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参考人(
田中明彦君) 東京大学の
田中明彦であります。
本日は、参議院国際問題に関する
調査会にお招きいただきましてありがとうございます。私は、ほぼ三十分ぐらいでお配りしてあります項目に従いまして
アジア太平洋地域における
安全保障のあり方について私見を述べさせていただきたいと思います。
まず第一番目に、現在の
アジア太平洋における
安全保障問題として具体的にどういう問題があるかということについて簡単に振り返ってみたいと思います。
まず、この
地域、
アジア太平洋地域における際立った特徴は、解決していない領土問題というのが
存在するということであります。これは、例えば
ヨーロッパなどと比べてみますとかなり特徴的なことでありまして、
ヨーロッパでは
冷戦の最中でありますが、全欧
安保協力会議をつくるという過程で国境についての現状凍結ということを合意しておりますけれども、
アジア太平洋地域においてはそのような国境を画定するということについて各国間の合意がなかなかできていないという事情がございます。ここでは、我が国に
関係するところとして北方領土問題、竹島問題、尖閣諸島問題を挙げてありますけれども、それ以外にも
中国は、厳密に考えますとほとんどその国境を接する国すべてと国境問題があると言っても過言でないような
状況であります。
つけ加えますと、もちろん
日本政府の
立場からすれば、尖閣諸島問題は国境問題というか領土問題ではないということ。つまり日中間に領土問題はないというのが
日本政府の
立場だろうと思いますけれども、現実には
中国側、香港の人々、台湾の人々は皆、これは領土問題であるというふうに言っておるわけでありまして、法律的にはともかく、現実的にはそこに
日本人と
中国人の
方々の間に
意見の相違があるという点は認めざるを得ない。つまり古典的な国際政治の見方からすれば、まず西欧と比較した場合に国際紛争になり得る
要因というものが
アジア太平洋にはまだかなりあるということであります。
それから第二に、この領土問題に加えまして、さらに大きな問題としましては、
アジア太平洋地域には依然として分裂国家というものが
存在するということを指摘させていただきたいと思います。
言うまでもなく、朝鮮半島は依然として南北に分裂したままでありますし、
中国は、中華人民共和国政府も台湾にあります中華民国政府も、ともに
中国は
一つであるというふうに言い続けて戦後ずっと推移してきたわけでありますが、依然として
台湾海峡を挟んで平和的な統一というような道筋はなかなか難しいという
状況が続いております。
香港は本年七月一日に中華人民共和国に返還され、マカオも返還される予定であるということは分裂の様相をやや軽減するということがあり得るかもしれませんけれども、ただ、この香港の返還の過程自体においてもさまざまな不確定性というものが伴わざるを得ないということもあります。
三番目に、この領土問題、分裂国家の問題に加えまして、最近顕著な現象であるというふうにさまざまなところで言われているのが、
アジア太平洋地域における
軍備、
軍事力の近代化の問題であります。
各国が、この
地域の特徴であります
経済ダイナミズムの結果、
軍事費を増強するだけの予算的なゆとりができたということが多分一番大きな
要因だろうと思いますが、多くの国で
軍事力の近代化が行われている。東南
アジア諸国の中でも、例えば
タイでは空母を購入するという動きがございますし、
アメリカ製の戦闘機F16の購入。それからマレーシアでは、
アメリカ製の戦闘機のみならずロシアからミグ29を買うというようなこともあります。先ほど
鷲見先生がおっしゃいましたように、
中国では、ロシアからスホーイ27を購入し、さらにライセンス生産を行うという動きがあります。そして台湾では、F16を百五十機、さらにフランスからミラージュ2000を購入するという動きが続いております。
軍備力を近代化するということを各国が行っているということ自体、これが直ちに紛争につながるということは必ずしも言えないと思います。つまり、紛争を起こすのは国家でありまして、武器があるというだけで紛争が起きるわけではありません。
ただ、懸念されることは、この
軍備力の近代化というものが相互に悪循環を来し、一国の
軍備力近代化の動きが他国をしてさらなる
軍備力近代化を行わないと安全が脅かされるというふうに考え
軍事力をふやす、そしてこの
軍事力の増大がまたもとの国をさらに不安にさ起て
軍事力強大化を図るという軍拡競争の悪循環が始まってしまいますと、これは大変問題であろうと思います。ですから、
アジア太平洋の現状において今各国が
軍備力の近代化を行っているということは、可能性として将来軍拡競争が起こるかもしれないという危険性を持っているということであります。
