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1997-06-05 第140回国会 参議院 法務委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成九年六月五日(木曜日)    午前十時開会     —————————————    委員異動  五月三十日     辞任         補欠選任      依田 智治君     中原  爽君      及川 一夫君     志苫  裕君  六月四日     辞任         補欠選任      山崎 順子君     星野 朋市君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         続  訓弘君     理 事                 岡部 三郎君                 久世 公堯君                 浜四津敏子君                 橋本  敦君     委 員                 遠藤  要君                 志村 哲良君                 下稲葉耕吉君                 中原  爽君                 長尾 立子君                 服部三男雄君                 林田悠紀夫君                 大森 礼子君                 星野 朋市君                 照屋 寛徳君                 伊藤 基隆君                 菅野 久光君    国務大臣        法 務 大 臣  松浦  功君    政府委員        法務大臣官房長  頃安 健司君        法務省民事局長  濱崎 恭生君        法務省刑事局長  原田 明夫君        法務省入国管理        局長       伊集院明夫君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局総務局長   涌井 紀夫君    事務局側        常任委員会専門        員        吉岡 恒男君    説明員        内閣官房内閣外        政審議室内閣審        議官       門司健次郎君        警察庁警備局外        事課長      米村 敏朗君        外務省アジア局        北東アジア課長  別所 浩郎君        大蔵省銀行局銀        行課長      内藤 純一君        厚生省健康政策        局医事課長    尾嵜 新平君        厚生省保健医療        局疾病対策課臓        器移植対策室長  貝谷  伸君        厚生省老人保健        福祉局企画課長  水田 邦雄君        海上保安庁警備        救難部救難課長  島坂 治朗君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○法務及び司法行政等に関する調査  (成年後見制度に関する件)  (死の判定基準に関する件)  (尖閣諸島の土地所有状況に関する件)  (野村讃券及び第一勧業銀行の不祥事に関する  件)  (組織犯罪対策立法検討状況に関する件)  (入管法改正後の密入国の状況に関する件)  (裁判所及び法務局の増員に関する件)  (海難死亡認定者生存確認戸籍回復に関す  る件)  (北朝鮮への拉致事件に関する件)     —————————————
  2. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  去る五月三十日、依田智治君及び及川一夫君が委員辞任され、その補欠として中原爽君及び志苫裕君が選任されました。  また、昨四日、山崎順子君が委員辞任され、その補欠として星野朋市君が選任されました。     —————————————
  3. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 法務及び司法行政等に関する調査を議題といたします。  これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  4. 長尾立子

    長尾立子君 きょうは、成年後見制度必要性といったことについて質問をさせていただきたいと思っております。  成年後見の問題は、ある意味では古くからあった問題であるかと思いますけれども、最近の高齢化進展の中でこの必要性というものは大変高くなってきている、このように思っているわけでございます。我が国社会全般高齢化進展は大変著しいものがございます。高齢化という問題は、人口全体の中で高齢者がふえるという形を一般の方は認識をされるわけでございますが、こういった人口構造変化とあわせまして、社会のさまざまな面での変化が同じような形で急激に進行している、こういうことではないかと思っております。  我が国の例をとりましても、就業構造がこの間大変大きく変化をいたしまして、いわばサラリーマンとして一生を過ごす方、家業を継ぐという形が大変少なくなる、サラリーマンの方が多くなる、こういうような状況が進んでおります。また、都市への人口の集中という現象が起こりまして、このことは当然若い世代とその親である高齢者の世帯とが分離をして生活をする、こういうような社会状況が我々の現在の姿である、このように見ることができると思います。  それからもう一つは、近年、我々の社会的な意識の面でノーマライゼーションと申しますか、その方の意思を尊重してできる限りその方が従来暮らしてこられた生活の中でその生活を守っていくというような考え方を国や地方公共団体施策の中心としていくべきである、こういう考え方が多くの方によって主張され、そして国の施策地方公共団体施策もそのような方向で進んできている、こういうことが言えるかと思います。また、個人のそれぞれの考え方、生き方、これを尊重しよう、個人そのものの価値を尊重しようという、こういう我々の考え方も大きな現在の社会状況の中で認識をされるところであると思っております。  こういうことを背景といたしまして、やはり成年後見問題、これが非常に複雑になり、かつ非常に各方面から強い要請がされている、このように申し上げることができるかと思います。  高齢者の多くは年金を受けているということになっております。年金生活者でありまして、現在サラリーマンとして一生を送られて年金生活に入られる方は、大体月二十万ぐらいの年金は受けておられる、こういう実態がございます。このような年金管理する、管理というと言葉はかた苦しいわけでございますが、これを生活の資として使われて生活をされる、こういうことが日常的な形で起こっているわけでございます。  高齢に伴いまして知的な能力減退をするという、これはある部分では避け得ない事実でございますが、このような過程で高齢者生活を守っていく、これが現在の我々の大きな課題であるというふうに思っているわけでございます。  日常的な経済行為、つまり年金を受け取ってきてこれを管理しそれを生活の上で使っていく、こういうような経済行為をするというのは高齢者生活にとっては当たり前のことになっている。昔でございますと、家を継いだ息子夫婦が老夫婦の面倒を見ていくという形があったかと思いますが、先ほど申し上げましたように高齢者と若い人たちが違う地域生活をする、この中で高齢者だけが残されて自分生活をしていく、こういう実態があるわけでございまして、この資産管理ということが現実の問題として大変大きな課題になってきているように思います。  現在、特別養護老人ホーム等施設生活しておられる方のこういった資産管理については、厚生省からの指導によりまして、施設の者がそれぞれの独立の預金口座を持ちまして管理をしているというような実態現実には見られるわけでございます。施設におられないで地域の中で暮らしておられる方についてこの問題はさらに深刻でございますが、施設の方の職員といたしましても実にこのことは重い負担になっている、これが現状であると思っております。  各方面からこういう意味では新しい成年後見制度、こういうことについての要望が非常に多く寄せられているように私は思うのでございますが、それでは現行制度現行民事法体系の中でどのような問題があってこのような要望が寄せられているのか、こういうことから質問をさせていただきたいと思います。  現行制度では、成年に達してはいるけれども判断能力が十分でない者についてどのような取り扱い、これは法律上の規定と、それが現実にどのように運営をされているか、運営実態もあわせて御答弁をいただきたいと思います。
  5. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) まず、現行制度がどうなっているかということにつきまして、委員既に御案内かと思いますが、概要を申し上げさせていただきます。  我が国民法におきまして、判断能力が十分でない成年者保護する制度として、御案内のとおり、禁治産制度と準禁治産制度とがございます。不十分な判断能力後見人または保佐人に補充させてこれらの人の財産的な利益を守る、さらにそういう人と取引をする相手方の信頼の保護と不測の損害を回避しょう、こういう目的で設けられている制度でございます。  禁治産制度は、意思能力を喪失した状態がその人の通常の状態である、こういう人を対象といたしまして家庭裁判所一定の者の請求によって禁治産宣告を行う。その宣告を受けた者、禁治産者と呼ばれますが、その人は後見人を付されて、後見人がその財産管理をし、またその財産に関する法律行為について本人を代理する。禁治産者が一人で行った財産上の法律行為は取り消すことができる、こういう制度であります。  準禁治産制度は、心神耗弱者、すなわち意思能力はあるけれども利害判断する能力が不十分であるという人を対象といたしまして、これも家庭裁判所一定の者の請求によって宣告を行う。その宣告を受けた者、準禁治産者には保佐人が付されまして、一定の重要な財産上の法律行為については保佐人同意が必要とされ、その同意なしに行った法律行為は取り消すことができる、こういう制度になっているわけでございます。  そういう制度でございますので、いずれにいたしましても一定の者が家庭裁判所宣告申し立てをして家庭裁判所宣告がされる、そして後見人または保佐人が付されるということでございます。  運用実情ということでございますが、これは裁判所統計によりましてどのぐらいの宣告等がされているかということを御紹介申し上げますと、これは統計上、禁治産、準禁治産につきましても、いずれも宣告取り消しを合わせた件数統計をとられておりますので、宣告だけの数字は正確には出ないのでありますが、宣告取り消しというのは実際には数が少のうございますので、その数がほぼ禁治産宣告件数に近いものであるというふうに思われます。  平成七年の統計によりますと、その年に禁治産宣告取り消しに係る新受件数、新たに申し立てがあった事件数は全国で二千八件、それから七年度に処理がされた事件数は千九百五十一件であります。そのうち申し立てが認容されたものが千三百十五件というふうになっております。  次に、準禁治産の同じ数でございますが、平成七年の新受件数は六百九十一件、既済件数が六百八十九件、そのうち申し立てが認容されたものが二百四十八件ということでございます。  そういうことでございますので、恐らく現実保護を要する人の数というのは相当膨大な数であろうと思われますが、そのうちのそういった件数のみが禁治産、準禁治産宣告対象になっているというふうに申し上げることができようかと思います。
  6. 長尾立子

    長尾立子君 今、件数が実際と比べてみて、推定される数と比べてみて少ないというお話でございますが、このような少ない実態になっているということについてどういうふうに認識をしておられますでしょうか。
  7. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) これは、制度を利用しようとする御本人あるいは親族等考え方といったものに関係してくると思われるわけでございますが、現行禁治産、準禁治産制度につきましては、これは現実に利用しにくいものではないかという指摘がいろんな方面からされております。  そういった指摘がされている事項を整理してみますと、まず制度自体の問題といたしましては、今申しましたように禁治産、準禁治産という二類型に分けておって、そして禁治産者は一律に行為能力が制限される、準禁治産につきましても一定行為法律で定めてそれについては行為能力が制限される、こういういわば硬直的な制度になっておって、そういうことだから利用しにくいという指摘がございます。  また、禁治産と準禁治産の境目といったようなことは、これははっきりした線があるわけではないわけでありますけれども、どちらになるかによって法的な取り扱いが大きく異なる。今申しましたように、禁治産でありますと全面的に行為能力が制限される、準禁治産の場合には特に重要な行為以外は本人能力があるというふうに画然と区別されている。したがって、それぞれの個人精神能力保護必要性に合った柔軟な対応がしにくい制度である。  それから、禁治産という言葉が非常に響きが悪くて、禁治産者になるということになれば社会的偏見対象になるというようなことも指摘されております。また、他の法令におきまして、禁治産宣告等を受けますと資格制限がされるというようなことも問題だという指摘がございます。  それから、後見人保佐人の面におきましては、現行法では、例えば夫婦関係におきましては、一方が禁治産者、準禁治産者になれば必ず相方の配偶者後見人保佐人になるということになっておりますが、高齢者の場合には配偶者高齢であるために必要な役割を十分に果たすことができない場合が多いといったこと。それから、後見人保佐人が一人に限られているということから、場合によっては適切な対応ができないということもあるんではないか。さらには、適切な後見人等を供給するシステムが十分でないというようなこと、そういったことが現行制度が利用しにくいものであるという理由として指摘されているところでございます。
  8. 長尾立子

    長尾立子君 先ほど、これからの社会はそれぞれの方の意思が尊重される、それが基本的な制度の中で考えていかなければならないものであるということを申し上げたわけでございます。今御説明になりましたように、現行制度におきましてこのような知的能力減退が見られる方への保護といいますか、こういうことについては非常に問題が多いのではないかという気が私はいたします。今も御説明があったわけでございますが、非常に硬直的で、ある一線で切ってしまうということに法律上なっておりますが、実際の高齢者の知的な能力減退ということを考えますと、大きな資産管理運用についてはもしかしたら問題があるかもしれませんが、日常生活の上では御自分意思ははっきりと表明される、またある程度の行為能力もある、こういった方々も多いのではないかというふうに思っているわけでございます。  この成年後見の問題については、実はいろいろな団体から、各方面から要望が寄せられているというふうに承知をしておるわけでございますが、厚生省の方でこういった要望について把握をしておられれば御紹介いただきたいと思います。
  9. 水田邦雄

    説明員水田邦雄君) お答え申し上げます。  高齢者障害者の当事者あるいはその御家族の関係団体から、この成年後見の問題に関しまして私どもに要望がさまざま寄せられております。  まず最初に一点目は、先生御指摘のような背景のもとに新たな成年後見制度を一日も早く実現してほしいということが要望でございます。  その中身につきましては、整理をいたしますと五点ほどになろうかと思っております。  一点目は、これも御指摘ありましたけれども、現行禁治産制度と申しますのは本人生活全般管理してしまうというような制度でございますけれども、新しい制度に対する要望といたしまして、本人の残された能力を生かす、欠けている部分を補うようなそういった制度としてほしいという要望がございます。  それから二点目でございますけれども、現行禁治産制度におきましては鑑定にかなりの費用と手間がかかるということもございます。そういうことに着目いたしまして、新たな制度は利用しやすいものにしてほしいということが二点目でございます。  それから三点目でございますけれども、財産管理するだけではなくて、財産本人生活のために活用できるよう、言ってみますと、自立して生活を営むことを支援する制度自立生活支援、そういった制度としてほしいということでございます。  それから四点目は、できるだけ透明な制度とするということ、それとの関連で複数後見人等も認めてほしいということでございます。  それから五点目でございますけれども、制度を利用しようとするときに簡易に後見人選任できるような仕組みが必要であるということでございまして、そのために、法整備とともに後見人支援体制というものを整備してほしいということでございます。  以上でございます。
  10. 長尾立子

