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1997-05-19 第140回国会 参議院 臓器の移植に関する特別委員会 第2号
公式Web版
会議録情報
0
平成
九年五月十九日(月曜日) 午後四時十七分開会
—————————————
委員
の
異動
五月十九日 辞任
補欠選任
岡部 三郎君
成瀬
守重
君 照屋
寛徳
君
三重野栄子
君 笹野 貞子君
菅野
久光
君 栗原 君子君
山口
哲夫
君
—————————————
出席者
は左のとおり。
委員長
竹山
裕君 理 事 加藤 紀文君 関根 則之君
成瀬
守重
君
木庭健太郎
君 和田 洋子君
菅野
壽君
川橋
幸子君
西山登紀子
君 委 員 阿部 正俊君 石渡 清元君 尾辻 秀久君 大島 慶久君 小山 孝雄君 塩崎 恭久君 田浦 直君 田沢 智治君 中島 眞人君 長峯 基君
南野知惠子
君 宮崎 秀樹君 大森 礼子君 木暮 山人君 水島 裕君 山崎 順子君 山本 保君 渡辺 孝男君
大脇
雅子
君
三重野栄子
君
菅野
久光
君 中尾 則幸君 佐藤 道夫君
末広真樹子
君
山口
哲夫
君 発 議 者
大脇
雅子
君
委員
以外の
議員
発 議 者
猪熊
重二
君 発 議 者 竹村 泰子君 発 議 者 朝日 俊弘君 発 議 者 堂本 暁子君
衆議院議員
発 議 者
中山
太郎君 発 議 者 能勢 和子君 発 議 者
山口
俊一君 発 議 者 矢上
雅義
君 発 議 者
五島
正規
君
事務局側
常任委員会専門
員 吉岡 恒男君
常任委員会専門
員 大貫
延朗
君
—————————————
本日の会議に付した案件 ○
理事補欠選任
の件 ○
臓器
の
移植
に関する
法律案
(
衆議院提出
) ○
臓器
の
移植
に関する
法律案
(
猪熊重二
君外四名
発議
)
—————————————
竹山裕
1
○
委員長
(
竹山裕
君) ただいまから
臓器
の
移植
に関する
特別委員会
を開会いたします。 まず、
理事
の
補欠選任
についてお諮りいたします。
委員
の
異動
に伴い現在
理事
が二名欠員となっておりますので、その
補欠選任
を行いたいと存じます。
理事
の
選任
につきましては、先例により、
委員長
の指名に御一任願いたいと存じますが、御
異議
ございませんか。 〔「
異議
なし」と呼ぶ者あり〕
竹山裕
2
○
委員長
(
竹山裕
君) 御
異議
ないと認めます。 それでは、
理事
に
成瀬守重
君及び
菅野壽
君を指名いたします。
—————————————
竹山裕
3
○
委員長
(
竹山裕
君)
臓器
の
移植
に関する
法律案
(第百三十九回
国会衆
第一二号)及び
臓器
の
移植
に関する
法律案
(参第三号)、以上両案を一括して
議題
といたします。 まず、
臓器
の
移植
に関する
法律案
(第百三十九回
国会衆
第一二号)について、
発議者
の
衆議院議員五島正規
君から
趣旨説明
を
聴取
いたします。
五島正規
君。
五島正規
4
○
衆議院議員
(
五島正規
君) ただいま
議題
となりました
臓器
の
移植
に関する
法律案
について、
提出者
を代表いたしまして、その
提案
の
理由
及び
内容
の
概要
を御
説明
申し上げます。
欧米諸国
では、既に
脳死
をもって人の死とすることが認められ、
脳死体
からの
臓器移植
は日常的な
医療
として完全に定着しており、
年間
九千件を超える
心臓
や
肝臓
の
移植
が行われております。その
移植成績
も、新しい
免疫抑制剤
の
開発
などにより年々向上しており、多くの
患者
がこの
医療
の恩恵を受けております。
アジア地域
でも、一九八九年から一九九五年までの間に、
心臓移植
については韓国四十八例、シンガポール十四例、タイ七十七例、台湾九十四例が行われたところであります。 一方、
我が国
においては、
脳死
は人の死か、
脳死体
からの
臓器移植
は認められるのかについて議論があり、
臓器移植
以外では助からない多くの
患者
は、迫りくる死の影におびえつつ、
移植
