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1997-05-07 第140回国会 衆議院 内閣委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成九年五月七日(水曜日)     午前十時三分開議 出席委員   委員長 伊藤 忠治君    理事 赤城 徳彦君 理事 岸田 文雄君    理事 熊代 昭彦君 理事 御法川英文君    理事 倉田 栄喜君 理事 金田 誠一君    理事 木島日出夫君       石崎  岳君    岩永 峯一君       大野 松茂君    大村 秀章君       菅  義偉君    虎島 和夫君       野田  実君    桧田  仁君       平沢 勝栄君    松本 和那君       渡辺 博道君    石井 啓一君       鹿野 道彦君    中野 寛成君       萩野 浩基君    松浪健四郎君       鰐淵 俊之君    池端 清一君       瀬古由起子君    深田  肇君       岩國 哲人君  出席国務大臣         国 務 大 臣         (内閣官房長官梶山 静六君         国 務 大 臣         (北海道開発庁         長官)     稲垣 実男君  出席政府委員         内閣官房内閣内         政審議室長         兼内閣総理大臣         官房内政審議室         長       田波 耕治君         総務政務次官  野田  実君         北海道開発庁総         務監理官    松川 隆志君         北海道開発庁計         画監理官    八木 康夫君         文化庁次長   小野 元之君  委員外出席者         法務省人権擁護         局人権啓発課長 醍醐  隆君         外務省総合外交         政策局国際社会         協力部人権難民         課長      貝谷 俊男君         文部省初等中等         教育局高等学校         課長      石川  明君         文部省初等中等         教育局教科書課         長       高塩  至君         文化庁文化財保         護部伝統文化課         長       水野  豊君         厚生省社会・援         護局保護課長  西沢 英雄君         建設省河川局開         発課長     竹村公太郎君         内閣委員会調査         室長      新倉 紀一君     ――――――――――――― 委員の異動 四月八日  辞任         補欠選任   小川  元君     岩永 峯一君 五月七日  辞任         補欠選任   佐藤 孝行君     石崎  岳君   渡辺 博道君     松本 和那君   石田幸四郎君     松浪健四郎君   鈴木 淑夫君     鰐淵 俊之君   奥田 敬和君     岩國 哲人君 同日  辞任         補欠選任   石崎  岳君     佐藤 孝行君   松本 和那君     渡辺 博道君   松浪健四郎君     石田幸四郎君   鰐淵 俊之君     鈴木 淑夫君   岩國 哲人君     奥田 敬和君     ――――――――――――― 四月二十二日  アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関す  る知識普及及び啓発に関する法律案内閣提  出第七七号)(参議院送付) 三月二十五日  元日赤救護看護婦に対する慰労給付金に関する  請願粟屋敏信紹介)(第一一七五号)  同(木島日出夫紹介)(第一一七六号)  恩給欠格者救済に関する請願松本和那君紹  介)(第一一七七号)  元陸海軍従軍看護婦に対する処遇に関する請願  (大野松茂紹介)(第二七八号)  同(中野正志君紹介)(第一一七九号)  同(藤井裕久紹介)(第一一八〇号)  同(石井啓一紹介)(第一二五六号)  同(大野松茂紹介)(第一二五七号)  同(中野正志君紹介)(第一二五八号)  同(福田康夫紹介)(第一二五九号)  同(山原健二郎紹介)(第一二六〇号) 四月一日  恩給欠格者救済に関する請願加藤卓二君紹  介)(第一三二九号)  同(小川元紹介)(第一三七九号)  同(荒井広幸紹介)(第一四二三号)  同(小川元紹介)(第一四二四号)  同(根本匠紹介)(第一四二五号)  同(穂積良行紹介)(第一四二六号)  同(青山丘紹介)(第一四四八号)  同(櫻内義雄紹介)(第一四四九号)  同(根本匠紹介)(第一四五〇号)  同(渡辺博道紹介)(第一四五一号)  元陸海軍従軍看護婦に対する処遇に関する請願  (中野正志君紹介)(第一三三〇号)  同(桧田仁君紹介)(第一三三一号)  同(菅原喜重郎紹介)(第一三八〇号)  同(中野正志君紹介)(第一三八一号)  元日赤救護看護婦に対する慰労給付金に関する  請願金田誠一紹介)(第一四二二号) 同月八日  元陸海軍従軍看護婦に対する処遇に関する請願  (肥田美代子紹介)(第一五一九号)  同(山元勉紹介)(第一六一一号)  同(山元勉紹介)(第一六三四号)  元日赤救護看護婦に対する慰労給付金に関する  請願岸本光造紹介)(第一五四六号)  同(高市早苗紹介)(第一五四七号)  同(深田肇紹介)(第一五四八号)  同(正森成二君紹介)(第一五四九号)  同(三ッ林弥太郎紹介)(第一五五〇号)  同(御法川英文紹介)(第一五五一号)  同(山口泰明紹介)(第一五五二号)  同(石田勝之紹介)(第一五八二号)  同(深田肇紹介)(第一五八三号)  同(福永信彦紹介)(第一五八四号)  同(宮地正介紹介)(第一五八五号)  同(矢島恒夫紹介)(第一五八六号)  同(枝野幸男紹介)(第一六〇六号)  同(大野松茂紹介)(第一六〇七号)  同(河井克行紹介)(第一六〇八号)  同(倉田栄喜紹介)(第一六〇九号)  同(丹羽雄哉紹介)(第一六一〇号)  同(岸本光造紹介)(第一六二八号)  同(佐藤勉紹介)(第一六二九号)  同(西川公也紹介)(第一六三〇号)  同(葉梨信行紹介)(第一六三一号)  同(船田元紹介)(第一六三二号)  同(細川律夫紹介)(第一六三三号)  恩給欠格者救済に関する請願武部勤紹介  )  (第一五五三号)  同(中山利生紹介)(第一五八七号) 同月十一日  元日赤救護看護婦に対する慰労給付金に関する  請願中路雅弘紹介)(第一七八六号)  同(菅原喜重郎紹介)(第一八六八号)  同(中山利生紹介)(第一八九五号)  恩給欠格者救済に関する請願川端達夫君紹  介)(第一七八七号)  同(竹下登紹介)(第一八六九号)  同(前田正紹介)(第一八七〇号)  同(中山利生紹介)(第一八九六号)  元陸海軍従軍看護婦に対する処遇に関する請願  (川端達夫紹介)(第一七八八号)  同(山元勉紹介)(第一七八九号)  同(日野市朗紹介)(第一八九七号) 同月十六日  元日赤救護看護婦に対する慰労給付金に関する  請願金子原二郎紹介)(第一九四四号)  同(中山利生紹介)(第一九四五号)  同(渡辺博道紹介)(第一九四六号)  同(中山利生紹介)(第二〇〇六号)  同(平沢勝栄紹介)(第二〇〇七号)  同(古堅実吉紹介)(第二〇〇八号)  同(吉井英勝紹介)(第二〇〇九号)  同(池端清一紹介)(第二〇三一号)  同(中山利生紹介)(第二〇三二号)  同(西岡武夫紹介)(第二〇三三号)  同(松本惟子君紹介)(第二〇三四号)  同(井上喜一紹介)(第二〇八〇号)  同(宮路和明紹介)(第二〇八一号)  恩給欠格者救済に関する請願今村雅弘君紹  介)(第一九四七号)  同(亀井久興紹介)(第一九四八号)  同(亀井善之紹介)(第一九四九号)  同(近江巳記夫紹介)(第二〇三五号)  同(藤井孝男紹介)(第二〇八二号)  傷病恩給等改善に関する請願大野功統君紹  介)(第二〇七九号) 同月二十二日  元日赤救護看護婦に対する慰労給付金に関する  請願瀬古由起子紹介)(第二〇九八号)  同(渡辺喜美紹介)(第二〇九九号)  同(愛野興一郎紹介)(第二一二八号)  同(大村秀章紹介)(第二一二九号)  同(愛野興一郎紹介)(第二二二二号)  恩給欠格者救済に関する請願愛野興一郎君  紹介)(第二一三〇号)  同(愛野興一郎紹介)(第二二二三号)  傷病恩給等改善に関する請願大野功統君紹  介)(第二一三一号)  恩給欠格者救済に関する請願野田毅紹介)  (第二二二一号) 同月二十五日  元日赤救護看護婦に対する慰労給付金に関する  請願川内博史紹介)(第二二四三号)  同(坂井隆憲紹介)(第二二九七号)  同(古賀一成紹介)(第二三一七号)  同(山下徳夫紹介)(第三二一八号)  恩給欠格者救済に関する請願小野晋也君紹  介)(第二三〇三号)  同(塩田晋紹介)(第二三七三号)  傷病恩給等改善に関する請願浜田靖一君紹  介)(第二三〇四号)  同(櫻内義雄紹介)(第二三七四号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 四月三日  青少年健全育成に関する陳情書  (第一二  六号) 同月十日  人事院による能力給導入計画阻止に関する陳  情書(第  一七二号)  公務員倫理規程早期制定に関する陳情書外一  件  (第一七三号)  非営利の特性を生かした法人制度早期確立に  関する陳情書  (第一七四号) 同月二十五日  アイヌ民族に係る法律早期制定に関する陳情  書  (第二〇五号)  アイヌ新法に関する陳情書  (第二〇六号)  青少年の健全な育成に関する陳情書外三件  (第二〇七号)  公務員倫理法制定に関する陳情書  (  第二〇八号)  情報公開法要綱案に関する陳情書  (第二〇九号  ) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関す  る知識普及及び啓発に関する法律案内閣提  出第七七号)(参議院送付)      ――――◇―――――
  2. 伊藤忠治

    伊藤委員長 これより会議を開きます。  内閣提出参議院送付アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する知識普及及び啓発に関する法律案議題といたします。  趣旨説明を聴取いたします。稲垣北海道開発庁長官。     —————————————  アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する知識普及及び啓発に関する法律案     〔本号末尾に掲載〕     —————————————
  3. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 ただいま議題となりましたアイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する知識普及及び啓発に関する法律案につきまして、その提案理由及び内容概要を御説明申し上げます。  アイヌ人々は、古くから北海道に居住し、自然と共生する生活の中でアイヌ語ユーカラ等さまざまな固有文化を発展させてきた人々であります。  近年、これらのアイヌ人々誇りの源泉であるアイヌ伝統及びアイヌ文化を継承する基盤が失われつつあるとともに、アイヌ人々民族としての伝統文化を伝えていることについて、国民一般に十分な理解が得られていない状況にあります。  政府といたしましては、これらの状況を踏まえ、アイヌ語その他のアイヌ文化振興を図る施策、並びにアイヌ伝統等に関する国民に対する知識普及及び啓発を図るための施策推進することによって、アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的としてこの法律案提出した次第であります。  以下、この法律案の主な内容につきまして御説明申し上げます。  第一は、国及び地方公共団体責務についてであります。  国は、アイヌ文化を継承する者の育成広報活動の充実、調査研究推進等アイヌ文化振興等を図るための施策推進に努める等の責務を有することとするとともに、地方公共団体は、その区域の社会的条件に応じてアイヌ文化振興等を図るための施策の実施に努める責務を有することとしております。  第二は、施策における配慮についてであります。  国及び地方公共団体は、アイヌ文化振興等を図るための施策を実施するに当たっては、アイヌ人々自発的意思及び民族としての誇りを尊重することとしております。  第三は、基本方針についてであります。  内閣総理大臣は、アイヌ文化振興等を図るための施策に関する基本方針を定めなければならないこととしております。  第四は、基本計画についてであります。  政令で定める都道府県は、基本方針に即して、当該都道府県におけるアイヌ文化振興等を図るための施策に関する基本計画を定めることとしております。  第五は、指定法人についてであります。  北海道開発庁長官及び文部大臣は、アイヌ文化振興等に関する全国的な業務を行う民法法人を全国を通じて一に限り指定することができることとしております。  第六は、附則で、北海道土人保護法及び旭川市旧土人保護地処分法廃止等を定めております。  なお、この法律施行期日は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日としております。  以上が、この法律提案理由及び内容概要であります。  何とぞ、十分御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
  4. 伊藤忠治

    伊藤委員長 以上で趣旨説明は終わりました。     —————————————
  5. 伊藤忠治

    伊藤委員長 これより質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。鰐淵俊之君。
  6. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 私は、新進党の鰐淵俊之と申します。  北海道出身でございますので、アイヌ皆様方と非常に幼いころから多くの友達もおりますし、またアイヌ理解者あるいは研究者方々とのおつき合いもこれまであるわけでございます。  本日は、閣僚の皆様方大変お忙しいところをこのように御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。また、官房長官におかれましては多く日程があると伺っておりますので、質問の順序は少し前後いたしますけれども、まず官房長官の方からお尋ねをいたしたいと思っているわけであります。  実は質問をする前にまずお話ししたいと思うわけでございますが、長い歴史の中でアイヌ方々の非常に感銘を覚えた、誇りの高いことが近年起きたと私は理解しております。その一つは、いわゆるアイヌ民族であります萱野先生参議院に初めて国会議員として議席を占めた。これは何よりもアイヌ方々の大きな誇りであると思います。  と同時に、もう一つは、長年の間いわば歴史的な推移の中で非常に忍従に耐えてきたアイヌ方々が、旧土人法という明治以来の同化政策の中で辛酸をなめてきたといいましょうか、非常に苦労してきたそういう中で、十三年ほど前に北海道ウタリ協会でいろいろと新しい法律についての制定ということを要請をいたしたわけでございます。それを受けまして、北海道庁におきましては懇談会を設け、いろいろ意見を聴取しながら、北海道といたしましても政府陳情を申し上げた。  政府におかれましても、五十嵐官房長官時代私的諮問機関、こういうことでいわば有識者懇談会というものが設置されまして、過日、梶山官房長官時代に答申をいただいた。それをもとにしてこのたびアイヌ新法ということで、これから以後質問に言葉をそのアイヌ新法ということで言わせていただきたいと思いますが、そのような法律が上程されたということは、ウタリ協会そのものの要求したことはすべて満たされないまでも、やはり法律として国会に上程されたということは、非常にこれは大きなまた喜びであったのではないか、このように思うわけでございまして、今日までの官房長官を初めといたします多くの皆様方、御努力をいただいたことに対しまして深甚なる敬意を表する次第でございます。まことにありがとうございました。  さて、そこで質問の第一点でございますが、それは、過日、二風谷の裁判等におきましても、アイヌ先住性ということにつきましては明らかに司法判断が出されたわけでございます。しかし、橋本首相並びに梶山官房長官がそれぞれ新聞談話あるいはまた参議院国会等で述べられたことについては十分承知はいたしますが、衆議院においては初めてでございますので、この先住性というものについて残念ながらこのアイヌ新法の理念の中には盛られなかったということでございますが、この先住性ということについての官房長官のお考え方、並びにそれが政府考え方であるかどうかということにつきましてもひとつお伺いいたしたいと思うのでございます。よろしくお願いします。
  7. 梶山静六

