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浜林参考人 浜林でございます。
最初に文教
委員の
先生方におわびをいたしますけれども、二カ月ぐらい前だったと思いますが、全私学新聞という新聞に「
世界の大勢に逆行する
大学教員任期制」という私の原稿が載りまして、それを突然
皆様方にファクスでお送りをいたしまして、大変失礼をいたしました。御了解をいただきたいと思います。
と申しますのも、実は、
大学教員の
任期制の問題はずっと前から出ておりますが、私それを見ておりまして、もしこれが実現をされると
日本の
大学はめちゃくちゃになってしまうだろうという危機感にとらわれて、何と申しますか、いても立ってもいられない思いがいたしまして、いろいろなところに原稿も書き、しゃべり、あるいは文教
委員の諸
先生方にもお訴えをしてまいったところです。
それで、
大学審議会の
答申を拝見いたしまして、私はこれは、
日本の例えば東大とか
京都大学とか、一流の
大学にいらっしゃる
先生方がおつくりになった、いわば机上のプランだという感じがいたしました。私は二十年ばかり北海道の小さな
大学に勤めておりましたけれども、地方の
大学におりますと、こういうものが実現をされたら地方の
大学はめちゃくちゃになってしまうという実感でございます。
それは、お手元にこの
資料がございましたら、
資料のうちに、私立
大学団体連合会それから
大学基準協会、そういうところから出された
意見が後ろの方に付録で載っておりますので、後でごらんをいただきたいと思います。そこでも指摘をされておりますけれども、現在でも既に
流動性は極めて高い、これ以上
流動性が高くなったら、地方の
大学は
教員を確保することが困難だという
意見が載っております。
ぜひ文教
委員の諸先生に
お願いをしたいのですけれども、地方のそういう
大学の、特に私立のいわゆる弱小
大学の実情を十分にお調べをいただきたい。その際に、学長だけではなしに平の
教員やあるいは
学生などの
意見を聞いて、そういういわゆる弱小
大学がどういう困難を抱えて悪戦苦闘しているのかということをぜひごらんいただきたいと思います。そういう点では、今、
宇井さんもおっしゃいましたけれども、早急にこの
法案を成立させるのではなくて、十分に実態を踏まえた御
審議をいただきたいというふうに思います。
実は、私
自身がそうでありますのでちょっと大きなことは言えないのですが、私も、地方の
大学に二十年近くおりまして東京へ出てまいりました。そのときに私の
大学の学長に皮肉を言われたのですけれども、せっかく東京から優秀な若い者を連れてきても、十年あるいは十数年するとみんなまた戻ってしまう、これでは、ざるで水をすくっているようなものだということを学長に言われまして、もう恐縮をしたのでありますが、実は、これも個人の名前を出すと申しわけないかもしれないのですが、今は一橋で学長をしております阿部謹也さんも私と同じ
大学に勤めて、私よりも十年ぐらい後で彼もまた東京へ四十過ぎに出てきて、そういうのが続くわけであります。
したがって、現在でも、
日本の
大学の流動というのは、横に動くのではなくて、縦型に、ピラミッド型に上昇していくという志向がありまして、地方
大学は一番底辺部分にあるわけですが、そこから、変な言い方ですが、少しでも東京に近いところ、少しでも格の上の
大学へという、そういう上昇志向がありまして、そのこと自体、私は大変問題だとは思いますが、実態としてそういうことがあるので、
流動性が低いので
任期制という議論は全く成立をしないというふうに私は思っております。
それで、
研究のことでありますけれども、これは
分野によって違いがあるかもしれませんが、若いうちに十年、十五年、じっくりと落ちついて
基礎的な
研究をするということが大事でありまし
て、それをやって、四十過ぎといいますかに、
文科系の場合には特にそうですけれども、その時期になって一遍にいろいろな成果が花開くものだというふうに思っております。
若いうちからぐるぐる回るということは、私にとっては決して好ましいことではないというふうに思いますし、まして、本人の意思で動く場合は別でありますけれども、
任期を切られて、五年なり七年なりというふうな話を聞いておりますが、そういうことで、いわば強制的に異動をするということは、決して
研究上プラスにはならないというふうに思っております。例えば、五年
任期としますと、
大学の
教員、平均勤続期間は三十年というふうに言われておりますが、三十年間に六回動くということになりますね、大変機械的な計算ですけれども。これでは落ちついてじっくり勉強する暇がないのではないか。
しかも、ついこの間、朝日新聞に九州
大学の方がお書きになっておられましたけれども、移動に伴うさまざまな負担があって、例えば、これも皆さん方、意外に思われるかもしれませんが、私どもは
文科系でありますので引っ越すときには本だけ持っていけばいいのですけれども、実験系の方は機械を持って彩られるし、この間朝日に書いておられた方は
大学院生まで引き連れて九州
大学に彩られたという話でありまして、そうなると、そう簡単に移れることではありません。機械の引っ越しに百万円かかったというお話でありますが、そういうお金はどこからも出てまいりません。しかも、落ちついた先で今までの
研究がすぐ継続できるかというと、そういうことにはなりませんで、やはり、その