ちなみに、現在の段階で各国の
軍備力近代化が軍拡競争になっているかどうかというと、私の判断ではまだこれは軍拡競争であるという段階ではないだろうというふうに思っております。
私がやった推計ではありませんけれども、ある
経済学者の方が各国の
軍備費の伸び率を軍拡競争のモデルというものに当てはめて推計したことがございますけれども、そういう推計の結果、お互いの
軍事力が相手の
軍事力増大に優位な影響を持っているというのが相互に起こっているという
事態は、まだそれほど強く観察されていないということであります。
ついでに申し上げますと、
アジア各国の
軍備力の増大に対して
日本の
軍備、
軍事費の増大が促進
要因になっているということは全く言えません。
日本の
軍事力の増強がどこかの国の
軍事力増強に優位に働いているということは、その推計をすると言えないという結果になっています。
四番目の問題としますと、そういう具体的な問題、個々の問題に加えまして、最近懸念されることは、主要国間の
関係がやや安定性を欠いているということであります。
冷戦が終わった後、
アジア太平洋地域の中でロシアの勢力が後退する中、
アメリカと
中国の
関係、
アメリカと
日本との
関係、
日本と
中国の
関係というものが極めて重要であるとの認識が強くされるようになってきました。
しかしながら、
冷戦後のこの六、七年の間、米中、
日米、日中、このすべての
関係がある種の緊張
関係を
経験したということであります。
冷戦直後には
アメリカで
日本脅威論というものが盛んに言われ、そして一九九五年の
日米自動車交渉に至る過程では、
日米の
経済摩擦こそが新たな
冷戦後の対立の焦点であるかのごとく言われるということがありました。この
日本脅威論は、
日本経済の勢いがかってほどでないということもあって、
アメリカの
経済が大変うまくいっているということもあって、現在ではほとんど注目されていません。
それに反して、一九九二年ごろからは
中国脅威論というものが盛んに喧伝されるようになり、一昨年から昨年にかけての李登輝総統の
アメリカ訪問を契機として
台湾海峡の緊張が深まり、
米中関係も大変緊張するという局面を迎えます。
そして、この
日米、米中というふうに緊張
関係が生まれたわけですけれども、昨年、一昨年に関して言いますと、日中
関係もまたなかなかうまくいかないという状態になりました。これは一面では
中国が核実験を継続したということ、これに対して
日本人の多くが批判をしたということ。そしてさらに昨年は、
中国が、
日本との間で歴史認識の問題、尖閣諸島問題、
日本の中における台湾との
関係を改善したいという動きに対する批判等からその批判を強めたということがあります。
この主要国
関係が緊張するということ自体が直ちに
安全保障問題になるかというと、そういうことではありませんが、
安全保障に最終的に最も影響を与えるのは主要国の動向でありまして、この
関係が安定しないということ自体、間接的には大変大きな
安全保障問題の背景の領土問題、分裂国家の問題、
軍備力近代化の問題をさらに悪化させる可能性を持つ、そういう問題があると思います。
最後に、五番目としまして、
アジア太平洋地域においてもいわゆる新しい
安全保障問題といったようなものがやはり注目されなければいけなくなってきていると思います。
ぺルーの
日本大使公邸の襲撃事件というのは必ずしも
アジア太平洋地域というふうにみなしていいかどうかよくわかりませんが、テロというようなものの
存在というのはやはり
安全保障にとって重要な影響を持ちますし、もし麻薬取引というようなものが無制限に行われるということであれば、その国家、国内の生活が内からむしばまれるということになります。その他、難民とか海賊等、海賊というのはこのごろ余り使わない言葉でありますけれども、実際は海上交通路において古典的に言えば海賊に当たる行為をなすグループというのはいまだに
存在するわけであります。もうちょっと大きな範囲で言えば、環境問題ということも広い
意味の
安全保障問題であろうかと思います。
さて、
アジア太平洋にはこのようなさまざまな
安全保障に関して懸念を呼ぶような問題がありますが、それでは一体
安全保障を促進する、より安全な環境をもたらすためにはどうしたらいいかということについて、国際政治学で通常行われる
議論を幾つか整理した上で、その
観点から今の
アジア太平洋はどういう特徴を持っているかということについて触れてみたいと思います。
まず、国際政治学で
安全保障に関する見方は、大きく分けますと、リアリズム、現実
主義と言われる見方とそれからリベラリズム、訳し方は難しいですけれども、あえて
意味をとって訳せば国際協調
主義とでも言われる見方の二通りが主流であろうと思われます。
