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参考人(鬼木甫君) 大阪学院大学の鬼木でございます。
本日は、私は、
通信に関する
社会資本整備のあり方ということで
意見を申し上げたいと思います。
通信に関しましては非常に多くの問題があり、またいろいろ異なった
意見がありまして、私きょうここで申し上げますのは個人の
意見でございます。必ずしも専門家の多数
意見であるとも限っておりません。
きょうのお話は全体を三つほどの柱に分けてお話ししたいと思います。第一に
通信インフラの
整備のあり方ということで、第二に光ファイバー網あるいは広帯域アクセス手段の建設の問題に関して、そして第三に電波資源、テレビやそれから移動体
通信、携帯電話に使う電波の扱い方に関して
意見を申し上げたいと思います。(
OHP映写)
それから、OHPを使いますが、このOHPの
中身はすべてお
手元に資料としてお渡ししていただいていると思います。
まず第一の柱、
通信インフラ整備のあり方でございますが、
通信の部門は御承知のようにほぼ民営化されております。基本的な方針としては少なくとも民営化されておりまして、民間企業の競争によって生活の充実、あるいは
経済発展のために競争を通じて進歩が実現されるという建前になっております。しかしながら、元来、御承知のように、例えば
通信の電話に関しましては現在のNTTはかつては
日本電信電話公社であった、その公社の前は電気
通信省あるいは逓信省であったという事情もございまして、まだ国全体からの規制とか関与とかいうものもたくさん残っております。したがって、
通信の分野での問題というのは、一方では競争を進めたいのでいろいろ措置をとる、他方では古くからの習慣とか法律とかあるいは制度とか人間の
関係とかいうものが残っておりまして、それと競争とをどう解決していくかという点が非常に大きな問題になっているわけです。しかし、全体の流れとしては、国全体の
計画経済的な
運営からだんだん民営化の市場パワー、市場競争を
利用する方向に動いております。
一つ私がここで申し上げたいことは、お
手元に資料があると思いますが、少し細かな図があります、ちょっとこの図は見ていただけないかと思います。
通信、放送も入れておりますけれども、たくさんの設備とかサービスとかいうものがあります。我々、例えば
通信の電話を使いますときは受話器を上げて話をして向こうに通じるというわけですが、それが実現するためには御承知のように電話線が必要である、交換機が必要である、あるいはいろいろなその背後にコンピューターのようなものも必要である。そのたくさんのものを一応ここの表に書いてありますので、後ほど御興味のある場合は詳しくごらんいただくとよろしいかと思います。
通信の世界は非常に複雑なものでわかりにくいんですが、わかりやすいほかのものに例えてみますと、例えば次の紙ですけれども、図2と書いてあるのに、食べ物のパン、食料のパンは小麦粉からつくる、小麦粉は小麦からつくるという形で原料から製品につくられるという
関係があります。それから例えば、我々住んでいる
住宅に関しましては、土地があってその上に家が建っていて家の中に家具があって、全体あわせて
住宅サービスというものが生まれている。今お見せいたしましたこの
通信と放送のごたごたしたたくさんのものも基本的には今のパンとか
住宅とかいうものと同じような仕組みでつくられております。ここで
社会資本と申しておりますのはこの中の下の三つ、伝送媒体と基盤設備と共有資源・特権スペースというところは通常
社会資本、
通信の分野での
社会資本と言われているものに
当たります。例えば、電話線を通す地下のトンネルであるとか、あるいはそこに通っている光ファイバーであるとか、あるいは移動
通信の場合には電波であるとか、衛星
通信や放送の場合には衛星であるとかいうものがそれに
当たります。
こういう非常にたくさんな要因がかかわっておりますので、この中に競争を入れてくる。新しい業者が出てくればどんどん参入をさせる、値段をつけたければ自由につけさせる、あるいは新しいサービスが出てくればそれも自由に提供させる。そういう競争を通じて進歩が実現されているわけで、新しいものが次々と出てきて我々の生活を豊かにし、かつ産業を発展させているわけでありますけれども、その場合に、全く野放しにできない事情が