    長尾立子君 高齢化進展ということを考えますと、西欧諸国我が国よりもさらに早く高齢化進展が見られたわけでございます。一九八〇年以降、諸外国においてもこういった成年後見に関する法制については、従来の民法を改めるというような立法が行われたというふうに承知をいたしているわけでございますが、既にある程度の運用実態があると承知をいたしております。  この場合の制度がどのような仕組みがとられているのか、また実際それを運用した場合に現在どのような問題点指摘されているのか、御紹介をいただければと思っております。
  11. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 御指摘のとおり、欧米諸国におきましては、ここ十年あるいは十数年の間にいわゆる成年後見制度に関する法整備が図られてきております。  代表的なものとしてドイツイギリス制度について御紹介を申し上げたいと思います。  ドイツにおきましては、一九九〇年、平成二年に成人の後見保護法改正に関する法律が成立いたしまして、一九九二年から施行されております。この法律は、みずからの事務を処理することができない成年者に対する後見制度規定していた民法規定改正しまして、そのような人についてベトロイヤーと言いますが、日本語では世話人と訳しております。この世話人選任して、そして後見裁判所が必要と認めて指定した範囲においてのみ、かつ本人の希望に配慮しつつ、財産及び身上に関する事項を処理すると、こういう制度を導入していると承知しております。  それから、イギリスにおきましては、このイギリスの基本法的な法理として、本人代理人選任していた場合におきましても、本人意思能力を失った場合にはその代理権は消滅するという原則的な法理がございまして、これがために成年後見観点から支障になっていると。そういう観点から、一九八五年、昭和六十年に新たな法律が制定されまして、翌一九八六年から施行されております。これは、本人意思能力を失った後も消滅しない財産上の代理権というものをあらかじめ与えておくことができると、その選任された代理人は、本人意思能力を失った場合に一定手続、具体的には裁判所への登録ということを経て代理人として行為をすることができると、そういう法律をつくったということを聞いております。  そのほか、フランス、スウェーデン、カナダ等におきましても、本人能力必要性に応じ、必要な限度で後見人本人判断能力を補完することとするための制度の導入がされていると承知しております。  運用上の問題点としてどんなことが指摘されているかということでございますが、これもドイツイギリスについて私ども承知しているところで申し上げます。  まずドイツにおきましては、本人能力判定の場面におきまして、本人を含む関係者からの意見聴取及び専門家鑑定、そういった要件が厳しい、そのために世話人を付するための手続が重たい煩瑣なものとなり過ぎていると、こういう指摘があるようであります。  また、個々の場合に、個々本人状況に応じて世話人職務範囲世話人はどのような職務権限を持つかということを裁判所で個別に確定するという制度になっておりまして、これが柔軟な対応を可能とするということでありますが、反面、裁判所でそれを個別具体に判定するのが大変困難である、その判断に時間がかかるというような問題点指摘されていると承知しております。  次に、イギリスの今申し上げました制度に関しましては、本人意思能力を有する間に、将来持続的に代理権を有する代理人選任するわけでございますが、その選任の際に、本人判断能力があるということが必要ですが、それが疑わしい場合があると、実際にはもう意思能力を失った状態選任をするというような弊害があるというような指摘もあります。  それから、本人意思能力を失ったときに、その定められた代理人代理権限を取得するということであります。むれを裁判所に登録するということでありますが、その登録する際に、親族に通告して親族から異議があればその判断をするということになっているようでございまして、その手続が煩瑣であると。しかも、そういう制度本人保護にとって有効であるか疑問ではないかというような指摘がされておるところでございます。  そういった問題もあり、どういう制度にしたら最も妥当なのかということはなかなか難しい面があるように、今そういった指摘からもうかがうことができると思っております。
  12. 長尾立子

    長尾立子君 今、諸外国制度お話を伺ったんでございますが、確かに日本においてもそのような問題が起こるであろうということは想像できますし、現在の民法の諸制度を改めていくということにいたしましてもなかなかに問題が多いなという印象を持ったわけでございます。  しかしながら、一方におきまして、今申し上げましたような問題解決をしなければならないという要請も強いわけでございます。法務省におかれましても、こういった成年後見という問題についてはかねて検討を進めてこられたというふうに承知をいたしているわけでございます。改正についてのスケジュールといいますか、現在の検討状況、こういったものについてお話をしていただければと思います。
  13. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 今お話がありましたような各方面からの指摘を受けまして、法務省としてもいわゆる成年後見制度について現行制度を見直すということの必要性を感じておりまして、現在研究会を設けて検討を行っておるところでございます。  諸外国法制調査、それから今御質問がありましたような運用実態上の問題、そういったことを調査し、またいろんな方面からの御意見をお聞きするということを経て、今どういう方向がいいかということの作業を行っているところでございます。  これからの見通しということでございますが、これは今、私的な研究会という段階でございますので、その研究会の成果をできれば秋ごろまでにはまとめていただきたい、それを経まして広く関係方面の御意見を伺いながら具体的な中身を詰めていきたいというふうに考えているところでございます。社会的要請が大変強い問題であるということを踏まえて、鋭意積極的に取り組んでいきたいと思っております。  ただ、この問題につきましては、現実利害関係を持っておられる方は大変に幅広いわけでございますし、大変幅広い要請がございます。また、どういつだ制度がいいのかということについてもさまざまな御意見があるのが実情でございます。  そういったことでございますので、まだまだ結論を得るまでには検討しなければならない問題が残っているわけでございますが、できるだけ早く成案が得られるように頑張っていきたいというふうに思っているところであります。
  14. 長尾立子

    長尾立子君 冒頭御説明いただきましたけれども、現行制度禁治産といった仕組みの上に各種の法律におきまして行為能力を制限しているというものが相当数あるのではないかと思います。多分、百を超える法律が、そういうものがあるのではないかと思っております。そういうことを考えますと、この法改正についてのいろいろな検討事務量を考えましても相当膨大なものになるなということは想像がつくわけでございます。  一方におきまして、やはり現実高齢者の問題は見逃すことができない実態にございます。また、高齢者と若干性格を異にするかとは思いますが、知的能力の面ということで考えますと、知的障害者、精神障害者、こういった方々につきましても、関係者からこういった制度をつくってほしいという要望は大変強く出されているように思っております。  こういった現実要請の中で、民法制度とは若干異なる、目的を異にする、実態も異にするかとは思いますが、高齢者障害者の日常の経済活動を支援する、そういった仕組みが行われているように承知をしているわけでございます。現実にどのような団体がどのような仕組みでこういった運用を、役割を担っているのか、またその際、問題として各方面から指摘されているということはどういうことなのか、厚生省からお話をいただきたいと思います。
  15. 水田邦雄

    説明員水田邦雄君) 成年後見、特に御指摘のありましたような日常生活上の援助ということにつきましては、我が国の一部の地方自治体におきまして先駆的な取り組みが行われているところでございます。  具体的に申し上げますと、東京都の社会福祉協議会に設けられております権利擁護センター、ステップというところにおきまして、痴呆性老人でありますとか知的障害者に関する専門相談、それから権利侵害や日常生活に関する援助等の事業が行われております。そのほか、品川区や中野区、こういったところにおきましても、痴呆性老人等の方々を対象といたしまして、預貯金の出し入れでありますとか公共料金の支払いでありますとか、こういった財産保全・管理サービスというものが実施されてございます。東京都におきましては十九の区、市でこのような先駆的な取り組みが行われているわけでございます。  こういった現場での先駆的な取り組みの事例があるわけでございますけれども、こういった団体等が直面している問題というものもあるわけでございます。  一点目は、例えば既に重度の痴呆になっておられる方、既に意思能力を喪失した高齢者等の財産管理につきましては、やはりこれは委任契約というものをベースにするものでございますので、十分対応することができない、こういった問題点指摘されております。  二つ目は、痴呆の症状は御存じのとおり徐々に進んでいくということでございますので、契約締結の当初は円滑に財産管理ができるということがございましても、症状の進行に伴いまして利用者の事実誤認等によってトラブルが発生するということが問題点として挙がっております。  それから、サービスを提供する側におきましても、部分的な能力の喪失の場合には、人権にかかわる問題でございますので、制度的な枠組み、どこまで権限を持てるかということが明確でないということから慎重にならざるを得ない、このような問題点が現場からは指摘されているところでございます。
  16. 長尾立子

    長尾立子君 今、御紹介になりました品川区の社会福祉協議会がやっておられますこういった後見制度については私も伺ったことがございますが、この場合には、品川区の社協が既に実施をいたしておりますいわゆる助け合い的な、お互いがホームヘルパーとしてその身上の世話をするといったようなサービスの中で、会員として参加をしていただきまして、知的な能力減退がない時点において、自分がもしそのような状態になった場合には自分財産、これはもちろん日常的な生活にかかわる部分であろうかと思いますが、これについてよろしく頼むというようなはっきりとした一つの契約をしておられて、その後そういうような状況になられました場合に、これは多分専門のお医者さんも入りました機関が判定をするのではなかったかなというふうに記憶しておりますが、この方の意思に基づきまして、複数の方々の関与によりましてこの方への援助の内容といったものを決めていく、そして具体的に実施をしていく、このようなものであったかと思います。  このシステムをつくるについては、社協の関係者は各方面の方の御意見を聞きながらこの案をまとめていったというふうに伺っておりますが、やはり現実に非常に要望が強い、そして目の前にあるそういった要望にどうしてもこたえていかなければならない、そういう思いがこの制度を始めさせた大きなきっかけになっているように思うわけでございます。  先ほど来質問させていただきましたように、現行制度におきましていろんな問題点指摘されておりまして、そしてかつ非常に緊急に要請をされている。しかし、法律改正していくということについての困難性も多い。問題の複雑性は非常によくわかるのでございますが、待っておられる多くの関係者の方の声をお聞き取りいただいて、ぜひ制度化へ向けて御努力をいただきたい、大臣に心からお願いをいたしたいと思います。
  17. 大森礼子

    ○大森礼子君 平成会の大森礼子です。  今、参議院の方では二つの臓器移植法案が特別委員会の方で審議されております。衆議院の方では厚生委員会で審議されましたけれども、参議院の特別委員会の方は厚生委員会と法務委員会の各委員が主な構成員となっております。治療や臓器移植そのものについては医療界の問題ですけれども、従来の死の概念の変更をめぐる問題でもありまして、さまざまな法的問題が関係してくるので、そこで法務委員と厚生委員の合同となったものだと思います。  本来であれば、特別委員会の方で両法案の提案者を相手に質問するのが筋ですけれども、死をめぐる非常に大きな問題でもありますし、それから臓器移植を待つ患者さん、移植医さんもそうだと思いますが、を考えると早く成立させた方がいい、十分な審議をすべきだけれども会期末が迫っている、こういう状況にございます。  脳死を人の死とするかどうかということは、ある意味法務マターでもあると思いますので、きょうは法務委員会の方で質問することを御了承いただきたいと思います。  もちろん、提案者ではいらっしゃいませんので条文の内容とかについて聞くようなことはいたしません。ただ、死に関する規定というのはどうあるべきか、こういう観点から質問させていただきたいし、また教えていただきたいと思います。  まず、民事局の方にお尋ねしたいんですけれども、いろんな法律規定というものがございます。その法律規定というのは、個人意思によって内容を変えてもその合意が認められるものと、それからそういう個人意思による合意によっては内容を変えられないものとにまず区別される、そういうふうに理解しているわけなんです一  それで、これを簡単に任憲法規と強行法規というふうに言ってしまっていいのかと考えるんですが、民法第九十一条で、「法律行為ノ当事者カ法令中ノ公ノ秩序ニ関セサル規定ニ異ナリタル意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ」と。公の秩序に関せざる規定というのが任憲法規で、この逆で公の秩序に関する規定というのが強行法規かなというふうに理解しているんですけれども、その点についてまず教えていただきたい。任憲法規と強行法規との違いについて簡単に教えていただけたらと思います。
  18. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 委員が今申されたことについて、私どもも同様に考えております。  繰り返しになりますけれども、強行法規というのは、法令中の規定のうち当事者の意思のいかんを顧慮することなく無条件に適用されるもの、そして具体的には公の秩序に関する規定であるということ、そして強行法規に反する法律行為は無効とされるということであり、任意規定というのは、当事者がその法令の内容と異なる意思を表示した場合にはその意思が優先する、その異なる意思表示がない場合に適用される規定であるというふうに考えられているということでございます。
  19. 大森礼子

    ○大森礼子君 それでは、公の秩序に関する規定、これが強行規定ということで理解しますと、例えば具体的に言いますとどういうものが公の秩序に関する規定ということになるんでしょうか。
  20. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 民事法の規定について申し上げますと、例えば親権とか相続の順位、そういった夫婦、親子間の法律効果など身分的な秩序に関する規定は一般に強行規定であると考えられております。また、これは物権法定主義ということから物権の種類、それから法人や会社の組織、そういった画一的に定める必要のある法律関係に関するもの、また利息制限法などのように一定の立場の者を特に保護するために強行的に規定を用意したもの、そういったものが強行規定の例であると考えております。
  21. 大森礼子

    ○大森礼子君 例えば民法第一章は「人」を規定してあるんですが、最初の規定が一条ノ三で、権利能力の始期として「私権ノ享有ハ出生ニ始マル」という規定がございます。  ぞれで、非常に大ざっぱな質問になるんですけれども、出生によって私権の享有主体となる、それでは享有主体でなくなるのはいつかというと、それが死亡ということだろうと思うんです。私権の享有主体の始まりと終わり。それからあるいは憲法の関係で言いますと、基本的人権の享有主体でいられるかいられないかという、こういうことにも生と死というのは関係してくるんだろうと思います。  民法で言いますと私権の享有主体になるんですけれども、こういうことに関連する事項とか、それからそれが消滅する時期である死亡、これに関するような規定というのは、これは強行規定と呼ぶのかどうかわかりませんけれども、先ほど申しましたように、当事者の意思関係なく無条件に適用されるべき規定ではないかと思うんですけれども、この点はいかがでしょうか。
  22. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 御指摘のとおり、権利義務の主体としての地位がどういう条件で取得されあるいはなくなるかということにつきましては、それぞれの個人意思によって左右されるということではない、そういう性質の規定であると存じます。
  23. 大森礼子