リアリズムというのはおおむね国際政治を対立的なものととらえ、その対立の背後にある力、とりわけ
軍事力というものを重視した
考え方であります。国際政治はどうやって動くかといえば、つまるところ力と力がどうやって分布しているかによって決まる。この
観点からしますと、何が
安全保障にとって問題かといえば、どこかの国の力が急速に上昇するということが問題、つまり力の分布の
変化というものが不安定化をもたらすという見解になります。力の分布の
変化に対してどうすればいいかといえば、どこかの力が上昇したのに対して、ほかの勢力が力を糾合するなり、あるいはみずからの力を上昇させるということによってバランスをさせる、あるいはある種の力の上昇に対して攻撃を
抑止するような力をこちら側も持つというような
考え方であります。
ただ、リアリズムだけが唯一の
考え方ではなく、第二の
考え方として最近注目されている見方とすれば、国際協調
主義とでもいうような
考え方があります。この
考え方はおおむね
三つの
考え方に整理できます。
一つは、平和を達成するために何が望ましいかといえば、各国の国内政治体制が民主
主義的になることが望ましいという言い方があります。最近、過去二
世紀ぐらいの
戦争を観察してみますと、民主
主義国と民主
主義国が戦った
戦争というのは、ある論者によれば一回もない、多くの論者によればほとんどないということになります。ですから、民主
主義の体制が広まるということが平和につながる。
第二の
考え方は、
経済的相互依存が平和をもたらすという
考え方であります。お互いに
経済が密接に結びついていくようになれば、相手の国に
戦争をしかけるということは自分の金もうけのチャンスを失うということになって大変損である。したがって、
戦争なぞを起こすはずはないという
経済相互依存の効用ということを指摘する
考え方であります。
第三は、国際的制度をつくることによって平和を達成しようという見方であります。多くの国が恒常的に
安全保障に関して話し合いをする、あるいは集団的
安全保障の取り決めを結ぶというようなことをしていけば、相互の国際紛争というものが
軍事化するということを防ぐことができるであろうというような見方であります。
さて、このリアリズムとリベラリズムの見方は、多くの場合、学説の中では対立していますけれども、私は必ずしも相互に排他的でどちらかをとったらどちらかが必ずとれないというようなものではないであろうと思っています。この二つの見方からそれでは
アジア太平洋を評価したらどういうふうになるかということになると、結論はそれほど芳しくないということであります。
まず、リアリズム、現実
主義の見方からすれば、
アジア太平洋にとってまず何が一番注目されるかといえば、これは大変な
経済成長を各国が遂げているわけですが、その中でもとりわけ
中国の
経済力の上昇というものが大変顕著であるということであります。ですから、ここで
中国が
経済力の上昇を
軍事力に転化させるということになれば、力の分布が急速に
変化することになる。つまり、これは現実
主義から見た不安定化の最も重要なもの、それが今
アジア太平洋に起きているということになります。ですから、現実
主義的な見方、
世界の国際政治学者の中で現実
主義だと言われる
人たちの多くは、
アジア太平洋は大変不安定だ、
日本人なり
アジアの人は
経済が発展しているから大丈夫だというふうによく言っているけれども、そんなに安心していてはいけないということを言われます。
リベラリズムの見方、国際協調
主義の見方からするとそれでは
アジア太平洋はどういうふうになるかといいますと、期待は持てる、ただ不確実だというふうなことがリベラリズム、国際協調
主義から見た見方であろうかと思います。なぜそうかといいますと、期待は持てる、民主
主義による平和論からすれば民主
主義国がふえる傾向にあるというのは望ましいと思うんです。
アジア太平洋でも
韓国、台湾が民主化を遂げ、
タイも民主化を遂げ、
フィリピンの民主
主義もそれなりに安定してきている。したがって民主
主義勢力がふえている。これは望ましい。
ただ、期待は持てるわけですが、不確実だというのはなぜかといえば、すべての国が民主
主義になったわけではない。とりわけ重要な国家であります
中国における民主化の動きというのは、進んでいるにしてもかなりゆっくりとしか進んでいない。悲観的な論者によれば、
中国において
西側的な
意味で民主
主義なぞ起こるわけがないというふうに言う人もいます。そうすると、一番重要な国と思われる
中国において民主化が進む期待がそれほど持てないとすれば、民主
主義による平和が仮に正しいとしても、一番重要な国家との間の
関係は依然として不安定になるかもしれないということであります。
経済的相互依存による平和、これも期待は持てる。なぜならば、