幾つかございます。
一つ一つ挙げられませんので詳細は省略いたしますが、政府が何らかの形で関与しなければならない。例えば、電波に関しましては、これは公共の資源でございますから、何かの方式で政府が、だれだれは移動電話のために電波を使ってよろしいよ、どの放送局はどの電波を使ってよろしいよというぐあいに関与する必要が入ってまいります。
ほかにもいろいろ理由がありますが、したがって、たくさんのものの中にどういうぐあいに政府が入っていくかということが一番大事でありまして、無方針に全部政府が入るのは
社会主義でありまして、うまくいかないことはもう既に実験済みであります。したがって、最も
効果がある形で政府が関与する必要がある。
ここで私が強調したいのは、この図にありますように横型に、帯状というんでしょうか、上下の区別でなるべく関与した方がよいということを強調したいと思います。なかなかそれは難しいんですけれども、最近
一つ上下の関与が実現し始めている例があります。それは
皆様御存じの衛星放送です。
この図で言えば右側のところですけれども、現在BS1、BS2、それからハイビジョンとWOWOW、四つのチャンネルでBS3という衛星が今あります。そこから四チャンネルの放送がおりていますが、その衛星がもうすぐ寿命が尽きますので、今BS3ですが、BS4がことしにたしか上がります。そのBS4は先発機と後発機と
二つありまして、先発機の方は、最初に上がる方は現在のBS3と全く同じ形で放送いたします。しかし、技術の進歩でもう
一つ上げられるようになりました。ほぼ同じ
場所で、アンテナも同じで全く同じ設備で、今までの方式ですとあと四チャンネル上がるわけです。
それをどう扱うかということで郵政省で最近審議が行われまして、いろいろ議論がありましたけれども、これまでの放送局の方は、NHKも民放も現在の放送の組織を全くそのまま衛星放送にも適用して、いわば地上の放送をそっくりそのままコピーする形で新しい衛星放送を行うべきであるという主張を行いました。私もそのメンバーに入って議論をしておりましたが、結論としましてはその方式はとらないと。
経過としては、上下分離あるいは機能分離と申しておりますが、放送に際しまして衛星を保有して電波を送るだけの
事業者、受託放送業者と言いますけれども、その
仕事と、それから今度は、番組をつくって受託放送業者の方に頼んで放送してもらう委託業者と分けるという形で現在ほぼ大体の方針が決まっている様子です。これは非常に競争を推進する方策で、衛星をどこに上げるとか、電波をどういうぐあいに使うとかいうことは国の関与を必要とします。しかし、どういう番組を流すとかいうその番組の方は、なるべくいい番組をつくって、おもしろい番組とか役に立つ番組をつくる
事業者に入ってもらって競争させる方が
一般の国民のためになるわけですね。放送内容も充実するわけです。
現在の地上放送のやり方では、これは縦割りですから、
一つの民放の局が放送設備を所有して電波を出して、しかも番組も自分のところでつくって出す。非常にいい番組をつくる新しい
事業者が外に出てきてもなかなか入りにくいという事情があります。この上下に分ける形でやりますと、
日本であろうと外国であろうと、とにかく視聴者が好む、視聴者が必要となるような番組が自由に入れる、少なくとも入りやすくなるということで、競争促進の非常に大きな
一つのステップだと考えております。この方針が決まるまでいろいろ紆余曲折があったようで、郵政省の中でも
意見が割れたようですけれども、結論はそういうぐあいになるということで、私は非常にいい方向だと思っております。
こういう形で、
インフラ規制のあり方としまして政府がどうしても入っていかなければならないときに、きちんとフィールドを区分して、そしてどのような理由でどこに入っていかなければならないかということを明らかにする。それもなるべく機能別に上下分離の形で入るべきだというのが私の第一の
意見であります。
次に第二のトピックに進みますが、光ファイバー網の
整備。最近、新聞紙上等で盛んに議論されておりますので
皆様お聞きになっていると思いますが、広帯域アクセス手段とも言っております。
お
手元の
レジュメに従って話を進めますけれども、私は、この光ファイバー網というのは将来の国民
情報基盤の第一のものだと、第二が電波なんですが、第一のものだというぐあいに考えております。
その理由は、光ファイバー網を
