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国務大臣(三塚博君)
平成九年度
予算審議をお願いするに当たりまして、今後の
財政金融政策の基本的な
考え方について所信を申し述べますとともに、
予算の大要の説明をいたします。
我が国経済は、戦後目覚ましい高度
成長を遂げ、
世界有数の地位を占めるに至りましたが、
経済のグローバル化の一層の
進展に伴い、国際的な競争
環境が厳しさを増していく一方で、
少子・
高齢化の急速な進行を背景に、今後、
経済の
活力が低下していくのではないかとの懸念を抱いております。
また、バブル
経済崩壊以降長きにわたり
経済が低迷する中で、
政府は累次にわたる
経済対策等を実施し、ようやく
民間需要中心の自律的回復への
基盤が整ってまいりましたが、たび重なる
財政出動や税収の低迷等から、
財政赤字は著しく増加し、
我が国経済の中長期的な持続的
成長の足かせとなりかねない深刻な事態となっております。
これらの直面する
問題を克服し、
国民一人一人が豊かに暮らせる自由で
活力ある二十一
世紀社会を構築していくため、今こそ各般の
構造改革を強力に進めていかなければならないのであります。
私は、今後の
財政金融政策の運営に当たり、このような
認識に基づき、
改革の
第一歩を着実に踏み出し、以下に述べる諸
課題に
全力をもって取り組んでまいる所存であります。
第一の
課題は、
民間需要主導の自律的な景気回復を確実なものとすることであります。
まず、国際
経済情勢を見ますと、
米国では景気は安定した拡大が続いており、
欧州では総じて緩やかに改善しているなど、
世界経済は全体として拡大基調を維持しております。
また、
我が国経済の現状を見ますと、景気は回復の動きを続けております。そのテンポは緩やかなものの、
民間需要は堅調さを増しております。なお
雇用情勢は厳しい
状況にあるものの、改善の動きが見られるところであります。
政府としては、このような最近の内外
経済情勢を踏まえ、現在の景気の回復力を一層強固なものとし、
民間需要を軸とした中長期的な安定
成長につなげていくため、引き続き適切な
経済運営に努めてまいる所存であります。
九年度
予算においても、極めて厳しい
財政事情の
もとではありますが、
経済構造改革に資する
創造的、基礎的研究等の
分野に重点的、効率的配分を図っているところであります。また、八年度
補正予算とあわせ、
予算の切れ目のない円滑な執行に努めてまいりたいと考えております。
金融面では、累次にわたる金融
緩和措置の実施により、各種金利は依然として低い水準にあり、
その効果を見守ってまいりたいと考えております。また、株式市場の動向につきましては、今後とも十分注視してまいる所存であります。
なお、為替相場については、今後とも、主要国との政策協調及び為替市場における
協力を通じ、その安定を図ってまいりたいと考えております。
第二の
課題は、
財政構造改革であります。
財政健全化は、今や主要先進国共遠の
課題であり、
各国とも果断に取り組んでおります。
我が国においても、現在の
財政構造を放置し、
財政赤字のさらなる拡大を招けば、
経済・
国民生活が破綻することは必至であり、二十一
世紀の
我が国経済社会の
活力を維持するため、
財政構造改革に取り組んでいくことが喫緊の
課題であります。
このため、二〇〇五年度までのできるだけ早い時期に、国及び
地方の
財政赤字対GDP比を三%以下とし、また、国の
一般会計において
特例公債依存から脱却するとともに、
公債依存度の引き下げを図ること等を
財政健全化の
目標とすること、さらに、これらの
目標の達成のため、国の
一般歳出の
伸び率を名目
経済成長率よりも相当低く抑え、
地方に対しても同様のことを
要請することを先般閣議決定いたしました。
このような
目標の
もと、九年度
予算においては、
医療保険制度改革を初めとする各般の
制度改革を織り込むことにより、
一般歳出の
伸び率を一・五%と九年ぶりの低い水準に抑制するとともに、公債減額四兆三千二百二十億円、特例公債については四兆五千二百八十億円の
縮減を
実現し、また、
国債費を除く
歳出を租税等の範囲内に抑制し、現
世代の受益が
負担を上回る
状況を解消するなど、