研究がその場所で再開をされるまでには半年なり一年なりがかかって、結局は
研究上マイナスが大きいということであろうかというふうに思います。
さらに、しょっちゅう動いておりますと、自分の
大学をよくしようという気持ちがなくなってまいります。それよりも、自分が次にどこへ移るかということの方が頭にあるものですから、私も、ある
大学で、一やがてその
大学はつぶれるという……そうなりますと、
大学の図書館を充実しようとか、あるいは、こういう設備を備えておこうとか、そういうことは全く
考えません。自分の行く先ばかり念頭にあるという、いわば浮き足立った状態になってしまうだろうと思います。
それからもう
一つは、
教育の問題でありますけれども、
学生に対する
教育が、これは現在、私も、決して十分だとは思っておりませんけれども、
任期制のもとでは一層
教育は手抜きになるのではないかということを心配いたします。
教育業績の
評価、
研究業績の方も必ずしも公平に行われるかどうかわかりませんけれども、特に
教育業績の
評価をどうするかということは、これは国大協の見解でもその点の指摘はございますけれども、
教育業績の
評価は極めて困難であります。休講回数が少ないとか、そういう形式的なところでは出るかもしれませんけれども、本当に
学生に力をつけたのかどうかというのは、これはなかなか
判断の難しい問題であります。
学生による
授業評価ということも行われておりますけれども、私は、
学生による
評価を
教員が
参考にして自分の
授業の
方法を
改善するということは結構だと思いますが、それが身分に結びつくということになりますと、それはさまざまな問題が起こってくるだろうというふうに思います。
それからもう
一つは、これは
大学審の
答申も
法案も、あるいはどなたもおっしゃらないことですけれども、
任期満了で退職される人をどうするのかということでありまして、私は、
学術会議のシンポジウムがありましたときに、そのことを質問をいたしました。例えば、三十歳で
大学へ勤める、もう少し早いかもしれませんが、五年
任期だ、三十五歳で退職ということになるわけです。そうしたら、そのときにお答えをいただいた先生は、これは
大学審議会の専門
委員をされておった先生ですけれども、定年が早くなったのだと思ってくださいと言う。三十五歳で定年ということでは、
大学へ勤めようという人がなくなってしまうのではないかと思います。
それから、これも案外知られていないことでありますけれども、公務員には失業保険もございません。公務員は失業しないという前提で現在の
制度がつくられております。したがいまして、もし退職で失業ということになるのであれば、まず公務員に失業保険
制度を先に
導入をすべきだ。つまり、そういう条件整備なしに真っ先に
任期制が出てくるということは、私には全く不可解でございます。
最後に、
任期制は選択的であるから、
大学にとって好ましくなければやらなくてもよろしいということでございますけれども、これも
大学関係者の中では周知のことでありますが、文部省のプレッシャーというものがございます。実は、私、きょうは
一橋大学名誉教授という肩書で出ておりますけれども、現職は某私立
大学に勤めておりますが、そちらの名前を出すと
大学に迷惑がかかるのではないか、今新しい
学部をつくろうと思っておるものですから、まあ、はっきり言って文部省に意地悪をされますので、いずれわかることかもしれませんけれども、古い名前で出ております。
それからもう
一つは、私立
大学の場合には、これはどこが決めるかと申しますと、
理事会が決定をいたします。私は、
教授会との間にトラブルが起こるのではないかという感じがしております。
大学審議会の
答申では、教学側の
意見を十分に踏まえてとなっておりますけれども、この
法案では、学長の
意見を聞いてと大変軽くなっていまして、これは
大学自治の根本問題でありますけれども、
教授会を無視して
任期制が私学の場合には
導入をされる。その場合には、現に悪用されている例もあるわけでありますけれども、経営者にとって好ましくない人をいわばパージするために
任期制が乱用されるという
可能性は大変に大きいというふうに私は思います。
それから、
選択的任期制でありますので、ごく少数の
大学だけが
導入をするとなりますと、そこを退職をした人が移る先がございません。つまり、
教員のマーケットが非常に狭いわけで、といって、全部の
大学が
任期制をやりますと、私は、これまた大混乱が起こるだろうと。
大学の
教員が職を移るというのは、会社にいる人間の配置転換とは違いまして、手続的にも大変なこと、新任人事の
採用というのは、私ももう何度もやりましたけれども、少なくとも半年はかかる仕事であります。そういうことを五年なり六年なりに一回繰り返していたのでは、
採用される方も大変ですが、
審査をする方も大変でありまして、日常業務のかなりの時間をそういうことにとられてしまうのではないかというふうに思います。
私は、こういうふうに
任期を限って
研究をさせるということは、
日本の
科学技術の
発展の上でもマイナスだろうと。やはり十年、二十年落ちついた
研究の中で、先ほど
有馬先生もおっしゃいましたけれども、本当に独創的な
研究というのは、そういう
状況の中で出てくるものだというふうに確信をしておりますので、この
任期制には反対ですということを申し上げて、私の方からの
意見にさせていただきます。(拍手)