    ○大森礼子君 死に関する規定というのは、そういう用語を含む法令というのは六百以上あるそうです。要するに死ということによっていろんな権利が発生したり消滅したりとか、公の秩序をつくるところのいろんな届け出の起算点となるとか、いろんな形で死というものが規定されているわけです。ですから、そういったものが一つの秩序を持っていますから、死に対する扱いというものは個人意思でどうこう左右できるものではないだろうと私も思っております。  それで、今、中山案というのは脳死を人の死とした法律というふうに言われています。こういう、人の死を規定した法律ができる場合に民法上問題は生ずるのかどうか、影響を受けるのかどうかということについてお尋ねしたいと思うんです。  そういう法律が成立したことによって、例えば民法の八百八十二条、相続開始時期ですけれども、死亡によって相続開始すると、この死亡というのは例えば脳死判定を受けたときというふうに実質的に変更されるのか、あるいは改正をする必要が生ずるのかということなんです。  実はこの点については、もっと抽象的な形でしたけれども前回質問しまして、民事局長さんにお尋ねしましたときに、次のようにお答えがありました。何をもって人の死とするかは、医学的所見を基礎とする社会通念によって定められる。これまでは三徴候説でありましたと。それで、臓器移植法案が成立して、脳死判定をもって人の死を判定するということで、それが社会的に受け入れられるような状況になれば、民事法の分野においても同様に解されるというふうにお答えでした。  それで、民法上の死というのもこれも一応社会通念上三徴候説となっているわけで、仮に脳死を死とする法律ができても、その法律の効果はもちろんすぐには及ばないわけですけれども、民事法の解釈としてはあくまで社会通念が基準となるというふうなお答えだったと思うんですが、そういうことでよかったでしょうか。
  24. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 前回、三月二十七日に御質問をいただきまして、今申されましたような御答弁を申し上げたと思います。
  25. 大森礼子

    ○大森礼子君 そのときお話を伺って、あっそうか、そうなんだと、何となくわかったような気がしたんですけれども、後でもう一回考えるとやっぱりまたわからなくなったという状況があるんです。  というのは、臓器移植法案の中山案の方で問題となる箇所というのは、「死体(脳死体を含む。)」という、こういう規定の仕方なんですね。これがもし読み方で、「A(Bを含む。)」といった場合、AとBはもともと別なんだけれども、この法令の規定については同様に扱うんだという解釈もできますし、あるいはもともとAとBは一緒なんだけれども、わかりやすくするためにBも念のために入れたんだと、こういう両方の場合があるだろうと思うんです。  それで、例えば「死体(脳死体を含む。)」とされたときに、臓器移植法案のこの法律範囲内で、これについては脳死体も死と扱うんだということであれば、他の法律に及ぼす影響というのは少ないのかなというふうに思うんです。ただ、そのことによって、一つの個別的効力というと変ですけれども、そういう法律ができることをきっかけとして脳死も人の死であると社会が受け入れやすくなるような土壌ができるかもしれないと思います。  しかし、そうではなくて、脳死は人の死であるという社会的合意ができており、それを確認した規定だと、こういうふうに提案者が説明されるわけなんです。前回の民事局長さんの社会的に受け入れられるという状況になればという、これに符合するのかなという気もするんですけれども、そういうふうに説明されるわけなんです。  提案者がそういう趣旨で法案を出されて、仮に立法府でこの法律が成立した場合に、こういう説明のもとにそういう法律ができたということは民事法の解釈にも直接影響を及ぼすものではないかなという気がするんです。それともそれはあくまでそちらの法律の問題で、民事法の解釈についてはあくまで社会通念、それがどうなっているかを基準として判断するんだということになるんでしょうか。
  26. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 今お話がございましたように、この臓器移植法案、衆議院で可決された条文の趣旨、これがほかの法律の分野の死というものの判断にどう影響を及ぼすかということをめぐってもいろんな御議論がされているというふうにお聞きしているところでございます。  この法律がこういう形で成立した場合に、民法の死の判断にどういう影響があるかというお尋ねでございますが、そういった問題につきまして前回いろいろ御質問をいただいて、必ずしも御納得いただける御答弁ができなかったわけでございます。現在も同じ状況であるわけでございますが、医学的知見を基礎とする社会通念によって定まる、このこと自体は、この法律が成立するかしないかによって変わるものではないということだと思っております。  ただ、社会通念自体にこの法律が成立することがどういう影響を及ぼすかということでは、これは関係がないということではないというふうに思っております。そういう社会通念自体がこの法律が成立するということによって影響を受けるということはあり得るというふうに考えております。
  27. 大森礼子

    ○大森礼子君 非常にお答えしにくい質問だということはわかって聞いていて申しわけないと思うんですけれども。ちょっとふっと考えました。臓器移植法案の中山案、これはもう社会的合意ができていて、それを確認した規定なんだと、これは既にある程度社会の中に規範があるということを前提にしてそれを確認した規定なんだという言い方なんだと思います。  そうだとすると、もし民事法の場合で、いやまだこっちの方では社会通念上違うとなりますと、どちらの法律立法府が制定したということになりますと、立法府の意思としてちょっとそごを生ずるのかなというふうに思いました。  次に、刑事局の方にお尋ねいたします。  実は本当は民事局の方に社会通念ということはお尋ねすればよかったのかもしれませんが、刑事局の方はそれに関する見解というのがありますので、それに基づいて質問させていただきたいと思います。  死というのはもちろん刑事法にも影響してくるわけです。死の定義というものがどうなるかによっていろんな実務も変わってくると思います。  昭和六十三年一月十二日に日本医師会生命倫理懇談会が「脳死および臓器移植についての最終報告」というのを出しております。こういうことがあったためかもしれませんけれども、脳死をめぐる論議というのが盛んになった時期があるんだろうと思います。  日本医事新報という雑誌がございまして、昭和六十三年十一月二十六日号なんですが、この中に臓器移植立法に関する法務省の見解というものが記されているわけなんです。「臓器移植立法に関する意見法務省刑事局)」として出してあるんです。  要するに、人の死と認められるかどうかについては、  医学的知見を尊重すべきものであることはいう  までもないが、死についての社会通念を無視し  てこれを決することはできないものと考える。   したがって、医学界において、脳死を人の死  と理解すること、脳死の定義及びその判定基準  について基本的合意が形成され、かつ、これを  社会通念が支持しているという状況にあるので  あれば、脳死の状態にある者から治療目的の移  植のために臓器を摘出することは許されるもの  と解され、これに関する確認的立法を行うこと  は何らの差し支えもないことと考える。こういう御意見があるんです。このとおりだと思うんです。これが中山案がよって立つ考え方かなと思います。  それから、終わりの方なんですけれども、医師会、医学界の基本的合意とか、それから社会通念が支持している、こういう状態に達しなくても、臓器摘出を可能とする移植立法を行うことの是非について直ちに不相当な立法とは言えないと。ただしかし、その立法によって承諾殺人罪の違法性を阻却するとすることが相当であるかどうかについて十分な検討を要すると。  これは猪熊案がよって立つ立場だと思います。まさに猪熊案も、あの法令に規定する条件を満たせば承諾殺人罪の違法性が阻却すると、それによって法令による行為として違法性を阻却して犯罪は成立しないんだと考えるわけです。まさに承諾殺人という、保護法益としての生命を犯す犯罪について、そういう法令に規定したからといって違法性阻却を認めていいかと、ここのまず相当性が十分な検討が要るという形で、実際の審議の場もそのようになっております。  そこで、今、特別委員会の方でも、要するに中山案について、社会的合意があるのかないのかというところで非常に意見が分かれております。それで、各世論調査の数値とかも出たんですけれども、何かそれが動くたびに変わっていくようでもおかしいと思うわけなんです。  それで、法務省の方の見解で、医学界において脳死について基本的合意が形成され、「これを社会通念が支持しているという状況」というふうに書いてある。社会通念というのはわかっているようで、よくわかっていない。「社会通念が支持しているという状況」というのは、例えば大体こんなことを言うんですよという何か具体例を挙げていただけますと、これからの審議の参考になると思うんです。
  28. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) ただいま委員指摘法務省刑事局の意見というものにつきましては、当時自民党に設けられておりました脳死・生命倫理及び臓器移植問題に関する調査会から、同じくその医事新報に掲載されております衆議院法制局作成の書面に対する意見と、それからその時点で臓器移植に関する立法を行うことについての意見はどうであるかというお尋ねがございましたために、その時点におけるいわば法務省刑事局としての中間的な御意見を差し上げたというものが掲載されているわけでございます。  そして、委員指摘のとおり、この人の死というものにつきましては、基本的には医学者の立場といいますか、医学界における物の考え方ということを基本に据えなければなりませんし、それが第一義的でございますけれども、それだけで果たしていいのかということになるといろいろ考え方があるわけです。それにつきましては、それを社会的な通念が支持しているという状況があって、そこでいわば国としてそのように認められていくということがあるのであろうということが背景にあるんだろうと思われるわけです。  そこで、委員指摘社会通念とはどういうことなんでしょうかということは、これはまた極めて難しい問題でございます。そして、それだけ難しい問題であるために、国会におきます臓器移植法案の審議におきまして、まさにそのことを背景としてどうとらえるべきかということを念頭に御審議がなされているというふうに理解するわけでございます。  ただ、法務省刑事局が当時使った言葉でございますので、一応私どもの立場ということで考え方を述べさせていただきますと、これ自体、極めて抽象的になってしまいますけれども、まさに医学界におきまして脳死を人の死と理解すること、そしてそれに関連いたしまして、脳死の定義及びそれを判定していく基準について医学界において基本的な合意が形成されているということを背景にし、そして加えて、社会一般がそのことを受け入れて、かつ認めている状況をいうものというふうに考えられていたと思います。  そして、社会通念とは何なのかということになりますと、これまた大変難しいわけでございますけれども、これはもうまさに釈迦に説法といいますか、私の立場でお答えすべきことではないのかもしれませんが、一般的に国語として考えられているのは、社会一般で受け入れられている常識または見解、良識というふうにされているものと思うわけです。さらに、それがその社会通念で支持されている状況にあるかどうかということになりますと、それはまさに各方面の議論を踏まえて決せられていく問題ということになるんではなかろうかと思うわけでございます。  以上、要領を得ませんが、そのように答えさせていただきます。
  29. 大森礼子

    ○大森礼子君 非常に抽象的な質問で私も申しわけないんですけれども、私思いましたのは、彼らの言い方が確認的規定である、何を確認したのかというと、社会的合意が社会の中にあるか、それを確認したものだと。そうすると、その確認したところの内容のものが社会でも受け入れられていなければならないことになるわけです。  社会的合意といっても、単に、脳死、人の死、ああいいわね、悪いわねということではなくて、やっぱりそれを死として受けとめられるかどうか、死として受けとめて、例えば人間が脳死というのを人の死として受けとめた場合に、それに伴って自然に出てくるような行動がありますね、死を受容してから出てくるような行動。例えば脳死判定で脳死ですよというふうにお医者様に言われたときに、もしもそれを死と認めることができたならば、例えばレスピレーターを外してくださいというときでも非常に抵抗が少なくなるとかですね。  脳死臨調のメンバーであります原秀男先生は、脳死になって香典を持ってきますかなんということをおっしゃいまして、これも極端な例ですけれども。何か死と認めた上で自然と出てくるような人間の行動というものがあると思うんです。そう  いうことが形成されているかどうかによっても、その社会通念となっているかどうか、なりつつあるかどうか、これは判断できるんでしょうか。こんなことも判断基準になるんでしょうか。
  30. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) 極めて、人生論に触れるような質問で、刑事局長の立場でお答えするのはやや難しいと思います。  ただ、委員の御指摘の点で、まさに臓器移植という、社会的にも大変問題になり、需要もあり、そしてそれを願うたくさんの方がおられ、またそれを医学界の方で支持して、そしてそれをこういう条件ならばできるということがさまざまな角度から議論されております。そして、先ほど申し上げました社会通念云々の刑事局意見は約十年前でございまして、その後、まさに先ほど委員指摘のような原秀男先生なんかも御参加なさいました脳死臨調等々でさまざまな議論が深められていったと。この間の動きと申しますか、まさに社会通念上の受容のあり方というものも相当変化をしてきているだろうと思います。  そういう中で、脳死というものを死としてどの程度、どういう立場で、どういうときに認めるかという点は、あるいは個別に考えられていくべきものというふうな考え方もあるんではなかろうかと思います。しかし、それをまさに委員指摘のようにあらゆる観点から検討しておかなければ心配だという面ももちろんあるんだろうと思います。そこらあたりを踏まえた受け取り方の問題でございますので、これ以上御答弁申し上げることは御容赦願いたいと存じます。
  31. 大森礼子

    ○大森礼子君 特別委員会の方で社会的合意は何なのかということもしっかり詰めていきたいと思います。  それから、次も法令による行為、刑法三十五条について簡単にお聞きしたいんですけれども、法令による行為によって犯罪の違法性が阻却するわけです。角膜及び腎臓の移植に関する法律というのがありますけれども、これも通常ですと死体損壊罪になる。しかし、その規定どおりきちっとやった場合には法令による行為によって刑法三十五条で違法性を阻却して犯罪は成立しないと。これは法令による行為の一つの例と考えてよろしいでしょうか。
  32. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) そのとおりであろうと思います。
  33. 大森礼子

    ○大森礼子君 それで、今回、臓器移植法に関連していろんなものを読んでおりましたら、脳死腎移植の新聞記事を見つけたんです。脳死状態の人から腎臓を摘出したという記事なんです。  九四年六月十八日、日経新聞ですが、「脳死状態から腎臓摘出」、横浜の方の病院で一年半に四人という、こういう記事が出ました。これは脳死になった四人の方の御家族からきちっと承諾は得られておるんです。それから、腎臓摘出、二人からは角膜も摘出、それから人工呼吸器をつけたままビーティングハート、心臓が鼓動している状態で摘出したということでした。  それで、もっと驚きましたのは、翌六月十九日付の読売新聞ですが、「脳死腎移植は、病院側が発表する場合こそ非常に珍しいが、実は八〇年代には、死体腎移植の約三割、合計二百例近くも行われていたことが、移植医による全国アンケート調査で明らかになっている。」と。例についてはほかの新聞では百五十とかありますので、一応アンケートと言っていますけれども、二百例もあるんだと言うつもりはないんです。こういうふうに挙げられている。  その後、ただ、脳死に反対する人たちによる告発が相次ぎ、表向きは姿を消したという、こういう記事があったんです。これまで既に脳死状態のところから、腎臓ですけれども摘出されていたと、こんなにたくさんされていたのかと実はびっくりしたんです。  それから、もし一応脳死判定を受けてこれが死体と理解されたのであれば角腎法の方で違法性阻却できるケースだったんだろうと思います。ただ、今それがどうかというのが争われていると。そうすると、こういうことがなされた時点にあっては、やはり犯罪の成否というのが問題となっただろうと思うんです。  それでお尋ねするんですけれども、この脳死腎移植をめぐって刑事告発がされた事例というのはどのくらいあるんでしょうか。その罪名というのは殺人罪になるんだろうと思いますけれども、わかる範囲でお願いいたします。
  34. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) 法務当局におきまして現在掌握いたしておる事件として、心停止前に腎臓を摘出したということで殺人罪で告発が行われた事件は五件ございます。
  35. 大森礼子

