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参考人(
宮台真司君)
宮台でございます。本日はお招きにあずかりまして光栄でございます。
お
手元に
資料が配付してあるかと思いますが、このうち十五分間の持ち時間で
現状と書いてある
部分を主にお話しさせていただきまして、残りの
部分につきましては
質疑の過程の中でお話ししていきたいというふうに思います。
マスコミで特に
援助交際の問題が
話題にされましたのはほぼ二年前、九五年ぐらいからであるというふうに考えられますが、特に昨年ないしことしに関しましては
幾つかの
調査が行われたりいたしまして、ほぼその規模や
実態がわかってまいったところでございます。
昨年、九六年十月十六日に
東京都の第二十二期
青少年問題協議会が公表した
データによりますと、
東京都かの中学、
高校生に関する
調査の結果、
女子高校生のうち四%に
援助交際経験があり、
女子中学生のうち三・八%に
援助交際経験があるという
データが明らかになりました。しかし、この
調査は一部教室内で記入などをさせておりまして
調査方法に若干の問題があり、
実態よりも
かなり少な目に出ていることが推測されます。恐らく、
高校生全体でいえば、ほぼ十人に一人以上は
援助交際経験があるものと思われます。
そのほか
幾つかの
調査がありますが、例えば
渋谷を俳回している
女子高校生百人に聞いた「
流行観測アクロス」という雑誌が昨年の八月に公表した
データでございますけれども、百人のうち二十二人に
援助交際経験があり、さらに三十人は
機会があればやってみたいというふうに答えているという
状況で、合わせると
半数を超えるという
実態です。したがって、今の
データは
東京都かに関するものでございますけれども、それに関する限りでも、
援助交際にかかわるさまざまな動きは、もちろん多数派であるとは言えませんが、無視し得る
少数であるとも言えないような
状況になっていることが確実であろうかと思われます。
援助交際がこれほど広がってきた背景というのが実は大変重要でありまして、それが目下
援助交際がどのような
形態で行われているのかということを理解するときの助けになります。昨年来、各自治体で
テレクラ規制条例の
施行が始まっておりますが、もともと
テレクラがこういう
援助交際現象の引き金になったことはまず確かであろうかというふうに私は推察いたしております。
具体的に簡単に申しますけれども、例えば九三年、今から約四年前ですが、
ブルセラショップが
話題になりました。当時、
ブルセラショップで自分の
持ち物を売っていた
女子高生の
かなりの
部分は、それ以前に
テレクラあるいは
ツーショットダイヤルの
サクラのアルバイト、
通称サクラというふうに呼ばれており、
男性の
会話の相手をするべく
業者から雇われている
女性たちでありますが、これは実は
中学生、
高校生から主婦まで非常に多様な
女性たちが参加していたのであります。このうち
女子高生たちのいわば性的な物事に関する
敷居あるいは性的な事柄を商品化することに関する
敷居が下がったのでありましょうか、
かなりの
割合が
ブルセラショップに出てきたのであります。
ところが、九三年の夏以降、
古物営業法違反での
摘発等が報じられた結果、お店は
かなり減りましたが、実は九四年になりますと、
業者の多くあるいは
新規の
業者が
デートクラブにくらがえするあるいは
新規営業を始めるという形になりました。その結果、
ブルセラショップで働いていた
少女たちの
かなりの
割合が
デートクラブに流れました。
ブルセラショップは
持ち物を売る
場所ですけれども、
デートクラブは直接対面してコミュニケーションをするという場であることもありまして、九四年当時におきましても、私の調べた限りでは一割ないし二割ぐらいの
少女が
売春に手を染めていたというふうに思われます。しかし、
デートクラブで働いている
女子高生たちの中では
少数派であったということは間違いありません。
ところが、九四年の夏以降ですが、
デートクラブをめぐる
誘拐事件などをきっかけにした
摘発が盛んに行われ、そのことが
マスコミで大々的に報じられた結果、また様相が一変いたしました。まず、
デートクラブの知名度が大変に上がりまして、それこそ
デートクラブに殺到する
