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公述人(小島延夫君)
日本弁護士連合会の
公害対策
環境保全委員会の副
委員長をしています弁護士の小島と申します。
本日は、
公述の
機会を与えていただきましてまことにありがとうございます。本日、
環境アセスメントに関する
法案の策定に際して、ここに
公述の
機会を持ったということに非常に深い感慨を感じております。
この間、私ども日本の
法律家は、さまざまな国際
会議に出かけてきたわけでありますけれども、そうした国際
会議に出る都度に、どの国が
環境アセスメント法を持っていてどの国が
環境アセスメント法を持っていないかということを何度も何度も身をもって体験してまいりました。
これは、アジア諸国の中でも、一九九〇年代に入ってアジアの
法律家が集まって会合を持ちますと、みんなの国で、うちの
環境アセスメント法はこういう問題を抱えているというような形で話がされていくわけでありますが、日本において、先進工業国たる日本はどうなんだという話を聞かれると、実は
我が国には
環境アセスメント法がまだないんだという話を非常に恥ずかしそうに言わなければならなかった、それも間もなく終わるというふうに思うと非常にうれしいなというふうに感じております。
そうした中で、この
環境アセスメントという問題を考えるに当たって四つの重要なポイントがあると思いますので、それを述べさせていただきたいというふうに思っています。四つのポイントというのは、今の時代において
環境アセスメントをつくる場合には必要だというふうに考えている点であります。
一つは、オープンな意思
決定をすべきだということであります。昨今、さまざまな形でいろいろな過去の
行政決定、これは
行政だけではなく今の会社組織も含めた組織の
決定のあり方が問われている時代であります。そうした中において、意思
決定をできるだけオープンなものにしていくということが今強く求められていると思います。これが第一点です。
それから第二点目は、
環境と
開発の統合ということです。今まで、
開発する側と
環境を
保全しようとする側は、それぞれ対立した形で、必ずしも統合的な形での意思
決定というのは行われてきませんでした。それを統合させる一つのツールとして、一つの手段として
環境アセスメントを考えていくべきだということであります。
それから第三番目は、基礎
自治体の尊重ということであります。昨今、
地方自治、分権推進ということが言われている中で、より一層の分権化を進めていく、そのためにも基礎
自治体の尊重ということがなされなければならないということであります。
四点目は、
地球規模の問題にきちんと対処していけるような
環境アセスメント法であってほしいということであります。
それぞれかみ砕いて話をさせていただきたいと思います。
オープンな意思
決定ということで、この
環境影響評価法が占める
役割というのは非常に大きなものであるというふうに考えています。オープンな意思
決定のためには、意思
決定の結果が
公開されるということでは不十分であります。その
意思形成過程が表に出るということが重要であります。
それも、どこかの
段階で一時に出るというのではなく、多
段階において広い形でオープンになるということが必要であると思います。この点は先ほど
福井公述人が述べたのと全く同じ
意見であります。その点で、
環境影響評価法というのは、意思
形成の過程におけるさまざまな
情報を
公開していくプロセスという点では極めて重要な
役割を果たしていくと思います。
では、その
環境情報の
公開という点から見た場合に、この
法案は十分なものであるのかどうかという点が一つの大きな問題になります。
実は、その点でいうと、
環境影響評価法案のさまざまな
段階で見ていきますと、まず、ある
事業について
環境影響評価を行うかどうか、いわゆる
スクリーニングの
段階があります。ところが、残念なことに、この
スクリーニングの
段階においては、基本的には
住民の参加はない、また基礎
自治体の
意見表明の
機会もないという形にとどまっています。主務官庁と都道府県の
段階ですべてが閉じられてしまうという形になっています。やはり何を
環境影響評価の対象にしていくのか、どの
事業を
環境影響評価の対象にしていくのかという、この
スクリーニングの
段階からきちっと
公開と参加の原則を貫くべきだというふうに考えます。
それから、その後のプロセスについては確かに
公開はある
程度貫かれているのですが、非常に残念なことは最後の
審査の
段階であります。
環境影響評価のプロセスを見でいきますと、
スクリーニングがあって、
スコーピングがあって、
評価が実際に行われるプロセスがあって、最後に
審査のプロセスがあります。
それで、その
審査のところについてこの
環境影響評価法案がどのように書いているかというのを見ますと、三十三条の一項という条文がわずかにあるだけであります。対象