    ○大森礼子君 例えばそれについての、処理も多分非常に難しい、非常に微妙な問題だろうと思うんですけれども、脳死を死とするかどうかという、こういう状況もやはりちょっと見てからでないと判断できないような部分もございますか。
  36. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) まさに委員御賢察のとおりでございまして、大変微妙な段階で、社会的にもそれぞれの立場から非常に真剣な議論が進められている中で、刑事事件の処理ということでございますけれども、検察官の一定の物の考え方がそこに示されてこざるを得ない処理になるだろうと思うわけです。そういう中で、検察官としては慎重な捜査をさせていただいているというのが実情であろうと思います。
  37. 大森礼子

    ○大森礼子君 ありがとうございました。現場の悩みというのは非常にわかるような気がいたします。かといって告発する側も、被告発人の方も、それから捜査する側も非常に悩み、判断に迷いながら負担も大きいと思います。そういった意味からも、早く国会の方でちゃんと結論を出さなくてはいけないのかなというふうに思います。  次に、厚生省の方にお尋ねいたします。  四月十八日の衆議院の厚生委員会最終日で、患者、家族側に脳死判定について拒否権があるかどうかが問題となって、提案者と厚生省の見解が異なったというふうに取り上げられたわけです。それから、特別委員会になりまして、提案者側は拒否権について、否定したのかどうかはちょっとわかりませんが、少し言い方を変えました。一方、厚生省の方は、脳死臨調の考え方に基づきまして拒否権なしということでは一貫していたのかなというふうに理解しております。  脳死臨調の答申ですが、脳死か心臓死かの「選択権を認めることは、本来客観的事実であるべき「人の死」の概念には馴染みにくく、法律関係を複雑かつ不安定にするものであり、社会規範としての死の概念としては不適当なものと考えられる。」と、これが脳死臨調の考え方なんです。  当然厚生省としては、基本的にこのお考えに立つということでよろしいわけですね。確認です。
  38. 貝谷伸

    説明員(貝谷伸君) お答え申し上げます。  今、先生御指摘の脳死臨調の考え方、政府といたしましてはこのような考え方でやっておりますし、また厚生省としても、現在、特別委員会でもそういうような形で御答弁させていただいているところでございます。
  39. 大森礼子

    ○大森礼子君 厚生省が提案者でありませんので、そこはよくわかっているんですが、ただ、臨調を基調としているところでは中山案と共通しますのでね。それで、中山案の答弁者には、拒否権については撤回したのかなというふうに私は理解しているんですけれども、拒否権というのではなくて、同意をしない家族の権利というべきものなんだという、こういう答弁になったわけです。  それで、厚生省、もうイエス、ノーで結構なんですけれども、厚生省もこれと同様の権利を認める立場なのか、それとも違うのか、これだけちょっと確認させてください。
  40. 貝谷伸

    説明員(貝谷伸君) お答え申し上げます。  先般来、特別委員会におきまして、この拒否権あるいはその権利というような言葉に関しましてさまざまな議論がなされております。  それに関しまして、私どもも、この脳死の判定に当たりましては、家族に対しまして脳死につきましての理解が得られますような十分な説明、これがやっぱり必要だというふうに考えておりまして、脳死の判定に当たって、最終的にその同意をとる形で説明をしたときに同意が得られない、最後まで同意が得られない場合には、現実の問題としては結果的に脳死判定は行えないというような私どもも理解に立っております。  そういう意味で、先般来、中山案の提案者の方からも同様な御説明であるというふうに私どもも理解しておりまして、そういう意味におきましては、そこの理解は同じようなものだというふうに考えております。
  41. 大森礼子

    ○大森礼子君 御説明で非常によくわからないところがあるんですけれども、やっぱり脳死判定によって死亡の時期が決まるわけですね。竹内基準でも、一回、六時間後にもう一回、二回判定して、これは二回目の方が死亡時刻になるということなんです。  それで、死に関する規定で一番最初に民事局にお尋ねしたのは、そこの基本的考え方を知るためだったんです。やはり主権の享有主体の終わりでありますね。例えば基本的人権の享有主体としての終わりを告げるときでもあると。これは、脳死臨調が言うように、やっぱり客観的事実であるべきと。そこのところを何か選択で動くようなことをすると法律関係を複雑かつ不安定にするものであるという。そのとおりだと思うんです。  それを踏まえながら、インフォームド・コンセントの問題として、それが必要だから、結果的に同意が得られなかったらできませんというわけですね。この点、強行法規的性質を持つべき死の決定の仕方と、それからインフォームド・コンセントという医療上の一つの手続といいますか、これが同じレベルに立つというのは何か変じゃないかなという気がするんです。結局、その個人意思によって選択権を認めたと同様の結果になるわけですね、心臓死と脳死ということで。  こういう規定というのは、脳死臨調の死の概念とまさに反対になると思うんですけれども、この点については厚生省はどういうふうにお考えなんでしょうか。
  42. 貝谷伸

    説明員(貝谷伸君) 私ども厚生省といたしましても、いわゆる拒否権の問題につきましては、いろんな意味での微妙な問題といいますか、大変注意しなければならない点はあるというふうに認識しております。今、先生御指摘の法的な安定性といいますか、死の概念が本来客観的であるべきであるという考え方と、それからもちろん医療の現場ではそういうことではなしに、患者さんとお医者さんとの関係で医療を行う中でインフォームド・コンセントをやっていると、またそれのもとに同意を得られなければ、この脳死判定についてはできないんだというふうな提案者からのお答えもある。なかなかどっちがどうなんだということを一律同じ平面でとらえられるのかどうか、私どももちょっと悩んでおりますが、基本的な考え方としては、やはり脳死臨調の死の考え方は客観的にとらえられるべきであるということは、これはなかなか曲げるということができない原則でございます。  ただ、実際の医療の現場の中で、患者さんとの関係でインフォームド・コンセントといいますか、脳死判定をめぐります説明ということは、この問題を考える上では不可欠だというふうに考えておりまして、その結果どうしても理解が得られないという場合におきまして、それを強行して判定をするということはいかがかということも私ども考えなければならない点だというふうに考えております。
  43. 大森礼子

    ○大森礼子君 だから、そこのところがいつも堂々めぐりになっちゃうんですけれども、死というのはこうあるべきだと、それを結果としては事実上矛盾した形になるということで、そうだとしたら、結局もともとの立て方がおかしかったんじゃないか。脳死というものを死とすることがやっぱり適当でなかったのかなという気もするんです。きちっと決められなくてはいけない死、それがその家族の同意云々で動きますと、相続とか相続順位とか、そういうものをめぐって死亡の時期によっていろんな熾烈な争いがあると思うので、逆にお医者さんの方が刑事事件ではなくて民事事件の方の紛争に巻き込まれることにもなるのかなという気もいたします。  死の概念というのは客観的なものであるべきなんだけれども、インフォームド・コンセント、この手続を踏むがために、結果として同意が得られない場合にはできない場合があるということなんですね。  それでは、インフォームド・コンセントというのは一体何なのか。このインフォームド・コンセントというのは、法的性質は一体どういうものなのか。例えば、医療行為は患者と医師の間の準委任契約行為とも言われるわけですけれども、その医療契約に基づいて生ずる契約上の権利義務なのか、それに基づいて患者側はインフォームドされる、教えてもらう権利を持って、医者はそれを説明する義務があるのかと。そこら辺はどういうふうにとらえたらよろしいんでしょうか。
  44. 尾嵜新平

    説明員(尾嵜新平君) 御質問のインフォームド・コンセントと申しますのは、医療の現場では現在、日本もそうでありますけれども、世界的にも、患者と医師の関係を中心としまして、医療提供の側と患者との関係で一基本的にはそういった説明をし、理解を求めるというふうなことから、今の医療の中ではそういった考え方が中心になっている基本的な考え方ではないかなどいうふうには思っております。  それで、今御質問の中にもございましたように、民法上の準委任契約という中で、こういった患者側の権利なりあるいは医療提供者側の義務という関係からどういうふうな考え方かというのは、もう御承知だと思いますが、六十一年の高等裁判所の判例で申し上げますと、本人請求がある場合には、医師なり医療関係者の方は、その時期に説明・報告をすることが相当でない特段の事情のない限り、本人に対して診断の結果、治療の方法、その結果等について説明・報告をしなければならないと解すると、そういうふうな位置づけと申しますか、考え方で整理されているものというふうに思っております。
  45. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  それで、このインフォームド・コンセントを意識した規定というのが、この中山案の方でも第四条の方に規定されている。「医師の責務」、これがインフォームド・コンセントを規定したものだというふうに理解できるんです。  改正医療法のところで初めてインフォームド・コンセントについての規定が入った。ただ、これは努力規定というふうに言われておるんですね。それで、その努力規定というのはどういう性質のものか。例えばそのインフォームド・コンセントをきちっとやらなかった場合に、その規定からどういう効果が生ずるのか、その辺をちょっと教えてください。
  46. 尾嵜新平

    説明員(尾嵜新平君) 御指摘のように、今国会で御審議をお願いしております医療法の改正案の中では、初めて医療提供者側が、医師を初めとします歯科医師あるいはその他の医療職種でございますが、そういった方々が医療提供をする際には患者に説明をし、理解を求めるように努めるものとする、努力義務規定という形で規定を初めて置いておるというものでございます。  これについては、努力義務規定でございますから当然のことながら罰則等がつくわけではございませんで、こういった今の医療の流れと申しますか、あるいは環境の変化あるいは患者側の医療に対します要望等、そういったものを考えた場合に、こういった説明と理解を求めるということが医療の中の、医師を初めとします医療関係者と患者との関係の中で重要な部分を占めるということで、こういったものを推進したいという考え方規定を置いておるというものでございます。
  47. 大森礼子

    ○大森礼子君 今回、初めてこういう明文が置かれた。インフォームド・コンセント、インフォームド・コンセントと非常に今回のこの審議をめぐって言われたんですが、今回初めてできた、それも努力規定だというわけですね。  何かおかしいなと私が思いますのは、死に関する規定、もう何回も言いますけれども、これは強行法規的なものである。それがインフォームド・コンセントのところで事実上、死の時期というのが当事者の意思によって変わってくる形になるわけです。そのインフォームド・コンセントはどういう位置づけかといいますと、努力義務規定でしかない。その規定に違反した場合の罰則規定もないわけですね、担保もない。そういうあいまいなものによって、本来強行法規の性質を持つべき死亡時期というものがいろいろ変わって果たしていいのかなと、こういうふうな疑問を持っているということだけ申し上げておきます。  それから、またもう一つ、インフォームド・コンセントなんですが、これをめぐって何か訴訟になったとか、こういう事例がございますでしょうか。ちゃんと説明してくれなかったからこういうふうな問題になったという事例はどのくらい過去あるんでしょうか。
  48. 尾嵜新平

    説明員(尾嵜新平君) 私どもで把握しておりますのは、私どもが所管しております国立病院、国立療養所の中でのそういった関連の事故に関します提訴された件数ということでつかんでおる数字でございますので、その点は御了解いただきたいと思いますが、この五年間で百八件の新しいそういった提訴された事案がございますが、その中で手術に係りますものが二十八件ございます。こう一いったものには、多かれ少なかれこういうインフォームド・コンセントといういわゆる医療側の説明不足と申しますか、そういったものがかかわったものがございます。  ただ、インフォームド・コンセントを係争の中心にしておるという案件はその中では三件でございまして、すべて係争中でございますが、そういった状況でございます。国立病院・療養所でございますので、当然これは国立大学の附属病院というものはこの中には含まれておりません。その辺の御理解はよろしくお願い申し上げます。
  49. 大森礼子

    ○大森礼子君 国立病院の中だけで、ほかの病院等は厚生省の所管ではなくなっちゃうわけですか。
  50. 尾嵜新平

    説明員(尾嵜新平君) 国立大学の医学部附属病院につきましては文部省の所管でございまして、私どもそのデータをちょっと持っておりませんで、お答えできないので、御了承願います。
  51. 大森礼子

    ○大森礼子君 ちょっとここも縦割りなのかなと思ったんですが、それは結構です。わかりました。  これについての係争、それをメーンとする係争は三件というから、話題になってから余り間がないということなんでしょうか。
  52. 尾嵜新平

    説明員(尾嵜新平君) 先ほど申し上げましたように、この五年間で百八件と申し上げましたが、その中でインフォームド・コンセントという中身を中心的に争っているケースが三件という御説明をしたわけでございます。それが全くほかのケースでもかかわっておらないということではございませんで、大体いろんな医療過誤の訴訟に関しましては、医療提供者側の説明というものが何らかにかかわってきておる、争いの中に含まれてきておる事案はほかにもあるということで、中心的にインフォームド・コンセントを争っているというものが三件というふうな状況であるということでございます。
  53. 大森礼子

    ○大森礼子君 インフォームド・コンセントが規定されても、努力規定というその程度のものですから、それがメーンになって争われることも多くないのかなという気もいたします。  先ほど脳死腎移植の質問をさせていただいたんですが、こういう事例とかそういう資料等については厚生省の方で把握しておられますでしょうか。
  54. 貝谷伸

    説明員(貝谷伸君) 今の御質問でございますが、私ども、研究者レベルでいろんな報告を時々見させていただきますが、中に、私の記憶ですが、確かにかつてある一時期に、脳死、今で言う脳死体からの腎の摘出ということが行われていた時期があったということは、先生先ほど来おっしゃったようなことは私どもも記憶がございます。  ただ、厚生省として具体的にそれをつかんでおるのかということになりますと、ちょっとデータ的にはそういったものは、厚生省として脳死腎は幾らあったのかということについてのデータは持ち合わせておりません。
  55. 大森礼子