少女たちが大変にふえたという皮肉な結果が起こりました。
もう一つは、九四年の秋以降、
デートクラブが急速に
減少してまいります。潜りも含めますと、一時期は
東京都内で恐らく四十軒近くはあったと言われております、公表されているだけでも三十軒ぐらいなんですが。現在、
デートクラブはほぼ半減いたしております。
翌九五年にかけまして
デートクラブが減っていくプロセスで、
デートクラブで
売春をしていたあるいは
援助交際をしていた
少女たちが
街頭に繰り出す、
ストリートへですね、
ストリートというのは、例えば具体的に申しますと
渋谷の一〇九前でありますとかあるいは池袋のサンシャイン通りでありますとか、いろいろな
場所で男の人に声をかけられるあるいは主に二人組で男の人に声をかけて
援助交際を持ちかけるといった
形態が極めて広がっております。象徴的な言い方をすれば、
デートクラブは急速に減りましたが、
渋谷とか新宿といった町全体が
デートクラブとしての機能を果たすかのような様相を呈しているところでございます。
さらに、昨年以降、
テレクラ条例や特に
東京都に関しましては淫行処罰規定と呼ばれるものが青
少年条例に盛り込まれるという話が広がったころから、さらに
援助交際の
形態が変わってきました。それが
資料にもありますように、長期契約化という現象と共有パパ化という現象であります。
具体的に淫行処罰規定で
検挙された事例を各自治体に探してみますと、その大半、恐らく九割以上であると思われますけれども、家出あるいは深夜俳回等で補導された
少女の
持ち物から
男性の携帯
電話や自宅の
電話やポケベルの番号が見つかりまして、事情聴取の結果、
援助交際ないし
売春をしていたという供述が得られました。それで、芋づる式にたどっていって、二カ月ほど内偵をした後
検挙するといった形が一般的でございますので、そのことがある程度知れ渡った結果ということでしょうか、基本的に家出
少女風情あるいは
警察に補導されるかもしれないような年格好の
少女を相手にするよりも、むしろいかにもそういうことがありそうもなさそうな、つまり
ストリートを俳回するタイプではないような
少女たちに急速に需要、ニーズが移っております。
例えば、具体的な例で申しますと、
ストリートを俳回している子に対しては二万円とか二万五千円しか払わない男が、いい学校に通っていて学級
委員をやっているような、はたから見ると何の問題もない
少女たちに対しては五万円や六万円払うということが当たり前になってきております。つまり簡単に言えば、それは安全だからであるということに尽きます。
さらに、そういうのを見つけますと、お互いに
かなり長期的な契約、契約というのは一つの比喩でございますけれども、繰り返し会うという形をとるのが一般的になりつつあります。それは
少女の方からすれば、不特定の男を探すということが極めて危険である、危険を伴うということが自覚されつつあるということが一つございます。
男性の方から見ても同じようなことが自覚されつつあるということがあります。
もう一つ、共有パパ化と言われる現象は、クラスの中のあるいは
ストリートの仲間の
少女たちが三人あるいは五人といった規模で一人の金払いのいい中年の
男性を共有する、これも比喩でございますけれども、そういう
形態でございます。これも基本的には、第一には
少女たちあるいは
男性側から見た場合の安全性ですね、
摘発される可能性を防ぐということからこういう
形態が非常に広がっているということでございます。
もう一つ、大変興味深いのは、例えばこういう共有パパ化に見られますように、以前は
少女の
売春というものは、たとえやっているといたしましても、友達同士でそのことを告白したりするということはめったになかったことなのでございますけれども、特に九三年のブルセラ、九四年の
デートクラブ、そして九五年以降の
援助交際が
マスコミで語られるようになった結果でありましょうか、友達同士でそういうことを話すことは心理的な
抵抗感がなくなりました。その結果、私は同調圧力というふうに申し上げておりますが、英語で言いますとピアプレッシャー、同輩集団、仲間集団からの圧力というものが非常に重要な動機の要素になって
援助交際に乗り出してきている
少女たちかおります。
具体的に申しますと、自分の属している仲間グループの何人かが
援助交際を始めることによって、例えば