アジア各国の
経済的相互依存の結びつきはますます強まっている。東南
アジア諸国に対する
日本、台湾、
アメリカなどからの直接投資は非常に進展している。したがって、各国の
経済はますます密接に結びつくようになっているから、お互いが国際紛争を
軍事的に解決しようというような誘因は減っていくであろう。これも期待が持てる。ただ、不確実だということはここでも言えるわけです。つまり、
経済的相互依存が深まれば必ず国際紛争が
軍事化しないというような保証は全くない。
経済的相互依存が深まったら
戦争しないのであれば、
日本が真珠湾攻撃をするなどということは考えられないということがしばしば言われます。
それから、
アジアの
経済的相互依存の深化は確かですが、それでも例えば西
ヨーロッパと比べてみるとまだ相互依存の進展の度合いというのは低いレベルであるということが言われます。
第三の国際的制度による平和という
観点から見ると、これもやはり期待は持てる。つまり、
アジア太平洋でもAPEC、
アジア・太平洋
経済協力のための閣僚会議が開催されるようになった。ASEAN
地域フォーラムというものも動き出した。ですから期待は持てる。ただ、これも不確実だ。ASEAN
地域フォーラムにしても、結局のところ一年のうちASEAN
地域フォーラムというのは一日で行う。ここで話し合っていることも信頼醸成
措置、重要なことでありますけれども、これだけで
軍事的な
危機あるいは
軍事的
危機をもたらすかもしれないような
事態に対処できるようなメカニズムになっているわけではない。したがって不確実であるということになろうかと思います。
とすると、このどちらの
考え方、現実
主義の
考え方をとってもリベラリズムの
考え方をとっても、
アジア太平洋地域はこのままほうっておいて安心できるというような状態ではないということだけは私は確かなのであろうと思います。ですから、各国とも真剣な
安全保障政策ということを追求しなければいけないと思います。
その際、何が基準になるかといえば、私は先ほど申し上げましたように、リアリズムにしてもリベラリズムにしても、必ずしも相互排他的、どちらかをやったらどちらかがやれないというものではないと思うんです。ですから、望ましい政策というのは結局のところこのリベラリズムの言うような積極的な方策、民主
主義を伸長させる、
経済的相互依存を伸長させる、国際的制度を広めるということを促進するとともに、最悪の
事態あるいは想定していなかったような
事態が起きたときの安全策として現実
主義的な政策、つまりある種の勢力均衡に基づくような政策というものをとっておかなければいけないというふうに思います。
そこで、具体的にはどういうことになるかというと、私はそこの三番に書きました。私が言っていることが必ずしも賢明かどうかはよくわかりませんけれども、私の見方からすれば以下のようなものが
アジア太平洋における
日本の
安全保障政策のキーになるであろうと思います。
第一は、
日米安全保障条約の重要性であります。
これは、
アジア太平洋においてさきに挙げましたようなさま、ざまな問題が
存在するという中で、現実
主義者が言うような力の分布の急速な
変化ということの危険があるという以上、最悪の
事態に備える
措置として
日米安全保障条約というものを堅持するということが非常に重要であろうと思っております。一番望ましいのは、先ほど五百旗頭先生がおっしゃったように、桐の箱にしまっているけれども確固として
存在するということであろうと思います。
ただ、
日米安全保障条約は
軍事同盟、勢力均衡に基づく制度であると、そういう側面だけでとらえるのは私はやや狭い見方であろうと思っております。これは、現在の
世界の中での自由
主義的な民主制をとる国家の間の連帯を示すというような、よりシンボリックな
意味というものも考えなければいけない。
日米安全保障条約というのはそういう
存在になりつつあると。
これも先ほど五百旗頭先生がおっしゃいましたけれども、
NATOというものも、
冷戦が終わった後、今その性格は、自由
主義的な民主制をとる国家同士の連帯を示す組織、この自由
主義的民主制をとる国家に
世界の不安定な要素が影響を与えるのをできるだけ低下するための装置であるというような形でとらえ直しが進んでいるというふうに思うわけですが、
日米安全保障条約もそういうふうな
観点から見ることが重要になってきていると思います。
第二に、
日米安全保障条約は重要でありますが一それのみをやっていれば
日本の安全は万全だというふうに考えるのも私は間違いであろうと思います。つまり、ここで国際協調
主義と言いましたようなさまざまな平和をもたらすための活動というのをやはり
日本は積極的に進めていかなければいけない。
第一に、私はプラス志向の