    梶山国務大臣 私は、前々から有識者懇談会を編成をしてこのアイヌ問題についていろいろな御意見が闘わされ、特に昨年の四月一日にこの有識者懇談会から報告書が私の手元に提出をされました。大変読んで感銘を受けましたし、今まで全く門外漢の私もそれなりの感動を覚えたことがございます。それを受けてこの立法化に臨んだわけであります。  今委員御指摘のアイヌ先住性という事実認識については、私も尊重いたしておりますし、総理も尊重いたす、そのこと自身に変わりはございません。ただ、法律用語としてこれがなじむのかどうなのか、あるいはこの法律目的先住性をうたわなきゃならないのかどうなのか、こういう問題も勘案をいたしまして、とにもかくにも早くこの法律を通すことが長い間の地元の方々あるいはアイヌ民族方々に報いる最大の道であろう、こういうことから今回の法律案を御提出を申し上げたわけであります。  先生自身が長い間アイヌとのかかわり、それを大切にしてこられたことの万分の一かもしれませんが、今回そういう、この法律が全国的な取り上げ方でできることは大変全般のために喜ばしいこと、このように考えて提案をされたわけでございますので、何とぞ御認識をひとつしていただいて、御賛同をお願いをしたい、このように思います。
  8. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 ただいまの御答弁によりますと、明らかにアイヌ方々先住民族として、特に蝦夷地北海道においては先住性を持っておる。そのことによる先住権というのは、またこれはいろいろな問題があろうかと思いますから、この点につきましては今後のいろいろな議論をまたなければならないと思いますけれども。  私どもは、実は私自身戦前生まれでございますから、国民学校に入りまして、義務教育で中学を卒業した。その間、私たちの同じ同級生にはアイヌ方々が多数おられまして、特に私が本当に親友としている者もおりました。この友達は、阿寒でもって民芸品を売りながら、みずからいわゆるウッドカーバーとして、いわゆる木彫家として世界的にも今非常に有名になっておるわけでございます。カナダのバンクーバーにおける、特にバーナビーマウンテンというところにすばらしい彫刻をつくっておりまして、今バーナビーあるいはバンクーバー地方の名物の一つとなって、非常に多くの世界の方々に見られておるわけであります。あるいはまたユーカラなども演じまして、パリまで公演に行くというようなこともございますし、いわゆるアイヌ民族が持っている固有文化あるいは芸能あるいは伝統工芸、こういったものについて非常に継承し、頑張っている友人がたくさんおります。  戦前ですから、空襲警報がありますと一緒に防空ごうに入ったり、あるいはまた彼の家にお邪魔し、お父さんは漁師でございましたのでそのお手伝いをさせていただいたり、近辺は湖でございましたから一緒に遊んだりいたしましたので、私自身アイヌ民族方々といわゆる特段の隔たりというものを感じてはおらないわけであります。  しかし多くは、どちらかというと、人類学的にいきましても実際は黄色人種モンゴリアン。かつてはアイヌ民族は白人だと言われておりました、学説的には。しかし、遺伝子工学といいますかそういうものの発達によりまして、アイヌ民族も日本の民族モンゴリアンであるということが明らかになりましたから、本来は人種一緒だと考えても過言ではない。しかし、北海道だとか沖縄というのは、なかなか交通の便というのは昔悪いわけでございましたので、交わりが少なかったと言ってもいいのじゃないか。私の友人考古学者は、そういう意味では沖縄北海道というのはいわゆる縄文のにおいのする、いわゆる人類学的にですね、それがずっと今までに残ってきているのだというようなことも言っているわけでございます。  そういう中で、明治以降あるいはまた幕末等に、松前藩というのが北海道にございまして、そのころから内地人がいわゆる北海道に入りまして、アイヌ方々と一部交易をしていましたけれども、これが非常に不正交易といいましょうか、だましてとってしまうとか、いろいろなそういう迫害もしたようでございます。歴史的な事実に残っておるわけですが、そういう意味で、非常にアイヌ皆様方はそういう和人の迫害とか、あるいはいろいろな伝統文化だとか狩猟とかそういうものを取り上げられて、言ってみると、今日までずっと差別というものに耐えてきたと言われるゆえんもあるわけでございます。  しかし、今回このようなアイヌ新法制定されることによりまして、政府といたしましてもアイヌ民族として認知し、そしてこの伝統文化を継承し、それを普及し、あるいはまた一方アイヌ語自体も、いろいろ研究者も育て、ぜひ普及していく、こういう姿勢は大変私はすばらしいことである、このように思います。  最後でございますが、官房長官にもう一つお伺いしたいのは、実は北海道の各地方におきましては、大体北海道の地名というのはほとんどこれはアイヌ語でございます。そして、二万三千か四千ほど住んでおるわけでございますが、日胆地区、いわゆる萱野先生がおられる日高町、胆振、こういうところに今非常に居住者が多いわけであります。釧路あたりにももちろんおるわけでございますが、こういうようなアイヌ方々の集落が北海道にはたくさんございます。したがって、市町村でそれぞれ独自の政策もやっているところがあります。  例えば私の住んでいる釧路では、アイヌ皆様方のいろいろな、学校における差別問題とか、そういう問題が起きれば相談に乗る、教育相談に乗るということで、教育相談制度を設けたり、あるいはまた芸能、例えばリムセ保存といいまして、踊りとかそういうものに奨励金を出しましたり、あるいはまたユーカラの演奏につきましては補助金を出したり、独自でやっておるわけであります。  そういった各地方で独自にやっているアイヌ文化の伝承のための施策というものについては、このアイヌ新法を通じまして、政府といたしましても、都道府県を通じ、支援といいましょうか、そういったことについてぜひやっていただきたいとお願いを申し上げたいわけでありますが、その点についてのお考えはいかがでしょう。
  9. 梶山静六

    梶山国務大臣 この法律案施行に伴いますと、一番地域的なつながりの深い北海道開発庁がこれを所管をいたして接触を保つわけでありますが、昨年出された報告書の中にも、現行北海道ウタリ福祉対策は評価をするということがございます。  それぞれ濃淡はあるのでございましょうが、アイヌ方々のお住まいになっているその地域地域が大変な御努力を願いながらやっているわけでありますから、北海道開発庁長官を通じてはもちろんでありますが、内閣全体としてこの問題には取り組んでまいりたいし、現行も、恐らく各市町村に対する交付税算定基準にもそれは加味をされているはずだと考えます。そういうものをつけ加えながら、この発展向上のために政府全体として取り組んでまいりたいと考えております。
  10. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 大変ありがとうございます。  官房長官におかれましては、三十分以降予定があるようでございますので、以後私、別な質問をいたしますので、ここで御退席されて結構でございます。ありがとうございました。  それでは、質問の本題の方に入ってまいりたいと思います。  まず第一点でございますが、このアイヌ新法という中身に入る前に、基本的な認識を一にしておく必要がある、このように思います。  先ほど、官房長官とも少しお話が出たわけでございますが、いわゆるアイヌという言葉、あるいはアイヌ民族ということで、このアイヌというのは一体どのように理解しておるのか、こういったことについてまずお聞きしたいと思います。
  11. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  アイヌ語でございますが、アイヌとは本来、神、アイヌ語でカムイに対する人間、人という意味でございます。また、そのアイヌ人々によりまして、民族自称といいますか、みずからの民族を指す言葉として用いられていると承知しておりまして、本法案の中でも、アイヌという言葉は、独自の言語、文化等を有して帰属意識を有する集団、すなわち民族というようなことでとらえております。
  12. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 今御答弁いただきましたが、アイヌという話源といいましょうか、これは男ですとか人間というものを意味する。それに対峙するのがカムイ、神、こういうことであるというわけであります。  このアイヌにつきましては、何といっても一番多く居住しているのは北海道を中心として居住しているわけであります。かつてはサハリン、樺太アイヌ、あるいはまたクリール、いわゆる千島ですね、あるいは本州の北部、こういったところに集落として居住していたということが歴史的にも証明されているわけでございます。  しかも、このアイヌ人々は非常に、先ほど稲垣長官の方からも御説明がありましたが、自然と共生した生活をしておったわけですね。ですから、自然に循環をして、そして自然を余り破壊をしない、そして自然の恵みをとりながらやっていた、こういう生活様式であったと言っても過言ではないわけであります。  しかしながら、農耕ですとかそういったいろいろな手段が導入されましてから、そういった様式も大分変わってきた。しかしながら、いろいろな、本州等の北方民族の影響を受けながら、独自の風習あるいはまた習慣、あるいは言語、あるいは信仰、こういったものを生み出してきたものだと私ども理解しているわけでございます。  御案内のとおりにアイヌの記録というのは非常にいろいろな学説がありますが、室町時代から鎌倉時代、こう言われておりますし、人類学的に見ても、縄文前期、この縄文前期というのは、幸い釧路に、東釧路人、これは釧路貝塚で、私の友人が発掘したわけでありますが、この中で、いわゆる人類学的に見てそういったルーツというものも想定されているわけでございますが、いずれにいたしましても、擦文文化、八世紀ごろからオホーツク文化の影響を受けて、アイヌ文化として十三世紀ごろ形成されてきたものというぐあいに言われておるわけでございます。  さてそこで、第二点でございますが、そういう歴史の中で流れてきたアイヌ方々が非常に大切にしてきた自然。しかし、開発というものはある一方で自然を、破壊と言ったらおかしいですが、自然を破壊ということになるのでしょうか、ややしながら開発をする。その利益との比重だと思いますが、文化とか、あるいはまた人間の発達とか社会の発達というのは、そういうものとの相関関係は必ずあるわけであります。  そういったところで一つのトラブルが起きるわけでありますが、第二番目の質問では、北海道平取町におきます二風谷ダムの地権者に対します収用委員会のあり方といった点につきまして、収用裁決の取り消しを求めた行政訴訟が出されているわけでありますが、その判決が三月二十七日、御案内のとおり札幌地裁で言い渡されたところでございます。  この判決理由その他を見まして、いかようにお考えになっておられるか、その感想についてお伺いしたいと思います。
  13. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 委員から御指摘のとおり、北海道の開発事業の実施に当たりましては、従来から文化財の保護や環境の保全に努めてまいったところでございます。  二風谷ダム事業を進めるに当たりましては、と りわけ、地元の方々の御意見も伺いながら、アイヌ文化の保存や伝承に十分配慮してきたと考えております。今回の判決理由におきましては、十分な理解が得られなかったことを残念に思っているところでございます。  北海道開発事業の実施に当たりましては、今後ともアイヌ文化の保存の観点を含めながら、地元の意見に十分配慮してまいりたいと考えております。
  14. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 ただいまの長官の御答弁は、長官としてはそのような御答弁になるというぐあいに思いますが、あの判決理由の内容では、明らかに二風谷ダム地域というものはアイヌ民族の聖地であるということもうたっておりますし、あるいはまたアイヌ民族文化享有権を認めておる。また一方、ダム計画で国がアイヌ文化の価値に対する必要な調査を怠っていたのではないか、あるいはまた、最も重視すべきいわゆる諸価値に対しまして不当に軽視をしたのではないか、こういうようなことも書かれておるわけであります。したがって、最終的には、この収用裁決というものは違法である、こういうぐあいに司法判断では宣言されておるわけであります。  しかしながら、原告の請求は、もうダムはできておりますし、公共の福祉というものを重んじまして、これについては原告の請求を破棄したと思いますが、しかし、判決理由の述べられている部分につきましては、非常にアイヌ方々の主張というものが全面的に取り入れられておる、こういうことでございます。  どちらも控訴をしないということで、恐らくこれで決着しておるのだろうと思いますけれども、今後、これが投げかけた問題は、北海道開発につきまして、アイヌ民族のいろいろな文化伝統や遺跡やそういった儀式や、そういったものをもろもろ考え、この北海道開発について今後十分参酌していかなければならないと私は思うわけでございます。  これは、北海道開発全般にわたりまして、河川だけではなくて道路もありますし、あるいはまた農業構造改善事業もありますし、あるいはまた港湾もありますし、すべて北海道開発にかかわる問題としてはこういう問題が起きる可能性というものがあるわけでございますが、そういったことにつきまして、今後どう対処されようとしておるのか、お聞きしたいと思います。
  15. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  先生御承知のように、現在、新たな北海道総合開発計画の策定に取り組んでおります。それは、現行の第五期計画が平成九年度で終了するということで、北海道開発審議会に計画案の策定について諮問を行いまして、現在、審議会において調査、審議を進めていただいているところでございます。  それで、審議会では、去る三月二十七日に新計画案の骨格を決定したところでございまして、この中では、アイヌ文化等の伝統文化振興に関する施策などを展開して、北海道国民の多様な自己実現の場とすることや、あるいは北海道の恵まれた環境を次世代に引き継ぐことなどを目標として掲げておりまして、今後、その具体的な内容の検討を進めることとしていることでございます。  以上のような新計画をめぐる議論や今般のいわゆるアイヌ新法制定趣旨を踏まえまして、開発事業の実施に当たりましては、今後とおアイヌ文化振興や環境の保全につきまして配慮するとともに、地元の意見を十分尊重してまいりたいというふうに考えております。
  16. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 今後、開発計画等を策定する場合には、こういったアイヌ皆様方の何といいましょうか要望、要請、あるいは今回出された司法判断、こういったものを十分踏まえながら、そごを来さない開発計画というものをつくっていく必要があるのではないか、このように私も考えておりますので、以後、よろしくお願いしたいと思っております。  さて、そこで、アイヌ新法制定するに当たりましては、先ほど冒頭申し上げましたとおり、北海道アイヌ皆様方も、新しく、この民族という、民族法律としては日本で全く初めての法律でありますから、非常にこれは意義のあるものだと私も評価しますし、また、日本のいわゆる国会史上でも画期的なことである、私はそのように思うわけでございます。  この法律制定に当たりましては、アイヌ方々の要求の中には、この新法に盛られないことの、例えば、先ほど官房長官とお話をさせていただいたいわゆる先住性という問題ですとか、あるいはまた、民族の言ってみれば自立資金というのでしょうか、こういった要請もあったように思われます。しかし、なかなかそういったことが法律になじむかどうか、あるいは、今後の全体的な行政の中でのいわゆるバランスというものの中で難しい問題は多々あったと思いますが、私もこの法律をずっと眺めてみますと、どちらかというとこのアイヌ新法は、いわば一つは、この新法ができたということでアイヌ皆様方の人間的な尊厳あるいはまた人権、こういったものが公に認められた、あるいは回復し得た、こういうところに私は大きな誇りを感じたと思っているわけでありますが、しかし、この法律全体を読んでみますと、やはり何といってもこのアイヌ文化の伝承や継承、あるいはアイヌ語等を含めて知識あるいはまた普及、こういった点に一番趣をなしているわけであります。  問題は、このアイヌ方々の経済対策ですとか、あるいはまた生活の対策ですとか、これは従前それぞれの省庁でやられておりまして、既に本年度の予算も十七億円ほど計上されているわけでありますが、この点につきましての予算は、これは見る限り余りふえておらないわけなんでございます。実質上、こういった要求というものは余り実際になかったのかどうか、あるいはあってもなかなかつけることが難しかったのかどうか、その点についてはいかがでしょうか。
  17. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  アイヌ人々に対する経済、社会面での取り組みという御質問趣旨だと思います。  北海道では、アイヌ人々と道民一般との社会的、経済的な格差の是正を図るために、御承知のように、昭和四十九年度以来北海道ウタリ福祉対策を実施しているところでございます。国といたしましても、国レベルでも北海道ウタリ福祉対策関係省庁連絡会議を設けまして、関係行政機関との緊密な連携を図りつつ、アイヌ人々の生活水準の向上等に努めてきたところでございます。  具体的には、関係する省庁におきまして、教育の振興、生活環境の整備、産業の振興、就労の安定化等の諸施策を総合的に実施してきておりまして、先ほど先生御指摘のように、平成九年度の国のウタリ対策予算は関係六省で合わせて約十七億円となっておりまして、これは対前年度比一・五%増となっております。  これらの施策の実施を通じまして、アイヌ人々の経済状況とか生活環境あるいは教育等の状況も着実に向上してきたところでございまして、引き続き、これらの施策推進に努めてまいりたいというように考えております。
  18. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 既に御案内のとおり、北海道でもアイヌ皆様方の生活実態調査なども既に行われておりまして、その調査のあらかたの報告を見る限り、やはりこのアイヌ民族方々の、職業もある程度何といいましょうか限定されておりますし、あるいはまた、高校、大学進学も、少し進学率も低い、こういうこともございますし、まだまだ、この集落においての生活上の問題、あるいは経済上の問題というものは相当あるのではないか、問題としてあるのではないか。  今後、恐らく市町村あるいは都道府県を通じて国にいろいろと相談が持ちかけられてくる、このように思いますので、そのときは、ぜひひとつ積極的な御配慮、御検討をお願いしたい、このように思うところでございます。  さて、引き続きまして、次の質問に入らせていただきます。  この新法におきましては、特に先ほど申し上げましたように、重要な施策の中では、アイヌ伝統あるいは文化振興、あるいは国民に対する知識普及啓発、こういったものがうたわれているわけでございますが、そういう問題を、具体的にどんな形でいつごろどのように実施されるのか。とりわけ、このアイヌ語の取り組みについてはどのような形で実施されていこうとしているのか。この点についてお伺いしたいと思います。
  19. 水野豊

    ○水野説明員 お答えいたします。  アイヌ文化振興をこれからどのように進めるかというお尋ねでございます。  アイヌ文化につきましては、文化庁といたしましては、従来から、文化財保護法に基づきまして重要な文化財につきましては指定を行いまして、北海道が行いますところの民俗文化財の伝承等の事業につきまして必要な援助を行ってきたわけでございます。  今回、この新しい法案をお認めいただくということになりましたら、私どもといたしましては、法の趣旨にのっとりまして、アイヌ人々誇りの源泉でございますアイヌ語、またアイヌ伝統文化、さらにはその伝統文化から発展した文化を対象にいたしまして、アイヌ文化振興を幅広く推進してまいりたいと考えているわけでございます。  具体的には、指定法人に対して助成するということになるわけでございまして、一つは、アイヌ語振興普及事業でございます。また二点目が、アイヌの工芸品、工芸展の開催でございますとか、アイヌのそういう伝統芸能の鑑賞会の開催でございますとか、またすぐれたアイヌ文化活動の表彰等のいわゆるアイヌ文化活動の支援事業、またもう一つは、アイヌ文化振興の基盤となる実践的な研究の推進というようなことを柱に考えておるわけでございます。  特に、お尋ねのアイヌ語につきましては、アイヌ語の伝承者が極めて少なくなっているという現状があるわけでございます。北海道教育委員会の把握した数字では、新しく伝承されている方が十一名というような数字もお伺いしておるわけでございまして、やはり指導者の育成というものが基本的かつ喫緊の課題であるという認識を持っておりまして、一つは、アイヌ語の指導者の育成、さらにアイヌ語の上級話者の養成講座等のそういう養成事業を実施いたしますとともに、また多くの人々が広く身近にアイヌ語を学べる機会を提供するという観点から、アイヌ語のラジオ講座やアイヌ語弁論大会というような事業、いわゆる普及事業につきましても、指定法人を通じまして実施することを予定しているところでございます。
  20. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 当庁所管分についてお答えさせていただきます。  当庁は、国民に対する知識普及啓発を所管しておりますが、具体的には、国において政府広報による普及啓発を行うほか、指定法人を通じまして、首都圏における文化交流や普及啓発活動の拠点となります交流センターを設置するとともに、リーフレット等の啓発資料とか小中学生向けの副読本の作成、配布、あるいはホームページを活用した情報提供などの事業を行うことを予定しております。  また、先生先ほど御紹介ありましたように、地方公共団体におきましては、当該区域の社会的な条件に応じまして、その判断により適切な普及啓発政策が実施されるというふうに考えております。
  21. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 今、それぞれ御答弁をいただいたわけでありますが、後ほどちょっと指定等の団体については御質問したいと思いますが、今、文部省の方からいろいろアイヌ文化あるいはアイヌ語教育、こういったことについての考え方が述べられたわけでありますが、これは指定団体が実際実施するものだけにやるものなのか、それとも都道府県がやる事業とか、市町村がやる事業とか、それからウタリ自体がやる事業とか、あるいはそれ以外の、また諸団体が介在するものだとか、いろいろあると思うんですが、そういったすみ分けはどうなるんでしょうか。
  22. 水野豊