話題についていけないとか、消費水準についていけないというようなことが当人の意識において問題になりまして、それで同調行動をとる、つまり同調行動の結果として
援助交際や
売春に乗り出すという
形態が広がりつつあります。
売春の動機あるいは
援助交際の動機ということを把握することはいろいろな有効な施策を立てる上で実は不可欠であると思われますので、そのことにつきまして最後にちょっとお話を申し上げたいというふうに思います。
お
手元の
資料にございますように、私は動機を大きくは二つ、細かくは六つに分けて把握いたしております。
援助交際はなぜやるのか、
売春はなぜやるのかというふうに聞かれますと、例えば警視庁等の
調査にもありますように、多くの
少女はお金のためというふうに答えますが、
社会科学的には余り意味のある返答ではございません。なぜならば、
売春や
援助交際は金銭の授受が対価として行われる振る舞いでありますから、中間的には必ずお金の授受が存在するのです。したがって、その動機をせんさくされたくない
少女たちは、お金というふうに答えてしまえばそれで話が一件落着してしまいますので、そこでコミュニケーションが打ち切りになってしまいますと本当の動機がわからなくなってしまいます。
その先、つまりお金の向こう側が六つに分かれるということなんですが、お金が必要といいながらも実際にはそれが口実にすぎないというケースと、お金が実際に必要であるケースに分けることができます。
口実にすぎないケースはここにございますように、主に変身願望型、コミュニケーション願望型、心理的復讐型の三つに分けることができます。
変身願望型というのは、簡単に言えば、自分は単なる劣等生ではない、単なる勉強ができないだめな子ではない、あるいは自分は単なる優等生ではない、ださいいい子ではないというふうに思いたい
少女たちが
援助交際に乗り出してきてあるいは
売春に乗り出してきて、そこで出会った男にいろんなところを褒められたりあるいは自尊心をくすぐられるようなことを言われる、つまりそれが
少女たちにとって重要なことになる。つまり、自分は単なるいい子ではない、あるいは単なる悪い子ではない、劣等生ではないということを確認するために乗り出してくるというケースがあります。
第二番目のコミュニケーション願望型というのは、これはわかりやすく言えば好奇心に近いものでございます。
少女たちの周囲にいる大人たちが、親あるいは教員の立場ですね、いつも同じようなことを言う。勉強していれば安心したり、悪い遊びはしちゃいけないというようなことを言っていますが、実際には
マスコミあるいは口コミを通じて得られる情報によれば、世の中にはどうもいろんな人がいるらしいと。例えば、自分の周りにいる大人たちは
売春はいけないことだというふうに皆言っているが、
テレクラあるいはツーショットや伝言にかければ
売春の勧誘だらけである。あるいは、今は
東京に限りませんが、大都会の
ストリートで制服姿の女の子、
少女が一時間もある
場所に立っていれば、大体五人から十人の中年の男が声をかけてくる
状況であります。自分の周囲にあるコミュニケーションとその
実態とが余りに違うという感覚が問題になりまして、
社会を知りたい、本当はどうなっているんだろうということで好奇心を持ってかけてくる
形態、これがコミュニケーション願望型です。
心理的復讐型といいますのは、これは昔からあるパターンなんですが、厳し過ぎる親あるいは構ってくれない親あるいは彼氏に対する当てつけとして行われるものでありまして、
売春や
援助交際が悪いものだと意識されているがゆえにあえてやる
形態であります。
この三つが口実系というふうに申し上げたものであります。
〔小
委員長退席、
関根則之君着席〕
もう一つ、お金が実際に必要である場合があります。これもさらに三つに分けることができまして、一つは居
場所代型、もう一つは気晴らし代型、そして純粋物欲型であります。
居
場所代型と申しますのは、具体的に申しますと、先ほど申し上げた
ストリートあるいはクラブ、そういった
場所に彼女たちの居
場所がある、あるいはそれ以外にはないので、その
ストリートにいるためのお金を稼ぐために
援助交際や
売春を行う
形態であります。