経済発展の重要性ということを書きましたが、
アジア太平洋地域は幸いなことに、一九七九年の
中国のベトナムに対するいわゆる懲罰
戦争以来国家間
戦争は一度も起きていません。ですから、この十七年に及ぶ平和というのは、
アジア太平洋にとってみると大変貴重な時間であります。そして、この大変貴重な平和は何によってもたらされたかといえば、その多くは、やはり多くの諸国がこれからは
経済発展をすべての国が共有できるというような見通しがあった、みんなでお互いに金もうけができるというこの期待がその平和の
一つの基礎になっていると思います。
ですから、ここの段階でどこかの国の
経済発展がどこかの国の
経済発展のマイナスになるというような形になりますと、これは大変な紛争
要因になりますので、その面から
日本の
経済協力というようなものも、単に
経済面における
協力というのではなく、
アジア太平洋を全般的に安定化させる装置としてプラス志向の
経済発展をこの
地域にもたらすという
観点から評価をしていくことが大事だろうと思います。
中国、インドネシアあるいは
ASEAN諸国、それからベトナムを
中心とするインドシナ諸国、こういう国に対する
経済協力というのは非常に私は重要だろうと思っております。
このプラス志向と言った場合に、国と国との間の
経済発展がすべてプラスになるということも重要でありますが、よりきめ細かく考えますと、
経済協力の受け入れ国国内の
地域間において
経済発展にアンバランスが生まれるというのも望ましくありません。ですから、例えば
中国への
経済協力ということでいえば、内陸の
経済発展というものが安定的に推移するような形の
経済協力というのが
日本にとっては重要なポイントになろうかというふうに私は思っております。
三番目に、国際的な制度というものをやはり重視していかなければいけない。ASEAN
地域フォーラム、APECにおける非公式首脳会談などを重視するということが大事だと思っております。
こういう多角的な
枠組みは、先ほど申し上げました
日米安全保障条約に代替するものではありませんけれども、このような多角的な信頼醸成の装置というものが全体としての
安全保障の底上げに役立つということ、私はそういう認識を持つことが重要であろうと思っております。今後の課題として見れば、やはり北東
アジア、朝鮮半島を
中心とする
安全保障の対話の
枠組みというものを重視するということも認識しておかなければいけないというふうに思っております。
最後に、以上のような全体的な見通しの中で、最近の
アジア太平洋地域の国際情勢について若干コメントさせていただきたいと思います。
まず第一に、朝鮮半島問題でありますけれども、これは、昨年夏の潜水艦事件に対して北朝鮮が謝罪をしたということでやや改善の
方向に動き始めたというふうに思います。ただ、四者協議についての説明会ということに関しては北朝鮮側から延期ということが最近続いております。ですから、まだ楽観はできませんが、北朝鮮の中で食糧についての情報を公開するというような動きも最近見られておりますので、
アメリカ、
日本、
韓国、
関係各国が慎重に協議を進めていくということによって最悪の
事態に至るということを防ぐ
努力がなされなければいけないというふうに思います。
ただ、朝鮮半島のエネルギー開発機構でありますKEDOが今後期待どおりに進むかどうかということについては、まだ若干の懸念材料もあります。
韓国内において、KEDOへの全面的
協力をするかどうかということについて必ずしも
意見が一致していないという面もあります。それから、依然として北朝鮮における食糧問題は大変深刻でありますし、金正日さんの政権確立といったことも依然として不確定
要因があります。
ですから、
安全保障問題という
観点からして、より
危機的な
状況も想定しなければならないということでいえば、依然として
日本の
安全保障にとって朝鮮半島問題から目を離すということは許されない。
安全保障という
観点からすれば、朝鮮半島で最悪の
事態が起きたときにどういうふうにするかということをないがしろにするわけにはいかない。そのための
議論というものを先延ばしにするというのは私は無責任であろうと思っております。
次に、
中国をめぐる
国際関係でありますが、
米中関係は昨年に至るまで緊張を続けましたが、昨年暮れのAPEC首脳会談において米中首脳が会談し、本年から来年にかけて首脳の相互訪問ということが合意され、ゴア副大統領がこの春にも訪中する。その前にオルブライト国務長官が
中国を訪問する、
日本にも来ますし、
世界を回るわけですが。こういうわけで、全般的には改善の
方向に向かっていると思います。十二月に
中国の遅浩田国防部長が
アメリカを二週間ぐらいにわたって訪問しましたけれども、
アメリカ側のこの訪米に対する姿勢は大変これを重視したものでありました。