    ○水野説明員 お答え申し上げたいと思っております。  従来、文化財保護法に基づきまして民俗文化財の伝承を支援するということで、いろいろな調査事業でございますとか、映像に記録をとるとか、そういう活動、また伝統文化を継承する観点でのアイヌ語の生活文化用語学習教室の支援というようなことをやってまいりました。それは文化財保護という観点でやってきたわけでございますので、引き続きそれもやっていく必要があるだろうというふうに考えてございます。  また、指定法人が行う事業に私ども助成するわけでございますが、指定法人の事業の中には、直接法人がやられる事業もございますし、法人がその地域の団体等に対して助成する事案に対してまた国として助成する事業等いろいろな種類があるわけでございまして、全体的にそういうものをうまく効果的に執行していきたいというふうに考えておるわけでございます。
  23. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 新しいアイヌ関連新施策として打ち出されました一億五千万ほどの予算があるわけでございますが、ぜひこれが有意義に展開されまして、アイヌ皆様方のいわば悲願であるやはり民族の尊厳といいましょうか、こういったことが多くの国民の中によく普及していく、知れわたるということについて御努力をぜひお願いをいたしたい、このように思うところでございます。  続きまして、今度は法律の中身の方へちょっと御質問をいたしたいと思います。  まず、法の第五条におきまして、アイヌ新法基本方針総理大臣が策定する、こういうことになっているわけでありますが、これを引きますと、三カ月以内につくるんだ、こういうぐあいに伺っているところでございますが、この基本方針というものが、正確には大体いつころまで、どんな形でどのようにして作成していくのか、この方針をつくり上げていくのか、そして、総理大臣が基本方針としてきちっと打ち出すという時期がどうなのか、この辺について詳細にお伺いしたいと思います。
  24. 田波耕治

    ○田波政府委員 基本方針の策定についてお答えを申し上げます。  委員がおっしゃられましたとおり、基本方針内閣総理大臣が、この法律の規定に基づきまして、まずアイヌ文化振興等に関する基本的な事項あるいはアイヌ文化振興を図るための施策に関する事項あるいはアイヌ伝統等に関する、先ほど委員御指摘のような国民に対する知識普及啓発を図るための施策に関する事項等を定めることとされておるところでございます。  そこで、この具体的な内容がどうかということでございますけれども、これにつきましては、これからのいろいろな議論の進展を踏まえながら、北海道開発庁あるいは文化庁を初めといたしました関係各省と協議をしながら、また大事なことは北海道意見も伺いながら、策定を進めてまいりたいというふうに考えております。  いつごろまでかということでございますが、これは、法律上、この施行は公布の日から附則で三カ月以内に施行するということになっておりますので、その施行が行われた後に、できるだけ速やかに策定をしたいというふうに考えておるところでございます。
  25. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 政府としましては、この基本方針を速やかに出していただかなければ、せっかくこのアイヌ新法ができましても、基本方針がまず打ち出されて、それに従って実際に行政が執行されるものと思いますので、まずこの一番肝心な基本方針を速やかにひとつ策定を急いでいただきたい、このように思うわけでございます。  続きまして、この法第六条におきましては、基本計画の策定をうたっているわけであります。これは、今度は都道府県都道府県知事ということになるんでしょうか、その基本計画を策定する、こういうことになっています。いわば政府がビジョンを打ち出すと、都道府県では今度は実際それを具体的に行うプログラム、こういうものを打ち出すということだと思うんですが、この基本計画というものにつきましては、国の基本方針にのっとって都道府県はいつまでに、この基本計画というものはそれぞれの都道府県の独自性でつくられると思いますが、これらの基本計画はどのように策定されていくのか、この点についてよろしくお願いします。
  26. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  まず基本計画内容でございますが、これは御承知のように、関係都道府県における総合的な施策の展開が図られるように、政府が策定します基本方針に即しまして、関係都道府県アイヌ文化振興等に対する施策を実施する上での基本的な方針あるいは趣旨を明らかにしまして、次いで、アイヌ文化振興施策とかアイヌ伝統等に関する普及啓発のおのおのの具体的な実施内容を一覧的に列挙しまして、さらに、関連する諸施策との連係等、施策の実施に際し配慮すべき事項を記載していただくことにしております。  今後の基本計画の策定でございますが、まず、本法の施行後速やかに、第六条の規定によりまして基本計画を策定する都道府県を指定する政令制定いたしますとともに、基本方針の策定を行いまして、指定を受けた都道府県におきまして基本計画の速やかな策定が図られるということになっておりますので、この指定を受けた都道府県が速やかな基本計画の策定が図れるよう努めてまいりたいというふうに考えております。
  27. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 大体この法五条、六条の関係につきましてはよくわかりました。  その中で、これはちょっと質問要旨の中になかったわけですが、ウタリ文化、特にアイヌ文化のことにつきましては、それぞれ自治体に博物館あるいは民芸館というようなものを持っているところがございます。私ども釧路市におきましても、すばらしいアイヌ文化あるいはそういったものを保存している釧路博物館がございます。こういったものが各地域にございまして、これも長くたつとリニューアルをしないといけないとか、いろいろかかるわけでございます。あるいはまた、アイヌ民族方々それぞれがまた自発的に持っておられる場合もあります。あるいは、生活館等にまた持っておられる場合もある。  こういうようなものについて、特にこれは文部省の方になると思いますが、そういう何といいましょうか、アイヌ文化や継承すべき、ユーカラにしてもそうですし、あるいはいろいろな、イタチョーマップとか、アイヌの皆さん方がずっと儀式に使ってきた道具とか、あるいは刺しゅうですとか、いろいろなものがあるわけですね。こういったものは、やはりそれぞれの地域で保存しているところもあるし、またなかなか保存されていないところもあるのですが、そういうことについては、都道府県が策定する基本計画、並びに各市町村がそういった企画をしてくるとするならば、これは文部省の方で取り上げてもらえるかどうか、この点についてはいかがでしょう。
  28. 水野豊

    ○水野説明員 お答えできる範囲内でお答えさせていただきたいと思うわけでございます。  アイヌの、先ほど申し上げた丸木舟とか、いろいろ豊富な民族の有形の文化財もございます。それは、私どもが承知している限りでは、北海道内に五十四館あるというふうに承知しているわけでございます。国立が一館、道立が二館、また市町村立のものが四十五館ということでございまして、私ども、そういうところの資料がより豊富になるということは極めて望ましいと思っておるわけでございまして、文部省全体の施策の中でそういうことについてどのような支援ができるかということにつきまして、今後の検討課題にさせていただきたいというように思っております。
  29. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 次に、最後になったわけでございますが、質問といたしましては、この法律によりますと、法第七条に、指定団体は全国一カ所、一つにする、こういうぐあいにうたわれております。したがって、この指定団体に対する指定の時期というのはいつになるのかということが第一点。第二点は、この指定団体は法人ということになっておりますので、これは一体どんな法人で、どのように構成をされるのかということが二点。三つ目は、この法人の財政的な裏づけ、これが一体どうなるのか、あるいは法人を運営する事務局体制なり運営というものはどうなのか、この点についてお伺いしたいと思います。
  30. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  まず時期でございますが、本法施行後速やかに指定法人の指定を行いたいと考えておりますが、本法による指定を受ける団体、これは公益法人、民法上の公益法人でございますが、現在、北海道を中心としまして、財団法人という形で新たに設立すべく準備中でございまして、御質問の法人の概要につきましては、懇談会報告書で提言されておりますアイヌ人々の自主性が尊重される運営のあり方を含めて、現在北海道を中心に検討中でございます。そして、本法の施行後、指定法人の指定の申請があった段階で、政府としましては、適正かつ確実な事業の実施が図られるよう、その組織、運営体制等について適切に、審査という形になろうかと思いますが、審査してまいりたいというふうに考えております。  また、財政的な支援でございます。平成九年度予算におきましては、この新法に基づく施策を総合的に実施する機関として指定する公益法人の事業費としまして、先ほども申し上げましたが、北海道開発庁と文部省に所要の補助金という形で一億五千万計上しておるところでございまして、これにつきましては、今後とも所要の予算の確保に努めてまいりたいというふうに考えております。
  31. 鰐淵俊之

    鰐淵委員 これから指定団体等指定するわけでございますが、どうかひとつ、本来的な趣旨であるアイヌ文化の伝承なり、あるいはまた国民への知識普及なり、あるいはまた伝統なり、そういったことがしっかりこういう団体において行われるようなことをぜひ御指導をしていただきたい、なお都道府県に対しても強く指導していただきたい、このように思うわけでございます。  先ほどから何回も申し上げましたが、このアイヌ新法は、アイヌ方々においては、すべて満足すべきものではない。これは萱野先生参議院内閣委員会でもお話しされているとおりでございます。しかしながら、長い間の苦渋の歴史の中で、民族としての初めての法律がこの日本において上程された、この意義はすばらしいものである、むしろ感激をしているんだ、しかも誇りに思っているんだということについて、私は多としたと思うのであります。  しかし、それだけでは、これで完全というものではなくて、やはり今後、この先住性というものについてはほぼ定説になっておりますし、あるいはまた生活、経済の面につきましても、やはりまだまだ施策として講じていかなければならない問題も多々あると思いますので、こういった点も、新法を実際に施行する段階において、また十分ひとつ、アフターケアといいましょうか、進行管理を行いつつ、より完全なもの、よりまたアイヌ方々がなお尊厳と誇りの持てるようなものにしていただきたいというのがお願いでございます。  時間もございませんので、最後になりましたが、私、ここに一冊の本を持ってきております。これは「久摺」という本でございますが、これは、松浦武四郎が北海道をずっと歩いたわけですが、そのときにいろいろな日誌を書いています。そのときに釧路にも寄ったわけなんですね。ですから、幕末、安政時代ですから、「久摺日誌」というものからとった「久摺」という本です。  これはだれが出版しておるかといいますと、釧路で結成をしました、アイヌ方々釧路アイヌ文化懇話会というものをつくりまして、今もう十二年くらいになるわけであります。このアイヌ文化懇話会というのは、毎月一回、懇話会を開きまして、いろいろな方々に講演してもらったり、またアイヌ方々と交流したり、これはアイヌ方々も入っていますし、アイヌ理解する方々も入っておりますし、いろいろな方が入って多種多様な活動をしまして、現在まで五集、このような立派な本を出しておる。  これは釧路でございますが、これは全土的に、恐らく日胆地区なんというのは一番多いわけでありますから、特に沙流川のあの近辺、平取のあの近辺もすばらしいものがあると私は思いますし、各地域にあると思います。こういった地道に活動している団体等についても十分配慮していく必要もあるのではないかと私は思うわけでございます。  最後に、私、この中で、百回を記念して実は北構先生という方が講演されております。北構先生というのは根室で印刷屋をやっている方でございますが、非常に考古学に興味を持って、そのことを一生懸命勉強されて文学博士まで取った方でございます。したがって、その方が最後に言っていることをお話し申し上げて、ひとつ質問を終わらせていただきたいと思います。   内地人が進出する過程で、アイヌ民族への不法な仕打ちがたくさんあったわけですが、いまでもオレは純粋な日本人だなどという方々も、周囲を見渡して反省のうえに立ってアイヌ民族復権のためにできる範囲の協力をすることが必要だと思います。  アイヌ民族への差別はこれまでも驚くほどだくさんありましたが、このような差別をこれからも続けることほど愚劣なことはありません。この解決には時間がかかるでしょうが、アイヌ文化を研究していく方々を前にして申し上げたいことは、なにか特殊なことをするのではなく、できる範囲内で同じ人間としてアイヌ方々とも一般的な日常のつきあいを、普通に続けることが大切かと考えております。 と本に載っておりますが、ぜひそういったことで、今後ともこのアイヌ新法のさらなる発展を願って、質問を終わらせていただきます。  ありがとうございました。
  32. 伊藤忠治

    伊藤委員長 次に、石崎岳君。
  33. 石崎岳

    石崎委員 自民党の石崎岳であります。  私は、去年の七月まで北海道の放送局に勤務をしておりまして、このアイヌ新法問題についてしばしば取材をした経験があります。  この法案、ここまで来るのに随分時間がかかったなという思いがいたしますけれども、ここに至るまでの関係者の御尽力には敬意を表する次第であります。また、このアイヌ新法民族政策としては画期的なものであるというふうに評価もしております。  その一方で、北海道土人保護法、これも現存する法律であります。土人という言い方は、私は放送局におりまして、放送では絶対に使ってはならない言葉でありますけれども、こういう名の法律が今も九十八年間温存されてきたということは甚だ遺憾なことであるというふうにも思っております。これは立法府の一員としても反省をしなければならないことであろうというふうに思います。  この旧土人保護法がなぜこれまで廃止をされずに温存をされてきたのか、機能は既に喪失しているというふうにも思われますけれども、なぜなのかということをまず最初にお聞きします。
  34. 西沢英雄

    ○西沢説明員 北海道土人保護法でございますが、今から約百年前、明治三十二年に制定された法律でございまして、戦前におきましては、土地の下付とか生活扶助、事業上の給付等が行われておりましたけれども、戦後になりましてからは、その後の社会経済情勢の大きな変動、それから生活保護法等諸施策の整備等もございまして、実際に運用されておりましたのは土地の譲渡に係る許可と共有財産の管理程度でございました。  こうした状況から、昭和三十九年には、当時の行政管理庁から廃止の勧告が行われた経緯がございます。このときには北海道から廃止は時期尚早であるという意見がございまして、廃止に至らなかった経緯がございます。  その後、昭和五十九年に北海道ウタリ協会、昭和六十三年には北海道知事から、アイヌ新法制定と同時にこの法律を廃止されたいとの意見が出されまして、以降、新法制定の問題とあわせて検討を進めてきたところでございます。  なお、この間、昭和六十一年には法律の名称を改める法律案が議員立法で提出されましたけれども、平成二年に廃案になった経緯がございます。  このような経緯を経まして、昨年四月のウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告書におきまして、北海道土人保護法は「アイヌ人々に関する諸施策の新たな展開に伴い、廃止のための措置を講ずることが適切」とされたことを踏まえまして、今般、新法の制定にあわせてその廃止を行おうとするものでございます。
  35. 石崎岳

    石崎委員 便宜的にアイヌ新法というふうに呼ばせていただきますけれども、この新法がここまで来る立法の過程を振り返って、私は二つのことを感じております。  一つは、なぜここまで長期の時間がかかったか、立法作業がおくれたかということであります。  古くはウタリ協会の廃止決議というのが一九七〇年にありました。最近ではウタリ協会が法律案を採択した、これが一九八四年のことであります。十三年前のことでありますけれども、その後、その動きを受けて、北海道アイヌ問題懇話会の報告、それから北海道などが新法制定要望を一九八八年に行っているということであります。それからでも、いわば国のステージにそれがのってから長時間を要したということであります。  なぜ十三年間も時間が必要だったのか。国のステージにのってからでも、もう九年という歳月であります。そのウタリ協会の最初の要望、北海道の要望から、それが国のステージにのる、つまり、国策といいますか、国家の論理にもまれていく間に、そこでいろいろなものが変質をしていった、変わっていった、そして時間がかかっていったということではないかと思いますけれども、その背景には、やはり日本政府そのものが民族政策民族立法というものに消極的だったのじゃないか、あるいはいわゆる先住権への抵抗といったものが国家の側にあったのかというふうに思いますけれども、長官、見解はいかがでしょうか。
  36. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 委員からいわゆるアイヌ新法についての、今日まで長い時間を要しておったではないか、あるいはまた、その検討経過についていかがかというお問い合わせでございますが、いわゆるアイヌ新法につきましては、委員御承知のとおり、昭和五十九年に北海道ウタリ協会アイヌ民族に関する法律案を作成し、昭和六十三年には北海道土人保護法の廃止とこれにかわる新法の制定について北海道などから強い要望が出されておったのであります。  政府といたしましても大きな課題として受けとめまして、平成元年に部内に新法問題検討委員会を設けたのであります。検討を重ねでまいりましたが、過去数世紀にわたります歴史的な認識、あるいは先住性の問題、民族性というこれまでの行政にはなかった視点というものが必要だったことから、必ずしも議論が深まらなかったのでありました。  このために、ウタリ対策のあり方を幅広い視点から見直して、将来を展望しながら現実的な解決策を見出すべく、各界のいわゆる見識者の先生方にお集まりをいただきまして、平成七年三月に内閣官房長官の私的懇談会として、御承知のとおりウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会を設置したのでございます。そして、ここで幅広い角度から御議論をいただきまして、約一年間にわたりまして御検討していただきましたその結果、昨年四月に同懇談会から報告書提出していただきました。政府としては、この報告書趣旨を最大限尊重して今般本法律案を取りまとめさせていただいた次第であります。
  37. 石崎岳