事業に係る免許を行う者は
審査しなければならないという三行の条文があるだけでして、この
審査はどのように行われるのか、またその
審査の結果というのは
公開されるのかどうか、さらにもっと言えば、
審査について
審査書といったものがつくられるのかどうか、こういったことは全く書かれていないわけです。
それまでのプロセスはすべて
公開で行われているんですが、この
審査の結果というのがまさにその後の許認可の意思
形成に直接
関与していくわけであります。
その三十三条の後の条文を見ていきますと、この
審査の結果をあわせて
判断するということになるわけです。それまでの、
環境庁長官が
意見を言う、
都道府県知事が
意見を言う、市町村長が
意見を言う、
住民が
意見を言う、これはすべて
意見を言われるわけです。そして、
意見を言われた結果、最後の許認可に反映するのはあくまでも主務官庁が行った
審査結果であります。
ところが、この
審査の結果について、その
審査をどのように行うのかということが一切書かれていない。それから、その
審査の結果がどういう文書になるのかということも書かれていない。そしてまた、その
審査の結果が
公開されるのかどうかということも書かれていない。そういう
意味では、ここの部分が全くのブラックボックスになってしまうのではないかという危惧が非常に強くあるわけであります。
やはりそこのプロセスはすべて
公開して、きちんと
審査の結果についての文書を
作成していくべきだと。これは、
地方自治体で現在行われております
審査のプロセスではほとんど
審査書というものをつくっていくという形になっています。それと比較しても、こういうようなともすれば密室になるのではないかというようなおそれを抱かせる形というのは非常に残念なものであります。
それから、第二点目の
環境と
開発の統合という点について言いますと、やはりこの点で重要なのは、
計画についての
アセスメントをきちっと位置づけるべきではないかということであります。
今回の
アセスメントは、
事業についての
アセスメントを行う
環境基本法の二十条を前提とした
アセスメントだということで、政策、広域
計画等についての
アセスメントをしないという形をとっているかのようにも思われます。
しかしながら、本当に
意思形成過程における
環境配慮を具体的に行っていくということを考えますと、
事業を対象としたアセスでは極めて不十分だというのが今までの
経験であります。
一つの具体的な例をとってみますと、例えば道路
事業があります。道路
事業における
事業を対象としたアセスいうのは、例えば東名自動車道のような東京から名古屋までつながる長い道路であっても、それはすべて一つ一つの細かい区間に分断されています。品川から厚木、厚木から静岡といったような形で分断された区間になってきます。実際にはもっと短い区間になってきます。そうすると、その細かい短い区間について
アセスメントを行っていくということになってしまって、そもそもそういうような広域的な高速道路をつくることが望ましいのか、高速道路をつくるよりも鉄道を引いた方がいいのかどうか、そういったような
議論、ましてやもし仮に道路を引くとしても、路線をどこに引くのか、立地の問題、そういった問題はほとんど
議論がされにくいというのが今の
アセスメントの現状であります。
やはりそれを防ぐためには、もう少し具体的な都市
計画決定の
段階の前の、いわば道路であれば道路整備五カ年
計画ですとか全国総合
開発計画ですとか、そういったような道路整備に関する諸
計画の
段階できちっと
アセスメントを行っていく。
それによって、本当にそういった道路
計画が望ましいのかという
議論がきちんとできるような形になっていくだろうと。やはり
環境と
開発をきちっと統合していくという点から考えると、
計画についての
アセスメントというのは極めて重要な
意味を持つだろうというふうに考えています。
その点ではもう一つ、やっぱり
アセスメントの
手法として、代替案の
検討を義務づけるということが極めて重要だと思います。
今のような道路
計画を例にとりますと、道路が望ましいのか鉄道が望ましいのか、道路を引かないで全く別の
手法を考えるのが望ましいのか、道路を引くとしてもA路線、B路線、C路線を考えていくのがいいのか、そういった問題も含めて多彩な代替案を出して
議論していく、これが極めて重要だと。
もともと
環境アセスメントという
制度を世界で最初に
導入しましたアメリカ合衆国では、代替案の
作成というのが極めて重要な
アセスメントの要素だというふうにされてきました。この代替案の
作成を義務づけ、そして各代替案についで必要な
環境項目を
調査し、一覧表にしていくというプロセスを通じて、一般市民にとって極めでわかりやすい
アセスメント制度ができるという形になります。
アセスメント制度というのは、やはり
情報を一般の人々が極めてわかりやすい形で入手していく、そして実際に