財政構造改革元年として
財政健全化に向けた
第一歩を踏み出したところであります。
しかしながら、これらの
努力をもってしてもなお公債発行残高が
平成九年度末には約二百五十四兆円にも達する見込みであるなど、
我が国財政は引き続き危機的な
状況にあり、今後とも年々着実に
財政構造改革を進め、将来
世代に
負担を残さない
財政構造をつくり上げることに
努力していく必要があります。
このため、十年度
予算編成に向けて早い時期から
歳出の全般的
見直しを進めるとともに、
概算要求段階から一層厳しい抑制に取り組むなど、さらなる
歳出削減のため
努力してまいりたいと考えております。また、
政府・与党の
財政構造改革会議が
設置され、
財政再建のための
法律の骨格を含めた
歳出の
改革、
縮減の具体的方策が
検討されることになっておりますので、その審議に積極的に参画してまいりたいと考えております。
なお、
財政投融資につきましては、
改革を
推進するとの
基本方針の
もとで、民業補完の
観点をも踏まえ、
社会経済情勢の変化等に応じ、その対象
分野、
事業を
見直し、
資金の重点的、効率的な配分を図ってまいりたいと考えております。
第三の
課題は、
税制上の諸
課題に適切に対応することであります。
税制につきましては、
平成六年秋の
税制改革のうち、先行して実施されている所得税等の恒久減税と
一体として法定された
消費税率の引き上げ等がこの四月から実施に移されます。この
改革は、
少子・
高齢化の
進展という構造変化に
税制面から対応するものであり、中長期的に見て、
我が国経済社会の活性化につながるものと確信をいたしております。この
改革の円滑な実施に向け、
政府が
一体となってきめ細かな対応を図っていくとともに、その意義について
国民の
皆様の一層の御
理解をお願いしたいと思います。
税制は
国家の基であり、
国民生活や
企業活動の前提として安定性が求められる一方、急速な
国際化や
情報化等のとうとうたる潮流変化に即応して
改革が常に求められます。今後とも、こうした
観点から、より望ましい
税制の姿を
実現するよう、不断の
取り組みを行ってまいる所存であります。
第四の
課題は、金融をめぐる諸
課題に適切に対応することであります。
金融機関の不良債権
問題の処理に引き続き精力的に取り組むとともに、金融の
自由化、
国際化や
技術革新等、金融をめぐる
環境の著しい変化を踏まえつつ、市場規律を基軸とした透明性の高い金融
行政の確立に向けて、以下の諸
改革を進めてまいります。
まず、東京市場がニューヨーク、ロンドン並みの市場に復権することを目指して、
日本版ビッグバンともいうべき広範かつ抜本的な
金融システムの
改革を
推進いたします。現在、
関係する五
審議会において、銀行、証券、
保険分野への参入促進、商品
規制の撤廃・
緩和、各種手数料の
自由化等について、二〇〇一年までに
改革が完了するプランを取りまとめるべく御審議をいただいており、さらに、各
審議会代表者による連絡協議会を
設置し、
改革を二体的に進める
体制を
整備したところであります。この
改革のフロントランナーとして、国境を越えたより自由な金融取引を
実現するため
外国為替管理
制度を改正することとし、今
国会に所要の
法案を提出したいと考えております。また、さきの日米
保険協議の決着に基づく
自由化の実施は、
改革の
推進に大きな
役割を果たすものと考えます。
金融システム改革は、千二百兆円もの個人金融資産の効率的な運用等のため不可欠なものでありますが、他方、市場参加者にリスクや痛みをもたらします。このため、
情報開示の促進や早期是正措置等ルールの明確化など必要な措置を講じ、自由かつ透明で
信頼できる市場を構築してまいります。また、
金融システム全体の安定に細心の注意を払うとともに、
国際化に対応した監督
協力体制の確立にも努めてまいります。
次に、住専
問題等を契機として
国民各層から金融
行政に対してなされたさまざまな御批判を重く受けとめ、激動する
時代の変化に的確に対応し、
国民に
信頼される金融
行政を確立する
観点から、
金融システム改革とともに金融
行政機構の
改革に
取り組みます。
先般、
行政改革プログラムにおいで、大蔵省の銀行局及び証券局を
統合するとともに、
総理府に