具体的にいいますと、クラブ代、カラオケボックス代、あるいはタクシー代、そして何よりもコスチューム代というふうに言っていいでしょうか、仲間と一緒にいるために必要なファッションを買うためのお金が必要です。大体三万、五万、十万とかかったりいたします。ところが、お小遣いが五千円、一万円だったりいたしますと、その差額を
援助交際や
売春で埋めるという
形態であります。この場合には
売春、
援助交際は悪いというふうに意識されているケースが多いんですが、それよりも仲間と一緒にたまり場にいることの方が優先順位が高いので、そのためにあえて我慢してやるという
形態であります。
気晴らし代型というのは、要するにむしゃくしゃ感やある種の心理的な空虚感を継続する衝動買いによって埋めようとする振る舞いでありまして、そのために必要な元手を稼ぐ、そういう
形態でございます。
そして、最後に純粋物欲型と言われるものがあります。一般に
援助交際というと、物欲や単なる消費欲求あるいはお金に対する執着に換言されがちでありますけれども、それは単なるこの一類型にすぎないということが大変重要でございます。この純粋物欲型も古くからのパターンといたしまして、例えば家が貧乏でお金しか頼るものがないというふうに刷り込まれてしまった
形態、これは今もございますが、昨今目立っている
形態はそれとは全く逆でございまして、そこそこお金持ちの家の子で純粋物欲型の子がふえている。
具体的に申しますと、例えば中間テストや期末テストの点が一点上がれば、それにつき一万円を上げるというふうに言うような親でありますとか、あるいは親子げんかで飛び出した娘に、三十分以内に帰ってきたら十万円上げるよというふうに
電話でコミュニケーションするような親、以前はこういう親は例外的でございましたが、昨今では全く珍しい存在ではなくなってまいりました。そういうところで育ちました
少女の中には、どんな問題を処理するにもお金が必要だというふうに刷り込まれまして、やはりお金お金と言うようになる場合がございます。
こういうふうに
売春、
援助交際は当然お金をもらう振る舞いでありますけれども、その動機を見てみますと
幾つかの
形態がございます。
最後にいたしますけれども、私の感じるところを申しますと、この動機の
部分をうまく手当てをしない限り、表向きうまくいっているかのように見える
規制措置の裏側で、実際は
売春や
援助交際はなくならないであろうというふうに思われます。
先ほど、
ブルセラショップを畳みましたら
デートクラブが出てくる、
デートクラブを畳んだら
ストリートが
デートクラブのようになってしまうという話を申しましたが、似たような例は
幾つもございます。
例えば、NTTの2Qのツーショットと言われるものが九一年の十月一日以降、契約の更新ができなくなりましたが、
業者の多くは2Qのツーショットから2Qの伝言ダイヤルに業態を変えました。2Qのツーショットよりも2Qの伝言ダイヤルの方がさまざまな理由で
売春に向いています。
規制の結果、
売春に向いているメディアが広がってしまいました。
その二年後、九三年十月一日以降、今度は2Qの伝言ダイヤルの契約の更新をNTTは拒否するようになりましたが、その結果、
業者の多くは一般回線の伝言ダイヤルやツーショットに移行しまして、各地に
自動販売機を設置するようになりました。
九三年十月一日以降、契約を打ち切るあるいは
新規契約をしなくなったわけですけれども、契約期間が五カ月ですから、五カ月たつと基本的にはなくなってしまうという勘定にはなりますが、その一年間に大阪や京都府などでは、私の調べた範囲での
データがあるんですけれども、
自動販売機の設置数は二・五倍ないし三倍近くにまでふえておりまして、かえって
環境が悪化しているわけです。特にこの一年間、
テレクラの
店舗数は物すごくふえましたが、これは要するに
テレクラの
規制条例の
施行をにらんだ駆け込みでございます。つまり、立地
規制が行われるときに残る
場所をたくさん確保しようという動機が
かなりございまして、これは私が
テレクラの経営者を取材した結果得られた
データでございます。
これらを考えますと、単に
規制措置で対処しようというよりも、むしろ今も申し上げました動機の
部分にうまく届くような行政的な施策あるいは教育上の施策と一体にならないと、具体的に
少女たちが
援助交際、
売春に伴う危険から遠ざけられることはあり得ないのだろうというふうに思われます。
私の
意見陳述は以上でございます。