情もありまして、最近の低金利の
状況のもとでどうかという点、これは税理士の村上晴男さんという方が同じような方法で計算して約半分の一兆一千二十六億円の増収というふうに発表されております。
しかし、総合課税、納税者番号
制度の導入というのは本来税の増収を目的とするものではございません。課税の公平を実現するというのが目的でございまして、私たちもそういうことで主張しております。したがって、もしそれで税収が増大するのであるなら、その分当然所得税の減税というのを行うべきであろうというふうに考えております。
私たちがなぜそれほど公平にこだわるかと申しますと、
我が国がこれから超高齢社会に向かう中で、福祉、社会保障の
制度を
維持していくためには、もちろんいろいろな
制度改革も必要となるでしょうけれども、いずれにしても
国民の
負担増は避けられないというふうに考えております。その際、
国民が
負担増を受け入れるかどうかということは、大きく言えば
負担を求める政治の信頼性にかかわってくる問題だと思いますけれども、具体的には、
一つはそれが福祉に使われるという目的の明確性、いま
一つは
負担の公平性にかかってくるというふうに思います。これが実現しなければ、
国民はなかなか
負担増に容易に応じないのではないでしょうか。
納税者番号
制度の導入につきましては、さきに申しましたとおり、
政府の税調で長らく検討されてきております。しかし、私たちの印象では検討ばかりが続くという感じで、なかなか具体的には前進がございません。
この一月に、
政府税調が「これからの税制を考える」と題する問題提起を行われていますけれども、この中でも「税制に対する
国民の信頼の基礎として税
負担の「公平」が重要です。」というふうに述べられております。しかし、なぜか総合課税、納税者番号制については言及がされておりません。もともと、二十一世紀初頭を目途にその導入に向けた積極的な取り組みが行われるべきであるというのが税調の当初の指摘でありました。これはまた、九四年九月の与党三党合意の中にも二十一世紀初頭の導入ということが明記されております。
ここまで来れば、納税者番号
制度の導入というのはもはや政治の決断の問題だというふうに言えます。国会で総合課税、納税者番号
制度の導入の方向を決議していただき、それから
政府みずからが
国民合意形成に向けて積極的に取り組むということを切望いたします。
それから、税制改革のもう
一つのテーマとして、消費税の改革について石先生もおっしゃいましたけれども、私も同じようなことになりますけれども申し上げたいというふうに思います。
消費税がこの四月以降三%から五%に
引き上げられますけれども、現行の消費税というのは大きな欠陥を持っております。仕入れ税額控除方式のあり方、あるいはいわゆる中小特例
制度にかかわって、消費者が支払った税金というのは全額国庫に入らない、事業者の手元に残るいわゆる益税問題、これが最大の欠陥の
一つであります。
この点については、確かにこの間さまざまな是正も図られております。中小特例のうち限界控除
制度というのはこの四月から廃止になります。また、簡易課税
制度につきましても、四月からはその適用上限が四億円から二億円に下げられるなど是正が図られます。
しかし、免税点
制度はそのまま残されます。石先生もおっしゃいましたけれども、ヨーロッパ諸国の免税点
制度というのは六百万円か七百万円というふうにおっしゃったと思います。いずれにしても、
我が国の三千万円というのはいささか高過ぎるというふうに思います。せめて一千万円程度にまでは引き下げるべきではないでしょうか。
また、仕入れ税額控除方式ですけれども、これもヨーロッパで採用されているようなインボイス方式とすべきであります。
我が国独特の帳簿方式に、請求書、納品書等の書類の保存をつけ加えて
日本的インボイス
制度というふうに呼ぶのは余りにも安易だというふうに考えます。消費者が支払った消費税が確実に国庫に届くようにするためには、仕入れ税額控除方式についてはインボイス方式に改めるべきだというふうに考えます。これによって消費税をクリアな税制に改革していかなければなりません。
また、消費税の持つもう
一つの欠陥、いわゆる逆進性が挙げられますけれども、これは低所得者ほど消費性向が高いために税の
負担率が高くなるということからくるわけですけれども、この逆進性を緩和する手段として、例えば食料品初め生活必需品に対する軽減税率等も言われております。しかし、将来このような複数税率を適用するためにもインボイス方式にしておく必要があるというふうに思います。
私たちは、消費税を超高齢社会に対応していくための極めて重要な税目であるというふうに認識しております。それだけに、だれが見てもクリアな
制度にしておかなければいけないというふうに考えております。今
国民の消費税に対する嫌悪感もこうした消費税の欠陥に根差しているというふうに考えますので、これを正さないと
我が国において消費税は高齢化時代の福祉を担う税になり切れないのではないかというふうに思います。
以上、私たち連合が今求めております税制改革の主な課題について
意見を申し述べましたが、これとあわせて二兆円特別減税の継続を私たちは願っているわけです。衆議院段階では、野党の修正動議あるいは与党の三党合意がありましたけれども、どうか参議院の
予算審議でもこうした
経緯を踏まえ、
国民の期待にこたえられるよう切望して、私の
意見とさせていただきます。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)