    ○大森礼子君 そうですが。当然そういうのを厚生省は持っていてもいいのかなと思って、それで持っていたらまたちょっと見せていただこうかなと思ったんですけれども。わかりました。そういうデータを持っていないことはちょっと驚きましたけれども。  以上で質問を終わります。ありがとうございました。
  56. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。    午前十一時二十六分休憩      —————・—————    午後一時開会
  57. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、法務及び司法行政等に関する調査を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  58. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 社会民主党・護憲連合の照屋寛徳でございます。  法務大臣を初め法務省の皆さん、それから最高裁判所の皆さん、大変御苦労さまでございます。  さて、昨今、尖閣諸島をめぐってさまざまな動きがございました。まさに尖閣諸島波高しという感じでございます。  尖閣諸島をめぐっては、領有権など我が国の外交問題で非常に難しい対処が迫られておるところもございますけれども、私は、きょうはそういう領有権問題とか外交問題は全く抜きにいたしまして、いわゆる尖閣諸島の所有権が現在どなたに帰属をしておるのかということを端的にお伺いをさせていただきたいと思います。  魚釣島あるいは大正島など尖閣諸島の所有権は個人有地あるいは公有地なのか、その区別、個人有地であればどなたの名義になっておるのか、お教えいただきたいと思います。
  59. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) いわゆる尖閣列島には、魚釣島、北小島、南小島、久場島、大正島という五つの島がありまして、それぞれ一つの島を一筆とする土地の登記簿がございます。この土地の登記簿によりますと、このうち大正島は大蔵省の名義になっておりますが、ほかの四島は私人の名義となっております。  なお、私人の財産につきましてだれの名義であるかということにつきましては、これは一部週刊誌等に出ていることではございますけれども、法務当局の立場でこの個人の名前を申し上げるということは差し控えさせていただきたいというふうに思います。
  60. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 わかりました。  ところで、過日、衆議院の西村眞悟議員が魚釣島に上陸をしました。それをめぐってまた台湾や香港の方々からいろんな行動が展開されたわけでありますが、無人島とはいえ大正島を除く他の四つの島に所有者の意思に反して勝手に立ち入ることが許されるのかどうなのか。許されないとすると、どのような法律に抵触をするとお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。
  61. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) 個人所有に係る無人島に上陸する行為が何らかの法令に違反し、犯罪に当たるのかというお尋ねでございますが、これは一般論で恐縮でございますが、具体的な行為の犯罪の成否ということになりますと、捜査につきまして権限と責任を有する当局がまさに適法な手続により証拠を収集いたしまして、その証拠に基づいて事実関係の全般を掌握し確定した上で判断すべき事柄でございますので、法務当局としてお答え申し上げることは差し控えさせていただきたいと存じます。
  62. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 今回は、事前に所有者が立ち入ってもらいたくないと、立ち入りは困るんだと、こういう意思表示を明確にされたということもマスコミで報道されておりました。  立ち入りは困るんだと、立ち入りをするなと、所有者のこういう明確な意思表示があった場合に、それを無視してやること自体は、具体的にその行為の態様によってどういう法律に該当するかということは別として、違法行為であるということについてはどうなんでしょうか。
  63. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) 委員の重ねてのお尋ねでございますけれども、まさに違法行為に当たるかどうかということ自体が、事実関係と申しますか、まさに委員指摘のような所有者の意思が本当にあったのか、あったとしてどういうことなのかということを確定いたしませんと何とも言えないということでございます。ある一定事実を前提にいたしまして、こういう場合はこうである、こういう場合はこういうことになりますということを法務当局の立場で申し上げることは、まさに捜査の状況についてある一定方向を示すといいますか、そういうものについての考え方を示すことになりますので、大変申しわけございませんですけれども、差し控えさせていただきたいと思います。
  64. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 それでは、次に進みますけれども、野村証券の不祥事あるいは第一勧業銀行の不祥事、とりわけ野村証券や第一勧業銀行が総会屋と言われるやみの世界の人たちと深いつながりを持っておった。そして、結果的には総会屋に対する利益の供与あるいは不正融資など明るみに出まして今大きな社会問題になっているわけであります。  せんだっての予算委員会で、私も野村証券、それから第一勧銀の参考人に対する質疑をさせていただきました。その中で、総会屋の存在に対してどういう認識を持っているかという私の質問に対して、それぞれ反社会的な存在であるというふうに言い切ったわけであります。  とりわけ野村証券の酒巻前社長については、酒巻前社長自身が小池という総会屋を反社会的な存在である総会屋だというふうに認識をしながら、わかっておって株主総会を乗り切るために積極的に便宜を図ったのではないかということを私は問いただしたわけでありますが、その予算委員会における参考人質問の段階では、のらりくらりとみずからの積極的な関与を否定するかのような答弁になっておりました。  ところが、翌日でしたでしょうか、その酒巻野村証券前社長が逮捕されたわけでありますが、法務省の刑事局長に酒巻前社長の被疑事実の内容をここで明らかにしていただきたいと思います。
  65. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) お尋ねの被疑事実の要旨をお答え申し上げます。  野村証券の代表取締役社長であった被疑者が同社取締役等と共謀の上、同会社の業務または財産に関し、その株主である小池隆一の株主権の行使に関し、同社の株主総会で議事が円滑に終了するよう協力を得ることの謝礼の趣旨で、同会社の顧客である小池がその関係会社の名義で行った有価証券の取引等について生じた損失の一部を補てんするため、野村証券の計算において、小池に対し平成七年三月、有価証券売買で得た利益を小池の関係会社名義の取引勘定に帰属させて約三千五百八十三万円相当の財産上の利益を提供、供与したというものでございまして、証券取引法違反、これは損失補てんに係るものでございますが、それと商法違反、これは利益供与に係るものでございますが、両事実に該当するという被疑事実でございます。
  66. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 どうも野村証券といい、第一勧銀といい、長年にわたって総会屋と深い癒着をしておったんではないかということが予算委員会における参考人質疑を通して明らかになってまいりました。  また、野村証券の酒巻前社長の逮捕後、むしろ小池隆一なる総会屋を積極的に利用してというんでしょうか、けさの新聞によりますと、株主総会における質疑事項をあらかじめ会社に通告を求める、そういうふうなこともやっておったということが報道されておるわけであります。  いずれにいたしましても、証券業界それから銀行業界に対する国民の不信がきわまったなというふうに思います。一般投資家の期待も裏切ったことは間違いないわけでございまして、それどころか、証券会社あるいは銀行という社会的な責任が大きい企業が総会屋というやみの存在に、しかも違法行為だということを知りながら便宜を図っていく、利益を供与すると、とても許せない行為だというふうに私は思っております。  しかも、こういう不正行為がなかなか長期間発覚しなかったということもあるわけです。ある面で日銀の検査もごまかしておったということもあるわけであります。  そういうことの再発防止の意味で、野村証券あるいは第一勧銀に見られる総会屋への利益の供与、不正融資などに対する商法等を改正してさらに一層刑罰を強化するということについては、法務省としてどういう方策をお持ちなのか、明らかにしていただきたいと思います。
  67. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 御指摘規定は、昭和五十六年の商法改正におきまして、会社からそういった株主の権利の行使に関する利益供与を実態上禁止するとともに、それに違反した取締役等は刑事罰をもって対処するという新しい規定を設けたわけでございます。  この趣旨は、こういうことが商法上違法である、そして刑罰をもって対処されるんだということを明らかにして、それによって会社の取締役等企業関係者にいわゆる総会屋と言われる存在とのつき合いを絶っていただく、そういうことを期待して立法がされたというふうに承知しているところでございます。  その趣旨がまだまだ行き渡っておらないということでこういう事態に立ち至っているものと認識しておりますが、これは今回いろいろ捜査のメスが入るあるいはそれらがマスコミ等で大々的に報道されるということによって、また企業関係者の意識も改まっていくということを期待したいというふうに思っているわけでございます。しかしながら、御指摘のように、現在の罰則が軽きに過ぎるのではないかという御指摘をいろんな方面からいただいているところでございます。  その罰則の強化ということにつきまして、そういった御指摘を踏まえて重大な関心を持って私どもとしても検討してまいりたい、このように考えているところでございます。
  68. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 私は、この利益供与などがもうとてつもない金額でなされている、しかも長期に及んでおるということなどから照らしますと、ぜひ罰則を強化する方向で速やかな御検討をいただきたいということを強く要望しておきたいと思います。  次に、法制審議会におけるいわゆる組織犯罪対策新法、これは仮称でございますけれども、その検討状況はどのようになっておるのか、また現段階における法案の骨子などについて御説明いただければありがたいというふうに思います。
  69. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) お答え申し上げます。  御指摘のいわゆる組織的な犯罪の現況に対処するための刑事法の整備に関しましては、平成八年十月に法務大臣から法制審議会に対して諮問がなされました。そして現在、法制審議会の刑事法部会におきまして鋭意さまざまな観点から活発な御審議をいただいているところでございます。  その諮問の内容でございますが、大きく分けまして四つの項目が提示されたのでございます。  一つは、組織的な犯罪に対する刑の加重を考慮すべき点はないだろうかという点。  また、犯罪収益、つまり犯罪によって得られた利益と申しますか、組織的な犯罪が行われた場合には個人犯罪では考えられないような利益が集積されていくということもあるわけでございまして、そういう犯罪収益によりまして新たな事業経営の支配等が行われるということがございます。そういうものに対する処罰の可能性の問題。  それから、そのような犯罪収益に対しまして没収あるいは追徴していく制度の拡大というふうな点がございます。この点はいずれもいわゆるマネーロンダリングと国際的にも言われているところでございまして、先進国を初め各国で協調して、国際的にもさまざまな形で行われてまいります組織的犯罪に対処するためにそのような法整備をする必要があるのではないかという点からの諮問でございます。  そしてもう一つは、いわゆる通信の傍受でございますが、裁判官の発する令状によりまして一定の場合に通信傍受をしていく、それが組織的に行われる犯罪の解明に役に立つのではないかという観点からの制度の導入についての点でございます。  そしてさらには、組織的な犯罪を含めまして、証人等が刑事司法のさまざまな場面で、捜査あるいは公判という形で刑事司法に協力をしていただかなきゃならない場面が多々あるわけでございます。そうした中に、その証人等に不測の損害といいますか、危害が及ばないようにさまざまな観点から保護をしていかなきゃならないというのは、刑事司法に課せられた大きな任務であろうと思います。また、そういうことが行われませんと安んじて刑事司法の実現に協力していただけないという点があろうかと思います。そういう観点から、それらに関する手続につきまして、新たな法制度について改正していく必要があるかどうかという観点から諮問させていただいたわけでございます。  ただ、いずれの点につきましても新たな法導入ということで、そういう法執行の面からの必要性と、また一方では、それがたちまちといいますか、直接的には関係者のプライバシーといいますか自由というものに一定の制約を持ち得るということでございますので、そのあたりのバランスを図っていく必要ももちろんあるわけでございます。  そういう観点から、さまざまな角度から現在極めて詰めたといいますか、回数を重ねた審議をお願いしているところでございまして、可及的速やかに、その意見をちょうだいした上で、そしてそれに基づきましてどのような形で法案として国会に御提出させていただけるのかという点について早急に検討してまいりたいと考えている次第でございます。
  70. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 次に、入管法及び難民認定法が過日改正をされました。その改正の趣旨は、もう御案内のように、組織的に密航を図るような犯罪について刑罰を加重するということなどがその内容になっておるわけであります。その法改正のときに、季節的に五、六月ごろということでしたでしょうか、そのころはかなり中国を初めその他の国々から日本への密航者が入ってくるということでございましたが、どうもあの法改正後非常に少なくなったのかなと、あるいはぴたっとやんだような感じがするわけでありますが、改正法を国内的、国外的にどのような方法で周知徹底をしてまいったのか、その具体的な方策の執行について質問をさせていただきたいと思います。  現状は、その法改正の効果があらわれたというふうに見てよいのかどうなのか、そこら辺についてもお教えいただきたいと思います。
  71. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) まず、改正入管法についての広報の状況でございますが、この改正入管法の重要性、緊急性にかんがみまして、この法律改正法の施行の前後におきまして記者発表を行いますとともに、政府広報を活用するなどいたしまして、その内容につきまして広く内外に広報しているところでございます。このほか、各種の会議等の場におきまして関係省庁に対しましても説明を行っております。  さらに、改正の内容を盛り込みました中国語を初めとします外国語によるリーフレットを作成いたしまして在外公館へ配備することや、インターネットの活用等も行いまして、現在この六月に当局におきまして実施中の不法就労外国人対策キャンペーン月間、この機会を利用いたします等、今後ともあらゆる機会をとらえまして広くこの周知に努めてまいりたいと存じます。  それから、もう一つの御質問は、この法律の施行後、密航の状況はどうなっているかと、こういうお話でございます。五月十一日にこの改正法が施行されましたが、それ以降、当局で認知しております密入国案件というのは二件でございまして、一件は、五月十五日に長崎県南松浦郡奈留町葛島というところに中国人五十四人が密入国した事件がございます。もう一つの事件は、五月十八日に宮崎県細島港に入港した韓国船籍の貨物船でネパール人三人が密入国した、この二件でございます。  まだ改正法施行後、日を経ておりませんので、この法律によって非常に効果が出たというところまで言えるかどうかは何とも申し上げられないところでございます。
  72. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 ありがとうございました。  最高裁判所にお伺いをいたしますが、先週、私ども参議院の法務委員会、最高裁長官のお招きで懇談をする機会がございました。大変ありがとうございました。私も懇親会の後、大法廷も見させていただきまして、大変有意義な会合であったというふうに思っております。  ところで、よく言われます裁判官が忙し過ぎるんじゃないかということです。これは私自身二十五年間弁護士をやっておりまして、裁判官が忙し過ぎるのはよくないんじゃないか、もっともっとやっぱりゆとりを持って事件処理をしてもらいたいなということを常々思っておるわけでございます。裁判官及び裁判所職員の定員確保、あるいは特に裁判官に限っては欧米諸国などと比べて持ち事件の数がどういう状況になっておるのか、そこら辺わかる範囲でお教えください。
  73. 涌井紀夫