を受けることができる日を一日千秋の思いで待ちわびながら無念の涙をのんで死を待っておられるのが
現状
であります。ごく一部の方は
移植
を受けるためにやむを得ず
海外
に渡航しておられますが、
海外
においても多くの
患者
が
移植
を待っており、
外国人
である
我が国
の
患者
に対する門戸も徐々に狭まってきていると聞いております。こうしたことから、
患者
やその
家族
からは、
我が国
においても
脳死体
からの
心臓
や
肝臓
などの
臓器
の
移植
の道を開いていくことが強く求められております。 この問題につきましては、
日本医師会生命倫理懇談会
が、
昭和
六十三年一月、「死の定義」について、従来の
心臓死
のほかに脳の
不可逆的機能喪失
をもって
人間
の
個体死
と認めてよいとの
報告
をしております。 この
報告書
においては、 脳の死については、
厚生省研究班
の
判定基準
を
必要最小限
の
基準
として
大学病院等
の
倫理委員会
において
基本的事項
を定め、これによって疑義を残さないように、慎重かつ確実に
判定
を行うべきことであること、 脳の死による死の
判定
は、
患者本人
またはその
家族
の
意思
を尊重し、その
同意
を得て行うのが
現状
では適当であること、 脳の死による死の
判定
は、それが
日本医師会等
で
一般
的に認められるとともに、
患者側
の
同意
を得て、適切な
方法
で、
医師
によって確実になされるのであれば、それを
社会
的及び法的に正当なものと認めてよいと考えられること、
脳死判定
による
死亡時刻
としては、初めの
脳死判定
時と、その後六時間ないしはそれ以上たってからの
脳死確認
時とが考えられ、
死亡診断書
の
死亡時刻
はそのいずれによってもよいが、死後の
相続
の問題に備えて、もう一方の
時刻
も
診療録
に
記録
するものとすること、
臓器移植
は、
臓器提供者
及び
受容者本人
、またはそれらの
家族
が十分な
説明
を受け、自由な
意思
で承認した場合に、
日本移植学会
の定める指針に従って行うものとすること、 以上の
内容
が盛り込まれているところであります。 その後、
平成
四年一月に
臨時脳死
及び
臓器移植調査会
が、
脳死
を人の死とすることについてはおおむね
社会
的に受容され合意されているといってよいとした上で、一定の
要件
のもとに
脳死体
からの
臓器移植
を認めることを
内容
とする答申を提出しましたことは、
皆様
御
承知
のとおりでございます。 これを受けて、超党派の
生命倫理研究議員連盟
や
各党
・各会派の
代表者
から成る
脳死
及び
臓器移植
に関する
各党協議会
の場で
検討
、
協議
が重ねられ、
平成
六年四月には
臓器
の
移植
に関する
法律案
が
衆議院
に提出されました。その後、
厚生委員会
における
参考人
の
意見聴取
や、いわゆる
地方公聴会
の開催が名古屋市、仙台市、福岡市の三カ所で行われたものの、必ずしも十分な
審議
が行われたとは言えない
状況
でございました。このため、昨年六月には、
審議
を促進し一日も早い
法制化
の
実現
を図るとともに、
移植医療
が広く
国民
に受け入れられ浸透することを期待し、
提出者
から
修正案
が提出されましたが、昨年秋の
衆議院解散
に伴い、残念ながらこの
法律案
は廃案となるに至りました。 しかしながら、
人工臓器
の
開発
がいまだ十分でない今日、
我が国
においても、
心臓
、
肝臓等
の
移植医療
を
国民
の理解を得つつ適正な形で定着させ、人種、国籍を問わず
人道的見地
に立って、
移植
を待つ
患者
を一人でも多く救済できるようにしていくことは、一刻の猶予も許されない緊急の課題であります。
我が国
においても、
角膜
及び
腎臓
については既に
移植
が行われており、
医療
としても定着していることは、
皆様
も御
承知
のとおりであります。 重度の
腎臓障害
により
人工透析
を受けている
患者
は、毎年約一万人ずつ増加してきており、現在では十五万人を超えるに至っております。これらの
患者
の
方々
は、人生を終えるまで
人工透析