    石崎委員 事実経過はわかるんです。経過はよくわかります。わかりますけれども、十数年という期間を要した背景、内政審議室主管の検討委員会、四十数回会合を開いても結論が出なかったことの理由、背景といったものがなぜなのかということが今問題だと私は疑問に思っているところであります。  なぜ長期間を要したか。振り返って二つ目の感想は、当初のウタリ協会の法案、あるいは北海道でのアイヌ問題懇話会報告は盛り込まれていたアイヌ民族の権利保障あるいは人権擁護、自立化基金といったものの要望が、その後の、去年のウタリ懇談会報告あるいは今回の新法では触れられていない、取り上げられていないという事実があります。そこにまさに、ウタリ協会の要望、北海道段階の要望と、国家における立法と国家における民族政策の差、落差といったものがあるのではないかというふうに思います。  これらの要望が今回の立法に反映されなかった理由、懇談会の報告はわかります、懇談会の報告は私読めばわかりますので、長官の見解をお聞かせください。
  38. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 北海道ウタリ協会が、先ほど申し上げましたとおり、昭和五十九年に作成いたしましたアイヌ民族に関する法律案や、昭和六十三年に北海道北海道ウタリ協会から提出されたアイヌ民族に関する法律制定についての要望の中に御指摘の項目等が含まれていたことはよく承知しております。  新たな施策の展開には、先ほど申し上げたように、さまざまな難しい課題があることから、各界の権威の先生方にお集まりいただきましたいわゆるウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会においても十分御審議をしていただいたわけでございますが、新たな施策の基本理念というものとアイヌ文化振興理解の促進を柱とする新たな施策を御提言をしていただいたものでございまして、こういったことを尊重いたしまして、政府としては、懇談会報告書趣旨を十分踏まえて本案を立案したものであると思います。
  39. 石崎岳

    石崎委員 その削り取られていった理由といったものが、ある意味で私は非常に大事であろうというふうに思っております。  そして、昨年のウタリ懇談会報告でありますけれども、ちょっと一節を引用しますと、「同化政策が進められ、」「アイヌ人々社会文化が受けた打撃は決定的なものとなった。」「いずれの施策アイヌ人々の窮状を改善するために十分機能したとはいえなかった。」また、「アイヌ人々が居住する地域において他の人々とはなお格差があることが認められ、アイヌ人々に対する様々な差別も解消したとはいえない。」というふうに昨年の懇談会報告では触れられておりまして、現状の政策は不備であるということを認めております。  そして、今回の新法はこうした実態を解消するための立法であるべきだというふうに私は思いますけれども、新法の目的は、アイヌ人々民族的な誇りが尊重される社会の実現ということをうたっております。そして、その手段が、アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する国民知識普及及び啓発を図るということになっております。  ここで、こうしたいろんな問題点が現状としてある。そして、法の目的は、アイヌ人々民族誇りが尊重される社会の実現であるという目的がある。そういう流れの中で、この文化振興普及啓発文化伝統面の施策の充実だけで現状の改善、そういう法目的が達成され得るのかどうか。私は、文化伝統面だけでそういう目的が達成されるのかということについてはやや疑問を持っております。  それから、先住権から発生する自決権保障といった概念、これは、現在の国家の中でそれを認めるということの難しさということは懇談会報告でも触れられておりますし、私もそのとおりであろうというふうに思います。現状の国家の中でそれを特別に認めるということの難しさということはよくわかります。そうであるならば、例えば学校教育の中でアイヌ民族の尊厳が奪われた歴史を正しく伝えるような歴史教育を充実させるとか、あるいはアイヌ民族に対する差別を解消するための人権上の施策を強化するとかいうような方向性、この法律の中に盛り込まれた文化伝統面だけではない施策というものが考えられないかどうか、いかがでしょうか。
  40. 石川明

    ○石川説明員 お答えを申し上げます。  先生御指摘のとおり、学校教育におきましてアイヌの歴史に関する正しい理解の促進を図るということは大変大切なことだというふうに考えております。  アイヌの歴史に関する教育につきましては、具体的には、例えば小学校社会科、これは六学年でございますが、あるいは中学校社会科、歴史的分野、そして高等学校の日本史の教科書などにおきまして、江戸時代あるいは明治時代における北海道の開拓等に伴いまして同化政策が進められ、アイヌ伝統的な生活が次第に圧迫されていったことなどが取り上げられているところでございます。さらに、近年、教科書におけるこれらの記述につきましてもその充実が図られているところであります。  文部省といたしましては、今後とも引き続き、教員の研修などを通じましてアイヌの歴史に関する教育の一層の充実が図られるように指導してまいりたい、このように考えているところでございます。
  41. 醍醐隆

    ○醍醐説明員 お答えいたします。  法務省の人権擁護機関は、人権意識、人権尊重思想の普及、高揚のための啓発活動を任務としておりまして、その活動の一つとして、アイヌ人々に対する差別をなくするための啓発活動を実施してきているところであります。  啓発の方法といたしましては、国民全体に対し、広くアイヌの歴史、文化伝統及び現状を正しく認識し、差別の不当性を十分に理解してもらうよう、啓発冊子の配布、講演会の開催などさまざまな啓発活動を実施するほか、アイヌ人々に対する結婚差別や差別発言など個別具体的な差別事象に対しましては、人権侵犯事件として適切に対処してきているところであります。  今後も、アイヌ人々についての理解の促進を図るための啓発活動を積極的に行うとともに、個別具体的な差別事案に対しましては、人権侵犯事件として調査を行い、その結果に基づき適切に処理してまいりたいというふうに考えております。  以上でございます。
  42. 石崎岳

    石崎委員 長官、いかがですか。その前段としての、今回のあれだけで、その法目的文化伝統面だけの施策で達成し得るのかどうかという点は。
  43. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 本法案は、先生御指摘のとおり、アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現を目的としておるのでございます。  アイヌ人々誇りの源泉となっているアイヌ伝統及びアイヌ文化は今日まさに存立の危機にあると思われるわけでございますので、また、国民にまだ十分理解されておらない、こういう状況にございます。それだけに、アイヌの使われておりました言語、あるいは伝統文化は、民族としてのいわゆるアイデンティティーの基盤というべきものと承知しております。  このような状況にかんがみまして、まず本法においては、アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する知識普及啓発を図ることの施策推進をしていくことによりまして、アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現を図っていきたいというところに趣旨はありますので、十分御理解をしていただきたいと思います。
  44. 石崎岳

    石崎委員 繰り返しになりますけれども、この今回のアイヌ新法については、画期的な民族政策であるというふうに評価をしております。  そういう中で、この新法の法案そのものは非常に基本的な内容を規定したものですので、なかなか何をするのかというイメージがわかないという面があります。総理大臣が基本方針を決めて、北海道が、北海道になりますね、基本計画を策定し、指定法人が実務を行うというような流れになってくるとは思うのですけれども、具体的にどういうことをやるのか。先ほども質問にちょっと答弁がありましたけれども、具体的に何をするのかというのをぜひ例示をしてほしい。今までも北海道やウタリ協会を中心にいろいろな行事が、取り組みが行われていますけれども、法律ができることでどういう新しいことが行われるのかということをぜひ教えてください。     〔委員長退席、金田(誠)委員長代理着席〕
  45. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  先生おっしゃいましたように、国が基本方針を立てまして、都道府県基本計画、それで実際の業務は指定法人ということでございます。  具体的な事業内容ということでございますが、少し当庁所掌に係る業務を詳しく申し上げますと、一つ理解の促進ということでございます。もう一つは、アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進ということでございます。  まず、理解の促進でどういうことをやるかということでございますが、ここは理解の促進を図るためのリーフレット等の発行事業というふうに考えておりまして、リーフレットの作成とかポスターの作成を考えております。  さらに、二番目としまして、小中学生向け副読本の作成、配布事業を考えております。  三番目は、ホームページの開設事業でございまして、ホームページの開設としまして、これによりますアイヌ語とかアイヌ文化等の紹介でございます。中身は、アイヌ語アイヌの歴史、文化アイヌ関係出版物、イベント情報等を考えております。さらに、アイヌ関連学術情報提供サービスといったことも考えております。  四番目は、アイヌ文化の交流センターの設置事業でございますが、設置場所としては東京都内を予定しておりまして、この機能といいますか動きでございますが、一つアイヌ人々文化活動等の支援でございます。また、一般の人たちとの文化交流と理解の促進、さらにはアイヌに関する情報の発信を考えております。  五番目は、アイヌ文化友の会の設立事業というようなことを検討しておりまして、それは会報の発行とか会員向けイベント等の実施、友の会の主催事業の支援でございます。  これが理解の促進ということで公益法人がやろうとしていることでございますが、もう一方、アイヌに関する総合的かつ実践的な研究の推進ということでございます。これはアイヌ関連総合研究等の助成事案でございまして、具体的には、アイヌ社会関連の研究助成事業、あるいはアイヌ社会関連出版物等の作成費の補助事業、こんなようなことを考えております。  こういうことを、実務として公益法人を通じてやっていくというふうに考えております。
  46. 水野豊

    ○水野説明員 お答えいたします。  私どもの方の所管しているところでございますが、アイヌ語振興ということ、またアイヌ文化振興、さらには研究支援というのが大きく三つあるわけでございます。  まず初めのアイヌ語振興普及につきましては、アイヌ語の指導者の育成、またアイヌ語の上級話者の養成講座、さらにはアイヌ語のラジオ講座等の事業を予定しておるわけでございます。  また、二番目のアイヌ文化振興普及の関係の事業につきましては、一つアイヌの工芸品展の開催、さらにアイヌ語の舞踊や音楽などの芸能鑑賞会の開催、またすぐれた文化活動の表彰や国際的な文化交流事業、さらにはアイヌ文化の地域間交流というようなことにつきまして支援してまいりたいということを考えております。  また、三点目の研究助成、出版助成につきましては、アイヌ文化振興の基盤となる実践的な研究を支援してまいりたいというふうに考えておるところでございます。
  47. 石崎岳

    石崎委員 もう一つ、昨年の懇談会報告ではアイヌ文化振興基金を設けるという一節がありましたけれども、これは新法の条文の中には盛り込まれていないようでありますけれども、この基金についてはどのように扱っていくのでしょうか。
  48. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  御指摘のように、有識者懇談会報告書におきましては、アイヌ文化振興等施策の展開に当たりまして、アイヌ文化振興基金を設け活用することが有効であるという御指摘、御提言をいただいたところでございます。  その報告書を受けまして、政府におきまして新たな施策の具体化に向けて検討を行ったわけでございますが、その結果、厳しい財政状況のもとにあるわけでございますが、平成九年度予算におきましては、基金の設置は見送られたわけでございますが、新たな施策の実施に要する経費としまして、文部省と当庁に所要の補助金約一億五千万円が計上されたところでございます。  以上のことから、基金につきましては、御指摘のように本法案には盛り込まれておりませんが、これは将来の課題として取り組んでいきたいというふうに考えております。
  49. 石崎岳

    石崎委員 将来の課題、長官、どうされますか、来年度予算では。
  50. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 今御指摘になった諸点等につきましては、何にしましても、法律が通りました上で基本方針とかあるいは基本計画とかこの基金の問題等々、今後検討してまいる覚悟でございますので、よろしく御理解していただきたいと思います。
  51. 石崎岳

    石崎委員 それから、昭和四十九年からですか、既存の北海道ウタリ福祉対策というものが幅広く行われておりますけれども、この北海道ウタリ福祉対策の根拠となる法律は何でしょうか。
  52. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答えいたします。  北海道ウタリ福祉対策で実施されている事業、これは各種事業がございます。そのほとんどが特に法律に基づいて実施されているものではございませんが、国といたしましては、北海道が進めておりますこのウタリ福祉対策を円滑に推進するということで北海道ウタリ対策関係省庁連絡会議を設けておりまして、この中で関係行政機関との緊密な連携を図りつつアイヌ人々の生活向上に努めていたところでございまして、これが支援機関というふうになっております。
  53. 石崎岳

    石崎委員 北海道ウタリ福祉対策は具体的に根拠となる法律はないということであります。そして、去年の懇談会報告の中でも、この一連の福祉対策は不十分であるというふうに指摘をされておりますけれども、今回の新たなアイヌ新法にこういう福祉対策を組み入れるということにはなりませんでした。  その辺、根拠の法律がない、あるいは新法にも組み入れないというところにもいろいろ国の考えがあろうかというふうに推察をされますけれども、厳しい財政状況の中での生活や教育面での格差というものが厳然としてあるという実態であります。ですから、その格差解消のためにウタリ福祉対策の強化充実を図っていく考えはありませんか。
  54. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 先ほど申しましたように、関係省庁連絡会議を設置しまして、アイヌ人々の生活水準の向上等に努めてきたわけでございますが、これまで教育の振興とか生活環境の整備とかあるいは産業の振興、就労の安定化等の諸施策を総合的に実施してきたことによりましてアイヌ人々の経済状況とか生活環境、教育の状況も着実に向上してきた。しかしまだ一般道民の方と比べると格差があるということはございますが、しかし、着実に向上したと思っておりまして、これにつきましては、引き続きその推進に鋭意努めてまいりたいというふうに考えております。
  55. 石崎岳

    石崎委員 それから、先ほど鰐淵先生も触れられましたけれども、三月に二風谷ダム訴訟判決というものがありました。大変その判決内容を私も驚いて読ましていただきましたけれども、同化政策の歴史的経緯に対する反省の意を込めて最大限の配慮がされるべきなのに、最も重視すべき価値を不当に軽視、無視したという大変厳しい違法判決ということであります。  ここで、皮肉といいますか考えなければならないのは、この二風谷ダム、直接的には開発局−建設省というふうな流れだとは思うんですけれども、開発局−開発庁という流れもありますので、今回の新法、アイヌ文化を尊重するという新法を所掌する北海道開発庁の出先である北海道開発局に対して、いわばそれを諭すように、アイヌ文化を尊重しなかったんだ、軽視、無視したんだという大変厳しい判決であります。  今回の新法成立を目前にして大変ある意味ではタイムリーな判決であったと思いますけれども、その北海道開発庁に向けられた判決というものについては、長官、率直にどう思われますか。
  56. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 先ほど質問にもございましたが、北海道開発事業の実施に当たりましては、従来より文化財の保護や環境の保全ということに極めて留意をして努めてきたところでございます。二風谷ダム事業を進めるに際しましても、特に地元の方々の御意見も伺いながらアイヌ文化の保全や伝承というものに十分配慮してきたと考えておる次第であります。しかし、今回の判決理由において十分な理解が得られなかったことは残念に思っているところでございます。  北海道開発事業の実施に当たりましては、今後とも、アイヌ文化の保全の観点を含めながら地元の意見に十分配慮してまいりたいと思う次第です。
  57. 石崎岳

    石崎委員 この判決は控訴しなかったために確定をしたということでありますから、その判決の事実が厳然としてもう残っているということであります。これは、いわば開発庁あるいは開発局に対して大変重い課題を投げかけた判決だというふうに思います。  そういう中で、もう一方、一九九四年から十年間が世界の先住民の国際十年ということになっているそうであります。なかなかそのときは大騒ぎをするんでありますけれども、その十年間という中でそういうものが忘れ去られがちなことがよくあります。そういう中で、この先住民の国際十年の中で、国内施策、これまでどういうことが行われていたのか、また、今後どういうことを行う予定になっているのかを教えてください。
  58. 貝谷俊男

    ○貝谷説明員 国連で設けられました一九九四年からの世界の先住民の国際十年につきましては、その前年の一九九三年一年間の世界の先住民の国際年における国際協力を引き続き推進するものとして大変有意義なものであると考えておるところでございまして、我が国は、本件十年に関する国連基金に対しまして、九四年度以降毎年五万ドルずつの拠出を行ってきているところでございます。  また、国内的には、この十年に関しまして、政府広報紙等を通じて広報活動を行ってきているところでございます。     〔金田(誠)委員長代理退席、委員長着席〕
  59. 石崎岳