民間金融機関等に対する検査及び監督を所掌する機関を設立する等の措置を
平成十年度に実施することとされたところであり、与党
合意の趣旨を踏まえつつ、
国民経済の基本にかかわる
問題として万般の詰めを行い、
政府として今
国会に所要の
法案を提出できるよう最大限
努力してまいりたいと考えております。
さらに、
日本銀行につきましても、中央銀行研究会報告の示した基本的な指針に沿って、開かれた独立性を有する中央銀行とするため、抜本的に
改革する必要があります。現在、金融
制度調査会においで御審議をいただいており、その答申の取りまとめを受けて、今
国会に所要の
法案を提出したいと考えております。
第五の
課題は、
世界経済の健全な
発展への貢献であります。
我が国は、WTO、APEC等の場を通じ、多角的自由
貿易体制の維持強化に積極的に取り組んでいるところであり、九年度関税改正においても、税関手続の簡素化、適正な課税の確保、関税率の改正等の所要の措置を講ずることとしております。
また、
世界経済の安定と
発展に資するため、
国際社会と協調しつつ、
開発途上国の自助
努力の
支援に引き続き積極的に取り組んでまいります。今般、
世界銀行における
我が国の出資比率の引き上げが
合意されたところであり、さらに、本年設立される予定の中東・北アフリカ
経済協力開発銀行に対しても積極的に
支援していく所存であります。
次に、
平成九年度
予算の大要について御説明をいたします。
一般歳出の規模を、四十三兆八千六十七億円、前年度当初
予算に対し一・五%の増加と、九年度消費者物価上昇率の見通しを下回る
伸び率としております。これに
地方交付税交付金及び
国債費等を加えた
一般会計予算規模は七十七兆三千九百億
円となります。
国家公務員の定員につきましては、第九次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、二千二百十九人に上る
行政機関職員の定員の
縮減を図っております。補助金等につきましては、
地方行政の自主性の尊重、
財政資金の効率的使用の
観点から、その整理
合理化を積極的に
推進いたしております。
次に、
歳入面について申し述べます。
税制につきましては、最近の
社会経済情勢等に顧み、住宅・土地関連
税制等について適切な対応を図るとともに、租税特別措置の整理
合理化、蒸留酒に係る酒税の
見直しその他所要の措置を講ずることといたしております。なお、自律的景気回復への
基盤が整いつつある
経済状況や厳しい
財政状況を勘案し、特例公債によらざるを得ない所得税の
特別減税は実施をいたしません。
公債発行予定額は、前年度当初
予算より四兆三千二百二十億円減額し、十六兆七千七十億円としております。その内訳は、
建設公債九兆二千三百七十億円、特例公債七兆四千七百億円となっております。その結果、
公債依存度は二一・六%となっております。特例公債の発行等につきましては、別途、
平成九年度における
財政運営のための公債の発行の特例等に関する
法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。
財政投融資計画につきましては、対象
分野、
事業を厳しく見直すとともに、
社会経済情勢の変化に即応し、
資金の重点的、効率的な配分を図っております。この結果、一般財投の規模は三十九兆三千二百七十一億円、前年度当初計画に対して三・〇%の減額となっております。また、
資金運用
事業を加えた
財政投融資計画の総額は五十一兆三千五百七十一億円、前年度当初計画に対し四・五%の増加となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
社会保障関係責につきましては、二十一
世紀の
少子・
高齢化社会においても、
国民経済と整合性がとれ、効率的で安定的な
社会保障制度を確立するための
構造改革を進めることとし、九年度には
医療保険制度改革に取り組むこととしております。この
改革は、破綻に瀕した
医療保険財政を立て直すとともに、
世代間の
負担と給付の公平を図るために必要なものと考えます。
雇用対策につきましては、
産業構造の転換に対応した
雇用の創出等を
推進するとともに、
雇用環境の
整備など勤労者のための
施策を総合的に進めることとしております。
