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参考人(内田公三君) 経団連の事務総長の内田でございます。本日は、
経済界を代表して
意見を述べる機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
昭和二十二年にいわゆる原始
独禁法が制定され、
持ち株会社が
禁止されて以来五十年間の懸案でございました第九条の
改正がいよいよなされようとしておりますことは、この間、
持ち株会社の
解禁を推進してまいりました私ども経団連として、まことに感慨深いものがございます。当然でございますが、本日は、今回の
独禁法改正法案についで、賛成の立場から
意見を申し述べさせていただきます。
レジュメの内容に入る前に、まず
独禁法あるいは
競争政策に対する私ども経団連の考え方をちょっと御紹介いたしたいと思います。
私ども経団連では、この
独占禁止法というものをいわば
経済憲法、
市場経済の基本的なルールとして考えて、これを尊重すべきものと思っております。そして、その遵守を会員
企業に呼びかけてまいっております。とりわけ、近年、いわゆるディレギュレーション、
規制の撤廃、緩和が進みつつありますが、
規制緩和が進めば進むほど、それに反比例してこのルール、すなわち
独禁法というものが重要になっていく。つまり、消費者の利益を守り、公正な
競争を行っていくために、
独占禁止法というものを
経済の隅々にまで徹底していくということが求められてくるというふうに考えております。そういう
観点から、昨年には
企業行動憲章というものを、既にあったわけでありますが、それをさらに改定
強化しまして、
独禁法違反事件を起こしたような会員
企業に対しましては一定期間その会員の資格を停止するというような思い切った処分も実際にとっておるわけでございます。
しかしながら、この
独占禁止法そのものにつきましても、もしその内容に不当なものがあれば、あるいは
規制緩和の
観点から行き過ぎた
規制があるならば、それもやはりこの際思い切って見直して、自由濶達な
競争の推進を図る必要があると考えております。
釈迦に説法でございますが、
独占禁止法の
目的は、いわゆる一定の取引
分野における
競争の実質的
制限を排除するというのがこの
法律全体を一貫して流れている基本的な思想でございます。しかしながら、同時に、
日本のこの
独禁法の中には、必ずしもそういう
競争制限につながらないものまで、
競争制限につながるかどうかにかかわらず、一律的に外形的に
禁止しているというものが二、三あるわけでありまして、その最たるものがこの第九条の
持ち株会社の原則
禁止でありますし、あるいはまた第九条の二の大規模
会社の
株式保有
制限であるわけであります。こういったものは外国の
競争法には例を見ないものでありまして、
競争政策の国際的
整合性の
観点からも問題であると考えております。
公正取引委員会も、近ごろ事務総局体制のもとに組織、陣容を
強化しつつございまして、そういうことを考えますならば、このような一律的な
規制によらずとも、
競争制限となる場合にのみこれを有効に
防止、排除していく、いわゆる弊害
規制を徹底するということが現実に可能になってきているんじゃないかと考えるわけでございます。
そこで、レジュメに入りまして、まず第一に、なぜ
持ち株会社の
解禁を私どもが求めているかということでございます。
旧ソ連、東欧諸国の自由主義
経済への参加、アジア諸国の急速な発展ということで、今世界はいわゆるメガコンペティジョンという時代に入っております。そういった情勢の中で、今までは
効率的でございました
日本企業のあり方も、グローバルスタンダードに立って見直す必要が強くなってきております。
事業の再編、
多角化あるいは新規
産業の積極的展開を行っていくためには、硬直的で巨大なピラミッド型の
会社組織ではなくて、
経営戦略を専らつかさどる本社機能と個々の
事業を担当する
子会社とに分離しまして、絶えず
経営資源の最適配分を図っていく。そして、
グループ全体としてフレキシブルな運営を進めていくということが重要でありまして、
持ち株会社というものはそのための
一つの有効なツールであるというふうに考えているわけであります。