整備いたしますと、現在の電話のもう
一つ上の
通信手段ができる。それよりはるかにグレードの高いものができる。在来線に比べれば新幹線ですね。古いプロペラ型あるいは小型のジェット機に比べればジャンボジェットに当たるような形で、とにかくスケールが格段に上等になる
通信手段ができる。
具体的には、電話は音声だけですから、耳だけを使って我々は電話で
通信しているわけですが、この光ファイバーを使った
通信というのは目と耳を使った非常に豊かな
通信ができるわけです。ラジオを聞くのとテレビを見るのとはわかりやすさが大違いですけれども、我々が、生活のためにしても、
仕事のためにしても、文化のためにしても、あらゆることに関して、それから家族のきずなを確かめるためでも、声だけ聞いて他人とコミュニケートするのと、それから実際に顔を見ながら、表情を見ながら、ああ、ちょっと顔色悪そうだ、元気がよさそうだ、一体どうしたのという形でコミュニケートするのとは大違いであります。
早い話が、きょうここで私は発表させていただくために大阪から実は出向いてまいったのでありますけれども、こういう手段がもし進めば、
全国各地から参議院の
調査会のメンバーの方が光ファイバーを使って片っ端から
意見を聞くということもできるわけで、距離の制限とか、場合によったら外国からでもできるわけでありまして、そういう制限がとれます。とにかく、ビジネスにしても生活にしても非常に豊かに、能率がよくなり、かつ内容が充実することはまず間違いないだろうということで、国民
情報基盤の第一ということになります。
現在、流行語になっておりますマルチメディアの
中身も、主としてこの光ファイバーを使って
通信することを前提にしています。それから、非常に成長盛んなインターネットにしても、現在は、お使いになった方も多いかと思いますが、
一つのキーを押してなかなかアメリカの画面が出てこない、待ち時間が多いと。コーヒーでも飲んでいると、やっとぽかっと出てくるというぐあいに、非常にいらいらというのか能率が悪い状態になっていますが、この光ファイバーを設置すれば、それもボタンを押せばさっと出てくる、また押せばさっと出てくるというぐあいに、問題がなくなるわけです。
そういう意味で、必要に関してはほぼ同意されていると思いますが、もう
一つその点を強調いたしますと、お
手元の図5と書いてあるグラフですが、今、金本
参考人は
交通のことについてお話しになったんですが、これは
日本人が一日に何分ぐらい移動に時間を使っていますかというグラフです。上の濃い線が十五歳以上の男性で、下の点線が
女性の方です。一九五五年ですから、今から約四十年ちょっと前から始まりまして、当時男性の方で言いますと三十二分ぐらい一日に使っていたわけです。これはビジネスで使った時間は入れませんで、ただし出勤とか通学とかは入れています。ビジネスで出張したという時間は残念ながらデータがないので入れられないんですが、ビジネス以外のデータに関しましては
調査がありますので入れています。
四十年前に一日三十分使っていたのが、ずっと右側にほぼ直線状に増加しまして、少しまだデータが古いんですが、八九年、今から七、八年前には既に一時間を超しまして七十分近く、六十八分ぐらい、一日に二倍の時間を移動に使っているわけです。これはどういうことかといいますと、要するに人と会う必要があると。いろんな理由で人と会わないと
仕事にならない、生活がやっていけないということで、そのために大事な時間を割いてとにかく動く必要があるということで、先ほどの光ファイバーがテレビ電話ということで実現いたしますと、それによって移動の時間を非常に節約することができる、今まで会えなかった人にもテレビ電話で会うことができるということで、プラスの面が多いだろうというぐあいに考えます。
光ファイバー設置の一番大きな問題はお金の面でありまして、これも電話と大体同じであります。細かいところは省略して、後ほどもし御質問があれば申し上げますが、最初に非常にお金がかかります。赤字が五年か十年か続く、それからどんどん黒字になるということで、赤字の期間が非常に長いんです。それで建設が進みません。特に、競争市場になりますと、損をしたら株主が文句を言うわけですから、経営者としてはどうしても保守的にならざるを得ない。損をするような投資、少なくとも四、五年も赤字が何千億円も出てくるような投資はなかなかできないということで進みが遅いという嫌いがあります。
