○吉川春子君 私は、日本共産党を代表して、
雇用の
分野における
男女の
均等な
機会及び待遇の
確保等のための
労働省関係法律の
整備に関する
法律案について
質問します。
最大の問題は、
男女の
雇用差別をなくすという名目で
女性の深夜業を全面的に解禁し、時間外・休日
労働の
法的規制を取り払うという
労働基準法の大改悪を行おうとしていることです。
総理、あなたも
女子保護規定がどのような苦難の歴史を経て実現したものか御存じでしょう。
それは、明治
政府が西南の役直後に着手し、主務
大臣の更迭を二十三回も重ね、三十年の歳月をかけて、ようやく明治四十四年に成立した工場法で初めて取り入れられたのです。
当時の基幹産業である紡績業を底辺で支えた
女性労働者たちは、過酷きわまりない
労働条件のもとで次々に結核や精神疾患に倒れました。細井和喜蔵が「女工哀史」に書いたように、「籠の鳥より監獄よりも寄宿ずまいはなお辛い、工場は地獄よ主任が鬼で回る運転火の車」という悲惨なものでした。
女性の深夜業の
禁止規定は、紡績工場主らの猛反対に遭って、工場法
施行後も十五
年間も効力をとめられたのです。ようやく
実施された後も、戦時特別法によって再び奪われました。そして、新しい憲法の生存権、勤労権のもと、
女子保護規定はようやく権利として認められたのです。長時間・過密
労働が横行する今日、この
規定は一層重要なものになっているのです。歴史に逆行する
女子保護規定廃止に私は強い怒りを禁じ得ません。
総理、これは
我が国憲法のみならず、日本も合意した第四回
世界女性会議の行動綱領の
女性の健康、真の
雇用平等など、国際的にも今日確立されている基本理念に真っ向から反するものではありませんか。
政府は、
女子保護規定の廃止は
婦人少年問題審議会の一致した
建議だなどと、あたかも
労働者側の要求ででもあるかのように言っています。しかし、これは全く事実に反します。
婦人少年問題審議会に
労働者委員を送っているのは、全
労働者のわずか一四・五%しか
組織していない連合だけではありませんか。しかも、その連合の内部にさえ反対論があることは当の事務局長自身が認めているのです。
多くの
労働者は一方的な
女子保護規定の廃止に明確に反対しています。このことは、昨年九月、
女子保護規定見直しについて
労働省に寄せられた意見でも明らかです。廃止を認める意見はわずか〇・一%しかなく、残りは、反対もしくは
男女共通の
規制など、新たな
措置を求めるものだったのです。
撤廃を要求したのはひとり財界のみだったのではありませんか。
国民の広範な声に耳を傾けず、どうして一%にも満たない要求を強行しようとするのですか。余りにも道理がないのではありませんか。
総理の
見解を求めます。
過労死を生み出す
我が国の長時間・過密
労働の
是正は緊急の
課題です。だからこそ
政府は、
年間総実
労働時間千八百時間達成を
国際公約として掲げてきたのではありませんか。ところが、十年たってもこれは達成されていません。衆議院で
労働省は、時短のためには、週休二日制、有給休暇取得に加え、時間
外労働を百四十七時間以内に抑えることが必要と
答弁しています。
現行の
女子保護規定の百五十時間より低く抑える必要性をみずから認めているのです。それなのに、なぜ
女性の残業
規制を取り払うのですか。
労働時間短縮という
政府の公約に逆行するのではありませんか。
労働省はまた、深夜、時間外・休日
労働について、今後は
女性も正当な
理由がない限り拒否できないと言明しました。これは
過労死の平等を強制することにはなりませんか。明確な
答弁を求めます。
総理、人が深夜働くということがどんなに大変なことかについて伺います。
五月九日、十五万七千人を
組織する日本医療
労働組合連合会が深夜交代勤務に従事する医療
労働者の
労働・健康
実態調査中間報告を発表しました。驚くべきことに、二年半の間に
妊娠した二千五百九十二人中、順調な経過をたどったのはわずか二割にすぎず、切迫流産三割、早産、死産、帝王切開など異常出産も三割に上っているのです。
政府は、私の
質問に対し、深夜業の
妊娠・出産
機能へのマイナス
影響はない、そういう知見はないと言って、
調査すらしてこなかったことを合理化していますが、ここには深夜業が健康や
母性に与える悪
影響がはっきりあらわれています。このことは、
労働省自身が、従来、深夜勤務は自然の生理に反し、また
社会生活上も支障があると
指摘してきたことです。その考えをなぜ変えるのですか。明確に答えてください。
医労連の
調査では、妊産婦で深夜勤を免除されている人は四人に一人にすぎません。法の定める権利を知らなかったという人が二六%、
職場の都合で免除されないという人が五三%もありました。権利はあっても人員不足で深夜業をせざるを得ないのが現実です。
政府は、今度、
家族的責任を負う
労働者には深夜業免除を認めたと言いますが、実情を見れば、多くの
労働者はこの
制度を利用できないのではありませんか。
人命を預かる医療の
職場等での深夜・交代
労働は必要であるにしても、そこで働く
労働者には健康のため十分な保護
措置が講ぜられるべきであり、二交代・十六時間制の導入は論外です。公共、緊急の場合などのほかは深夜業を禁じることこそ必要だということは、この
実態を見れば明らかではありませんか。
総理の
答弁を求めます。
ドイツでは、連邦憲法裁判所が、九二年、夜間
労働はどんな人間にとっても有害である、
女子のみの深夜
労働禁止の
規定は違憲との判決を下し、その結果、九四年に新しい
労働時間法が
制定されました。そして、深夜
労働及び交代制
労働に従事する
労働者の
労働時間は人間にふさわしいものにしなくてはならないとし、深夜
労働の
男女共通の保護
規定を設けたのです。
男女とも
規制に踏み切ったドイツに対し、
我が国では全く逆のことが行われようとしています。
どちらが人間を大切にする道か明らかです。
総理、日本はなぜこの道を選べなかったのでしょうか。伺います。
政府は、深夜業・残業
規制を外すことが
職域の
拡大になり、
雇用均等扱いを保障するとしています。それなら、
女子学生の就職
差別が
解消せず、低
賃金で
社会保険にも加入できないパートや派遣
労働者が増大しているのもこのためだということですか。
女子保護規定を廃止すれば、
家族責任の大半を負わされている
女性は正規の職員として働き続けることがもっと困難になり、
賃金格差もさらに開くのではないのですか。
パートを含めた
男女の
賃金格差は、一九七八年以降
拡大の一途です。長い困難な闘いの末、芝信用金庫や診療報酬支払基金での
女性の
賃金差別は不当であるとの判決が出ました。
男女賃金格差の
是正は、
均等法施行後も裁判に頼らざるを得なかったのです。だからこそ、
企業の違反
行為への
罰則や権利侵害に対する迅速な救済が強く求められきたのです。それなのになぜ今回この点について
改正しないのですか。
この
法案をこのまま成立させれば、将来に禍根を残すことは必至です。
法案の撤回を私は強く要求いたします。また、さきの上院議長サミットで、二院制における参議院の
役割は「熟慮の府」であるという
指摘がありました。徹底
審議を行い、真の
男女雇用平等の実現こそ立法府である本院の責務であることを表明し、
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣橋本龍太郎君
登壇、
拍手〕