○渡辺(喜)
委員 再度
質問の機会を与えていただきましてありがとうございます。
きょうは、法務省にとってはちょっと嫌な
質問をさせていただきますので、大臣におかれましては、どうぞゆっくりとお休みになっていただきたいと
思います。
世の中には、常識に反するけれ
ども真実である、そういうことが時たまございます。ずっと戦後五十年以上にわたって我々が大変になれ親しんできた
日本のシステムというものが一体歴史的にはいつごろでき上がったのかということについて、非常におもしろい
研究がございます。これは野口悠紀雄さんがお書きになった「一九四〇年体制」という本でありますけれ
ども、二年ぐらい前のたしかベストセラーになった本でございます。ちょうど私のおやじが死ぬ間際までこれを読んでおったのでありますけれ
ども、この野口さんの説によれば、戦後の
日本経済に特有とされるシステムが実は戦争中にほぼその骨格ができ上がったという
指摘であります。
国家総動員法という法律ができましたのが昭和十三年、おまえは見てきたようなことを言うなと大臣にはしかられてしまうかもしれませんけれ
ども、ちょうどそれに相前後いたしましていろいろな
制度ができ上がってまいります。
例えば、民間企業においては、非常に人手を集める必要が出てきた。戦前は日給制というものが普通だったようでありますが、日給制では人が集まらぬ。そこで、オール月給制にしていく。それで、雇用保険をつけたり、あるいは健康保険をつけたり、また安定した人手を得るために年功序列の賃金体系や、あるいは人事
制度というものをこの戦時体制のもとでつくっていった。
その当時でき上がった大企業というのがございまして、例えばトヨタ自動車とか日産自動車とか、そういった戦後
日本経済を引っ張ってくる企業が、実はその
時代にほぼでき上がったと言われております。例えば、日立とか東芝とか、そういった総合電機メーカーな
どもこの
時代にでき上がったと言われております。余計なことでありますけれ
ども、朝日新聞とか読売新聞とか毎日新聞とか、そういった戦後の全国紙もこの
時代に大変な発行部数を有するようになったと言われております。
一方、金融の世界では、戦前はどちらかといえば直接金融、つまり資本市場からお金を調達するということが普通だったようでありますけれ
ども、この戦時体制のもとでは間接金融にシフトをしていく。つまり、いわゆる護送船団方式というのができ上がるわけでありますが、昭和十七年に
日本銀行法の大
改正をしまして、この国家総動員法の体制に金融のシステムを変えていく、つまり統制型の金融システムがまさに完成をしたのであります。
一方、官僚の体制は、当時霞が関の官僚の代表的な方々は革新官僚と言われたそうであります。イデオロギー的にはナチス・ドイツの国家社会主義というものを基本にしておった。企業は利潤を追求してはいかぬ、国家目的のために生産性を上げるのが企業の努めである、所有と経営を分離する、そして競争原理というものを否定していく、そういうイデオロギーが出てまいりました。政府の
役割というものは、経済成長をリードすることではなく、衰退産業の調整あるいは低生産性
部門に補助を与えていく、それが政府の
役割だということでありました。
一方、財政においては、戦前の税の体系というものは、地租とかあるいは営業税とか、伝統的な産業分野における外形標準的な課税が中心だったのでありますが、これも戦時体制のもとで変わってまいります。また、地方もかなりの自主財源を持っておったのでありますけれ
ども、これが極めて中央集権的な体制に変わっていく。
民間企業が日給制から月給制に変わっていく、そこに目をつけたのが大蔵省でありました。効率的に戦費を調達する、そういう
必要性があったわけでありまして、日給制ではなかなか所得税というものは取れない、しかし月給袋に手を突っ込んで取るならば、これは非常に効率的に税金が取りやすいということであったろうと
思います。昭和十五年に給与所得の源泉徴収
制度というものができました。また、法人税というものが
導入をされ、まさに直接税中心主義の体系がこの
時代にでき上がってまいります。そして、こうして効率的に集められた税財源を中央集権的な手法でもって、いわば特定補助金として地方に配分をしていく、こういうシステムができたわけであります。
また、この
時代に顕著な立法として、経済的、社会的弱者に対する保護
制度というものを社会政策的な
観点から
導入をいたしました。例えば、昭和十七年に食管法という法律をつくり、地主からはお米を安く買い上げる、小作人からはお米を高く買い上げる、こういうことをやったわけであります。その結果、地主と小作人の
関係は劇的に変化をいたします。実は、これが戦後の農地解放につながっていくことであり、また自作農の創設につながっていくわけであります。
また、戦前において大変に豊富であった借家においても、
状況は相当変わってまいります。一家のお父ちゃんが兵隊さんにとられてしまう。そうすると、残されたお母ちゃんや子供たちが、家主、地主から簡単に明け渡しを