    石崎委員 国内的には政府広報で広報活動をしているということであります。余り見たことがないような気がしますけれども。  もう一方で、国連の人権委員会作業部会というところで先住民族の権利に関する宣言というものがいろいろ議論をされているというふうに聞いております。過去二回ほど議論が行われたということでありますけれども、日本政府のその先住民族の権利宣言に対する基本的な態度はどういうふうになっておりますか。
  60. 貝谷俊男

    ○貝谷説明員 御質問のございました先住民の権利に関する国連宣言案につきましては、一九八〇年代の前半より個人資格の専門家レベルで検討され、その素案が作成されまして、現在、国連人権委員会のもとにこの宣言を検討するための作業部会が設置されまして、政府間レベルでの審議が始まってきているところでございます。  御指摘のとおり、現在まで九五年及び九六年と二回会合が開催されて検討されておりますけれども、各国から種々の意見が出されておりまして、議論が収れんするにはまだまだ時間がかかるというふうに見られているところでございます。  この宣言案に関しまして、我が国といたしましては、先住民の定義が必要ではないのかという点でございますとか、あるいは、各国の先住民の置かれた歴史的、社会状況がさまざまであり、各国の立法、司法、行政制度もさまざまでございますので、現実的かつ柔軟な規定ぶりとすることが必要ではないかというふうな点等を含めまして、積極的に議論に参加しているところでございます。
  61. 石崎岳

    石崎委員 この国連人権委員会作業部会における先住民族の権利宣言、これが日本も参加して成立した場合、日本の国内施策アイヌ民族に対する施策というものに権利宣言が反映されるということになりますか。
  62. 貝谷俊男

    ○貝谷説明員 この宣言につきましては、ただいま申し上げましたとおりまだまだ検討に時間がかかる予定でございますけれども、最終的に権利宣言が出せた場合には、その内容等を踏まえまして、その時点で関係省庁とも御相談していきたいというふうに考えているところでございます。
  63. 石崎岳

    石崎委員 いろいろお聞きしましたけれども、いずれにしてもこのアイヌ新法、新たな民族政策として非常に貴重な、非常に重要な法案であるというふうに認識をしております。かつて、何年前でしたか、単一民族発言というものがございまして物議を議したことがありますけれども、異質なものを排除するという社会から、多様性を認める、それは、民族的にも多様性を認めるという社会に日本の社会を変えていく、価値観を変えていくということが必要であろうというふうに思いますし、今回のアイヌ新法というものがそのために「銀のしずく」として結実をすることを期待しております。  質問を終わります。
  64. 伊藤忠治

    伊藤委員長 次に、池端清一君。
  65. 池端清一

    池端委員 民主党の池端清一でございます。  北海道におけるアイヌ民族の組織でございます北海道ウタリ協会が、昭和五十九年五月、一九八四年に現行北海道土人保護法にかわってアイヌ民族に関する法律案制定を求めてから、実に十三年を経過をしたわけでございます。ようやくいわゆるアイヌ新法国会提出をされ、ただいま審議が行われておるわけでありまして、私も社会時代からこの問題に深くかかわってきた者として実に感慨無量なものがございます。  しかし、この法律案は、先ほど来からお話ありますように、自立化基金の問題であるとか先住権の問題については触れられておらない。幾つかの問題点がございます。今後に残された課題がございますけれども、私は、この法案の中で、「アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現」、これを高らかにうたっていることについて評価をするにやぶさかなものではございません。この間に至るまで、梶山官房長官稲垣開発庁長官を初め政府関係者の皆さん、そして事務当局も含めて大変な御苦労をされた。さらには北海道ウタリ協会の皆さん方が熱心にこの活動を進めてきた。これらの問題について、私はまず敬意を表したい、こう思うわけであります。  そこで、まず最初にお尋ねしたいのは、北海道土人保護法と旭川市旧土人保護地処分法の廃止の問題についてであります。  このアイヌ新法制定の意義は、第一に、長きにわたって差別と屈辱の歴史に耐え抜いてきたアイヌ民族に対して、民族としての誇りや尊厳の回復を図る、そして独自の文化振興を図る、こういうことにあると思うわけであります。  そして第二は、今申し上げました旧土人保護法の廃止。これが明治三十二年に制定をされました。ことしで九十九年目であります。九十九年目にしてようやく廃止されようとしている、ここに私は第二の意義を見出すものであります。  この問題については、そこにおられます稲垣開発庁長官、昭和六十一年の十一月二十五日の第百七国会に、あなたは当時社会労働委員会理事でございました、今は亡き戸井田三郎元厚生大臣、そして丹羽雄哉元厚生大臣ともども自民党理事五人の名前をもって、これは議員立法として、この旧土人保護法の名称を変更する、こういう提案があったわけであります。私もそのときは社会労働委員会社会党の理事でありました。それについては激しくあなたとやり合った。単なる名称の変更ではだめです、きちっとアイヌ新法制定、中身のある内容をきちっと出しなさいということでいろいろ議論をした結果、継続審議を重ねて、ついに選挙でもって、これは平成二年の衆議院の解散によって廃案になった、こういう経過があるわけですね。あなたはそのことは十分御記憶があると思うわけであります。  この旧土人保護法は、アイヌ人々救済をうたい文句にしておりました。しかしその内容は、本来的にはアイヌ救済策とはほど遠い内容であった。例えばこの法律では、アイヌ民族を日本国民に同化させる目的で土地を与え、医療、生活扶助、教育などの保護対策を行うものでございました。しかし、いろいろな資料を見てみますると、それは名ばかりのものであった、こういうふうに言えると思うのであります。  例えば、昭和十年、北海道庁の学務部社会課が発行しておる資料によりますと、土地についても、和人への土地払い下げを最優先した後の余った土地の付与であっただけに、ほとんどがけ地であった、したがって放牧地にもならないような極めて劣悪な土地が与えられた、開墾不能の土地が多くを占めていた、こういうふうに記載をされておるわけであります。これは一例であります。  それから教育の問題についても、アイヌ学校というものが設けられました。このアイヌ学校は、一般小学校よりもはるかに差別的な取り扱いがなされておりました。  例えば教科にしても、明治三十四年に旧土人児童教育規程というものがつくられておりますけれども、それによりますと、教科は修身、国語、算術、体操、このほかに男子は農業、女子は裁縫、こういう五教科に限定をされておりました。一般の小学校では、このほかに地理があり、歴史があり、理科があったわけです。この三教科が除外されている。しかも、修業年限は四年間。就学年齢も、一般の小学校は満六歳で入学できるわけでありますけれども、アイヌの子弟については、非常に劣っているという理由であろうと思いますが、満七歳で就学をする。こういうような極めて差別的な取り扱いをしてきたわけでございます。まさにそれは差別と侮べつの一語に尽きるものである、こういうふうに言って決して言い過ぎではない、こう思うわけでございます。  これは旧土人保護法に関連して申し上げましたけれども、一般的に、日本の歴史上、和人が北海道において多数者となって、アイヌ人々に対して過酷な条件を押しつけてきた、そしてアイヌを支配し、アイヌの生活はまさに悲惨をきわめた、人間として耐えがたい屈辱を味わわされる、こういうような状況が続いてきたわけであります。  しかし、私は今度の法案を見ますると、この提案理由の中で旧土人保護法の廃止の問題については全く触れられておりません。これを単に廃止するというだけでございます。私は、この際、政府としてはこれまでの政策についてきちっと総括をする、このことが大事ではないか。政府として、この際、アイヌの人たちに対する、アイヌ民族に対する謝罪と反省がどうしても必要であり、それがあってしかるべきではないか。こういうふうに考えるわけでございますが、ひとつこれは梶山官房長官稲垣開発庁長官からその見解を承りたいと思います。
  66. 梶山静六

    梶山国務大臣 長い間この問題に携わってまいりました池端委員の御意見は、私も昨年四月一日に報告をちょうだいして以来の勉強でございますので、私は、あなたの百分の一も千分の一も知見はございません。  しかし、この有識者懇談会のあの報告書の中には、特に明治以降の北海道開拓、その中における歴史的な現実、こういうものを直視した報告書がつくられておりました。大変私もショックでございましたし、そういうものをめぐってこれからの法整備をどうすべきか、こういうことには若干の私も意見を申し上げて、今回の法案の提出に至ったわけであります。ですから、今までの不適切な名称や、あるいは土人法等を廃止する必要性、こういうものを強く指摘をされたわけであります。  ですから、私たちが法律案で、必ずしも皆さん方が十分に満足とは言われないと思いますけれども、この報告書に述べられていることは未来志向的な、これからの我が国のあり方、これを志向し、アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会を実現することを基本理念とする。委員おっしゃる、謝罪や反省がないではないかと言うけれども、この報告書を全面的に受け入れたというこの事実だけはひとつ御直視を願い、これからの先に向かっての進め方をお互いに心しながら行ってまいることによってその実を上げてまいりたい、このように思います。
  67. 池端清一

    池端委員 謝罪、反省という言葉は聞かれませんでしたが、この有識者懇談会報告書内容を重く受けとめる、こういうふうに今官房長官は言われたもの、こう受けとめるわけでございます。  実は、私も北海道出身でありまして、先ほど質問されました新進党の鰐淵委員とは同じ北海道釧路市の生まれでございます。そして、長らくアイヌの人たちと交流を深めてまいりました。  ところが、私は、青年時代、中学校の教師をしておりました。今から四十三年前の昭和二十九年に、北海道の日高支庁管内の平取の中学校に赴任をしたわけでございます。この平取町というのは、アイヌの子弟が多く通学している学校でございます。そこで私は赴任早々、上司から言われました。アイヌという言葉を絶対使ってはならない、アイヌという用語、表現はこれは差別用語である、もしどうしても使う必要があるならば旧土人と言いかさい、こう言われた。私はそれを聞いて、実に愕然といいますか唖然としたわけであります。  旧土人というのは、私、広辞苑をいろいろ調べてみましたけれども、全然、広辞苑にも載っていません。旧土という言葉はありますけれども、旧土人というその解釈はないのであります。しかし、明らかにべっ視のこれは表現であると思いますが、学校の上司としては、法律上いろいろ探してもあるのは旧土人保護法であるから、旧土人という言葉を使えば無難であろう、それは何ら法律的にはとがめられるものではないという思いから、私はそう言ったと思うのであります。  しかし、戦後の新憲法下においてもそういうことが言われる。それがずっとこの九十九年間続いてきたわけでありますから、私は、やはりここできちっと総括をする必要がある。その反省の上に立って新しい法律をどうやって運用していくか、こういう構えが必要だと思いますが、稲垣開発庁長官、承りたいと思います。
  68. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 池端先生から先ほど来から大変昔の話まで出まして御指摘をしていただきました。  私は、その当時、アイヌ人々に対する国民理解を深めることを尊重していかなきゃならぬ、先生のお言葉がありましたとおり、旧土人という法律の用語の中にうたっているのはいかがなものかなというようなことから、昭和六十一年のたしか百七回国会でございましたが、御指摘のとおり、私も、当時自民党の社会部会長をやらせていただきましたし、社労の委員会理事をやっておりましたので、仲間と謝しして、とにかく中身はいろいろあるけれども、とりあえずは、ひとつ、名称、表題をこれはどうも思わしくないから変えようじゃないかというようなことからいたしました。  あなたはその当時党の筆頭理事でございましたが、清書をしたら、それはもうとてもだめだということでございましたが、私どもは、北海道土人保護法等二法で定められている旧土人という言葉をウタリと改める法律案を同僚議員とともに国会提案したことがございました。大変懐かしい思いをいたしておるわけでございます。  諸般の事情によりましてこれは廃案と余りましたが、その後十年を経て、ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会、先ほど官房長官からも報告がございましたとおり、これをいただきまして、今度は政府の立場で法案を提出することに至ったことは、私にとりましても大変感慨深いものを抱いているわけでございます。  懇談会報告書におきましては、明治以降、我が国が近代国家としてスタートをいたしましてから北海道開拓を進める中で、いわゆる同化政策が進められまして、アイヌ人々社会文化が受けた打撃は決定的なものになったこと、当時の政府もさまざまな対策を講じ、明治三十二年の北海道土人保護法施行に至りましたが、いずれの施策アイヌ人々の窮状を改善するために十分機能したとは言えなかったこと等が記述されているところでございます。  懇談会報告書のそのような指摘を重く受けとめまして、今回、国民に対する普及啓発等の施策の実施を通じ、本法案の目的であるアイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現に向けて、これからも真剣に努力してまいることをお誓い申し上げます。
  69. 池端清一

    池端委員 先ほども出ておりましたけれども、先般のいわゆる二風谷ダム訴訟におきまして、去る三月、札幌地裁は判決をなさったわけでありますけれども、その判決理由で、  アイヌ民族は、我が国の統治が及ぶ前から主として北海道に居住し、独自の文化を形成しており、これが我が国の統治に取り込まれた後もその多数構成員の採った政策等により、経済的、社会的に大きな打撃を受けつつも、なお民族としての独自性を保っているということができるから、先住民族に該当するというべきである。 こういう判決理由が出ておるわけであります。その歴史認識といいますか、歴史的事実に即したこれは極めて正しい判断であると思います。  今ここで、この判決内容について内閣の評価を私は求めるつもりはございませんが、アイヌ民族先住性の問題については、有識者懇談会報告におき奏しても、アイヌ人々は「北海道に先住していたことは否定できない」、こう明確に述べておるわけでございます。また、梶山官房長官も、さきの四月四日の参議院内閣委員会においてアイヌ先住性を、内閣認識、こういうふうに発言されたというふうに承知をしておるわけであります。  この内閣認識というのは、言葉をかえて言うならば、内閣の統一見解、こういうふうに理解してよろしいかどうか、改めてお伺いをしたいと思います。
  70. 梶山静六

    梶山国務大臣 私が先住性について参議院質問に答えて申し上げましたことはそのとおりであります。そして、総理も実はこの先住性については既に認めております。  ですから、内閣認識ということは、内閣のいわば今日的、統一的な見解と私は解釈をされてもやむを得ないというより結構だという気がいたします。ただ、その統一的見解によって何が派生をするか、発生をするか、この問題に関して、予見を実は持たないで申し上げているわけでありますが、そういうことは当然のことであろうというふうに考えております。
  71. 池端清一

    池端委員 内閣認識、統一的見解であるというふうに言われたことは、私はそのまま正しく評価をしたいと思うのであります。  かつて、昭和六十一年の十月二十一日の衆議院本会議におきまして、中曽根元総理が同僚議員の質問に答えて、「日本の国籍を持っている方々でいわゆる差別を受けている少数民族というものはないだろうと思っております。」こういうふうな答弁をされておるわけであります。これはもう今日明らかに否定をされたというふうに私は理解をするものでございます。  そこで、外務省にお尋ねをしたいと思います。  外務省は、これまで国際人権規約B規約に基づいて、国連への報告を昭和五十五年から今日まで三回行っております。四回目の報告はいつなされるおつもりなのか、まずその時期的なことをお聞きしたいと思います。
  72. 貝谷俊男

    ○貝谷説明員 御質問の、国際人権規約B規約に基づきます第四回目の報告につきましては、現在鋭意作成中でございまして、近々、国連に提出できる見込みでございます。
  73. 池端清一

    池端委員 近々といっても、時期的なめどを明らかにしてもらいたいと思います。
  74. 貝谷俊男

    ○貝谷説明員 遅くとも今月中には提出する予定でございます。
  75. 池端清一

    池端委員 それを初めから言ってくれれば二回も質問する必要ないんだ。  そこで、今日まで政府は、昭和五十五年、一九八〇年に国連に提出した報告では、この規約に規定する意味での少数民族は我が国には存在しない、こういう報告をしておりますね。そして、二回目の報告があり、三回目の報告では、これは平成三年十二月になされた報告でございますが、「アイヌ人々は、独自の宗教及び言語を有し、また文化の独自性を保持していること等から少数民族であるとして差し支えない。」と控え目に、消極的に「差し支えない。」、こういうような表現になっておるわけであります。  今度の、先ほど来からの国会審議のやりとりあるいは有識者懇談会の報告を踏まえて、第四回目の報告は書き改める、訂正をして報告されるべきものであると思いますけれども、それについての御所見を承りたいと思います。
  76. 貝谷俊男

    ○貝谷説明員 この報告につきましては、国連に提出する前にその詳細な内容を公表申し上げる性質のものではございませんけれども、総じて申し上げますと、今回の報告の中では、アイヌ人々に関しましては、関連部分におきまして、北海道ウタリ対策に関する政府施策についてでございますとか、あるいは中世末期以降の歴史の中で、アイヌ人々は、和人との関係で、我が国固有の領土である北海道に先住していたことは否定できない旨を言及してございますウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会の報告を踏まえましての政府の姿勢、こういったものについて報告することを予定しております。
  77. 池端清一