を毎週受け続けるという大変な不自由な
生活
を強いられておりますが、
腎臓
の
移植
を受けた
方々
は
生活
の質が格段に改善され、多くの方が
社会復帰
を果たされているのであります。 このように、
腎臓障害
の
患者
の方の
生活
を大きく改善させる
腎臓移植
でありますが、残念なことに、近年、その件数は
減少傾向
をたどっております。この背景には、
脳死
・
臓器移植
問題の影響があるのではないかと指摘する声もあり、
腎臓移植
を含めた
我が国
の
移植医療
全体をさらに推進していくためにも、早期に
脳死
・
臓器移植
問題の解決を図っていかなければならないものと考えます。 このため、
脳死体
から
臓器
を
摘出
できることを明確にするとともに、
臓器提供
の
承諾
を初めとする
臓器
の
移植
に関する
手続
や
臓器売買
の禁止などを盛り込んだ包括的な
臓器移植立法
の一日も早い成立がぜひとも必要と考えております。 このような
見地
に立って、
平成
六年四月に提出された
法律案
の
内容
に、昨年六月に提出された
修正案
の
内容
を加え、
臓器
の
移植
に関する
法律案
を再度提出した次第であります。 以下、この
法律案
の主な
内容
につきまして御
説明
申し上げます。 まず第一に、この
法律
は、
移植医療
の適正な実施に資することを
目的
とすることとしております。 第二に、
臓器
の
提供
に関する
本人
の
意思
は尊重されるべきことや、
臓器
の
提供
は任意にされたものでなければならないことなどの
臓器移植
の
基本的理念
を定めております。 第三に、
医師
は、
臓器提供
についての
承諾
がある場合には、
移植術
に使用するため、
脳死体
を含む
死体
から
臓器
を
摘出
することができることとしております。ここで、
脳死体
とは、脳幹を含む全脳の
機能
が不可逆的に停止するに至ったと
判定
された
死体
を言い、その
判定
は、
一般
に認められた
医学的知見
に基づき
厚生省令
で定めるところにより行うこととしております。 第四に、
臓器提供
の
承諾
についてでありますが、
平成
六年四月に提出された
法律案
では、
本人
の
意思
が
不明等
の場合においても、
遺族
が
書面
により
承諾
しているときには
臓器
の
摘出
ができることとされておりましたが、この
法律案
では、この部分を削除し、
本人
が生前に
臓器提供
の
意思
を
書面
により表示しており、かつ
遺族
が拒まない場合または
遺族
がないときにのみ
臓器
の
摘出
ができることとしております。ただし、当分の間の
経過措置
として、
角膜
及び
腎臓
については、
本人
の
意思
が
不明等
の場合で、
遺族
が
書面
により
承諾
したときは、
脳死体
以外の
死体
からの
摘出
も行うことができることとしております。 第五に、
臓器
の
移植
に関する
記録
の
作成
及び
保存義務
並びにその
閲覧
について定めております。 第六に、
臓器売買
及び
臓器
の
有償あっせん
については、これを禁止することとしております。 第七に、業として
臓器
の
あっせん
をしようとする者は、
厚生大臣
の許可を受けなければならないこととしております。 第八に、
平成
六年四月に提出された
法律案
においては、
法律
の
施行
後五年を
目途
として
検討
が加えられ、その結果に基づいて必要な
措置
が講ぜられるべき旨が
規定
されておりましたが、本
法律案
では、この
法律
の
施行
後三年を
目途
として
検討
が加えられることとしております。 このほか、必要な
罰則規定等
を定めるとともに、この
法律
の
制定
に伴い
現行
の
角膜
及び
腎臓
の
移植
に関する
法律
は廃止することとしております。 なお、この
法律
の
施行期日
は、
公布
の日から起算して三月を経過した日としております。 以上が、この
法律案
の
提案理由
及びその
内容
の
概要
でございます。 何とぞ、慎重かつ十分御
審議
の上、速やかに御可決くださいますようお願い申し上げます。
竹山裕
5
○
委員長
(