    最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 裁判所の職員の繁忙度というのは、簡単に言いますと事件の数によって決まってくるわけでございますが、この事件数というのは、特に民事事件の場合、その時々の社会の経済状況といいますか、それを非常に敏感に反映する面がございます。  最近の傾向を申し上げますと、いわゆるバブルが崩壊し始めたと言われております平成三年度以降、急激に民事の事件が伸びてきております。訴訟事件はもちろんでございますけれども、それ以外にも執行事件でありますとか破産事件というものがふえてきまして、しかもその増加が首都圏を中心とします大都市部に集中的に起こっているという状況でございます。したがいまして、こういう大都市部の裁判所で民事事件を担当しております裁判官でありますとかあるいは書記官が非常に忙しくなっているという点は、先ほど委員指摘のあったとおりでございます。一番ひどい時期ですと、例えば東京地裁の民事部で事件を担当しております裁判官一人当たりの手持ち件数が三百件近くになってしまうという、そういうふうな例も人によっては出ておりました。  私どもの方、こういう状況を受けまして、ここ数年来、裁判官と書記官の増員に努めてまいりまして、裁判官について言いますと、平成四年から昨年、平成八年までの五年間で合計五十一名の裁判官を増員いたしました。さらに、ことし、平成九年には御承知のとおり二十名の裁判官の増員をお認めいただいたわけでございます。書記官につきましても、昨年までの五年間で二百十二名という増員を行いましたし、ことしはさらに百五十名という、これまでにない人数の増員を行いました。こういった増員された要員はこういう大都市圏の繁忙部署に重点的に配置しておりますので、東京地裁の民事の裁判官の手持ち件数というのも一時に比べますとかなり改善されてきたというふうに考えております。  ただ、事件の動向、ややおさまった感じはございますけれども、まだ減少に向かったというところまでは行きませんので、今後とも事件数の動向をよく見ながら適切な対処をこれからもやっていく必要があるだろうというふうに考えております。
  74. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 法務大臣にお伺いをいたしますが、つい先ほど社会民主党とそれから新党さきがけ共同で、民法の一部を改正する法律案を議員立法で提出させていただきました。その内容は、法制審で答申を得られた内容にほぼ同じでございまして、両性の本質的な平等と個人の尊厳ということを大事にしながら法制審答申を国会の中で実現をしていく、こういう強い思いを持って出させていただいたわけであります。  改めて、この段階における民法の一部を改正する法律案、夫婦の選択的別姓の問題だとかあるいは非嫡出子の相続差別をなくしていく問題などを含んだ法律案についての法務大臣の御所見をお伺いいたしまして、私の質問を終わります。
  75. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 議員提案の形で民法の一部を改正する法律案、これが提案されたということは私も承知をいたしております。  この法案につきましては、これから国会で御審議、御検討いただく問題であるというふうに考えておりますので、この場で私がその法案についての見解を述べることは穏当でない、差し控えさせていただきたい、こういう気持ちでおりますので、お許しを願いたいと思います。
  76. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 私は、野村証券と第一勧業銀行事件について基本的なことを法務省、大蔵省当局にお聞きいたしまして、最後に大臣に両事件に対する司法当局の基本的な姿勢についてお伺いしたいというふうに思います。  まず、野村証券の不正利益供与事件で東京地検特捜部が既に常務二人を逮捕いたしました。元社長も逮捕されておりまして、六月四日には野村証券が法人たる立場で証券取引法違反で起訴、または松木、藤倉両元常務が同様に起訴されております。  一方、総会屋と言われる小池容疑者側に株取引などのための巨額資金を融資した第一勧業銀行への強制捜査が進んでおりまして、不明朗、不正、不法な融資の実態が毎日のように新聞をにぎわしておりまして、明らかになりつつあるということでございます。  事件はまさに社会問題化しておるわけです。この二つの会社はそれぞれの業界におけるまさに指導的立場にある企業でありまして、大変な問題が起こってきていると思います。  そこで、本事件の捜査で適用されました商法四百九十七条、すなわち利益供与罰則規定立法目的と立法趣旨について法務省の見解をお伺いしたいと思います。
  77. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 今ほども御答弁申し上げましたように、この規定は昭和五十六年の改正法によって新設されたわけでございますが、その趣旨として私ども承知しておりますところは、いわゆる総会屋の跳梁によって株主総会の形骸化がされておる、株主総会が真の株主の自由な意見交換の場として機能していないという弊害を生じているということ、それと総会屋に対するいわゆる不正な利益供与ということで会社の財産が害されているということ、そういった総会屋の跳梁というものを規制しなければならない、そういう観点から、実体法の規定、さらに刑事罰の規定が設けられたということであるというふうに承知しております。  その場合に、何よりも総会屋を排除するためには会社の取締役等企業関係者が断固としてそういう者とのつき合いを絶っていただくということが必要である。そのために商法に罰則規定を含むそういう規定を置いて、そしてこういう利益供与をすれば刑事罰になるんだということによってそういった利益供与を断固として断っていただく、いわばそういう武器を与える、そういう趣旨でこれらの規定が設けられたというふうに聞いているところでございます。
  78. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 今、法務省も総会屋という言葉を使って説明されまして、私も総会屋というようなことを言っているわけですが、何かしら総会屋と言いますと、日本のこの経済システムの中で問題はあるけれどもその存在がある程度認知されるような印象が起こってきます。総会屋何がしという小説がかなり有名になったような経過もあります。しかし、アメリカの話を聞きますと、企業強盗と端的にその実態を言っているわけですし、新聞記事なんかを見ますと外国ではギャングに利益供与したという表現が使われている。まさにギャング対企業の関係というふうに的確にとらえ、表現する必要があるんではないかと私は思っておりますが、便宜上総会屋、総会屋でまかり通っているわけでございます。  さて、商法四百九十七条の立法目的、趣旨について御説明いただきましたが、改正というか新設された直後、伊勢丹事件が適用第一号というふうにお聞きしておりますが、その後、そごう事件、イトーヨーカ堂事件、キリンビール事件と続きまして、最近でも高島屋事件、味の素事件というふうに起こっております。この続発している事件の刑の確定が行われたものについて、どの程度の刑がこれに科されているか、ちょっと簡単に御説明いただきます。
  79. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) お尋ねの各事件につきまして裁判の結果を申し上げますと、まず伊勢丹事件につきましては、昭和五十九年六月から七月までの間に東京簡易裁判所におきまして、会社側関係者一名に対し罰金二十万円、総会屋十名に対し罰金十五万円ないし二十万円の刑、そごう事件につきましては、昭和六十一年七月、大阪簡易裁判所におきまして、会社側関係者一名に対し罰金十五万円、総会屋三名に対していずれも罰金十万円、またイトーヨーカ堂事件につきましては、平成五年二月から三月までの間に東京地方裁判所におきまして、会社側関係者二名に対しいずれも懲役六月、執行猶予三年、総会屋三名に対して懲役四月ないし六月、いずれも執行猶予四年の刑が、またキリンビール事件につきましては、平成五年十二月から平成六年一月までの間に東京地方裁判所におきまして、会社側関係者四名に対し懲役五月ないし六月、執行猶予三年ないし四年、総会屋九名に対しまして懲役四月ないし六月、執行猶予三年ないし五年の、罰金刑あるいは執行猶予づきの懲役刑に処する裁判がなされました。これらはいずれも一審でそのまま確定しているものと承知しております。  なお、委員先ほど御質疑の中でお触れになりました高島屋事件、味の素事件については、現在公判係属中でございます。
  80. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 先ほど立法の目的、趣旨ということが説明されたわけですが、それは法の内容についての説明というふうに私は思います。  その伊勢丹事件が起こった当時、さまざま、刑が軽過ぎるんではないか、やり得ではないかということが言われ始めて、今説明された各事件の確定した刑の内容というのは、その後ずっと、社会的常識から見て犯罪の重さからするとかなり軽いのではないかというふうに思われていると思います。私もそのように思います。  それは、当時法務当局が、立法の目的は、株主総会からの総会屋の締め出し、それと企業の健全経営ということを目的としていると、企業側の遵法精神に期待したものだということを、企業に対する性善説といいましょうか、当然あるべき姿を法務当局は想定してこの法の設定を行ったということが言われました。  私は、企業というのは社会的な責任を有するのでありまして、個人もそうですけれども、特に強い力を持った企業からすれば社会的責任は重いというふうに思います。法の規定があるなしにかかわらず、総会屋なるものとの関係を持たないということは当然の姿勢であります。企業目的に沿わない経営態度などというものは、商法に規定があるから、銀行法に規定があるからなどという問題ではなくて、みずからきちんと守らなきゃならない、それが法制定のときの意識、意思であったろうと私は思うわけでございます。ということからすれば、この大前提が崩れたと言わなきゃならない。  そこで、一つは、六月または三十万以下の罰金という罰則が軽過ぎるのか、あるいは企業の社会的な責任を問う立場からの企業活動、企業経営者の行動規範のあり方などを法制上のシステムとして確立する必要があるのか、あるいは社会的責任はあっても私企業の経済活動であるから全く自由なんであって、法律に触れたら罰せられる、触れなけりゃそのまま、わからなけりゃそのままということなのかということが問われておるわけであります。  一つは、先ほど照屋委員とのやりとりにもありましたが、刑罰を強化するという方向をとろうとしているのか、あるいは経済活動において社会的責任をどう担保するかということの法制上のシステムをつくるということについての考えがおありかどうか、お伺いしたいと思います。
  81. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 商法のいろんな規定が必ずしも企業性善説に立っているということではないと考えておりますが、商法の規定というのは一定の規範を定めて大変たくさんある会社の関係者にそれを遵守していただくということを予定して定めているものでございます。それに違反した一定の場合には民事上の責任あるいは刑事上の責任を追及すると、そういう形でその遵守を確保するという考え方でできているわけでございます。  企業がいわゆる社会的責任を果たすという観点から、あるいは裏返して言えば企業の不正行為を防止するという観点からは、商法の規定におきましてもさまざまな観点から制度的な規定を用意しております。株主総会による監視あるいは個々の株主による監視、それから取締役会の制度のあり方、監査役あるいは監査役会の制度のあり方、さらには大会社につきましては会計監査人の監査というようなものを定めておるわけでございまして、その企業の不正行為実態に応じて、それらの制度の充実という観点からこれまでも累次のそういった諸制度の改善策、強化策というものの対応をさせていただいているわけでございます。  この利益供与の禁止、利益供与罪の創設もそれらの一環として法改正を実現させていただいたものでございます。それらの規定が遵守されるかどうかということは、これはその趣旨を企業関係者に十分に理解していただくということと、その違反があった場合の民事上の責任あるいは刑事上の責任が適切かつ厳正に運用されるということを期待するという考え方でございます。  罰則として軽きに失するのではないかということにつきましては、先ほど照屋委員の御質問にもお答え申し上げましたように、そういう大変強い御意見があるところでございます。  ただ、この点につきましては、これまでの刑事罰の例、ただいま刑事局長から紹介がありましたが、企業の取締役等にとりましては、そういった刑事罰でありましても、それがマスコミ等において大々的に報道される等の点も含めまして大変大きな打撃であると、事が発覚して刑事責任を追及されれば、それは企業関係者にとってはいわば致命傷になるという受けとめ方がされているのではないだろうか、そういうふうに考えております。今次の御指摘のような事案について、今捜査のメスが入っている、そしてマスコミ等で大々的に報道されていると、こういうことによってさらに企業関係者の意識が改まっていくのではないかということを期待しているところでございます。  そういうことでございますけれども、御指摘のような点を踏まえて、私ども関心を持って検討してまいりたいというふうに思っております。
  82. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 実態は、法務省が、社会的責任、社会的立場からみずから律していくではないかという期待が裏切られ続けているわけであります。企業は社会的責任をみずから言ったり、またさまざまな立場から意見社会的に言ったりしておりますけれども、みずからの実態は法によって規制されなければならないような状況を行っているんだということをきちんと企業、特に第一勧業銀行、野村証券は自覚をする必要があるんじゃないかというふうに私は思っております。  次に、大蔵省においでいただいていると思うんですが、第一勧銀が小池容疑者に四大証券株を取得する際に十分な担保をとらないで巨額の融資を行ったと。その上、九四年には小池容疑者側に対する不良債権を隠すための六億円の追加融資を不正に行っているなどということが明らかになってきております。第一勧業銀行の総会屋への融資の実態を大蔵省はどのように把握しているのか、あるいはどのように把握してきたか。これは銀行法十九条による業務報告等において虚偽の報告がなされたのか。あるいは大蔵省の立入検査に対して、法に言う答弁をせず、もしくは虚偽の答弁をしたのか、あるいは検査を妨げ忌避したのか。この実態について御報告をいただきたいと思います。
  83. 内藤純一

    説明員(内藤純一君) お尋ねの点についてお答えをいたします。  第一勧業銀行が総会屋関係者に対しまして融資を行っていたことにつきましては、第一勧業銀行の取引先ノンバンクが総会屋の関係者に対して融資を行っていたという報道がなされましたのが三月十八日でございまして、その日から同行に対しまして報告を求めてきたところでございます。  当局といたしましては、直ちに同行に対しまして詳細な事実関係等について調査を行うよう指示をいたしまして、同行の内部調査に基づく中間的な報告、これを五月二十三日になされたところでございます。この中間報告によりますと、次のような事実が明らかになっているところでございます。  まず第一に、一連の取引でございますが、これは債務者である小甚ビルディング代表取締役小池嘉矩が総会屋と言われております小池隆一の弟であると認識の上行われており、さらに結果として審査面や保全面でチェック機能が十分働いていなかったと言わざるを得ない取引が行われていたと。  第二に、同行は平成二年九月及び平成六年十月に行った当局の検査におきまして、一部の取引が不良債権として指摘されることを回避した疑念が生じており、同行としてさらに事実関係調査するということでございました。  この中間報告を受けまして、同行に対しまして、本件をめぐる事実関係等についてさらに詳細な調査を進めるとともに、他にこのような取引がないかどうかといったことについても総点検を行うように指示をしたところでございます。また、この際、経営体制全般の見直しを行い、信頼回復に向けてあらゆる努力を行うようあわせて指示をいたしたところでございます。  私ども金融当局といたしましては、今後、事実関係等についての詳細な報告を受けまして、その内容を十分検討するとともに、捜査当局の捜査の状況をも踏まえつつ法令等に従い厳正に対処していきたいというふうに考えております。
  84. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 法に定めた報告義務、または正しい報告をすべしという、法に定めがない場合であってもそのようにしなければならないことが踏みにじられた状況になっているというふうに思っています。  銀行法第一条第一項、第二項とありまして、「この法律は、銀行の業務の公共性にかんがみ、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。」。二条で、「「銀行」とは、第四条第一項の大蔵大臣の免許を受けて銀行業を営む者をいう。」と。第四条では、「十分な社会的信用を有する者であること。」という規定がございますが、今回の一勧の一連のとった行動というのは、銀行法一条、二条、四条にももとるんではないかというふうに私は思いますが、大蔵省の見解はどうですか。
  85. 内藤純一