従来、欧米諸国では当たり前の組織形態として認められております
持ち株会社が
日本では認められないということは、
日本企業の
経営戦略の選択肢を不当に狭めていたのではないかと存じます。
また、最近、いわゆる
金融ビッグバンによる
金融業務の自由化、
金融業界の再編が求められておりますが、ここにおきましても、
持ち株会社が重要な役割を果たすことが
期待されておるわけであります。
金融制度
調査会や証券取引審議会、保険審議会等で現在検討が進められているわけでございます。
日本経済の活性化のために、
企業がそれぞれ創意工夫を発揮して
国際競争力を
強化できるように現行の過剰な
規制を見直して、ぜひともこの機会に
持ち株会社の
解禁を実現していただきたいとお願いするわけでございます。
さらに具体的に、現行九条の問題点を改めて念のために二、三指摘しておきたいと思います。
第一に、現在の第九条は、実際に
競争を
制限する
可能性があるかどうかにかかわらず全面
禁止と、先ほども申し上げましたが、そういうことになっておるわけでありまして、
独禁法の
規定の中でも特に異質な
規制になっているということであります。
それから第二に、純粋
持ち株会社の全面
禁止は、
日本と一九八四年に
日本の制度をモデルに
独禁法を導入した韓国だけにある極めて異例な
規制でございまして、
競争政策の国際的な
整合性の上からも問題があると考えます。現に、外国
企業かるも、
日本が
持ち株会社を
禁止していることが海外からの直接投資を妨げているという指摘が実際に、例えばヨーロッパビジネス協議会とか在日米国商工
会議所等からなされているところでございます。
そこで、純粋
持ち株会社によらずとも、社内
分社化とか
事業持ち株会社で十分に
目的が達せられるんじゃないかという御
意見もございますが、やはりそれぞれの
企業にとっての最良の組織形態というものは、その
企業の業態でありますとか成り立ち、あるいはその
企業の持つ人材や技術力等によって異なっておるわけであります。どういう組織形態をとるかというのは、それぞれの
企業の事情というかニーズに任せることが望ましいわけでありまして、
競争上の弊害が生じない限り、
持ち株会社の幅広い活用に道を開いていただきたいとお願いするわけであります。
それから第三に、
持ち株会社を
解禁すると、戦前の財閥のような
事業支配力の強大な
集中が生ずるおそれはないかという指摘がございます。この点につきましては、戦前の
日本経済と今日のグローバル化された、国際化された
経済の中で厳しい
国際競争にさらされている
日本経済とでは全く状況が一変しているということは申すまでもないところかと存じます。しかし、いずれにしても
競争上何らかの弊害が生じた場合には、
独占禁止法を有効に活用することによって十分
防止することができると考えております。
次に、提案されております
改正法案について賛成の立場からやや立ち入った見解を申し述べさせていただきます。
まず第一は、基本
規定でございますが、現行法九条で全面的に設立等が
禁止されている
持ち株会社について、今回の
改正法案では、
事業支配力が
過度に
集中することとなる
持ち株会社の設立等を
禁止することに改めることになっております。経団連ではかねてから、一律、外形的な
禁止は改めていただいて、具体的な弊害が生じる場合に事後的に
規制する方式を求めてきておりまして、今回の
改正は私どもの主張が受け入れられたものとして評価しております。
それから第二点は、
事業支配力の
過度の
集中の定義の
規定でございます。新しい九条の
規定で特に重要になるのは、
事業支配力の
過度の
集中とはどのような状態を指すのかという問題でございます。法案では
三つの場合が列挙されておりまして、それぞれ読む限りにおいて納得できるものと考えております。
その詳細については
公正取引委員会が策定する
ガイドラインにおいてより明確に示されるとお聞きしておりますが、
ガイドラインの策定に当たりましては
公正取引委員会の
裁量の余地をできるだけ少なくしていただきたい。少なくすることによって、
企業にとっての予測
可能性を高めていくことが肝要かと存じます。また、その際、
競争の
実態を踏まえた