竹山裕
君) 次に、
臓器
の
移植
に関する
法律案
(参第三号)について、
発議者猪熊重二
君から
趣旨説明
を
聴取
いたします。
猪熊重二
君。
猪熊重二
6
○
委員
以外の
議員
(
猪熊重二
君) ただいま
議題
となりました
臓器
の
移植
に関する
法律案
につきまして、
発議者
を代表して、その
提案理由
及び
内容
の
概要
を御
説明
申し上げます。 現在、
世界各国
において、
脳死状態
にある者から
臓器
を
摘出
し
移植
する
手術
が数多く行われておりますが、このような諸
外国
における
移植医療
の発展は、ほとんどが
医学界
の
自己責任
による
移植手術
の実績の積み重ねの結果であります。 しかるに、
我が国
においては、
昭和
四十三年のいわゆる
和思臓移植手術
以降、現在まで、
脳死状態
からの
心臓
の
摘出
及びこれの
移植手術
が全く行われていません。その
理由
がどこにあるのかの論議はともかくとして、
善意
の
臓器提供者
及び
臓器移植
を待つ
人々
の
双方
にとって、
我が国
の
移植医療
の
現状
は適切に対応していないと言わざるを得ません。 このような
立法
事実を目前にして、私たちは、
臓器提供者
の
善意
を生かし、かつ
臓器移植
を待つ
人々
の願望にこたえるために、関係するすべての人の
生命
の
尊厳
を保障する適切な
法制度
を早急に整備すべきであります。 ところで、
脳死状態
にある者からの
臓器摘出
・
移植
に関する法の
制定
に関し、現在二つの大きな
見解
の対立があります。 まず第一の
立場
は、
脳死状態
を
法律
で一律に死として、医学的な意味にとどまらず、法的、
社会
的にも死と宣言し、この者からの
臓器摘出
を
死体
からの
臓器摘出
とする
立場
であります。しかし、この
見解
は以下の
理由
により
妥当性
を欠くと言わざるを得ません。 まず、
我が国
において、
脳死
を人の死と認める
社会的合意
はいまだ成立していると認めることはできません。そもそも多くの
人々
が、
脳死状態
にある者と
植物人間
と言われる
状態
にある者との区分を十分に理解し得ていない段階において、
脳死
を人の死として認めるか否かについての正当な
判断
を導き出すことは不可能と言うべきであります。かかる
状況
において、
脳死
を人の死と認める
社会的合意
の
存在
を肯定することは相当でないと考えます。 次に、
平成
六年の一
年間
の
死亡者
は約八十八万人ですが、このうち
心臓死
の前に
脳死状態
に陥ったと推定される者は一%以下、どんなに多くても八千人と言われています。これらの
脳死状態
に陥った者のうち何人が
臓器
すなわち
心臓等
の
摘出
の
対象者
となり得るのかは、全くの仮定にすぎませんが、仮に一割と見たところで多くて八百人であります。この数値は、
年間
の全
死亡者
に対しわずか〇・一%以下にすぎないのであります。このように、全
死亡者
の〇・一%以下の
脳死状態
にある者を
死者
と取り扱う
必要性
のために、全
死亡者
、さらには全
国民
に全く新しい死の概念である
脳死状態イコール死
の承認を強制することは、著しく
社会的妥当性
を欠くと言わざるを得ません。 次に、いわゆる三
徴候
による死の
判定
は何人の目にも死が認識し得るところでありますが、
脳死イコール死
の
立場
においては、
脳死状態
の
有無
、換言すれば
死者
であるか
生者
であるかの区別は専ら
医師
の
判定
に依存することとなります。その結果として、
脳死状態
にあっても、
医師
による
脳死判定
がなされない限り
脳死者イコール死者
はいつまでも
生者
であり続けることとなり、その限度において、
脳死状態
にある者の生死の境界は専ら
脳死
を
判定
する
医師
の
判断
に一任されていると言えるのであります。しかし、
近代国家
における至高の
存在
である
個人
の
生命
が
医師
の
判定
の
有無
によって
存在
したり消滅したりすることは、あり得べからざる背理であり、
生命
の
尊厳
、人格の尊重を否定するものと言わざるを得ません。 以上のほか、