    説明員(内藤純一君) 先生の御指摘の点でございますが、私ども、この今回の第一勧業銀行の問題につきましては、今、先生御指摘のような条項にございます金融銀行業務というものは公共性というものが極めて高いということを踏まえた規定であろうというふうに認識をしておりまして、こういった公共性の高い免許業種である銀行が不適切な業務運営を行い預金者等の信頼を著しく損ねたということは極めて遺憾であるというふうに考えております。先ほど申し上げましたように、私どもといたしましては、さらに事実関係の究明を行い、また捜査当局による捜査の状況も踏まえながら、法令等に基づき厳正に対処していくという考えでございます。
  86. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 次に、法務省にお聞きいたします。  まず、野村証券事件、第一勧銀事件の検察の体制についてお聞かせいただきたい。専従がどのぐらいでどういうことであるかということです。それとあわせて、過去の事件、現在の事件でもありますが、住専問題の体制、三つにロッキード事件の体制、四つにリクルート事件のときの体制、五つに佐川事件における体制、これらについて簡単に御説明いただきます。
  87. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) お尋ねの各事件におきます捜査体制ということでございますが、まず過去の事件についてごく簡単に申し上げますと、専従した検察官数ということで申し上げさせていただきますと、ロッキード事件につきましては約五十名、リクルート事件につきましては約五十名、佐川急便事件につきましては約三十名、住専関連事件について約六十名の捜査体制でそれぞれ捜査に臨んだものと承知している次第でございます。  ただいま最初に委員がお尋ねいただきました現在の事件の具体的な捜査体制ということでございますが、これはまさに進行中の捜査の状況ということで日々、捜査は生き物でございまして、その事態に対応するために許される中で最大限の努力を尽くしているものと私ども考えております。  検察当局においては、事案全容の解明のために必要な、それにふさわしい捜査体制を組んで鋭意捜査を続けていくものと考えておりますので、そのように御了解いただければと存ずる次第でございます。
  88. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 私の聞く限りにおいては、野村証券、第一勧業銀行事件の検察体制は、先ほど私が申しました過去の事例に匹敵する、またそれ以上の体制というふうにお伺いしております。答弁の中では専従検察官の数でありましたが、これに対して副検事とか検察事務官というものを加えれば膨大な捜査体制で対応してきたろうというふうに思いまして、今回もそういう体制がとられているというふうにお聞きしております。  そこで、大臣に、この両事案に対して司法当局としてどのような姿勢で臨むのか、どのような体制で決意を示すのかということについてお聞かせいただいて、私の質問を終わります。
  89. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 日本の代表的な優良企業がこんなことになろうとは夢にも思っておりませんでした。まことに残念のきわみでございます。  法務省といたしましては、刑罰法規が軽いではないかという説があることも十分承知をいたしておりますので、慎重に検討をさせていただきたいと思っておりまするし、また捜査に当たりましては、今、刑事局長が述べましたように、ある程度の覚悟を持って非常に大規模な捜査を続けておるやに聞いております。したがって、犯罪事実が出ますれば、これに対して厳正な処理をするという方向で当たっていただけるものと思っております。
  90. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 どうもありがとうございました。
  91. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  92. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 速記を起こして。
  93. 橋本敦

    ○橋本敦君 私はきょうは、最近新聞紙上でも大きな問題になっておりますが、三十四年前の昭和三十八年五月に十三歳で二人のおじと石川県の沖に出漁に出た少年、それが昭和六十二年一月になって北朝鮮で金英浩という名前で生存をしておられることが明らかになった事件についてお伺いしたいと思います。  この寺越武志さんについては、戸籍の上では死亡ということで戸籍が抹消されております。それによりますと、昭和三十八年五月十二日、推定午前二時ごろ、石川県の福浦灯台沖約二百三十数海里、ここで亡くなったということで、海上保安本部長の報告に基づいて除籍をされているわけであります。しかし、うれしいことに生きておられた。そのことがお母さんによって確認をされた。こういうことで戸籍の回復の申請が出されているわけであります。  まず法務省に伺いますが、こういう場合、戸籍の回復はどういう手続によって可能になるんですか。
  94. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 御指摘の事例は、今お話がございましたように、海上保安庁の死亡認定に基づきまして本籍地の市町村に死亡報告がされ、それに基づいて死亡の戸籍上の処理をしたという事案と承知しております。こういった場合に、海上保安庁の方からこの死亡認定が誤っていたということで死亡報告取り消しの通知があれば、それに基づいて本籍地の市町村長がその戸籍を回復する手続をとるということになります。
  95. 橋本敦

    ○橋本敦君 お説のとおりですね。したがって、お母さんは、寺越友枝さんですが、海上保安庁に対して死亡認定の取り消しの申請をなさいました。その死亡認定の取り消しをするには、これは当然本人の生存を確認する必要がございます。お母さんはこれまで、昭和六十二年から平成七年の間、四回にわたって北朝鮮に行かれて息子さんと会いまして、そして一緒に写真も撮り、また武志さんから来た手紙もあり、また録音のテープも提供して、海上保安庁にぜひこの認定の取り消しをしてほしいという申請をなさいました。  海上保安庁に伺いますが、この手続は今どうなっているでしょうか。
  96. 島坂治朗

    説明員(島坂治朗君) お答えいたします。  先週の五月三十日に金沢海上保安部に死亡認定の取り消し願が提出されまして、既に調査を開始しておるところでございます。  この調査の結果、従来の決定を変更すべき事由があれば速やかに認定の取り消しを行うことになるわけでございますけれども、一刻も早い死亡認定取り消しを希望されております御家族の意向も踏まえまして、現在、本件調査につきましては最大限の努力を払いまして行っておるところでございます。
  97. 橋本敦

    ○橋本敦君 今お話しのように、最大限の努力を払ってやっていただいていることは、私もそのとおり信頼をし、ぜひお願いしたいと思うわけであります。  取り消しのためには生存の確認が必要ですね。この生存の確認ということは、お母さんが提出された資料で疑問の余地がない、私はこう考えておるんですが、海上保安庁としてはこれらの資料を厳正に御検討いただいて、あとどんなふうに、どのくらいの期間でこのお母さんの願いがかなえられるようなそういう手続が進捗するのか、その見通しについてはいかがでしょうか。
  98. 島坂治朗

    説明員(島坂治朗君) ただいま申し上げましたとおり、現在最大限の努力を払いまして本調査をしているところでございます。
  99. 橋本敦

    ○橋本敦君 この調査の困難は、まさに国交のない、海を越えた向こうに武志さんが生存しているというその事実です。そうでなければ、本人と直接会って確認することが可能であれば直ちにできる問題なんです。そこにこの問題の人権上の重要な問題があり、政府として全力を挙げて一日も早くやっていただきたいという大きな問題があるわけです。そういう意味では前例のないケースと言っていいでしょう。  お母さんはそういったことも十分承知の上で、この申請をなさった後の記者会見で、武志さんが自分の生まれた国に一回でもいいから戻ってくるようにしてやりたいんだ、皆さんの御協力をお願いしますと、こう言って泣き崩れておられた姿をテレビで私も見たんです。こういう願いにこたえて、まさに国民の人権を守ってあげなくちゃならない法務省として、私は法務大臣にも特段の御尽力をお願いしたいと思うのですが、法務大臣いかがでしょうか。
  100. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 当省の事務として御協力できる問題があれば、事情をそんたくして全面的に協力をしてまいりたい、こういう気持ちでございます。
  101. 橋本敦

    ○橋本敦君 海上保安庁にお伺いしますが、この審査のために外務省を通じていろいろ知りたいことを知る、そういう手続をやる必要があるんでしょうか。あるとすれば外務省にもぜひその協力をお願いしなきやなりません。海上保安庁は自分が死亡と認定したことですから自分の責任で取り消すということで、今までの資料の範囲でこれは可能であるということでやっていただけるんでしょうか、各省庁の協力がどうしても必要だという御判断なんでしょうか、その点はいかがですか。
  102. 島坂治朗

    説明員(島坂治朗君) ただいま申し上げておりますように、先週の三十日に取り消し申請を受けまして、現在最大の努力を払って調査をやっておるところでございますが、何をどこまでやるかというようなことも含めまして、必要があれば関係省庁にお願いをするということも含めまして検討もいたしております。
  103. 橋本敦

    ○橋本敦君 外務省、お越しと思いますが、外務省も海上保安庁から相談なり協力要請があれば全面的に協力していただけると思うのですが、いかがでしょうか。
  104. 別所浩郎

    説明員(別所浩郎君) 先ほどから海上保安庁さんの方から御説明のとおり、死亡認定取り消し願ということについては海上保安庁さんの方で今調査検討をしておられるというふうに伺っているわけでございますが、外務省といたしましても、当然のことながら、寺越さんの件につきましては重大な関心を有しておりまして、今後も御本人や家族の御意向がかなっためにいかなる方法が効果的か探りながら、海上保安庁ほか関係省庁とも連絡しつつ努力してまいりたいと思っております。
  105. 橋本敦

    ○橋本敦君 その協力はぜひお願いしたいんですが、海上保安庁に重ねてお伺いします。全力を挙げて協力をして進めていきたいというお話がございました。海上保安庁の気持ちとして、まさに今出された資料で武志さんが生きておられるという心証を強くお持ちだと私は思うんです。したがって、手続はいろいろ要りますが、あらゆる努力や省庁との協力もお願いしなきやなりませんが、可能な限り早くこの死亡認定の取り消しをして戸籍の回復が可能になるようにしてあげたい、そういう気持ちでやってもらっていると私は信じておりますが、よろしいですか。
  106. 島坂治朗

    説明員(島坂治朗君) 海上保安庁といたしましては、先ほども申し上げましたとおり、御家族の御意向も十分踏まえて最大限の努力をしておるところでございます。
  107. 橋本敦

    ○橋本敦君 事は人権にかかわる重大な問題でありますから、ぜひともよろしくお願いをいたします。  北朝鮮側から海難で救助したとかなんとか、いろんなアンサーがあればこれまたそれも進むんでしょうが、私も私なりに手続の困難であることはわかりますけれども、たとえ北朝鮮の対応がどうであれ、こちら側だけの資料でも生存しているという状況が十分確認できるということの蓋然性がこれは確定的に強くなれば、日本政府の決断として死亡認定を取り消すというぐらいの英断があってこそ人権が守られると私は思いますよ。  そういう強い立場でこの問題に対処していただくことができるように重ねて海上保安庁に、今あなたがおっしゃった御家族の気持ちを考えて全力を尽くすという意味は、政府の責任においてそういった腹をくくってやるということのように理解したいと思いますが、よろしいですか。
  108. 島坂治朗

    説明員(島坂治朗君) 繰り返しになりますけれども、御家族の御心情も踏まえまして全力でこの作業を進めておるところでございます。
  109. 橋本敦

    ○橋本敦君 それ以上あなたは言えないという気持ちの中に、私が言ったことも含めて全力を挙げていただいておるということを善意で確信しておきましょう。私はそれはまさに政府として国民の人権を守る道だと思います。  法務大臣も先ほど、必要な協力があれば必要な立場で協力するとおっしゃっていただいたことの趣旨も、可能な限りお母さんの気持ちを入れて国民の人権を守っていくというお気持ちだと、こう理解させていただいたんですが、よろしゅうございますか。
  110. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) そのとおりでございます。結構でございます。
  111. 橋本敦

    ○橋本敦君 それと全然話が変わる問題に移ります。  いわゆる日本人拉致事件の問題でありますが、私はもう十年も前にこの問題について予算委員会で質問をさせていただきました。当時の国家公安委員長、今の梶山官房長官は、昭和五十三年以来一連のアベック行方不明事件、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます、解明が大変困難ではあっても、事態の重大性にかんがみて、今後とも真相究明に全力を尽くしますとおっしゃっていただきました。当時の宇野外務大臣もその予算委員会、六十三年三月二十六日ですが、ただいま国家公安委員長が申されたような気持ち、全く同じでございます、この近代国家、我々の主権が侵されておったという問題は先ほど申し上げましたけれども、今平和な世界において全くもって許しがたい人道上の問題がかりそめにも行われているということに対しましては強い怒りを覚えておりますと、こうおっしゃいました。  自来、長い年月がたちました。との問題について家族の人たちは、拉致された子供たちのことも気にしながら、声を上げずに辛抱してまいりました。しかし、今日になってもその音さたが、政府の責任で解明されるという方向に進まない、そういう気持ちの中で苦慮しておられましたが、たまたまその中で、御存じのように横田めぐみさんの事件が新たに問題になって、これが明らかになってまいりました。そこで、北朝鮮に拉致された人々の家族が三月二十五日に家族会を結成されまして、新聞、テレビでも大きく報道されたところであります。  この横田めぐみさんの情報が入りまして、いち早くお父さんに御連絡したのは私の部屋からでございましたけれども、「文芸春秋」でお父さんはそのときのことをおっしゃって、娘が姿を消して二十年、「初めて耳にした娘の消息に、私の身体はショックと驚きで震えました。」と、「議員会館のある永田町に向かう途中、次第に「娘は生きていた」という喜びが湧き上がってきました。」、そして、「一刻も早くめぐみを救出できるなら自分の命さえ惜しいとは思いません。代われるものなら代わってやりたいと思うのは、子を持つ親なら誰でも同じではないでしょうか。」と、こうおっしゃっていますが、まさに家族の皆さんはそうだと思います。  この問題で、私は、重要な人権問題でありますから、ぜひ一刻も早い解決を望んでおるんですが、警察庁に伺います。これまで北朝鮮の拉致と見られる、認定された事件の件数と人数はどうなっておりますか。
  112. 米村敏朗