請求されないような、そういう立法を昭和十六年にするわけであります。つまり、借地人、借家人の権利というものを
強化していくわけでありまして、契約期間終了後でもそう簡単に契約解除ができにくくする。つまり、正当事由という概念を盛り込んだ借地・借家法の大
改正が行われたわけであります。それ以前に国家総動員法のもとで地代家賃統制令というのができたのでありますが、この家賃の統制を実効的にするためにも、借地・借家法の
改正は必要であったとされているわけでございます。
こういったもろもろの戦時体制のもとでできた
制度というものが、もう今さら言うまでもなく、すべて洗いざらい今見直しを迫られているというのが我々の
状況であります。今我々がやろうとしている六大
改革というものは、ある意味でこの一九四〇年体制の変換をしていこうということにほかならないわけであります。貧しい
時代、キャッチアップの
時代には、保護と統制という手法でもって世の中をまとめていくことは非常に有意義でありましたし、うまくいったのだろうと
思います。とにかく、毎年ふえ続けるパイをみんなで平等に分かち合うためには、保護と統制が必要である。極めて摩擦の少ない社会をつくってくることに大変な貢献をしただろうと
思います。
しかし、残念ながら、今世界じゅうが市場経済と自由主義経済、グローバルリストラの
時代になり、大競争の
時代になり、まさに我々のやり方は根本的な見直しを迫られているという
状況にございます。
この借地・借家法やあるいは食管法あるいは戦後の農地法、こういったことに共通することは、家主や地主、こういう人は強い人あるいは悪い人だ、借家人や小作人というのは弱い人だ、かわいそうな人である、そういう位置づけがなされていたのだろうと
思います。期限が来ても正当事由がなければ契約を打ち切れないということになるわけでありますから、当然、戦前には大変豊富に供給をされた借家というものが戦後においては激減していくということになります。とにかく、一たん貸したら戻ってこない、借家でも農地でも全くそういうことが起こったわけでありますから、貸すのはもうばかばかしいというインセンティブが働くのは無理からぬことであろうというふうに思うのであります。その結果、例えば住宅においては、マイホームを持とうとすれば、所有権を取得して、かつてはウサギ小屋などと言われた住宅事情があったわけであります。また、農地においても、細分化された所有権の農地が、昭和三十年代ぐらいまでは大変生産性が高かったのでありましょうけれ
ども、ふと気がついてみると、
日本のお米の価格は国際価格の何倍にもなっておった。国際競争力は非常に多くの農業の分野で大変に弱くなってしまったということがあるわけであります。
そういった中で、この借地法というものが
平成三年に
改正をされ、定期借地権という
制度が創設されたわけであります。この定期借地権によってそれなりに借地の供給というものは進んでいるという数字がございます。
平成八年においては、戸数はまだ少ないのでありますけれ
ども、定期借地権のついた住宅が一千八百ほど供給されるようになった。この定期借地権施行後においては、四千五百五十軒ほどの定期借地権つき住宅が供給されるようになったということもございます。
そこで、昨年の十二月三日、経済審議会の建議として、定期借家権というものを
導入したらどうかという提案がなされております。「現行借地借家法は、貸し手からの解約を強力に制限しており、賃料の改訂も事前に予測することが難しい仕組みとなっている。こうした措置は、一見すると借家人を保護しているように見えるが、結局のところは良質な借家の供給を阻害することによって、劣悪な居住環境を生じさせている。」
そこで、三つの点についてこの建議は提案しております。第一点は、「従来型の借家権の存続を前提として、契約で定めた借家期間が終了すれば自動的に借家契約が切れる定期借家権
制度を創設する。」こと。第二点、「継続賃料は、当事者の事前の合意がある場合にはそれを優先し、合意がない場合は、近傍の新規市場賃料を基準に設定する。」。第三点、「定期借家権
導入の結果、居住等の場を失う弱者に対しては、国や地方自治体による家賃補助政策、公営住宅への入居等の対策を充実する。また、既存借家権についても、都心部等都市再開発の
必要性が高い地区においては、家賃補助等の代償措置の下でこれを消滅させることができるよう特例的立法措置を講ずる。」こういう提案をしているのでございます。大変にいい提案だと私は
思います。
そこで、本年三月二十八日に閣議
決定がなされました「
規制緩和
推進計画の再改定について」で、良好な借地借家の供給促進を図るための方策として、「定期借地権の定着動向等を踏まえ、良好な借地・借家の供給促進を図るため、いわゆる定期借家権を含め
検討することとし、
平成九年六月末までに
研究会の
検討状況を公表するとともに、
平成九年度中にその
検討結果を得て、これを踏まえ速やかに所要の措置を講ずる。」こうなっております。この
研究会、六月というわけでありますから、もう目前に迫っております。
法務省の定期借家権についてのお考えと、この
研究会の現状について御説明を願います。