    池端委員 有識者懇談会の報告を中心にして国連に報告するということでありますが、今般のアイヌ新法制定、これはあすにでも本会議は通過するのではないか、こう私は思っておりますけれども、これについては触れられておらないのですか。
  78. 貝谷俊男

    ○貝谷説明員 この報告につきましては、その作成の技術的、時期的な問題から、一応本年二月末をもちまして、本文を関係省庁とも御相談の上で確定してきたところでございまして、本件、いわゆるアイヌ新法案につきましては、今回の報告中では言及されておりませんけれども、この点につきましては、追って国連に報告することになるというふうに考えております。
  79. 池端清一

    池端委員 別途法律が成立すれば国連に報告する、こういうふうに理解してよろしいですね。はい、わかりました。  そこで、法務省にお尋ねをします。  法務省の人権啓発資料として「アイヌ人々と人権」というパンフレットがございます。これは国会で、参議院での指摘もございまして、書き直しを約束されておるわけでございますが、この資料では、今申し述べました、国連に対して政府提出をいたしました第三回目の報告書を引用して書かれております。すなわち、アイヌ人々は少数民族として差し支えない、こういうふうに記述しておりますけれども、これはやはり先住という言葉を明確に書いて、訂正があってしかるべき、こういうふうに思いますが、これについてはいかがですか。
  80. 醍醐隆

    ○醍醐説明員 お答えいたします。  法務省作成の啓発冊子「アイヌ人々と人権」につきましては、本年中に改訂を予定しております。その際、アイヌ人々に関します記述につきましては、ただいまの官房長官の御答弁並びにB規約に基づきます国連への報告を踏まえまして、その内容につきましては見直してまいりたいというふうに考えております。
  81. 池端清一

    池端委員 時間が刻々迫っておりますので、それでは有識者懇談会報告に述べられております今後の施策の四つの提言、その一つでございます伝統的生活空間の再生ということが言われております。これはアイヌ語でイオルと言うのだそうであります。伝統的生活空間の再生ということが提起されておりますけれども、これについての具体的な構想、今後の方針、進め方等について、現段階で明らかにできるものについてはお示しをいただきたい、こう思います。
  82. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 アイヌ文化は自然とのかかわりが極めて深く、自然と共生するアイヌ人々の知恵を生かした体験や交流の場、あるいは工芸技術の伝承の場等を伝統的生活空間として再生をしていくということでございまして、このことはアイヌ文化振興及びアイヌ伝統等に関する知識普及啓発を図る上で極めて大きな意義を有しているものと考えております。  伝統的生活空間の再生につきましては、有識者懇談会報告書におきましても、その整備に当たっては地元の意向と取り組みを重視し、尊重することが大切であると指摘をされております用地元北海道においては、今年度から三カ年程度の予定で基本構想策定のための調査検討を行っていただくことになっておるものと承知しております。
  83. 池端清一

    池端委員 以上で質問は終わりたいと思いますけれども、この法案にはさきに触れましたように先住の問題、あるいはアイヌ民族の皆さんが強く要望しておった自立化基金の創設の問題、これが見送られております。生活の向上なくして何の文化振興か、こういうことも言えるわけであります。アイヌ民族の皆さん方の生活の安定を図ることが今極めて喫緊の課題になっておる。こういう問題については直接触れられておらない。ウタリ福祉対策でやると言うのかもしれませんけれどもそういう問題が欠けている点、私は率直に言って、大変御苦労されたけれども、この点については不満が残る、今後の課題としてこれは残っている、こういうふうに思うわけでございます。  しかし、目下国連でも少数先住民族固有の権利を認め、人権を守り、そして民族として自立していくためには何が必要かということが議論をされている、そういう状況にございますので、さらに今後の国連での検討内容を待ってこの法律のより豊富化といいますか、より完全なものにしていくために私どもも努力してまいりたいし、政府もその立場で鋭意努力をしていただきたい、このように思うわけでございます。  最後に、初めて民族立法に取り組みました事務当局を含めて政府関係者の皆さん、それから伊藤正己座長を初めとする有識者懇談会の皆さん、さらに北海道ウタリ協会の皆さん、とりわけ現理事長の笹村二朗氏、前理事長の野村義一氏の本当にこの問題にかけた情熱というものは、私どもは忘れることはできませんし、梶山官房長官、五十嵐広三元官房長官の御努力についても私はこの際一言触れておきたい。こういうことで、これらの方々の御苦労に感謝をして私の質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。
  84. 伊藤忠治

  85. 木島日出夫

    ○木島委員 日本共産党の木島日出夫でございます。  我が党は既に、今から二十五年前、四半世紀前でありますが、一九七二年の第十二回党大会におきまして採択をいたしました民主連合政府綱領の提案で、アイヌを我が国の少数民族というべき存在と先駆的に位置づけをいたしまして、アイヌの生活と権利の保障、そして一切の差別の一掃を要求して、その実現のために一貫して闘ってまいりました。先ほども問題が提起されておりましたが、我が国には少数民族問題はないという中曽根発言がありましたけれども、八五年の第十七回大会では、先ほど述べた我が党の見地を党綱領にも明記をしてきたわけであります。  先ほど官房長官から、今回の法案、アイヌ文化振興法とでもいうべき法案は、昨年四月一日の有識者懇談会報告書を全面的に受け入れて作成したものである、そういう御答弁がございました。そこで、この法案の審議の前提として、昨年四月一日、官房長官に出されたウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告書をどう見るかということが非常に大事なことだと思います。  私は、この懇談会報告書は二面性があると思います。  一面は前進的な側面であります。これまで日本政府がとってきた非常に頑迷固陋といいますか、おくれた部分に衝撃を与える進歩的な側面だと思うのです。その中身は何かといいますと、アイヌ人々先住性アイヌ人々民族性、これを日本の政府にかかわる文書として初めてはっきりと位置づけた非常に画期的な文書だ、それが官房長官に対して衝撃を与えた中身だと思うわけであります。  細かい引用は避けますが、報告書先住性についてこう結論づけています。「少なくとも中世末期以降の歴史の中でみると、学問的にみても、アイヌ人々は当時の「和人」との関係において日本列島北部周辺、とりわけ我が国固有の領土である北海道に先住していたことは否定できないと考えられる。」はっきりと書いてあります。  それと二つ目に民族性でありますが、これについても、これは客観的基準と主観的基準がある、言語、宗教、文化等の客観的基準と、民族意識、帰属意識といった主観的基準がある、しかし、近年においては特に帰属意識が強調されているんだということを位置づけた上で、今日アイヌ人々が、我が国の一般社会の中で言語面でも文化面でも他の構成員とほとんど変わらない生活を営んでおるけれども、アイヌ人々には民族としての帰属意識が脈々と流れている、そして「民族的な誇りや尊厳のもとに、個々人として、あるいは団体を構成し、アイヌ語伝統文化の保持、継承、研究に努力している人々も多い。」こう述べまして、結論として、「このような状況にかんがみれば、我が国におけるアイヌ人々は引き続き民族としての独自性を保っているとみるべきであり、近い将来においてもそれが失われると見通すことはできない。」こう書いてあります。  私は、それに加えて、この有識者懇談会報告書がさらに歴史的な、我が国の政府がとってきた施策に対して非常に厳しい指摘をしているということも改めて見落としてはならぬと思うんです。「松前藩が成立する過程で」いわゆる「アイヌ人々を労働力として拘束し収奪する場所請負制へ移行する中で、アイヌ人々社会文化の破壊が進み、人口も激減した。」という指摘。そしてさらに、明治以降、同化政策が進められ、伝統的生活を支えてきた狩猟、漁労が制限され、禁止された、そして、「アイヌ語の使用を始め伝統的な生活慣行の保持が制限され、アイヌ人々社会文化が受けた打撃は決定的なものとなった。」こういう指摘が、初めで政府に出された文書で書き込まれたわけだと思うんです。  これは非常に進歩的な、前進的な一面だと私どもはこの部分については高く評価をしているわけでありまして、これを土台にして今度の法案が作成されたという点は、今度の法案の進歩性を指摘できるものだと思うんです。  ただ、しかしながらもう一面、残念ながらそれにもかかわらずこの報告書には大変なおくれた部分、一面化してしまった部分があるんではないかと思うわけです。それは、これだけアイヌ人々民族先住性民族性、そして歴史を指摘しておきながら、その指摘をこれからの施策に全面的に取り入れていない、残念ながらその中のほんの一部である文化面についてのみ施策の中に盛り込んだという、そういう面では、言葉は悪いかもしれませんが、一面化し、矮小化してしまった。この不十分性があるということを、やはりこの両面をしっかり見なければならぬと思うわけであります。  先ほど来、同僚委員の皆さんからも不十分性が指摘されたのは、やはり有識者懇談会の中にあるこの二面性が法案に反映されたからではないかと思うわけであります。こういう認識を持って私はこの有識者懇談会報告書を見たわけでありますが、官房長官北海道開発庁長官有識者懇談会に対する基本的な見方、そういう見方でいいのではないかと思うんですが、認識をまず伺いたいと思います。
  86. 梶山静六

    梶山国務大臣 大変難しい問題の提起でありますが、多分委員のお生まれになった栃木県の鹿沼、私の生まれた茨城県の太田、似た地域でございますが、ここには、いわば我々の先輩がよく教えてくれた、この地名はもとのアイヌの地名ですよというところがあります。  ですから、先住性を言うならば、確かに明治近くなってから北海道に大半が住んでおるという認識はありますが、前々から相当な私は、本土というか、内地でも交流があったはずだ。それは先ほどのお話にもありましたように、同種民族である、同種の異民族というか、そういうことでありますから当然のことかもしれませんが、截然としない古い時代、お互いに同居の時代があり、同化の時代があったということと、それから、急速に変わったのは、明治前後から交通機関が発達をし、北海道というものに着目をした和人というか、そういう方々の進出によって大きく変化を遂げた。急速に変化を遂げたがゆえに、いろいろな悲劇やあるいはあつれきやその他の問題が起きたという感じがいたします。  今委員御指摘のように、一面性のとうとさ、これは私たちもむしろ一面性を一番、特に文化面等を強調したわけでありますが、もう一つの面というか、それを強調すると、逆に言うと差別になりはしないかという心の中に恐れ、こういうものがあったればこそ、若干の私はこのテンポを緩めながらどういうことをなすべきか。  総体的にアイヌ民族方々が求めるものは何なのかということになりますと、私は、一面には日本人としての権利、これは一〇〇%享受ができる。それからもう一つは、アイヌ民族性、そういうものをどう固持、拡大をしていくか。この二つを同時並行的に行っていくことが大切なのでありまして、アイヌ方々が何を求めようとそれは自由であるというその一点があります。まごつくと固定化をするという心配もしなければならない、私は、こういう思いを心の中に抱くわけであります。  私は、今日考えられる、いわばこの懇談会報告書にある思想を、十二分とは申しませんが、全体として国民理解し得る範囲内の法律を定めたというふうに御理解をいただきたいと思いますし、私もまた、そういうつもりがありますから、今後全くこれによって変更がないということではなくて、第一歩を印したというふうに御理解を願いたいと思います。
  87. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 基本的にはただいま官房長官が申されたとおりでございますが、本法は、御承知のとおり、ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会で御提言をいただいた新たな施策の基本理念と内容を踏まえまして、アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現等を目的とした立法措置を行うものでございまして、この目的に直接寄与するアイヌ文化振興等をこの法律の対象としているところでございます。御質問のような諸施策につきましては、本法の目的に直接寄与するものではないために、この法律の対象としていないものでございます。  アイヌ人々の生活水準の向上等につきましても、北海道におきまして、昭和四十九年度以来、北海道ウタリ福祉対策等を実施しているところでございまして、国としても、もろもろの関係行政機関との緊密な連絡を図りながらこれは積極的に支援をしてきたところでございますし、それらの実現のために引き続いて推進に努めてまいりたいところであります。
  88. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 先ほど、懇談会報告書先住性を表記しておりますが本法案には入っていないという御指摘がございました。  先ほど来述べておりますように、本法案の立案に当たりましては有識者懇談会の報告を最大限尊重したところでございまして、その報告書におきまして、先ほど御披露のありました、少なくとも中世末期以降の歴史の中で見るとアイヌ人々が和人との関係において北海道に先住していたこと等について記述されているということにつきましては十分理解しているところでございますが、しかしながら、いわゆる先住性につきましては本法案の立法の動機となっていないということと、また、先住という事実から本法案に規定する施策推進が導き出されるものではない、関連性がないということで、本法案に盛り込むことは困難であるというふうに考えた次第でございます。
  89. 木島日出夫

    ○木島委員 官房長官が、本法案が第一歩であるという御答弁をされました。大変重く私は受けとめたいと思うのです。私は、そのように、本法案はアイヌ対策の終着駅ではない、出発駅だ、始発駅だという位置づけだと思うのです。そのとおりだと思うので、これで終わりとせずに、これを土台にして、さらによりよき法律をこれからつくるべき課題を日本政府国会も負っているのではないかというふうに思うわけです。  私、先ほど有識者懇談会の二面性を指摘いたしましたが、それは一九八八年、昭和六十三年三月二十二日に、ウタリ問題懇話会が北海道知事あてに出した「アイヌ民族に関する新法問題について」という報告書の中身と比較をしても、それは浮き彫りにならざるを得ないのです。  一九八八年のウタリ問題懇話会の報告書も、アイヌ民族性、先住性についてはしっかり位置づけた上で、「提言」として、五つの提言をやるべき施策として打ち出しているのですね。  大事な提言だと思うので述べたいと思うのですが、一つは、アイヌの人たちの権利を尊重するための宣言をすべきだ。「アイヌの人たちの権利が十分に尊重され、その社会的・経済的地位が確立されるよう権利宣言を定めること。」二つが「人権擁護活動の強化」。そして三つ目が、今度のこの法案に基本的に盛り込まれているわけでありますが、「アイヌ文化振興」。そして、四つ目が「自立化基金の創設」。そして、五つ目が「審議機関の新設」、「アイヌ民族政策並びに経済的自立を図るための産業政策を継続的に審議するため、アイヌ民族の代表を含む審議機関を新設すること。」非常に具体的で説得力のある五つの提言を出していたのですね。これは、基本的には、北海道の地元の皆さんが道知事に出した提言です。  私は、この五つの提言が有識者懇談会のこの提言に全部盛り込まれても、官房長官が先ほど答弁されたような、逆に差別になるのじゃないかなどという心配は全くないということを示しているのじゃないかというふうに思うのです。いかがでしょうか、官房長官。こういう提言が一九八八年になされていたのだ、これが今後の日本政府のとるべき施策一つの道しるべになるのじゃないかと思うのですが、御答弁をいただきたいと思います。
  90. 梶山静六

    梶山国務大臣 地域的な貴重な意見として、これから検討してまいりたいと思います。
  91. 木島日出夫

    ○木島委員 そこで、私は、今回の有識者懇談会報告書並びにそれを受けた今回の法案の不十分性、主に二点あると思うのです。  一つは、アイヌの人たちの生活と権利の保障、これが残念ながら全く置き忘れられてしまった。もう一つは、せっかく民族性、先住性についての指摘がされながら、それじゃ日本の今後の施策として、初めてなのでしょうけれども、民族性、アイヌ民族の抱えている諸問題をどう受けとめて、それをどう施策の中に生かすかというこの問題。これは先ほど来、同僚委員がるる指摘をされております。国際社会の中でもいよいよ論議が始まるわけですから、その部分が脱落をしてしまっていると思いますので、その二つの側面について、時間の許す限り質問をしたいと思うのです。  一つは、アイヌ人々の生活の保障の問題であります。  本法案の目的、第一条に、アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現を図るとあります。もう当然だと思うのです。そのためにも、私は、アイヌ文化の伝承者であるアイヌの人たちの生活が守られなければならぬということだと思うのです。  そこで、アイヌの人たちの生活の実態がどんな状況になっているか、これは平成五年に北海道生活福祉部がなされた「北海道ウタリ生活実態調査」に詳しく出ております。その一部を引用もしたいと思うのです。いろいろあるのですが、時間の関係で一部だけ指摘をしたいと思うのです。  例えば、所得の水準、それから生活保護を受けている人たちの割合の問題ですが、年間所得二百万未満が三四・六%あるという状況であります。それから、五百万円以上が一七・七%しかない。非常に所得水準が厳しい状況にある。  そして、それの反映でありますが、生活意識調査でありますが、現在の生活についての意識「とても苦しい」というのが三三%ある。これは、平成四年道民生活基礎調査では九・七%ですから、どんなに現在のアイヌの人たちの生活が厳しい状態に置かれているかということを物語るかと思うわけであります。  それから、現在不安に思っていること、それにつきますと、一番は何といっても「自分と家族の健康」で六三・五%あるのですが、「収入が少なく生活が不安定」これが四八・六%あるのです。これが、昭和六十一年調査と比べても二一・五%も増加しているという状況なのですね。こういう状況だと思うのです。  北海道では、こういう状況を踏まえて北海道ウタリ福祉対策が四次にわたって執行され、これに対して、国としても各省庁から補助金がなされているわけでありまして、昨年の有識者懇談会でも、これは引き続きやるべきだという指摘があるわけでありますが、この前の調査と比べて前進した部分も確かにあります、大学進学率、高校進学率など。また所得についても、私先ほど厳しい面を指摘しましたが、この前の調査と比べて前進した部分もあるわけでありますが、一方では非常に厳しい状況もあると思うわけであります。  そこで政府は、こういう実態、今度の法案に対してアイヌの皆さんが感じている一番の不満は、何といっても生活保障が欠落してしまっているということにあると思うのですが、そういう声も受けて、どうこれからのアイヌの皆さんの生活向上、福祉の対策のために施策として位置づけて頑張ろうとするのか。一言その決意のほどを、これは北海道開発庁長官ですか、お答えいただきたいと思います。
  92. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 先生御指摘の生活に関する意識調査の結果でございますが、北海道ウタリ生活実態調査の調査項目の一つでありまして、平成五年度調査で見ると「とても苦しい」が三三%、「多少困る程度」が四四%となっていることは承知しております。  しかしながら、同じく北海道ウタリ生活実態調査の調査項目であります生活保護率を見てみますと、先ほどおっしゃった六十一年と平成五年の比較で見ますと、保護率は六・〇九%から三・八八%に減少するというように、これまで教育の振興とか生活環境の整備、産業の振興あるいは就労の安定化等の諸施策を総合的に実施してきたことによりまして、アイヌ人々の経済状況や生活環境、教育等の状況も着実に向上してきたというふうに考えておりまして、これにつきましては、引き続きその推進に鋭意努めてまいりたいというように考えております。     〔委員長退席、金田(誠)委員長代理着席〕
  93. 木島日出夫