脳死者イコール死者
と普遍化することによる
法体系
の
混乱
、例えば
相続人
の順位や
相続開始時点
の確定、
殺人罪
、
死体損壊罪
の成否などに多大の
法的混乱
が生ずることが予想されます。 以上の諸点から、第一の
立場
にくみすることはできないのであります。 次に、第二の
立場
は、
脳死状態
にある者を
死者
と認めない
立場
に立ちつつ、なお
脳死状態
にある者からの
臓器摘出
を
社会的相当行為
と認める
立場
であります。 まず、
近代法
のもとにおいて、
個人
の
自由意思
、
自己決定権
は、
最大限
に尊重されるべき自由の一
内容
であります。したがって、
個人
がその正当な
意思能力
を保持している
状況
において
自己
が
脳死状態
にあると適正に
判定
された場合、
自己
の
臓器
を
提供
したいとする
意思表示
は、
個人
の
自由意思
、
自己決定権
に基づく
行為
として、
法律
の上においても
最大限
に尊重されるべきものであります。 ところで、以上のように、死が不可避で死期が迫っている
状況
のもとにおいて
自己決定権
に基づく
臓器摘出
を相当と考えた場合であっても、このような
行為
が
社会
的に真に許容されると言えるためには、法は次の諸
要件
を厳密に
規定
する必要があります。 すなわち、一、適正な
手続
で
脳死状態
に陥ったと
判定
された場合、
自己
の
臓器
を
提供
する
意思表示
の
書面
が
脳死状態
になる前に
作成
されていること、二、その者の
家族
が、
当該個人
の
意思
の
実現
、すなわち
脳死状態
からの
臓器
の
摘出
を拒まないこと、または
家族
がいないこと、三、
当該摘出
が、
臓器移植
の
目的
のもとに、その用に供するものとして
摘出
されるものであることの
要件
を充足する場合に限定して、
脳死状態
にある者からの
臓器摘出
を法的に許容、承認することとすべきであります。 そして、このような
要件
を充足する
医師
による
摘出行為
は、それによって
当該個人
の死を招来することとなっても、刑法第三十五条の
法令
または正当な
業務
による
行為
として
違法性
を阻却し、
刑事
上何らの
責任
を生じないものとすることができるのであります。 このような第二の
立場
が、
臓器
を
提供
する
善意
の
個人
と
臓器移植
を待つ病める
個人
との
双方
の希望を充足し、かつ
社会的混乱
を起こすことなく
社会
全体に受け入れられる
医療行為
であると考えるものであります。本
法律案
は、この第二の
立場
に立って
提案
されております。 以下、この
法律案
の主な
内容
につき御
説明
申し上げます。 第一に、この
法律
は、
臓器
の
死体
または
脳死状態
にある者の
身体
からの
摘出
が、
移植術
に使用されるために
提供
する
本人
の
意思
に基づいて行われることを
目的
の中に定めております。 第二に、
脳死
を人の死とせず、
脳死状態
にある人も、
死体
ではなく、
人権
の
享有主体
であることを前提にしております。したがって、
脳死状態
の
判定
後の
身体
も、
死体
ではなく、生きている者として
健康保険法
など
医療給付関係
各法の適用を受けることは従前と変わりません。したがって、いわゆる
中山案
、
法律名
が同じでありますのでこのように便宜的に呼ぶことをお許しいただきたいと思うのですが、いわゆる
中山案
の
附則
第十一条のような「
脳死体
への処置」を「当分の間、」各法に基づく「
医療給付
としてされたものとみなす。」との
規定
は不要であるため置いていません。 第三に、
脳死状態
の
判定
は、これを的確に行うに必要な知識と経験を有する二人以上の
医師
(
移植医
を除く)が、
一般
に認められている
医学的知見
に基づき
厚生省令
で定めるところにより行い、その
判断
の一致によって行われるものとしております。 第四に、
脳死状態
にある者の
身体
からの
臓器摘出
の
要件
として、
提供者本人
の
提供意思
が署名及び
作成年月日
の記載とともに