事業を行っていく
事業者にとってもわかりやすい形にしていく、そういうことが必要だと思うんです。
ところが、現行の
アセスメントというものを見ますと、非常に分厚い詳細な
報告書がそれこそ億単位の金を使って、場合によったら半年とかもしくは数年の期間をかけて行われるわけですけれども、ほとんど普通の人が見ても全くわからないような
アセスメントの
報告書になってしまっているというのが現状であります。
それを防ぐための一つの
手法としては、やはり代替案の
作成というのを
スコーピング、方法書の
作成の
段階できちっと義務づけて、その代替案ごとにすべて
環境要素の
評価をして、それを一覧表にしていくといったような
作業を義務づけていくということが必要だと思います。
それからもう一つ、日弁連の
立場としては、狭い
環境要素に限ることなく、社会的要素についても
アセスメントの対象にしていくべきだということであります。
道路の話ばかりになって恐縮なんですけれども、例えば道路であれば、現実に大きな問題としては、大きな広域道路が通ることによって
地域社会が分断されてしまうといったようなことが各地で大きな問題になってきました。ところが、
地域社会の分断といったような要素が例えば
環境アセスメントの中に含まれていくのかどうか。さらには、ダム建設の問題などで、例えば最近札幌でも判決が出ました二風谷のダム建設なんかの問題に見られるように、先
住民の持っていた文化、こういったものを
アセスメントの中に考慮するのかどうかといったことが大きな要素であります。
確かに、世界各国の
アセスメントを見ても、その点についての扱いは区々でありますけれども、そうした文化的、社会的要素を含ませた
アセスメントこそが必要であろうというふうに私どもは考えております。それによって総合的にその
事業が持っている社会的
影響というものが把握され、そうしたものを目指すものとして
アセスメント制度は
運用されていかなければならないというふうに考えます。
それから、基礎
自治体の
意見、基礎
自治体の尊重ということでありますけれども、今回の
アセスメント法案では、市町村は
スコーピングの
段階と
評価、いわゆる
準備書の
作成段階において関係都道府県の知事を通じて
意見を言うという道は残されていますけれども、それ以外の形で直接
アセスメントの
手続に参加するというような方法はとられていません。もちろん一
住民として、いわば
住民の一人として
意見を言うということは不可能ではありませんけれども、その道しかないわけであります。
今日の
地方自治、分権の推進という点であれば、それは単に国と都道府県の関係だけではなくて、やはり基礎
自治体への権限の分配ということもかなり重要な
意味合いを占めていると思います。やはり基礎
地方自治体たる市町村に大きな権限を与えていくべきであろう、そのための参加の
機会をつくっていくべきであろうというふうに考えられます。
それから、その関係で言うと、
地方自治体が行う
アセスメントと国が行う今回の
アセスメント法案との関係を完全に並列して
アセスメントが行えるような形をとるべきである。今回の
法案で言うと六十条に当たりますけれども、これは国が定めている
環境影響評価の対象とするものについては国が独占的に
アセスメントを行うかのように読めます。しかしながら、
地方自治体がそれについても並行して独自の
観点から
アセスメントを行うということを認めるべきだというふうに考えます。
それから最後に四点目ですけれども、今回の
環境影響評価法案の中では、いわゆる海外案件、海外で
事業活動を
展開する日本企業の投資に当たっての
判断、さらには政府
開発援助、そうしたものに当たっての
判断といった点については直接触れておりません。しかしながら、こういった問題が海外で大きな問題になっているのは皆様よく御承知のところでありまして、やはりこういった問題も視野に入れた
環境影響評価制度というものをきちっとつくるべきであるというふうに考えます。
それからもう一点は、同じ点の別のあらわれですけれども、いわゆる
地球環境項目、温暖化に対する
影響ですとかそういった
項目について
環境影響評価法案の中にきちっと位置づけていくべきだろうと。これは恐らく今後の政省令の
作成、さらにはもっと具体的な
スコーピングのプロセスといった中で具体化されていくことかもしれませんけれども。
例えば、現行行われている発電所のアセスなんかを見ますと、いわゆる
地球環境項目であるところの温暖化への
影響、炭酸ガスの排出問題といったようなものは必ずしも
環境影響評価の
項目の中に入ってきませんでした。しかしながら、今日この時代においてつくられる
環境影響評価法は、そういったものも十分考慮に入れるべきであるというふうに考えます。それは今後の具体的な
課題かもしれませんけれども、その点をぜひ実現するような形にしていっていただきたいというふうに考えます。
以上です。