    説明員(米村敏朗君) お答えいたします。  私どもの方でこれまで北朝鮮による拉致の疑いのある事件と判断しておりますのは七件、十人でございます。なお、これ以外に未遂であったと思われるものが一件、二人であると判断しております。
  113. 橋本敦

    ○橋本敦君 それ以外にもいろいろ疑惑のある事件があるんだというような情報は接しておられますか。
  114. 米村敏朗

    説明員(米村敏朗君) お答えいたします。  警察といたしましては、ただいま申し上げました七件以外にも北朝鮮による拉致の可能性があるとして重大な関心を有している幾つかのケースについて、引き続き関連情報の収集等に努めているところであります。
  115. 橋本敦

    ○橋本敦君 私は、この問題については、まさに日本の国家主権の侵害にかかわるという問題であるし、国民の人権にかかわる問題ですから、これから北朝鮮との国交の関係という難しい壁をどう乗り越えて、どう早くこの人たちに救済の手を差し伸べるか、政府としても本当に大事な問題だと思っておるわけであります。  この問題について私はお願いがあるんですが、この家族会の皆さんだけの力でできることではありません。政府として全力を挙げて全面的に協力をする体制を一日も早くつくってやっていただきたいということがお願いでございます。  外務省は外務省として努力をなさっておると思いますが、外務省として現在、この事件の解決に向けてのめどというのはどうなんでしょうか。
  116. 別所浩郎

    説明員(別所浩郎君) お答えします。  先生御指摘の北朝鮮による拉致の疑いが持たれている事件につきましては、もちろん捜査当局によって所要の捜査が進められているものと承知しております。そういった面につきましては、もちろん外務省としても関係機関と連携しながら情報の収集などやっておるわけでございますが、それと別にまた、今後ともこの問題の解決のためにどういつだ方法が効果的か、真剣に考えながら努力してまいりたいと思っております。  いずれにせよ、先生も御指摘のとおり、この件は我が国の国民の安全にかかわる重要な問題でございます。そういう認識に立ちまして、関係省庁等とより一層緊密に連絡をとりながら真剣に対処してまいりたいというふうに思っておるわけでございます。
  117. 橋本敦

    ○橋本敦君 北朝鮮側は拉致ということは一切認めないという立場をとっていることは、外交交渉その他で言われているとおりです。私どもは北朝鮮政府の態度については厳しい批判的態度を持っておりますが、それは別として、この問題を人道的な立場で各党派を挙げ、政府を挙げて一日も早く救援してあげていただきたいという気持ちは共通でございます。  昨日も池田外務大臣は外務委員会で、省庁間の連携を密にしていかないといけないので、各省の協議を密にして早急に相談を進めていきたいと答弁なさったことが報道されました。  私は、このことは本当に大事なことだと思うんです。今も、警察庁はこれからも必要な捜査、検討を続けていくというお話、外務省も努力をしていくというお話がございました。内閣官房にもお越しいただいて御意見を伺いたいんですが、それぞれの省庁の横の連携も深め、政府の対応として、この問題については必要な情報連絡会議あるいは関係閣僚会議、そのもとで必要な対策室を設けるなど、そういった体制をつくっていただくことが大事かと思いますが、いかがでしょうか。
  118. 門司健次郎

    説明員門司健次郎君) 本件につきましての関係省庁の対応につきましては先ほど御答弁ありましたけれども、内閣官房といたしましても、今後とも本件については関係省庁間の一層緊密な連携を図り、あるいは連絡をとり、いかなる対応が最も効果的かという観点から検討してまいりたいと思っております。
  119. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで、この問題で最後に法務大臣にお願いしたいんですが、池田外務大臣も御答弁がありましたが、各関係省庁の連絡ということになりますと、人権を預かる法務大臣も大事なその中のお一人でございます。法務大臣として、警察庁あるいは外務大臣、あるいは国家公安委員長、あるいは官房長官等とこの問題について御協議をぜひ進めていただきまして、適切な対策なり方法なりを見出していただきますように、連絡体制の強化、対策本部でも結構でございますが、一段の努力をぜひ法務大臣に私はお願いして、この件の質問は終わりたいと思いますが、いかがでしょうか。
  120. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 委員指摘のとおり、大変重要な問題でございます。関係機関と十分に連絡をとって、いかなる方法が最も効果的であるかということについて前向きに検討を進めていく必要があるんではないかと思っております。最大限の努力をお約束申し上げます。
  121. 橋本敦

    ○橋本敦君 ありがとうございます。ぜひお願いしたいと思います。  それでは、全然テーマを変えまして、職員の増員問題について裁判所法務省にお伺いさせていた、だきます。  まず、裁判所ですが、裁判所の職員の増員ということは、我が国の国民的司法の人的、物的充実というインフラ整備、基盤整備として非常に大事でございまして、昨年も各党派一致で請願も採択をされてまいりました。  現状がどうかということですが、民事二十一部では、バブル崩壊後の不良債権処理ということが大変にふえまして、不動産執行・競売事件が急増して毎晩十一時にも及ぶ残業が続いているというように私も実情を聞いております。そして、しかもそれだけではございませんで、全国的にも執行事件が増加をしておるようでございます。大都会は特にその現象が著しいようでございます。  バブル崩壊後の事件増を表にしてみますと、九〇年度を一〇〇にいたしますと、今日、破産事件において大体六倍増、それからまた地裁民事事件でも一・五倍増ということでふえている現状のように思いますが、間違いございませんか。
  122. 涌井紀夫

    最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) いわゆるバブル崩壊と言われます平成三年ころから、民訴事件だけではございませんで、執行事件、破産事件が非常に急激にふえてきておるということは御指摘のとおりでございます。
  123. 橋本敦

    ○橋本敦君 最高裁はこういう実情について、人員の増員も基本的には要求をなさって解決に努力されておるわけですが、昨年度は増員が書記官百五十、裁判官二十ということで認められました。これは結構でございました。  しかし、今後これだけで十分かといいますと、来年から御存じのとおり、新民訴法の施行に伴いまして、簡裁での少額訴訟、この手続によって一層事件がふえることが予想されます。こういった新しい状況も見合って、今以上に職場の要求を積み上げて、十分裁判所として国民の期待にこたえられるように、なおまだこれから増員要求には一段と努力をしていただきたいと思いますが、裁判所の御見解はいかがですか。
  124. 涌井紀夫

    最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) このところ、事件増を背景にいたしまして、私どもの方は相当増員措置を継続してきたつもりでございますが、さらに来年一月から新しい民事訴訟法が施行されることになっておりまして、そこでは今御指摘のありました少額事件を初めとしまして、特に書記官にとっていろいろ新しいといいますか、難しい、責任の重い仕事がふえてまいります。そういったところを十分見ながら、本当にこの新民訴法が目標にしております国民の側から見まして利用しやすい裁判というものを実現していくために、裁判所の人的な体制の整備を図っていく必要があるだろう、できるだけそこに力を入れていきたいというふうに考えております。
  125. 橋本敦

    ○橋本敦君 ぜひお願いしたいと思います。これは労働組合だけの要求じゃなくて、国民の権利を守る司法体制の確立という観点からぜひお願いしたいと思います。  この前、局長質問した速記官の問題なんですけれども、これは残念ながら速記官の卒業生は一九九八年度で終わりまして、あとはもう採用しないとなりますと、ずっと減っていって二〇〇六年には七十九名しか残らないという資料を私は全司法からいただいて、これは大変だな、こう思ったんです。反訳作業はこれはまた別に進めるでしょう。しかし、裁判所法には「速記官を置く。」と、こう書いてあるんですから、裁判所法律を事実上死文にするような体制を続けていいのだろうか。速記官についても、現在の人たちは最後まで安心して仕事ができるし、速記官についてさらなる検討と配慮が必要じゃないかと思いますが、いかがですか。
  126. 涌井紀夫

    最高裁判所長官代理者(涌井紀夫君) 委員指摘のとおりでございまして、私ども今回の制度改正で一つ大きなやはりポイントになりますのは、これからも速記官として在職していく人たちの仕事なり処遇がどうなるかということでございまして、そういう人たちに、これからもこれまで以上に生きがいを持ってといいますか、やりがいを持って仕事をしてもらえるような、そういう方策を講じたいということで、現にいろんな形で検討なり実施作業を進めているところでございます。
  127. 橋本敦

    ○橋本敦君 もうきょうは長くは言いませんが、この問題についても速記官の皆さんの要望もしっかり受けとめて検討してください。  次は、法務局の人員増の問題です。  これはまた大変なことでございまして、登記の業務量は一九七一年の二億件から九五年には約二・七倍の五・四億件に急増した、こういう数字が出ておるんです。この間の職員はどうかといいますと、二〇%しかふえていないというのが私の手元にある資料ですが、大体そういうことでしょう、民事局長
  128. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 私どもの把握しておるところでは、一九七五年、昭和五十年当時の登記従事職員の定員の数は九千百名余でございまして、平成七年度のその数は一万余ということでございますので、実質において約千人程度増加している、率にして約一割程度というふうに把握しております。
  129. 橋本敦

    ○橋本敦君 私は二割程度ふえたかと言ったら、ちょっと大きく言い過ぎたということなんですが、まあいいです。  それで、具体的な現場の実情を私も知っていますが、例えば私どもの大森衆議院議員が横浜を訪れまして神崎局長にお会いしましたら、住専処理の問題が大きな問題になってきて、住専処理、不良債権問題の多発、商法改正、土地取引などで登記業務が増大して職員は忙殺をされていると。登記業務が毎年五ないし一〇%近く伸びているので、現状でももちろん大変だけれども、職員は今の倍ぐらいが本当は欲しいんですという本音をおっしゃっている。私はその気持ちはよくわかります。  また、瀬古議員が名古屋を訪れまして名古屋法務局長とお会いしましたら、名古屋の法務局長も、景気が悪くなっても公共事業自体は進んでおりますからそれに関連する登記業務は減らない、新築ラッシュ、金利低下でローンの借りかえということも多くなって登記事務がふえている、そこに住専処理問題がかさんできて職員はもう少なくとも大変な状況なので、大いに人員増が欲しいという要望がなされているわけです。  それで、この問題は各地方の自治体にもいろいろ問題が提起をされまして、各地方、全国三千三百の議会のうちで九百三十議会が、地方の国民の権利保全や業務の円滑な推進のために、増員要求の請願を採択されているという資料を私は持っておりますが、そういう実情は民事局長は御存じでしょうか。
  130. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 申しわけありませんが、今の九百三十議会という数字、今、私自身承知しておりません。  ただ、地方議会から意見書という形で私どもの方に増員に関する意見書が提出されておりますが、その数について申し上げますと、平成八年に寄せられたものが二百十件であるということは承知しております。
  131. 橋本敦

    ○橋本敦君 平成七年は幾らでしたか。
  132. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 七年は三百四件ございました。
  133. 橋本敦

    ○橋本敦君 この意見書というのは、地方自治法に基づいた議会の議決で、各派ほとんど全部賛成ということでなされるものですから、これは請願より数が少なくても重いものです。  例えば、九五年十二月の定例議会で、近くの埼玉県議会で採択された意見書によりますと、「法務局職員の増員に関する意見書」として、法務局は、登記を初め戸籍、国籍、供託、行政訴訟、人権擁護など国民の財産と権利を守る行政事務を取り扱っているということを述べた上で、最近の業務量の増加に対して人的措置が不十分なため、業務の遅滞などに抜本的な対策がとれない状況であるというように地方議会も考えまして、そう述べた上で、国において法務局、更生保護官署及び入国管理官署の大幅増員に関する請願がずっと衆参両院で本会議でも全会一致で採択されているが、いまだ実効ある増員措置はないので、一層職場実態に見合った増員を早急に図られるように要望いたしますと、こういう意見書が出されております。  今、局長がおっしゃった意見書の一つを紹介いたしました。  こういう現状で、法務局職員の増員要求というのは地方自治体も含めた住民要求としてますます強くなっておるところでございます。  そこで、最後に民事局長に伺いますが、法務省の試算で、住宅金融専門会社の資産の処理で登記の書きかえ等その他で一体どれぐらいの事件がふえるかサンプリング調査したところ、書きかえの必要があるのはとりあえず二百万件という数字が出ているということですが、それは間違いありませんね。
  134. 濱崎恭生

    政府委員濱崎恭生君) 御指摘の数字は、当初住専が抱えている物件数等から推計したものでございますが、現実にこれから事件が出てくるわけでございますけれども、現段階でそれだけの登記件数が出るだろうということはまだはっきりしていない状況でございます。なお、調査をしたいと思っております。
  135. 橋本敦

    ○橋本敦君 どっちにしても、これは調査として二百万件増加するという推計をなさったわけですから、実際どうなるか。これが十万件で済むなんということはないんですからね。二百万件前後ということですから、大変なことです。  この住専処理という問題は、これは国の政策としてやっていることでありますから、国が責任を持って人員の手当てをするというのは、私は当然だと思うんです。それをしませんと、住専処理という事業そのことが進まないことにもなるわけです。  そういった問題がございますので、来年度についても法務局あるいは裁判所の増員要求について、今私が申し上げました、そういったことを踏まえて一段と努力を法務大臣にお願いをいたしまして、質問を終わりたいと思いますが、いかがでしょうか。
  136. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 法務省という役所は、先生御承知のとおり、人員と営繕、これ以外何もありません。頑張ります。
  137. 橋本敦

    ○橋本敦君 わかりました。終わります。ありがとうございました。
  138. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 本日の調査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後二時三十三分散会      —————・—————