ガイドラインとするためにも、ぜひ
企業の
意見も十分に聴取しながら策定を進めていただきたいと存じます。
第三は、
監視手続と実効
確保手段でございます。
持ち株会社に対する
監視の方式につきましては、私どもがかねてから主張しておりましたとおり、事前届け出や許可制等の
公取による事前の
規制が不要、必要でないということにされました。そして、事後
報告によって
持ち株会社の状況を把握して、具体的な弊害が生じた場合には、それを排除するために必要な措置を
公取がとるということとされました。このことは
規制緩和の流れに沿ったまことに適当なふさわしいものと存じます。事後の
規制によりましても、
競争政策上の要請に十二分にこたえることができると存じます。
次に、
独禁法第九条の二の問題でございますが、経団連では、第九条とともに、その補完
規定として昭和五十二年
改正で追加されました九条の二の大規模
会社の
株式保有
制限規定も廃止するようにお願いしてきたのでございます。しかし、この点については、今回の
独禁法改正では、
株式保有
総額規制の対象としないいわゆる
適用除外
株式が追加されるということのみにとどまりました。
この
規制は、九条と同じように、
競争上の弊害の有無を問わず、資本金額あるいは純資産額が一定規模以上の
企業の
株式保有の総額を外形的に一律に
規制するものでございまして、
事業多角化のための
子会社の設立や育成を不当に制約するものとなっているのではないかと考えます。
今回の
改正で、
会社の総資産に占める
子会社株式の割合が五〇%を超える
会社は
持ち株会社ということになります。そうしますと、これは九条の二の
規制対象にはなりませんので保有
株式総額に
制限はないわけであります。ところが、総資産に占める
子会社株式の総額が五〇%未満であった場合には、これは九条の二で、総資産額を超えて
株式を保有することができないということで、ちょっとちぐはぐな片手落ちのことになっているんじゃないかというふうに考えるわけであります。
なお、この点は、行政改革
委員会におきましても、私どもと同様の理由から九条の二の廃止を求めておると承知しております。
今回の法案には五年後の見直し
規定が含まれておりますが、この九条の二については、五年後を待たずになるべく早く見直しをお願いしたいと存じます。
ところで、
最後に、ちょっと時間がオーバーしておりますが、残された課題について申し述べさせていただきます。
独禁法の
改正によって、
持ち株会社、純粋
持ち株会社の道が開かれたとしても、実際に
持ち株会社をつくって有効に活用していくためには、さらに解決を要する課題が幾つかございます。
一つは、現行の税制の問題でございます。
持ち株会社の設立あるいは既存の
会社が
持ち株会社に転化するそのための方法としては、現在、脱け殻方式と呼ばれております
分社化による方式、あるいは
持ち株会社となる
会社を新たに設立して既存の
会社の
株式を新
会社が買収していく方式か、新
会社と既存の
会社の
株式を交換していく方式等が考えられますが、いずれも資産や
株式の移転に伴う譲渡益課税が巨額に及ぶことが予想されます。NTTの
持ち株会社による再編におきましてもこれが大きな問題となって、特例として措置された経緯があるわけであります。これは特例じゃなくて、この際、一般的な制度として早急に整備していただきたいというのが
一つのお願いでございます。
それから、もう
一つの課税の問題は連結納税制度の問題でございます。経団連では、
持ち株会社の問題とまた別途、かねてから連結納税制度の導入を強く求めてまいりましたが、これが導入されませんと、
持ち株会社の
解禁の
意味というものが半減してしまうというふうに思っております。
それから
最後に、労働法制の問題でございますが、これにつきましては、連合と日経連、経団連の間で昨年来話し合いを続けてまいりました。二月二十五日の与党
独禁法協議会の取りまとめと同時に、連合、日経連、経団連の間で合意いたしましたとおり、これから誠実に話し合いを進めたいと考えております。万一、現実に問題が生じましたならば、迅速な解決が図られるよう、経団連は日経連と歩調をそろえて
努力してまいりたいと考えております。
以上で私の
意見陳述を終えます。ありがとうございました。