    ○木島委員 先ほどの同僚委員質問に対する答弁の中で、今回の法案にアイヌの人たちの生活向上の施策を盛り込むことができなかったその理由に、財政上の理由を挙げているわけです。非常に厳しい国家財政のもとではできなかったということでありますが、しかし私は、それは理由にならぬと思うのです。  それは、平成九年度のウタリ対策事業予算がどの程度か。平成九年度で、文部省、厚生省、農水省、通産省、労働省、建設省全部合わせて十七億円です。平成八年度は十六億七千六百万です。とても、財政上の理由でそういう施策を今回法案に盛り込むことを断念したなどという理由が合理化されるものではないと思いますので、そこをしっかり認識されて、文化振興させる基礎ですから、その担い手の生活を守るということは。そういうことで、もっともっとこの面に光を当てた施策を、本法案が成立するのをきっかけにしてやっていただきたいと思うのです。  もう一点、先住性民族性を指摘されたわけでありますから、それをどう今後の日本の政府施策に生かすかという問題であります。  この点について、私ども日本共産党は、実は一九八八年十二月三日に二つの提言を出しています。「アイヌの生活と権利の保障のために」と題する提言と「アイヌの政治参加の道を拡大し、アイヌ問題の民主的解決をはかるための三つの緊急提案」というのを出しているわけであります。  私は、アイヌ民族の抱える諸問題を直視して、それを今後の施策に生かすために、この「三つの緊急提案」が提起しているそちらの方について披露して、そういう方面で今後の政府施策お願いしたいと思うのです。  三つというのは何かというと、第一の提案としては「アイヌ問題の解決を民主的かつ計画的にはかるため、国と地方に、民主的に構成・運営される審議機関を法律で設置すること」。これは、アイヌ問題中央審議会、アイヌ問題地方審議会とでもいうべき審議会をしっかりつくって、そしてそれで十分に論議をして施策に生かすべきだという提言です。  二つ目は「北海道アイヌが集中的に居住する地区をもつ市町村にたいし、合議制の行政機関の設置を義務づける」べきではないか。例えて言えばアイヌ問題委員会、そんな委員会、行政機関をアイヌの皆さんが多数居住している市町村につくる、そして足元からの施策を前進させるということ。  そして、三つ目の提言は「アイヌ問題解決のための諸施策政府の責任で総合的に実施するため、国にアイヌ問題を専門的に担当する部局を設置すること」これを提言しているわけであります。  今回、こういう法律をつくるまでに至る経過の中で、政府の中では官房長官が音頭をとってここまで持ってきたということは、私はこれは高く評価するわけでありますが、今後、法律をつくってしまったらもう関係ないという態度をとらずに、引き続き、私どもの先ほどの三番目の提言にあるような、国の、政府の中のアイヌ問題担当部局として官房長官が座るべきだと考えるわけであります。  現在、この法律ができた後、アイヌ問題を総合的に取り上げて、民族性の問題についても審議する、施策を検討する部局というのは今あるのでしょうか。官房長官がそれをしょっているのでしょうか。
  94. 田波耕治

    ○田波政府委員 非常に広範にわたる御質問でございますけれども、先ほど来の御質問を踏まえて多少経緯を申し上げますと、委員御指摘のように、昭和六十三年に、北海道土人保護法の廃止あるいは新法の制定ということについて北海道から要望が出されました。  それで、政府もこれを大きな課題として受けとめまして、政府の中に新法問題検討委員会というものを設けて検討を続けてきたわけでございますけれども、この問題は、過去数世紀にわたる歴史認識であるとかあるいは先住性民族性、先ほど来の委員御指摘のような非常に複雑な問題があるということで、必ずしも議論が深まらなかったという経緯がございます。  そこで、このたびこういった問題をひとつ総合的に幅広い視点から見直すということで、平成七年三月に官房長官の私的の諮問機関として、いわゆる有識者懇談会が設けられて、非常に幅広い角度から御議論をいただいてきたわけでございます。これが一年間にわたる検討をしていただいた結果、このたび報告書が出て、しかもこの報告書を最大限に尊重して、今般、この法律案を取りまとめてきたというのが経緯でございます。  したがいまして、政府といたしましては、まずこの法律案をできるだけ早く成立させていただいて、この法案をまず着実に執行をしていくということが当面の最大限の課題であるというふうに考えておるところでございます。
  95. 木島日出夫

    ○木島委員 時間が来たから終わりますが、この法案がもし成立すれば、所管大臣が北海道開発庁長官文部大臣か、その辺になると思うのです。しかし、この法案、先ほど私指摘しているように、一部分なんですね、文化だけなんです。しかし、民族性の問題やアイヌの皆さんの権利保障の問題、これからなんですね。そういう総合的な施策をやる義務を政府はしょっているわけだと思うのです。それをしょうのはやはり官房長官だと思うわけでありますので、そういう立場で政府の責任を行政組織の上でもしっかり位置づけるようにお願いをいたしまして、質問を終わらせていただきます。
  96. 金田誠一

    金田(誠)委員長代理 次に、深田肇君。
  97. 深田肇

    深田委員 社会民主党の深田肇でございます。  いいです、官房長官、お忙しいでしょうから。  憲法が施行されて五十年というこの記念することし、しかも昨年には、お互い確認いたしましたとおり、人権擁護の施策推進法がスタートして、この日本の中で人権確立が国民的課題となってきましたこのときに、いわゆるアイヌ新法制定されるわけでありますから、先ほどからお話がありましたとおり、歴史的に大変意義があることだというふうに思っております。  そこで、大変恐縮ですが、伊藤委員長いないからあなたにお願いするのでありますが、特別のお願いをお許しいただきまして、この場で参議院議員の萱野茂先生に対して、心からの連帯と激励のメッセージをこちらからお送りすると同時に、お礼を申し上げておきたいと思いますので、ちょっと、よろしくお願いをいたしたいと思います。  私の手元に今、参議院の四月四日の内閣委員会の議事録がありますが、この議事録によりますと、萱野参議院議員は発言の冒頭に、私が国会に来るときに、かつての社会党が弱い者の声を国会へということで私を連れてきてくれました、そして、名前が変わって社民党、私は民主党に所属しておるわけでありますが、こうおっしゃった上で、「まずそのことに、かつての社会党の先生方に心から感謝を申し上げたい、そんなふうに考えているわけであります。」と言っていただいたわけであります。私は大変このことに対して感激をしながら、一言お誓いとお礼を申し上げておきたいというふうに思う次第でございます。  恐らく萱野先生は、今は社民党でありますが、当時、社会時代に我が党の公認候補として比例区の名簿登載をされた、そのことについてこのように言葉をいただいたのだろうというように思っておる次第でございますが、それだけに我が党は、アイヌ民族を代表する国会議員の萱野さんから、護憲、人権、民主主義確立のために闘っております我が社民党に対してこのような温かいメッセージをいただくことに対しては、何にもまさる光栄なことだと考えていることでございます。  私たち社民党は、憲法の理念を守って、それを生かすために絶え間なく努力することを改めてお誓いをしながら、長い間支配と差別との闘いで奮闘してこられたアイヌ民族の皆さん、先住民族の皆さんとの共生、連帯をしっかりと再びここで確認をしながら、心から今回の先生の御発言にお礼を申し上げておきたいと存じます。ありがとうございました。  申し上げた上で、実は今回も、計算上からいきますと少数派でございますから六分しかなかったのでありますが、自民党の方から配慮いただきまして十五分いただきましたから、その時間をフルに活用させていただきまして、私どもの考えをむしろ申し上げて、御質問という形ではなかなか時間が、やりとりができないと思いますので、率直に私どもの考えていることを申し上げておきたいというふうに思います。  先ほどから、当委員会でも諸先輩の御意見を拝聴いたしました。聞けば聞くほど、アイヌ民族の皆さん方の御苦労は想像を超えるものがあるということを改めて学び取ったところでございます。先ほど申し上げたような時間の関係もございますので、二、三の事項について、質問という形よりは私の考えていることを申し上げて、確認をさせていただければありがたいと思っている次第でございます。  そのまず一つは、アイヌ民族は少数民族であるし先住民族であるということはもう確認されたなというふうに思っております。確かに法案の中にはないのでありますが、そういうふうにやりとりの中で、参議院におきましても本委員会におきましてもそのように確認できるだろうと思っているところであります。  次に、したがって我が国は、御意見も出ておりましたけれども、単一民族国家であるという発言が一時ありましたが、もう現在はそういう単一民族国家論はとっていないということも、もうこれはお互いの認識としていいんだなと実は思っておる次第でございます。  三番目に、そうなってくると、この日本は何々民族国家と呼ぶのだろうかな。上につくものがありますね、複数だとか多民族、いろいろありますが、そこはどういうふうに、質問ではありませんから特別お答えいただかなくていいのでありますけれども、政府はこれを何民族国家と考えているのかなと思いながら、きょうは自分の意見を申し上げておるところで、特別に御答弁いただかなくて結構であります。  さあ、こういうふうに話してまいりますと、アイヌ民族先住権の問題についてここで本当はお尋ねしていくのでありますが、持ち時間がありません。長いお話を聞いていたのではもう次がしゃべれなくなりますから、これもひとつ恐縮でありますが、私の方の意見を率直に申し上げておきたいと存じます。  アイヌ民族先住権は、今先輩たちのお話があったとおり、歴史的な経過からしてしっかりとこの先住権はある、そういう認識を私は持っておることを申し上げた上で、先ほどから出ましたとおり、国連で先住民族の権利に関する宣言が採択されることを期待しながら、北海道ウタリ協会の持っている問題意識、そしてまた政府に対して上げてきた要望事項などを全面的に我々社民党は支持しているということを申し上げておきたいと思うわけでございます。  そういうふうに一方的に申し上げた上で、それはちょっと困るから一言というふうにおっしゃるだろうと思いますが、まあその点は、時間がないのでお互いに了解し合って、微妙なことだとわかって一方的にしゃべっておりますから、その点は御理解いただきたいのであります。これは官房長官がいなければかえっていいだろうと思って、いらっしゃらない方がいいと思ってやっておるわけであります。  さて、そこで、具体的な質問を開発庁の方に、これは一言だけさせてください。日本の歴史で、アイヌ民族に対する差別や支配、同化政策があったことはもうお互い認め合うわけでありますから、これはいつからやった、いつごろから始まったものだという共通認識政府と我々立法府側が持つことができますか。これを具体的に教えてもらいたいと思います。  それから、次の問題はなかなか答弁はしにくいと思いますから私の一方的見解でいいのでありますが、私は、そのような差別や支配や同化政策は、いわゆる我々の知っている知識からいえば植民地政策だと思っているのです。さあ、植民地政策だと言うと、いや、ちょっと待ってくれと言いたいだろうと思いますが、どこの文献にもありませんが、私は、これは日本の恥じるべき植民地政策が歴史的にあったというふうに考えていることをこの際申し上げておきたいと思います。  お答えの方はそのことよりも、我々はそのような、私からいえば植民地政策ですが、政府の方からいえば同化政策や差別等々をやったのはいつからだというふうに考えられるかについて聞いておきたいと思います。先ほども長官のお話によりますと、アイヌの存立の危機というところまでおっしゃるわけでありますから、そうなりますと、歴史的経過をしっかり御答弁いただければありがたいというふうに思いますね。  特に、先ほどから先輩の御指摘がありましたとおり、旧土人法の廃止をするという理由も鮮明でないけれども、とにかく廃止をするというところまでおっしゃるわけでありますから、そうなってきますとやはり歴史的経過を確認しておきたいと思いますので、その点だけ、一言簡単に返事をしてください。
  98. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 お答え申し上げます。  この点につきましては、先生御承知のように有識者懇談会で触れておりまして、「松前藩が成立する過程でアイヌ人々の自由な交易が制限され、さらに、商場知行制からアイヌ人々を労働力として拘束し収奪する場所請負制へ移行する中で、アイヌ人々社会文化の破壊が進み、人口も激減した。」という記述がございます。こういうふうな認識を持っております。
  99. 深田肇

    深田委員 まあいいです。それは政府見解ではないのです。そういう答弁をいただいてもしようがない。  今まで先輩議員が皆やりとりしておられるけれども、こういうものかなと思って聞いておりますが、恐らく傍聴席にいらっしゃる方々も驚いているのではないかな、皆さん方の答弁は。形式的であって、中身は手続論争ばかりして、質問者がここまで、自民党さんも含めてあそこまで突っ込んだことに対して、どうして率直に答えてもらえないかなという印象を持っているだろうというふうに申し上げた上で話をしておきたいと思います。皆さんが配った資料は我々はしっかり読んでいるのですから、その点は、この中身の説明を聞いているわけではないので、御理解をいただいておきたいと思います。  そこで、持ち時間があと五、六分しかありませんので走りますが、私の持っているような認識の上に立ちますと、先ほどから申し上げていますとおり、日本国憲法の十四条に沿った人権確立の施策としてここにいわゆるアイヌ新法制定されるわけでありますから、したがって、私はこれは大変評価したいと思います。だから、これは原案賛成でいくわけであります。そのことを言った上で、先ほどから出ておりますように、やはり一方ではこの新法に対して幾つかの不満が残っているというふうに思います。  そこから、今度は法務省の人権擁護局にちょっとお尋ねしておきたいのであります。アイヌ民族の歴史的な対応を考えてみたら、先ほど来の話でありますが、いつからということは鮮明におっしゃいませんが、その事実はお互い確認するわけでありますから、そうなりますと、先ほども先輩の池端議員からお話が出ましたように、やはり日本の、我々国民なり政府の方がアイヌ民族に対して迷惑をかけたわけですから、反省をする、謝罪をする、できればその次に補償する。そして、そのことを国民の意識を改造していくというところまでしていくのが普通ではないかと思いますが、人権擁護局というのはこれからどういうふうにこれをやっていくのかなと思いながら、人権擁護局のお出かけをきょうお願いをしておるわけであります。  言葉をかえて言いますと、アイヌ方々にとっては支配、差別された側ですから、アイヌ民族以外の方から見ると、我々の先人たちは、いわゆるいろいろな日本の歴史の経過があったとはいえ、日本のこの国内において、北海道が国内であるかないかという論争もあるようでありますけれども、我々の今の日本の中において差別そして支配をした、同化政策までやっちゃったという事実があることは、我々はした側ですから、した側はされた側に対して反省をする、謝罪をする、そこからがスタートですよ。だから、土人法もやめましょう、こうなるわけです。旧土人法もやめましょう、したがってアイヌ新法をつくります、アイヌ新法の入り口は、しからばアイヌ文化でいきましょう、これは結構ですよ。アイヌ文化だけではだめだとは思いますけれども、入り口はそこからいこうというふうにしていくのが一番大切だと思いますから。  私は、この結論といいますと、政府と我々国民の側なり我々国会一緒になって、いわゆる反省をするという姿勢を示すところが出発点ではないのか。反省をしている、このことも含まれているから、これだけ立派な有識者の言葉を全面的にいただいているのですから。このことは未来志向なのであって、未来志向だということは過去を踏まえてやらないと、今だって、中国だってどこだって、韓国だって朝鮮だって、皆未来志向と言いながら過去のことについてちゃんとこだわっておられるのですから。  そのことを考えましたときに、我々は、国内にあった、日本の中にあったこの差別問題について、迷惑をかけたことについて、我々自身はみずからがどういうふうに反省をして再スタートするのかを鮮明にすることを国民とともに確認することが私はスタートではないかというふうに思うのですが、人権擁護局の方はどう思いますかねというふうに率直に思います。パンフレットをつくるつくらぬという話はもういいんです、そんなことは当たり前のことですから。それから中身の問題ですからね。  その次に、きょうも話がちょっと出ておりましたけれども、時間の関係がありますから走りますが、このアイヌ新法ができたときの、中には、ウタリ協会の方から提言が来ているように、その対象者はいわゆるアイヌ全体の方々に対して対象にすべきである、居住地によって区別してはいけない。逆に言えば、北海道だけだよとか、参議院では論議になったようでありますが協会の指定が一つであるとか、いろいろなことがあるようでありますから、そこらも僕はいろいろな不満がありますが、そこの点は、時間がありませんから、個別的にやることができると思いますから、委員会ではそのことに触れる時間がないのが残念でありますけれども。  言いたいことは、北海道に居住しておるアイヌ民族方々に対してだけ補償するということではないのだろうから、どこにいらっしゃっても全部、私の埼玉県にいるアイヌ民族方々に対しても、しっかりとお互いが意識して、みずからが差別意識を反省してなくすること。そして具体的には、福祉政策を中心として、我々がお助けすることになったり、我々が果たすべき役割があったら果たしましょう、こういうふうにやることが必要だろうと思います。  その点は、当たり前のことなんだと思いますが、時間がありませんが、どうも伺うところによると、開発庁の業務ではないのかもしれませんが、北海道以外のどこにアイヌ民族方々がいらっしゃるかという調査はしていないようですね。言われるところ三千人から五千人いらっしゃるようだということは、どうもウタリ協会の情報のようであって、我が政府側の、当局側の調査によって、アイヌ民族の、これだけのことをけじめをつけるのですから、けじめをつけるのなら、今までの方々は、生き死には別にして、現在道内にどれだけいらっしゃる、ほかにどこにいらっしゃる。それは、言うなら旧樺太とかサハリンのことも出ましょうけれども、それは別にしても、とりあえず我々の目の光るところだけでも、どうなっているかという事実調査もしていないようでありますが、これは調査をしてもらって、しっかりと、居住地区によって選別をしたり区別をしないような施策が必要なのではないかというふうに思います。  時間が来ましたから、もうこれ以上しゃべれないので終わりますが、言いたかったことは、政府国民一緒になって、いわゆるアイヌ民族と他民族方々一緒になって共生をする、ともに生きていくという社会をつくろう、それが国をつくることだ。それを皆さんの方は啓発という言葉を使われるのだけれども、啓発ということをもう一歩進んで、国民の側が反省のスタートから一緒になって、民族差別を取り除いて、我々の民族の頭の中にある日本的な古い意味における民族主義というものは克服して、共存し合う、共生し合う、いわゆる豊かな社会をつくろうではないかということを国民長官が呼びかけてもらう。そして、長官一緒になってやる。北方領土の日があるならアイヌの日くらいつくって、全部一遍北海道へ行こうじゃないかとか、どこかでやろうとか、こういうふうにやったらいいんじゃないですか。そうしたらアイヌ問題は全国民的な問題になるだろうということを申し上げて、ちょっと感想的になりましたが、ありがとうございました、終わります。     〔金田(誠)委員長代理退席、委員長着席〕
  100. 伊藤忠治