アメリカの場合も、これはNII、ナショナル・インフォメーション・
インフラストラクチャー、国民
情報基盤、
情報ハイウエーということで、クリントン・ゴア政権が五年前に最初に選出されたときにこれを言いました。それで、その最初の話のときは政府がやるということになっておりましたが、アメリカの電話会社が非常に反対いたしまして、政府がやるのはけしからぬ、民間にやらせろということで民間
事業になったわけです。
しかし、この最初の赤字という問題がありますので、なかなかアメリカの方も建設は進んでいない。これは、私は
日本ではできれば政府の後押しで建設を進めるべき数少ないケースの
一つだと思います。
具体的には、ちょうど現在の電話がつくられたときと同じように、政府保障という形で
事業者のお金を借りたものを保障して、大丈夫だよという形で進めるのが一番よろしいかと思います。また、詳細に関しては後ほど機会がありましたら申し上げます。
それから、第三番目の問題に進みますが、電波の問題です、電波資源。
これは、放送に関しましては、もちろん電波を使って我々は日常
情報を獲得しているわけです。もう
一つ移動電話、携帯電話が最近非常に伸びてまいりまして、日常どこでも使っているのを見るような時代になりました。将来、恐らく携帯電話の方はもっと進みまして、生活のあらゆるところで、もう我々の生活している身の回りで電波をあらゆる形で使い始めるというぐあいに私は思っております。
それで、「国民
情報基盤の第二」と書いてありますが、電波の使い方は、現在は非常に
日本はおくれております。おくれているというのは、こういう
中身になっているからです。
つまり、政府が電波を一応手に持っている。その使用権を、
事業者に使ってよろしいという形で免許で与えています。その免許料というのが、名目的に少しお金がありますが、実際の電波資源という
経済価値に比べますと、何十分の一あるいは何百分の一、もっと少ないかもしれません。何百億円も何千億円もかかるものが、五万円とか三十万円とかいう料金で使われているわけで、いわば公共の資源を無料で使っているという形になっております。この無料というのが、一見いいようで、例えば携帯電話の値段なんかも安くできるというふうに思いますけれども、実は
経済の専門の方から申し上げますと、これほど高くつくものはない。
その理由は、以下のようなことです。
無料にしますと、
事業者が免許を受けたときに、そこに既得権益ができます。ただで使えるほどいいことはないわけです。電波を無料で使わせるのは、ちょうど銀座の表通りの土地を、国有の土地が仮にあるとしまして、どこかのデパートに何百平米の土地を無料で使わせるというようなものです。そこに建物が建ち、既得権ができて、そうすると次に免許の更新のときになっても一挙にそれを取るわけにいきません。それで、ずっと無料の形が続いていきます。そうしますと、今度は、現在の技術よりももっとよい技術を考え出した別の企業が出てきても、入ることができません。つまり、壁がつくられるわけです。無料で使わせるというのは、そういう新規参入に対する壁をつくるという意味で、競争を阻害し、長い間には非常に進歩をおくらせます。
現在、私残念に思っているのは、ちょうどその既得権益を続々とつくっているような状態にあるんですね、携帯電話は。それは何とかして早くやめるべきで、電波のような公共資源は、ちょうど土地を使わせるときにオークション、入札をさせるように電波も入札をさせるべきであろうというぐあいに考えています。この点は外国ではほぼ認識されておりまして、先進国の中で電波のオークションに手をつけていないのは
日本とフランスだけという状態になっています。中進国でも、ギリシャ、メキシコ、インド、たくさんの国が既に電波のオークションを実験し始めておりまして、
日本にこのニュースが
余り入ってきておりません。それは御推察いただけると思いますが、マスコミ、新聞にしても、新聞とテレビは近い
関係にあります。現在の放送局は電波を無料で使っていますから、既に既得権益を持っている状態にありまして、なかなか外国での電波のオークションの傾向というのを
日本にニュースとして入れにくいのではないかと私は考えております。この点は、国民全体の利益という点からぜひ検討を進めるべき点だと考えております。
ちょっと時間が超過いたしましたが、以上で私の説明を終わらせていただきます。