ただ、それでも依然として
米中関係にはさまざまな問題があります。とりわけ、以下に述べる
台湾海峡の問題、それから香港問題等が本年のやはり重要な点になろうかと思います。
台湾海峡につきましては、御案内のとおり、李登輝総統が選挙に勝利されて就任して以来、特に現在、台湾独立を直ちに言うということはなくなってきていますけれども、外交活動は依然として積極的に行いたいという姿勢であります。北朝鮮に対して核廃棄物を引き受けてほしいというような動きも、一面では
中国にとってなかなか好ましくない動きのようにも受け取れると思います。
それからもう
一つ、台湾国内で去年の暮れに行われました国家発展会議というところで、台湾省政府というものをやめるということが大体合意されました。つまり、御存じのとおり、台湾というのは、中華民国政府とそれから台湾省政府という二つの政府がほぼ同じところを統治しているわけですね。
これは、建前として、中華民国政府は
中国全土を統治していて、台湾省政府は台湾省を統治しているというわけで、台湾にとって、
中国は
一つである、いずれは
中国を統一するのであるというその前提からすればこの二つを持っていないといけないわけですが、現実に考えてみますと、実際に統治しているのは、事実上は台湾省だけなわけであります。そこに中華民国政府と台湾省政府の二つがあるというのは、台湾省政府だけで二万八千人役人がいるそうでありまして、納税者の
観点からするとむだだということで、これをやめていく
方向というのがこの十二月に大体合意されたわけです。
これは、
中国の
観点からしますと、やはり一歩台湾独立の
方向に近づいてしまうのではないかという懸念材料にもなります。ですから、このような台湾内部の動きに対して
中国がどういう反応をするかというのが
一つの注目されるところであります。
最後の香港問題は、七月一日に返還ということでありまして、おおむね準備はそれなりに進んでいるというふうに私は判断しております。ただ、
一つ気になりますのは、ここ一、二週間の間に新聞報道になされましたように、香港における基本的人権に関する法律を七月一日以後変えるという動き、デモとかその他の示威活動についての規制を強化するという動きが出ています。これに対して、
アメリカの国務省等では懸念が表明されております。ですから、この香港における人権についての規制強化が今後の
米中関係の大きな
一つの争点になる可能性を持っているということがあろうと思います。ですから、
中国をめぐる
国際関係につきましても、
米中関係の改善の動きがあるといいましても、依然としてそう簡単にいくかどうかはわからないというところであろうかと思います。
以上考えまして、
日本にとっての現在の課題というのはどんなことかということを、ここには挙げておりませんでしたが四点ほど申し上げたいと思います。
まず、朝鮮半島の問題が依然として確固たる姿を見せない今の段階において、
日米安全保障条約の有効性を高める
努力というのは継続的に行わなければいけないというふうに私は思っています。
その際に、詳しくは申し上げませんが、集団的
自衛権に関する問題というのも真剣な
議論が必要であろうかというふうに思っております。
それから第二に、これはPKO法ができて以来、
国連へのPKO活動がある
程度一段落してしまったせいかもしれませんが、国際機関を通じた
安全保障への貢献ということに関して
議論がなされることが少なくなっているということがあると思います。ですから、集団的
自衛ではなく集団的
安全保障に関連した
日本の活動はいかにあるべきかという
議論がなされなければならない。私見からいえば、PKO法の見直しということは法律で規定されていたわけですけれども、ほとんどされていないということは問題であろうと思っています。
三番目に、これは先ほど申し上げたことの繰り返しでありますが、多角的な
安全保障対話の試みを
日本は積極的に進めなければいけないというふうに思っております。
最後に、四番目でありますが、
米中関係の改善ということは、さまざまな問題がありながらも進むというふうに私は判断しております。
日本にとって
アジア太平洋の安定において重要な
関係は、
日米関係と並んで日中
関係であります。日中
関係が昨年に至るまでの二年間、大変不安定であったということは望ましくないことであります。
中国に対して批判すべき点はかなりあると思いますが、
中国に追随するというのではなく、建設的な対話を行うという形を通しつつ日中
関係を安定化する。日中
関係の安定化がことしの
一つの大きな優先課題だというふうに思っております。
以上、四点ほど申し上げました。時間を超過しておりますのでこの辺で終わらせていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。