    伊藤委員長 次に、岩國哲人君。
  101. 岩國哲人

    岩國委員 岩國哲人でございます。  太陽党を代表いたしまして、二、三質問させていただきます。  まず最初に、こうした少数民族に対する差別を撤廃していこうという大きな一つのうねりの中でこのような新法が今審議されているということについて、私も大変高く評価するものであります。  私も、国際社会の中で、ヨーロッパで十年、アメリカで十年過ごしてまいりましたけれども、世界のいろいろな国に、それぞれの国の中における差別がございます。しかし、その中でもとりわけ差別の多いのは日本という国ではないか。学歴で差別、家柄で差別、男女で差別、言語で差別、所得で差別、宗教で差別、信仰で差別、何か理由をつけては常に差別していこうという姿勢が残念ながら一番強く見えるのがこの日本という国であるという所感を持っております。  その中で、こうした少数の民族、その歴史、文化等に対し、これから積極的にそれに取り組み、また、これからなくなっていこうとするそういう言語、文化等に対して積極的に国の力を、国の手を差し伸べていこうということに対して、私は全面的に賛成するものであります。  しかしその中で、まず最初に、こうした法案の提案、そしてその中でこれから予算的な面等々につきまして北海道開発庁と文部省と、この点が私は理解できないところであります。なぜ北海道開発庁というところがこういう問題に出てこなければならないのか。北海道のいろいろな特殊な事情等々については、開発面あるいは経済振興面では私も承知しているつもりでありますけれども、北海道開発庁というものがこの中に入ってこなければならない理由、それについて、まず北海道開発庁の方からお伺いしたいと思います。
  102. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 北海道開発庁がなぜこの法律の主務官庁の一つになったかということでございます。  直接的には、昨年の暮れに梶山官房長官の裁定ということで、当庁を含みます三省庁が主務官庁になったということでございます。  では、当庁が主務官庁に入った理由はどう考えているのかということでございますが、当庁は、昭和四十九年から北海道が進めております、現行のウタリ福祉対策の関係省庁連絡会議の窓口になっているという実態がございます。現在、ウタリ、アイヌ方々ですが、北海道が調査したところによりますと道内に約二万四千人おられるということもあって、北海道開発庁がその連絡会議の窓口になったということがございます。  そして、このアイヌ新法に基づく施策でございますが、そのようなことで北海道が地域的な拠点となること、それからまた、現在、社団法人ウタリ協会というのがありますが、その意向が施策展開に当たって重要な要素となりますので、昭和四十九年からの連絡窓口を通じまして、当庁がウタリの推進施策を通じまして地元北海道とか協会に対して長年の関係を持ってきたことに対する、ある種の期待ということがあったんじゃないかというふうに理解しているところでございます。
  103. 岩國哲人

    岩國委員 答弁は大変御丁寧でありましたけれども、私は要領を得ない答弁だと思います。  今まで長年関係を持ってきた、その関係というのはどういう関係であったのか。我々がこの名前から一般的に理解しますのは、北海道の開発、経済振興とか経済開発、そういった点でこういう人たちはとかく犠牲に追いやられた、それに対しておわびをするような、そういうふうな姿勢が出ているとすれば、私は、これは動機としても目的としても正しくないと思います。北海道を開発していくがゆえに、こうした方たちの理解を得たい、協力を得たい、あるいは住環境を含めた過去の環境破壊、そういうことに対するおわびの気持ちが入っているというふうなことで北海道開発庁が入っていれば、それはまた間違いであります。  もう一つ。行政改革という大きな枠の中で今検討されておる、その筆頭に挙げられているのは北海道開発庁ではありませんか。我々は、滅び行く、滅び行こうとしているアイヌ文化アイヌ民族をこれから救おうというのであって、滅び行く北海道開発庁をこういうことでもってその存在感を盛り上げていこうということでは全くないわけでありまして、この辺からも、時期からいっても、私は非常に違和感を覚えるわけであります。  この点を、長官の御自身の御意見を伺わせていただきたいと思います。
  104. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 今委員御指摘のとおり、この法律がなぜ成立をしなきゃならぬかという基本的な考え方を御理解いただきたいと思うわけであります。  この法律案の立案に当たりましては、昨年四月に提出されましたウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告書趣旨を最大限に尊重したところでございます。具体的には、アイヌ人々民族としての誇りの源泉である、そのもとにあるアイヌ伝統アイヌ文化が現在存立に極めて危機的な状況にある、そういうことでありますので、特に国民の皆さんたちにはまだ十分に理解されていない状況にあるから、そういうことにかんがみまして、本法律案アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する国民に対する知識普及及び啓発を図るための施策推進することにその目的があるのであります。アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現を図ること、これを基本的な考えとしておるのであります。
  105. 岩國哲人

    岩國委員 今長官の答弁をいただきましたけれども、文化振興ということであれば、私は文部省が主務官庁になるべきではないかと思います。また、民族誇りといった点からすれば、アイヌアイヌと殊さら別視し、別視というのは軽べつのべつじゃなくて特別視するような法案、主務官庁の置き方そのものこそ、私はアイヌ民族に対する誇りを傷つけることではないかと思います。日本全体の文化振興あるいは育成ということについては、文部省が先頭に立ってやっていらっしゃるはずだと思います。それが、なぜこのアイヌ民族については北海道開発庁が出なければならないのか、いま一つ私は納得がいきません。  もう一つは、このアイヌ民族北海道にしか住んではならないとか北海道にしか住んでいないということであるならば別でありますけれども、さきの委員の発言、質問等にもありましたように、全国各地に直接あるいは間接的な形で多くの方が存在されるわけでありますから、なれば、余計に北海道開発庁が主務官庁であるというのはおかしい、私はこのように思います。  文部省は、この点、文化振興とか、あるいは民族誇りというものをこれから大切にしていこうという取り組みについて、文部省だけではできないという意見をお持ちなのか、文部省の御意見を伺いたいと思います。
  106. 水野豊

    ○水野説明員 お答えさせていただきます。  私ども文部省は、教育ばかりでなくて、文化についても責任を持つ国の行政機関でございます。これまでもアイヌ文化につきましては一定の施策を実施してまいったわけでございますが、特にアイヌ文化の現状をかんがみた場合、今後生きた文化として継承発展していくという観点からいたしますと、やはり積極的な施策、新たな施策が求められている。私ども、そういう認識で昨年の十二月に、今回の法案につきまして北海道開発庁を中心に、文部省、それから総理府と、三省庁でこの法案を提出させていただくということで、法案の準備に参加させていただいたところでございます。  今後とも、私どもの使命が十分達せられるように努力してまいりたいと思っております。
  107. 岩國哲人

    岩國委員 答弁を伺いましたけれども、依然として私は、繰り返すようでありますけれども、文部省が主務官庁であり、また、ほかの省庁が必要であるならば、むしろ地方時代地方分権の時代というのであれば、北海道庁と文部省が一緒になってこういうことに取り組んでいただきたい。国と地方自治体とが一緒に取り組むという姿勢を示すならば、私は、こういう法案のときにこそ、今の橋本内閣のそういう姿勢を鮮明に打ち出していただきたい。私は、北海道開発庁の職員の方に恨みつらみがあるわけでは全くございません。しかし、そういう筋論からいいましても、私は、今のようなタイミングからいい、また地域を限定するような取り扱い方からいっても、非常におかしい、そのように思っております。  私は山陰出雲の出身でありますけれども、出雲の歴史からいえば、決して追われた民族ではありません。大和朝廷との戦いに敗れた出雲朝廷、その歴史を背負いながら、そして、かつては文化の入口であった表日本が、いつの間にか表日本を裏日本と言いかえられて、今ではあちらの方は裏日本と言われております。日本語の中で、表と裏では表の方が強くていいと一般的に思われております。裏の方が強いのはお茶の世界だけであります。それ以外は全部表が強い。  このような偏見、べっ視に耐えながら、しかも、言葉からいっても、出雲弁、言語明瞭、意味不明瞭とか、あるいは言語そのものを不明瞭だとか、いろんなことを我々は差別用語を受けながら、島根県の子供たちは育ってきております。そういう背景を持っておるがゆえに、私はアイヌ文化あるいは言語についても非常に関心を持ってまいりました。  こうしたアイヌの言語についには非常に特殊なようでありますけれども、アイヌ語というのは、私も専門家ではありませんけれども、横書きですか、縦書きですか。
  108. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 アイヌには文字がございませんで、そういうことから口承伝承で伝えられておりまして、その口承の伝承者が極端に少なくなっている。そういうことから、アイヌ文化の存続基盤が失われつつあるということで、今回の法律目的といいますか、これをつくったというようなことになっております。
  109. 岩國哲人

    岩國委員 そういう特殊な言語でありますけれども、その口承言語を字にあらわす場合には、今はローマ字とかあるいは仮名を使って横書きで行われておるんじゃないですか。その点について御確認をお願いします。
  110. 八木康夫

    ○八木(康)政府委員 ローマ字で表記したり、それから片仮名で表記したりしますが、縦書きにするか横書きにするかというのは、その書く人の選択ということになろうかと思います。
  111. 岩國哲人

    岩國委員 もう私の時間も尽きようとしておりますから、中身に入れなくて大変残念ですけれども、そうした横書き、縦書きにつきましても、ローマ字あるいは仮名について一般的に私が理解しておりますのは、横書きがこういうアイヌの人は非常になれておる。これから横書きの時代に変わるかもしれませんが、こうした法案そのものも、アイヌの人のことを思うのであれば、一番なれておられる横書きの法律をつくってさしあげる、あるいはつくるべきではないでしょうか。所感をお願いします。
  112. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 今、岩國議員から、アイヌ人々に対する大変思いやりのあるもろもろの御指摘がございました。萱野議員も、この間この法案が提出されましたときに、長い歴史の経緯を感激を込めて話をされまして、私も、それをお聞きしましたときに大変胸が熱くなって、本当にいたたまれないといいますか、そんな強い感動を覚えたものであります。  やはり今、縦書きか横書きかと言われましたとき、私も何ともまだ、萱野議員からいろいろお聞きしておりますが、やはり口承伝承でございますから、それを本当に言語として正しく伝えられていく形にいかにつくり出していくか、これからが始まりでございます。そういうことで、文化の、あるいはまた民族の存在として尊重される社会を実現するために全力投球をいたしたい、こう思う次第であります。
  113. 岩國哲人

    岩國委員 もう質問時間、終了いたしました。ぜひ、北海道開発庁について私は疑問を呈し、また、できるだけ早い将来に、私は文部省と北海道庁が中心になってこれは事業を進めていくべきだと思います。そういう要望を繰り返しまして、私の質問の方を終わらせていただきます。ありがとうございました。
  114. 伊藤忠治

    伊藤委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。     —————————————
  115. 伊藤忠治

    伊藤委員長 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。  アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する知識普及及び啓発に関する法律案について採決をいたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  116. 伊藤忠治

    伊藤委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。     —————————————
  117. 伊藤忠治

    伊藤委員長 この際、本案に対し、御法川英文君外五名から、附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  提出者から趣旨説明を聴取いたします。金田誠一君。
  118. 金田誠一

    金田(誠)委員 ただいま議題となりました自由民主党、新進党、民主党、日本共産党、社会民主党・市民連合及び太陽党の各派共同提案に係る附帯決議案につきまして、提案者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。  まず、案文を朗読いたします。     アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する知識普及及び啓発に関する法律案に対する附帯決議(案)   政府は、アイヌ人々が置かれてきた歴史的、社会的事情にかんがみ、アイヌ文化振興等に関し、より一層国民理解を得るため、次の事項について適切な措置を講ずべきである。  一 アイヌ人々民族としての誇りが尊重される社会の実現に資するため、アイヌ文化振興等施策推進に当たっては、アイヌ人々の自主性を尊重し、その意向が十分反映されるよう努めること。  一 アイヌ人々民族としての誇りの尊重と我が国の多様な生活文化の発展を図るため、アイヌ文化振興に対しては、今後とも一層の支援措置を講ずること。  一 アイヌ人々の人権の擁護と啓発に関しては、「人種差別撤廃条約」の批准、「人権教育のための国連一〇年」等の趣旨を尊重し、所要の施策を講ずるよう努めること。  一 アイヌ人々の「先住性」は、歴史的事実であり、この事実も含め、アイヌ伝統等に関する知識普及及び啓発推進に努めること。  一 現在、行われている北海道ウタリ福祉対策に対する支援の充実に、今後とも一層努めること。  本案の趣旨につきましては、当委員会における質疑を通じて既に明らかになっていることと存じますので、説明は省略させていただきます。  よろしく御賛同くださいますようお願い申し上げます。
  119. 伊藤忠治

    伊藤委員長 これにて趣旨説明は終わりました。  採決いたします。  本動議に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  120. 伊藤忠治

    伊藤委員長 起立総員。よって、本案に対し附帯決議を付することに決しました。  この際、北海道開発庁長官から発言を求められておりますので、これを許します。稲垣北海道開発庁長官
  121. 稲垣実男

    稲垣国務大臣 アイヌ文化振興並びにアイヌ伝統等に関する知識普及及び啓発に関する法律案につきましては、本委員会におかれまして熱心な御討議をいただき、ただいま全会一致をもって可決されましたことを深く感謝を申し上げます。  今後、審議中における委員各位の御高見やただいま議決になりました附帯決議の趣旨を十分に尊重してまいる所存でございます。  ここに委員長を初め委員各位の御指導、御協力に対し深く感謝の意を表し、ごあいさつといたします。  どうもありがとうございました。     —————————————
  122. 伊藤忠治

    伊藤委員長 お諮りいたします。  ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  123. 伊藤忠治

    伊藤委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。     —————————————     〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  124. 伊藤忠治

    伊藤委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後一時十九分散会      ————◇—————