文教及び科学
振興費につきましては、
教育環境の
整備、高等
教育・学術研究の
推進、
文化の
振興等を図るとともに、
創造的、基礎的研究の
充実、着手研究者の
支援、活用など
科学技術振興のため、各般の
施策の
推進に努めております。
公共
事業関係費につきましては、厳しい
財政事情等にかんがみ、前年度当初
予算と実質的に同水準にとどめでおりますが、その配分に当たっては、公共投資基本計画等の
考え方、
国民のニーズ等を踏まえつつ、
国民生活の質の
向上に直結する
分野、次
世代の
発展基盤の
整備等、
経済構造改革に資する
分野等への重点化を図っております。また、各省の枠を超えた
事業間の連携の強化を図るとともに、公共工事の
建設コストの低減
対策を総合的かつ計画的に実施する等、その効率的、効果的実施に努めることとしております。
中小企業対策費につきましては、
中小企業を取り巻く厳しい経営
環境に配慮し、
技術開発や
情報化に対する
支援措置等、特に緊要な
課題に重点を置いて
施策の
充実を図っております。
農林水産
関係予算につきましては、いわゆる新食糧法の施行やウルグアイ・ラウンド
農業合意の実施等を踏まえ、経営感覚にすぐれた効率的、安定的な経営体が生産の大宗を担う
農業構造の
実現に重点を置くこととし、所要の
施策の着実な
推進に努めております。
経済協力費につきましては、事前
調査、事後評価の拡充等を通じまして、
途上国から真に評価される質の高い援助の実施に努めるほか、NGO等との連携強化、
途上国における人づくり
支援の
充実等に重点を置くこととし、援助の量から質への転換を図ることとしております。
防衛関係費につきましては、
中期防衛力整備計画等の
もとに、厳しい
財政事情等を踏まえ、効率的で節度ある
防衛力の
整備を図ることといたしております。
エネルギー
対策費につきましては、
地球環境保全の重要性等も踏まえ、総合的なエネルギー
対策の着実な
推進に努めております。
地方財政につきましては、引き続き大幅な財源不足が見込まれますが、一方、国の
財政事情も極めて厳しく、公
経済の車の両輪がバランスのとれた
財政運営を行う必要があるという
基本的考え方を踏まえつつ、所要の
地方交付税総額を確保する等、その運営に支障を生ずることのないよう適切な措置を講ずることとしております。
地方公共団体におかれましても、徹底した
歳出の抑制を図り、
財政体質の
健全化に鋭意
努力されるよう
要請するものであります。
この
機会に、
平成八年度
補正予算について一言申し述べます。
八年度
補正予算につきましては、
歳出面において、阪神・淡路大震災復興
対策費、災害復旧等
事業費、緊急防災
対策費、ウルグアイ・ラウンド
農業合意関連
対策費、緊急
経済構造改革対策費、
税制改革関連
対策費、
地方交付税交付金等、特に緊要となった事項について措置を講じております。また、前年度剰余金について国債整理基金特別会計への繰り入れ等を行う一方、既定経費の節減、予備費の減額を行うこととしております。
他方、
歳入面では、租税及び印紙収入、前年度剰余金等を計上するとともに、公債金については、
建設公債を一兆六千七百六十億円増発する一方、特例公債を三千三百七十億円減額いたしております。
以上によりまして、八年度
一般会計補正後
予算の総額は、当初
予算に対して二兆六千六百六十三億円増加し、七十七兆七千七百十二億円となります。
以上、
平成九年度
予算及び
平成八年度
補正予算の大要について御説明をいたしました。
関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。
これまで申し述べてまいりました
財政金融両面からの
改革は、
もとより容易に達成し得るものではなく、その
実現の過程において幾多の困難を伴うものであります。しかし、これらの
改革は、二十一
世紀に向けて、豊かで
活力に富み、国際的にもふさわしい
役割を果たし得る
経済社会を築いていくため、現
世代の私たちが責任を持ってなし遂げなければならないものであると確信いたします。
国民各位の一層の御
理解と御
協力を切にお願い申し上げる次第であります。(
拍手)
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