書面
で表示されている場合に限り、
脳死状態
にある者の
身体
からの
臓器移植
を容認し、さらに
提供者
の
家族
が
臓器摘出
を拒まないとき、または
家族
がないときを
要件
としています。 以上に
規定
する各
要件
が厳重に遵守される限り、
臓器
を
摘出
する
行為
は、
社会
的に許容される
法令
または正当な
業務
による
行為
とするものであります。 第五に、従来の三
徴候死
により
判定
された
死体
、いわゆる
心臓死
からの
臓器移植
の
要件
については、
提供者本人
の
提供意思
が
書面
で表示されている場合で、
遺族
が拒まないとき、または
遺族
がないときとしています。しかし、
角膜
及び
腎臓
の
移植
については、従来の
角膜
及び
腎臓
の
移植
に関する
法律
と同様に、
附則
で、
提供
に関する
本人
の
意思
が表示されていない場合に、
遺族
の
承諾
による
移植
も認められるものとしています。 第六に、
脳死状態
の
身体
からの
臓器移植
が
犯罪捜査手続
や
刑事訴訟法
第二百二十九条一項の検視など
犯罪
や死因の解明を妨げることのないように、
医師
の
捜査機関
に対する通知を義務づけるとともに、
臓器摘出
に関する
捜査機関
の
異議権
を認める
規定
を設けています。 第七に、
臓器摘出
に関する
記録
の
作成
、
保存
について定め、
関係者
による
閲覧
に加え、謄写を認めています。 第八に、血管、皮膚その他の組織の
移植
について
検討
を加え、その結果に基づいて必要な
措置
が講ぜられるものとしています。 このほか、必要な
罰則規定等
を定めるとともに、この
法律
の
制定
に伴い、
現行
の
角膜
及び
腎臓
の
移植
に関する
法律
は廃止することといたしております。 なお、この
法律
の
施行期日
は、
公布
の日から起算して三月を経過した日としております。 以上が、この
法律案
の主な
内容
であります。 最後に、いわゆる
中山案
との基本的な相違を申し上げておきます。
中山案
は、
脳死
をもって人の死とするものでありまして、これは
臓器移植
を行うために
法律
で人の死を定めようとするものであります。いまだ
心臓
が鼓動し、人工的にせよ呼吸が続き、触れると温かい、出産さえも可能である
人間
を
死者
として受け入れることはできないという多くの
国民
の
意思
を
法律
で否定しようとするものであります。 その上、
日本
の
医療
の現場で弱い
立場
に置かれている
患者
の
立場
を考えると、これらの
人々
の
人権
が守られる保障が
存在
していないことも厳然たる事実であります。こうした現実にかんがみると、やはり
脳死
を人の死とする
中山案
はとるべきではないのであります。 これに対し、本
法律案
は、
法律
で
脳死
を人の死と
規定
するという
立場
をとらずに、
個人
の
自由意思
、
自己決定権
に基づく
行為
として、慎重に
臓器移植
が行われるようにすべきであるという
法案
であります。 本
法律案
は、多様な考え方を尊重するという
立場
から、
臓器移植
問題を解決するものであり、
救急救命措置
が徹底的に尽くされることはもとより、
脳死判定
の着手やその
方法
においても、
関係者
により慎重な対応を迫るメリットがあることは言うまでもありません。 いずれにせよ、大切なことは、いずれの
法案
が日
本人
の
死生観
や
宗教観
に沿うものであるのか、また、いずれの
法案
が
我が国
の
医療
に対する
国民
の
信頼度
に見合ったものであるのかということであります。 何とぞ、慎重かつ十分な御
審議
の上、速やかに本
法律案
を御可決くださいますようお願い申し上げます。 どうもありがとうございました。
竹山裕
7
○
委員長
(
竹山裕
君) 以上で両案の
趣旨説明
の
聴取
は終わりました。 両案に対する質疑は後日に譲ることといたします。 本日はこれにて散会いたします。 午後四時四十三分散会
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